畜類め、繁りやがれ! 14

Original text:LHS廚さん


 


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「そう言えば、サツキさんは何時からお二人の絡みを覗いてたんですか?」
「か、絡みって……」
「いいのかな……ま、いいか。  えっとね、まさにシンジ君に処女散らされる瞬間あたり」

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一応、ちょっと躊躇いはしたのよ?
シンジ君の安全の為に丸ごと閉鎖されてるブロックの中にあるとはいえ、男風呂に入るのは初めてだし、盛り上がったリツコさんがシンジ君と始めてしまってるかもしれないのに。
ここ数ヶ月に想像したいやらしい予感は、すべて実現してしまってるのに。

まず女風呂を覗いて、二人が居ない事を確認して、さらに数分間の躊躇の後。
あたしは腹をくくって、扉をくぐった。

 

「……やっぱり」

シンジ君のやさしさか、二枚重ねのバスタオルと彼の体の板ばさみになったリツコ主任の31歳の豊満な肉体は、彼のコントロールの元、快感の供給を受け取っていた。
製造を一気に引き受けているシンジ君に手足すべてを絡ませて、半分の年齢の子供からなりふり構わず、求めるものをすべて吸い取っているように、見えたわ。


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なにより、その表情は、ようやく手に入れた幸せを噛み締めているみたいだった。

今まで手に入れられなかったものを、大切に抱き締めているような。
本当に、ようやく、やっと。
時々噂になっていた碇司令との関係ですら満足できてなかった、と言っているような。
快感と一緒に、どことなく何かに甘えているような……。
とても、満たされてる感じ。

こんな時に、そう感じるのはおかしいとは思うけど。

でも、お父さんに抱っこされているような、そんな気にさせるものが、あったわ。
あの時、快感の間に見えた微笑は。

甘える事をようやく知った、子供みたいだった。

 

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主任は少しの間『こども』を楽しんだ後。
そっと、両手を広げて。

「リツコを貴方の女にして」


それが、合図。


  えっと……その先も説明しなきゃ…駄目、だよね、やっぱり。

シンジ君はそっと主任を抱きしめた後、腋の下に手を入れて、肩を抱えて。
やっぱり場数を踏んでるからかな、一寸ずらしただけで入り口を見つけて、顔中にキスを何度もしながら入って行ったわ。

えっと、アタマの部分が本当に見えなくなった時小さく『ひぎぃ!』って悲鳴を主任が上げて、シンジ君の背中に爪を立てたの。
それに合わせて征服していく彼のと繋がって行く花弁の辺りから、薄くなった血が漏れて、ああ、やっぱり処女って血が出るんなんだな』って、変に感動しちゃった。

え? 私? 実は殆ど出なかっ……って。 ま、まぁその辺は一寸後にしましょ。


時間にして三分ぐらい掛かって主任の『開通』は成功。
さっきと違って顔と涙と体全体で痛みを表現するリツコさんを抱きしめて、シンジ君はずっと動かなかった。

ただ抱きしめるだけじゃなくて、涙をキスで拭い取ってあげるとか、脇腹の辺りからそっと乳房を押し上げるように集めて少しだけ色素が付いた乳首をくわえたり。


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  一寸だけ感動したのはペンダントね、右腋に垂れてた。
シンジ君がそれに気付いたとき、ちょうどそこに歯型……つまり前のオトコの影が見えちゃったとき。

主任、酷く慌てちゃって。

『あ、その、こ、これは……』って。

まぁ、初めてなのに、そんなところに傷、それも歯型があるって言うのも、ねぇ。
でも、シンジ君は『多少は嫉妬しますけど、そんなに気にしなくても大丈夫ですよ』って。

 

『それよりも、このペンダント、してくれてるんですね……。こっちのほうが、よっぽど、嬉しいです……それに』
『……え?』
『花言葉のとおりに、なっちゃいましたね?』

 

「赤木リツコ」と言う花はこの瞬間、満面に咲き誇った気がした。
一瞬にして真紅に染まった表情は、最高にきれいだった。
『この人を選んでよかった』と両手、両足、シンジ君のほほにすり合わせている額。
体全部を使って、たった今、自分が感じている幸福を彼に伝えている。


一方のシンジ君は気障な感じもしたけど。
リツコさんと同じくらいに真っ赤な顔をして。
お風呂場の鏡越しに写る、照れたような、満面の笑みは本心からしゃべっている証。
彼女は何時もの主任ではあり得ない素直な感動を体全体で表して。
満面の笑みはシンジ君が主任の中でイクまでそのままだった。

 

最高の初体験……ちょっと、って言うか……かなり、羨ましかったな。

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  どことなく、恥ずかしかった。
特にそちらの意味もなく手渡したペンダントが、こんなにも大きな意味を持っていたなんて。
真っ赤になった頬をすり合わせて、精一杯甘えてくるリツコさんが、妙に可愛くて、いとおしくて。

僕を求めて手も、足も、『僕』を覚えようとして必死に締め付けてくるあそこも。
言葉がなくても、気持ちが伝わってくる、って言うのが実感できた。

「汚れた時、初めて判る気持ちは、うれしい物もあるのね」
「え?」
「この前、ミサト達と友達の結婚式に行ったの。
 丁度……あなたが、ヒカリちゃんと初体験をしていた、あの日ね」

話を真剣に聞きたかったから、体重をかけないようにしながらリツコさんと目を合わせる。
潤みきった瞳の奥に、しっかりとした決意を感じる。

「披露宴が終わって……落ち着きたくて三人一緒に喫茶店に行ったの。
 加持君からね、お土産を貰ったけの。 結構良いデザインのアクセサリーだったけど……。
 『残念だけど』っていって、返しちゃった」

そういって、リツコさんは胸に載せたペンダントを心臓に押し付けるしぐさをして。
こんな時の『会話』に……少しなれた僕でも真っ赤になるしかない『告白』をしてくれた。

「その時、このペンダントはもう私の首に掛かっていたから。アスカにあなたの心が向いていたとしても。
 アスカに振られて、霧島さんとか、マリイさんとか。 他の人の元へ気持ちが向いていっても。 この『鎖』で私の心は縛られてたから。 嫉妬は、していたけど」


「けどね。 それでも良かった。 私は歳とか、さっきの歯形とか、色々あったから。
 嫌われてしまうかもしれないけど、覚悟して言うわ。 あれを付けたの……碇司令なの」
「え?!」

その後の告白は、かなり効いた、と思う。
加持さんへの初恋に、父さんとの馴れ初め。
求めていた気持ちと、母さんしか愛せなかった父さん。
僕に父さんを責める事は出来ないけど、でも。

「……たとえ初恋の人がくれたペンダントでも。 今の私には何よりも大切なものが既にあるから。
 だから、私は、返したの……初めて、私だけの為に贈られたプレゼントだったから」

さっきまでの告白で感じていた気持ち悪さがすっと消えていく。
過去は変えられないけど、彼女は今、加持さんより、父さんよりも、僕を選んでくれた。
僕が好きな女性ひとが何人も居る事を承知の上で。
それが、ただ、うれしい。

「だから、私の、今の答えは、あのペンダントを拒んだ時、出たの。

 私の気持ちは今の『赤木リツコ』の全てと、このペンダント、で育ったの。
 胸の中、頭脳あたまの中。  ぜんぶを使って。
 あの日、レイのカードを渡した時の、シンジ君の手のぬくもりで生まれて、
 気持ちがこもったペンダントと……ケーキを食べて、おおきくなったの。

 今なら、泣きぼくろの話を加持君が言ってきたとしても、はっきり言えるわ。
 『誇りを持って言えるわ。 今、好きな人が居ます』って」


僕は、ただ、抱きしめる事しか出来なかった。

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とある中学の教室。

文章で表せば、単語数語レベルのはずの空間。
一応、妙に大きい体格の生徒がいるとか、異常なまでに胸が大きい女子とかは……。
ま、まぁ居るけど……たいした事じゃ、ないな、これは。

 

ある種の動物が季節ごとに抜け替わるような、そんな風に一人が「金髪にはえ変わった」結果、どう見ても巨乳な日本人は山岸だけになってしまった……まぁ、それも十分妙だけど。

少なくとも、これが広まる理由があるとすれば。 深夜枠を持っている、お色気OKなバラエティー番組の製作者たちを喜ばせる原因となるだけ。
あるいは、俺が撮っていた写真を元に、自分用の彼女達を創って想像を広げてきた連中。
いずれにせよ、女性に対する下心以外に、このクラスに興味をもつ男は居ないだろう。

 

……ここ最近、あいつに起きている事を、除けば。


特に美形って訳でも無ければ、性格が良かった、という訳でもなし。
正直に言えば、洞木と霧島以外の面子があそこに居るのは、妙といえば、妙。
特に惣流は、某無精ヒゲ男が目指す相手だったはず。


「あーん」
「……本当に、やるの? アスカぁ」
「シンジ……もしかして、いや?」
「そ、そうじゃなくって。 僕がアスカから受け取るってことは」
「もちろん、わたくし達も」
「やらせてもらう事になっているの……シンジ君」


だから、屋上で、こんな騒ぎに発展することなんて、無いはずだったのに。


 昨日までとは違う、一日。 いや……違う、という台詞ではすまない。
落ち込みまくりの彼女たちの変化は尋常ではなかったのだから。

シンジはこの一月に学校であったことを聞くたび、真っ青になったり真っ赤になったり。

綾波がよく微笑むようになったとか。
惣流がげた箱に入っている手紙の送り主にシンジが好きなの、と片端からいって回ったとか。
残りのメンバーがとばっちりを食って――手紙だのが届くようになったこと。


山岸に振られた奴が言ってたっけ。

――鈍感な奴って言われてたんだから、最後まで鈍感なままでいてくれよ――

 

そんな連中に嫌気がさしたのか、それとも入院中のシンジの元へ行く気になったのか。
次第に皆、登校して来なくなったこと……。


シンジはしゃべらない。
複雑な心境、というやつではなく……鳥の餌付けのように、箸が彼の口に運ばれていくからではあるが。
トウジは、ちょっと複雑な顔で、輝くような笑顔の綾波を、眺めている。

 

