不倫代議士アスカ 第二部


Original text:リアル・カッコマンさん


それから7年の歳月が過ぎた。
当選を順調に重ねたアスカも中堅議員として風格をつけ、党人政治家として将来を期待される人物となっている。
それとともに政務も多忙にもなり、外泊の夜も増えた。
今日も、高級車の車内から携帯で夫を呼び出し、今夜は帰れないことを告げる。
どうしても会食しなければならない相手がおり、その後はそのままホテルに泊まると告げると、自宅で子どもたちの面倒を見ていたシンジは「仕事大変だろうけどあんまり無理しないでね」と優しく声を掛けてきた。
アスカはたまらず、「おやすみ愛しているわ」と別れもそこそこに電話を切った。
何年たっても消え去ることのない後ろめたさに瞼を閉じて、運転手にいつもの某高級ホテルの名を告げる。
この運転手兼ボディーガードは精悍な顔つきの美男子で、警察学校で優秀な成績を収めたものの、職場で同僚を殴って辞職した元警察官だ。
2年ほど前に、シンジより一回り若いこの年下の男をアスカが自ら面談して選び、仕事を始めてから3日目にスモークガラスの車内でカーセックスに誘った。
思案に違わず、車だけでなく女に乗るのも得意な男だったため、それ以来“いろいろな意味で”可愛がっている。

「また――あのおっさんの所――なんスか」
馴染みのホテルの名前は、男に一瞬、嫉妬の表情をひらめかせたが、アスカは昂然とそれを無視する。
「仕事なのよ、……急いでね」
気が向いたときに遊び気分で、また、シンジへの口止め料代わりに、時々寝てやるぐらいで、俺の女だなどと増長した態度を取られてはたまったものではない。
碇アスカの夫は世界でたった一人碇シンジだけだ。同様に寝る男がどんなに多くなっても、情人はこれから逢瀬に向かう初めての不倫相手ただ一人だけなのだ。
二人の男に挟まれて恋多き女アスカは密かな三角関係を保ち続けている。
(アタシに嫉妬していいのは、シンジとおじ様だけなんだから……)
と二人を対置してみると、なぜだかイライラが止まらず、車内に備え付けてあった、猿の縫いぐるみに八つ当たりのパンチをぼふっと見舞う。
小さく綿埃が立ちのぼった。
「モンキー、可哀想ッスよ……」
「モンキーじゃなくて、シンジっ。何度言ったら分かるのよっ」
「……でも、モンキーはモンキーっすよ」
何度訂正しても、運転手は猿の縫いぐるみの名前を正しく呼ばない。一人で情人きどりのこの男には、アスカがお気に入りの人形に夫の名前をつけて、どこに行くにも帯同していることが面白くないのだろう。
車が止まると、もう未練がましい運転手の視線は頭になかった。颯爽と肩で風を切ってホテルのロビーに足を踏み入れる。

いつもの、口の堅さでは日本一と言ってよいホテルマンがそろった受付で、男の名前と部屋番号を告げる。
全てを承知しているという感じで、ホテルマンは無言のまま、鍵をすっと差し出す。
「ごゆっくりどうぞ」
「いつも、ありがと」
アスカは鍵を手元のバッグにすべらせると、VIP専用エレベーターへとゆっくりと足を進める。
(最初のころは、どうしても早足になっちゃったのよね……誰かに見とがめられるんじゃないかって)
今ではかえって焦ったほうが目立つことを知っている。不倫も7年も続けると、もう手慣れたものだ。
自分は悪いことをしているわけじゃない、恋をするのは女の権利。
だから堂々としていればいいのだ。アスカは自らそう言い聞かせる。

最上階のスイートの扉の鍵を開けると、禿頭で丸々肥えた中年の男性が窓の外に向けていた視線をアスカに向ける。
男の胸に駆け込むように飛び込んだアスカを、どっしりと男が抱き止める。
うっとりとまぶたを閉じたアスカの紅唇を真綿に水を含ませるような優しさで男が吸う。
人妻とその情人の唇同士に唾の橋を架ける熱い情熱のベーゼは、束の間の逢瀬でいつも交わされてきたふたりの愛情表現なのだ。
「会いたかったですわ、おじさま」
「私もだよ、アスカ……2週間ぶりだな」
アスカの腰に手をまわして、彼女を不倫の世界に引き込んだこの男はベッドに誘う。
キングサイズのダブルベッドは、ふたりの朝までの戦場だ。汗と体液にまみれて、ふたりは戦友として、恋人として、一夜かぎりの夫婦として奮闘することになる。

