畜類め、繁りやがれ! 10

Original text:LHS廚さん


 


2003年6月27日

 

わたくしの恋人、そして三人にとっての主人がフランスから日本へ帰る朝。
同時に、これが多分……今の、ヒトの形のままの5人全員が集まれる最後の朝。
もし『次』があるとしても、少なくともユイは……私の初恋の相手は『生命の実』の中。

 

多分、ほかならぬ私も人としては、会えない。

 

もちろん数回ほど止めた事はある。
でも、ユイはそんな忠告程度で止まる子じゃない。
そんな彼女を好きになってしまったのだから……だから最後まで付き合ってあげる事に決めた。
インパクトが成功すれば、ずっとユイの側にいられると信じて。


ここは空港のそばにある小さい公園。
ユイとわたくし、そしてユイの『同士』にして『使い魔』と化した三人が集う最後のチャンスであるこの日に、記念写真を撮っておきたかったから。


ユイとわたくしのツーショットに始まって、それぞれが撮っていく。
5人全員でも撮った……でも、猫たちと四人で写るのだけはやんわりと断った。


「最後の写真ですのに……全員で写らなくてよろしいんですか、レミット様?」
「お願いだから『様』付けはやめて、メリーナさん。 わたくしも貴女達とおなじ……ユイを愛し、
 『同じ目的』を達成しようとしている仲間とは思っているけど、ユイと違って貴女達の事をわたくしは『ネコ』とは思っていないんですから」


それに、貴女達三人と違って、わたくしは彼女と対等に付き合ってるんだから。
ずっとそう思っているのも事実……だからこそ、彼女たち三人と写りたくなかった。
流石にその事は、伝えなかったけど。

 

「それじゃ、レミット……お願いね?」

恋人の声に答えて。
ユイと三人のネコが位置についたのを改めて確認し、わたくしはシャッターを切ったの。

 

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様々な体液のにおいがこもった部屋を出たとき。
簡単に言えば、正直あたしはボロボロだった。

何度も叫んだせいだろうか、喉がいがらっぽくて、ヒリヒリして。
一度だけ、二人で飲んだシンジ君のあれが、何処かに残ってる気もする。
……嫌じゃ、ないけど。


思い出してしまった自分が恥ずかしくて、下を向けば体中にいくつもの痣。
完全に『彼の』形を残した……体のあちこちに痣……キスマークができていて。
何時も開かない方向に開いたりしたせいか、節々が妙に痛くて。

重く、鈍く、汗のせいで内股全体に広がってしまった純潔の証が見えて。
思い出していく。

 

『ひた、だめ……』
『本当にいやなら、やめますよ?』
『だめ?!』
『どっちなんですか、サツキさん。 次は私の番……』

『だって、ようやく、どうやったら気持ちよく慣れるか判ってきた気がするんだもの。 痛み、感じなくなってきたんだもの。
 もう少しで、気持ちよさだけに……だから、もう少し、がんばるから……』

 


耳の内側で血管が血液を流していってるのが判る。
流れにあわせて体温と雰囲気をを盛り上げてしまって行く自分が。
今日の仕事を無視して彼に突貫してしまいそうになるほど、溺れようとしている気持ちが怖くて、でも嬉しくて。

……でも。
私は大人なんだから、と煩悩を振り払おうとした時。

リビングの窓越しに、微かにアスカとマリイさんの背中が見えた。

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その日。
洞木ノゾミは注目を集めていた。

ただそれだけなら彼女の日常においてたいして変わらないことではある。

違う色の髪や瞳に対する興味。
未熟とはいえ異性に『興味』を持ち始めた男子の視線を集める者への女子達が抱く嫉妬。

様々な理由があるにせよ、視線の先には彼女の明らかに目立つその姿……だからこそ、苛めの対象になっていたのだから。


ただ……それは子供たちのみに起こっていたことである。

 

第三新東京市の基本的な出来事の根幹はあくまでNERVであり、まがりなりにも国際組織の本部所在地なのだから、外国からかなりの職員がさまざまな理由でやって来ている。

勿論それぞれの生活の中、日本人と結婚する者もいるし、混血の子供を育てるものもいた。

子供たちと違い、そう言うことに理解をもつ大人達にとって。
彼女のような存在は生まれて当たり前の者であるし、何より自分達の中にも国際結婚を果たして子供をもうけた者もいるのだから。


それがここ数日、対象が大人……教師達にも伝染しつつあるのだ。
『注目』の意味は違えど。


女性教員たちはまだ良かった。
『恋』を知ったからおませな成長をしてるのよね、と思い込むことが出来たから。

彼女のクラスの担任はまだルージュも引かれた事の無い唇からもれた舌に艶かしさを覚え。
少女の襟元に微妙に現れていた鬱血を見つけた教頭には背徳の回春剤になった。

 

幼児趣味に目覚めかけた者達が蛮行に及ばなかったのは、はたして幸運なのか。
それとも犯罪者になりたくなかったからなのか。

彼女本人にとって、すべてはどうでもいい事ではあったのだが。

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ベランダにて。


『お守り?』
『そうです。 折角こんなに自分を慕う女がいるんですもの。
 シンジさんには是非『こんなに愛している皆を残して死ねるか』ってピンチから立ち上がって貰いたいとは思いません?』
『何をお守りにする気よ? 以前ミサトが「下の毛がお守り」なんて言ってたけどアタシはそんな物お守りにする気があるなら参加しないわよ! しゅ、つ、撃前のキス……でい、んだし』
『自分の物もあるとはいえ、そんな不衛生になってしまう物をプラグの、L.C.L.の中に持ち込む事なんてEvaの技術者として絶対に許しませんわ!』
『防水出来る加工をすればいいじゃない。 机の上にせっせと用意してたの、それでしょ?』
『あれはそうではなくて……』

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本部内でも一番の長さを誇る長い中央第一エスカレーター。

「あーあ、私もアスカみたいにシンジの股の間に滑り込めばよかったなぁ……」
「いいじゃない。 シンジの足に猫みたいにすり付くその姿って、マナらしくて、アタシ好きよ?」