「ま、ひがみ根性みたいな……っておい、気を失ってないだろうな!?」

シンジの唇から海老の尻尾が飛び出し、レタスらしい葉だのが見え隠れ。
それでも咀嚼している所を見せないように、文字通り必死に噛み、飲み下していた。

そんなこいつに気づいていないのか、箸の先にはさまれた次なるおかずが迫っている。
こりゃまさに餌付けだ。 箸が親鳥のくちばしに見える気もする。


「あんな、惣流」
「何か変なの?」
「気持ちは判らんでも無いけど、せめて前の奴が放り込んだのセンセが飲み込んでからな、次のを入れたらどうや? 正直な話、今まで見境無くぶち込んだせいで……センセの口の中、みんなの料理が混じり合って味わってたべれる状態やなさそうやし、マズイとはいわんがウマイとも判断でけへんのとちゃうか?」


トウジの反応にうーん、と考え込む一同。


「やっぱり変わったよ、惣流は特に」
「なによぉ」
「いい意味で、っていってるつもりなんだからとんがるなよ。
 トウジの今言った台詞。 以前の惣流なら内容が正しかったとしても噛み付きまくってたぜ。
 余計な事を言わないでよ、この馬鹿ジャージとか言って」


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ほぼ同じ時間。 ジオフロント内・第二発令所。


部長のたっての願いを聞いてくれたシンジ君のお手製重箱弁当(三佐の分も込みで四人分)。
あの時のように、一斉に無数の手を引きつれて伸びてくるハシ、はし、箸。

「今回はちゃんと私達の好みに」
「って言うか、サツキ達の好みなのよ」

そしてゾロゾロと現れるにわか批評家。
マヒルとかミナモあたりならまぁ、この前巻き込んだから良いとしても。
何でこんなに群がってくるのだろう。
箸がくちばしの様についばんでいくのを三佐込みで眺めてるしかないのかしら。

「多分違いますよ? サツキさんはもう少し濃いほうが好みのはずです」
「あ、そうか。 コスズちゃん達付き合い長いもんね」

と、いうことわぁ、と妙なにっこり顔で一同の視線が一点に注がれる。 つまり、私の隣の主任に。

「うらやましいですぅ」
「!?!(&&%&☆=〜−0gwsmt+*(;゚Д゚)◎■△☆★!!!」

耳元で葛城さんが出した妙な猫なで声に技術部長が珈琲を噴く。
妙な水芸と咳き込む音。 カスミの『大丈夫ですか?!』が続くことしばし。

「あなたは加持くんと結婚するつもりなんでしょうが!」

リツコさんの渾身の仕返しは十二分に効果を発揮し。
彼女が女子職員の羨望と、一人の寂しげな視線から開放されるまで、しばらくかかる事になる。


でも、葛城さん自身、あまり嬉しく無かったみたいだけど、どうしたんだろう……。

 


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「酷く、もまれちゃいましたね」
「幸せ、ってこういうものなのかしら」

あたしの苦笑に力なく答える三佐。
疲労と羨望とかすかな興味をごっちゃにしたような表情は、今までの葛城さんとは違う。
まるで、別れ話を切り出されてしまった女のよう。


「ねぇ、サツキちゃんもシンちゃんとその、した事あるのよね?」
「……ええ」
「どうして、シンちゃんはあんなにモテるの? とくに」
「あたし達が、彼をいい男へ『育て上げよう』としているから、かも知れません」
「そだてる?」

 

シンジ君は、初めての彼女としてヒカリちゃんと結ばれる前から。
何より、この数週間で成長しようと努力している。

体術ではアスカちゃんにマナちゃん。
基礎学習にはマリイちゃん、あたし達。
食事などのサポートは洞木姉妹の役目。

シンジ君が与えるものは? Sexの快感だけ?
違うと思う。

リツコさんのような、恋する淑女?
それだけじゃない。


全員の気持ちにこたえるべく努力しているシンジ君。
以前あたし自身が言った。 『貴方にはちゃんと勇気もあるし決断も出来る』って。

シンジ君は成長できるし、今、恋人達の為に、確実な努力をしてくれている。
勿論、自分の為でもある――あたし達は彼をメイドというか執事?みたいにしたいとは思っていない――し。


「でも、シンジ君の周りにたくさんの女性がいるのに」
「それ、本人にも言われちゃいましたよ」
「なんですって?!」
「今の僕は、ベッドの上以外で愛してる、なんて言えない男なんですよ?良いんですか?って」

口を大きく開けた三佐にあたしのほうから打ち明ける。


シンジ君のほうから増やしていった訳では、無いこと。
あたしにいたっては、みんなの承認をもらって参加したこと。
何より、望んでこの関係に加わった人が全てであって、それが厭な人は誰もいないこと。


葛城さんは、何も言わない。


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ショックだった。


『ここは貴方の家なの』

あの時、初めて家に来たシンジ君に言ったのは、嘘じゃなかった。
本気だった。


あの時、車を飛ばして送還されかかっていたシンジ君の元に行ったのも。
シンジ君に言ったセリフの内容も。
本気だった。


JAの時も、アスカが家で暮らすようになったときも、三佐へ昇進したトキも。
隠したいことや隠さなければならない事が幾つかあったにせよ、本気で接していた。


デモ、オイテキボリニサレタキガスル。

 

 

 吹雪の中、整然と並ぶエントリープラグ。
ボロボロになりながら、それでも娘を助けてくれたお父さん。

JAの中。  紅いライト。
用意された奇跡を知らず、あたしを心配してくれた彼。

次は、外から見た脱出カプセル。
今度は逆。 扉が開くことが、絶望への入り口。
開いた扉。

青くなって何もできなかった自分と。
あたしと違って気持ちを隠さずに、初号機にぶつけて行ったリツ……?

 


あ、あたし、いま、何を考えたの?!


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あれから数日が過ぎた。

あたしの内心の動揺と寝不足を余所に、他の面々はシンちゃんとの逢瀬を愉しんでいる。
ヒカリちゃんとご飯を造ったり、リツコとお茶を飲んだり、マナちゃんとマンション屋上で護身術の訓練をしてみたり。

シンちゃん自身は何かと気にしてくれるけど、それがある事実を鮮明にさせてくれる。
自分が何時の間にか、自分の家でよそ者的な立場になっていっていることを。

特に、夜は酷く寂しい。
あたしが寝静まったと思ってる時間帯に、こっそりドアが開く。
シンちゃんの配慮か、他の誰かが決めたのか。
いずれにせよ、あたしが邪魔するはずの無い事で、こうも遠慮されることも。

あたしに嫌な気持ちをさせる事に気付いていないのだろうか。
事実、あの日からシンちゃんとの関係以上に加持君との関係はギクシャクしている。

 

ううん、多分違う。

身も心も大人になろうと努力するシンちゃんが、今のあたしには、とても、眩しく見えるんだ。

手に入れる事の出来なくなっていく彼を、見ているのが、つらいんだ。

 

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父にマヤの頼みを(微妙に自分の想いの分を足した)日の夜。


あの日を思い出す。

母と一緒に山のコテージに居たはずだった。
今は、海岸にいる。

私を助けてくれていた母の体は、もう体温なんか無くなっていた。
津波が、あの日起きた津波が、母の体を打ち砕いていたんだろう。

その内、助けに来てくれた人達によって、私は運ばれていった。
母は、そのままにされた。
あの時の状況を考えたら、そうされるのは当たり前だった。
けど、私は泣き叫んで、必死になって、母の亡骸に手を伸ばす。

そのとき、初めて雲海の隙間から日がさして。

流された木に引っかかっていた……シンジ君を私の瞳に映させた。

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ジオフロント内・仮眠室。
私はまた、あの夢を見ていた。

 

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真実や嘘の在り処……私には見えない―――。


チェーホフ・『櫻の園』より。

 

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正直な言い方をすれば、碇シンジ君に対して恋愛感情と呼べるものを最初、持っていなかった。
いや、もっと広げて好意、と言うレベルにすれば……全く持っていないとは思わない……けど、私が相手にするには彼は年下だし、何よりも身も心も弱かった。

少しだけ、みんなが見直したと言う綾波さんとのコミュニケーションも、私には当たり前にしか見えなかったのだから。


いずれにせよ、私が彼に対して持っていた気持ちが微妙に変わっていくきっかけを作ったのは、アスカ達の誕生日にシンジ君が仕掛けた、告白の失敗だったのかも、知れない。


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あの小さなパーティーに参加した理由は、二人に対する義理以外は、大したことではなかった。
積極的に行く理由となったのも、日向君が誘ってくれたせいでしかなかったのよ。
招待されたとはいえ片思いの相手でもあるミサトさんの家に行くのが、ちょっと尻込みするせいだったのだろう。

意外だったのは、出鱈目な食生活をしていると思っていた彼女が本気を出せば、料理はかなり上のレベルだったことだ。

 

主任の話によると、葛城さんの食生活とお酒には、父親譲りの頑固とした拘りがあるという。
すなわち、『食べる事と呑む事は楽しく。 でも喋り以外の音は静かに』。

だから、ご飯以外の食べ物――要するにおかず――には、噛む音がしない冷奴に始まってお味噌汁やお刺身など、和洋中……とにかく静かに食べるもの中心だったという。
(何も知らなかったからこそ、葛城さんが包丁でタイを手早くさばき、お皿に盛って行くのには驚いたの)

 


そんな中、私は目の前に広がる倒錯的な現実に固まることになる。

夏しかない今の日本にはかなりの違和感を感じさせる長袖&長いスカート。
白と黒に近い藍色のツートンカラー。 長袖の先やえりを飾るレースの模様。
おそらく葛城さんとマヤが仕組んだのだろう、化粧が施された顔と、唇に淡く塗られたルージュ。
頭にちょこんと乗っけられた、彼の黒髪に映えるレースのプリム。

葛城さんの料理を運ぶ、小さな掌につながる、きれいに磨かれたお盆。

 

他の人たちは、『メイド』というべき格好をした彼に固まっているだろう。

私の事情は少しだけ違う。
母の仕事は、間違いなく、メイドだったからだ。

そして、少しだけ髪を伸ばせば。
母と瓜二つだったからだ。

 


