畜類め、繁りやがれ! 13

Original text:LHS廚さん


 

セカンドインパクト直後、幾つかの妙な格言的ジョークが一世を風靡した。
子供に威力を持って流行ったジョークの一つに「バージンロード」がある。

わかりやすく内容を言えばかなり悲惨な話なんだけど、
『結婚もせずに、処女のまま天国への道まっしぐらは嫌!』。

そんな訳で、リツコさんくらいからあたし達の辺りまで、文字通りの即席カップルがジョークの発信先である中学から大学一年の辺りでひどく流行った。
適当な相手と痛みさえ我慢できれば、片方は解消できるようになっていたから。

カエデなんかはハッキリとしている。
あの日、『高校の時、一人とだけ』って言ってたしね。

 

ま、何が言いたいのかと言えば。

 

純情と言われそうだけど。
微妙に珍しいのだ。 あたしや主任のような存在は。

 

◆ ◆ ◆


  はむはむはむ、と動く頬。
時々、薄くて、小さめの唇から見える舌と前歯。

「そんなに、おなか空いていたの?」
「(むぐむぐ)……ふぁい」
「あ、別に尋問とかじゃ無いから、食事を中断してすぐ答えなくてもいいのよ」

肌を合わせ、汗をすり合わせ、お互いに染み込ませていた時にあった「強さ」をまったく感じさせない、むしろ「弱さ」すら感じるのに。

「……14歳、なのよねぇ」

ほぼ半分。
自分より少ない人生を送ってきた男の子……ううん、男の体。
あの、小さい肉体の一部が、あたしの体をついばんで、つねって、包んで、切り裂いて、潜り込んで、絡まって、熱い流れを生み出して。

あたしを、『ぬくもりを欲しがるあたし』にしてしまった、おとこ。
今は、そんな部分があるなんて、全く思えない、年相応の『男の子』。


「えっと、リツコさん。 そんなに見つめられると……」
「食べにくい?」
「……はい。 なんて言えばいいのか、その」


リツコ主任は、さっさと食事を済ませて、いまはシンジ君をじっと見つめてる。
あたしも、時々箸を止めて、それにならう。


「……?」

時々気付いて微笑を返してくれるだけで良かったハズなのに。
心が暖かくなるのに、それだけではすまなくなっている自分がいる。

「そうですか。 一月もみんな」
「お風呂にもろくに入らずに、ずっといたの。 小さい部屋に」

我慢できないわけじゃない。
でも、アオイとさっきまで、その、愛し合ってたのよね……。


そ、そうよね? アオイの体液の臭いがこもってるのが悪いのよ。
リツコ主任だって、シンジ君に判らないようにしているけど、少しそわそわしてる。


「……に……ゅ」
「「わ?!」」

おまけに、時々……本当は起きてるんじゃないかって言うタイミングでアオイの手が枕から外れて、シンジ君を触っていく。
手とか、足とか、あそことか。

 

 

◆ ◆ ◆

 

「……ちょっと待って」


そこまで話した時点で、アスカちゃんがあたしをとめる。

「リツコの経験したところの話、さっきからシンジまで話を引き伸ばしてない? 誤魔化すつもり?
 アタシ達は何時までも待つけど、ノゾミちゃんはそろそろ睡魔に負けちゃうんだから」
「そんなに言いにくい経験、したんですか? シンジさん」

生暖かい、と表現されるタイプの引きつった笑みを交わすあたし達。
この先を話すためには……。


数瞬の後、アスカのきつい視線に耐えかねて、シンジ君が口火を切った。

「実は、ある恥ずかしい経験をした事を、言おうか言わないでいようか迷っていたんだ。
 でも、みんなへ嘘をつくのだけはしないって考えてるから、僕が言うね」

 

 

◆ ◆ ◆

 

事の発端はあの時、一通りご飯を食べ終えた直後のこと。
彼がいなかった一ヶ月間の話で盛り上がったころ、シンジ君が異様に困り始めたの。
居心地が悪い、って言うか、気持ち悪そう、って言うか。


