FATAL MIND EVANGELION FANFICTION NOVEL
X-RATE GENESIS EVANGELION
Episode : X-RATE : 01






 ここにあるのは一本の蝋燭。
 僅かな希望を生きる限り、様々な困難に立ち向かいつつも健気に燃えさかる小さな炎。
 ───ぽとり。蝋の滴がまた一滴。
 その炎は、単に燃焼と言う現象だけでなく、その炎を見つめる者の瞳に様々なものを映し出す妖艶の炎。
 ある者は笑い、ある者は恐れ戦く。
 ゆっくりとたゆたうその姿は、人の心の奥底を更に大きく揺らす。
 小さな炎の中にあるのは、人の心そのもの。
 今ここにその炎に魅入られようとしている3対の瞳がある……。






 別に家主であるミサトが酒代惜しさに電気代を未払いのままにしている訳でも無く、ネルフからの給与を全面カットされている訳でも無く、アルバイト中の加持リョウジに物理工作された訳でも無く、ただ単に停電になっているだけだ。
 ガスと水道は生きているので、まぁ生活出来ない事は無い。ただ、文明人にとって電気が無いと言うのは、大きな退屈を要求されるようだ。
 その退屈極めりの空間の中に三人。
 成す事も無く、ただその揺れる蝋燭の炎を見つめている。
 この物件の家主である葛城ミサトは電気がある場所で過ごしている。退屈はしていないだろう。仕事に追われてはいるが。
 そして3人、綾波レイ、惣流・アスカ・ラングレー、そして碇シンジは、仕事に追われる事は無いが、退屈に押しつぶされようとしていた。
 その余りの退屈さに、とうとう我慢が成らなくなったのか、それともその炎に魅入られたのか、アスカは突然こんな事を切り出した。

「暗闇、蝋燭、静かな部屋、夏、そして夜!これだけシチュエーションが揃っていてこれをやらない手は無いわ!」
「まさか……?」
「何?」

 突然立ち上がり叫び出すアスカを、第一脳神経外科に連れて行くべきかとシンジは迷ったが、辛うじて蝋燭を蹴り倒しまう事無く、返事をしただけに止めた。
 それに対し、レイは時折単に鈍いだけではないのかと思える程、冷静に聞き返す。

「そうよ!ワイ談よっ!」

 拳を握りしめ力説するアスカに、僅かな隙間風が当たる。
 逡巡。否、確実に1分近くは時が流れた。

「怪談、じゃないの?」

 ワイ談等と言う言い方は、もう昭和の時代に消滅しているものだ。「ナウい」よりも更に古く、場合によっては「イカしたアノ子」や「ノンポリ」くらいまで遡る様な死語そのものだ。
 そんな言葉をアスカがどこから仕入れたのかは分からない。何故かその言葉を知っていてなお、ツッコミを入れた方がいいのかを迷っているシンジも同様だ。

「…ワイ談は、性的行為を話題にする事ね。幽霊話や人を脅かそうとするお伽噺の怪談とは、何の関連性も無いわ」

 レイも同様らしい。

「……」

 引っ込みが付かなくなったアスカは、ゆっくりとその拳を下ろし、同じくゆっくりと息を吐きながら、更にはゆっくりと腰を落として胡座をかく。

「…いい事。私達も14歳。子供から大人へと成長していく時期よね」
「まぁ、そうだけど……」
「そんな私達がワイ談一つ出来ないで、何時大人になれるってぇのよっ!」

 逆ギレである。プライドが高いと言うのは自分に枷を課しているとも言える。
 つまりは自爆するだけではなく、より多くの地雷を道連れに大きく華散らそうとなったようだ。

「せ、せめて“ちょっとエッチな話”とか“下ネタ”とか他に言い様があると思うんだけど…」
「ワイ談だろうがエロ話だろうが艶噺だろうが中身は一緒でしょ!?」
「セックス話、が一番具体的で分かりやすいわ」

 先の一瞬、アスカに掛かっていた冷たい風が、今度はシンジをも巻き込んだ。
 同時に、この中の一番の兵はこの澄ましたような顔をした少女なのかもしれないと二人は戦慄する。