恋に上気する乙女の頬が、潤んだ瞳が、男の獣欲を刺激する。
さらさらと流れるような金髪の毛先をいじくりながら、男は耳元で囁く。
「最近、亭主とは上手くやっているのか」
「ええ、ご心配なく。夫婦仲はたいへん良好ですわ」
確かにアスカとシンジのオシドリぶりは、政界の内外でも評判であった。つい最近3人目の子どもを出産したばかりだ。
この男とシンジの血液型が同じであることはアスカにとって幸運な要素の一つではあった。
一部で囁かれる恋多き女アスカという風評を、シンジは一笑に付している。
「それならばこんなところで、わしと一夜を過ごそうとは思うまい?」
「夫とは違うオトナの魅力がおじさまにはあるから……おしどり夫婦の人妻でも、夢中になってしまいます。」
たわいもないやりとりだが、その間にも視線でのまぐわい……本来の意味での目交い(まぐわい)は始まっている。
「それにおじさまのココってとってもやんちゃだから。他の女と悪いことしないか、心配なんです。」
と手のひらを男の股間に当て、軽くつねる。
アスカの可愛いヤキモチに、男の目尻が嬉しそうに下がる。
「そろそろ男・千人斬り達成かという勢いの『政界のジャンヌ・ダルク』が、しおらしいことだ。」
この白い大きな尻の下で、一体何人の男にあえぎ声を上げさせ、精液を搾り取ったのだ、と双臀を強い力でわしづかみにする。
アスカが、夫や自分以外の男とも積極的に寝るようにし向けてきた彼だが、さすがに軽い嫉妬は隠せないのだろうか。
この淫乱雌豚め、と豊かな臀部を絞り上げる。
うふふ、さすがに千人はまだ無理ですわ、とアスカは苦笑する。
「朝から晩までソープで客でも取らないと……それはそれで楽しいかも知れないけど、それじゃ政治のお仕事の時間がとれませんよ」
今や政治面でも独立不羈の新人議員から、この元幹事長の直弟子となった感があるアスカは、「政治は夜始まる。それも女の身体の上で」という薫陶を真面目に奉じているのだ。
若手議員の会合で、初々しさがどこか夫にも似た初当選議員を見つけては、夜の政界作法を教えてやったり、と最近は師父の政治理念の伝承にも余念がない。
こうして今や与野党含め、アスカと肉の関係を持った100人前後の潜在的アスカ党がいる計算になる。
一朝有事には、政界再編の無視できない勢力となる可能性も秘めているのだ。

最初の半年間がアスカにとって最大の苦しみだった。
自分で男を漁ると言ったものの、誰と寝てよいかわからず、同僚議員で口の堅そうなのをみつくろっては、片っ端から声を掛けた。
さすがに国政に参加する男たちだ。財力、家柄、学歴、知力、どの男もそれなりに秀でたところがあり、夫を裏切る不倫の相手としては申し分ない。
その夜に寝ると決めた男を“おじさま”に告げ、彼の部下に2人がホテルに入るまでを見届けてもらう。
もちろん写真もこっそりと撮られていた。
用意されたアルバムに、腰を抱かれながら男とホテルに入るところ、朝にもはや他人ではなくなった2人が出てくるところ、2枚セットのツーショット写真が並べられていく。
1冊目はすぐにいっぱいになった。
「保険と記念じゃよ」
「ん……んぐっ……ほ、保険って?」
唇を甘く吸われながら、アスカはベッドの中で説明を受ける。
保険というのは、男がアスカとの秘密を口外しないようにという担保なのだろう。
焼き増しした2枚の写真が届けられ因果を言い含められれば、もうその議員は幹事長に生殺与奪を握られてしまったようなものだ。
(まるで……美人局ね)
とアスカは自嘲する。
実際、身持ちの堅かったアスカの発狂したような荒淫ぶりは、初めは驚きを、やがて喜びをもって迎えられた。
あっという間に噂が広がったのだ。だが、2枚1組の写真の効果がそれを沈静化する。
俺は碇アスカと寝たと嬉しそうに吹聴していた議員も次にそのことを聞かれると、引きつった顔をして否定するのだ。
まもなく噂は表面的にはただの噂だったものとして消え去っていった。
それからは、アスカの男漁りも一本釣りの密やかなものとなっている。彼女を抱くのは、幹事長の派閥に入ることを同時に意味するようになった。
選択権はあくまでアスカにあるが、“おじさま”にとっても損はない話なのだ。
むろん、アスカに対してもこの写真は当然効いてくる。
ネガを見つけ出して処分しない限り、アスカは永遠にこの男のいいなりなのだ。