ちなみに、アスカへの『告白』はその格好のせいなのか……失敗することになる。


そんな日々が続き。

ある日のこと。  私はあの日の自分に会った。


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ボクは憂鬱だった。
特に理由も無く、というわけじゃない。
あの日以来、シンジさんがボクに触れていないからだ。

冬月さんと言う偉い人が、ボクのためにD級勤務者という資格を用意してくれたお陰で、あのひとが今いる初号機、と言うEvaに手を触れられるところまで近づくことは出来る。

でも、それだけ。

アスカさんや姉、マリイねえ達より、ボクは遠いところにいる。
触れられただけ、だから。
シンジさんの温もりは体の表面にしか、しみこんでいないから。

だから、今、ボクはここにいる。
シンジさんの傍にいる事が、どうしても出来ないときがある時、ボクはここに来る。
誰が作っているのかは知らないけど、大きく実ったスイカや、大根などの野菜が並ぶ畑。
そこに設置された、ベンチの一つ。

今日は、そこに先客が一人いた。


「えっと、洞木さんの妹さん……」
「はい、ノゾミです。 阿賀野カエデさん、ですよね?」

彼女は根掘り葉掘り、シンジさんとボクの事を聞いていた。
なれ初め、姉と一緒にした再会。
ヒカリ姉が彼を受け入れた日、その翌日の真剣そうな顔。

『単刀直入に言いますわ。 「子供」か「好きな女性」。 どちらの意味でシンジさんの傍に居たいですか?』
『好きな人という意味では、姉がいます……シンジさんの傍にはいられないと思うんです』
『奪い取れ、とは言いませんが。 彼のそばに居たくないのですか?』
『……居たい、です。 もう一度、誰かを好きになれるときま』
『違います。 シンジさんの傍にずっと、居たくありませんか? たとえ世間がそう簡単に認めない関係でも。
 勿論、他の誰かを好きになるのも貴女の自由ですが。 そう簡単に諦めますの?』
『姉さんに……「姉、負けない」……って、言って良いんですか?』
『決めるのは、貴女です』

マリイさんとかわした、あの電話も、全部。

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あの日から、お昼をあの畑の前にあるベンチでカエデさんと過ごすようになった。

カエデさんのシンジさんへの気持ちが聞けたのは、3日目のとき。

カエデさんのお母さんが本物のメイドさんだった事には驚いたし、セカンドインパクトの被害で家族を失った人の話をTVのニュースとかじゃなく、体験した人から生で聞いたのも、初めてだった。

お母さんの冷たくなった体から引き離されたことを聞いた時、流石に泣いちゃって。
カエデさんを酷く困らせたことは、すこし恥ずかしい思い出になった。

一寸だけ後悔した、と言う処女喪失の話とか、伊吹さんの勧めでNervに入った事も聞いたりもした。


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今日は、シンジさんのことを気になりだした理由を聞いてる。

「えっと、シンジさんがあのメイド服を着た理由は……ミサトさんの復讐、だそうです」
「あれが?」

ミサトさんがメイド服を持っていた理由そのものは聞けなかったけど、マヤさんと二人でシンジさんを着飾った理由は、聞いてるの。

アスカさんにプレゼントする筈のブローチがあと一寸のところで出来上がらなかったこととか、製作に集中していたせいでケーキとかを忘れてたり、ミサトさんの誕生日を祝わないのもおかしい、と言うマヤさんの話もあって8日に一緒に祝うことになった。

そうしたら今度は、パーティーの直前にミサトさんへのプレゼントを忘れてしまっていたみたいで。

『じゃあ、今決めちゃうわよん。 あたしの誕生日プレゼントは……これに仮装したシンちゃん!』

彼女の気紛れが、あのメイド姿のシンジさんを生み出した原因だって、本人が話してくれたの。

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この日も、ボク達はお弁当を食べる。

目の前の大人はこの数日で一気に喋らなくなった。

誰かに似ている、というのは恋の出発点としては、おかしくないと思うけど
その対象になった理由が問題だといえるかもしれない。

自分を助けて亡くなったお母さん――女性にそっくりと言われるのはシンジさん自身一寸困るだろうけど――お母さんに対する想いと恋を取り違えてる、と思われても仕方が無いのかもしれない。

でも、一寸意外と思っていたのも本当。
ここにはマヤさんがリーダーという女性同性愛のグループが存在すると言われるくらいに、性に関することがオープンに語られている場所と聞いていたのに。


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翌日。


「おや、意外な取り合わせだね」
「あ、冬月のおじさま」
「ふっ、副司令っ!」

この日、ボクはおじ様に恋の話を聞いてみたのは、興味だけだったんだけど。
ちょっと、嫌な話になってしまった。
おじ様が好きだった人は、シンジさんのお母さんだったから。

「まぁ……恋、というのとは違うかもしれんのだけどね」

そういって始まったおじ様の告白はすごかった。

一通の「刺激的な」レポートから始まった興味。
もしかしたら、と言う気持ちになった時に言われた、シンジさんのお父さんと付き合っているという告白。
ミサトさんを助けた頃に受け取ったという、結婚したという事実。


複雑な気分になっちゃった。
誰かの恋路をきいたのは、これで三人目だから。

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  今日はマヤさんがボクの隣にいる。

「えっとね、もし男の人が出そうに成って、それが嫌なら」
「嫌なら?」

マヤさんは実にリアルな手つきであそこの形に合わせて手を丸めて、おちんちんの付け根を裏側から、もうすくし少し強くしたら潰れちゃうんじゃないかなと思えるぎりぎりのラインで

「ここをきゅっと押さえるの。 多少強めにやらないといけないけどね」
「うわぁぁぁ。 なんかリアルですねぇ……」
「それは、経験者だもの」

その何気ない一言は、しっかりとボクの気持ちに小さい穴を作っていく。

 

またある日。

「お? 最近ここに居る子って君のことだったのか?」
「あ、加持さん」
「私も、いるんですけど」
「忘れて無いって、カエデちゃんの事も」」

「シンジ君は、優しくしてくれたかい?」
「どうなんでしょうか。 他の人と比べた事なんて、無いですし、何より出来ませんから」
「じゃあ俺と……」

直後、ミサトさんの拳骨を食らった加持さんはぐらつく首を撫でながら連行されていった。
かなり羨ましかったのを覚えてる。
大人になっても、ボクがシンジさんにじゃれ合い以上の意味で叩いたりするのは無理だとおもうから。
その程度の絆も、彼とボクにはまだなさそうだから。

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  この日の混乱の最初は、大した理由もなく始まった。

「ミサト。 加持君はどこ」
「知らないわよ。 この数日、あいつアタシが機嫌悪いのを知って近付きもしないもの」
「本当に?」
「……何かやったの?あいつ」

赤木リツコは親友の問いに事実のみを使って答えていった。

「冬月副司令が拉致されたわ。 本部外に昼食を食べに出掛けた先で。
 ああ、保安部は何をしてたの、とか言わないでね。
 最近話し相手になってもらったお礼、って理由で連れて行ったノゾミちゃんを人質にされた上に、加持君のテクニックがあれば不可能じゃないわ」

苦々しげに歪む表情。
デスクの上におかれる拳銃。

「あたしは関わっていない、と言っても信じて貰えないのは判ってるわ。
 何処へでもどうぞ」
「御免なさい、でも今回のやり方だけは許せないの。 ……丁重に連れて行って」

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ドアの傍で起きた音に瞼を開けると、加持さんがトレーを持ってお食事を持ってきてくれていた。

「巻き込んでしまったのは済まないと思ってる」

その言葉に合わせるように、思い出す。


加持さんともう一人の黒人の保安部員さんと、ボクとおじ様、四人で本部を出て。
車を降りた先にあったのは、以前アスカさんが加持さんに振られた場所と同じ名前のレストラン。
後ろで聞こえた「成る程、ここが『出入り口』か」と言うおじ様の声。
レストランに入った途端に崩れ落ちる保安部の人。
外からドアを壊す勢いで叩く男の人達の怒号と、ボクの口に押し付けられた、臭うハンカチ。
気を失う寸前に聞こえたのは、『この子の安全さえ保障すれば何処へでも……』というおじ様の声だった。

「なぜ、こんな事をしたんですか?」
「知りたい事があるからさ。 ミサトに嫌われても。 でも、後悔はしまくりなんだけどね」

 

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真っ暗と言ってもいい部屋。

「リツコのやつ。 あたしがこういう部屋苦手にしているのを知っているくせに……」

赤い、自分が所属している組織のマーキングを振り返って眺めて。
容疑をかけられている者の一人は、呟く。

「知っているから、かもね」

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青味がかったクリーム色の壁に囲まれた空間。
その中心にぽつん、とある椅子に座って。

躊躇もせずに自分が持ってきたお昼をもくもくと口を動かし食べているボクに、加持さんは驚いているようだった。

「心配してないのかい? 毒とかそういう薬の類をまぜた、とか」

軽く首を振って、ボクは違うと答える。
冬月のおじ様が言った言葉がこの人に言ったものなら、多分加持さんはちゃんと守ってくれる。
そう信じたい。

「加持さんのことは信じてます。 それに」


他の人がボクを攻撃したり強姦しても、ボクはシンジさんの元に帰りたい。
帰れると信じてる。 何の根拠もないけど。
だから。

 

以前どこかで読んだ本の一節をそのまま彼にぶつける。

「『信じる』って、そういう事だと思いますから」

ボクの名前にも繋がった、心に詰まった、たった一つのノゾミを信じて。

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 腕の中に眠る女は、つい数日前まで乙女……子供だったはず。
それが、たった数日で痛みを振り切り、自分の中にある気持ちいいところを見つけ、
今では、十年来の恋人のように、俺に抱きついて扇風機なんか意味の無い暑さと熱さを与えてくる。