「だぁあっ!兎も角、やるのやらないの!?」

 かくして、噺は始められるのである。
 単なるこの退屈の重圧から逃れる為なのか、それとも炎の魅了に取り込まれてしまったのかは分からない。
 本意・不本意に関わらず、人は時の流れの中に身を浸している所から逃れられない。
 3人の運命は目の前に置かれた、40セットで税別198円のチープな割り箸に乗せられたのである。
 小さく端に書かれた1,2,そして3の数字。どうやら彼等の話す順番らしい。
 それを何かの調味料の長細い缶の中に入れ、カクテルシェーカー宜しくアスカが勢いよく振り回す。
 燭台の代わりとなっている小皿の横に、それは勢いよく置かれた。

「選びなさい」

 神の啓示か悪魔の囁きか、そのどちらとは分からないものの化身と形果てたアスカが静かに宣言する。
 啓示した本人は最後に取るつもりらしい。シンジは躊躇している。
 結果、最初にその分岐点となる筒の中に手を伸ばしたのはレイだ。

「…1番。私が最初、ね」

 アスカとシンジの頭の中に、何処かで聞いた様な競馬中継が流れる。

───第4コーナーを曲がってアスカクレナイが伸びる!伸びる!伸びる!それを差そうとしてシンジウォークライが必死の形相で追い掛けてきている!予想とは裏腹に熱いデッドレースがこの阪神競馬場に繰り広げられているぅっ!え?ま、まさか…外枠の16番、レイザムーン!?追い上げる!おい上げる!今外からシンジウォークライを軽々と差し、そしてあと50メーター!差されるか差されるか!アスカクレナイ差されるかぁっ!差したぁああああああ!レイザムーンが差したぁあああああ!!……。

 阪神競馬場第3レース四歳新馬戦の結果は、連勝16-2で28万円の万馬券になった。
 つまり、ダークホースも良いところだ。

「ワイ談」

 アスカとシンジが同時に息を飲み込む。

「中座は不可。耳を塞いでは駄目。何があってもその場から動かない。いいわね」

 何時の間にか、否、1番を取った者の権利なのか、レイがゲームマスターかのようにルールが設定されてしまう。
 残る二人は静かに頷くだけだ。

「始めるわ」

 隙間風が一陣。










第壱夜・夜艶快談 〜綾波レイの場合〜










───顔が、熱い───

 躰。普段、服で纏われている素肌を見られた所で羞恥や陵辱感が生まれてくる事などなかった。決して無かった。
 なのに、この薄明かりの中、彼に見られている事が堪らなく恥ずかしい。自分さえも気付かない奥底を抉られるように怖い……。

 水音。

 その彼が彼女の太股、まだその先すら触れても無いのにその音が部屋に響く。それが何なのかは、二人とも疑問に思う筈も無い。
 薄暗く緑色に染まった部屋。荒廃した部屋。破棄された場所。足下の奥深くにこの場所がある事を知っているのはごく僅か。その僅かな人々でさえ、もうここには用など無い。人が来る事など限りなくゼロに等しい。
 人の形をしている二つのモノは、拒絶された空間の中に居る。

 再び水音。
 水滴が落ちる様なものではなく、擦り合わせたかのような音。

「…や……」

 僅かながらに拒絶を示す声が漏れる。
 彼女にはまだ自由がある。助けを求める事は出来ずとも、自らの力を振り絞り駆け抜ける事すら容易だろう。彼も決してそれを強引に止めようとはしないだろう。例え止めた所で、その彼も決して屈強では無い。
 彼女の自由が奪われているのは、ワイシャツの袖で軽く後ろ手に縛られている両手。
 そして、彼の目。
 それだけだ。
 何よりも彼女を強く拘束しているのは、その彼の目だ。
 普段とは違い、冷静に、観察するように、彼女の殻をゆっくりと、焦らしながら剥がしている。
 全てを露わにしている彼女はなけなしの力で足を閉じようとしているが、彼のその目からの圧力で震えるばかり。
 徐々に自分の中へ向け、彼の指が近付いてくると共に、意志と反するかのように脚は開かれていく。
 これ以上近付かれたら、堰が切れてしまいそうになる自分が怖い。
 堅く目を瞑り、その衝撃に耐えようとした。

 漏れる様な水音。

───駄目…もう───
 衝撃の代わりに訪れたのは、覆い被さるような黒い影。
 彼は彼女の中から目を離し、今は彼女の瞳を覗き込んでいる。
 直接見られていたのよりも焦燥が激しくなる。
「…や…ぁ……」