そのとき、あたし達の勘は
「あたし達がシンジ君自身と隣にいる「抱きしめ娘」、二人分の臭いを気にしてる」と言ってる気がしていたから、それとなくはぐらかしていたの。

リツコ主任が女であると思わせたかったのが一番ね。
あの日の、あたしの気持ちを告白したとき、一番混乱したんだって聞いていたから。
リツコ主任の気持ちが信じられない、という理由を消しておきたかったしね。


でも、違っていたのよ。
勿論においや気持ちも理由のひとつだったけど、それだけじゃなかったの。

 

 

◆ ◆ ◆

 

「実は……その……ある理由があって……きたんだ」
「きた? もしかして、しようと服脱いでいる時に、副司令とか?」

 

深呼吸ひとつ。

かれはそのまま、蚊が飛ぶ音のような、小さい声で。


「お風呂場に行くのに……りつこさんの、服を、きたの」


大爆笑が、部屋一杯に響いた。


 

 

◆ ◆ ◆

 

  「……は?」

年相応に真っ赤になりながら、居心地が悪そうにしていたシンジ君は、ついに絞り出すような声で、言った。

『パジャマと下着の着替え、ありませんか?』

首を捻りながらあたりを見回すこと数瞬。
シンジ君がまとう臭いの発生源に思い当たった。


「「あー、そういうこと」」

あたし達がこの部屋に入った時、シンジ君はパジャマを着ている状態。
上半身ははだけて、彼らしい微妙な発達の胸板と、アオイ好みのリップカラーの花びらが幾つかついていた。
そして、下半身はちょっとずり下がっただけ。

どうやら。
シンジ君の背中はいま、アオイと自身の体液でひどく濡れ、彼にとって気持ち悪い状態になっているらしい。


「下着だけでもいいんです。 着替えは、この部屋に」
「無いわ」

加持さんの正体がばれた結果、諜報活動の出来る人物がNervに入り込んでいるのを改めて実感した葛城三佐をはじめ、幾人かの上位士官が出した要請もあって。
この部屋自体もかなりの下層に位置していた。
何より、この部屋は病室では無いわけで。
ベッドを初めとする最低限のの病室設備をはめ込んだだけの部屋なのだ。

「……と言うわけで、病室用の着替えや下着なんかも無いの」
「取り寄せましょうか?」
「……いや、あの、出来ればお風呂に入っている間に」
「この階は浴槽型があるけど9ブロック先。 80メートルは歩かなければならないわ」

 

 

◆ ◆ ◆

 

  「……一寸待って。 私が思うに、取りあえずサツキに男子制服とってきて貰うとか」
「あたしもそう思って聞いたんだけど、シンジ君はとっても焦ってて、そんな考えは出てこなかったわ」

 

 

◆ ◆ ◆

 

「うわ、うわ、うわわっ」

シンジ君の焦りは頂点に達していたわ……で、唐突に出た言葉は。

「お二人の服、貸してもらえませんか?!」
「は!?」

「じゃ、リツコ主任の白衣を借りたら……」
「そんな下着着てても豚箱一直線なスタイルになりかねないのは嫌ですっ!」
「あたしの私服は今着てるワンピースだけだから無理」
「制服の着替えっ」
「……女子の制服を着るのは、いいの?」
「9ブロックの我慢です!」
「そう……でもごめん。 制服は施設内のクリーニングサービスに出しちゃった。 明日、あたしは休みだからちょうどいい、と思って」

で、さっきの爆笑の原因ね。

「……本当に、いいの?」
「え?」
「私、いつも着ている服、もう一着……このバッグの中に入ってるけど……」
「貸して下さい! 背に腹はかえられないですっ」

数分後、胸の辺りとかが変にだぼだぼな、妙に魅力的な印象の彼が主任を連れて飛び出していった。

「……しばらく起きないアオイの服を拝借、って言う手でもよかったんじゃないの……?」

自分でもどこか着地点のずれてる意見をつぶやいて。
早速、あたしは被服課に彼のサイズに一番近い下着などを支給してもらいに行ったの。


◆ ◆ ◆

 