彼女はもし、俺も初めてだったことを知ったらどんな顔をするだろう。

夕立の雨に濡れて、淡くて薄い紺のブラウスが透けてなかったら。
長い間我慢していた理性が、ぷつりと途切れて。

その先は、今まで知らなかった事ばかりで、よく覚えてない。

「初体験は、忘れないもんだと思ってたんだけどなぁ……」
「……お父さん……」

そのときの寝言は、大した意味を持ってないと思っていた。

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ある日の深夜にならんとする、そんな時間。

よく喋る親戚の家から二人の娘を自家用車に乗せて帰宅していた洞木シズナは、車のガラス越しに見慣れた背格好の少女が傘をくるくる回しながら同じ方向へ向かっているのを発見した。
失った妻の面影が一番色濃く残っている、中学生の次女だ。

彼は父親として、十四歳の娘が出歩いてはいけない時間であることを注意しつつ、車に乗せて一緒に帰ろうとした。

 

確かに、彼女は自分の娘だった。

顔には傷もないし、娘を預けた男の子、シンジ君と喧嘩したような跡も無い。
ふとした事でとれた、というボタンの代わりに安全ピンを使って胸元を留めている事以外には、変な事は無い、はず。
父親の顔を見て、『彼の家に雨宿りさせてもらった』という説明に後部座席で退屈そうにしていた長女はさまざまな言葉を駆使して、妹をからかっている。

でも、簡単な小言以上のせりふを彼は言えなかった。

人は時として、「変ったね」と他人に形容されてしまうほどに変化することがある事は知っていた。
けど。

その変化が、どうしようも無く,『色』を彼女に与えていたことは。
その『色』が亡くなった妻をどうしようも無く思い出させることは、言えなかった。


『失色』などという言葉は、無いのだから。

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とある酒場のカウンターで行われた会話。

「ほほう。 私との付き合いを無視した挙句、一週間も雲隠れして何をしていたのかと思えば、文字通り」
「はい、何だったのです」
「そんなこと自慢しない! ニタニタした顔で、それも絆創膏なんて張りまくって!」
「いや、やってみたかったのよ、この隠し方。 でさ」
「いやよ?」
「な、何を言おうとしているか「休んでた間の講義分のノート貸してくれないか、でしょ?」……う」

沈黙は焼き鳥の焼ける音とビールが注がれる音、何より他人の喧騒で掻き消える。

「良いわ。 但し、その男を紹介しなさい」
「いいわよん。 今日、アイツと会う約束してるし……獲らないでよ」
「獲らないわよ。 今のところ、恋に興味、それほどないから……でも、ひとつ教えて」
「?」
「その人を選んだ理由、って、何?」

人肌程度に暖まった冷酒を飲み干すもう一人。

「見た事ある懐かしさ、って言うか。 匂いっていうか……ま、そんなのよ」
「懐かしさ? あの日以来いまだに顔が思い出せないお父さん、って感じ?」
「多分違うわ。 だってアイツ、無精ひげだもの」
「は?」

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とある一日の始まり。

彼女は、自分が始めてみる姉の姿にポカン、としていた。
一枚の絆創膏を、貼ろうか貼るまいか悩んでいる姉の姿である。

幾度か軽く内出血の跡に当てては戻し、また貼ってみる、という行為を繰り返していた彼女の指が止まって。
鏡に映った唇がしっかりと声なき声を刻んだ瞬間、黒いカーテンが一気にそれをかき消していく。
何年もつけていた母の形見、飾り珠の付いたゴムによって出来たウェーブと、いつの間にか自分と同じ色、金色が混じり始めていた髪が妙なアクセントになっているカーテン。

『うん。 彼が変ってくれるのなら……変わらなきゃ、私も』

年の近い姉の瞳は、揺るがない自信を手に入れ、鏡越しの妹を見つけても驚かなかった。
そのまま、いつも通りの朝食を作っていく。

いつもと同じ朝食。
いつもと変らない、母さんの味に最も近いらしい朝食。
でも。

三姉妹用としては大きくて、父用としては一寸小さい、新しいお弁当箱がその日から、増えていた。

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そもそもの発端は、チルドレンの自衛力の確保だった。

第九使徒戦の時、人間の手によって壊された本部の異常事態の『反省会』は
途中から、日向二尉が選挙カーを半ばジャックして進入したことに意見が集中した。
チルドレンが彼の声をちゃんと聞いていたことも、それを後押ししていく。

『自衛目的限定でチルドレンを武装』させるという議題に。

紆余曲折の話し合いの後、この騒動は第十一使徒戦直後に終結した。

当初、保安部は特に反対した――自分達が無能と言われてるようなものだからだ――葛城三佐も反対した。
しかし、霧島嬢の一件が、彼女達の口を塞ぐこととなる。

実弾を撃たせる気がない事では碇や私、加持君等も一致した意見を持っていた事と、暴発などによる負傷を考慮に入れ、また大した射撃技術もなしに銃を使わせられない事から圧搾空気で帯電したピンポン玉大のボールを撃ち出す『スタン・ランチャー』を急遽開発することになった。

冬月メモ・会議ナンバー2016-0015より。

 

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 彼は『無能』だ。

 

そう明言されるには、一寸だけ状況が不幸だったろう。

どうせ直ぐ殺すのだ、という考え方から『情報搬入口』で拉致していた少女に
男を教えてやるのも面白いか、と手を出してみたところで。 破けたシャツ越しに見えた別の『男』を意味するキスマークに目を奪われた隙に後ろから殴り倒された。

名誉回復のため、と追跡行に志願したものの、彼の頭には怒りと言う感情の揺らぎしかなかった。
自分が犯そうとした暴行と強姦は棚に上げられ、自分を少女から奪い取った俺に対する怒りが、彼を動かしていたらしい。

直後、『年老いた学者』と『何の能力も無い子供』が足枷としてくっついている事を知った彼は、暴行犯射殺許可と一緒に狂喜しただろう。
彼の楽しみを奪った男を大手を振って殺せるし、少女に本当の男の味を教えてやれそうだからだ。

それからの彼は有能な能力を遺憾なく発揮し、ある廃工場のファンの傍まで一気に追い詰め、銃弾一発で俺の能力を押さえ込んだ。

いよいよ殺せる、と血に飢え、頭に十分以上の量を昇らせた彼は。

 

目の前の標的が発した「よう、遅かったじゃないか」という声の意味に全く気づく暇も無く。


真上から重力以上の加速で撃ち出され、振ってきた弾によるショックをもろに受け、意識を失った。

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  午後6時50分。
第八階層の喫茶室「ひやしんす」。


アスカがキレている。
いや、もう可愛いとか綺麗とか憧れとか、同世代の男の子の妄想をこま切れ以下にぶち壊せるほどに。

「シンジだけが居ないのなら判るわよっ! なんか最近アタシ達に隠れて訓練をしてるらしいから」
「だ、だったらそれで」
「アタシが言いたいのは! ノゾミちゃんと触覚デコ娘が居ないこと! ヒカリが建てたルールじゃない」
「んー。 確かに『デートしたいのなら他メンバーに一声かけて』、でしたね」

赤毛な暴力魔女は鮭の切り身を箸で切り、もくもくと食べていく。
一つだけ救いなのは、口の中に入ってる食べ物を残した状態で話さないこと。
大声でしゃべった結果は、大抵恐ろしい結末が待っている。


「でも変ですね、外でノゾミちゃんとは合流できるとして。 マリイさんを連れていくなんて」
「『今日は帰れないかもしれない』って漏らしてたらしいし」
「抜け駆けしやがったわねぇ……あの触覚デコ娘ぇ」
「それは無いんじゃないかな。 ノゾミはそんな事出来る子じゃないし」

葱抜きのお蕎麦をツルツルとすするお姉さんの言葉はすぐ、大人の声で修正される。
私のトルコライス・セットからウインナーをちょっと失敬しつつ。

「貴女達、本当に恋する乙女なの? ホワイトデーよ」
「あ、ようやく来たわねリツコ……ほわいとでぇ?」
「シンジ君からの、お返しの日……でも3月14日はもう、過ぎてる」

確かにそう。
レイちゃんの頭越しに見える日めくりカレンダーは、今日が3月26日であることを示してる。

「そう。 彼がまだエヴァの中で解けていた頃に過ぎちゃったあの日よ」
「過ぎてるのに?」
「要らないの?」


私を含め、全員の頭が横に振られる。
彼を独占できない代わりって訳じゃないけど、彼がくれる物を取りこぼす気は、私達には無いわ。
彼の全てを、私達のものにしたいんだから。

「ここまで来たら種明かしをするわ。 シンジ君はマリイちゃん達と一緒に居るの。
 場所は、教えない。 二人とクッキーとかを作ってることだけは明かしておくわ」
「じゃ、何でアタシ達の家にしないの?」
「なんだかんだ言って邪魔するでしょ? つまみ食いも十分な邪魔になるのよ、アスカ。
 あの子達が傍に居るのはもっと簡単。 今日は二人の日でしょう? 丁度いいじゃない」

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人は女に生まれない。女になるのだ。

ボーヴォワール

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「それでは、今日はカエデさんとわたくしの監督下、と言う事でいいんですのね」
『ええ。 明日の昼までに出頭してくれればいいわ。 ノゾミちゃんは必ず出頭させて。 被害があったのなら知っておきたいし。
 もしかしたら、今晩、彼女は……ね』
「了解しましたわ。 それでは」


わたくしが部屋に入ると、生地が焼きあがった匂いに混じって彼の汗も感じます。
今回の事がある以上、ノゾミちゃんの傍に居る事を優先しよう、とわたくしに任せてもいいのに。
彼は自分が作ることに拘ってしまう。
好きな人達に渡す物は自分で作りたい、なんて……本当に律儀なんですから。

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ゴム弾、バッテリー弾に続いた三発目……実弾には、彼も驚いていたようでした。

「う、撃てるのかい、シンジ君」
「EVAが思考操作と感覚共有によって動くのを忘れてましたね、加持さん。
 人に向かって撃てるかは僕の覚悟次第ですが、発砲のコツは判ってるんです。 経験で」

「僕の大切な」
「大丈夫だよ、シンジ君。 彼女は犯されていない。 私が保証する。
 それと、もし良かったらでいいが……このまま彼を行かせてやってはくれないか?」
「それは妙ですわ! 彼は拉致を実行した犯罪者なのですよ!!」
「判っている。 だが、彼は我々を連れ帰してもくれたのだ。 それに」


