畜類め、繁りやがれ! 03

Original text:LHS廚

あれから半日たった。
アスカさんはまるで自分自身が傷付いたかのように彼の傍にいるようになった。
葛城三佐に言わせれば、『ようやく自分の気持ちに気が付いた』という事になるらしい。
私が「かなり前から自分の気持ちを表に出していた気がしますが?」と聞くと

『あの子は他人の前でココロに鎧を着なければ、「アスカ」として生きていけなかったもの』

だそうだ。

私は、三佐の言う『心の鎧』を着ているのだろうか?
人と確実に違う、私の持つ『心の壁』が彼女の言う『鎧』なのだろうか……。

 

そこまで静かに考えた時。
私の斜め前で、彼女が酷くそわそわしているのに気がついた。
ここの少し強めな冷房に体調を悪くしたのだろうか。

 

「どう、したの?」
「え!?」

私の声は他の人より抑揚が無いせいなのか、時として話しかけるだけで酷く相手を驚かせる事がある。
この時も、彼女に驚かれた。

「あ、御免なさい綾波さん。 シンジ君が心配で……彼はもう大丈夫なの?」
「大丈夫。 彼が助けた山岸マユミさんも後遺症は無いと確認されているわ。
 後半日時間をとった後、もう一度検査をして。 それで異常なかったら二人共、家に帰れるそうよ。 数時間前、そう言われたわ」

その言葉を聞いて、彼女の顔が笑顔に包まれる。
以前本で読んだ、『花咲くような笑顔』と言うのはこういう笑顔かもしれない。

これが、好意を飛び越えた結果……恋をする事なのかもしれない。
やっぱり、彼女達が羨ましいと思う。

『シンジを、好きなの?』

私は、彼を恋愛対象として、好きなのだろうか。
そうだとして。
私は、あの時の彼女の問いに『はい』と答えられる日が来るのだろうか。
碇君を好きになって、それが恋と呼ばれる状態になる日が来るのだろうか。
彼に好きだといわれる事の出来る『人間』になれるのだろうか。

「綾波、さん?」
『ファースト・チルドレンは技術部・赤木博士の下に出頭して下さい。繰り返します……』

彼の前で二人が鉢合わせをしたらどんな結果になるのか。
それは何時か私が彼女たちの仲間になれた時、参考になると思ったのだけど……。

私は洞木さんに『一回のみ有効の重管理病棟入室パス』を渡し、碇君がいる部屋を教えた後、博士の元に向かった。

ただ、一つだけ収穫はあった。
今日、私は『後ろ髪をひかれる』の意味を理解できたから。

 

◆ ◆ ◆

 

『……もし、私達が助かったら、私の、初めての人になってくれますか?』
『それだけで、いいの?』
『え?』
『僕は、最近気が多くなったと思うんだ。
 僕には、マユミちゃん以外にも気になる……というか、好きな人がいるんだ。 それでも、そんな奴がいいの?』
『……はい。 それでもいいんです。 あの時、ちゃんと私を見てくれたあの時から。
 私を求めてください。 私、そんな……いい・・恋愛をしたい訳じゃ無いですから』

何で、あんな事がすらすらと言えたんだろう……。

それが、この数日で僕が自分に持った疑問だった。


◆◆◆

 

最初は、ヒカリちゃんを無理矢理に近い形で抱いて、彼女の中に最初の滴を注いだ直後の事だった。

彼女が愛しくなって、また彼女の体に、いやらしい欲望を抱き始めた時。
涙が見えたその瞬間唐突にイメージが浮かんだ。

ささやかじゃない、非常識な、記憶のないキオクで出来たイメージ。
そして、特に疑う事もせずにそのイメージに従って目尻の涙を唇で吸うように拭ってあげた。

それからは。
彼女の行動に併せるように、こうしたら気持ち良くなってくれるんじゃないか、とか。
こうしたら彼女が僕のあそこを咥えてくれる、とか。
それがごく当たり前のように浮かんでくる。