「でも、シンジさんが女性の服を着るって言い出したのは……一寸ショックだなぁ」
「……理由はちゃんとわかるんだけどね」
「あね?」
「彼女と、アオイさんとした事を、自分で説明するまで私達に知られたく無かったのよ。 それに」
「それに?」
「ノゾミだって一月ぶりにシンジに甘えたかったでしょ?
 そんな時に職権とかを利用して早速抜け駆けした子がいたら?
 私達の誰かがそこに居たら、アオイさんをベッドからポイって……早速襲ってたわね」
「『嫉妬半分その気半分』でね」

「アスカさん」

「是が非でもお風呂に行きたかったのよ、あいつ。服脱いで、全身を洗って」
「証拠を消したかった?」
「そうじゃなくて……『匂い』を嗅いでリツコがその気になるのも、嫌だったのよ。
 リツコが自分を好きになってるとは、思ってなかったんでしょうね。
 キスはともかく、自分を好きだって言ってくれる娘としか、シンジはHをしてない。
 リツコが体だけでもその気になって、なし崩しにそのルールを破っちゃったら」

「抱ける女なら誰でもいい、って事になっちゃう。シンジはそれが嫌だった。
 何より、それを認めちゃうと。今度は私達の想いを傷つけてしまうと思った。
 本当は自分だけを愛してほしい、って想ってる筈の私達が持つ想いを踏みにじったんだ、と思ってるシンジにとってもう一回はどうしても出来なかった」

「……」

「ま、アタシ達が風呂入ってる間に来ればシンジに抱かれたアオイが寝てる、とか。
 男湯にリツコが入ってこないと信じていた、とか……細かい所は穴だらけだけど」


◆ ◆ ◆

 

マユミと経験した真っ白な世界とは逆の真っ暗などこか。

ずきずきと痛む後頭部。


確か僕は、女装した姿を誰にも目撃されなかった事を信じてない神様に感謝して。
男湯に入ったらリツコさんも入ってきて驚いて。
慌てて出てもらって。
通路と繋がってるドアに鍵はかけられない事を思い出して。
脱衣場と浴室の間の扉は掛かるのは同じ型の風呂場をいつも使って知っていたから、着替えからそっちでやろうとして慌てて飛び込んで……。

あれ? と気付いたときには「それ」はもうそこにいた。


目の前に見えたのは、あの時助けてくれた一本の茶色い糸。
顔じゅうに広がる、暖かいもの。
そして、アオイさんのように、僕をちゃんと読んでくれる声。

 

「良かった、気がついたのね!」

暖かい何かは、リツコさんが流してくれた、涙。

 

◆ ◆ ◆

 

「えっと、何があったんですか、僕は……」
「慌てて動いたから、私の……シンジ君のウエストより少しだけ広いスカートがひざの辺りまでずり落ちて、それに足をとられて転んで頭を打ったの」


意識が戻るにつれて、僕は上半身がリツコさんの体に包まれているのに気がついた。

ヒカリやアスカの同じ大きさの体とは違う、支えたいノゾミとも違う。
サツキさんのような、でも何か違う、懐かしい……。

「少しだけ、覚えてるんです」
「なに?」

あの三十日(僕自身にはたった数十分ぐらいのことだけど)の話を、僕はした。
理由はわからない。
でも、この話はリツコさんに最初にしなければならない気がしてならなかったんだ。


一本のこげ茶の糸の、『励まし』という暖かさは、彼女がくれた気がしたから。

 

◆ ◆ ◆

 

「実は、その、リツコさんじゃないかな、と思っているんです、けど……」
「なに?」

確かに、リツコさんだ、という確信があったわけでも、無かったよ。
でも、話していくうちに、どんどん真っ赤になって行くリツコさんを見て
後頭部の生え際あたりがちりちりとざわめく感覚にとらわれた。

それは、EVAに乗ったとき、感じるようになったあの感覚。
学校の生物の授業とかで見たことのある。

獲物を狙い打ちに出来そうな、猛獣の、視線。

 