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「『葛城君に逢えなくなった、という事実の方が罰よりよっぽど効いている』、ですか……」

彼は三佐に何かしらの真実を教えたくて、こんな行動をしていたらしい。
彼女の心の中にある、使徒と言う鎖に何らかの答えを出して、開放してあげたかったのだと思います。
ですが、人は一人では生きられないのです。

何より、彼女の意思を無視してまで、答えを性急に求める必要が、彼にあったのでしょうか。


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「やぁ」
「私は副司令のお願いを聞いているだけ。 そんなに愛想をふらなくても良いわ」
「きついなぁ」
「これが着替えとかが入ってるバッグ。 で、こっちがお金。 1000万円あるそうよ」
「退職金、か」
「もし」
「?」
「行くアテが無いなら沖縄に行け。 石津ヨウカという人が協力してくれるだろう、って」
「そうか」
「最後に一つだけ。 知ってた? 大学生の頃、私が急にコーヒー好きになった訳」
「え?」
「大抵の頭痛はカフェインである程度抑えられるの。 二日酔いはカフェインに利尿作用もある事から進めない人もいるけど。
 つまり、ウワバミの飲酒に付き合って、二日酔いで苦しんでた誰かさんのためだったのよ」
「……あ」

ぺちん。

「私は要らないけど。 もし、償う気があるのなら、必ず帰ってきなさい」
「帰る場所、アイツの隣にあるかな? そろそろ思い出してもいい頃だと思うんだけど」
「なにが?」
「父親の顔」

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彼の側を通り過ぎて、小さい部屋の戸を叩く。

「なにかしら」
「マリイです。 宜しいですか?」

部屋の襖が開いて、少し憔悴した表情のカエデさんが私を出迎えた。
その頭越しに、ぐっすりと眠っているノゾミさんが見える。


話の口火を切ったのは、カエデさん。

「あの銃、見た事ない形だけど、貴女の?」
「ええ。 アメリカ支部の保安部主任……カイル、と言うのですが、彼の見立てです。
 小さい私に合わせて、CZ75……とか言う銃をベースに向こうの技術部とチタン合金まで使って一から造ってくれた物です。
 最も、銃に関しては全く素人ですからモデルの銃からどう変化したか、なんて聞かれても全く判りませんけどね」
「私も見てたけど……撃てるって、思ってた?」

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雇用記録 : 2016年
雇用者: 冬月コウゾウ

 洞木ノゾミ(11)。 市民ID 1A20--8155-4331
 チルドレンの生活およびメンタル面の管理補助として参加。

 特記事項。
 緊急時において、あらゆる苦難を超えてでも安全な場所まで退避させることが必要。
 使徒が確認された時点で、彼女は最優先でジオフロントを含め、その時点で危険と判断されるあらゆる場所から移動させられたし。

 給料はC―03表を基に算定……。


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漆黒に近いような、近くないような。
赤い目の紋様が照らす嫌な光の中。

扉が開いた。

加持さんかと思って向けた視線は嫌な意味でそらせなくて。

白人の男性がいやらしい顔でつぶやく。
顔も覚えてない母と同じ故郷を持つ言葉で。

「本当の男を――」

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多分、車の中。

気が付いた時、抱きしめられていた。
叩かれたらしい左の頬と、右の奥歯の辺りが切れていて、血の味がする。
手のひらを包むように、感触の違う四つの掌。

目の前の視線がぼやけなくなった時みえた。 大切な人の声と一緒に。


「気が付いた?」

安心感しか、覚えてない。

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また夢を見ている。

ボクが入っていたシェルターを直撃したレイさんのEVAの頭。
前もって渡されていた発信機を頼りに来てくれた加持さん。

地下とは思えない林の中、片足を失ってもがく紫の巨人。
パチンコの玉みたいに、怪物の咆哮とともに飛び出してくる赤いおに。

左腕を失って、それでも必死に牛のような巨像を叩きのめそうとする赤い巨人。
疲れてしまったのか、いきなり停まる。

直接見えない光線が二人の巨人の胸に直接当たったらしくて、爆発があたりを赤くした。
二本の反物の様な腕が二つの赤い珠をたたいて。


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三度目の目覚めは、知らない天井で覆われた部屋。
少女趣味とは違うけど、落ち着いた大人の女性とも、ちょっと違う部屋。
お菓子を連想させる、バターが焦げたような匂い。

ボクに背を向けて話し合う、二人の影。

「……らどう変化したか、なんて聞かれても、全く判りませんけどね」
「私も見てたけど……撃てるって、思ってた?」
「どう、でしょうか? 訓練の結果、撃つコツは知っていると」
「で、どうなの?」
「多分、彼は撃てました。 強くなってますよ、本当に」
「そう?」
「だって、あんな台詞言えたんですから」
「あんな台詞?」

「……『僕が好きになっていいのなら、僕に貴女をください』でしたっけね」

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私がこの部屋にやって来たのは、加持君から彼女に関してきた事に少し恐怖を感じたからだ。
正解しても、大してうれしくは無いけど。

「い、いたたた」
「まったく、微妙な所で抜けてるわね、シンジ君は」

今、私の手は恋人の腕に刻まれた傷の手当てに集中している。
払いのける様に、必死に暴れたせいで付いた、爪による真っ赤な流れ。

「えっと、どうして……」
「左の脇、多分撃ったばかりの銃を仕舞ったからじゃないかしら……硝煙の匂いがするわ、微かに」
「……御免なさい」

消毒薬などが載ったトレイをマリイさんに持ってもらって、私は治療をする。

「仕方が無いと言うべきでしょうか……確かに、あの諜報員さんの印象が強かったんでしようね。
 彼が来る直前にMr.加持の左足を撃っていますから。 硝煙の匂いは初めての筈ですし」

呼び鈴を押そうとして悲鳴に気が付いた私があわててドアを開け、見たのは。
半狂乱になりながら必死になって暴れる小学生を抱きしめる「私の男」と。
援護とばかりに手を離そうとしながら、やっぱり彼女に引っかかれて行くふたり。

恐怖は十分に、彼女の心にトラウマを仕込んでいったようだった。

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「ほ、本当にごめんね。 僕が」
「い、いえっ。 そんな事ないですっ。 シンジさんはボクを助けに来てくれたのに……」


しょんぼりとしている彼女を見るにつれ、一度だけ見たあの映像が蘇ってくる。


母が死んで、司令が新たな手駒としての私を取り込むのに必死になっていた頃。
いきなり強化された権限を試してみて。  結果後悔した。

あまりにも、同じ頃の自分が恵まれている気がしたから。

冗談交じりでこの時の自分を教えてくれた彼女が、ここまでひどい状態だったとは。


ぼろぼろになったミサトが椅子の上に座っているだけの映像。
救出された直後ではないにせよ、どう考えても私の知っている彼女ではなかった。


小さい部屋。 真ん中にある椅子の上。
誰にも心を開こうともしない、ただの存在と化した彼女は、とても痛々しかった。

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睡眠薬だけは使いたくないと言う点で一致していた私達は、お風呂に入って、改めて臭いを消した彼の元で、体にたまっている筈の疲労が睡魔を呼び込んでくれるまで。
ノゾミちゃんの好きに甘えさせてあげようと決めて、巻き込む原因を作った私達は、わがままに全て答えて、最後まで付き合ってあげることにした。

――お肌の曲がり角には、一寸厳しいものがあったけど。


そして、彼女は暴発した、再び。

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彼女がその願いを精一杯の意思の塊として言い出したのは特に不思議ではありませんでした。

ただ、それがわたくし達の中で年齢が最もつりあわない願いであることも。
わたくしを含め、本来なら年長者達が大きく壁となって停めなければならなかったことも。
議論の余地を与えること自体が間違っている事も、知っていました。

でも、一方でわたくし達は彼女を止められない、いいえ、とめたく無かったのも事実なのです。


あの日、使徒の血をたらした口を大きく開けて、叫ぶ猛獣を見てしまったあの時から。
たった一枚のハッチが一つの命を壊しかけたのを見たわたくし達は。
何より、彼女の中の想いが偽りの無い真実だと知っている私たちが、どうして止める事が出来るんでしょうか。


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「本当に、良いんだね?」
「御免なさい、我侭であの時の約束をっ!?」

いい加減な気持ちでは、彼女は気持ちよくなってくれない。
あの日から数回、僕達は気持ちよさを共有してきたけど、それを気持ちよさとして受け止めるには幼すぎる――たとえ、僕自身も性的に成熟さが足りない……つまり「小さい」としても――。
だから、すぐ入れてしまったらお互いに気持ちよさを感じる以前で終わってしまう。
彼女には、トラウマが残ったままで。
でも、僕が努力すれば嫌なあの思い出を意味の無いものに出来るかもしれない。

それだけが今の僕を支える原動力だった。
不愉快だった筈の『思いつき』を必死に探って、利用して。

「ひゃ、はぅ、だめぇ!」

ノゾミの背中には、いくつかの蒼痣が残っていた。
多分、副司令と一緒にさらわれてから、かなり乱暴な目にあったんだ。

ためらいも無く、小さな傷の色を消そうと舌をあてて、癒していく。
それだけで、小さい背中は仰け反って、黒い影を纏った白金がそれを覆っていこうとする。


たった五分で。
小さい体はもう心に刻まれた痛みなんかどうでも良くなってしまってるみたいだった。

ほんの少ししか違わないのに、非情な陵辱者になってしまったかのような、恐怖と背徳的な興奮に混乱しながら僕のモノへと染めていこうとする男の下で。

右の手の甲を額に乗せて、左腕を僕の心臓の辺りに当てて、押し離すでもなく、ただ、僕の鼓動をしっかり捉えられる位に押し付けてくる。

何時もなら、興味と僕への信頼に輝く瞳も、求めてくれてる、と言うぼんやりと濁ってしまったかのような……。

苦しさと紙一重の感覚の鼓動に震えてるだろう、硬い乳房の間に耳を当てた時、ふと。
小さい熟女を抱きしめるようになってから、『イメージ』がほとんど沸いてこないのに気が付いた。
多分、初めての、ヒカリとのがむしゃらなあの時以来の感覚で。
ちょっとした感動が