気持ちよさに負けて、そのまま彼女をその『思いつき』に従って三時間かけて何度もヒカリちゃんをイカせて、僕自身も六回、彼女の口から胸に、お尻に、そして、まだ痛いはずのあそこに思うまま流し込んだ。

次に『イメージ』が浮かんだのは、アスカとエレベーターにいた時だった。

エレベーターの中でのアスカは、最初とんでもなく怖くて。
彼女を抱いた事を知られたとき、彼女の目は本気で、僕を憎むように鋭かった。
加持さんに振られた上に、ある結果とはいえ、少しだけ『大人』になった僕にいやらしい、とか思っているんだと。
そう思ってた。

でも、キスされた時に、僕の中で何かが変わった。

ただ怖かったアスカが、その瞬間から『我侭を僕に言ってるだけの可愛い女の子』になった。
それからは、ヒカリちゃんと一緒で。
思いっきり『可愛がって』あげたかった。

でも、僕の中で『アスカが僕が相手でなくても良いんだ』って言うのはなんとなく判っていたから。

彼女にはキスだけしてあげた。
キザな台詞もすらすら出てきた。

……ナンパ師になったみたいだけど、それでもアスカは『可愛かった』。

そして、多分今日の早朝。
マユミちゃんにした『約束』とキス。

舌を入れたりしなかったのに、彼女はアスカより早く意識を失った。
意識してもいないのに、気持ちを伝えられる。
三度目は……『イメージ』を使う事も、まったく意識しなかった。

この数日で、僕が僕じゃ無くなっちゃいそうなのに、とても怖いのに……。
心のどこかで彼女『たち』を僕は求めていた。

 

◆ ◆ ◆

 

こんこん
こんこん

二度ノックをした後、私は相手の声を待たずにドアを開けた。
たとえ候補でも、彼女なんだから……。 これ位は、いいよね。

「うん……」

シンジ君は、ベッドの上で胡坐をかいて悩んでいた。

「シンジ君?」
「でもそれじゃ、僕は……ヒカリちゃんを……利用……」

私を利用? もう、今更なんだから。
左右をちらちらと見回して、アスカがいないのを確認してから。

絵本の中で王子様がお姫様にするように。
シンジ君の顎を左手で上げて、私は彼の唇に自分の唇を合わせた。
その味は、少し前に食べたらしい……たぶん、オムライスの味がした。

「……!」

目を見開く彼が仰け反ってしまいそうだったから、私は両手を彼の後ろに回してそれ以上動くのを防いであげる。

程なく、彼と私の舌が絡み合い、水あめの中に紛れ込んだような暖かいぬめりが漏れ出す。


――私、彼を受け入れたあの日からたった三日で本当に厭らしくなってる――
――鈴原や相田君がそんなHな本持ってきた時『不潔』ってなじってた私が――
――アスカとシンジ君がペアルックをしているのを見ただけで非難した私が――

「はふぅ」

濃厚なキスで腰砕けになった私がシンジ君の肩にしがみ付いて息を整えようとしたのに合わせて。

ぱしゅん。

「やっほぅ!シンちゃぁん♪ 鈴原君達連れてお見舞いに来た……!!」

二人を連れて入って来た葛城さんは……固まった。

当然だと思う。

自覚できる位に、今の私は、とても厭らしい顔をしている筈で。
制服のジャンパー・スカートから伸びる足には透明な蜜が伝って、靴下にしみを作ってる。
間違いなく、ショーツは何の役にも立ってない。
もしかしたら、スカートにもシミが出来てるかも。

でもそれが、そうなった自分が、非常に嬉しい。
ようやくそうなれた気がして。

ごくっ、と。

葛城さんの後ろで真っ赤になった喉が二つ、しっかりと動く。
駄目よ、二人とも。 私はもう彼の物。
ほんのちょっとのお零れだって、あげない。

「どうしたんですかぁ」

凄く甘い、女の声が簡単に出せる。 その声を聞いて、鈴原が少し屈んだ。
心から厭らしさを『愉しめる』今なら。 なんとなく、意味がわかる。


「あ、あのさ、お邪魔、だったかしら……?」
「そうでもないんですよ? 頑張った彼への、御褒美ですから」

そう、これは私たちのために戦ってくれた彼へのご褒美。

そして、私は、彼だけの『女』。

◆ ◆ ◆

 