 脚と同じく、目を閉じる事が出来ない。マジマジと見つめられ…数瞬後に訪れる衝撃に、自分がどんな表情や姿を晒け出してしまうのか分からない怖さが、全身を襲う。

「駄目!」

 触れられた。

「んぁっ!」
「綾波のココ、アツイ……」

 彼に触れられた衝撃。彼にその瞬間を見られた衝撃。自分でも自分がどんな姿になっているか分からない衝撃。
 柔らかくその彼は支える様に肩に手を回してきたが、その感触にさえ敏感に反応してしまい躰が震える。
 何も分からない。
 自分で触れても何も感じた事は無かったし、軽く何かの弾みで誰かに触れられたしとしても、それでも何も感じる事の無かったこの躰が、今は彼に指先で触れられただけで、何故こんなにも気が狂いそうになるのだろうか。

「これ…何?……」

 この衝動。この蠢動。
 自分の中から止めど無く出てくるものは、何かと言うのは知識としては知っていた。だが、それが本当にこうして存在し、何より想像以上にそれが零れだしていくのを目の当たりに、今の自分が自分で無い錯覚に陥ってしまう。
 彼は静かにそのレイの疑問に答える。

「これも綾波だよ。“感じている”綾波の姿だよ」

 彼の指はまだ陰溝の縁に触れているだけだ。それなのに普段は殆ど開く事すら無いその溝は、今や大きく彼を受け入れようと広がっている。
 その中から出てくる粘滴の群。
 止めど無く、ゆっくりと、彼の指に絡まり付き汚していく。
 滴に意志があるように、自らを穢し、そして彼の指をも穢し、内に引き込もうとしている。
 だが、その誘いに彼は答えず、溝の切れ目から更にその上に、滴を擦り込ませるように這わせていく。
 その指の奇蹟がまるで溝を拡大させているかのように錯覚する。
 薄く茂る毛群から臍部、渠、そこからやや軌道を変え、ただそこに存在だけがあった、飾りとしか思えなかった胸の中心へと近付いてきた。
 レイには理解出来なかった。たった指先一つでこんなにも自分が蹂躙されている事が分からなかった。
 胸の中心、その突起に彼の指が触れるまで、自分でさえどんなふうになっていたのか知らなかった。

「ここ、堅くなってるね」

 自分さえ知らない自分を、彼は見ている。触れている。
 指は、僅かに残っている滴を押し込むように、その突起を弄ぶ。

「はっ…んぅ!」

 触れているのは指だけでは無くなった。掌全体が胸を包む。

「敏感なんだね、綾波って」

 自分自身に裏切られた気分だ。生理的な機能さえ持ち合わせてないと思っていたこの飾りが、今は彼の手に弄ばれる事によって快楽を得ている。

「違ぅ…わ、私、知らない」
「本当に?」

 彼の鼻が頬に触れる。目の前に広がる黒い瞳。
 違う自分を晒け出そうと、自分の知らない自分を暴こうと、その目は深く抉ってくる。
 だが、そんな自分を知らないのは本当であり、恐る恐る頷こうとした瞬間、彼の手は陰溝まで一気に滑り落ちて来た。

「ここがこんなになってるのに?」

 溝が少し強引に広げられる。その先に視線は無い筈なのに、何故か彼がそこを直視しているかのように思える。
 溝口辺りで燻っていた滴の群が、音と共に吹き出してきた。

「凄いね。まだこんなに出てくる」

 止まらない。止められない。
 この滴が自分の欲望の固まりだというのは分かっている。分かっているからこそ、自分の中にこんなにも淫辣なものが潜んでいたのかと思うと、余計に恥ずかしく思える。

「だって…だって…」

 言葉すら、思考を経由せずに出てこない。思いついたままの言葉を口にするのが精一杯だ。

「気持ちいいから?」

 認めざる得ないと言う考えよりも先に、勝手に小さく頷いてしまった。

「気持ちいい…ンっ!?」

 言い終える前に、彼の口で塞がれた。
 大きな音がする。
 粘液が暴れ絡まり、そして漏れだしていく音は、口の中だけでなく足下の方からも聞こえてくる。
 乾燥した空間に、自分の淫媚さが晒けだされる。
 彼の舌はレイのそれを吸い絡め、彼の指は溝の中のものを掻き混ぜるていく。

「ん!ふ、あぅ!」

 塞がれた口からは堪らず声が漏れる。挿れられた溝からは、もはや滴と言うには大きすぎる群となって、自らの脚に漏れていく。
 まだ緩やかに動いている彼。これで彼が動きを早めたらどうなってしまうのだろう?
 恐怖と欲望が葛藤する。

