「さぁ、もう一度キスをしようか」
 「は……い……」洞木ヒカリはうっとりと瞳を閉じた。
 おとがいを持ち上げられると「はあぁ」っと甘い吐息とともに紅唇がかすかに開いた。
 くちゅり、と唇をついばまれ、甘噛みされて、ゆっくりと舌が這う。
 もう我慢できなかった。
 「あはぁ……ンっ」彼女は自ら舌を伸ばして、男のそれと絡め合う。
 ぬるぬるとした感覚が、すぐそばで息を呑む親友の気配が彼女の体温を上げてゆく。
 ぎゅっと相手にしがみつき、シャツを握りしめてしまう。
 その指に婚約指輪を輝かせて。
 「さあ、今日はヒカリにいっぱいご褒美あげるから。今日はヒカリが一番頑張ったんだからね」
 「ああ、ありがとうございます……ありがとうございます」
 「思いっきり恥ずかしいポーズでセックスしてあげる……アスカに見てもらいながら」その言葉とともにブラウスのボタンが外されてゆく。
 シルクの生地が肩から滑り落ち、細いウエストのホックがぷつりと音を立ててはずされると、たっぷりした量感を持ったヒップを持ち上げた。
 「んふっ、んはぁ」と切なく鼻を鳴らしてせがむとスカートがするりと抜かれた。甲高い音とともにパンティーストッキングが破り裂かれる。
 「ヒカリ!ヒカリぃっ!しっかりして!なにを、なにやってるの!ヒカリには!ヒカリにはトウジって恋人がいるんでしょ?!トウジのこと、ヒカリは大好きなんでしょ!」しかし涙混じりの親友の声など、彼女にはもはや雑音も同然のようだった。
 促されるままソファーに横たわり、恥知らずに腰を持ち上げて右膝を背もたれにひっかけた開脚姿勢を取った。
 ブラジャーとお揃いの淡いピンクの上質なショーツ、そのクロッチに大きな染みができていた。
 ひょいと布地をずらされて、ぬるりぐるりと舐め回されるともうじき鈴原ヒカリになる女性は男の髪に指を絡めて澄んだ声で泣き叫ぶ。
 「ああ、ああ、すてき、すてきですっ!もっともっと、もっともっとぉ」
 じゅるじゅるといやらしい音とともにヒカリががくんとのけぞった。ぶるぶると震え、奥歯を噛みしめて全身を痙攣させ、丁寧に編んだ髪がほどけてゆくことも気づかずにソファーの上で悩乱した。
 さらに数分にわたって男の舌で牝襞を舐めほじられたヒカリは全身を甘い汗で濡らしてて、痙攣と弛緩を繰り返し、息も絶え絶えに「オチンチン!オチンチンほしいの、ヒカリにオチンチンくださいっ」とおねだりをするようになった。
 「分かってる、分かってるよ」男の声はあくまでも優しい。ちゃんと奥まで入れて、子宮をずんずん突いてあげるから」
 「ああ、ああ、うれしい!うれしい!」
 「もちろん、ヒカリが大好きな『生チンポ』でコスってあげる」
 「うん!うん!」
 「もちろん奥まで注いであげるから、期待してね」
 「ああ、ああ、はやくぅ、はやくぅ」
 落ち着いた親しみやすい容貌をとろんと蕩けさせ、甘い声で彼女はせがんでいた。
 婚約者でない男のペニスを、その精液を。
 唖然とした表情で、向かいのソファーから「ヒカリ……」とつぶやいているクォーター美女にどこか勝ち誇ったような表情を向けつつ、もうじき鈴原ヒカリになる女性は背徳セックスを願っていた。




Party Time






 「ああもう、明日がなんの日か分かってるの?とっても大事な日なのよ。ああもう、それなのに、それなのに……」
 少し早口で、少し演技がかった仕草で、手を振ってから空港のロビーでその若妻は上目遣いに男を見上げた。
 肩まで伸ばした、やや赤みがかった髪が流れる。
 「海外出張だなんて……そんなの聞いてない。アタシ、アタシね、ものすっごく気合い入れて準備したのよ。ほんとよ。……あ、ネクタイ曲がってる」
 ついと手を伸ばして相手……彼女よりも一回り大きな男性……のネクタイを直す。
 「ああ、ありがとう……本当にごめん」その謝辞はネクタイに関してのものではなかった。
 「いいの……いえ、ぜんぜんだめ!どうして引き受けちゃったの?あなたよりも偉い人はいっぱいいるのに」
 「断れなくって。ほんとうにごめん」男は新妻に微笑む。彼女の知人に「彼、まるでクマさんみたい」と評される夫の細い目がさらに細くなる様子に彼女は溜息をつき、少し背伸びをして彼の頬にキスをして、甘え声でくすくす笑いながらささやく。
 「早く帰ってきてね。帰ってきたら結婚記念日パーティして……赤ちゃんつくるんだから……ね?」
 空港ロビーの人混みの流れのなかで、愛情に溢れた抱擁を交わすカップル。
 誠実さを絵に描いたような男に、刹那の別れも耐えることがつらいとヨーロッパ調の美貌に涙を浮かべ、少女のように駄々をこねる若妻。
 それはまるで、映画の一シーンのよう。
 だから通りすがる誰もが少しまぶそうに、好意を織り交ぜた視線で二人を眺め、けっしてとがめようとはしない。
 十数秒に渡る固い抱擁を解き、二人はもう一度見つめ合った。
 「じゃ、いってくるよ」柔らかな口調で男は言った。
 「行ってらっしゃい。アナタ……タケシ……さん」
 「うん。できるだけ早く帰ってくるよ……アスカ」
 もう一度軽いキスを交わし、それから男はくるりと背を向けて出国ゲートへと向かう。
 一八〇センチを越える大きな背中をアスカ……「生駒」アスカ……はうっすらと涙を浮かべて見送っていた。



◆ ◆ ◆



 「アスカちゃん、これ、本当に二人だけでパーティするつもりだったの?」
 「そうよ。当然でしょ?結婚一年目の記念日を旦那さま以外のだれと祝うの?」
 溜息混じりのマヤの問いにアスカは即答し、クーラーボックスから取り出されてテーブルの上に積み上がった食材を目の当たりにしていたヒカリとマナはそろってこめかみを押さえた。
 「きっと一週間ぶっ続けでパーティするつもりだったのよ、アスカは」
 「……かもね。でもあの旦那さんならこれくらいぺろっと平らげちゃうよ、きっと」マナのささやきにヒカリは苦笑する。
 「これはもう、マヤさんに期待するしかないっしょ。二人分ってことで」
 「こら」
 くすくす笑ってヒカリはマナのお尻を軽く叩く。二人の視線の先にいるマヤはてきぱきとアスカが持ち込んだ食材を整理していた。
 ゆったりとしたニット地のワンピースの腹部にははっきりと分かる「徴」があるにもかかわらず、マヤはヒカリやマナが以前から知っているとおりに機敏にそして優雅に、キッチンで働いていた。
 「あ、あの……マヤさん、お手伝いしましょうか?」ヒカリの言葉にマヤはうなずく。
 「そうね、じゃぁ前菜を見繕ってくれるかしら。メインはアスカちゃんのたっての要望で、『ミセスアスカ自信作』のミートローフにするから」
 「それ、わたしアスカのトコに呼ばれて二度食べた。実験台として」ぱっと手を挙げるマナをアスカは睨みつけた。
 「お黙り。今度はつべこべ言わせないわ。保証する」
 「あ……ほら、アスカちゃんの入魂の作だから……だから……ヒカリちゃん、コーディネイト、お願いね」
 「はぁい」ヒカリはテーブルを見回した。「じゃあカルパッチョかしら……あの、お皿、お借りしますね?マヤさん」
 返事を待たずにヒカリは食器棚を開けて適当な大皿を取り出すと、慣れた手つきで盛りつけをはじめる。
 ここはマヤの……「碇」マヤの……キッチン。
 あの「使徒大戦」ののち、葛城ミサト准将から「少年英雄」碇シンジの保護者の役を引き継いだのは伊吹マヤだった。
 その被保護者が二十歳の日を迎えると同時にマヤを「婚約者」として発表したときには、彼を追い回していたマスコミ関係者はそろって驚愕する羽目になった。好奇心旺盛な彼らからも、伊吹マヤは「少年をひっそりと見守る生真面目な姉のような存在」と見なされていたからだった。
 だからそのねじれた認識は惣流・アスカ・ラングレーへのインタビューの殺到というかたちで現れた。

 「なぜ別れちゃったんですか?」
 「碇シンジの恋人はあなたではなかったのですか?」
 「ともにあの戦いをくぐり抜けた戦友同士が。愛を育まないはずがない!」
 「お二人の間で何かあったのですか?あのもう一人のチルドレン、あの、レイという少女となにか関係が……」

 惣流・アスカ・ラングレーの答えは常に苦笑混じりで同じ内容だった。
 「アタシは碇シンジの恋人であったことなんて、いちどもないの。アタシは彼を嫌ってない、むしろ敬意を抱いてる。だけどそれは、異性として、恋愛対象として『好き』という感情ではないの。たぶんそれは向こうも同じ」
 なおも説明を求めるものたちにはこう答えた。
 「アタシたちの関係って……よく言って家族みたいなものよ。悪く言えば……うーん。あのね、恋愛感情を抱くには、お互いの辛いところを知り過ぎているんだと思う。相手について幻想を抱く余地もないくらいにね」
 多くのものはその言葉に納得した。それでも納得しなかったものはさらなる取材を続けることになったが……「チルドレン」の生存者二人のあいだに恋愛関係が存在したという事実を見つけることはできなかった。
 ……惣流・アスカ・ラングレーの言葉はある意味真実なのだろう。
 ジャーナリストたちはある理解に達した。
 ……あるいは、惣流・アスカ・ラングレーは普通人としての生き方を選んだのだと。
 ……あの「最終決戦」を事実上ひとりで決着させた碇シンジとはちがう生き方を選んだのだと。

 実際、その通りだった。
 「大戦」ののちにチルドレンの任を解かれたアスカは第三新東京市に住みながらもNervとは距離を置き続けていた。
 そしてNervもことさらに彼女との関わりを持とうとはしなかった。
 アスカが不自由なく生活できるだけの基金をただ与えたのみで、派手な記者会見も、最近とみに政治的な重みを増すようになったイベントにもアスカを呼ぼうとはしなかった。
 代わりに常にそこにいるのは碇シンジだった。
 使徒と化した人造人間エヴァンゲリオン量産機たちとの戦いに勝利したチルドレンのひとり、乗機である初号機を大破させつつもまだ諦めず、同じく大破していた零号機に乗り移ってついには敵を殲滅させた彼はいまや全世界的な有名人、いや英雄をNervは常にそこにおいた。
 しかし同時に、彼は悲劇の主人公とも見なされていた。
 なぜなら碇シンジは「使徒大戦」の終結とともに淡い恋をも喪ったのだから。

 それも、永遠に。



◆ ◆ ◆



 Nerv自身の手によって作られた使徒……量産型エヴァンゲリオン……との戦闘の最終局面においてエヴァンゲリオン初号機が大破したとき、まだ稼働していたのは零号機のみだった。
 右手をもがれ、装甲のあらかたを失い、パイロットも重傷を負った状態は「戦闘可能」からはほど遠いものであったが。
 しかしそれでもミサトは命じた。
 戦えと。レイとともに零号機を動かせと。
 それ以外に道はないと。
 だから碇シンジは零号機に乗り込む。自らも血を流しつつ。
 エントリープラグ内で綾波レイが大出血し、刻一刻と体力を失いつつあることを知りつつも。
 そして、奇跡は起きた。

 あり得ないほど上昇するシンクロ率。
 瞬時に復元する右腕。
 腕のひとなぎで展開され、にじり寄る白い悪魔たちを軽々とはじき飛ばしたATフィールド。
 やすやすとこじ開けられ、切り裂かれる量産機たちの展開する絶対領域。

 形勢は一転した。
 初号機ですら互角に持ち込めなかった戦力比をものともせず、お互いの血が混じったLCL溶液で満ちたエントリープラグ内で手をつなぎあった少年少女は「敵」をなぎ倒してゆく。

 戦闘記録によると、碇シンジは少女の名をなんども呼び、少女の身体を気遣っていた。
 さらに碇シンジが「これが終わってから、あの、もしいやだったらいいんだけれど……」と息を荒げつつ恥ずかしげに少女をデートとも言えないようなデートに誘っていた。
 だがそのとき、発令所は事態に気付いていたのだった。
 零号機に奇跡を起こしているのは綾波レイと碇シンジの二人ではないことに。
 それは碇シンジただひとりによる奇跡であることに。
 綾波レイの心拍は零号機再起動後、四七秒で停止していたのだった。
 そして、その戦闘記録は零号機が量産型エヴァンゲリオンの最後の一体に止めを刺した直後で途切れたという。
 少年がもはや綾波レイがもうこの世界に存在していないことに気付き、絶叫するところで終わっていたという。
 発令所のだれかが耐えきれなくなって回線を切ったと言われている。

 その「事実」はけっして公表される種類のものではなかったが、人々はそれを知り、そして信じた。
 それはいわゆる世論操作にほかならないと指摘するものも数あれど、碇シンジの影を帯びた表情がNervの文脈とともに必ず出てくるような状況では、Nervのいささか怪しげな所業をまともに批判するのは難しかった。
 よって、その後数年にわたって続いた国際政治の暗部における粛正と闘争の場においてNervは有利な立場を保つことができたのだった。

 その様子を惣流・アスカ・ラングレーは彼方から眺めていた。
 碇シンジが最終決戦において語った言葉について、彼女が誰かに訊ねられることはほとんど無かった。
 なぜなら弐号機は初号機投入までの貴重な時間を確保したのと引き替えに白い悪魔たちに蹂躙され、パイロットは意識を失っていた。というのが公式な報告とされていたからだった。
 そのときの彼女の精神が、幼児の域まで退行していたことはけっして語られなかった。
 もちろんアスカはもその事実を喋ろうとはしなかった。
 「普段の『碇シンジさん』と『綾波レイさん』の関係」について訊ねられたときも、彼女はよく分からないと答えた。たぶんきっと、彼がその気持ちに気付いたのがあのときだったのじゃないかしらとだけ答えただけだった。