「あ、あのさ、お邪魔、だったかしら……?」
「そうでもないんですよ? 頑張った彼への、御褒美ですから」

(あの頃のあたしと同じね……)

目の前にいるヒカリちゃんはもう、間違いなく『女』だった。

それも、加持の奴と一週間ワンルームに篭ったまま、扇風機とせんべい布団、テレビから聞こえる高校野球の音の中『気持ちよくなるためのコツ』が判って来て。
少しずつ確かめ、より高みに行く為に率先して加持に抱かれていた頃のあたしのように、『シンちゃんとのHが楽しくて仕方ありません』って顔になってる。
ホント、今の彼女は妖艶で……14歳の女の子がする表情じゃない事、気付いてるのかしら。

「あ、あの」

それにしても、ここまで追い込んだシンちゃんのほうはいつも通りなのね。
まぁ、気持ちよさに一寸惚けた顔は、あたしも少しよろめいちゃう気がするけど。
こういう所でのエチケットは守ってもらわないと。

「シンちゃん。 口元を拭いなさい。 独り者三人には目の毒だし、失礼よ」
「え……あ!」

ようやく失態に気付いた彼はパジャマで唇を拭う。
……口紅を彼女がつけ始めた事すら気づいていないなんて。

「シンちゃんの検査は終わったの?」
「最後の検査、ですか? それなら最上さんの立会いの元で、もう」
「……そう、も、もう終わってたの」
「あ、あの、マユミちゃんは、大丈夫ですか?」
「彼女はさっき、お父さんが迎えに来たのでそのまま帰ったわ。
 あたしはこれから暫くあの使徒に関する残務整理があるから帰れないけど、彼女と帰れる?」


山岸さんは大丈夫よ。
今はそれより、隣の台風を気にしたほうがいいと思うけどね。
女心は複雑なんだから。

「はぁ。 ま、一応体調の確認をかねて来たんだけど。 問題はなさそうね。
 さっきの検査結果が良好だったからもう帰っていいけど、ここのベッドは使わないでね?」

ぼひゅん、と。
真っ赤になって、二人は頷く。
これだけ見れば、可愛いカップルなんだけどなぁ。

「じゃ、もう退散するわ。 じゃあねぇーん」

軽口でごまかしつつ、早々に、私は固まった二人を掴んで引き上げた。
……より戻した加持に今日は甘えてみようかな。

◆ ◆ ◆

 

十分前。 電話機の傍。

「じゃあ、アタシが帰ってる間にシンジはもう退院して、病院を出たのね?」
『え、ええ。 あ、あのさアスカ、実はね』

珍しく、ミサトが動揺している事を隠さない。
……なるほど、ヒカリが来てたんだ。 のーこーなキスでもしてたのかしら。

「あのさ、誤魔化さなくていいよ。 来てたんでしょ? あの子」
『う、うん。それで「アタシ、確かめたいの」……本気?』

なんだかんだ言って、勘だけはいいようね、相変わらず。
電話の向こうから、病院のアナウンスが聞こえてる。

彼女にとっては、『監督不行き届き』の最重要項目になる筈の事……。
でも、家族と何時も言い切っているのなら。


たっぷり一分経ったころ、ため息が一つ。

『彼女へのあてつけなら、許さないわよ?』
「正直に言うけど、アタシ自身がそれを確かめたいのよ。
 単なるあてつけなのか、シンジを取られたくないのか」
『ふぅ。 バレたら責任、あたしと一緒に取りなさいよ』