「大丈夫、心配しないで」

 彼は口を離しそう囁くと、レイを横に抱き込むようにした。
 レイの両足を左足に掛けさせ、右足で背中を支える。背中から抱え込んだ右手はレイの胸を包み、残る左手はその脚を広げさせた。

「ぁ、ぅ…」

 何かを訴えかけようとするレイだが、言葉が出ない。こんな自分を見られたくないと言う否定は、彼から得られるだろう欲に購い切れない。

「今、凄く可愛いよ。大丈夫」

 その言葉に力が抜ける。文字通り“陥された”のだろう。
 彼の胸の中に顔を預ける。

「止めない、で…」

 彼の指が太股を伝い、願い通りになる。









EPISODE:X-RATE:01 Nightmare Story - Binded Rei












 踊らされ、堕とされ、融かされていく。

「あっ、あぁっ、んっ、はぁっ、あぅ!」

 始めは何かを探る様にゆっくりとくまなく動いていた彼の指は、今や何かを探し当てたかのように、中にある腺をすべて吐き出させるかのように動きを増している。
 それだけでなく、溝の端に置かれた小さな核に動く度に触れられ、激しい衝動がその度に突き上げられてくる。
 何時の間にか躰は横にされ、だらしなく開いた口からは、下の溝よろしく涎が頬を伝わっていく。僅か一つの場所から与えられている快感が、全身を侵してる。

「駄目っ、溢れるっ!」

 それなのに、彼の指だけでなく手の全て、自分の脚、脚の周りに、自分の躰が吐き出した腺が飛び散り濡らしているのが、恨めしい程にはっきりと感じられる。
───ズルい
 復讐。否。
 無意識に求めているのかもしれない。
 彼の手の動きが少しだけ緩んだその隙に、レイは僅かばかりの力を振り絞って、自らの顔を彼の脚に近付けた。
 縛られた手首がもどかしい。これが無ければもっと容易に出来たものを。だが、その不自由ささえ、もどかしくは思えど、この悦びに付け足されているものだと薄々感じる。

「綾波…?」

 彼は少し戸惑った。止まるこそさえしなかったが、手の動きがまた緩む。
 レイは何とか顔を寄せようとして、勢い余って彼の脚の付け根に軽くぶつかってしまう。
───アツ、い…
 そこには彼の指よりも熱く、脈動しているものがある。冷静な顔をしている彼の一部がそこにあった。
 装いとは別の彼の中身。
 決めた。
 否。
 決める前に躰が動いている。
 それが服越しであろうと構わず、レイは舌を絡めようとした。
 ザラザラとした感触は心地よいものでは無い。だがすぐに、そんな感覚は微塵となって消え去る。彼の手の動きが、再び早くなってきたから。

「ふぁ…ぅ!」

 堕ちそうになるのを必死にこらえる。途中で止める訳には行かない。
 何度もその形に舌を這わせ、彼の服を涎で汚していく。
 そして小さな金属の感触を舌で見つけ、それを唇に銜えて下に下ろしていく。
 途中で何かに引っかかり止まった時は、まだ同じ様に形に沿って舌を這わせる事を繰り返し、数度目には終わりまで下ろす事が出来た。
 その間も彼の指は止まっていない。逆にレイがそうする事によって、指の動く範囲が奥へと広がっている。
 朦朧とし、目も殆ど開けられない。
 その薄く開けた目の先には、もう一枚の壁、彼の下着が映り込んでいる。
 戸惑う事無く、そこに口唇を這わせる。
 彼の熱さは増している。脈動もより近くに感じられる。
 レイは自分でも驚く程に、器用に鼻と舌と唇を使い、それを露呈させた。
 目の前にいきり勃つ彼の一部。
 奇妙な、グロテスクな、脅威という文字が形になった様にも思える。
 だがそれは同時に、妙に愛らしいものにも思えた。
 先までは半ば強引に押し進めていたが、今はゆっくりとその付け根に喘ぎとも吐息ともおぼつかない息を吐き掛け、柔らかく口付けする。

「ぁ…綾波」

 彼の声に少しだけ感情が交じる。
 その彼の声色、そして触れた時に脈打つものに、レイは今までとは違う大きな安心が得られた。
 嬉しさが顔に込み上げる。
 自分が得られているこの感覚を、言葉以外で口を使い、僅かでも伝えられるかもしれないという想いが湧き出てくる。