 もちろんアスカは知っていた。
 碇シンジがしばしばレイを見つめていたことも。
 少女がその視線にときに気付き、かすかに微笑みを返していたことも。

 少年が夜、毛布を被って秘かに自分を慰めているときに、綾波レイの名を呼んでいたことも。



◆ ◆ ◆



 「これは壮観ね」マヤが嬉しそうにつぶやく。
 二人ではめったに使うことがない……「普段はカウンターで済ませてしまうから」とマヤが少し恥ずかしそうに言った……大きなテーブルはさまざまな料理で溢れんばかりとなっていた。
 「うわぁ、なんだか本当に美味しそうに見える……ッ」不用心にも口走ったマナの頭をアスカがごつんとやる。それを見ていたヒカリがくすくす笑った。
 「ありがとう。アスカちゃん。ここを使ってくれて」
 「え、えと。そんな、お礼を言わなくっちゃいけないのはアタシの方だし。ごめんね。こんなに素敵な場所貸してもらって。マヤ」
 「これからも、ときどき来てくれると嬉しいな。アスカちゃん。あの……シンジさ……あ、うちの主人、けっこう帰りが遅いから気にしなくっていいし」
 「う、うん。機会があればぜひ」アスカはうなずく。
 金融関係の仕事に関わっている夫(ゼミの合コンで知り合ったNervとも、チルドレン時代の彼女ともまったく関係のないごく普通の男性だった。だからこそアスカは惹かれたのかもしれない)が業務上の急用でヨーロッパへ出張してしまったために、準備に準備を重ねた結婚記念日を吹き飛ばされたアスカは、家に帰るやいなや親友のヒカリに涙ながらに電話し、自分たちの不幸を延々訴えはじめる。
 もうじき鈴原姓に変わる予定のヒカリはアスカの愚痴……そのなかには「せっかく結婚記念日のパーティーの「あと」に備えて、ピルの服用も二週間前からやめたのにぃ。信じられる?もう、アタシ、準備万端だったんだよ」という頭痛すら引き起こしそうなものさえあった……が一段落するまで話を聞いたのち、こう切り出した。
 「アスカの準備したそのお料理、みんなで食べてしまわない?マナやマユミも呼んで。場所はね、あの……マヤさんのおうちで」
 こうしてアスカは「英雄」の自宅を初めて訪問することになった。
 意外なことに彼女の友人達……ヒカリやマナ、マユミ……は頻繁にマヤを訪ねているらしかった。
 だからヒカリはごく自然な態度でアスカを案内する。
 アスカはそういうわけにはいかなかった。
 その高級マンションに碇家だけで一〇台分の駐車スペースを持っていることにひるみ、エレベーターで上がった三十二階のホールが事実上の「碇家の玄関」であることを知って「なにコレ、ひょっとしてこのフロアは丸ごと……なの?」と訊ねてしまう(そのフロアがメゾネットであることを教えられてさらに絶句することになった)。
 だから数ヶ月ぶりにマヤと再会したとき、彼女が変わっていないことにほっとしてしまったのだ。
 ほっそりした身体を緩やかなワンピースで包んだ碇マヤの笑顔は、彼女が結婚式を挙げる数日前にマナが招集した「気心の知れた女友達の集まり」のころとまったく変わっていなかった。

 「さあ、準備万端ね」アスカは笑った。碇シンジとの愛の結晶を慎重に育んでいて外出も最小限に控えているらしいマヤが喜んでくれるなら、機会を見つけて訪ねようと思い始めていた。「あとは、マユミが来れば……」
 そのときインターホンが鳴り、山岸マユミの微笑みがモニターに映る。
 「はいはーい。もう始まっちゃうよ。早く来て!」勝手に受話器を取り上げたマナが明るく叫んだ。



◆ ◆ ◆



 「アスカさぁ、次はレシピの読み替えかたを身につけようね。この料理、全部六人分くらいの量で作ってあるよぉ」
 「生駒アスカ結婚記念パーティ(参加者限定)」のメインディッシュを終え、みなが紅茶やコーヒーをたしなんでいる場でマナがくすくす笑いながら言った。「信じられない。五人プラスアルファがかりでも片付けるのにこんなに苦労するなんて」
 「苦労したようには見えなかったけど」アスカが言い返す。「だいたいアンタ、あんなにバクバク食って、大丈夫なの?ウエストにお肉ついても知らないよ。それともオトコいないからそっちで発散してるとか……」
 「大丈夫でーす。もんだいありませーん。あたしって消費カロリー高めだし、それに、それに……」ぱたぱたっとダイニングからマナは走り去るとポーチをもって再び現れた。
 「じゃーん!これがあたしの『ダーリン』でぇぇーす!」彼女の手には写真が握られていた。
 そこに映っているのは霧島マナとアスカの知らない若者だった。
 「村木ダイスケくんでーす。都庁職員。けっこうエリートなんだよ。優しいし、面倒見がいいし」
 マナもまた、アスカと同じような理由で戦友達と恋人となることを避けていた。いや、どちらかというと彼女の保護者を任じていたムサシとケイタがそのような関係を避けていたのかもしれない。
 三人はアスカからみても羨ましいほどの、兄弟のような絆を保ち続けていた。その代わりというべきなのか、ムサシとケイタの恋人はヒカリからみても「マナとまったく共通点を持たない」女性だった。
 「オトコできたからってバクバク食べていいってもんじゃないわよ。愛想尽かされたって知らないからね」アスカの言葉にマナはへらへらと、とてもとても幸福そうに笑うだけだった。
 「マユミ、アンタはどうなのよ。おつきあいしている人、いるの?」
 「あ、私は、まずは教員免許を取るのを最優先にしてますから」にっこり笑って、澄ました顔でマユミは紅茶を啜った。
 「恋人は小学生っすか。マユミ」
 「はい。私、頑張ってクラスのみんなから憧れる先生になりますから」マナのきわどいジョークを軽くやり過ごしマユミは微笑んだ。
 「ね、来て良かったでしょ?」ヒカリがそっとささやかれたアスカはうなずく。
 「ありがと。ヒカリ。アタシ、独りで家に閉じこもってたらどうなってたか分からなかったわ」
 「よかった。これからもこんな集まり、やりましょうね」
 「うん。ほんと、ありがと」
 「ねぇ、みんな、提案があるの」にこにこ笑って年下の友人達が歓談するさまを眺めていたマヤは言った。「わたしはダメだけど、リビングでワインはどうかしら?」
 少し顔を見合わせたあと。にっこりとマヤの友人たちはうなずいた。



◆ ◆ ◆



 「ね、シンジってどんな旦那様なの?」
 わずかに膨らんだマヤのおなかをそっと撫でさせてもらったアスカはどこか不思議そうに訊ねる。
 マヤ手作りのおつまみを肴に高級ワインのボトルを二本ほど空にして、すっかりくつろがなければアスカにはできない質問だった。
 「とっても素敵な旦那様よ。もう、なにもかも任しておける」ミネラルウオーターのグラスを両手で包み込み、くすくす笑うマヤ。
 「えー、えー、なんだか想像できないんですけどぉ」
 「本当よ」
 「うーん、想像できないなぁ。マヤさんをリードするんだ」
 「そうよ。ちょっと強引なくらいなのが素敵なの」
 「うわ、ラブラブなんだ、マヤったら。するとなに、アイツったらマヤのことを『マヤ』って呼び捨ててるとか?」
 「アスカだって昔っからそうでしょ」ヒカリがぼやくがマヤは「そうよ、名前で呼んでもらうとすごく嬉しいの」と笑っていた。
 「うわぁ、想像できないなぁ。じゃ、エッチのときもそうなんだぁ」
 「……アスカさん、ちょっと」マユミがそっと声をかけるがあっさり黙殺された。むしろテンションが上がってしまう。
 「『マヤ、どうだい?』とかささやかれるんだー。きゃー、なんだか想像できないー」
 「あ、アスカちゃん、ちょっとそれは……」
 「きゃー、なんだかすごいー。その結果、あのシンジが、あのシンジが……パパになっちゃったってワケで……」アスカが怪訝な表情になった。マヤを含む全員がどこかばつの悪い表情になっていたからだった。
 「……あれ?みんなどうしたの?ね、ノリ悪いよ。マヤも、ほら……」
 「あ、あ、あすか……」マナがこわばった表情で彼女の袖を引き、目配せをする。
 「どうしたって言うのよ……え、ええええええっ!」
 「こんばんは。アスカ」
 振り返ったアスカの視野にいるのは、「今日は遅い」はずのマヤの夫だった。
 「こ、こ、こここここ……」
 「そりゃね、コウノトリが運んでくるわけじゃないから。赤ちゃんは。ちゃんとやるコトしないと」
 「そ、い、い、いつ、いつ、いついついつ……」
 「いま四ヶ月だから、それくらい前になるかなぁ。そういうことは」
 「そ、そうじゃなくって、そうじゃなくって……い、いつ、いつかえってきて」
 「『ラブラブ』くらいから」
 「うわぁぁぁぁ!」アスカは立ち上がった。その美貌が真っ赤になっているのはけっしてアルコールのためだけではなかった。「こ、この根性悪!そういうときは声かけなさいよ!いるって知ってたらあんな恥ずかしいこと聞くわけないでしょ!ったく、もう、その……」
 「マヤのために……来てくれてありがとう。家にこもっているとどうしても煮詰まってしまうから」
 「……あ、うん。どう……いたしまして」
 一八〇センチ近い長身となった碇シンジに会釈されたアスカは毒気を抜かれた表情でぎくしゃくとうなずいた。
 「せっかくだから、ゆっくりしていってよ。なんだったら泊まってくれてもいい。客間はいくつもあるから」
 「あ……う、うん。ま、そ、その。考えとくわ」
 「シンジさん、シャワー浴びます?」マヤがそっと立ち上がり、シンジの背中に手を置いた。
 「だめよーマヤ、シンちゃんどこかに閉じこめたらぁ」マナが笑った。「一風呂浴びたら戻ってきてもらうのよー」
 「はいはい」マヤは苦笑しながらシンジの背中を押して応接間から立ち去った。
 「マヤ、幸せそうだね」アスカが頬を染めたままぽつりと言った。「アタシ、なんだかほっとしちゃった」そのままぽんとソファーに腰を落とす。「というわけで、どんどん呑むぞー」
 「らじゃー」マナが応え、笑顔でワインの封を切った。



◆ ◆ ◆



 「先輩!せんぱい!どうして、どうしてこんなことするんですか!おねがいですから、こんなのひどいです!」
 伊吹マヤは声を荒げた。しかし、その声はすぐに涙混じりの嗚咽に代わり、弱々しいものになってゆく。
 「こんな、こんなことしなくても、縛らなくっても……わたし、わたしは先輩になら……」
 後ろ手に手錠をかけられたまま濡れた瞳で相手を見つめる。だが、そこにあるのは冷ややかな笑みだった。
 「残念だけど、貴女を欲しがっているのは私じゃないのよ」赤木リツコは優しく笑う。しかしそれは治療不能な患者に医者が向けるタイプの笑みだった。そのまま手を伸ばしてマヤの肩を抱き、彼女の耳たぶに軽くキスをする。
 「貴女みたいな、『可愛くって、優しくて、けっこうグラマーで、でも清潔な女性』はとても稀少なの」
 「い、いや……せんぱ……い。あたし……おとこのひとは……おとこのひとは……」
 「貴女の意見は却下よ」リツコは微笑したまま携帯電話を取り出し、短縮番号を押した。「ええ、準備できたわ。いらっしゃい」
 そして数分後、アパートのドアロックを解除して現れた人物にマヤは悲鳴を漏らした。
 「し、シンジ……くん」
 突き詰めたような、怯えるような、しかし隠しようもない情動を秘めたまなざしで、エヴァンゲリオン初号機パイロットは息を荒くして彼女を見つめていた。
 「シンジくん……そんなこと、そんなことしないよね?女の人を力ずくで乱暴するなんて、いけない、いけないことなんだよ……」
 だが、一四歳の少年はタンクトップにショートパンツ姿の、淡い女の色香を無防備に発散させている伊吹マヤの全身を舐めるように視線を這わせ、彼女の言葉など耳に入らないようだった。
 「力ずくじゃないわ。貴女も怖がる必要なんて無いのよ」耳元で囁くリツコが、サイドテーブルに置かれたバックから取り出したのは簡易型の酸素吸入器を思わせるマスク付きのエアゾール容器だった。それを手にしたリツコに抱きかかえられたマヤは、口と鼻をマスクでかぽりと被われる。
 「マヤ、これはあなたにしかできないとっても大事な『お仕事』なのよ」優しく甘く、蕩けるような声でリツコはマヤにささやいた。「過度のストレスにさらされているエヴァンゲリオンの初号機パイロットに存分にその実力を発揮してもらうために、伊吹マヤはその清らかな肉体を差し出すの」
 「そんなの、そんなの嫌です、そんなの……」マスクに被われ、声をくぐもらせながらマヤは反論した。
 「だって、アスカはお子様すぎてシンジくんにとってはかえってストレスになってしまうし、レイは先約済み。私は彼のお気に召さなかったみたいね」
 少年の性的玩具の選定理由が楽しげに耳元で語られていくうちに、マヤの抵抗はしだいに弱くなっていく。
 「ミサトは最後まで有望だったけど……彼女の場合、情に溺れてしまいそうだからパス。指揮官がオチンチンほしさに判断が鈍ってもらっては困るもの。それで……貴女たちMAGIのオペレーターが最終候補に残ったわけ」
 背筋も凍るような言葉をマヤの尊敬する女性は楽しげに告げた。
 「あなたたちの『カタログ』をじっくり比べて決めてもらったのよ。普段の姿、着替えやシャワーを浴びてる姿、オナニーしているときや、セックスに夢中になっているときの映像もあったわ」
 今度は頬にキスされて、ぎゅっと抱きしめられた。しかしもう、マヤはその行為に高ぶりを感じることはできるはずもない。
 「そうして、マヤ、貴女は選ばれたのよ」
 「いや、いやぁ……」
 「サツキにするか、あなたにするかずいぶん迷ったみたいだけれど……やっぱりね、バージンなのが一番ポイント高かったみたい」
 「ひどい……よ」
 『とんでもないわ。とてもすばらしい義務よ。伊吹マヤさん、貴女はNervの切り札の碇シンジ君にその新品の身体でお仕えするの。二四年間保ち続けた操を捧げて、Nervに貢献するの。ね?とても素敵じゃないかしら」
 「ああ……」マヤはもうふるえが止まらない。涙を浮かべて、まるで少女のように碇シンジを見つめることしかできない。
 それこそが、その表情こそが、彼に彼女を選ばせた理由のひとつであることなど気づきもしないで。
 かちり、とエアゾル容器のボタンが押された。かすかな異臭がマスクの中に充満していく。マヤはぎゅっと唇を噛みしめて息を止める。もちろんそれすらも赤木リツコにとっては楽しみのひとつに過ぎない。
 「無理しないで。ただの麻酔ガスよ。麻薬と違って依存性もないし、後遺症も残らない。心と体をリラックスさせるだけ」
 「……」
 「マヤ、意地を張っちゃだめよ。抵抗できなくされて強引にされてしまうよりも、好奇心いっぱいの男子中学生の玩具になっている間は夢を見ていたほうが幸せじゃないかしら?」
 あまりに恐ろしく、おぞましいビジョンにマヤはなんとかマスクから逃れようとする。しかしそれも、肺の中の貴重な酸素を浪費するだけだ。
 「……く、く、ふ、あ……はぁッ!」
 ついに我慢できなくなって、マヤはそのガスをひとくち吸ってしまう。たちまち意識がおぼろになり、我慢していたはずの呼吸がゆるゆると再開してしまうが、それをもはや危険と感じることもできない。
 「さぁ……さぁ……目を閉じてもいいのよ。力を抜いてもいいの。さぁ……ゆっくりお休みなさい。マヤ。眠っているあいだに貴女は花開くの。ふふっ、目覚めたときを楽しみになさい」
 「ひど……ぉ……い……せ……ん……ぱ……い。わた……し……し……ん……じて……た……の……に……」
 くたりとリツコの後輩の全身が弛緩した。どこかうっとりした表情のまま、華奢な肢体をソファーに投げ出していた。
 「さぁ、シンジくん」ルージュの塗られた美唇が笑みのかたちになった。「伊吹マヤはあなたのものよ。五時間は眠っているから、彼女の躰を好きなように……そうよ、すみずみまで……調べて、やりたいように……欲望を満たしていいのよ」
 無言のまま碇シンジはマヤの足下にひざまずくと、震える指でむっちりとした太股を撫で、頬ずりする。
 それはまるで、女神に対する信徒のような態度だった。
 だが赤木リツコは分かっている。
 彼の指がマヤのショートパンツのボタンにかかり、それを引き下ろすまでには一〇分もかからないことを。
 剥き出しになったショーツには、女の匂いでむせかえるほどの蜜がべったりと付いており、それはすなわちマヤが「犯される予感」に震えただけで肉体はその準備を整えてしまっていることを碇シンジが即座に理解することを。
 女神をあがめる立場から一転、それを征服することを望んでしまうことを。

