同窓会にて

Original text:引き気味


『 彼との淫らな秘密アルバム (中) 』


「……何を恥ずかしがっているの?」
 何を暴露してしまったのか、自分でまるで気付いていない顔を傾げてみせる。
 アスカはこの瞬間はじめて知った、同じ人物に関わる秘密を共有していたらしいレイに呆れかえっていた。それから、相田ケンスケに対しても。
(なによ、相田のやつ……!)
 会場では最初に軽く挨拶を交わしたきりで、彼女がレイやヒカリと合流してからは近寄ってこなかった。
 それをアスカは「事件」のことで和解出来ていない二人を避けてのことかと解釈していたのだが、
(こいつの口ぶり……。つまり何? 優等生とはとっくに話が付いてたって事ぉ!?)
 気の回しすぎだったということか。徒労感に似た疲れが、レイの引き起こしてくれた頭痛性の焦りを更にシェイクしてゆく。
 頭を抱えつつも、そうなると―― と、連鎖的に諸々の再検証をはじめてしまったアスカは、会場で軽く苛立たせてくれたケンスケの態度に別の意味も見出していた。

 「和解」。そうだ、綾波レイは“盗撮魔”相田ケンスケと自分同様、手打ちを行っていたらしい。
 でなければ、あの男の撮る写真についてこうも好意的な物言いはすまい。
 レイは人並みの羞恥心とは神経を結び損ねたかの無防備主義者だったが、それでもあの事件当時は、普段以上に無口に下手人を睨み付けて、不快を示していたのだから。
 今はきょとんとした表情で、対照的に驚愕満面でいるヒカリに応じ返しているこのクールビューティー。その間も透き通った液体の入ったカクテルグラスを手放さず、短めの言葉を返す合間に黙々と口元に運んでいる。
 アスカから見ても、昔に輪を掛けて現実離れした域の器量良しだ。
 清潔にショートヘアで整えられた髪は、さらさらと揺れるブループラチナの輝き。極上の紅玉を思わせる赤い瞳、降り積もった新雪よりも白い肌。アルビノというハンデも逆に強みにして、どこのファンタジー映画から抜け出してきた妖精なのよとも思う。
 壱中時代もそう。自分と共に双璧とまで呼ばれたアイドル扱いだった。
 そのまま思い描ける中で最も理想的な成長を遂げた今、神秘性を増した美貌は聖女とでも名乗れば一つ軽く宗教が興せるレベルだろう。丁度、その細い喉元を首輪のように締めている黒のチョーカーには、銀製の十字架がぶら下がっている。
 それほどに麗しの、世俗の穢れとはまるで無縁でといった趣だが――
 
 アスカはまじまじと、昔から何かとライバルなこの娘を見詰め直した。
 あの盗撮魔、変態痴漢ド助平と忌み嫌われていた相田ケンスケだ。それだけの美少女だったレイを相手に、盗み撮り事件を勘弁させるほどに取り入るのに成功して、そして結んだ和解が“自分の時”と違ったなんてことがありえるだろうか?
(写真、撮らせたって……言ったわよね……)
 それも、あの手の盗撮では出来えない“綺麗な写真”とやらを。

 ―― 良いじゃん、良いじゃん。すっげぇ綺麗だぜ、惣流!

 いつかの声が蘇った。
 その残響が耳にこびりつくようになって、もう何年経ったろう。
 ぶるるっ、と。わけもなく背筋に覚えた慄き。無意識にアスカは、素肌を大きく露出させた胸元を庇っていた。
 咄嗟にあおったカクテルが、熱く喉を灼く。
 同時に、ほんの一時間前の記憶が頭を過ぎった。
 気合いを入れて、少しばかり挑発的に過ぎるドレスを着込んできた自分。隣に並んで、シンジが来ていればともかく、そうでないのに普段では見られない洒落っ気を出したきていたレイ。
 あの時、この自分を差し置いてレイの方に目を注いでいた相田ケンスケの顔付きとは、どんな物だったろう。
 万事無頓着を地で行っていた女の珍しいおめかし姿に、感心していた?
 ……いや、まさか。
 “飛びっきりの美女”を頭の天辺から爪先までじろじろ舐め回し眺めて、それでただ驚いたに済ますような無害な男ではない。断じて、ない。
 それをアスカはよく知っている。
(それに、優等生の方も)
 事件以来、嫌悪軽蔑したままだろうという思い込みでいたが。その前提が違っていたのなら、自分に粘っこい視線を注ぐケンスケを、この女はどんな顔で見詰め返していたのか。
 同窓生たちが輪になって笑いさざめいているのも、地べたに見付けた蟻の群れが飴玉にたかっているのも、同じように眺めている毎度の顔。ただそれがたまたま一人の男に向いていた。では面白くない。
 例えば―― 良く見ていればいつも赤い瞳は追いかけている、笑いかけられれば嬉しそうにして見えなくもない、僅かに柔らかく綻んだりの、シンジ向けのみの表情エトセトラ。そんなものを他の男の時に披露していたというのだったなら、充分にアスカ的にはスクープだ。尻尾をという意味で、是非掴んでおきたかった。
 それに、本当にこの無防備な娘がケンスケに誑かされ済みだったというのなら、どうせならとも思うのだ。