---------------------------------------


「それで、木の下に母さんみたいな人が現れて……」


私が彼に好意を持ち始めたのは、あの朝日の中の握手。
彼の手は、とてもふっくらとして、私達の命を賭けて戦っている手とは思えなかった。

私がそれを隠したくなくなったのは、彼に愛されているサツキを見たとき。
あの『手』が私以外を触っているのに腹が立っている自分に気がついたから。
……もっとも、熱が冷めた後のひと時ははかなり悲惨だったけど。

いよいよ私が気持ちを隠さなくなったのは。
バレンタインデーをきっかけにして、決定打はマリイさんとの話の中で。
一度くらい、正直になってもいいんじゃないか、って思った。
彼に思い出をもらうくらい、ならいいんじゃないかな、って。


「だから、手を伸ばして、あの人を突き飛ばして」


元の世界に帰る切欠が私らしいことを知って。
本当に嬉しかった。

そこまで気持ちが膨らんだとき。
彼の左手とお風呂場のタイルに挟まれた鈍い輝きが見えた。
多分、サツキが手渡したであろう、あのショッキングな写真が入ったケース。

彼がそれを握り締めたのは無意識だと思うけど、その行動に悔しさがこみ上げてきた。
多分もう、私が入り込む隙間なんか、無いんだろう。

「でも、みんなの気持ちも、糸に例えられていたんです……本当に、うれしかった」

彼には帰る場所が、しっかりと、ある。 今の私にはもう無い、ここでは多分もう持てない絆。

司令に別れを告げた私には、もう買えるところも無い。
戻るつもりは無いけど、加持君のそばには今も、ミサトがいる。

そう思ったとき、私の中で何かが変わった。
あの朝日の中の握手と、『糸』を信じたかったんだと思う。
まだ、赤木リツコと碇シンジの絆は切れてない、と。

それと同じくらい、暗い怒りも、心に広がってきた。
あれ程たくさんの女の子達の気持ちを理解できるようになったくせに。
たった今、目の前にいる、私の気持ちに気が付かない彼に。

「……リツコ、さん?」

ムカムカが更にひどくなっていく。
顔が険しくなって、どこか、暗い気持ちが頭を占めていくのを抑えられない。

「私を、忘れ、ないで……」
「え?」

この先シンジ君の心の中に、私が恐怖と同じ意味で残っても良かった。
彼が私を襲う存在として、『あの日』までしか覚えていなかったとしても、そのときまで、私は彼の中にいられる。

私が襲うようにシンジ君を、その唇を求め、塞いだのは、そんな理由だったわ。


-----------------------------------------------------------------


最初の一回目は、ただ唇を私のではさんだだけだった。

「いつっ?!」

でも、シンジ君の唇のはしが私の、ふつうの人よりも一寸大きくて、とがった犬歯に引っかかって。
身長等……体格の違いからかなりぶかぶかになっている私のの上着の隙間越しに、流れてく。
私のと、彼の、二人分のしずくが混じって。
私から流れるしずくを想像させた。

「……リツコ、さん?」
「私ね、シンジ君が好き。 アスカやマリイ博士や……ヒカリちゃんと想いでは、負けないと思う」
「ええ?!」

胸をはだけさせて、白い、でも、NERVの護身術などの訓練によって、初めて会った時には無かった『男』を意識させる、筋肉の盛り上がり。

特にあの『影と繭』の辺りから、彼は必死になってトレーニングをし始めていた。
その原因が、あの子達。


「え?! いや、ちょっと!!」
「怪我させたのは、私だもの……」

さっきまで流れていた雫の流れを、舌で拭い取るように、さかのぼる。


 
ふと、自分に傷を付けるだけだった『あの人』の性癖を思い出す。
彼はなぜか、自分の体……爪や歯、指などで痣を作ることを好んだ。

それも、細心の注意を払って。 他人の目に触れにくい場所、
他ならぬ私自身でさえ、見ようとしなければ確認できないような所へ。

ユイさんや、しばらく関係のあった母を思い出す限り、特にそういう趣味が
あの人にあった、とは聞かなかったのだけど。

 