 やがて目覚め、碇シンジが自分を蹂躙した痕跡をいたるところに発見したマヤが、泣きながらもその立場を受け入れてしまうことを。
 一四歳の少年の性の捌け口として、あらゆる場所で、あらゆる状況で彼の「お願い」を拒めない自分を発見することを。
 十も年下の男の子による淫らな要求に逆らえないどころか、それが快楽と感じられるよう自分の躰が「開発」されていくことを。
 あまりに惨めな自分の魂を救済するために「これは碇シンジのためにしていることなのだ。これはNervのためにしていることなのだ」と繰り返しているうちに、伊吹マヤが碇シンジの欲望処理人形であることを「すばらしい義務」と本当に信じてしまうことを。

 二週間も経たないうちに、伊吹マヤは絶対にして絶大な「愛情」を碇シンジに抱くようになることを。



◆ ◆ ◆



 そういえば、碇シンジと同席してアルコールをたしなんだことなどいままでなかった。
 「碇」マヤの隣に腰掛け、アルコールで火照った身体を軽く彼女に預けている「生駒」アスカは思った。
 「妻のプライベートな集まりだから」と理由付けして遠慮していた碇シンジは、結局のところアスカとマヤを除く女性陣にリクエストに応えて同席することになった。
 アスカもそれに反対することはなかった。そればかりかマヤに「いいの?」と少し心配そうに訊ねられると「ナニ言ってんのよ。マヤまでアタシとシンジが付き合ってたとか思ってるんじゃないでしょうね?」と苦笑したくらいだった。
 ……たった六年強で、男のヒトってこんなに変わるんだ。
 落ち着いた態度で微笑みを常に保ったまま、ヒカリやマナ、マユミと語る碇シンジ。ときおりちらりとこちらを見ては、如才ない言葉をかけてくる碇シンジを観察していたアスカはそう思うと同時にそれを打ち消した。
 ……違うわ。彼を変えたのは環境。そして……権威と地位。
 三年前、碇ゲンドウ氏がクロイツフェルト・ヤコブ病に似た症状でリタイアを余儀なくされて以来、Nervの表看板となった碇シンジは「悲劇のヒーロー」であると同時に「世界を救った組織の代弁者、あるいは預言者」として振る舞うようになった。
 一部のマスコミによると、彼はもはやただの広報部員のひとりではなく、かの組織の運営に直接関わる権力者のひとり、いや支配者のひとりに加わったのだという。
 だが、それはNervと縁を切ったアスカにとってはどうでもいいことだった。
 彼がマヤに対して優しく、頼りがいのある夫となってくれればそれでいいことだった。
 マヤとシンジの「なれそめ」を鋭い勘で当時から気付いていたアスカはある意味達観していた。
 ……最初は不幸で、ただ利用する/されるだけの関係でも、そこから生まれる愛情もあるし、それを育てていくこともできるのだと。
 いや、それは達観などではないことにアスカは気付いていない。
 それは一種の理想主義であり、彼女が「そうあってほしい」と願うもののひとつであることに。
 しかし、アルコールで軽い酩酊状態であったアスカはそのような深い考察よりも、もっと現実的な事実に気付いた。
 「ねぇ」アスカは女友達に声をかけた。「ひょっとして、ヒカリもマナもマユミも……なんだかお洒落なのは、シンジが帰ってくること知ってたから?」
 「あのね、アスカさん」マユミがにっこりと微笑んだ。「それは『たしなみ』というものです。奥様のお友達が潤いのないセンスの持ち主だと旦那様が知ってしまうと、奥様が可哀想でしょ?」
 「あー、でもでも、奥様以上に派手な格好もだめ。えっちなのは論外」とマナがくすくす笑った。
 「う、うるおい……ねぇ」アスカは友人たちに視線を走らせる。
 シルクっぽいブラウスにちょっとお嬢様っぽい黒スカートのヒカリ。
 妙にボディラインを強調する薄手のセーターにミニスカートとタイツ姿のマナ。
 「ソレってその『ゴスロリ』ってヤツ?と小声で訊ねてしまったほどの、フリルの多いワンピースと純白のブラウス姿のマユミ。
 どれも「女友達のところに集まって、料理を作ったあとにアルコールをたしなむだけ」のための服装ではなかった。
 ……ったく、このコたち、けっこう意識してるんだ。それに引き替え……。
 膝丈のジーンズにざっくりしたシャツを羽織り、ウエストでくくっている自分の姿は、確かに油断しすぎだったかもしれないとアスカは苦笑した。
 ……既婚者のお宅を訪問するときは気をつけなくちゃいけないんだ。
 「次から気をつけるわよ」アスカは笑う。皆も笑った。とても幸福な気分だった。
 「そうだ。マヤ、ワインがもう……」シンジが空になっているワインの瓶を視線で示した。
 「あら、じゃ、代わりを取って来るわ。アスカちゃん、手伝ってくれる?」
 「らじゃー」マナの口まねをして立ち上がる。少し大げさによろめいて、シンジが心配そうになるのを視野の端に捉えて満足する。
 ……ああ、変わってないんだ。そういうところは。
 幸福な気分のままでアスカはマヤに続いた。



◆ ◆ ◆



 マンション内部にワインセラーがあるというのも凄いけど、その広さが我が家のリビングと同じくらいなのはいかがなものだろう。
 三本のワインを詰めたバスケットをマヤの代わりに持ったアスカは思う。
 キッチンからずいぶん……たっぷり一分は歩いた……フロアの端に位置したセラーは常時空調されたうえにその広さも、品揃えも相当なものだった。
 「シンジさんもわたしもあまり詳しくないの。懇意にしている業者の方にお願いして、ときどき補充してもらっているのよ」とさらりと言われたその空間に保管されているワインはアスカの知る限りでは相当な高級品どころか、平均的なサラリーマンの月収では一本買うのがやっとという代物さえあったのだ。
 あらためて碇シンジの財力をアスカは認識させられる。
 ……うちだって、金融関係だからお給料はよそよりはいいハズなんだけど、それにアタシの基金もあるけど……この差はすごいなぁ。
 いささか呆れつつリビングに戻ってきたアスカの足がそのドアの付近で止まる。
 ひどく艶めかしい声が室内から聞こえてきたからだった。
 「いま、いくらになった?」
 シンジの問いに答えているのはマユミだった。
 「に、二万円です。胸が五千円ずつ、太股も五千円ずつですから……」
 「は、は、あ、あ、だめ、だめ、もどって、アスカ、アスカが戻ってきちゃう……」
 細く弱々しい声にアスカの動悸が高まった。
 「キスはいくらだったっけ?」
 「いちまんえん……です」今度はマナが答えた。「けっこう値が張るんだ。ヒカリの唇のお値段って」
 「じゃ、それも」
 「あ、ああ……ん、んん……ふ……ふぁ」
 「!!」
 アスカはそっと室内をのぞき込む。体温が急激に上がったのを自覚する。
 そこでは洞木ヒカリが碇シンジとキスをしていた。
 乱暴に髪の毛を掴まれて唇を貪られていた。
 それだけではない。彼女はピンクのショーツがのぞいてしまうほど大きく膝を緩め、ストッキングに包まれた光沢のある内腿をさわさわと男の手で撫でられていた。
 男の肩を弱々しく押し戻そうとしたヒカリの指には婚約指輪が哀しく輝いていたが、やがて舌を絡める粘っこい音が大きくなるとその手はぱたりとソファーのうえに落ちてしまう。
 「!!」大声を上げようとしたアスカの口が後ろからふさがれた。
 「だめよ。ヒカリちゃんが恥ずかしがっちゃう」
 マヤは平然とささやいた。
 「知ってる?ヒカリちゃんの未来の旦那様のお家、いろいろあって二年ほどまえに破産したの」
 確か父親が退職後に始めた事業に失敗したとかなんとか、その話はうっすらと聞いていた。だがいい弁護士に助けてもらって、それについては目処が立ったはずだった。
 「だからね、その借金の肩代わりをするしてあげたの。彼が。で、その代わりに……」その声の響きにアスカは覚えがあった。それは拳銃自殺を図ったNervの技術主任と同じだった。「彼女を買い取ったの。洞木ヒカリちゃん自身をね」
 手短にマヤは説明する。しかしそれは簡潔ゆえに残酷だった。

 借金の担保として洞木ヒカリは碇シンジに「買い取られ」、その身体を所有されたのだと。
 もちろん監禁したわけでも、暴力を振るったこともなかった。
 このリビングのテーブルのうえに「書類」を置かれ、マヤとシンジが淡々と事実を告げただけで、その可愛らしい女子大生は涙ながらに身につけたものをすべて脱ぎ、絨毯に膝をついたのち三つ指をついて震える言葉で感謝の言葉を述べた。
 真っ白なきめ細かな肌を碇シンジが讃えつつ、背後に回り込んでもそのままの姿勢を保ち続けた。
 無防備なむっちりしたお尻を撫で回され、しだいに熱を帯びた淫花のあわいにつぶりと碇シンジの指が侵入したときも、泣きじゃくりはしたものの姿勢を崩さなかった。
 掻き回され、指ピストンされていくうちに甘く華やかに、そして支離滅裂になっていく洞木ヒカリの「感謝の言葉」をマヤはとても楽しんだと言った。
 ぬるぬるになった秘裂のなかで鈎型に曲げた指のおかげで、高々とヒップを持ち上げた彼女が後ろからシンジに貫かれたときも、彼女は「やめて」とは言わなかった。ただ恋人の名前を叫び、「ごめんなさい、ごめんなさい」とつぶやいているだけだった。
 そうしてヒカリは奉仕の心と、濃厚なサービスを覚えてゆく。
 自身の身体の部分部分に、さらには奉仕の行為に「値段」を付けてあげると。自ら望んで破廉恥で淫らなサービスを行うようになったのだと。
 恋人との交わりよりも、「シンジさん」との交わりの回数が多くなってしまったことに涙した生真面目な少女はもういなかった。
 負債を返すために淫らな行為を求めていたはずなのに、「お金、お金なんてどうでもいいの、はやく、はやくシテください!おねがい、おねがいだからじらさないでください」と涙をこぼすほど開発された淫乱メイドが誕生するまで、半年もかからなかったのだから。
 それどころか負債を「完済」して、鈴原トウジとの誓いの日を指折り数える毎日がやってきても、彼女はすがるような瞳で訪ねてくるのだと。

 自分に価値があることを確かめるために。
 彼女を頼り、感謝の念を隠そうともしない婚約者がけっして与えてくれない「支配される喜び」のために。
 身体が覚えてしまった哀しい快楽をむさぼるために。

 「今日のヒカリちゃんはいつにもまして積極的ね」マヤはうっとりと言った。「きっと『スイッチ』が入っちゃったんだわ」
 アスカの視野に映るヒカリは碇シンジとのキスに溺れ、太股をさわさわ撫で回されていくうちに、自らの右手をショーツのウエストをくぐらせてくちゅくちゅと巧みにその指を動かし始めていた。
 そしてアスカは気付く。
 マナもマユミも、ヒカリと同じような濁った輝きをその瞳に浮かべていることに。
 つまり、彼女たちもまた、シンジとマヤの卑劣な支配下にあるのだ!
 「しってる?ヒカリちゃんはやっと『課題』をこなせたのよ」マヤが背後からアスカをぎゅっと抱きしめた。「『あのアスカちゃんをここに連れてくるように』ってずっと言われてたのよ。そう、やっと彼女、言いつけを守れたの」
 「!!!」アスカは全身をこわばらせた。マヤとシンジがなにを考えているか、初めて理解できたのだった。
 だが、なにもかも手遅れであることを彼女は知ることになる。
 抵抗し、身を振りほどこうとする前に、ぐにゃりと膝の力が緩んでしまう。
 「あ……く……からだ……うごけ……な……い」
 「飲み過ぎちゃったのね。アスカちゃん」マヤの声はあくまでも優しかった。「大丈夫よ。ちゃあんと介抱してあげる。それにね……」
 くったりと廊下に横たわったアスカの髪をそっと撫でて彼女は続けた。
 「アスカちゃんの旦那さま……二週間後に出張から帰ってきたらきっと驚くでしょうね。とっても綺麗で可愛い奥様が、もっともっと綺麗になっているんだから」
 「クスリ……どう……して……どう……し……て」
 「貴女が欲しいからよ。シンジさまが、わたしが」
 「まけない……から……アタシ……そんな……オンナになんて……ならない……もん」
 「楽しみにしていて。きっと貴女も驚くわ」
 アスカの全身から力が抜け、なんとかポケットから取りだした携帯電話が転がった。
 にっこり笑ってマヤは携帯のスイッチを切る。