―― ほら、惣流。良い顔してるだろう?

 それもまた、アスカの耳奥にこびりついている声。
 あの男、あの時分ならまだ少年と呼べた相田ケンスケは、そう言ってにんまり、手に入れたばかりの「作品」を見せびらかしたものだ。
 他ならぬ作品の被写体、モデル自身に。
 いつだったかを思い起こそうとするのは、意味が無い。まだ14歳だった頃、はじめてモデルになった時だったかもしれないし、中学の卒業を控えた前日に、特別な記念になる日だからと“冒険”を唆された時だったかもしれない。一度や二度のことでは無かったのだから、そして毎回似たパターンを踏んだ展開になった記憶の一つ一つなのでは、区別してもしょうがない。
 とにかく、えてして常に、ケンスケがそうやって自分でも見てみろよと言ってくる写真は、アスカにとって直視しがたい代物ばかりであった。
 それでいて一方では、顔背けて視界の端に追いやっていても、彼女の眼球の白目部分に掛かるか掛からないかの場所からも無視し得ない大声で呼び立てて、最後にはしっかり鷲掴みでアスカを吸い寄せてしまう、そんな磁力を備えていた。
 写し取られているのは、言わばアスカの矛盾。言わば二律背反。
 そうあってなるものかと固く誓っていながらも、一方で既にそうなってしまっている姿。決してと強く拒みながら、同時に涎を垂れ流さんばかりに欲求している、瞬間瞬間。
 なるほど確かに相田ケンスケの腕は確かだった。見事切り取ってみせていた。
 そして常に、蒼い瞳をしたモデルはレンズの向こうに構える男を見詰めて、請い願っていたのだ。媚びてすらいたのだ。

 だったらと、思い返してアスカは考えるのである。
 同じくらいに、仕込んでやってたんでしょうね、と。
 であれば、
(相田のやつが上手いことこの優等生をモデルに仕立て上げてたっていうのなら、さっきは期待出来たシーンだったんじゃないかしら)
 後にしたばかりの会場、かつてモデルを務めたカメラマンに久方ぶりにじっと見詰められたレイは、だ。アスカもモデルをやっていた同じ頃、密かに―― アスカだって内緒にしていたのだから、お互い様だけれど―― 彼女も撮られていたのだろう写真の中でそっくりに浮かべていたのかもしれない貌でもって、また再び、ケンスケに応じてしまっていたのかもしれないのだった。
(ちぇっ、惜しいことしたわ)
 迂闊に見のがしていたのは失敗だったと、舌打ち一つ。

 そこらまでが、思わず余計なところまで考え巡らしてしまった彼女の現実逃避。
 そうしている合間にも、爆発物をそれと認識せず玩んでいるのに等しい誰かのボケが、アスカを巻き込む自爆傷を広げに広げまくっていたのだった。



