INNOCENT TABOO Short Shorts / トウジとアスカの場合、前段

Original text:引き気味


―― うえ、変なこと考えちゃったわ」
 アスカはつい思い浮かべてしまった内容に自分でげんなりとして、首を振った。
 何についてかといえば悪たれエロガキのムサシ、ムサシ・リー・ストラスバーグのアレについてだった。
 あれは本体の真ん中あたりが一番太くなっていて、先っちょのキノコっぽいとこよりもそちらの方がボリュームがあるくらい。
 はじめの頃―― そう振り返るロストバージンから間もない時期はシンジのソレばかり見ていたから、まるで違う濃い色合いだったのには随分驚いた物だ。
 全体的に色もそれっぽいし、たとえるならナスビに似ていると言ったら良いだろうか……。
 そうなるとシンジのは……ソーセージ?
 と、愚にも付かない連想をしてしまったのである。
 失敗だった。次に茄子料理を見た時に思い出してしまいそうだ。
「……やめておくことね。食べ物にたとえようとするのは」
「にゃっ、なにをっ!?」
 レイの一言だった。
 口にも出さない頭の中身、どうして言い当てられたのか。
 傍らからの声に、アスカの不審な態度は動転を露わにしてしまったものだった。
「な、なんのことかしら……?」
 ず、ずず……と紅茶を口に含む。ソファに腰掛けた足を組み直し、取り繕おうとしたその横顔を、小憎たらしいくらいのポーカーフェイスが毎度の友人にじっと見詰められる。白々とした視線が突き刺さる。
 そして、彼女とアスカの師匠―― 引き返せないくらいの“間違った”道に引きずり込んでくれた張本人、碇ユイが、くすりと笑っていた。
「ふふ、食べちゃうとだの味わいはだの、そんな言い方を私がしていたせいかしら」
 二人の前で自らの奔放な性遍歴からのいくつかのエピソードを披露し、今は歳若すぎる愛人たちであるムサシやケイタ、そしてアスカの同級生でもある鈴原トウジ、相田ケンスケといった面々それぞれの持ち物について、ティーカップを片手に批評をしていた美夫人。彼女、碇ユイこそは、言わばアスカにそんな連想をさせてしまった張本人なのだが。
「い、いえっ、その……。べ、別にあたしっ」
 いつもアスカが幼馴染みのシンジにしているように、都合の悪い流れを逆ギレで食ってかかって誤魔化すなどといった出方のできる相手ではなかった。
 小さな頃からお世話になっていたせいで頭はあがらないし、こんな事になってしまってもまだ尊敬しているし、そして、怖い。
 その、底知れなさが。
 なにより今問題なのは、今や一蓮托生の仲、十四という歳で漕ぎ出してしまったこのセックスまみれの禄でもない人生航路を泥舟で一緒に沈みつつある仲間のレイが、ふとした態度だけから感づいてしまったらしいことだった。
「……そう」
 アスカとしてはユイのいる前で話題に上げられることだけは避けたかった、だから黙っていた―― あることに。
「あなたは知っている……。見たことがあるのね、あの人たちのペニスを」
「うっ」
「鈴原トウジ、相田ケンスケ」
 それがまさしく図星であったから、アスカは黙り込んでぎこちなく顔をそらすしかなかったのだった。
「あの二人はあなたの母親とも関係を持っている……。だから見せてもらえたのね」
「見せて……って! 違うわよ、アタシが見せてって言ったわけじゃないわよ!! あいつらが勝手に! 帰ったらママと……だから!!」
 しどろもどろになって言い訳しようとも、目にしてしまったことは事実。
 そして、碇ユイが『トウジ君のペニスはぴんと反り返った形で硬くなるから、天井のところを丁度刺激してくれるのよ』どの『相田君は一回一回がとっても長持ちなの』だのと語ってくれたものだから、ついついいつぞや目にした母キョウコとの情交の様子を思い浮かべて、それはいったいどんな「具合」なのだろう
―― と想像を巡らせてしまっていたことも、また事実だった。

 いくら誤魔化そうとしても、ユイの『お見通しよ』という眼差しの前にあってはアスカはひたすらちっぽけな存在だ。
 赤面して俯き、黙りこくるしかなかったのだった。


◆ ◆ ◆


 それが今や―― 。一体、どうしたことか。
 あの頃はまだ羞じらいと拒絶感が全てで、いくらユイが誘おうともとんでもないこと、首を縦に振るなど思いもよらなかったというのに。
 しかし今となっては渋々ながら認めることが出来る。
 アスカは、惣流・アスカ・ラングレーは、鈴原トウジや相田ケンスケに興味を持っている。性的な意味での、興味を。
 そう、認めることが。
「ええ、そうよ。その通りだわ」
 そうだ、あの時たしかに自分は……鈴原トウジや相田ケンスケがそそり立たせたもので貫かれたならどんな心地だろうかと、自分が知っているムサシやケイタ、シンジとの違いはどんなものだろうと考えていた。舌なめずりをしていたのだ。
 嘲えばいい。
 告白を終え、さすがに屈辱に顔を歪めてそっぽを向くアスカに、その事後の火照りも冷めやらぬ背中にぴったりと寄り添って、レズプレイのお相手であったマリは『だったらさ』と囁いたものだった。