二人の少女は下へと潜って行く。


「『お守り』かぁ……なんか、変に恥ずかしくてたまらないね」

一人はまさに宝物を手放したくないようにしっかりと手に持って、穴が開きそう、という表現が今の彼女を見て生まれた、といってもいい程に二枚のカードを眺める。

「まったく、横から覗き込まれたらどうするのよ。 二枚とも、ばれたらお小言ではすまないのよ?」
「アスカみたいにこそこそしながら見たくないもん」

もう一人といえば。
ここにくる途中、立ち寄った商店街で一番見栄えのするパスケースを一つ買って、その中に「お守り」を二枚とも押し込んでいた。

他人が一人でもいるときはそ知らぬ顔をするくせに、盟友の一人と二人きりになった途端、
こっそりとパスケースを広げ、今までの彼女はなんだったのか、という笑みを漏らす。


そこには確かに、恋する乙女がいた。


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『「勝ち絵」?』
『大の日本フリークだった母によると、戦国時代の頃、日本の武士階級の方々は自分の繁栄を祈るため、和合……つまり愛し合う男女の交わる姿を描いた紙を胸にしまって戦っていたそうなのですわ』
『胡散臭そうよ、それ。 だいたいHしてる絵を持ち歩くなんて、お守りって言うよりポルノじゃない』

『その話なら、マヤに聞いた事あるわ』

『『サツキさん?!』

『日本は農業……神様がいっぱい、小さい町や村、何処にでも居る世界だからこその風習らしいわ。
 五穀豊穣、性は生、実りのシンボルなんですって。
 西洋は絶対的な神様が一人しか居ない世界でしょ? だからそういう事を背徳と見るんだって』

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私が何気なく漏らした「最近変わったと思うこと、あった?」に対する回答は
以前の彼女とははっきりと違う、ごく普通の

「私達に対する男子職員と女子職員の対応があまりにも違うわ」


ここに来るまでの男女職員の態度の違いは明確。

興味津々の女たちをいぶかしげに見つめる男性職員たち。
いたずら職員達の結束と沈黙は鉄壁の固さを誇っているようだ。

 

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『お守りを作る為に一寸だけ……私や妹の……そう言うシーンを撮るって……』
『な、な、なんて提案をするんです?! こ、このあねたちはっ!!』

『いいじゃない。 シンジのお守りになるんだし、ちゃんとノゾミちゃんの分も作るわよ……ねぇ、マリイ』
『大人の私としては流石に、ノゾミちゃんのペア写真だけは素っ裸になって欲しくは無いんだけど……』


『シンジさんやマユミさんを見てよ! 真っ白になっちゃってるじゃない!!』
『はい、確かに強烈すぎます……マナさんは、驚かないんですか?』
『戦自にいた頃、問答無用で素っ裸にされた経験、結構あるから』


『もしかして……お嫌、ですの?』

『あ、いや、嫌とか、じゃな、いんだけど、その……レイは? 彼女は今、ジオ』
『はい、ですから、今日はレイさん抜きで取り敢えず試作品を作ってみる、と言う事で。
 レイさんには後でもう一枚、彼女好みのお守りじゃない写真を提供する、という事で話がついてますわ』
『え?! もう話がついてるんだ……ってノゾミは嫌って言ってるけど?』
『ボ、ボクは……そりゃ、嫌、って言うわけじゃ……』


『彼女の不安は多分、学校に持って行ってバレたら、とかそう言う事だと思うんだけど、違う?』
『流石に、彼女は特にバレるのはまずい事なので全体写真はヒカリさんに預かってもらう事にしましょう。
 それと、ペア写真のほうは服を着て頂きます。
 破廉恥、とか言う意味を超えてしまいますから。 でも、見えない所は基本的に何もつけず、と言う事で』
『え?』
『つまり……性器だけはこっそり触れ合った状態にして撮る、という意味ですわ』

 

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俺達が通うこの学校にはひとつだけ不満な点がある。
男子は屋外でサッカーや野球、陸上等をやらせていれば良い、と思ってるフシがある事だ。
女子が水泳をやってる今日のような日は特に。

プールサイドにきゃいきゃいと並ぶ女子達を眺めながら、今日も無駄話。
そう言えば、あの日も校舎の影に体育座りしながら話していたっけか。


「そう言えば、こんな時やったかなぁ……ワイらがセンセに」
「えーと、トウジ達が『綾波の胸、ふくらはぎ』……ってのしかかって来た時のこと?」
「そうさ、あの時はこんな短時間で委員長の胸が膨らむとは思わなかったし、綾波の表情が豊かになる、とも考えなかったもんなぁ……。 ところでさ、シンジ」

ん? と何も判っていなさそうな反応を返すシンジに一気に止めを刺す。
少なくともお前、委員長とはやった経験あるよな、と。

 


「!!?!」

いや、本当にわかり易い反応をしてくれるよ、シンジって。
目が点になって真っ青になって、周囲をきょろきょろと見回して、俺達二人以外が聞いていない事に思いっきりほっとしていたり。

「……病室での彼女の態度、忘れたのか? あの堅物をミサトさんまで惚けさせる『女』にして。
 言いたくないけど俺達、あれからしばらくまともに歩けなかったんだぞ?
 キスしていただけでした、なんてのも無しにしろよ? 信じられるわけ無いんだぜ?」
「せやせや……誰にも言わんから……な?」
「あ……いや、その……。 キス、されていただけなんですけど……。 本当に」

誰が信じるか、と顔全体で表したトウジと攻めに攻めまくって答えを手に入れてやろうとした時。
シンジに聞こえろ、と言わんばかりの声が飛んできた。


「おい、見ろよ。 綾波と洞木だぜ」
「うわ、委員長の胸見ろよ。 あの谷間に『挟んで』みたくね?」
「いいなぁ、碇の奴。 何人か……せめて山岸位くれないかな……」
「大丈夫だって! 惣流や綾波、マリイはしゃーないとしても、他はそろそろ碇に飽きてくる頃だって」
「そうすりゃ俺達にも……」