 リビングルームからは洞木ヒカリの哀しくも淫らな声が漏れてきていた。



◆ ◆ ◆



 ……ねぇ、ファースト、アンタ「エッチなこと」したことがある?
 ……分からない。
 ……「分からない」っかぁ。そうよね。アンタはとっても無垢で初心で、オコサマだから、なにがエッチなことかも分からないんだ。
 ……分からないといけないの?セカンドチルドレン?
 ……とーぜんでしょ。それを知らないと、愛も、恋もできないのよ!
 ……なぜ?
 ……えーい。愛も恋もしていない人間が、エッチなことなんかしちゃだめだからよ!
 ……言っている意味、分からない……。
 ……「愛や恋をする前にすべきでないこと」について知っておかないと、女の子としてはだめじゃないの!
 ……「タブーを知らなければタブーを犯してしまうかもしれない」と?
 ……そ、そうよ。分かってるじゃない。
 ……では「エッチなこと」ってなに?
 ……そ、それは、それは……「赤ちゃんを作ることにつながること」なの。
 ……あなた、顔が赤いわ。
 ……う、うるさい。もういい、この話は終わり、おしまい、終了!いい?
 ……了解。

 ……「ときどきこれは夢じゃないかと思うときがあるんだ」彼は笑った。「君のようなすばらしい女性が僕の隣にいてくれるなんて」
 「はいはい。お褒めいただき光栄でございますわ。アナタ。夕方の電車で隣に座ったオジサンもそう思ってのかなぁ」大きな背中にしがみつき、惣流・アスカ・ラングレーはくすくす笑った。「アタシだって不思議に思うのよ。タケシさんと巡り会えなかったら、アタシ、ずーっと孤独だったのかなって」
 無精髭の目立つ頬にキスを繰り返し、アスカは心を込めて言った。
 「タケシさんだけだったんだから。アタシに声をかけてくれたのも、色眼鏡でアタシを見なかったのも、アタシを護るって誓ってくれたのも。そんな勇気のある男の人、いままでいなかったのよ……きゃ」
 ぐるりと身体を巡らされ、ソファーにそっと身体を落とされた。覆い被さるようにあるのは生駒タケシのどこか気弱そうな、しかし生真面目な表情。
 「結婚しよう」彼女への溢れんばかりの感情も、愛の誓いも、おのれの覚悟もなにもかもがその一言に込めてタケシは言った。
 その表情にアスカは笑い出す。涙混じりに。
 「ええ、当然よ。当然。当たり前じゃない。アタシ、アタシがその申し出、断るはずなんてないじゃない……」
 そのまま抱きしめられたときも、アスカはくすくす笑っていた。
 「ああもう、もっと真面目な感じでプロポーズされると思ってたのに。こんなえっちな状態でプロポーズされちゃうなんて。あ、アタシ、パンツ見えてるよぉ。もう、タケシさんったらぁ……」
 アスカはさらに幸福に笑いながら、じたばたもがいて大開脚状態の姿勢から逃れようとする。もちろん生駒タケシとしっかり抱き合ったままで。
 しかし、ぎゅっと曲がった膝は動こうとしない。
 それどころか「彼」をしっかり抱いていたはずの腕も、躰の後ろに回っていた。
 「え、うそ、なに、これぇ……」
 幸福に、くすくす笑いながらアスカはもがく。
 「ああもう、タケシさん!タケシさんったらいじわるなんだからぁ」

 「夢の中は楽しかった?」
 耳元でささやかれる。
 濁っていたブルーの瞳が見開かれた。急激に記憶がよみがえる。

 ここは碇シンジが所有するマンション。
 そこでアスカは友人同士のちょっとしたパーティをしていた。
 懐かしく暖かで、アスカの抱いていたわだかまりを融かすような雰囲気を持っていたパーティだった。
 だが、いまはちがう。
 いま、碇シンジの所有するマンションで開かれているのはそれとは全く別のものだった。
 参加者だけが同一の、ひどく淫らな宴だった。

 「さぁ、もう一度キスをしようか」
 「は……い……」碇シンジに促され、洞木ヒカリはうっとりと瞳を閉じた。
 おとがいを持ち上げられると「はあぁ」っと甘い吐息とともに紅唇がかすかに開いた。
 くちゅり、と唇をついばまれ、甘噛みされる。
 「ふ、は、あ……」震える唇の輪郭をゆっくり舐められて、全身を震わせた。
 「あはぁ……ンっ」彼女は自ら舌を伸ばして、男のそれと絡め合う。
 軟体動物のようにゆるゆるさわさわと口内を舐められているヒカリは幸福感で満たされているようだった。
 婚約者の友人……ただし婚約者のトウジは碇シンジとは理由を付けてけして会おうとはしない……の背中にしっかりと背中を回し、部屋中に聞こえるほど淫猥な舌音をたててさらに熱烈にキスに没頭する。
 ちらりとヒカリは友人に視線を送る。
 その視線には優越感と悦楽以外のものはまったく含まれていなかった。
 アスカがヒカリの中にあると信じていた要素はもはや、まったく含まれていなかった。

 「あ、ああっ!」アスカは悲鳴を上げる。もがいてソファーのうえから、マヤとマユミに挟まれた位置から逃れようとする。
 しかし身体は自由にならない。
 細い足首はがっしりとロープが巻き付き、さらに左右の膝を曲げたままで拘束されていた。
 さらには両手首も背中に回され固められ、彼女はまるでダルマのように身動きできないでソファーに「置かれて」いた。
 それもスポーティなブラとショーツ以外を剥ぎ取られた姿で。
 「い、いや……いやぁ……」
 「ずいぶん楽しそうに微笑んでたわ」マヤが言葉を続けた。「旦那様のことでも考えてたのかな?」
 「な、なにをしてるの!アンタたち、なにしてるのよ!」アスカは叫ぶ。しかし返ってきたのは嘲笑だった。
 「パーティだよ。アスカ」屈託のない、でもどこか虚ろな口調でマナが答えた。彼女はぺたんと絨毯のうえに腰を落としてアスカを見上げていた。
 「バカ!なに言ってるのよ!」
 「パーティですよ。アスカさん」アスカの右隣に位置していたマユミが平然と言った。「シンジさまに御奉仕して、シンジさまのおちんちんをいただくパーティなんです」
 「アンタたち、なに考えてるの!こんな……乱交パーティじゃない!頭おかしいんじゃないの?」
 「すごい言われようだよ、ヒカリ」アスカの目の前で濃厚なペッティングを行っていたシンジはヒカリの髪の毛を掴んで親友と向き合わせた。「さぁ、アスカに教えてあげるんだ。洞木ヒカリは何者かをね」
 「あ、あ、あすかぁ……わたし、わたしは……シンジさまの、モノ……なのぉ」
 「ばかぁ!しっかりするのよ!ヒカリ、ヒカリにはトウジって婚約者がいるでしょ!」ヒカリの身になにが起きたのかをマヤとシンジに聞かされていても、アスカは叫んでしまう。
 「うん、わたし……トウジのお嫁さんになるんだよ。もうすぐ。……だけど、だけど」ヒカリはゆっくりと哀しげに微笑んだ。「わたしはシンジさまのものなの。シンジさまが『せっかくだからヒカリはトウジのお嫁さんになりなさい』っておっしゃったから、わたし……トウジのプロポーズに……」
 「なんて……こと……」
 「大丈夫だよ。気が向いたときにはヒカリの孔で遊んであげるから」
 「ああ、ああ、嬉しい、嬉しい……ですぅ」
 「い、いやぁ……いやぁ……」アスカは全身を震わせていた。親友の言葉はあまりにもおぞましいものだった。彼女は恋人を経済的苦境から救うために、あくまでもトウジへの愛ゆえの苦渋の選択をしたはずなのだ。
 それなのに、いまのヒカリはトウジと結ばれることを義務だと感じている。
 彼女がそうするのは「碇シンジがそう命じた」からなのだ。
 そしていま、洞木ヒカリは碇シンジとのセックスを望んでいる。
 涙ながらにおねだりする。
 恥知らずに腰を持ち上げて右膝を背もたれにひっかけた開脚姿勢で、碇シンジのクンニだけでは満足できないと泣いておねだりする。
 「ああ、ああ、はやくぅ、はやくぅ……シンジさまぁ、はやくヒカリを犯してください。御命令通りにアスカを連れてきたヒカリにご褒美ください……」
 「分かってる、分かってるよ」男の声はあくまでも優しい。「ちゃんと奥まで入れて、子宮をずんずん突いてあげるから」
 「ああ、ああ、うれしい!うれしい!」
 「もちろん、ヒカリが大好きな『生チンポ』でコスってあげる」
 「うん!うん!」
 「もちろん奥まで注いであげるから、期待してね」
 「ああ、ああ、はやくぅ、はやくぅ」
 落ち着いた親しみやすい容貌をとろんと蕩けさせ、甘い声で彼女はせがむ。こどものように泣いてせがむ。
 はしたなく腰を突き上げて「くださいください」と泣きじゃくる。
 碇シンジはその様子にほほえみ、シャツを脱ぎ捨て、ズボンと下着を下ろして全裸になる。
 アスカの唇からは悲鳴が、他の女性の唇からは熱っぽい吐息が漏れた。
 長身のやせぎすな肉体の下腹部には、臍に届くほど立ち上がったペニスがあった。
 赤黒い先端から透明な液体がしたたるさまを目にしてしまったアスカの全身から力が抜けてしまったことに気付いたマヤとマユミはお互い目配せをして笑うのだった。
 シンジは再びソファーに腰を下ろすとヒカリの両足首を掴み、まるで子供に対するように彼女を軽々と持ち上げて下着を脱がせた。脱がせたそれを薄笑いを浮かべて観察する。
 「安っぽいね、これ」ぽいとマヤに投げ渡す。
 「通販で『三着まとめるとお買い得』って載っているようなパンツですわね。それに、シンジさまが乱暴に脱がせるから、傷んじゃってますわ」くすくす笑うマヤにヒカリは目を伏せた。
 「悪いことをしたね、ヒカリ。じゃあ帰りにマヤに適当な下着を見繕ってもらえばいいよ。そんな安物じゃなく……」
 「『とってもえっちなデザインのモノ』をですね」マヤがシンジの言葉を受けた。
 「そうそう。だけどトウジのやつ、婚約者が女友達の家に遊びに行くたびに派手な下着を身につけて帰ってくるのを見て、どう思ってるんだろうね」
 はっとするヒカリにシンジが笑う。
 「知ってるよ。友達の集まりから帰ってきたヒカリが身体検査されてること。そうそう、友達の家でなにをしていたのか、だれが他に来ていたのかをずいぶんしつこく聞かれるんだよね」
 「しんじ……さまぁ」泣き顔になるヒカリに男の笑顔はさらに大きくなった。
 「分かってるよ。ヒカリは秘密をきちんと守ってるってことは。だけど、最近はトウジの『尋問』もずいぶん厳しくなっているからねぇ」
 ソファーに押し倒されてV字開脚姿勢になったヒカリの表情が歪んだ。
 「先週は玄関で下着検査されてたね」
 「ヒカリちゃんったらスカートを自分でめくって真っ赤になって……とっても可愛かった。そのすぐ前に『ヒカリのケツまんこ気持ちいいです!』ってなんども叫んでいたのが嘘みたい」
 「ふ、ふあ……」ヒカリの蜜壷からとろとろと流れる汁がしだいに濃くなっていく。
 「でもさ、トウジももう楽しみにしてるよ。だって、パンツを見せたまま一時間も立ちっぱなしにさせておいて、バイブで悪戯してるんだから」碇シンジは自分の言葉に吹きだした。「『おら、ゆうてみぃ、ヒカリ、お前どこで股ひらいて、誰のチンポ銜えとったんじゃ?ええ?どんな色っぽい声でひぃひぃ鳴いとったんや!』なんて泣きながら訊くんだもの。安物のビデオムービーかと思っちゃった」
 「あ……ああ……あ、あたしっ、あたしぃ……秘密、秘密を守りました、シンジさまのことは、なにも、なにもぉ……」
 ひくつくヴァギナと肛門を指でちくちく弄られたヒカリは意識は朦朧とさせつつも、潔白を訴える。
 「そうだよね、トウジったらすっかりマゾなヒカリの悶えっぷりに我慢ができなくなって、尋問どころじゃなくなって……」
 彼の唇が歪んだ。満面の笑みになる。
 「ヒカリを押し倒しておちんちんあげちゃったんだよね?」
 「あ、ああ、ああああ……う、あ、は、あ、ああっ、あ、あは……ン、あっ、あ、あっ、あ……」
 がくんとヒカリがのけぞり、高々と掲げたつまさきがぶるぶると震える。
 「ほんと、トウジったら我慢ができない質なんだから。そのうえ自分だけが気持ちよくなって、勝手にイっちゃったんだって?」
 「あ……は、はい……そうで……す。私、私、まだだったのにぃ」言葉の途中で紅唇から唾液がこぼれ、ヒカリの全身が弛緩した。
 「おいおい、まだ半分しか入ってないのに。もうイっちゃったの?だらしないなぁ、ヒカリは」
 碇シンジはくすくす笑う。
 「だって、だって、だってぇ、シンジさまのオチンチン、とっても硬くて、熱いんですもの。あ、あは!ああ、お、あ、あああ、おくまでぇ……おくまでくるぅ」
 アスカの目にもそれははっきりと見えていた。
 洞木ヒカリの蜜壺へ碇シンジの剛直が容赦なく侵入してゆくさまが。
 ずぶりと突き立てたあとゆるゆると後退すると、ごつごつした血管にこすり立てられたピンク色の襞がめくり返ってどろりと愛液が噴き出す様子が。
 ずん、と突き込まれるとヒカリの淑やかな花唇が強引に押し開かれ、その代わりに彼女の唇からは感極まった悦びの声が漏れる様子を。
 「ああ……ああ……お、おなかのおく、ずん、ずんってぇ、ああ、ああ、ああ、すてき、すてきなのぉ」
 碇シンジの腰の動きに洞木ヒカリは翻弄される。Cカップにまで育った双乳をひと突きごとに大きく揺らし、艶やかな黒髪を乱れさせて泣いた。
 ごつごつした肉棒が引き抜かれるときは内襞を擦られる感覚に泣きわめきながら名残惜しげに腰を持ち上げてペニスを追い、勢いよく突かれたときは子宮を揺すられる快楽をもはや言語とは言えない泣き声で表現した。
 ゆっくりと抜かれ、ゆっくりと確かめるように反り返ったペニスを埋め込まれた。
 急に抜かれ、喪失感を感じる間もなく戻ってきた剛直に泣き叫ぶ。
 じりじりと下がったのちにずん、と押し戻ってくると、蜜壷から溢れた愛液がいくつもの放物線を描いて飛び散った。
 なんどもなんども貫かれ、こすられ、押しつぶされ、揺すられる。
 じゅるり、じゅぶじゅぶ、ずぼり。
 「もっと!もっともっとはやく、つよくついてぇぇッ!もっともっと奥までずぼずぼしてぇ!!」
 下品きわまりない粘液の音がヒカリをさらに淫らにしているようだった。
 彼女の寛大な支配者は笑顔でその願いをかなえてやる。
 つよく深く、はやい往復運動でヒカリを高みに連れていったのちに、掻き回すような動きや、もはや拷問のようなゆったりとしたペースの動きをミックスさせて元クラス委員長の理性を蒸発させるのだった。
 三〇分を優に超える獣のような交わりのあいだ、洞木ヒカリが何回絶頂へ連れていかれたのかもはや分からないくらいだった。
 「あ、あっ、ああ、ああ、しんじさまぁ、ああ、わたし、しんじゃう、しんじゃいますぅ……」そうつぶやきつつもまだ貪欲に男のペニスに肉襞を絡みつかせているヒカリの髪をシンジはつかみ、横へ……震えながらも二人の交わりからもはや目を離すことができなくなっているアスカの方へ……すっかり蕩けた表情を向けさせる。
 そしてこう言うのだ。
 「ね、ヒカリ、君の危険日っていつだったっけ?」
 女子大のゼミでもときに「いいんちょー」と揶揄される彼女はとろんとした表情のままでゆっくりこたえる。
 「先週からです……しんじさまぁ」
 「ピルは飲んでる?」
 「まさか」ヒカリはゆっくり首を振った。
 「ひ、ヒカリ……」
 つぶやくアスカの視線をふらりとヒカリが捉える。
 ヒカリの瞳には被虐と諦観と、そして喜びがあった。
 「う、は……あ……」全身を震わせてヒカリはアクメをまた迎え、それから夢見るような虚ろな口調で言った。
 「そうなの。アスカ。あたしね、トウジが我慢したり、ゴム付けてくれるときも、シンジさまとは必ず、絶対……生でしていただくの。ふふっ、アスカなら分かるよね。素敵なセックスのためには生のオチンチンじゃないとだめなことも、最後はたっぷり中に出してもらわないといけないことも」
 「うそ、うそ、うそよ……」アスカは同じ言葉を繰り返す。それは彼女の願望だった。
 「だからぁ、シンジさまにセックスしていただいた日はね、あたし、トウジをゆーわくするの」
 ヒカリはくすくす笑ってアスカに告げる。
 「マヤに選んでもらった代わりの下着」をちらつかせてトウジを挑発し、「尋問」ののちに彼に犯されるよう仕向けていることを(「そのときのトウジってすごく硬くておっきくなるの。でもね、そのときはすぐに出ちゃうの。なぜかしら」)。
 「危険日やろ、今日はちょっと止めとくわ」と愛ゆえの自制心を発揮するトウジを巧みに昂ぶらせ、さらには「避妊具の買い置きを忘れた」と我慢できなくなってから告げ、「ああ、ごめん、かんにん、ヒカリ!そのときは、そのときは……ワイ、ワイが責任、とるからっ」との言葉とともにたっぷり子宮へ放出させていることを(「どうしてなのかな、トウジったら自分でゴムを買わないんだよ。ひょっとして恥ずかしいのかなぁ。おかしいよね」)。
 「悪い子だろ?ヒカリは」つやつやした彼女の黒髪……きっちり編まれていたそれは解けて、ひどくエロチックだった……を掴んで改めてアスカと見つめ合わせたシンジは言った。
 「トウジが自分を捨てないことが分かってるから、ずいぶん意地悪なゲームをして遊んでるんだ」
 「ああ、だって、私はシンジさまだけのものになりたいのに……ああ!」スラストを再開されたヒカリはたちまち肉の交わりに溺れた。親友に淫らな笑顔と碇シンジの肉竿におのれの肉体が穿たれるさまの両方を見せつけつつ高みへと駆け上がってゆく。
 「ああ、ああ、アスカ、あたし、とっても幸せだよ!すっごくきもちいいの!あ、ああっ、はあ!あ……い、い、いきますぅ!シンジさま!ヒカリ、ヒカリはまたイっちゃいます!!!」
 けだものじみた淫声をあげてもうじき人妻となるヒカリは自分の所有者に、怯えた表情の親友に伝えるのだ。
 その数秒後、碇シンジがやっと精を放つと洞木ヒカリは歓喜のあまり泣きじゃくり、狂ったように身悶えしながら絶頂を迎えた。
 ひくつく瑞々しい女体の抱き心地を存分に楽しみ、たっぷり放出し終えたシンジは身を起こす。
 湯気すら出てそうな彼の怒張はまだその硬さも大きさも維持したままだった。
 ゆっくりと立ち上がり、アスカの方へと進んでくる。
 「い、いや!こないで!アタシ、アタシはそんなことしたくない!アタシは、アタシは!助けて!誰か!誰か助けて!」
 「アスカさん、怖がらなくてもいいですよ」穏やかな口調で告げたのは山岸マユミだった。
 「シンジさまは、とっても素敵な御主人様なんですから。アスカさんもきっと離れられなくなりますよ」
 「いや!いや!いやぁ!」縛られたままの躰を揺すってなんとか逃げようとする。もちろん逃れられるはずなどなかった。
 「大丈夫よ。貴女もすぐに分かりますから」マユミはアスカの髪をそっと撫でる。
 「やみつきになるの、もう離れられなくなるの」
 「マユミ……アンタ……なにがあったの……」
 「それはね」にっこりと笑った彼女は右脚を伸ばすとこちらを見ているマナの顔にストッキングの足裏をぐりぐり押しつける。「親友と同じ目に逢いたくないばかりにぺらぺら秘密を喋っちゃうようなスパイがきっかけですの」
 「あ、あは……マユ……マユミぃ……」
 「舐めなさい。マナ」
 「はい……マユミ……さまぁ」甘え声とともに、涙をこぼして霧島マナはストッキングに包まれた彼女の脚を、足指を舐め始めた。やがて力を込めたマユミに絨毯に押し倒されても、無様に開いてしまったスカートの奥をマユミの左脚で踏みつけられても、霧島マナはまるで抵抗せずうっとりと親友の足を捧げ持ち、ぺちゃぺちゃと音を立てて舐め回し、音を立ててしゃぶっていた。
 「無様でしょ、マナって」マヤが観察者の口調で言った。「正義感ぶってたくせに、いざとなったら……自分だけ……」
 「ああ、ごめんなさい。ごめんなさい……」
 しかし泣き濡れるマナの栗色の瞳にはまごう事なき被虐の色が宿っていて、彼女の精神はもはやこの責めを快楽だと受け取っていることは明白だった。
 「ね、マナって実は根っからのマゾっ娘だから、どんなにいじめても気持ちよくなっちゃうんですよ。ほんとうにお馬鹿さんですよね」マユミは笑い、そして説明する。