 ベッドの中でも外さない、赤いフレームの眼鏡。うなじの近くの低い場所で二つに縛っている、アスカにも負けないロングの髪。
 奔放な野良猫みたい性格をした、<レッスン>の仲間。違う教室に籍をおくメンバーだ。
 真希波マリという名に、イラストリアスというもう一つの姓。
 同年代であることの他に、西洋の血を受け継いでいる者同士ということがあってだろうか。ユイ絡みのコネクションで知り合った中ではかなりの頻度でアスカたちと共に行動することが多かった彼女は、まるでユイの説くフリーセックス論をそのまま体現したかの生き方をしている少女だった。
 ムサシやケイタのような歳下を相手にすることにも抵抗を覚えていなかったようだったし、それは同性が相手でも同じらしい。
 アスカをベッドに連れ込んだ手管は、痴漢まがいのタッチから始まって、あっという間に抵抗出来ない位くたりと力の抜けた状態まで仕上げてしまった、熟達ぶりだった。
 アスカの秘唇に埋め込んだ指先が弱点を探り出した巧みさ加減は、とても同性だからの理由だけでは済まない。
 窺わせるのは、そこまでのスキルを確保するに相応の経験豊富さだ。
 そんなマリは、あの手この手で迫ってきていた十一歳のご主人様たちの責めにとうとう屈服し、この頃晴れて肉奴隷として調教される身分に自ら落ちぶれ、ムサシたちの仲間にお披露目されてしまったアスカに強い関心を持ったらしい。
 機会を捉えて、こうして強引なベッドインに誘ってきたのである。
 そうして良いように喘がされ、何度も何度も天国を見せられて全面降伏したアスカに、同級生だと聞く鈴原トウジや相田ケンスケとも自分は愉しんでみたことがあるのだけれどもと切り出して、尋ねてきたのだ?
 『姫ってば、なんでトウジくんとかとはシてないの?』と。

―― じゃ、興味はばっちり持ってるってことでOKなんだ」
「ええ、ええ、そうよ! 何よ、文句ある! あ、あたしは……あいつらなんかのちおんちんまで、入れてみたいって……思っちゃってる変態娘なのよ! そうなっちゃったんだから、されちゃったんだから、仕方無いでしょう!」
 アスカは逆上した顔の真っ赤さで喚いた。
「だって、ママまであいつらとセックスしてて―― 気持ちいい、気持ちいいって言うんじゃない!」
「別に隠すことじゃないと思うけどにゃー。そりゃ世間様相手におおっぴらに言っちゃうのは問題かもだけど、トウジ君もケンスケ君もここの仲間なんだし。さっさと誘っちゃえば悶々とせずに済んでたのに。姫、学校じゃ人気者なんでしょ? 二人とも大喜び間違い無しで、姫もスッキリだよ?」
 あっけらかんと言うマリなら、そうしたのだろう。
 何の躊躇もなく、思いついたままアスカにそうしたように。
「あー、同級生だから? ガッコでの付き合いがある分、恥ずかしいって?」
「…………」
 沈黙の方がよっぽど雄弁だった。
「面倒くさいお姫様だにゃー」
 からかう口ぶりで、汗まみれの乳房をマリの手が揉んでくる。
「……うるっ、さい」
「ムサシくんとケイタくんとかにはさ、奴隷ちゃんなんて言わせてるし。首輪つけて本物のニャンコちゃんみたいに四つん這いで歩かされたり、マゾマゾなシチュで随分愉しんでたみたいだったけどー」
「だから、うるさいっての!」
 アスカが手を払いのけるたびに、マリは彼女の痛いところを突いてくるようだった。
「トウジくんのおちんちん、関西系だよ?」
「……なによそれ、わけ分かんない」
「ケンスケくんはホンっとねちっこいし。ほっといたら一時間でも二時間でもオマンコ舐めてるんじゃないかなー。それに、調子に乗ってくると人のお尻ペンペンしたがるしね。マゾマゾな姫とは相性良いかもよ〜?」
 そこまで耳元で囁いて、そして唆したのだった。
「だったらさ、お膳立て……してあげよっか? 姫が面と向かってスルのが恥ずかしいっていうなら、そこら変全部ちゃーんと問題クリアして」
 思えばまさしく、チェシャ猫の笑み。そして、メフィストフェレスの誘いだった。
 


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