その話声を聞いた瞬間のシンジの顔だけは、今でも忘れられない。
自信がある、と言う顔ではないのに。

彼女たちが自分から離れる事など、そんな事がおきる筈が無い……という確信に満ちていた。


その顔を見たこの時初めて。

委員長だけではなく、綾波も惣流も霧島も山岸もマリイもみんな既にシンジの物なのだと直感し。
俺達は、まさに『ハーレムの王』としてのシンジを見た気がする。


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第一発令所。

「天候?」
「いいのかな、この天候、ってさ」

マコトの端末からウィンドウが一つコールされて開く。

微妙な北風に乗り、積乱雲が一つ松代の方へ向かっているらしい。
確か、松代の変電施設のユニットは、ヤシマ作戦の際に使われたものが幾つか流用されたと聞いている。

「俺さ、心配なんだ。 だって前回の使徒はいよいよ冗談めいた世界に入っていってるし、
 その前の使徒はあっさり本部に侵入しているわけだし……」
「まぁ、な。  そう言えば聞いたか? 昨日の昼に葛城三佐、『委員会』のテレビ会議に招聘されたらしい。
 色々言われたんだろうなぁ……最上二尉の話じゃ昨日、かなり血走った目をしていたらしいからなぁ……」
「そ、そうなのか……」


やっぱりと言うか、当然というか。 マコトの気持ちは参号機以外のものに向いてるようで。
三佐の話に加わってシンミリとしたく無かった俺は何の気も無く天気図を広げて……妙な事に気がついた。

「えっとさ。 このオレンジのラインって確か……」
「ああ、当初、参号機が送られてくる筈だった航路だな。 本来なら今日の昼に到着予定だったんだよ。
 だから航路が写って……って事は大井二尉、予定ラインを消さなかったのか。 ……で?」


予定の航路ライン上に幾つか。
まるで航路を知っているかのように積乱雲が写っている。
これじゃまるで……。

「怖い、な」

キョトンとした同僚に軽い口調で、一言。
まるで、積乱雲が待ち伏せしているような位置にいる……。


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とある監視カメラの映像。


『副司令、これ司令にもお願いしますね』
『伊吹君なら毎日のように会ってるのだから……碇に直接渡さないのか?』
『その、本命って訳ではありませんし』
『しかし、なぜ今年はこうも多いのかね?』
『ええ?! 他にも渡した子、いるんですか?』
『あ、あぁ。 君で四人目……』
『(小声で)……外堀の埋め合いっこ、って訳ね……あ!?』

向こうに職員が一人通りかかる。
済みませんと声をかけ、マヤちゃんは彼女を追う。


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別カメラが撮影している場所・第一発令所。


「一寸良い? サツキ」
「へ?」

珍しく微妙にふらふら&ガニ股な金髪美女の左手をロングヘアの職員が掴む。

「いや、『感想』聞くだけだからぁ?」
「ほ?」


ふうん、やっぱり夕凪さんも知ってたんだ、とか。
あら、そう言う桜庭さんもしっかり知ってたんじゃない、とか。
主となる言葉が完全にない、異様な発言に包まれつつ。

マヤちゃんに後押しされながら、彼女は退場して行った。


「じゃ、後宜しくぅ……ってどうすりゃ良いんだよ、俺達」

 

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それぞれがそんな日を過ごしている中。
悲劇の幕が上がる。


「そうなの? さっき流れた『メール瓦版』に書いてあった彼女の……」
「最初はさ、信じられなかったのよ。 彼には洞木さんって彼女がいるって葛城さん言ってたし、アスカちゃんだって最初加持さん一筋だったんだし……それにさ」
「それに?」


私の頭と耳は周りの会話に集中して、一言一句聞き漏らさない努力を続けている。
この中に、私のあの恥辱……シンジ君をおかずにしたオナニーを見た子がいるはずだ。
絶対、口止めしなくてはならない。

……シンジ君に、欲情していたなんてこと、しられてはいけないのよ。


「ショタの最上二尉ならともかく、彼女がシンジ君の虜になるって、信じられる?」
「そう言えば、ほかならぬ二尉はなんて?」

一身にその視線を浴びているアオイ達はポーカーフェイスを通している。

「本人に、聞いてみよ……!?」

 

その会話を止めたのは、背後から聞こえた…ぱしゅん、という聞きなれた空気音。
ドアの開閉音に併せて噂のハーレム構成員、チルドレン二人が入って来たから。

周りの反応を仕方なく思いつつ。
私は白衣の皺をそのままに、微妙に本来の髪が脱色した部分を押しのけ頭を河童のように彩らせたまま二人に今日の予定を説明する為、ディスプレイ前に来させる。
私はすぐ、画面にここから第三までの簡単な地図を表示させた。


「まず、三十分後にマリイ博士による最終テストをした後、二時丁度にマユミさんによる起動。
 この実験場を出るのは二時四十五分ごろの予定。
 取りあえず強羅の防衛線上に待機所をひとつ設けているのでそこで休憩を一つ挟みます。
 その後は市街地の地下に掘られた地下道を通ります。 その際」


端末を操作して、画面上にポイントを表示させる。
一定の距離を置いて表示されるそれは、S2機関をを持たないEVAの必需品。
アンビリカル・ケーブル。


説明はさらに続く。

「手先の感覚を掴む訓練として地下道内でのアンビリカル・ケーブルの着脱は手動でやって貰います。
 地下道に入るまでの付け替え五回はセミオートでやっていいから、基本的な感覚を掴んでおいて。
 装甲板のおかげで、微妙に『人間』の時と感覚が違うから。 ……何か、質問は?」