「ダメ、ですわ」
「え?」
「そうよ、何も考えちゃ駄目。 ただ、単純に、優しく、受け止めてあげるの」

そっと後ろから絡み付いてくる二対の腕。
後ろ暗い感覚に包まれたからだがぴったりと、左右からそっと、でも残酷なまでに確実に。
迷いを残していた僕達の逃げ場を、かき消してく。


そして、僕自身が気付いてさえいなかった変化も、最大の拘束を果たしている。最も硬いものとして、抗いがたい物として。

露骨な言いかたをすれば、僕はまさに……「ベテラン」になっていた。
ふるりと震える小さな体にも、その中で目覚め始めたオンナの扱いにも。


多分一月の間に覚えたんだと判る、他と反応が違ういくつかの部分。
痛いと言う気持ちを必死に押さえながらも、快感にすがり付こうとしていた初めての時と違って、ほら。

「あふっ!」

初めてのときは、ただくすぐったいとだけ感じる筈だった首筋。

ほらまた。

「んぁ……?」

今度は、まだハッキリとすらしていない乳房の裾野。

特定のところに近づくたびに体が少し柔らかくなる。
そこが、彼女にとって触って、舐めて欲しいところ。 「成長」したところなんだ。


「どうして、こんなにエッチになっちゃったの?」
「……へぁ?」

ちょっとだけ、強く。 でも、痛くならないように。
少しだけ窪みに入れた指で、それをまねる様に、くいっと押し上げる。
幼い体はそれだけで跳ね上がって、僕の手に危うい体勢のまま、座った。
彼女がやっていたことを思い出させつつ、窪みに指先を押し込んで。

「ヤ、だぁ……?!」

多分彼女のオナニーは、小さい生地を引き上げる事から始まったんだと。
跳ね回る下半身は、あの頃とは大きく変わった、気持ちよさに怯えない「オンナ」の体になったんだと。

「イメージ」の助けなしに、僕の全てが、読み取っていった。

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一寸、面白くない。
不貞腐れるカエデにお金渡して飲んで来て、って言ってまで場所を用意したのは私。
最初だけは彼女の望むがまま、って決めたのも、私。

でも、私達二人揃って微妙に蚊帳の外、って言うのは、やっぱり面白くない。


「いや、そこ、そんなぁ」
「僕が居ない間……小さい布に恋してたんだ」
「ち、ちが、きゃふ」

ベッドに寄り添うように用意されたテーブルにしがみ付いて喘ぐ彼女はずるい位に大人。
小さいお尻のすぼまりには右手の、花開くことを覚えた方には未発達なスジを覆いつくすようにもう一本、オトコの人差し指が当てられて、
そこから味わう全てを手に入れたくて、必死に隠そうと努力してるのに、本当の気持ちに素直な下半身はしっかり動いてる。

動いていた指の方が、彼の意思に従って動かなくなってすぐ、彼女の下のシーツは染みとささやかな泡で濡れて、唇はだらしなく開いて唾液をたっぷりまとった舌がたどたどしく、意味の無い言葉と一緒に漏れて。

まだ形にすらなっていない乳房のあたりを愉悦で痙攣させている。

 

「仕方ないって、判ってますけど……失敗したって気分になるのは、マユミさんに送った『お塩』以来ですわ」


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彼は混乱していた。

別に蒼銀の髪の少女に告白しに来たわけじゃない。
当人を見て、ちょっとは自信が付いた。 自分は彼女に対する想いは振り切ったと。

転校生がまた来た頃の、微妙なギスギス感をあっさり修復してしまった惣流や委員長に乗り換える気も、取り合えず無い。
その山岸と霧島、マリイは誰が見てもハッキリ好意を向けているのだから、特にそんな気にはならなかった。

だから、自分が知っている限りは、五人。
冴えない親友がもし、全員を『喰って』ハーレムを形成していたとして――小さい面子をさらに一人巻き込んでいたとしても――
一人増えただけ、つまり六人のはずだ。


ただ、本を返しに来たついで。
一寸の暇が彼にあれば、女性と付き合う極意を聞いて見たかった気はあったが。

お下げ髪の友人から「一人分余ってるの。 食事どう?」と誘われたのは嬉しかった。
本当は誰に食べさせたかったのかを無視しても、それ以上の見返りはあるからだ。

委員長の飯が旨いのは小学校の遠足などでお裾分けされたのを食べた経験から知っていたし、地下で仕事をして帰ってこない父と退院まであと少しとなった妹の居ない、ひっそりと静かな家で一人する食事よりは、と思っていた。

 

だから、困っている。

「一寸、しょっぱいかしら」
「サツキもアオイも料理、出来るのね。 一寸ショック」


不可能ではないことは、判る。 判ってはいるのだ。
ミサトを初めとして地下の怪しい面々は全員大人だってことも判ってる。


「まぁ、一人暮らしは自炊が出来なきゃね」
「ミサトが出来ると知った時はショックだったわ。 あれだけ妙なの作ったって聞いてたのに」


(何で増えてるんやぁーっ?!)

彼が今までかいだことの無い大人の女のにおいに妄想を掻き立てられまくったのは言うまでも無い。

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  わたくしが初体験をした時も、こうだったのか。
小さいノゾミちゃんの性器に突き刺さろうとしているシンジさんのペニス。

「壊れちゃ、っても、良いんですよ?」
「そんな事言っちゃ駄目。 貴女は私達の中で、一番時間があるんだから」


当初シンジさんが予定していたらしい挿入を避ける逃げ道、つまりお尻への道は「いやです」の一言であっさりと消えてしまっている。


初めての緊張と未成熟な体であるからこその硬さのある肌。
でも気のせいかもしれないのですが、一寸ひきつったりしながら必死に広がって、ようやく与えられようとしている男の凶器を求めるヴァギナ。
儀式に参加するように、眺める姿はやっぱりというか、一寸だけ滑稽で。

(ある意味結婚……ポトラッチをさせられてるみたいですわ)


「そんなに、みたいですか?」

シンジさんに言われるまでも無く。
何時しか二人して、綺麗な赤に染まって、花開いたつぼみは蜜と芳香――勿論、乙女には似つかわしくない物――を振りまいてる彼女のを、はっきりと覗き込んでいた。
でも、不安はぬぐいきれない。
本当に小さいここに、わたくしでも一杯になってると思えるシンジさんのアレ、が、入るの?

そんな想像で盛り上る二つの頭の前に突き出されたのは。

 

「濡らして、くれる?」

幾人もの処女を散らす『実績』を重ねてきた、持ち主の性格と正反対な凶器と。
「やっぱり、今の彼女にとってこれは、十分に凶器なのよね」

息を呑みつつ、それでもそそり立つペニスに憧れるリツコさんの声と。

「そこ、お尻のぉ……。  あなぁ……」

離さないように指示されたわたくし達の指に少しづつ拡張され始めてるアナルを晒す花嫁の姿……。


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「濡らしてくれる?」なんて言ったけど、彼女の中心にある小さい孔は
たくさんの経験をつんだ僕にとって、も通過点としては細すぎる気がした。

そして、もう一つ怖い。 彼女が僕よりも明らかに年下であること。

アスカとかヒカリとか、一年以内の差――つまり同級生――なら、まだ良かったかもしれないけど……彼女はそれ以下。
カルチャーショックだと思う。
ロリコンの範囲に居る子供がロリコンを気にするなんて。
ハッキリ言えば、ランドセルをまだ背負ってるんだよ、ね。
いまも。

 


快楽をしっかりと教え込んだ僕に言える話じゃないけど、ロリータは僕達にも当てはまる。
僕達以前、つまりアルバイトも認められない、バスとかの運賃も……って。

「えうっ?!」

小さい熱さが股間を襲って、小さく、でもしっかりと跳ねてしまう。
それも二つ、ううん、二枚。
ひざ立ちの僕と彼女の間に挟まったマリイとリツコさんがたっぷりと唾液の乗った舌で
「ボケッとしちゃ、駄目ですわ」
「私も覚悟を決めたわ。 だから、次は貴方の番よ。 他の男にやらせる気なんて無いでしょ?」

 湿った僕の肌にオンナ二人の熱気と唾液が加わって、小さい孔に収まる気がしてきたせいもあって、僕は意を決してそろそろと挿入を開始した。

「ひゃぐぅ?!」

奇跡はやっぱり無くて。
それなりに解したつもりでも、僕のが入るにはやっぱり成熟していない場所は狭すぎた。
でも、僕はそれ以上に混乱してしまう状態になって。

(うわぁぁあぁぁ?)

小さいだけじゃないと思うけど、小さいからこその締め付けは僕の想像を超えていた。
まだ、一寸だけしか入ってないのに、誰よりもきつい。
ヒカリのならふわっと締めるし、アスカのなら丁度自分でしてる時の、凹凸みたいな段々を感じる事もあったりした。 けど、この締まりかたは彼女の……って。


気が付いた時にはもう、僕の我慢は限界をとっくに超えてしまって。

「ふぁっ?!」


「……え?」
「うそ?」
「そんなに気持ち良かったんですか、ボクのって……」


初めての経験だった。
入れる前に、出しちゃったのは。

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  え、っと思った時にはもう熱かった。

ぼうっとした頭が何時もの感じにそまる。
それはボクをシンジさんが愛してくれた証拠で、とっても嬉しいことだけど。
今日はその先へ進むことを誓ってくれたはずだった。

「そんなに気持ち良かったんですか、ボクのって……」

目の前にシンジさんは、ひざ立ちのまま困った表情。
僕にとって右手側のリツコさんも、左手側のマリイさんも揃って。

ぽかん、としてしまってる。

「あ、あれ?」

シンジさんはすぐに自分を奮い立たせようとして、ごそごそと蠢き始めた。
マリイさんたちも何かに気付いたみたいで、「え」とか「あれ?」とか。


何かがおかしいと思った。
そして、その不安はある気持ちを心の底から引っ張りあげて来た。

シンジさんは、もしかしたらボクを抱くのが嫌になったのかもしれない。
いくら加持さんに阻止されたとしても、自分以外の男にもてあそばれかけた体なんて。
見向きもしたくなくなったのかもしれない。
それだけが、頭を占めてく。
不満が怒りを大きくして。
爆発した。