そう言えば、という気持ちで彼の左肩に舌を這わせる。
確か、『猛者』な彼女が鎖骨のすぐ上辺りにつけた、って言ってたわね……。

「やっぱり」
「……え?」

なかった。
ヒカリちゃんがシンジ君との初体験の時に、痛みに耐えかねて付けた、という歯形。
かなりはっきりと付いてしまったので、『流石に一寸気になってしまうんです』とあの時マリイさんが言っていた、初めてを取っちゃったヒカリちゃんにメンバー全員の嫉妬心を一寸だけ持つ、本来消えるはずの無い傷痕。


それが無い。
きれいさっぱり、痕跡さえも。


「嫉妬の証明……そこまで真面目にしなくても、いいのにね」
「……『傷』の、事……っ?!」

そう耳元でささやいて、『なぜその事を?!』って驚いたままのシンジ君の。
微妙に開いた唇へ舌を差し込んで、こじ開けて、少し彼の血が混じった唾液を
繋がった所へ貯めて、かき混ぜる。

その音を聞かせるために。


-----------------------------------

 

「……シンジが責められっぱなし?」
「なんか、何時もと違いますね」
「でも、あたしが着替えを持ってきたときは、タオルとシンジ君の間で『痛みと初めての幸せ』を噛み締めながら シンジ君に手足を絡めてまし」
「きゃーっ!」
「……『きゃあ』?」

----------------------------------------------------------

最初に、その、シンジ君の態度が変わったのは、私がシンジ君の下になったときに彼がバスタオルを二枚重ねて、私の体の下に敷いて、「本気ですか」って聞いてきたときだったの。


「アスカちゃんは信じたのに?」
「え、嫌、そうじゃなくて。 アスカ本人に聞いたんですけど、その、僕がヒカリと初体験をしたのも、その後、目覚めたように、その、慕ってくれる、その……」

「浮いた情、なんかじゃないわ? ずっと前から、レイを助けたあの頃にはもう、小さいけど気持ちはあったと思う。
 だって、あの朝日の中、シンジ君とした握手で、貴方への気持ちがはっきりと自覚できたの」

 

 


私にとって、先輩は人生の目標であり、仕事の師匠であり、恋とは微妙に違う、好意の対象。
恋の対象にはならないと思う。 先輩に対する感情はまず『尊敬』ありき、だから。

何より、先輩自身が望まないと思う。
自分の望むことなら何でもと言う私と違って、先輩の恋愛に関する感覚は硬いから。

そんな人が、よりによって自分の母と関係があった司令と関係を持ち出した。
しかも、他ならぬナオコ前主任が異様な自殺を人生の終焉に選んだ直後、と言う事実もあって。
私は『自分の大切にしたいものが汚されていく』、と言うイメージを勝手に作っていた。

だから、私は先輩と司令の関係を調べるために、こっそりサーバ・LABOR-011316を立ち上げた。
MAGIの検査プログラムをスルーできるスニッフィング・プログラムと一緒に。

彼女の私生活を一寸だけのぞいてみたい、って言う欲望も、あったけど。
一番の理由は。 司令がもし先輩を傷つけるなら……。

そんな監視が数年続いた頃、先輩に変化が現れた。
原因は、14歳の少年。

-----------------------------------------------------

マグマの中からシンジ君がアスカを助けたあの日以来。
本部勤務の職員が彼に対して持っていた評価は、確実にいいほうへ変化していった。

ただ、私の視線の先によくシンジ君が入るようになるには、もう少しだけ、時間が掛かった。

その日とは。
2015年11月23日。11/21

零号機の第二次稼動延長試験と使徒襲来があった日の、10日位後。

……先輩の、誕生日。


 
最初は、たわいもない話のはずだったのよ。
あのプリズム型使徒がシンジ君を撃ち抜く日の、前日の。

『ねぇ、シンジ君は大人の女性に興味、あるかしら?』
『そりゃぁ、シンジ君はそういう事に興味持ち始める頃ですし、
 レイちゃんと話せる様になるまでの間、葛城さんの毒牙にかかって、とか。
 噂だけなら結構、在りましたから。 事実、酔った葛城さんが日向さんに……ぁ』
『何?』
『その……シンちゃんの「おちんちん」のサイズを知れる位に見た……と』