「休憩中は、エントリープラグから出ていいんですか?」
「実は、休憩地点はもうひとつの訓練も兼ねていて、弐号機が待機しているわ。 昨日聞いてるでしょうけど……D型装備を付けたまま、アスカに緊急用電池を取り付けて貰う訓練を兼ねているの。  まぁ、手先が不器用なアスカの事だから、時間掛かるかもしれないわ。
 取りあえず、基本として四十五分取る予定になってるから出たほうが良いかもね。
 L.C.Lの取り込みに慣れていないでしょうし……基本としては、貴女の自由よ」

「『緊急用電池』って何ですの? 本部の新装備ですか?」
「第九使徒戦直前に本部職員の一人が考え出したオリジナル装備なの。
 肩のアーマーの真後ろに簡易ソケットを用意して、直方体の電池を左右一本、合計二本接続できるようにしているわ。
 最初はソケットの着脱にてこずるかも知れない、と思ってるから……今回の用途は予備電源ね。
 左右で三分ずつ、計六分余裕ができます。
 ただし、これは機体内の電池と違って外部電源からの充電は出来ないタイプだって事、忘れないで。 それで、他には?」


その説明ついでに幾つかの話を取り決めた後……あまりにもいつも通りなこの子達の態度にふと、知りたくなったから。
聞いてみる事にした……バレンタインのことを。

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「バレンタインデーですか? 興味が無い、と言うより日本人にとっての今日がどう言う日なのか判らない、と言うのが本音ですわね。
 チョコレートがあんなに重大な意味を持っているなんて、流石のにたくしも知りませんでしたわ」

更衣室で純白のテスト装備付きのスーツに着替えながらマリイちゃんは話す。

「元よりわたくし達はあの人に好意を告げてしまいましたし、何より受け入れて頂きましたもの。
 確か今日の『チョコレート渡し』は告白の為、なのですよね? 今のわたくし達には意味がありませんわ。
 わたくし自身は、帰った後でカードとクッキーを渡すつもりですが」
「ふうん。 じゃあ、マユミさんは?」

長い髪を薄紫のリボンでまとめながら、フォース・チルドレンはつぶやく。

「私は海外での生活が長いせいか、バレンタインデーの事も『ふうん、そんな事をやってるんだ』
 って言う程度なんですよね、実は。 だから、私達の中で一番今日を大事に想ってるのはヒカリさん達洞木姉妹だけではないでしょうか。 後、サツキさんも。
 あ、もちろん私もカードとか渡しますよ。 バレンタインは恋人のイベントである事は変わらないんですから」

 

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総司令執務室。

「なんだこれは……って碇、それは今日と言う日が何なのか知らない、と言う意味か?
 それともユイ君以外から貰うのものはいらない、と言う意味か?」
「貰える物は貰う。それが私の流儀だからその辺には文句は無い。 疑問はこの量だ。
 なぜ今年になって8個も渡そうという人物が出てくる? 私は一応妻帯者なのだがな」
「伊吹二尉の話によると、最近君の息子はユイ君らしさ……が出て来たらしいな。
 要するに、『愛の伝道師』と言う部分が」
「……ほかの人間などどうでも言い。 あれがレイに手を出さなければ良いのだ。
 ユイの為にもな。 シンジがセカンドや葛城三佐の言うガールフレンドに手を出して回っていても、あれに手を出していなければ良い。 伊吹二尉が」
「ナオコ君やリツコ君に手を出しているお前が言える台詞か? それと、一つ忠告しておく。
 最近のリツコ君は間違い無く、お前ではなく君の息子を見始めている……あの時以来」
「あの時?」
「フォースを助けた時だ。 『羨ましい』と漏らしていたぞ。 彼女はまだ必要な……電話か」

かちゃり、と音を立て、冬月は電話をとる。

「冬月だ……何!? レイがいない?! 定期健診中なのではないのか! 抜け出した!?
 今何処にいる……フィフス候補生と……シンジ君と一緒にいる、だと?!」

私は自分の自信の中核が破壊されてしまった『衝撃』に、椅子を蹴るようにして立ち上がった。

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『ヒカリの言う通りだわ。 毎日ハッスルしているせいよね……こんなに眠いのは』
「気持ちはすっごーくよく判るけど勘弁して。今日はこの後マユミちゃんの参号機と一緒に
 訓練するんだから」

『ところでさ……痛くないの? 昨日はあれだけ頑張ったんだから当然……』
「今朝方から……痛み出してるの。 まぁ、痛み止めを飲んで耐えてるけど……。
 あ、アスカ、左のパイプ、注意して。 引っ掛けそう』


通路は標準装備の機体サイズに合わせてある為、耐圧装甲の厚さ等の分高くなっている上に、
視覚センサーが頭部にある丸窓一つに制限されている弐号機にはかなり辛い。
先導している車両のカメラと発令所にあるデータにしたがって、小さいパイプなんかを
引っ掛けないように誘導していく。


『ねぇ、サツキぃ』


あの時より幾分かほっそりとした白達磨が地下通路を歩く。
歩行がかなり制限されたその姿は、何人かの整備班員が「今度こそ青く塗らないか?」と
嘆願書を出そうとさせた程に、”あれ”に良く似ている巨人。
……結局、真っ白なのは変わらなかったけどね。


「? 何処か違和感とか感じるようになった?」
『レイが本部から居なくなったって、本当?』
「シンジ君にチョコレート渡しに行ったみたいよ?」
『何で? ……確かに今日はバレンタインだけどさ』

飲み物を配っていたマナちゃん共々、あたし達発令所の女性スタッフは絶句してしまう。
恋する乙女ぢゃ無いのか、君は……。

「アスカ……日本でバレンタインデーがどう過ごすのかって、もしかして知らないの?」
『え? だってバレンタインデーって日頃想いを言い難い男が主体になって、大切な人へ感謝と愛情を込めたカードを交換する日でしょ。
 そりゃ確かに、花束やお菓子を一緒に渡す人もいるけどさ……ってもしかして微妙に違うの? 日本では』
「日本では菓子メーカーの戦略が根付いたお陰でね、意味が微妙に違うわ。
 主にチョコレートに想いを込めて渡す形で、女の子が自分の気持ちを『告白』する日なのよ」