 霧島マナが、山岸マユミが碇シンジに「飼われる」ことになった経緯を。



◆ ◆ ◆



 霧島マナの恋人である村木ダイスケが都庁職員の肩書きを持った政府公安関係者であることを彼女が見抜いたのは、彼女が聡明であったからでもあり、以前に彼女も一種の諜報組織に存在していたからでもあったが、なによりも彼を愛していたからだった。
 恋人のちょっとした仕草や視線、さらには言動の矛盾を組み立てていくうちにマナはある結論に達したのだった。
 そしてかなりの逡巡ののち、その結論は決意に達した。
 ね、ダイスケくん。あたしね、ダイスケ君のお手伝いしてもいいよ。と彼女は言った。ダイスケくん、Nervについて調べてるよね。アタシもそれを手伝いたいな、と。
 幾度となく口論と泣き落としが繰り返されたが、村木ダイスケはその提案を受け入れなかった。
 「冗談じゃないよ。どこの馬鹿が恋人をそんな捨て駒にしたがるんだ。ボクが君を愛しているのはそんな理由だからじゃないよ」
 その言葉はマナの心を幸福感でいっぱいにし、彼女における村木の存在をさらに大きなものとした。
 だが、彼女は結局Nervへの「調査活動」を行うことになった。
 彼女にそれを持ちかけたのは村木ダイスケの同僚達だった。
 「民主化」されすぎた政府に使える公安機関にとって、その手の汚れ役のできるエージェントは喉から手が出るほど貴重な存在であったし、村木が属するセクションはこの時期、実績をなによりも必要としていた。
 村木への愛情ゆえに、彼には黙ったままでマナはエージェントとなることに同意した。
 短大を出たあとに勤めていたちいさな商社を辞め、指定された人材派遣会社に登録すると数日後には霧島マナは過去にいちどだけ歩いた建物の中で、Nervの下級職員の制服を着て仕事をしていた。
 ただし、機密とはほど遠い業務を淡々とこなす一般事務員としてだが。
 決意を固めていたものの、むしろこれはマナにとってはありがたいことだった。
 彼女が気をつけなければならないのは業務を滞りなく進めること……業務内容は前の商社と変わらなかったのだから、これはさほど心配することはなかった……と、自分の名前と素性のボロを出さない……なんせ彼女の名前も経歴も「セクション」によって偽装されていたのだから、うっかり矛盾するわけにはいかなかった……ことだけだったのだから。
 そして二ヶ月もの間、彼女が諜報活動として行ったことはほとんどなにもなかった。
 ただ、Nervからもらったメールアドレスをとあるメーリングリストに登録しただけだった。
 それは実在するファーストフードチェーン店のオンラインクーポン……二次元のバーコードで表示され、それを携帯で撮影して現れた画像を店で提示すればさまざまな品物がただになったり割引されたりするもの……が毎号載っているごく普通のミニコミ系MLで、当然なんの実行ファイルも添付されてはいなかった。
 内容もごくありきたりなもので、マナもなぜこれを登録するよう「セクション」が命じたのか分からなかった。
 だから彼女はごく普通のOL……吉野マドカ……として働き、同僚と接し、そして仕事が終わるといそいそと村木と逢っていたのだった。

 だが、三ヶ月目に入ったその日、通勤途中のホームですれ違った男からメモを渡された。
 トイレに入って一読し、ずたずたに破り裂いたのちに下水へ流す。
 オフィスに着いた彼女はいつものように笑顔でてきぱきと業務をこなしつつ、その「指示」を実行した。
 さきのMLすべてをダウンロードして、指示通り末尾の数行……それはメール画面ではなにも表示されていなかったが、ワープロで開くと数行または十数行にわたって解読不能の記号が連なっていた……をコピーしすべてつなぎ合わせた。
 そして、その暗号のようなファイルを教えられたアドレス……それはNerv内サーバーのアドレスだった……へ送信する。
 なにも変わったことは起きなかった。
 むしろ目に見えた変化があったときはいかなる手段を用いてでもそこを脱出するよう命ぜられていた。
 ただのテストだ。すれ違った男は言った。だれかが傷つくようなものじゃない。あまり気負うなよ。
 ちいさく溜息をついて、霧島マナは業務を続けた。
 ……きっとテストは失敗したんだ。
 心の中のどこかで彼女はほっとしていた。
 三ヶ月の勤務あいだ、彼女は持ち前の明るさゆえに多くの友人を得て、そしてマナ自身この職場に、同僚たちに親近感を抱くようになっていた。
 ……よかった……のかも。これって。
 彼女は再び業務に集中する。