先輩は、自分のオフィスの真向かいにある、作戦部長の部屋へ直行。
『そういうことを他人に漏らすな!』と大喧嘩になった。

その時のしこりは、『それじゃ、役得じゃない!』と言うのが、一寸だけ。

----


次のきっかけは、シンジ君とアスカのユニゾン訓練。
二人のシンクロが上手く行き始めるにあわせて、先輩のタバコは根元まで吸われて行くようになった。

----


そして。

『……え?』
『え、えっとですね? 昨日、アスカや綾波の誕生日を、その、知る機会があって。
 それで、あ……の、リツコさん、の誕生日も、判ったんで、す。
 流石に、誕生日パーティーをリツコさんの都合を考えずにやるのは……。
 で、でもっ。 やっぱり感謝の証があの日の肩揉みだけ、って言うのが、どうしても、感謝の証とするには足りない気がして、引っかかってて……だからっ!』

彼が差し出したのは。 花麒麟と一緒、先輩の誕生花のひとつである
小さい「かりん」の花があしらわれたペンダント。
それと、たった今みたいに顔を真っ赤にしながら買ったであろう、四つのショート・ケーキ。


『そ、それじゃ! これからもよろしくお願いしますっ!』

そう言って帰ったシンジ君は、おそらく知らない。


先輩が顔を真っ赤にしながら、その場ですぐペンダントをいそいそと首に掛けたことを。
その純情な行動が、「かりん」の花言葉が……「唯一の恋」だと知っていたから、と言う事も。

……この日から、司令の元へ、行かなくなった事も。

 


  先輩が、変わっていった。

鋭くて、強くて、美しい刀みたいだった人が。
セカンド・インパクトに消されかけた青春を取り戻す努力を忘れたあの人が。

化粧を、香水を、自然な気持ちを手に入れようと努力していた。

無理に自分の気持ちを理解して欲しい、と願っていた訳ではないけれど。
司令との関係の縁切り。
先輩があの日々の中に置いてきた『青春』の体験も。

全部、シンジ君が持っていってしまう。
それは、私にとって嫉妬を大きく煽るのに、十分だった。

 

「……それでも、恋じゃないって、自分に言い聞かせてたのね、先輩」

怖かったから。
歳の差、自分がシンジ君に思いを寄せる以前、誰と関係を持っていたか。
臆病にさせる要因は、そろっていたもの。

 

そんなある日、転機がきた。
アスカに告白する為に、プレゼントを模索していたシンジ君。
私に相談してくれた事に運命を感じ、色々画策した。


サツキから、どう言うプレゼントがいいかと相談されたとき。
先輩を落ち込ませる為に『誕生日の花言葉』を題材にさせた。
少し大きめなブローチを作る事にして。
カエデやアオイも巻き込んで。

アスカの誕生パーティー以降、先輩はかなり落ち込んだ。

 

 

微妙に青みががった映像。

理由は不明だけど、同じ服装をした先輩とシンジ君。


少しだけ、精悍な顔つきになって、戻ってきたシンジ君の膝を包むように
先輩のスカートがくるんでいる。

シンジ君は大人の充実した体の下で脱出すべく必死にもがいているみたいだけど、そうはさせない、とばかりに先輩はスカートのベルトを締め、彼の足の間に両足を突っ込んで。
スカートの形、布が伸びるときに出来る余裕、すべてを使って簡単な拘束具を作り上げている。

「やっぱり、本気なんですね、先輩……」


----------------------------------------------------

私が仕掛けたいたずらは生まれ始めた先輩の気持ちを壊せたはず。
それなのに、先輩が司令の元に帰ることはなかった。

でも、何かにとり付かれたようにふとシンジ君に向けたい気持ちを見つけてしまうようで、すぐに否定しようとした。
霧島さんが姿を現した一月以降は特に。

 