アスカは叫んだ。 悔しさを精一杯込めて。

『一寸ぉ!! 今学校にシンジと一緒にいる二人の天下じゃないよぉ!!』

 


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そのころ、二人の人間に、ほぼ同時に叫ばせた二人の片割れは。
僕の舌の上に載ったひとかけらのチョコを塗り広げるのに夢中だった。

「あは波さん……残念がってたなぁ。 今すぐにでもシンジとこうしたかった筈なのに……」

舌の裏全体を使って、少しずつ、丁寧に。
二人の唇の間から滴る唾液はホワイトチョコが混じって白く変色して……。

「碇君の、せーえき、みたい……」
「「!!」」

屋上の出入り口の屋根。 そして、給水タンクの下。
半分服が脱げ合った僕らの肌に零れ始めたその雫を、レイの舌がなめ取っていく。
舌の中央を微妙にくぼませて、僕とヒカリの混じるあったチョコレート味の唾液を貯めて行って。
一気に飲み干す。  白い喉のラインに沿って微妙に動く筋肉は、それを証明してくれる。

「……鷹音医療主任さん、なんて言ってたの?」
「『レイが女の子になって嬉しいから今日はサービスしちゃう』って、言ってた。
 明日にずらして貰ったの。 ……だから、今日は自由の身。 碇君達との絆を欲しいだけ、もらえるの」

 

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考えていた以上にアスカは子供っぽい所がある、と思うのよ。
さっきもそう。

本部に到着した私達は早速それぞれの仕事をはじめる為に着替え始めたんだけど、
途中、Nervの制服の下に着る事になっている緑色のシャツを前後ろ逆に着てしまった事に気付いて。

よいしょっと、と言う掛け声と共に脱いだ私に、あの仕掛けの付いた赤いスーツにもう着替えたアスカが「まだ着替え終わっていないの?」って声を掛けに来て……目を丸くし、ついで猫の様に目を細めて。

思いっきり感動した表情で抱き付いて来た。

「あんたはヤッパリ仲間よぉー!」って叫びながら。

何の事は無い、ヒカリ、マユミ、マリイの三人(アスカ曰く、「デカパイ三姉妹」)がいるうえに、大人の魅力と相応に実った大きさのサツキさんまで入って来たせいで。
胸が小さいあの娘は肩身の狭い思いをしていたらしいのよ、皆気にして無いのに。

小さいほうの皆は、ノゾミちゃんは未知数、レイは興味無し、私はは今のところ戦自での訓練によって胸に行く筈だった栄養が筋肉に行っただけだって思う……って言うか思いたいし……。
ブラジャーをしていない方に突っ込みが来る、と思ったんだけど、アスカは本当に気にしていたみたい。

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「は?」
『だから、連絡を取るのよ!』
「マナちゃんが持ってる携帯で?」
『違うわ!秘匿回線しか繋げないけど、Evaにだって電話の機能はあるのよ!』

話は急展開していく。
早く結果を知りたいのは判るけど、それは流石に拙いよっ。

「一寸待って!  (小声になる)そんな事したら、シンジ君との事が判っちゃうじゃない!」
『隠すようなことはしてない』
「……ノゾミちゃんの事、忘れてる?」
『う……じゃあ、マナ、あんたがやって』

私は携帯を取り出しながら、非常に不愉快な(家に帰るまで待ってくれて無いかも知れないあの二人に対する嫉妬みたいな物も在るからなんだけど)気分のまま、ダイヤルを[シンジ(携帯)]に短縮を合わせ、つなぐ。

『……はい、シ、ンジです』

やっぱり。
文句を言ってやろうとした私の声が、彼に届くことは無かった。
いきなり通信が切れ、発令所全体に警報が鳴り響いたのだ。


『松代実験場との通信が途絶! 使徒出現の可能性あり! 総員、第一種警戒態勢に移行せよ!』


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『もし少し前のことでも予知できていれば』と思うことは誰にでもある。

でも、今回のこれはあまりにも強烈だった。

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『そのとき』の五分前。

私の端末の前でマリイさんが乗ったテストプラグをを見ながらマユミさんはしきりに首を捻ってる。
納得出来ない、と言うか……何か不思議だ、と言う顔をしてるのが気になった。
不安を解消してあげたかった私は、マユミちゃんに声を掛ける事にした。

「もし、不安に感じている事が有るなら言って欲しいの。 Evaが完全な状態に近づけば近づく程貴女の生存率は高まるし、使徒との戦いにも勝ちやすくなるんだから」
「あ、これからの戦いが怖いとか……そう言う意味ではないんです」

彼女の顔がきょろきょろと動き、注目されていない事を確認してから、済みませんと周りに聞かれたくないのか手を動かして『秘密の話』を意味する例のポーズを取る。

今日がバレンタインデーだから、彼の元へ速く帰りたいって言う話かと思っていた私は。

「赤木博士って、シンジさんの事好きなんですか?」
「……は?」

ど真ん中な直球だった。
それも、かなり予想外な所から投げられた上に、しっかり加速が付いたやつだ。

「赤木主任が? 何でまたそう思ったの」
「さっき、マリイさんと私、博士の三人でバレンタインの話をしたんです」

「何々? リツコがそんな話に興味を持ったの?」


で、確かここで三佐が首を突っ込んで来たのよね。
最初はさらっと流して仕事に戻ってしまおうかと思ったんだけど、二人はやけに真剣な眼差しで。
まぁ私自身もこの実験作業が終わり次第シンジ君の元に行ってみようと思っていたし、その為にちゃんとチョコレートも手に入れていた……そんな時だったからかな。