◆ ◆ ◆

「彼は、高い評価を得ている専門家なのでしょう? なら、その作品は素晴らしい物のはず。自慢できるという話ではなかったの?」
 隠すような必要は無いのではないか。それに、自分も綺麗に撮って貰えていると満足している。
 そう、レイは全てぶっちゃけてしまっていた。
「今ほどでは無いとは言え、アスカも彼の技術を評価したからこそ、あの頃の自分を保存して貰うよう依頼したのではないの?」
「あんたね……」
 頭を抱えたいとは、このことだ。
「って言うか、保存って……。あいつ、あんたにはそういう説明して言いくるめてたのね」
「取り繕わない姿を確保するため。だから、被写体に悟らせない撮影が適しているという説明には納得した。けれど、私は許可していない。それはちゃんと言ったもの。言いくるめられてなんかいないわ」
「そうじゃなくて……」
 そうっと、いま一人の友人の様子を窺う。
 ―― だめだった。もろに目があってしまった。
 ヒカリはもう目を丸くしてというレベルを越えて、愕然と口元を押さえながらレイを、アスカを凝視している。ガン見とはまさにこのこと。
 もう完全に理解して、アスカがしていたことに驚いているのだ。
(だめか……)
 最悪の場合はと、ちらり考えた手は使えそうになかった。レイ一人のことで自分は関係無い。一緒にしないで頂戴と言ってスケープゴートにしてしまえば、切り抜けられないかな―― と、そう考えもしたのだが。
 そんな誤魔化しで煙に巻けそうには、見えなかった。

(……ん? あたしたち“も”って今言ったかしら。ヒカリってば)
 聞き流してしまいそうになっていたセリフに、ふと思い当たる。
 ヒカリは確かに言っていた。『じゃ、あの後に、アスカたちも』と。
(ああ、そういや私も。あんた“には”そういう説明を―― だなんて言い方しちゃったっけ)
 その言いよう。アスカは思わずレイの他の誰かの場合について知っているのを前提に口走ってしまったし、同じ視点で振り返り見れば、ヒカリの口ぶりも似たようなものに思える。
 お互い、動転するとこんなものか。これはひょっとしてまさか。そう考えて、アスカは酔いとは別の理由で真っ赤になっている友人にカマをかけることにした。
「でも、実際相田ってば随分評判で、出世しちゃってるわけだし。ヒカリもさ、旦那予定に見て貰ったらどう?」
「は? あぇ? え、ええっ!? だ、だって私はアスカ達と違うもの……。そんな、相田君の写真だなんて―― っていうかダメでしょ! わたし、人妻になるのよ! そ、その、もう撮って貰うつもりなんて一切ありませんから!」
「腕が良いのは認めてるんだ」
「それは……」
 しどろもどろになって顔を背けるヒカリだ。
 技術的にはどうだというのは否定しないかと、アスカはやはりの思いを深めた。
 判断するだけの材料はもっているわけだ。そしてはてさて、その材料とはどんな写真だったものか。ケンスケの撮る写真だって、人妻が撮られても問題ない物ぐらいいくらでもあるだろうに。中学生の時の写真だって、殆どはごく普通のピンナップだったというのに。
(人妻になるのに、かぁ)
 友人が今反射的に思い浮かべたのは、やはりそんな“人妻が撮らせては差し障りがあるような写真”だったのだろう。ニヤリほくそ笑みもしてしまう。
 ヒカリには悪いけれど。
(っていうか、今“もう”って言ったわよね? もう、って)
 テーブルの下で密かにぎゅっと拳も握る。いぇー、ちょろいわよヒカリ。
 気分的にはもうすっかりこっちのターン。
 うっかり握られてしまった不利なカードの分、いやそれ以上に向こうの弱みも握りおおせたのだし。一方的に追求される恐れさえ無くなれば、というものだ。
 しかし、あくまで何も気付いていない顔をして、更なる確証を引っ張り出すべく、つつくのである。
「綺麗って惚れ直してくれるかもよ〜?」
 こうなってくるとピンチだと焦っていたのもどこへやら。気分も落ち着いてきて、今度はなにやら逆に楽しくもなってくるのだった。
「男共にもマリッジブルーってあるって話だし、油断してるとねぇ……。考えてもみなさいよ、中学生の頃の写真なんて良い武器なわけじゃない。女子中学生よ、女子中学生。その手の言い方だとJC!」
「じぇ、じぇーしーって何よ、それ……」
 囁いてみれば、益々頬を火照らせてしまって顔背けるヒカリ。
 そうして襟元から覗いてしまっている首筋の、やはり薄ピンクに染まっている様子。じとりと汗を浮かばせているうなじには、同性ながらおかしな色気を感じてしまう。
 それにその肌の、しっとりとしたきめ細かさといったら……!
 いや確かに。洞木ヒカリとは、地味そうに見えてさりげなく実に美味しそうな女の子だった。
 酔いのせいでだろうか。相田ケンスケのモデルをしていた頃を思い出していたからだろうか。アスカは時ならぬ妙なときめきを覚えていた。
(レズっ気なんか無い筈なんだけどね……。相田の目も確かだわ)
 アスカも自分の肌に自信が無いわけではない。クォーターだが、西洋系の血が良く出た肌の白さは、白人だらけの海外に行ったって見劣りするところになく、常に男共からは欲望たっぷりの眼差しを受けてきた。
 この場合の欲望にまみれた視線とは、つまり女としての勲章だ。かつての潔癖症を完全に無くしてしまったわけではないが、今やアスカにもこれくらいは理解出来ている。
 レイにしてもすでにその青白さは病的ですらあるものの、別の見方をすれば日本人形みたいなと言うのか、これはこれで男に大変なアピールであることをアスカは知っていた。
「……JCって何?」
 常識も無ければ空気も読めない女だとも知っていたので、今更レイには援護とかそういったことは期待していなかったが。