 動きがあったのはそれから三日後だった。
 ただしマナは脱出することはできなかった。
 変化があったのは彼女自身だったのだから。

 昼休みに誰もいない洗面所で化粧を直していたマナはふと人の気配に気付いて振り向いた。
 そこにいたのは美しいが同時に無個性な女性だった。
 にっこりとほほえみ「霧島さん、これを見てくれるかしら」と穏やかに呼びかけると手にしていた携帯端末を差し出した。
 「吉野さん」ではなくいきなり本名で呼ばれたマナはとぼけることもできなかった。それほどまでに相手の態度は確信に満ちていた。
 そして、そこに映っている映像はひどく衝撃的なものであった。
 そこに映っているのはマナの親友である山岸マユミだった。
 マナと短大で知り合い、正反対な性格ながらも意気投合した教師志望の女子大生だった。
 その後教育学部のある大学へ転籍しても、マナとは親密な関係を維持し、恋の悩みから、場合によってはもっと突っ込んだ話までできる親友だった。
 その彼女はおっとりとした表情を涙で濡らして携帯端末のなかで泣き叫んでいた。
 彼女が好んで着る淑やかな衣服は下着も含めて剥ぎ取られ、その代わり黒々とした縄がマユミのぬめるような肌を無惨に淫らに彩っていた。
 「ソレって反則」とマナがそのボリュームを常にからかっていた双乳は残酷に縄がけされてくびり出て、さらにボリュームを増していた。
 後ろに回された腕はぎりぎりとひねられて天井から伸びているらしいフックにつながり、彼女はちいさな丸テーブルに乗せられたまま身をよじることすらできなかった。
 その真っ黒な丸テーブルの上で、マユミは爪先立ちでしゃがんだ姿勢を強制されていた。
 左右の膝はそれぞれ折り曲げたままでがっちり拘束されていたため、彼女は苦痛と疲労でぶるぶる震えながらむっちりした太股の奥……黒々とした茂りも、いくつもの毛羽だった結び目を持った縄がヒップを割ってぐるりと巡り、充血してしまった花弁にまで無慈悲に食い込んでいた……を男たちの目に、そしてカメラにさらさざるを得なかった。
 そして、あちこちから伸びる男の手。
 すべすべした太股を、まんまるなヒップを、縄が食い込む背中や脇腹を男たちの指が、手のひらがゆるゆると卑猥に這い回っていた。
 涙に濡れたおとなしい表情も男たちの手で弄ばれて、顔をそむけることもできなかった。
 さらにはロケットのように飛び出したバストを傍若無人に執拗に撫で回し、たぷたぷ持ち上げこね回していた。
 恐怖のあまり縮こまったピンク色の先端も、無骨な指が執念深くいじり、爪でこりこり悪戯されるとぷっくりと大きく屹立してしまう。そうなったところで指でつまみひねりねじり、彼女の泣き歪む表情を男たちは楽しんでいるのだ。
 「とっても楽しそうでしょ?」女は言った。
 「な……なぜ……なぜ……」マナの声は震えていた。
 「あなたにはまだ価値があるから。あなたのお友達にはまったく価値がない。ただそれだけ」
 マナは絶句し、蒼白になっていた。
 「おねがい。お願い。あたし……そんなひどい……こと……してない」
 「ネットワークを調査するワームの『種』を作ったくせに。もっともあなたはあれがなにかも分からなかったでしょうね。受け取ったPCが自動的にあれを処理して実行ファイルにする手筈だったみたいだけど。
 下級職員の端末はすべて監視されているのよ。該当PCがワームを作り始めたとたんにその端末はネットワークから切り離されたし、ログをたぐって誰があのデータを送ったのか、あのデータをどうやって作ったのかも分かった。
 そんなことも分からないままあんなおいたをするなんて、本当にアマチュアなのね。次からはメールにバイナリファイルのかけらがあったときもフィルタすることになったわ。ご苦労なことね。あなたも」
 Nerv諜報部に自身の正体も行為もなにもかもが掌握されていることを淡々と告げられた霧島マナはふるえが止まらない。
 「……ど、どうするの?」
 「山岸マユミのこと?それとも……あなたのこと?」
 「こ、殺すの?」
 「貴女は殺さないわ。いろいろと面倒だもの」
 「ああ、ああ……」安堵の表情で壁にもたれかかるマナの肩を女はそっと抱いた。
 「大丈夫よ。被害なんて全くないんだもの。ただ、『なにも知らない無垢なお嬢さんをだまして、こちらの反応を調べる』ような連中には警告を与えてもいいかな。たとえば……」くすくす笑って泣きじゃくるマナをのぞき込んだ。「お調子者の女スパイをそのお友達の山岸マユミみたいな『公衆便所』に作り直してから婚約者のところに返してあげるとか」
 「……あ……ああ」マナの頭の中にさっき見せられた映像がフラッシュする。

 ……拘束され、無数の男の指で弄ばれる山岸マユミの肉体。
 ……股縄を引き絞られてそのまま持ち上げられ、おんなの敏感な部分に体重を集中させたままで揺すられると、マナの親友は泣きながら失禁していた。
 ……鬱血するほど硬くくびり出された乳房をぎりぎり悪戯されたあげく、その先端を舐めしゃぶられたマユミが浮かべる絶望的な悦楽の表情。
 ……ずぶりと排泄口に差し込まれた大型注射器のような器具と、ゆっくりと流し込まれているらしい液体にぽっこり膨らむ下腹部と、それを撫で回す男たちの掌。

 「こうしゅう……べんじょ……」がたがたと震えるマナを女は楽しそうに眺めた。
 「そうよぉ。彼女はずーっと犯されてたのよ。三日前はバージンだったのに、いまじゃお尻の穴でもイケるようになっちゃった。ああそうそう、おしゃぶりも上達したわ。歯を立てたら麻酔なしで歯を抜いちゃうわよ。っておしえてあげたらそれはもう熱心に……」
 「いや、いや、いやぁ……」

 それはあまりに絶望的な光景だった。
 マユミの受けている仕打ちが我が身に降りかかることを想像するだけで、恐怖で思考がまっしろになった。
 ……身動きできないようにされて、女性を犯すことがなによりも好きな雄どもに輪姦されてしまう。
 ……優しい恋人のところに返されたときには、淫乱なメスにされている。
 ぷつり、と彼女の中のなにかが切れてしまった。
 「おねがい……許し……て……」
 霧島マナはすすり泣き、女にすがりついて懇願する。
 「ひどいことしないで、あたしを帰して。もう逆らわないから、言われたとおりにするから」と泣いて慈悲を乞う。
 だから女に「そうね、もし、もしもあなたが協力してくれるのなら、情状酌量の余地があると上司に話しても……」と思わせぶりに提案されると、涙をこぼしつつなんどもうなずいてしまう。
 「知っていること、みんな教えてくれるよね?」
 「……は、はい」
 霧島マナはなんどもうなずき、女を哀訴の瞳で見つめた。
 山岸マユミのようにされてしまわないためなら、ふたたび村木ダイスケの元に返るためなら、なんでもすると彼女は全身で訴えていた。
 そのときの彼女が、山岸マユミ自身のことをまったく考えていないことは明らかだった。
 マユミを救うために何らかの条件を提示しようなど、かけらも考えることはできないようだった。
 「商談成立ね、霧島マナさん」
 女はゆっくりとうなずいた。

 その後涙の跡を丁寧に隠したマナが職場に戻ってほどなくすると、彼女の上司がにこにこ笑いながら人事課へ行くように命ぜられる。
 「いや、マドカちゃんの評判いいみたいだよ。正式採用したいので、その話をしたいって」中年の課長の笑顔にはなんの曇りもなかった。
 「え、ええっ、正職員ってお給料、いいんですよね。うまくいったらいいなぁ」
 マナが浮かべる笑顔もまた、「職場を明るくするいつもの」ものだった。
 そうであることをマナ自身が願っていた。

 そうして霧島マナは「セクション」について知っていることをすべて語った。
 もちろんそれはNerv防諜部にとってほとんど意味がないほど無価値なものだった。彼女に接触してきた「リクルーター」も、MLを発行していたミニコミ誌も、彼女に命令を伝えに来た男も、マナの情報からは遡ることすらできなかった。
 だが、「彼ら」は穏やかだった。
 転向者マナがその情報の「軽さ」を理解し、なんとかして「彼ら」に役立つ情報がないか涙ながらに探すようになることが分かっていたからだった。
 もちろんそんな情報などあるはずもないことも彼らは分かっていた。
 やがて「在庫」の尽きた霧島マナが誘導されると村木ダイスケについてしゃべりはじめることも分かっていた。
 そのうち彼女が愛する男の元へ帰るために、彼をスパイしてもいいと言い出すことも分かっていた。
 彼らは鷹揚にうなずく。穏やかに紳士的に、今日は帰ってもいいよと宣言する。
 後始末はちゃんとしておくよ。君が失敗したことも「セクション」は知ることはできない。保証するよ。
 マナはうなずく。もはやそれは彼女にとって、どうでもいいことであった。
 愛する男のところへ帰れるのなら、もはやそれはどうでもいいことだった。

 その後、「セクション」が彼女に接触してくることはなかった。
 ただ、村木ダイスケが彼女をより深く愛することになったのは確実だった。
 「ありがとう、マナ」その夜に愛し合ったベッドで彼は言った。「でも、もうやっちゃ駄目だ。君はもうマークされているはずだから。だけど……『セクション』始まって以来の収穫だったそうだ。君は自分がなにをしたのかも知らなかったろうけれど」
 ぎゅっと男を抱きしめてマナは言う。
 ダイスケの言う「収穫」が毒の果実であることを知りつつ。
 「うん、分かってる、もう絶対にやらない。もう、もうぜったいに」

 翌朝マナは村木ダイスケの鞄にひどくちっぽけな金属片を挿入した。
 Nerv防諜部に命じられたとおりに。
 それがふたりの幸せのためだと信じて。
 その八ヶ月後、村木ダイスケの職場が原因不明の爆発事故で跡形もなく消滅することなど知りもせずに。

 それから一週間が経過した。
 恋人が出張中の寂しさを買い物で紛らわしていた霧島マナはその帰りに名前を呼ばれて振り返る。
 ワンボックスの後部座席にいたのは「碇」マヤだった。
 マナは誘われるまま後部座席に乗った。そうせざるを得なかった。
 マヤと一緒にその車には「あの日」以来携帯も通じなくなった山岸マユミが乗っていたから。
 するするとウインドウが降りてゆくうちに、マユミの剥き出しの肩が見えてきたから。
 さらにウインドウが下がってゆくと、マユミが身につけているのは黒光りする縄だけだということが分かってきたから。
 そう。
 山岸マユミは全裸に剥かれたうえに拘束されてその車に乗せられていたのだった。
 「マナ……マナ……お願い、お願いだから乗って。そうしないと、そうでないと、わたし……ずっとこのまま……お願い……」とどこか壊れた表情のマユミに哀願されたからだった。
 そうしてマナは知らされた。
 マユミの切れ切れの言葉にマヤの大量の補足を加えた説明で。
 マユミがキャンパスから拉致され、監禁されて犯され続けたこと。
 そのあいだ「オマエの親友の霧島マナが悪いんだからな」とだけ言われ続けていたこと。
 時間の感覚もないまま処女を奪われ、肛門性交を覚え込まされ、フェラチオ好きにされてしまったこと。
 「霧島マナの犯した行為の償い」として親友のマユミができることは「これ」しかないと信じてしまったマユミがいつしか真心を込めて肉体奉仕できるようになったこと。
 いつしかその行為が大好きになってしまい、それなしには生きてゆけない自分を発見したことも。
 「だからね、うちで引き取ることにしたの」マヤはにっこりと微笑んだ。「この子にはちゃんとした飼い主がいないと、どこでもパンツを降ろしてセックスはじめちゃうから」
 「まゆみ……うそ……うそよね?マユミ」
 マナは舌をもつれさせて訊ねる。しかしその言葉はマユミには届かないようだった。ただうっとりとどこか遠くを見つめながら「ああ、ああ、マユミに、マユミにおわびさせてください……マナのつみをつぐなわせてください……どうかまゆみにおちんちんでばつをあたえてください」とつぶやいて革製のシートを太股の間からしたたる雫で汚していた。
 「大丈夫よ」マヤがにっこり笑ってマユミのつやつやした髪を撫でた。「ちゃんともういちど躾けてあげるから。大丈夫よ。犬や猫でも、手当たり次第にサカったりしないようになれるんだからね」
 「あは……まや……さまぁ」マユミは子犬のように無邪気にマヤを見上げていた。
 「ね、マナさん」マヤになんども呼びかけられてマナはようやく我に返った。「あなたも会っていく?マユミの御主人様に」
 「ご、ごしゅじん……さま……」
 「会った方がいいわ。会ってお礼を言わないと。あなたが普通の生活を送れるように方針を決めたのもその方だから」
 「普通の……生活」
 マナは沈黙する。愛おしい相手を裏切る生活が、彼との会話すら記録されている生活が普通とは思えなかった。しかしマユミのようなインフォマニアにされてしまうのは……。
 「そうよ、村木ダイスケさんとなにごともなくすごせてるじゃない?あなたは。それともマユミみたいな生活を送りたかった?構わないわよ。いまからでも……」
 「あ、会います!会わせてください!」巧みに追いつめられたマナは叫んでしまう。
 自ら望んで「山岸マユミの御主人様」との面会に望んでしまう。