二人の話に耳を傾けてしまったのは。

「それでですね。 私とマリイさんの二人はシンジさんに渡すのか、と博士に聞かれまして。 『日本的な意味では渡しません、でもカードとかを渡すつもりですよ』って答えたんです。
 二人でその事を話した後、博士に聞いたんです。 『博士はどうするんですか』って。 それで」
「『シンちゃんに渡すつもり」とか言ったの、リツコ」
「……はい。 それで、司令さんや副司令さん、加持さんや日向さん達には?って聞いて見たんですが。
 『今年はシンジ君だけにするつもり』って返されてしまったんです……かなり本気の表情で」

私はこの時の主任の発言を、冗談と思い込んだ……ううん、思い込むことに決めた。


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「そ、そういえば加持一尉は? 葛城三佐は渡されるんでしょ?」

私の隣で最上さんに話を振られた葛城さんは、ひどく渋い表情になりました。

「あんな奴、知らないわよ……折角食堂の人達の力を借りて、チョコ作ったのに……」

その直後の皆さんの態度は一寸異様でした。
かなりハッキリと声を出して作業をしていた皆さん(特に男性職員の方々)が一斉にその声を低くして葛城さんの声を聞き出したり、その変化に気が付かなかったらしい葛城さんが「加持だけに渡すつもりだったんだから」と言った瞬間に元に戻ったりしています。

加持さんとの間に何か不安になる事があった、そんな気がしました。


その後も、加持さんとの馴れ初め(一週間自宅に篭っていちゃイチャしていたという話)を聞いてアオイさんが真っ赤になったり、私がうらやましいと頷くなか。
姦しく井戸端会議をしていた私達が本来行う筈だった業務は『ある博士』の手によって粛々と続けられ。

いつの間にか、その全てが終わってしまっていたんです。


「さて」
『興味あるお話だったので……別に文句は言いませんが、わたくしの事忘れていませんでしたか、お三方』

は?

一瞬固まった後、私は慌てて参号機の方を向き、葛城さんがそれに倣い。
アオイさんが『ズルイ!』と呟きながら作業を始めようとして驚いていました。端末に表示されている…彼女がやるべき作業項目全てが『準備完了』の表示に変わっていたことに。


『赤木博士に「アオイさんの分の仕事をやって良い」と許可を貰いましたので……早速済ませました。
 今回はともかく、あまりそのような行動をされるとお給料に響きますわよ?』

私達が真っ赤になり、皆さんの小さい笑い声が響く中。


……ついに、『その時』がきました。

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『それでは、マリイ博士による最終テスト、開始すろわよ!』

動揺を何とか抑えている、と言う感じの葛城三佐の命令に従って、わたくしの仕事が始まります。

まず、耳以外の『肉体』を連想する全ての存在を忘れ、丸い玉になった、と言うイメージを浮かべます。
そして、少し待ちます。

アナウンスが第三次接続に差し掛かった頃、物凄い勢いで『何かの意識』が接触しようとします。
わたくしはEvaの脳に有るかも知れない『魂』だと思っていますが……。
その『魂』がまるで取り込む為に、わたくしを覆い尽くそうとする瞬間、それがビクッとする感覚で止まり。
まるで、自分が絶対にやってはならないタブーに触れたように……一気に引いていきます。

『魂』はしばし躊躇したあと……今度はおずおずと接触しようとします。

わたくしは『魂』がそういう状態になったのを見計らって、最初にイメージした球体に『手のイメージ』をくっつけて。
それを、恭しく差し出すのです。

『魂』はまるで手の甲にキスをする騎士のように『手』に意思を接触させます。
意思が触れたその瞬間、シンクロはボーダーを突破。
機体は私を受け入れ、起動する。


……筈でした。
あの落雷が起きる瞬間までは。


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最初に感じたのは『静電気』のようなショックでした。

たった一つだけ残していた『耳』に意識をシフトして、何か異常が察知されたのかを確認しようとした
その瞬間。

物凄い勢いで、『意識』の表面が変質していくイメージが繋がっている部分から伝わってきます。
そのイメージが体をなぞり、這って行くうちに、Evaとシンクロしているようなイメージが
体を覆い尽くしていきました……ただし、Evaがわたくしの体そのものになったような感覚でした。
マユミさんのデータに合わせてある筈なのに、それ程に、イメージはしっかりしていました。

直後。
わたくし専用のテスト・スーツ……の襟のラインに沿って存在するコード……から電気が流れるように。
明らかに『敵意』を持った『別な意思』が流れ……。

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第13使徒殲滅より二日後 午前7時半。
『赤木リツコ』の病室。


「わたくしが覚えているのは、そこまでです。 次に意識が回復したのは、テストプラグから
 引っ張り出してくれた綾波さんが、わたくしを引っ叩き……起こしてくれた時点からです」

私のベッドに寄りかかって、私の手をしっかり握って眠っているシンジ君。
その頭をまるで姉のような(事実、彼女はアスカ達より1歳上の15歳だ)表情で頭を撫でているマリイさん。
汚れた私がここに居るのは、何か嫌な気がするの。
……打ちのめされるから。


「そう言えば、貴女は大丈夫なの? 三機がかりで殴られたんでしょ?」
「……怪我と言えるのは、左足を骨折しただけなんです。 取りあえず、使徒はわたくしを
 Evaのパーツの一つ、と思ったらしくて……。 精神汚染や肉体に関する汚染も無いんです。
 赤木博士のほうが……よっぽど重傷ですよ。 トップ・バストにそって……。
 ガラスが一気に裂いて行くなんて」


無意識に、マリイ博士は自分の同じ部分をなぞっていく。
それは、私の傷がどれほど酷い物なのかを物語っていた。

人としても、『女』としても。

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一日遡って、二日目。

「……生きてるのね、私」
「不満なの、アンタ」

私が目を覚ましたとき、隣には同室のマリイさんとミサトの二人しかいなかった。
マリイさんは検査の為に使った麻酔が効き過ぎ、明日の朝まで目を覚まさないらしい。

「それにしても。 ミサト……その怖い顔、何とかしなさいよ」
「……怖くもなるわよ。 Evaにコアが有るのは薄々知ってた。 加持も気付いてたみたいだし。
 でも……参号機は破棄、初号機は左腕切断、弐号機はD型装備破棄の上、スペック以上の動きをアスカがさせたせいで『筋肉』にかなりのダメージ。零号機はノーダメージだけど……彼女の疲労もかなりな物。
 何より問題は……」