「綾波、だ、駄目だよ」
「させて。したいの…」

 自分の言葉にさえ打ち砕かれる。そして自覚させられる。自分はこんなにも彼を欲していたのだと。
 初めて触れる彼のものは、堅く、熱く。
 その先端からは、自分が止めど無く出している欲望の形、それと似た腺がこぼれ落ち、レイの頬に当たる。
 包む様に舌を這わせながら、その腺を頬で受け取るのではなく、今度は零さぬように軌跡を逆行さえていく。
 布越しとは違い、直接舌でふれるそれは、他に例え様が無いくらい愛おしさを感じる。
 先端にある僅かな鈴口。それはそこから滲み出ていた。
 唇で包み、舌でゆっくりと撫で上げる。
 その動きの度に全体が揺れ、自分のと同じくして彼の欲望の滴が湧き出てくる。
 彼も、一緒だ。
 自分を露わにする事で、他人に触れられる事で、感じ取る事で、止めどなく溢れ出てくるもの。
 求めている。
 求められている。
 その滴を零さぬ様に、形に添わせながら口を広げ包み込んでいく。
 傷つけないように歯を押さえながら、柔らかく、奥まで。

「綾波…」

 その言葉を切っ掛けに、お互いのする事の速度が徐々に増していく。
 耳にまとわりつくような自分の喘ぎとも嗚咽ともつかない声は、恒久的に続くものという錯覚に陥る。
 自分のだけではない。頭の上からは彼の荒くなった息遣いや時折漏れる僅かな声もそれに混じる。
 そして、互いに生み出す滴の群。
 涎と腺と。
 乾く事無く、お互いの躰を穢していく。
 彼の指は内なる壁を探り、見つめ、踊る。
 口に含んだ彼のものは、彼自らが行っている事であるのに、何故か彼のものが口の中に侵入してきているように支配している。
 彼の手から離れてしまった胸は、半ば無意識に彼の脚に何度も何度も擦りつけている。
 僅かばかりの物足りなさが、彼をより強く求めている。
 先端をそして茎を包むように舌を這わせ、喉に突き当たるまで挿し込まれていく。苦しささえこの全体にまみれている悦びに溶け込んでいる。
 そして唇をやや堅く絞り込み、その中にあるものを絞り出すかのように吸い上げていく。鈴口に出てきたそれを舐め取り、飲み込み、そしてまた先端を舌で絡め……。
 思考が。
 呆ける。惚ける。
 明確としているのは、腰の奥の辺りに潜む何かが鎌首を持ち上げ、徐々に背骨を駈上って行くような感覚だ。
 彼は、動きを止める事無く、驚く程器用に、レイを唯一物理的に拘束させていた縛りを難なく解いた。
 少しばかり感覚が麻痺してしまっているその片手を、彼は、今彼が弄んでいるレイの溝口、そこにある陰核に当てさせた。
 考えるまでもなく、否、考える思考さえ持たず、言葉で聞かずとも彼の意志は伝わる。
 不思議と言わざる得ないくらい、その指は自らの意志を持つように、彼の動きに合わせて自虐してくる。
 やり場の失ったもう一方の手は、縋るかのようにより多くを求めるように、彼の大腿に絡めた。

「可愛いよ」

 普段ならば一蹴しているその僅かな言葉さえ、今全身で受けている愛撫と同じく衝撃をもたらす。顔は彼のそのものと同じく熱を放ち、謝辞の代わりに彼をもっと刺激するかのように動きを増していく。
 彼も言葉以上に鮮明に反応を示している。
 脈動は大きくなり、レイがその全体を包み込む度にその姿を大きくしている。
 彼の手は腺にまみれ、彼のものは涎でまみれている。
 能動か、受動か。
 犯されているのか、冒しているのか。
 環境は彼に支配され、自らは彼を内に誘いたいと欲する。
───欲しい
 心から純真に、穢れ無く想う。
 彼のものが自分を貫いた時、きっと自分を壊してくれるだろう。自分の望み通りに。
 内に、中に、膣に……。
 だがそれよりも、駆け上ってくる何かは、そこまで待ち得る程我慢強くは無いらしい。
 彼の指の動きが乱暴さと早さを増していく。自分の指も壊れると思うくらいに擦りつけている。口は、頭の動きだけでは物足りず、茎に手を添え、その手すら動きに同期させ、彼のものを蹂躙していく。
 今はまだ点となっている光をただがむしゃらに掴もうと必死になる。
 もう他には何も無い。
 今ここにある現実はこの感覚。
 陰核を剥き出し堅くさせ、陰溝からはもはや恥じらいすら忘れたかのように溢れ出ている腺液の群、口と彼の茎には涎と彼の腺が混じり合った淫靡なもので満たされている。
 この音と液に溺れていく。
 行き着く先はもう真も無い。あと僅かな時を隔てているだけだ。