もう一つの“記念”という方は、アスカの男遍歴を記録に残していき、50人、100人、200人と節目に到達した時に、祝ってくれるという悪趣味なものだった。
そして、アルバムはこの男の性格的に当然というか、ふたりの夜の営みのスパイスにも用いられる。
白くむっちりとした尻に、太鼓腹をたたきつけられながら、枕元に広げたアルバムの写真一つ一つについて、白濁と精臭の記憶を掘り起こされるのだ。
「ふふ、15番目のこの男、どうだった」
「く、あハァんんっ……と、とっても、素敵な男性でしたわ」
「わしのこの腰使いとどっちがよかった」
と腰をつきあげられ、陰阜に陰嚢を叩きつけられる。
ひっと嬌声をあげて、アスカはのけぞる。虹色の快美感がアスカの口の端からこらえきれず涎を零させるほどだ。
「も、もちろん、おじさまですわ……一番素敵なのはおじさまですっ……」
「よっしゃよっしゃ、本当にアスカは可愛いおなごになったの。もっとキモチよくさせてやるからの」
「おじさま……はぁっ……おじさま……すきっ……好きですっ……おじさまっ!」
舌足らずに桃色のあえぎ声を上げるアスカが食べてしまいたいぐらい愛おしいのか、男は小刻みに腰を動かしながらも、盛んに甘噛みや頬への接吻を繰り返す。
肉体の快楽だけでなく、父のような年配の男性に愛されている実感が、元来お父さん子だったアスカをピンク色の幸福感のまま、上り詰めさせていく。
こんな倒錯の日々の中で、アスカも次第に、この自分自身の男性遍歴を物語るアルバムが厚くなり、冊数が増えるのを背中がぞくぞくするような背徳感とともに楽しみにするようになっていた。

一方で、アスカはシンジと二人きりになると強気の仮面を脱ぎ捨てて、素直に甘えることが多くなった。
すっかり淫乱になった感のあるアスカだったが、不特定多数の男に股を開く毎日で、かえって、シンジに対する恋しさ、愛おしさが募るのか。
アスカの罪滅ぼしでもあるまいが、たとえば食卓でも、
「あーんして」
「もう。ほっぺにご飯つぶがついているわよ、しっかりしなさいよ!」
などと、新婚当初にもまして、自宅での二人の生活は甘い甘いものになっている。

特に不倫の明けた朝、石鹸の匂い漂う身体を夫に抱きしめられる感覚が心地よい。
シンジの体温に優しく包まれながら、つい己の背信の申し訳なさに涙し、事情の分からない夫に不思議そうに「どうしたの」と髪を撫でられる。
「仕事がつらいの、だから慰めて……」とアスカが言えば、シンジは何も詮索せず、キスをして彼女を抱きしめてくれる。
それだけで癒されるし、これはアスカの勝手な思いこみではあるのだが、すべてを許されている気持ちにさえなるのだ。
だから、シンジ以上の男たちに抱かれても、決してアスカの気持ちは揺るがない。
ブランドや能力だけでは計れないよさがシンジにはあるのだ。
夫以上の男たちを選んで寝れば、きっと夫に愛想をつかす、そんなことをおじ様は言っていたが、結局シンジの本当の魅力など、おじさまには分からないらしい、とアスカはひっそりと笑うのだった。

内と外での性の二重生活はこうして、いつしかアスカを、貞淑で純情、淫乱で情熱的な不思議な魅力の女性へと変えていったのだ。




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From:エロ文投下用、思いつきネタスレ(6)