私はぴんと来た。
ベッドのリクライニングを操作して、私は親友と向き合う。

「ダミーシステム?」
「……正確には、それによって発生した反乱もどきよ」

……は? 反乱??
その後、ミサトから聞いた話は……信じられない話だった。

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私達に衝撃を与えた後、強羅絶対防衛線へと向かった参号機は途中で使徒と認定。
早速弐号機が交戦した。
弐号機に向かって使徒は、その機体…特に両腕を『間接無視のムチ』へと変え、攻撃を開始。
動きの遅さを耐圧装備でしのぐ事二十分。 シンジ君とレイが初号機と零号機で接触。

初号機を確認したとたん、使徒は一気に紫の機体を目標に周囲の状況を無視して
接近を開始しはじめる。

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幾度と無く、まるで猛牛のように突撃を続けていた使徒は、五度目の突撃でその左腕を右腕で捕まえ、一斉に融合を開始する。

また、その一方で……もう片方の脳はまるで右腕の意思を無視した動きで初号機の首を絞め始め、シンクロした彼を苦しめる。
また、機体の一部がスライムのように変化し、またもや『ムチ』となって残りの二機を寄せ付けない。


この時点で、マリイ博士が傷つく事に恐怖していたシンジ君は使徒との交戦を渋り、使徒殲滅を優先した碇司令は『ダミーシステム』の起動をマヤに命令……半暴走状態となった初号機はシンジ君の意思を無視し、敵対行動を起こしている使徒を破壊しつくす……筈だった。

ところが

『駄目です! ダミーシステムとの情報連結ルートが全て閉鎖され、解除出来ないように暗号化されてます!』

 

それをやったのはサツキと、彼女直属の部下であり、よき友達であった広場、夕凪、桜庭、蛍坂各三尉の5名。
シンジ君に『感情素子の不鮮明なシステムが起こすであろう結果』を説明、それを知った初号機パイロットは勇気を振り絞って機体を押さえつけ。
その間にようやく接敵に成功した弐号機と二機がかりで押さえ込んだ。

零号機がテストプラグの排出に成功……と同時に使徒の動きは恐ろしく緩慢になって。
直後、不要となった装備を強制排除した弐号機が止めを刺した。


「……と言う訳。 まさか司令にたてつけるとはねぇ……」
「それで、あの子達は?」
「アスカとレイは二機がかりで崩壊したD型装備の回収と参号機の残骸の処理。
 マユミちゃんは自宅待機。 で、シンジ君達は今、今回の事で処分を受けてるわ」

 

◆ ◆ ◆

 


第4会議室。

本来なら立ち会わなければならない筈の碇は、結局現れなかった。
まぁ、こんな雑務は私の管轄だから仕方ない、と開き直り。
処分を伝える。

「……博士を失うかもしれない、という恐怖が元とはいえ、戦闘を一時放棄した。
 以上の理由により、サード・チルドレンは今日より一週間、本部内拘留施設での謹慎処分を命じる。
 君の気持ちは判らなくも無いが、その命は現時点では君だけのものではない、と判ってくれたまえ。

 また、今回の『反乱もどき』に関わった大井二尉および広場、夕凪、桜庭、蛍坂各三尉には使徒殲滅……に貢献した事を考慮、訓告及び減俸三割を四ヶ月、とする。 何か、言いたい事は?」


おずおずとだが、シンジ君が手を上げる。
人を好きになると、心が強くなるという話の方が正解だったようだぞ。


「不満、と言う訳では無いみたいだが……何かね?」
「もし良かったら、マリイ博士の病室にお見舞いに行く事を許して貰えないでしょうか」
「……許可しよう。 君も知っていると思うが、松代で怪我をした赤木博士と同室だから彼女の見舞いも頼みたい……彼女は今、個人的に悩みを抱えててね……話し相手が欲しい筈なのだ」
「有難う御座います!」


バインダーを脇に抱えなおし、表情を改めて
「その代り、と言う訳ではないんだがシンジ君、一つ聞きたいことが有る……レイのことだ」

「副司令? 彼女の事って……あ! 健康診断を抜け出したことですか?!」

「君はレイ君に「本部を抜け出して自分の元に来い、とか言ったかね? 今まで一度としてレイがさぼる、という事をした事が無いのでね……碇を含め、皆戸惑っているのだ」
「……何も僕からは言ってません……全部、レイが決めたんです。
 僕に好意を持ってくれたのも、自分の事をレイと呼んで欲しいと……すべて、レイの意思です」


 

◆ ◆ ◆

 


9日目。
第14使徒襲来。

マリイ博士と霧島さんの協力の元、第一発令所に三人で飛び込んだまさにその時、使徒は私の前にあるディスプレイを突き破って飛び込んできた。

零号機は両腕を切断された後、頭部を破壊され機能停止。
初号機は弐号機と協力、使徒に対処しようとするが、そのあまりにも強力な戦闘力を秘めた板状の腕に攻撃されたシンジ君の機体が左足を失って脱落。

『なめるんじゃないわよぉぉ!!』

発令所から使徒を叩き出す作業は弐号機が実行した。
地面にたたきつけた直後、最後の希望だった弐号機が内臓電源の終了により活動停止。

……そして……。

ミサトが絶句し、マヤが吐き、アスカが弐号機の中で彼を心配して叫ぶ中。
初号機が使徒を捕食して行くのを、彼は使徒の血にまみれたまま、見ていた。

 

◆ ◆ ◆

 

『あの人が、お父さんの親友のお子さん、ろく……碇、ゲンドウさんよ』

MAGIがまだ発令所に固定される前。
後の冬月副司令を案内するあの人を始めて見たのは何時だったか。

 