「『初号機が殴りたかったのは私』、か……」

シンジ君を無視したふりをして、初号機を取り戻そうして、葛城さんに叩かれた時のように。

それ以降は、言うまでもないと思う。

シンジ君は母親の命日に童貞を捨て、その数日間に幾人もの女性と関係を持っていく。
先輩の気持ちは、本人以外に無視され、置いてきぼり。
今度こそ、帰る場所の無くなったひとに手を差し伸べる前に、彼女はあっさりと開き直ってしまった。
松代で、マリイさんが関わっているらしい事だけしか、理由らしい事はわかってない。

--------------------


  シンジ君の呆然としていた瞳に、しっかりとした意思が宿った。
『オトコ』とも、『タチのオンナ』とも取れる、狩人のような、視線。

その視線に、私も、先輩も、一まとめに呑まれていく。


『本当に、僕の事を……?』
『ええ。 リツコは、シンジが、好きで……?!』


数回想いを込めたキスをされて、愛されて。
想いに応える気持ちが出来たのか。

それからのシンジ君の、『攻撃』は、とても鮮やかで。
あっさりと先輩を組み伏せて、僕のもの、って言う証をやさしさと一緒に。

刻み込んで、いく。

経験豊富な私ですら、うっとりとしてしまうものだったの。

----------------------------------

いつ、攻守が逆転したんだろう。
いつ、私がバスタオルを敷かれたタイルの上で。
彼を受け止めつつ、喘いでいるんだろう。


「どうか、しました?」
「私の気持ち、信じてくれたんだな、って」

真っ赤になる、笑顔。
でも、手は止めてくれない。
司令とは違う、自分の快楽だけに染まらない。
あの日と同じ、あったかくて、私の気持ちをすべて受け止めてくれる、ふっくらとした手。
それに答えていく、私の心と、体。

「本当は、少しだけ、そんな気がしてたんです」
「あの子達から、聞いてたの? バレンタインの事、とか」
「糸が、あの時……母さん? から僕を助けてくれたあの糸が、励ましてくれたんです。まるで、物語に出てくるヒロインみたいに、『シンジ君!』って。
 アスカ達の話だけじゃ」
「信じられなかった?」
「はい。 ちょっと唐突過ぎて」

そっと、彼は束ねられた髪を解いて、左右に散らしていく。
『こんな色だったんですよ、リツコさん』とつぶやいて。
髪の毛のひと房を手にとって、そのままつつっ……と私の頭へと手を流す。

「『糸』の付け根、そこにあるのは、頭……こころの入れ物だから。胸にしまった想いが伝わって……」
「きゃうっ?!」

右手によって付けられた、乳首への刺激によってのけぞった私。
少し緩んだ唇は、差し込まれた舌に、すぐさま自分勝手に応えて、すべてを絡めていく。

 

-----------------------------

でも、その行動は、本当は自分の気持ちがしっかりと付いていっているもの。

答えてくれないと思っていた気持ちに、応えてくれた。
自分が求めてやまなかった、気持ちに、応えてくれた。
だから、私か彼のものになるために、全身から抵抗の意思を捨てていく。

覚悟を決めた瞬間からしばらくは、私の体から漏れる声とシンジ君からもたらされる音。
目に映るシンジ君の、やさしさと獣欲の混ざった瞳。
肌に感じる女慣れした手のひらと、司令との時と違ってなぜか落ち着く肌の暖かさが、すべてだった。

シンジ君は、私に体を擦り付けて、においを移すように。
司令との関係で付いてしまった小さい傷跡に嫉妬して、キスマークでそれを覆ってくれる。
そして、程なく気付かれた。


私がまだ、処女である事に。


「……あ」
「やっぱり、判っちゃうのね。 一寸、悔しいな」

シンジ君の指は、私の体にどこまでも、やさしくて。
体の隅々までなぞってくれる舌は、私をきれいにしていってくれる気がした。

デモ。
程なく、『穢れた処女』である私の欲望は、我慢をあっさりと放棄した。

司令にされていたときには考えもしなかった行動。
両手を広げ、性器を見せ付けて。

「リツコを貴方の女にして」

司令よりも残酷な……自分だけを愛してくれないと判っている男へ。
私は、すべてをさらけ出した。


Menu


From:ハーレムエロ探求スレッド