 そんなこんなで、余計なボケを入れてくる酔っぱらいを一人無視して、暫くのやり取りで充分なだけヒカリの尻尾を捕まえたアスカは、
(えーい、いっちゃえ)
 と幾ばくかの躊躇も心を決めて蹴飛ばして、真正面から問い詰めることにしたのだった。
「ヒカリ、あんたも相田に撮らせてたんでしょ? 中学時代の記念に。着てない、履いてない、隠してない。そんなぶっちゃけ……」

 ―― ヌード写真集を、と。
 
 口に出すのも憚られる過去を、あえてストレートな言葉にして。挟んで座るテーブルに身を乗り出し、顔を近付け、吐息の掛かりそうな距離で囁くように。
 頬火照らせてパニくっていたヒカリが一瞬で正気に立ち返り、息を飲んだのが分かった。
 「……ふふ。ねぇ、ヒカリ? あなたも、そうなんでしょう?」

 それは、今日までどれだけ露見を恐れ続けてきた秘密だったろう。
 そうだ。アスカは、惣流・アスカ・ラングレーは、あれだけ嫌い抜いていた筈の相田ケンスケの前に、隠れて肌を晒し続けていたのである。
 あの中学生の時期も、それから後の数年間も。
 身を焼く羞恥と、馬鹿なことをしているという自覚に目眩さえ覚えながら。彼の並べ立てる褒め言葉、おべっか、見え透いたお世辞に、そうと理解しつつ安っぽくおだて上げられ、気分良く―― 制服を、下着を脱ぎ落として。
 望遠レンズ越しどころではない。今アスカがヒカリに顔寄せて囁いたのと同じ至近距離で、当時14歳のアスカはその美乳を、髪とおなじ蜂蜜色の翳りを頂いた下腹部の秘園までも、ケンスケの鑑賞するところに差し出していたのだ。
 紛れもない醜聞であった。発覚すれば大事にしたいと思っている人間関係に破綻を招きかねないし、プライドの高過ぎたあの頃の彼女なら、そもそも受け入れること自体ありえない関係だった。
 けれど、表沙汰に出来ない関係は密かに始まり、そして密かなまま続いたのだ。
 後ろ暗い秘密が二者間に結ばれれば不可避となる加速性を、充分に発揮しながら。今日、この時まで、誰に知られることもなく。
 だと言うのに。この時のアスカは、中学時代からひた隠しにしてきた恥ずべき秘密を、問い詰めるという形で同時に自分からも認めてしまったこの行為に、却って胸をドキドキと興奮してすらいたのだった。
 アスカ自身にとっても予想外の成り行きだ。
 間違いなく、アルコールに判断力を鈍らせている分もあるのだろう。
 けれど、勢いが付いた悪戯な気分は、もう止まりそうになかった。
 それに、こいつに知られたらお終いだと思っていたライバルのレイ、そして親友のヒカリだって、同じ穴のムジナだったのである。
 もう、怖い物は無かった。
 無いと思ったのだった。

 ちろりと、唇を舌で湿して言う。
「私はね、持ってるわよ。まだ家に。アルバム自体は隠して仕舞ってあるんだけど、今をときめく一流カメラマン様の―― 無名時代、渾身の作ってのを」
「……私も何回かモデルになったわ」
 レイが続き、そうして結局はヒカリも、観念するほか無かったのだった。
「……はい、ごめんなさい、しらばっくれようとしてました。認めます。私も、相田君に写真撮ってもらってました。……でも、それも昔の話だし。若い頃の過ちって言うか、今の彼と付き合いだしてからは連絡とってなかったし」
「へー、そうなのー」
「許してよ、アスカぁ〜」