 そうして霧島マナは碇シンジと再会したのだ。
 彼は、別人だった。
 彼は、伊吹マヤと結ばれるまでマナが何回か会ったことのある人物とも違っていた。
 もちろん、彼女が「籠絡」を試みた十四歳の時の少年でもなかった。
 彼は支配者だった。
 彼が姿を現すと伊吹マヤは目を伏せ「連れてきました。ふたりとも」と丁寧な口調で告げ、縛られたままの……彼女は全裸に縄化粧だけを施されて地下駐車場からここまでマヤに引かれてきたのだった……マユミがもぞもぞと跪くと甘え声で鳴きつつ彼の脚に頬ずりをする。
 高々と熟尻を持ち上げた姿勢では、黒縄に割り裂かれた花弁も、それがてひくつき、さらには淫汁をしたたらせていることが親友にも見えていることなどまったく気にしてなかった。
 「ああ、ああ、ごしゅじんさま。ごしゅじんさま。どうか、どうかこのいんらんなメスイヌをしつけてください。がまんのたりないマユミにおちんちんください……」
 「これでもずいぶんましになったんだよ」シンジは朗らかに笑う。「引き取ったときはヒトの言葉も忘れてたよ。ちょっと目を離すとオナニーはじめちゃうし」
 「……ああ、ああ……」
 「ひどい女の子だなぁ、マナって。君のせいで彼女はこうなっちゃったんだよ。ねぇ、マヤ」
 「そうですわね。マナはとってもエゴイスト。もっとカレに愛してほしいばかりに、スパイごっこに手を出して。親友を生け贄にしてひとり助かるなんて」くすくす笑われて、マナは声もなく泣いた。
 「ねぇ、霧島さん。村木ダイスケさんは貴女のことを愛してくれてる?」
 「は……い。あいしてくれて……ます」
 「よかったわね。欲張りなマナちゃん。それにひきかえ山岸さんは……穴という穴をオチンチンでえぐられるのが大好きな女の子にされちゃったのね……あなたの身代わりとして。霧島マナさんってなんて罪深いのかしら」
 マヤに嘲笑われて彼女は泣きじゃくることしかできない。
 だから不意に優しい口調で「ね、霧島さん、いまからでも償うことはできるのよ」と静かに提案されると彼女はこくりとうなずいてしまった。
 「じゃあ、その気持ちをここで見せて」と穏やかに命ぜられるとしくしく泣きつつ「はい」とうなずいてしまう。
 それが「碇シンジとマヤと、そして山岸マユミの目の前でのストリップ」であっても躊躇したのはごくわずかな間だけだった。
 うっとりと自分を見つめるマユミを直視できないマナは震える指先でデニムジャケットのボタンを外してゆく。
 そうして発見する。
 ボタンを外し、するりと肩から上着を滑りおとし、シャツを脱ぎ捨てるごとに、自分の心が軽くなっていくことを。
 お洒落というより可愛らしいデザインのブラをぷつりと外し、真っ白な脹らみを隠すことも許されないまま、今度はフェミニンな膝丈のスカートをホックを外した。
 村木ダイスケにもらったプラチナのネックレスと薄いブルーのショーツだけの姿になった霧島マナはしかし、ひどく心安らかになっていた。
 絨毯にぺったりと腰を落とした親友に見守られ、彼女の生殺与奪も思いのままの男女に言われるとおりのことをすれば、自分の罪はそれだけ軽くなるとさえ思い始めていた。
 だから彼女はリビングのテーブルの上に乗り、シンジとマヤの言葉どおりのポーズを取る。
 大きく脚を開くことも、下着のクロッチをずらして恥ずかしい部分を披露することも躊躇など全くなかった。
 手のひらで覆い隠せるほどのバストの先端をくりくり転がして、うっとりとした吐息を漏らしてしまうことも、そのうちに濡れそぼった陰裂に人差し指と中指を入れて掻き回すことも、週に何回「ダーリン」とセックスしているのか、彼のお気に入りの体位を報告することも恥ずかしいとは思えなかった。ただ「ああ、マユミちゃんと違って、貴女は愛してもらっているのね」とマヤに笑われるととても切なくなってもっともっと、彼らの言うことを聞かなくちゃいけない。と考えてしまった。
 テーブルに膝立ちになって、ゆっくりとショーツを落としていくことも辛くはなかった。
 ネックレスだけを許されて、マナは再びテーブルの上で碇夫妻に命じられるがまま淫らなポーズを次々と取った。
 大きく脚を開き、濡れ輝く躰の奥まで披露することも、双臀を割り裂いて排泄口をさらけ出すようなストリッパーですら赤面するようなポーズも唯々諾々と取るようになった。
 マユミの隣にひざまずくよう命じられても、マナは素直に従った。
 碇シンジの室内履きにキスするように言われたときは一瞬ためらう。でもすぐ隣の親友が即座に身体を丸めてぺちゃぺちゃと音を立てて舌を動かすとマナの思考は停止する。
 山岸マユミの体温を感じつつ彼女が舌を動かす音、さらには切ない吐息を聞かされていくうちに霧島マナのなかでなにかが崩れていく。
 全身が熱を帯び、敏感になっていくのが自分でも分かる。室内のちょっとした風に撫でられただけで、いやらしい声が漏れるのを止められない。
 高くさし上げたヒップを卑猥に振ることも、淫裂を無意識にひくつかせることも、お漏らしのように白濁した汁をそこからしたたらせることも止められない。
 「霧島マナさん」マヤに厳粛な口調で耳元で呼びかけられた。「どう?心が軽くなってきたんじゃなくって?」
 どんよりとした表情でうなずく。
 「あなたの罪は少しずつ許されているのよ。マユミちゃんの痛みを、辛さを知ることによって。だからね、これは恥ずかしいコトじゃないの。貴女にとって必要なことなの」
 マナは純粋な喜びに心打たれて涙をこぼす。優しく髪の毛を撫でられる。
 「そのお手伝いができるのは……シンジさまとわたし……だけなのよ」マヤの繊細な手つきでさわさわと全身を撫でられるとマナはそれだけで絶頂を迎えた。
 「分かるわね?マナ」
 「分かり……ます。分かり……ます!シンジさまとマヤさんだけが……あたしを助けてくれる……ふぁ!」今度はヴァギナを掻き回された。許しを得られる期待と幸福感で彼女の精神は白熱していた。
 「さ、ちかって」ぐいと頭を絨毯に押しつけられ、霧島マナは全裸で土下座する。
 そうしてマヤに命ぜられたとおりに誓いの言葉を述べるのだ。ひんやりした指で秘裂をピストンされて。
 「……わたしは、霧島マナは悪いにんげんです。友達を犠牲にして自分だけ助かろうとしました……。その友達のことも忘れて恋人とイチャイチャしてました……。わたしは、霧島マナは恥知らずなおんなです……」
 「それなのに……マナはダイスケくんに内緒でNervに情報を流しました……流しています……。彼はマナのことをとっても大事に思っているのに、マナを愛しているのに……マナは裏切り者……で……す」
 口移しに述べたマヤの、シンジの言葉にマナの心は砕けた。
 「あ、ああ……あたし、あたし、ダイスケ君に会いたかっただけなのに……ダイスケくんに喜んで欲しかったのに……。あたし、あたし……」
 髪の毛を掴まれ、マユミと向かい合わされた。
 どんよりと濁った瞳でマユミはマナを見つめていた。深紅の唇がゆっくりと笑みの形に変わる。
 マナはこどものように泣きながらぶつかるようにマユミとキスをはじめてしまう。
 たちまちのうちに彼女はマユミとのキスに溺れた。雄のペニスを舐め回すことが大好きなマユミの舌に絡め取られて吸われ、唾液をとろとろと交換していくうちに理性もなにもかもがどろどろに溶けてゆく。
 碇シンジがいつしか立ち上がり、彼女の背後に回り込んでも気にならなかった。
 ぐるりと表に返され、シンジとまともに向かい合わされた。ひくつく花弁にペニスがあてがわれる。
 「マナがどんなオンナであっても、僕が許してあげるからね」
 笑顔で宣言される。それだけで全身が法悦で震えた。
 ずぶりとペニスで貫かれる。
 唇を割って絶叫が吹きだした。しかしそれは悲鳴などではなかった。獣じみた言語とはほど遠い快楽の叫びだった。
 そのさまに驚く暇もなく、腰をがっしり掴まれて、さらに奥へ奥へと突き込まれる。
 ひと突きごとに得られる解放への喜びは、恋人への罪悪感をかき消してゆく。
 揺すられるたびに恋人の名前がおぼろになり、唇から漏れる甘いうめきはシンジの名を切れ切れに叫ぶものへ変わってゆく。
 「肉厚なのがいい感じだね」と誉められると頬を染めてあんあん鳴いた。
 言われたとおりに腰を突き上げてくねらせると「こつん」と当たる感覚が素敵で嬉しくてたまらなくなり、気がつくと碇シンジの腰に脚をからませると自分からその見つけたばかりのGスポットをペニスの鰓首で擦られるように腰をうごめかせてひんひん鳴いていた。
 空虚な表情にこどもじみた嫉妬の色を混ぜながら、舌を絡めてくる山岸マユミの山岸マユミの唾液を喉度を鳴らして飲む霧島マナは、いまこの瞬間あらゆる罪悪感からも恐怖からも自由だった。
 だから彼女は願ってしまう。

 恋人である村木ダイスケとの愛のために。
 その恋人を裏切っている罰のために。
 清楚でお堅い親友をペニス中毒にさせてしまった罪滅ぼしのために。

 「……お、おねがい、しますぅッ!わ、わたし、霧島……霧島マナは……、碇シンジさまからの懲罰を受け入れます!ああ、ああ、すごいのぉ!これ、これ、いままでとちが……うッ!ああ、ああ、いい……いいのぉ……もっと、もっとマナを罰して!マナを叱って!だからぁ……だか……ら、もっとぉ、もっとぉ、もっと掻き回して!ああ、ああ、いいの、いいのぉ!」

 蜜壷をごりごりとペニスでえぐられて、絨毯の上で乱暴に揺すられる霧島マナは決していってはならないお願いを口にしてしまう。
 甘く切ない悲鳴と吐息混じりで、ときどき頭の中をまっしろにフラッシュさせて。
 それが贖罪の言葉だと思いこんでいるのが本人だけであることすら気付かずに。
 そう、親友のマユミにすらその言葉が碇シンジのペニスほしさのものであることを見抜かれて、冷ややかな視線を浴びていることすら気づかずに。

 だが、それで終わりではなかった。
 霧島マナの肉体に屈従を覚え込ませるための「教育」はいま始まったばかりだった。
 「山岸マユミがされたのと同じことができるようになるまで、みっちり仕込んであげるからね」とのシンジの宣言とともにここ数週間で急激に熟れたマユミの肉体を締めあげていたロープがぱらりとほどかれ、代わりにマナのスレンダーな肢体を拘束した。
 碇シンジの精液をとろとろ垂らす陰裂に厳しく股縄をかけられたマナは泣き叫んだ。
 しかし後ろ手にぎちぎちに縛られ、卑猥なM字開脚を強いられていてはどうにもならない。それどころか「静かになさい」とマヤに諭され、黒ロープで無惨にくびり出された可愛らしいバストの先端を力いっぱいひねられてしまった。
 完全に心がくじけてしまい、涙まじりの謝罪の言葉しかつぶやけなくなったところで、マナをさらに追いつめたのは山岸マユミ。
 虚ろな瞳のままふらふらと立ち上がり、碇シンジとマヤの邪悪なそそのかしのままに「かつて自分に『奴ら』がやったこと」を霧島マナの肉体で再現した。

 シンジの肉茎に掻き回されて擦られて、敏感になってしまった肉襞を瘤付きロープが食い込みつつ前後させて苦痛と屈辱に絶叫させる。そのあとのじんじんとした異常な感覚にたっぷり悶えたところで、残忍に鰓の張ったごつごつした張り型をずぶりと突き立て前後させて泣き狂わせた。
 蛙の姿勢で絨毯にこてんと押し倒し、突きだしたお尻をスリッパで叩き散らした。
 週末のスポーツクラブでは少し大胆なハイレグ水着でひそかにアピールしていた健康的なお尻を真っ赤に腫らして、でもそのヒップを蠱惑的にくりくり振って霧島マナは慈悲を乞うた。
 ぐったりと突っ伏して泣きじゃくっている彼女のお尻、その谷間のすぼまりにぶすりと管を突き立てて、じわりじわりと薬液を注入した。
 まるで妊婦のようにお腹をぽっこりふくらませて熱病患者のように浅い呼吸を繰り返し、汗で濡れた全身をさわさわ弄って泣き狂わせ、あるいは電動のオモチャでくすぐっていまやマナの全身が性感帯であることを教え込んだ。
 マユミに比べてまだ控えめな双丘も懲罰の対象にされた。
 ぎっちり縄でくびり出された白いバストの可愛らしい先端を山岸マユミのほっそりした指がぎりぎりとひねるとマナは絶叫し、許しを請うた。
 充血するくらいまで悪戯されてから、マユミの柔らかな舌で舐められ、ちゅうちゅう吸われるとそれだけでアクメを迎えてしまう。
 そうして教え込まれる排泄の屈辱と快楽。
 直腸を薬液に灼かれ、指で器具でえぐられておぞましさと苦痛で泣かされた。だが、ゆっくりじわじわと拡張されてゆくうちに背徳の悦楽を彼女は覚えさせられてしまった。
 縛られたままのセックスが、屈辱的であるゆえにその快楽も深いことを知ってしまった。泣き叫んでも、抵抗してもおんなの肉体は陵辱者のペニスから快楽を得てしまうことに気付いてしまうと、さらにその快楽は鮮烈なものになった。
 無様に拘束されて転がされ、残酷な言葉と蔑視の視線を浴びると、それが快楽と感じられるようになった。
 過去の教育からこれが心理操作であることを理解していても、泣きながら淫裂をひくつかせて蜜をこぼすようになった。
 だがそれでも、彼女はロープを解かれて、拘束なしで自ら脚を開いて男を迎え入れるセックスは拒否した。
 すればいいじゃない。もう逆らえないことは分かってるんでしょ?好きに貪ったら?
 だがその決意も、碇シンジとマヤの言葉でみじんに消し飛んだ。
 「ずいぶん立派なことをいうね、マナは」と碇シンジはマヤに微笑む。
 「自制心がしっかりしているのね。マナは。だから、ケイタ君やムサシ君とのセックスもいちど限りで終わりにできたのね」
 「どう……して……」マナはようやく言った。頭の芯が痺れて、言葉を紡ぎ出すことすら困難だった。
 「調べればすぐ分かるわ。あなたってバカね。彼らに躰を捧げて、三角関係をコントロールしようとするなんて」
 「ちがう……そうじゃなくって、そうじゃなくって……」少女のように泣きじゃくる。

 当時はそれが最善の選択としか思えなかったのだ。軍を退役し、平和を享受しはじめると同時にどこがぎくしゃくしはじめた三人の関係を維持するためには、これしかないと考えたのだ。
 ムサシに処女を捧げ、その二日後にケイタを誘った。
 こどものような、兄弟のような関係から一歩踏み出すためには必要と考えたのだ。
 結果は最悪だった。ムサシも、ケイタも敏感に察してしまったのだった。
 少女を愛するゆえに、大事に考えるゆえに、築いた絆をより強固にしようとさらなる関係を求めてきた二人の表情を見て、少年同士の激しい言葉のやりとりを聞いて彼女は誤りを悟った。
 彼女は戦友と、兄弟と決別した。
 ケイタとムサシの関係がこれ以上悪化させないために。

 霧島マナの最大の心の傷のひとつを碇シンジとマヤはえぐる。
 彼女の決心や判断が誤りだらけだと指摘して、彼女の抵抗心の根幹をぐずぐずにした。
 そしてついさっきまでの「肉のヨロコビ」に没頭しているさまをムービーデータにしてムサシとケイタの「恋人」に送ってあげようかと提案されると、マナはもう「ごめんなさい。ごめんなさい」とこどものような口調で謝ることしかできなくなった。
 そこでシンジに抱擁され、ベッドの上で「恋人のようなセックス」を与えられた。
 「あんな姿を見せられたら、ムサシもケイタも、きっとマナを軽蔑するだろうね。いまの恋人にして正解だったって思うだろうね」とささやかれて絶望し、「でも、僕はマナを見捨てないよ。マナの『償い』も手を貸してあげる。Nervと『セクション』の板挟みになっても僕が助けてあげるよ」と優しく告げられると涙をこぼして感謝した。
 やがて彼女は碇シンジの背中にひしと抱きつき、腰の後ろに足首を絡ませて愛の言葉をつぶやきながら腰を振るようになる。
 歓喜の涙とともに絶頂を迎えることにも、シンジとねっとりとキスを交わすことも、精液と愛液にまみれた彼のペニスを頬張ることにも違和感を持たないようになる。
 碇シンジの言葉の端々から彼の権力を理解するに従って、彼の寵愛を受ける自分を誇りに思うようになる。
 山岸マユミと並び、彼女と同じく全裸に首輪だけを付けて、碇シンジを「御主人様」と呼ぶことに抵抗を覚えなくなる。
 山岸マユミとシンジが交わっているさまを見せつけられて自慰をはじめてしまい、そのさまをシンジに、マユミに、マヤに嘲笑われても指を止めることができなくなっていた。
 村木ダイスケ氏が三日の出張から帰ってくるその日には、マユミは涙ながらに「彼と別れますからここにおいてください」と全裸で土下座をして懇願するようになっていた。
 「なぜ?」と訪ねられるとなんのてらいもなく「シンジさまのペットになりたいんです!あっ!ま、マヤさまやマユミさまにもお仕えしたいんです!」と大声で叫ぶくらいマゾペットの愉悦に溺れていた。