◆ ◆ ◆

 

『EVA弐号機、外部電源により再起動!』
「アスカ、まだ動ける?」
『ミサト、リツコは居る? 発令所で使徒を叩き出した時いるのは覚えてるんだけど』
「ここにいるわ」
『シンジは今意識を失っているの? 声が聞こえないけど』
「いいえ。 今シンジ君はいないわ、どこにも」
『……どういう意味よ』
「微妙に違う所はあるけど、貴女のママと同じ状態になってしまったのよ」

真実を告げた私を殴りつけようとしたミサトの手が止まっていた。
……私も、泣いていたからだ。


>>79
〜二日後 午前7時半。 → 〜 午後7時半。

>>82の冒頭。
一日遡って、二日目。 → 一日遡って、殲滅から一夜明けた、午前十時。


>>82(>>90の該当部分は無視してください)
一日遡って、二日目。 → 二日遡って、殲滅から一夜明けた、午前十時。

 

◆ ◆ ◆

 

再び時間は、二日目 午後7時半。


シンジ君の頭を撫でる手がとまった……って確か彼女もきいていたわね。

「何処まで……本気、ですの?」
「それは……何に対して?」

彼女はそっと自分のベッドまで片足で移動すると、予備の毛布を彼に掛け……ついでに耳栓までした。

「……アメリカ支部が霧島さんの調査をあれほど派手にした理由は、その影で碇総司令の弱みを握り、逆に牛耳ってやろうという一派がいたからです。 要するに、司令さんと貴女の関係も幾つかのルートからわたくしは……」
「……手が、暖かかったの」
「は?」

 

◆ ◆ ◆

 

『これ、レイのカードなんだけど、明日レイの元へ届けてくれないかしら』
『僕が、ですか?』
『あの子、更新を忘れるなんて滅多に無いし、ね』
『シンちゃーん、レイのカード見てどうしちゃったのよぉ。もしかして気になるぅ?』
『いや、その……あまり綾波と話したこと無いから』
『いい子よ……碇司令と一緒で、人と付き合うことが不器用だけど』

 

◆ ◆ ◆

 

「はじめてだったの、あれが」

マリイさんの不思議な表情を目の前に、私は続ける。

 

◆ ◆ ◆

 


『どう言う……意味での初めて、ですの?』

と聞きたかったわたくしの質問より早く、彼女は教えて下さいました。
シンジさんの滑らかな髪を左手で撫で始めながら。
『意外に鈍いわね、この子』という表情をしたままで。


「アスカはその辺意識どころか引っ掛けもして無いけど、貴女なら判るはず。
 エントリープラグ・システムの母といわれる、あのレミット・ビンセンスの愛娘……。 つまり『二代目』の苦労は、ね。
 まぁ、貴女はそれを実力で跳ね返しちゃったけど。
 『シングルエレクトロニクス』防御システムとその応用」…凄かった、あの論文」

Eva技術、その最高レベルの実力者、赤木博士にそういわれるのはとても嬉しいです。ただ……。

「話がそれたわね。 今まで好意を寄せた人が何人居るか、って聞かれたとしたら、私は3人、って答える。
 一人目は加持君。
 ただし、そうなった時には彼とミサトは付き合っていたし、傷付きはしなかった。
 まぁ、一寸泣きはしたけど。 でも、その関係を、多分私が壊した。 あの日のことで」

あの日の……事?

 

◆ ◆ ◆

 

あの日、って言っても判らないわね。
大学生活がほぼ終わりに近づいたあの日、気持ちをすっきりさせておきたくて。
加持君と一回だけデートをした事があるのよ。
あ、そうそう、先に言っておくけどこの前の洞木さんみたいに告白はしなかったわ。
そういう意味で付き合ってもらった訳じゃないから。


一日掛けてかなり沢山飲んで、気持ち悪くなって、結局吐いちゃって。
それで加持君のアパートが近いから寄らせて貰って、汚れた服を全部脱いで洗濯をお願いした頃だったかな。
近くに雷が落ちて、ビックリした私が抱きついてしまったそんな時……。

「来てしまわれたんですか」


そう……同棲していたミサトが、帰って来ちゃったの。

『へぇ、そういう事だったんだ?』
『ちょ、一寸待ってくれ』


そんな二人の喧嘩を『気持ち悪い……』って青くなりながら聞いていたわ。

あ、誤解しないでね?

さっきの説明のとおり、そうなって……なんて思ったことは無いし、あの出来事が二人の関係が終わる決定打になってしまっているらしい、という意味だから。
……つまり、あの事だけが原因で別れていたのではないことは、ね。


まぁ、そんなこんなで二人は別れちゃうわ、誤解と知っても『もしかしたら』って未だにミサトの心の中に引っかかりとして残ってるらしいわ……その後、結構波風立ったのよ。

で、ウンザリした私はNerv……当時ゲヒルンと呼ばれた組織に母さんのつてで参加。最初はただの仕事としか思ってなかったけど、まぁ、やり甲斐のある仕事に思えちゃったし……何より

「司令さんが、いらっしゃったから?」

……でも、無いのよ。
その時の私は正直愛なんていらない、って思ってたから。  母さんが司令と逢瀬を重ねていたのも知ってたし。
そんな私が司令との関係を持つようになったのは、母さんが自殺を図ったすこしあと。

「ああ、あの原因不明な……」


最初は、寂しさを紛らわせたかったからだけど、次第に変わっちゃうものね。

あのひとの中に入れなくても、たとえ利用されていると判っていても。
求められるだけの関係でも『その瞬間』は私自身をみてくれている、って信じたかったのよ……つまり、いつの間にか、情は持っていたわけね。
でも、やっぱり違うのよ。  彼は結局、女として私を見なかった。


「は?」

多分、貴女は絶句すると思うけど……私、処女よ?

「はい!?」

ふふ。 やっぱり驚いた。

 


 

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From:ハーレムエロ探求スレッド