◆ ◆ ◆

「じゃ、アスカは大学に行ってからも……?」
「そ、何回かね」
 レイもまた自分もと、頷いてみせていた。
 飲み過ぎ、風に当たろうといって連れ出された彼女は、あの頃より少しだけ長めにした髪を夜風に揺らしている。
「そんなに……」
「成長期だったもの」
「まーた、この優等生は理屈っぽいことばっかり言っちゃって。確かにまぁ、どんどん大人の女に近付いていってるって実感のあった頃だったし、その時々を残しておきたいって気分もあったけどさ。ま、結局は相田のやつが人を乗せるの上手かったってことよね」
 お酒臭い息で品のない笑い方をしながら、アスカはくいっと両手ですくい上げて、豊かなそのバストを突き出してみせた。
 彼女らしいとヒカリが思う赤でまとめた今日のおめかしは、大胆なカットで胸元を覗かせている。強調された谷間を見るまでもなく、ヒカリも息を飲むような成長ぶりだ。
 呼ぶとすれば、もう美少女とではないだろう。
「昔から日本人離れしたスタイルだとは思ってたけど……。ほんと美人になったわよね、アスカ。ううん、美女って言うのがぴったりな位よ」
「ありがと。でも、ヒカリもね。随分落ち着いたお姉さまになっちゃって。和服とか着たら凄いんじゃない? 色っぽいわよ、きっと」
「そんな、私なんてアスカに比べたら地味だから……」
「そんなこと言っちゃって」
 照れてそっぽを向いたヒカリの頬を、アスカがつんつんと横から突いて言う。振り向いてみれば、そこにはにやあっとチェシャ猫のような表情。
「あいつはそんなこと無いって、いっぱい褒めてくれたんじゃないの〜?」
「え? えっ?」
「相田よ、あーいーだ。あいつ、今日も飛ばしてたけど、上手か下手かは別としても女をとにかく褒めまくって良い気分にさせようってとこじゃ、抜け目のないやつだったもんね」
 経験があるから分かると、そう続けるアスカにレイもこくこくと頷いていた。
「まぁ、あたしはね。やっぱこのおっぱい? それにママから貰った血っていうの? 金髪で青い目なんて、日本男児の浪漫だーとか言っちゃって。……そうそう、下の毛もやっぱり金髪なんだって、はじめてパンツ脱がされた時は鼻息荒くしてたわね」
「……私の時もそう」
 あからさまにも程があるぶっちゃけぶりだった。
 聞かされたヒカリが、思わずまた顔を赤らめる。次にふわっと目を泳がせたかと思えば更に耳たぶまで火照らせてしまったのは、彼女自身の場合を思い出してしまったからだと容易に知れた。
 そこには、相田ケンスケのヌードモデルを務めたと打ち明け合ったことで言下に結ばれた同盟への、信頼のようなものがある。
 親しい同性同士でも滅多に口に出来ない類の際どい話題だろうとも、今やこの三人でなら話は別だ。
 
(ふふふ、なんかとんでもなく興奮しちゃって、息を荒くしてたのはあいつだけじゃなかったけど)
 とまでは、流石にアスカも自分からは言いはしない。
 ただ、自分の時もそうだったと言ってくれたレイの言葉には、思わず、
(こいつも似たようなもんだったのかしら?)
 と興味は湧いた。
 お人形さんみたいに綺麗な顔をして、男がいくらちやほやしてもガラス玉じみた眼でじっと見詰め返すだけ。それで根負けさせては毎度追い返している無愛想娘でも、さすがにカメラを構えたケンスケの前でショーツを下ろす時は、躊躇ぐらいしたのだろうか。
 股をあからさまな格好に広げさせられて、最後に庇った手もどかすのだという段になった時は。
 それですぐ側に鼻穴をひくひくとさせた眼鏡の少年がにじり寄っていて、カメラよりも自前の血走った目で食い入るようにしていた時には。
 煽られでもしたのか、作り上げられた妖しい空気に巻かれでもしてしまったのか、同じく口の中をカラカラにして。普段の澄まし顔を取り繕えないくらい震える息を浅く繰り返しながら。その指で、閉じ合わさった処女の部分を―― たしか中学二年のクラスメイトだった頃には、子供みたいにつるつるの股間をしていたと覚えているけれども―― くつろげていかねばならない有様だったのだろうか。
『綾波……。さ、見せてよ』
 促すケンスケの、期待と興奮に満ちた声を思う。
 いや、もっと馴れ馴れしく、『レイ』と呼んだだろうか。まさかとは思うが、殊勝に『はい……』と従うレイの姿を想像してみると、アスカは卑しそうな笑みが浮かんでしまうのを我慢せねばならなかった。
 そうやってレイは、壱中の氷の美少女は、穢れ知らずの美しい桜色を保ったヴァギナをそっと両側から広げて、粘膜が狭間に息づかせていた小さな入り口を晒したはずだ。
 ケンスケの炊く眩しいフラッシュの前に、もはや売りのクールさも保てずにいる証拠でぬめる襞花びらを、ひくつかせていた筈である。
 なにしろアスカがそうだったのだから。レイだって一緒だったに決まっている。
 そしてそれらの瞬間瞬間は、かき消すことの出来ない確固たるメモリーとして、レイの持つアルバム、ケンスケの持つオリジナルのデータとして、数年を経た現在も残されている。
 アスカが確かめることだって、出来るだろう。
 おまけに、同じ事はヒカリにだって言えるのだ。
 