───もう

───駄目…

 刹那。
 膣が彼の指の動きを止める程にきつく締め上げられる。彼の茎が大きく脈打つ。脚に擦り付けていた胸が張り上がる。何かが爆ぜる。
 鎌首を持ち上げて駆け上った龍のような何かは、背骨を首をそして頭をも突き破っていく。

「綾波っ!」

 彼の声が遠くで聞こえる。
 彼のものからは、今までとは桁違いの腺が迸り、喉の奥へと叩き付けられる。一度ではなく、二度三度、大きく脈打ちながら今まで堪っていたものが出てくる。四度、五度、止まらない。
 彼だけではない。自らも一度は締め上がった陰溝は大きく開き、まだ動き続けている彼の指に擦られる度、音と共に彼と同じく腺を吹き出している。
 それだけではない。
 もう一つの衝動が躰中に悪寒を走らせる。
───違う!それは駄目!
 瞬間だけ留めたものの、彼の指の僅かな刺激にすぐに崩されてしまう。
 普段慣れている当たり前の排泄感。
 今はとてつもなく場違いで、異常にすら思えるその感覚。
 その事実が一度は昇り詰めたかと思った感覚を、更に上昇させてしまった。
 我慢できず、彼の茎から口を離し……。











「んぁっ…ぁああああっ!!」

 一陣の風が炎をゆらりと揺らす。
 一瞬、誰が発した声かすら二人には分からなかった。
 近所までには響かず、だが部屋には十分に響き渡るレイの叫びは、二人を驚かすには丁度良かったのだろう。
 その叫び声が終わると同時に、蝋燭の炎が再びゆらりとたゆたう。

「おしまい」

 噺手である本人は叫んだにも関わらず、澄ました顔で冷めきったお茶を一口啜る。
 アスカとシンジが再び呼吸を再開させるまで、悠に秒針が1周する時間を要した。
 二人は呼吸を再開させると、止まった時間に得られなかった酸素を求めるように荒々しく呼吸を続けながら、何とか落ち着きを徐々に取り戻そうとしている。
 ある程度収まってきた所で、謀ったように二人同時に唾を飲み込んだ。

───な、何よ!この妙に粘っこくリアルな話は!?
───あ、綾波、エロ過ぎ…

 アスカはレイを睨みつつも、両手を太股の間に挟み、何かの衝動に耐える様に小刻みに震えている。シンジが座っている座布団の前には黒ずんだ染みが数滴広がっている。本人は鼻の頭を押さえるのに必死だ。

「ふぁ、ファースト…アンタ、一体…」
「血、血が止まらない…」
「話は終わったわ。お手洗い、行きたかったらどうぞ」

 やはり澄ました顔で平然と言うレイに、二人は恨めしい顔を向ける。
 アスカは他の二人に分からないように、指を動かし再確認する。確認の場所に触れた途端、そこは自分の予想以上の事態になっていた。何故かマヤの声とシンジの父親の声が響く。

───吸収臨界点を突破!駄目です!本来の機能を果たせなくなっています!
───現時刻を以て破棄。永久凍結とする。

 だが、破棄するにも換装するにもこの場を立たねばならなかった。だがそれは出来ない。
 蝋燭一本の薄明かりだから目視こそ出来ないが、指でふれたその感覚では、下着、更にはショートパンツをも浸食し、汚染は座布団にまで広がっていると確信する。
 立てる訳が無い。
 シンジに至っては言うに及ばす、上半身すら起こす事は出来ない。レイの話にあった描写は、謀らずとも真実を言い当てていたらしい。
 レイは過酷で冷酷だ。
 二人はそう認識を改めざる得ない。
 暗闇の中に浮かぶレイの視線からは、受け取り側の勝手な思いこみだけかもしれないが侮蔑の様なものさえ感じられる。

───謀ったな!ファースト!
───トイレにさえ行ければ…あと3年は戦えるのに…

 そんな二人に構わず、レイは言葉を続ける。

「次は誰?」

 紅く冷酷な瞳は、残る二人を容赦無く見渡した。

 夏の夜はまだ始まったばかりだ。










つづく
[-- Next --]

Writin' by Kanna Touru