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我侭だってことはわかってる。
始めてシンジさんとした時、『そーにゅうしなくても、いいですよ』って言ったのに。
コダマ姉に『自分を……自分も、でいいから、大切にするのを忘れない事』って言われてるのに。
もし何時かシンジさんとの子供を産めるかもしれないとなった時に、つらい事になるかも知れないのに。


手が勝手に動く。

「え? あ、ちょ?!」

始めてあった頃とは比べ物にならないくらい締まった男性の体。
でも、マナさんの言ったとおりシンジさんの体は締まっただけで、まだ筋肉は付いてない。
だから、同じくマナさんに一寸だけ教わった護身術のテクニックでも、組み伏せるようにベッドへ押し倒すことができた。

「うわ、大胆ですねぇ」


どこか開き直った感じのするマリイさんの声が聞こえたような気もするけど、全部無視っ。


後は、本能の思うまま。
シンジさんの上にまたがって。
状況の急変に対応し切れていない彼に精一杯の微笑を見せて。
妙にやわらかいシンジさんのを掴んで、一息に潜り込ませたの。

それはボクにとって、変な意味で忘れられない初体験になった。

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 自分の知っている限りの知識では、さまざまな予測が飛び交ってる。


医学的な知識。
大人として手に入れてきた常識や法律。
万が一のときのための対処法。

必死に目を閉じて、ゆっくりと自分の内側に入り込んだものから与えられる痛みを堪えながら、それでも。
この小さい『女』は……。

今までの自分の何かを否定されたような気持ち。
嫉妬とかとも、体を気遣うのとも、一寸違う気持ち。

こんな気持ちになったのは、あの時以来だった。
たった一人の母が意味の判らない自殺をした、あの時と。


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上からでは小さく見える金属の塊に、べったりとくっついた血痕。
白い線で囲われた、命の残り香。
それがまだ残っているときに、私は彼を求めた。

『私を、抱けますか?』
『なに?』
『私、母さんと貴方がキスしているの、みました』
『それで? 従わせたいなら無理やりでも自分の物にしろ、とでも言うつもりか?』


どう読んでいいのか判らない表情のままで、彼はMagiを安定させる事を選んだらしい。
無理矢理に引き寄せた男の手。

そのまま、カスパーの制御卓に据え付けられた椅子に、私を座らせた。
私を押し付けるように。


『少なくとも、今の私は、貴方に対してどう反応していいのかわかりません。 好意は持っていますが、それは有能な上司に対して持っているようなものですから』


母とキスをしていたときも目を開けていた彼は、その先にいた私を見つけていたんだ。
だから、今の、この状況を演出したんだわ。
ずるい男。
そうでなきゃ、あの時自分が座っていた椅子に、私を座らせる必要は、無いわ。


『私の心を満たしているのが何なのか知っていて、それでもと言う事か?』
『私が欲しいのは、いま、前に進む力です。 それを与える事ができると言うなら』
『なら?』
『智恵の実を渡すつもりで、私を堕落させてください』

結局、私は彼に堕落した。

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手のひらに血が付いていた。
初めて人に怪我をさせた。

自分のはっきりとした意思で。
大切なものを、守るために。

『最近……私の日常に加わった変な日課に、下心が見えみえの男子生徒からの告白を丁寧にお断りする、というのが増えたのは以前日記にも書きました』

彼女が書いているのは日記。
小さい仲間に感化されて。
変わっていける自分を見つけられた証にしたくて。
今日も日々を綴ってる。

『今日のは極めつけ。 マナさんの言った通りにしただけなのに。
 襲い掛かられたから、言われた通りにしたら……宙を舞った。
 私が、この手で、投げたの。
 手のひらに、彼の頬を引っかいたのか、爪の先から流れるように、一筋の赤。
 彼を投げたのも、シンジさんにだけ愛されたい自分。
 それは、すべて私が選んだこと』

 

彼女はじっと手を見つめる。
今はペンを握っている手。 本の世界に行くための、小さな鍵。
それが自分の中に一つ、大切なものができただけで。
簡単に凶器にできた。 それも、数ヶ月前には思いもつかなかったこと。

 

『……正直に書けば、自分の中で彼の存在がここまで大きくなるとは思いませんでした。
 小さい頃から外の世界を見るのに臆病になっていたはずの私が。
 男の人の頬に頬を摺り寄せて、汗と(以下数文字塗りつぶし)を私の』

ふうん、という声に振り向くと。
何人もの視線が日記と私に向いていた。
今までとは違う自分を知っている、大切な人ができた事を知っている、いとしい仲間。

「強烈な文章ね」
「日記に書くには少し変かも」
「……黙読しないでください、マナさん、アスカさん」

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 繋がったところに添えた手のひらには、もっとも小さい子の血がついていた。
誤解から生まれてしまった、最悪に近い形で繋がった初めては、今まで以上に締め付けてる。
それは、僕自身の始めてを受け取って貰った相手でもあるお姉さんの痛みに耐える表情と同じで。
僕は。

情けないけど、慌てて謝った。

「本当にごめんっ。 その、自惚れかも知れないけど、その、ノゾミのちっちゃいでしょ?」

「え?」と真ん丸に見開いた目と口を閉じないリツコさんと。
どう表現して良いのか判らない、困ったような表情のままのマリイに挟まれながら。
情けない説明は続く。


「だから、入れようとは思ったけど、その、僕ので奥までつ、つ、突き破っちゃうかも知れないって考えたら、急に怖くなっちゃって」
「……一寸待って下さいな。 もしかして、ノゾミちゃんのあそこに挿入するのを渋っていたのは捕まってた時に悪戯……とか言うものでは、無いんですの?」

あわてて僕は首を振る。

「痛みじゃないかって位にきつくて……気持ち良かった」
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「それだけは無いよ。 ノゾミに拒絶されたらどうしよう、と思ったよ? 確かに」

僕は怖かった。
どんなに求めても、僕を慕ってくれた蒼い目は僕を見てくれないんじゃないかって。
汚れちゃったとか自分はもう、僕にとって相応しくないとか。
……僕はもう、求められない、要らないって言われるんじゃないかって思いが、どっかにあった。
それで心が一杯だったから。

トウジたちに見送りに来て貰ったときのような気持ちの告白をしたとき。
妹から恋人になった小さい手が僕のほほを包む。

「誰にもボクを譲れないと思ってくれるなら、ボクのすべて、受け止めて下さい」

コダマさんに会ったら確実に殴られるなぁ、と頭の端に浮かべつつ。
誓いの口付けを、僕は彼女にささげた

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  本部内にある拘束室。 あの時と同じ闇の中。
あたしは自分を見つめなおしていた。
体と心、様々な疲れから体が逃げ出そうとしているのを抑えながら。

『乗りなさい』
何故、初めて会ったばかりの彼に手のひらを返して言えたんだろう。
直前まで、どちらかと言えば乗せたくない……反対の立場に立とうとしていたのに。
初号機を誰よりも動かせる気がしたから?

『迷惑なのよっ』
戦いという重圧に耐え、友達候補を守るため彼なりに判断した行動を。
使徒を倒したのは事実だったのに、アスカと違ってろくな経験もない筈の彼に。
なぜ、あそこまで腹が立ったんだろう。

あの時も。
『同情や仕事なんかで―――』
気に入らないなら、言うとおりにならないのなら、手放せばよかったのに。
何故、あたしは彼を引きとめたの?
シンジ君が自分と同じ、一人ぼっちだったから?
EVAのチルドレンを新たに見つけるのが、面倒だったから?

……多分、全部違う。
それだけだったら。 あたしはあんな写真送らない。
がっつきそうな子供の前で下着同然のだらしない姿なんて晒せない。
返り討ちに出来る自信があるから?

どうして見せようとするの?
加持以外に見せようとも思わなかった、自分の「地」なんて。

なぜ?
何故、あたしはあんなに自然に、だらしない自分を彼に晒せているの?

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  あたしの頭の中でぐるぐると思いが巡っていく。

お墓参りを――ついでに童貞喪失も――済ませたあの日以来、彼は変わった。
「僕はここにいてもいい」と言えるようになったから。
小さい一歩を重ねて、確実に成長している。

洞木さん、アスカ、マユミさん、マナちゃん……。
自分の中の想いを隠そうともせず、細身の少年に甘える彼女たちに。
何故か嫉妬を感じてるのに気がついたのはこの数日のことだった。


どっちかといえば、あたしにもシンちゃんに対する恋心、あるのかもしれない。
でも其れだけで、葛城ミサトが惚れる男の条件を満たしてるかって言うと、そうじゃないはず。
あたしが求めているのは、あたしだけを見てる男だからだ。

恋愛のスタンスだけなら、彼は加持よりひどい男になっていってる。
胸にあれだけの傷を負ったリツコを受け入れちゃったのはすごいと思ったけど
来るもの拒まず、って言うか……自分で選ばないと決めてしまってるんだから。

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『葛城 タツオ』  (写真はインパクト災害の結果消失したため、存在せず)

南極調査団・日本葛城隊の責任者。
セカンドインパクト発生時、隕石着弾点に最も近い場所にいたと思われる人物。

……

もっとも近しい地点で生き残った人間、葛城ミサトの父親としても有名。

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南極にいた頃の夢を、最近よく見る。
窓越に吹雪をみながら、缶ビールを美味しそうに飲む、父の姿だ。

でも、父の顔は、覚えていない。
あの日以来、私の頭の中から消えてしまった。


日本に帰ってから、自分を取り戻してから。
様々に手を尽くしても、父の写真は見つからなかった。
Nervに入ったときも、少しだけ期待してた所は有ったけど、結局だめで。
今でもあたしにとっての父の顔は、のっぺらぼう。

 

「最近思うわ」
「なにが」
「加持君と別れてから付き合おうとした男の人達を見てた私にはそう思えて」
「つまり?」
「ミサトが好きになる人って、たいていアルコール……って言うか、ビールが好きな人なのよ」

 