◆ ◆ ◆



 「あ、ああ、ああ、マユミ、マユミぃ、マナに、マナにもっとお仕置きして!悪いマナをもっともっと償いをさせてくださ……い」
 「ええ、いっぱいお仕置きしてさし上げます。アスカさんによーく見ていただきましょうね。『霧島マナはどんなに恥ずかしくて辛いお仕置きをされても、それで悦んで気持ちよくなってしまう変態ペットだ』ってことを」
 「ああ……あたしぃ……アスカに見てもらえるんだぁ……。ね、ね、アスカぁ……いっぱい見てね、マナのとってもいやらしーいペットなところ」
 マナは山岸マユミに太股の付け根を踏みつけられて潮を吹きながらアスカを見上げてどんよりほほえんだ。
 「あ、アスカにも教えてあげるからね。きっと、きっとアスカなら、とっても可愛くていやらしいペットにすぐになれるよ……」
 その表情に、言葉にアスカは恐怖する。
 「ふふっ、素敵な先輩にきっちり躾けてもらって……立派な牝奴隷にしてもらいましょうね」
 「いや、いやぁ……あ!」
 「嘘つき」目の前に立つ碇シンジが笑った。膝をついて大きく開いた彼女のショーツをずらし、ずぶりと人差し指をアスカの蜜壷に侵入させた。
 「う、うあ……や、やめて、いやよ……」
 「嘘つき」今度はマヤが笑った。「あなたの躰はもう分かっているわ。だれがあなたの御主人様なのか」
 「い、い、いいっ!あ!」がくんとアスカはのけぞってぶるぶると震えた。
 「すごく敏感になってるね。ヒカリが中出しされるのを見て感じたの?それともマナやマユミの正体が可愛いエロペットにされてたことがたまらない?」
 「ゆ、ゆびでいじって感じたくらいで!」
 「ああ、アスカらしいね」マユミを押しのけてアスカの隣に腰掛けたシンジは言った。「生意気で、意地っ張りで、だけどぜんぜん分かってない」
 「う、うるさい……っ」
 「可愛いなぁ。ぶるぶる震えて、きゅうきゅう指を締め付けて」
 碇シンジに嘲笑されて美しい虜囚は真っ赤になった。胡座を組むような惨めに恥ずかしいポーズで拘束されたスレンダーな肢体は、彼女の決意にもかかわらず元戦友の指一本で血液を沸騰させてしまっているのだ。
 「クスリのせいよ!アンタたちの使った卑怯なクスリのせいよ!」
 「あれ?睡眠薬にそんな作用あったっけ?」
 マヤは笑った。「さぁ、男性の味をたっぷり覚えたお肉には、睡眠薬でもエッチになってしまうのかもしれませんわ」
 「ちく……しょう」
 「だけど、アスカってこんなに綺麗になってたんだ。この太股、胸、肌……」屈曲されて震える内ももを、芸術品のようなかたちと量感を合わせもつ膨らみを、アスカの意志とは関わりなく立ち上がってしまった乳首を、絹のような肌の感触を彼は讃えた。
 アスカはもちろんそんな賛美の言葉を喜ぶはずなどない。ぎゅっと目をつぶり、唇を噛みしめて男の言葉を、その指が与える刺激を無視しようと努力する。
 ソファーに押し倒され、両肩をマヤに押さえられた。それでもアスカはまだ抗っていた。
 「やめなさい!いまならまだ、まだ引き返せるわ。やめなさい、マヤ、マヤ!お願いだからやめさせて!こんなことしたって!アタシはシンジのものなんかにならな……いわ。くぅ……っ」
 柔らかな襞を掻き回されたアスカの唇からつぅ、と唾液がこぼれる。
 彼女の肉体が精神をとうに裏切っていることはアスカ自身にも分かっていた。
 彼女が恋愛対象と見なさなかった男性がおとなしく理性的な親友を肉槍で貫いて屈服させるさまを目の当たりにし、貞淑な教師志望の女性と快活で芯の強い友人をそろって性の奴隷に貶めた証拠を見せられると全身は火照り、秘肉はぬかるんでしまったのだ。
 自分が乙女ならここまで取り乱すことはなかったろう。アスカは思う。しかし自分は恋愛経験を持っているのだ。肉の交わりの喜びを知り、それを身体は覚えてしまっているのだ。
 それどころか、いまアスカを貶めている男と「愛しい人」を無意識のうちに比べてしまっている自分に気がついて愕然としていた。

 ……なに、あの大きさ、あのカタチ……タケシさんのよりも……だめ!なに考えているの!
 ……あんなにいっぱい出して、ぜんぜん、ぜんぜん大きさが変わらない……一日になんかい……できるの、コイツったら
 ……マヤも、ヒカリもマユミもマヤも支配されるなんて、あ、アタシは、アタシはきっと大丈夫。ずぶって入れられて擦られても、硬い鰓でごりごりされても、奥まで突かれて揺すり続けられても、ぐっちゅぐっちゅいいわせながら泡立つようなピストン、ピストンされちゃってもア、アタシ、アタシはきっと大丈夫。だってだって、女が気持ちよくなるのはペニスからの刺激だけじゃないのよ。愛情がないと女は気持ちよくなれないんだから!抜かないままで注ぎ込まれて、掻き回されて、揺すられても、気持ち、気持ちよくなんてならない!なるわけ、なるわけなんてないもん!だって、だってあたしはタケシさんを愛してるんだから。そ、それに、あのかったいペニスで子宮をずんずん突かれて我を忘れてしまっても、それに溺れることなんてない。だって、だってアタシはアスカなのよ。だって、だから、だから、だから……

 ずぶぶぶぅぅぅっ!
 「あ、ああ、ああああああぁ!」
 頭の中で火花が飛び散った。しっかり閉じていたマリンブルーの瞳が見開かれる。不自由な全身をのけぞらせ、大きく開かれた唇からは絶叫が、濡れた牝の嬌声がほとばしった。
 知り合いが無惨に犯されるさまを見せつけられているあいだにぬかるみ、たっぷりほぐされて溶鉱炉のように熱を帯びたアスカの肉襞を、さらに熱い灼熱の槍が侵入したのだった。硬く鰓の張った亀頭がごりりごりりと彼女の肉洞を擦り、押し広げる感覚に、彼女は声を押しとどめることはできない。
 「いやぁ、いやあああああっ!ゆるして!ゆるして!助けて!たすけて!タケシさん!タケシさん!」少女のように泣き叫び、夫の名前を連呼する。
 それは彼が助けに来てくれることを期待してのものではなかった。
 名前を、夫の名前を呼び続けなければ、それを忘れてしまいそうだったから。
 それほどまでにいま、彼女を貫く牡の性器は夫のものとは異なる圧倒的な存在感があった。
 ……犯されてる、犯されてる、あ、アタシ、アタシ、碇シンジに犯されてる……このかたくて熱いペニスに犯されてる……。
 がくがくと全身を震わせて、浅い呼吸を繰り返すアスカの視線のすぐ前に碇シンジがいた。
 「すごくいいよ。アスカの中、柔らかくて、きゅうきゅう閉まって、熱くって」
 「言うな!言うな!言うなぁっ!」
 「たっぷりザーメン注がれて、生駒氏のおちんちんで掻き回してもらってこんなに具合良くなったんだね。彼には感謝しなくっちゃ」
 「うるさい、この野郎ッ!離れなさい!離れろぉぉ!」
 「だって、むかしは硬くて狭いだけだったんだから」
 アスカの顔色が変わった。「アンタ……いつ……」
 生駒タケシとの初めての交わりのとき、出血がなかったことはアスカもタケシも気にもしなかった。あれだけ活発な少女時代を余儀なくされたのだ。処女膜が破れていてもまったくおかしくはないと理解していた。
 しかし……。
 「アスカが入院しているとき。よく眠っていたからね」
 「アンタは……アンタってやつは……」おそらく最後の戦いのときだ。アスカが弐号機を失い、碇シンジが綾波レイを喪ったとき。彼らは、奴らはシンジの喪失感を紛らわせるためにマヤだけでなく人形のように眠っているアスカ自身も捧げたのだ!
 「アスカのコドモまんこも良かったけど、やっぱりいまの方がずっといいね」
 怒りと苦痛に歪む、しかしそれでもはっとするほどの美貌をのぞき込んで碇シンジは笑った。
 「じゃ、動かすよ。アスカ」
 「やめて!やめて!いや、いやぁっ!」
 罵声がいつのまにか哀願に変わっていることに気付く暇もなく、柔襞を碇シンジのペニスに蹂躙された若妻は美声を張り上げてしまう。
 歯を食いしばることもできず、せっぱ詰まった声で鳴くことしかできなかった。
 碇シンジの雄茎でこじ回され、擦り立てられ、掻き回されると苦痛よりも屈辱よりも先に輝くような悦楽が背筋を貫くのだ。
 さらにいつのまにか下がってきていた子宮をこつんこつんと突かれると、幸福感すら感じていた。
 「ああ、ああ、なぜ!なんなの!なんなのよぉ!うそ!うそ!やめて、あたし、あたしおかしくなる!やめれぇ!らめぇ、おね、おねがいだからぁ……」
 腰をぐいと掴まれてハイペースでゆすられて突き立てられるとCカップにまで育った美乳がたぷたぷと揺れて男の目を楽しませる。
 くすくす笑いながらマヤの伸ばす指先にクリトリスを剥かれて転がされると、アスカの悩乱ぶりはさらに激しくなった。
 「ふ、ふあ……らめぇ、らめぇ、こんなの、こんなのアタシじゃない、アタシ、アタシ、アタシは負けないって決めたんだもん!あたし、あたしは……」
 そう、彼女の心はこの暴虐になんとか抗しようとしていた。
 だが、アスカは分かっていなかった。
 セックスの味を覚えてしまった「生駒」アスカの肉体は精神を裏切って快楽に負けてしまっただけではないのだ。
 さらなる快楽ほしさに、アスカの熟れた肉体は精神をねじ伏せつつあることに。
 ひと突きごとに、ひと揺れごとに、鋭い快楽が走って脳が焼け、精神がぐずぐずになってゆく。
 男の重さとペニスの感覚に幸福感すら感じてしまい、その感情は敵意と決意を塗りつぶしてゆく。
 ずずずっ、とペニスが抜かれてゆくと甘い抗議の声とともに肉壷できゅうきゅう締め付け、肉襞を絡みつかせて得られる快感にうっとりしてしまう。
 ずぶずぶと勢いよく侵入されると「あー、あー、あー」とうっとり微笑んでこじ開けられる感覚を、強引な圧迫感を感謝すると同時に、ペニスとの摩擦で体温自身を上げてしまう。
 だから、「アスカ、キスをしようね」と宣言されて唇を奪われたときも、彼女は無意識のうちに碇シンジと舌を絡め、同時にもじもじと腰を動かしてはクリトリスを男の腹に擦りつけようとしていたのだった。
 数十秒もの口舌性交ののち、生駒アスカの唇からは陵辱者をののしる言葉はもうでてこなかった。代わりに甘く愛らしく、せっぱ詰まったすすり泣きだけが溢れるのだった。
 そうして数分のあいだ泣きながらえぐられ、奥まで穿たれたアスカは泣きながら絶頂を迎えてしまう。
 だが、絶望も、夫を裏切ってしまった哀しみも数秒と続かなかった。
 まだ精を放っていない碇シンジがピストン運動を再開させると、哀れな美囚は屈辱の涙を頬に残したままで歓びの歌を歌うのだ。
 絶望と、夫への謝罪と、碇シンジへの懇願の泣き声。
 それに続く「いい、いいのぉ、ち、ひがうの、らめ、らめなのぉ、かんじちゃ、かんじちゃらめなのぉ、あ、いい、いい、あ、ああっ、あ、ああ……ンぅ、あ、らめ、らめぇ」というひどくこどもじみた甘え声。
 それが数回繰り返されるころには、アスカのブルーの瞳には碇シンジに対する嫌悪の色などなにもなかった。
 あるのは自分を貫くものへの賛美と、従属の光だけ。
 だから碇シンジに「じゃ、アスカの中にたっぷりザーメン注いであげる」と宣言されても恐怖よりも怒りよりも強い感情に支配されていた。
 ……ああ、ああ、いま、いま射精されたらアタシ、アタシ、赤ちゃんできちゃうよぉ……。
 ……タカシさんじゃない男のひとの赤ちゃんをアタシ、妊娠しちゃうよぉ……。
 だがそう想像するだけで絶頂を迎えてしまうほどにまで、彼女は支配されていた。
 愛する人との愛の結晶のためにピルの服用を止め、さらには「結婚記念日から一週間が赤ちゃん作りに最適な周期」であることを幸運だと考えていた若妻はもうそこにはいなかった。
 そこにいるのは純粋な牝、牡のペニスを迎え入れ、子種を注がれると快楽と感じてしまう存在がそこにいた。
 だから、碇シンジのペニスから一定周期の脈動を感じたとたんにさらに甘い声を上げて、さらに高い絶頂を迎えてしまったのだった。
 全身を痙攣させ、艶やかな栗色の髪を振り乱して歓喜の声を上げてしまった。
 どくどくと押し寄せる感覚に途方もない幸福感を感じつつ、良人への罪悪感など全くないまま頬に笑みを浮かべて夢の国へと意識を落とし込んでいたのだった。

 「この調子で二週間、毎日注いであげるからね」という碇シンジの声も聞こえないまま。
 「ああ、アスカ、アスカ、ごめんね、ごめんね」という洞木ヒカリの謝罪の声(しかしその声には隠しようもない嫉妬と、落ちた偶像に安堵する響きがあった)も聞こえないまま。
 「ああ、ああ、アスカちゃん、あなたって、穢されたあなたってなんて美しいの……もう……信じられないくらい素敵よ」というマヤの虚ろな声も聞こえないまま。

 このあと二週間近く続く宴と、その先に待つ結末のことなど考えることもできずに、アスカは幸福に満ちた表情で夢を見ている。


 ……ねぇ、ファースト、アンタ「エッチなこと」したことがある?
 ……では「エッチなこと」ってなに?
 ……そ、それは、それは……「赤ちゃんを作ることにつながること」なの。

 ……「赤ちゃんを作ること」って?

 友人たちに見守られつつ、アスカは幸福に満ちた表情で夢を見ている。



 【Sweet Days に続く……】
Menu


Original text:FOXさん
From:エロ文投下用、思いつきネタスレ(6)