「ふふ、ふふふふぅ♪ 興味あるわぁ」
「……そう、あなたの時はどうだったの?」
「ちょっと、二人とも。こんなところで……」
「誰も聞いてやしないって。ほら、日本の街は夜も安全。人気は無いけど道は明るいし。女三人でも寄ってくるギャングとか居ないし。てゆーか、馬鹿な男がナンパしてきたら、あたしとレイでこてんぱんにしてやるんだけどね」
 安心してなさいよと、アスカがさりげなくバッグの口を開けて覗かせる。中に鈍く金属の光沢を反射させていたのは、玩具には見えない拳銃だった。
 ああ、そうだったと、ヒカリは改めて思い出していた。
 この二人はただ美人で、そして才能に溢れた女性達というだけではないのだ。今はもう出会った頃ほど堅苦しくしないで済んでいるとは聞くが、まだ場面によっては周りにぞろぞろと護衛を引き連れていてもおかしくない。権力の側に生きる、本物のエリート達でもあるのだ。
 実際、自分のような一般人、そして相田ケンスケについてだって、社会から抹殺しようと思えば簡単なことなのだろう。
 それをしないでいる。相田ケンスケに、今でも自由にさせている。
 その事実だけで、ヒカリはアスカ達がこの―― 今や三人の共有となった秘密についてどう思っていたのか、理解出来た気がしたのだった。

「で、話を戻すけど。ヒカリの時は?」
「ええっ、ちょ、いやだアスカったら。そんなこと聞くなんて、ルール違反よ」
「なによぅ、あたし達は話したんだから、次はヒカリの順番ってもんでしょ〜? どうなのよ、相田に褒めさせたのはこの胸? おっぱい?」
「……いいえ、このお尻かもしれないわ」
「き、きゃっ。アスカぁっ」
「んー、やっぱりさりげに隠れ巨乳ね。ヒカリったら、昔から着やせする女なんだから」
 女同士とはいえ、ちょっとそれセクハラきついわよと。ヒカリが涙目で慌てるのも構わず、わしわしと両手を広げて胸を鷲掴みに。清楚な見かけの割に随分と豊かな感触を確かめまくるアスカだ。
 どこからどう見ても、彼女だって立派な酔っぱらい。
「で、揉ませたのね? 思いっきりオモチャにさせちゃったんでしょ。あいつ、おっぱい好きだし。おっぱい魔神とか自分で言っちゃってたし」
「や、いやっ、アスカってば! なんかもーギリギリよ? こ、この手付きっ、冗談で澄まないって言うか」
 遂にはそこはダメッと、乳首までこりこり揉みつまみだしてヒカリに引っぺがされる。
 ついでに、『むっちり……』などとわけの分らない事を呟きながら背後でヒカリのお尻を撫ぜ回していたレイも、叱りつけられた。
「もうっ。アスカ達とお酒飲むの、今後はちょっと考え直したいわ」
「ま〜た、またぁ。怒らないでよ、ヒカリぃ」
 けれど、まるで懲りた風もないアスカだ。
 彼女は親友の肩に腕を回し、そして言った。
「だってさぁ……あたしらの仲なわけじゃない」
「……なによ?」
 にまぁっと、唇の形をチェシャ猫そのものにして。
「なんてーの? その、この国流に言うと……竿姉妹、ってぇの?」




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From: 【エロ文投下用、思いつきネタスレ(4)