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それは、私が初めて見た、『話す』レイちゃんだった。

あの事故から数日が過ぎ、とりあえずの危機を脱したレイちゃんを見舞う司令がいた。
少女が負うには間違いなく大変な傷を負っていたのに、それが当り前の気がしていた。
誰も彼女にお見舞いにいかなかった。 なぜか、私もそうだった。

でも、司令は彼女に会いに行った。

「いかり、司令」
「……なんだ?」
「助けてくださったときに壊れてしまったという眼鏡ですが」
「気にするな。 それほど惜しいものではない」
「もしよかったら……頂けませんか」
「壊れているのだぞ?」
「構いません。 そこにそれがある、ということが大切だと思います」

月のものが重くなければ、医療主任に薬を貰いに行かなければ私自身、知らなかったであろう光景。
司令とレイちゃんの心の繋がりができたような、恋ができたような、そんな瞬間。
その時の私は、絆は美しい、という感想を抱いたんだっけ。


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あるタイプの人にとって、自分に出会う前の恋人が誰かを好きだった、思い出という証拠を自分の知らないところで大切に残されるのは、とても辛いことだという。
その手のものを見せられるだけで、百年の恋もついえると言い切る人もいる。

手紙、写真、アクセサリー……別れてしまった相手との間に居る子供とか。
多分、どうしようも無い嫉妬を掻き立てる、もの。


もちろん、私達が愛する少年のように、全く――少なくとも表に出しにくい――人もいる。

だから彼女の行動は、そんな事を現実に起こしたくないから、と思う。
小さい箱の中に入ったそれは、間違いなく彼女の中に何かを作ったものだから。

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「ん?」

相手にされない、というのはちょっとどころでは無い寂しさを私達に与えていた。
だからと言うべきなのかな、葛城さんの部屋からヤケ酒用のお酒を失敬しに行った私とサツキは、小さくしゃがみ込んで何かを燃えないゴミ袋に放り込んで、捨ててしまおうとしてるレイちゃんを見つけたの。

それは、彼女が持つ者としては珍しくて、少しだけ、手の跡が残っていて。
何度も開けたことが、何と無くだけどわかるもの。
碇司令の壊れた眼鏡が入っていると思う、眼鏡ケース。
私が始めて、美しいと思った絆。

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「怖くなったんです。 シンジ君が帰ってこなかった時を想像したら」

彼女にとって、碇司令を見ていたときは、ある意味楽だったんだと思う。
司令以外と話そうとする事自体、お仕事以外はなし。としてなかった。
学校の中でも、無関心の塊というか、超然としているというか。
とにかく、接点を持たなかった。  興味以前の問題としてなかったといっていい。


 勿論、当時の彼女にとっては、それでも良かったと言えたんだと思うわ。
でも今は。
司令以外の人には興味を持たなかったと言うことは、負の遺産でしかない。

自分色に染める、と言う言い方もあるけど、それまでの自分を壊す力になりかねないときもある。
司令にウソをついた、と言うことは彼女にとって間違いなく、今までの自分の否定。

そして、それを理解した時、次に来るのはそれが自分に向けられるかもしれない、と言う恐怖。


ファースト・チルドレンと言う事を含めても、レイちゃんの代わりは誰もいない。
だけど、シンジ君の女は、彼女だけじゃ無い。
彼女にとっての男が、ひ弱な少年一人になってしまったのと違って。


「難しく考え過ぎなのかも知れません。 でも、私のは司令がある意味全てだったので……」
「レイちゃんってさ、飛行機に乗ったことあるよね?」

サツキが妙に自信満々に聞いてきた。
そりゃ、司令と一緒にジェットVTOL機に乗っていく二人を見送ったリ、したんだけど。

 

「前に本で読んで成程、と思った話なんだけど。
 自動車で時速100キロの移動とか、飛行機に乗れる……と言うか空を飛べる事に至ってはそれ自体が、生き物としてのヒトの生活ではあり得ないことなんだよね。
 外国から葛城さんがお酒を取り寄せる、とかも。
 他の生物にとって、あたし達がやってるのは一寸異常なこと。
 ご飯はその場で調達、と言うのが当り前なのに。
 でも、今のあたし達の価値観、っていうか常識かな。
 そんな異常を当り前だと思ってる」

よく判らない、変な例えだった。

「それと同じでさ、生物にとっての近親相姦とかもね、異常って言えるのはヒトの価値観なんだよ。
 遺伝子異常とか、そんな事全く知らない生物にとって近親関係をやるかどうかは繁殖意思とある意味時の運。
 愛し合ってしまったからやる、と理性をねじ伏せる理由を言うのはやっぱり人間だけ」


言いたい事はそれなりに分かるけど、やっぱり、変なたとえ。
でも、どう言う訳かレイちゃんには覿面に効いた。
自分の中の何かが奇麗さっぱり取れたような、そんな笑み。

「つまり、全ては私とシンジ君が決めること」
「そ。 こんなに長々と言っても、核心はそれだけ。
 多分、としか言えないけど。 根拠もないけど。
 そもそもシンジ君自身、そんな事、いい意味で考えてないんじゃないかな」

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唐突だが、私は、お蕎麦が大好きだ。
特に、清酒と一緒に笊蕎麦を食べるのが大好きだ。

と言う訳で、今、私は繁華街の端、「雲丹酒」と言うお蕎麦屋にいる。
おまけを一人連れて。

「ねぇ、カエデちゃぁん。 あたしのおごりなんよぉ? 呑んでるぅ?」
「はいはい」

葛城さんと出会ったのは30分ほど前。

『一部部署と確執が酷くなった。だから加持さんはメンツより与太郎的遊軍扱いと言う自由を取った。野菜とかをいじってるふりをして、こっそり仕事をしている』

それが、D級勤務者あたりから丁度、私達のレベルまでの面々に広がっていたイメージだった。
私はマヤと仲が良かったから、『アルバイト』の噂は緘口令とセットで聞いていたけど。


でも。
彼女の愚痴の百鬼夜行を整理して行くうち、彼女がぼろぼろと零している情報が既に発令所勤務とはいえ、オペレータである私が知っていいレベルの話でない事を理解してしまった。
副司令の誘拐、巻き添えになった少女、未確認ながらシンジ君が発砲した……。
そう、多分あんな風に酷く動揺してるは……。

「って、え!?」

目の前をシンジ君が、歩いて行く。
べろべろに酔った葛城さんが捕まえたのは、その一分後。

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「え?」
「で、ですから、その……初潮、です」

シンジ君が話を――葛城さんの絡みに耐えつつ――してくれたのは、またもや。私が知っていいレベルの話でない内容だった。

シンジ君がノゾミちゃんの相手を本番までやってしまった事。
快感でごまかせる程度にすら痛みがひかなくて。
無理を避けるため、射精で(彼自身にその発想は全くないけど)納得してもらった事。
彼女がシャワーを浴びている間に多少マリイちゃん達と盛り上がってしまったが。
シャワー室で血が止まらない事からと言う最年少娘の訴えで……初潮が始まってしまった事に気がつき。
シンジ君は一気にパニックになった。

「かくして、僕は『ちょっと外をぶらついて、落ち着いてらっしゃい』と」
「リツコにおいだられちゃったんだぁ〜」

葛城さん、酔いすぎ。


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 中学生当時から親交がある友人に、非常識な規模のハーレムを作った奴がいる。
金持ちと言うのとは微妙にずれた経済状況だったし、美少年という訳でも、もてる訳でもない。

(事実、最初からあいつに惚れたと言い切れた奴は、当時委員長をやってた子一人だ)


あれ以来何度か『何故こんなもてまくってる状態が成立している?』に対して答えも優柔不断なあいつらしい。
やっぱり、と言うべきだろうか。『理由? 僕にもさっぱり』ときた。
結局のところ、この友人であるハーレム主、本人にとって文字どおり偶然の塊で、(受け入れて行く事はしたらしいが、一度としてハーレム入りを要求した事は無いらしい)幸運の星と言っていいこの宝物を一気に手に入れてしまった、という気分らしい。
……流石に手放す気は、未だに無いようだけどな。

まぁ、俺には興味がない幸運ではある。 ヒナタがいれば十分。
英雄並みな幸運は必要ないし。


(中略)


どれほど欲望に満ちた世界でも、何らかのルールがないと世界は困る事になる。殆どのハーレムがこうかは知らないけど、と前置きされつつ聞いた話をまとめると。
このひ弱男、ハーレムのメンバーに内部ルール作りを完全まる投げしたようだ。「弱気やなぁ」といったジャージに言い返したちょっとだけムッとしつつ返したセリフは「自分たちが作ったルールだからこそ、守る気になると思って」。
ちょっと位は考えているらしい。

(中略)

あの面子に特色と言えるのが、自分達で作ったコミュニティの中にはプライバシーというものを作ることを徹底的に避けようとしてる事。


『自分達が何時何処で産まれたか?とか、メンバーの親兄弟に関する情報とかも、本人以外が喋っちゃいけないんだって』
『なんでや?』
『マスコミとかに噂になった時、家族にね? 迷惑がその、行かないように』
『マスコミって……ネルフが関わってるのに?』
『念には念を入れて、ってことらしい、よ。 秘密を作り、の、は、仲たがいのりゆうぅ、なるから』
『おい……よう判らんけどなぁ、男ならしゃきっとせんかいっ』
『襖とか、余所から来た人が関わってるか、その……。 と、とにかくっ、普段はなんぴとっ、も、屋内の扉は閉めちゃいけないんだってっ?!』
『あー。 何となく意図と言うか意味は判った、十二分に。
 「Hをしてる」時以外は閉めるな、ってことだろ?
 俺達は知ってるからそこまで照れなくていいよ』
『あうううぅ……』


話す途中に何度も肩をまわしたり欠伸をしたりしている所をみると、宝物のような嬉しいはずの関係を維持するのは、やっぱり疲れるようだ。

(友人S )溜息といっしょに曰く、
『誠(実)と生(活)と性(活)、一つでも疎かにすると「娘」は簡単に「狼」になるみたいだよ?』
一度「狼の群れ」に咬み付かれながら部屋に連れ込まれるシーンを見ているだけに、この反応は十分理解できた。

――記者となった相田ケンスケが残した記事メモ・未使用部分――

 


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From:ハーレムエロ探求スレッド