声音が真剣なものから、いつものおちゃらけ半分なモノに変わった。
でも、伝わってくる意思からは、真剣さは失われてない。

ミサト、アタシの事ちゃんと心配してくれてるんだ。
レイの事といい、アタシってホント、自分本位だったね。
今度、ママに地ビール送って貰うから。

感謝を込めて。

『自分で決めたなら、納得したのなら、どんな理由が元でも私は止めない。
 ただし、単なるあてつけと判ったとしても後悔しないこと。
 少なくとも、あたしに「やっぱり後悔したわ」って言いに来ても、あたしは慰めない。
 大前提のルールよ、それだけは忘れないで。
 後、今日は加持くんとこ行って帰らないつもり。 意味は判るわね?』

要するに、『自分でお膳立てしろ、選択したのは貴女よ?』って言いたいのね。

「いいわ。 その代わり、一度だけでいいから教えて。 今、彼の事好き?」

『多分。 腐れ縁もここに極まれり、ね』


『最後に、もう一つの後悔をしないようにね』と前置きして。
ミサトはアタシにコンドームと中東出張で貰ったという『媚薬酒』の在り処を教え、電話を切った。


お互いに、片方はまず使わない事を知っていながら。

 

◆ ◆ ◆

ドアが圧搾空気の音を伴って開いた。
シンジだ、間違いなく。

「そう言えば、さっき病院で『私を利用する』って言ってたよね。 何でそう思ったの?」

ヒカリを利用? まさか、アタシを?! 
抱かれようとは思ってるけど、奴隷とかそう言う意味じゃないわよ! まったく!?

「……最近、変なんだ。 色気づいたんだってアスカに言われそうなんだけど、女の子にドキドキする度に、僕が自分じゃ無くなっちゃう気がするんだ。
 だって、半月前まで僕、トウジが貸してくれるそう言う雑誌以外では」

ローファーが痛まないように、丁寧に靴を脱いで入る音。
几帳面な二人はちゃんと靴を並べてから家に入る。 だから一寸音が長い。

「見た事、あるんだ。 やっぱりアスカ?」
「あ、いや、アスカじゃなくて、綾波。 リツコさんに頼まれて、Nerv関係の書類を届けに行った事があるんだけど、彼女の家は誰もいないみたいに静かだった。

 けど、ドアの鍵が開いてたから『まさか泥棒が入ったんじゃ』って焦って、『綾波、入るよ』って声をかけてから入ったんだ。
 綾波が倒れているって訳でも無かったみたいで安心したら、真後ろで音がして。
 シャワーを浴びたばかりらしい綾波が全裸で立ってた」

二人がリビングに近付くにつれ、声が大きくなる……にしてもレイの裸まで見てたなんて!

ミサトの部屋から覗いているリビングに、二人の姿が見えるようになる。

「タオルを肩に巻いてるだけだったから、慌てて謝って。
 そしたら綾波、小さい戸棚にあった眼鏡……多分、僕の父さんのらしいんだけど、それを僕が持っていたのに腹が立ったしくて、取り上げようとしたら」

「したら?」
「綾波が落としたタオルに足を取られて。 彼女の上に倒れちゃった」


何時もの彼女なら、『不潔よぉ!!』と叫びそうなのに、それが無い。
もしかして、それが『女』の余裕?


「えっち……」
「そんな気持ちになれないよ。 本当に、事故だったんだから」

驚いたような、でも興味一杯の視線を彼女は崩さない。
恋する乙女は相手の事を知りたくて仕方ない、か……。
加持さんに対するアタシもこういうのだったのかな。

「でも、アスカも『初対面のアイツに裸を見られた』って愚痴を言ってたけど」

アタシも知りたかった質問にアイツの肩が跳ねる。
そのまま振り返ったシンジは、のほほんとした顔に苦笑を浮かべてた。
ただ、それだけなのに、何時もの馬鹿シンジと違って見える。


「そ、それアスカの誤解だよ。あの時は、その、急いでたし、肩が見えた事しか覚えてない。
 その、確かに『見えたらラッキー』という気持ちはあったけど、えっと……。
 真面目に、聞きたい事があっただけなんだ。 サポーターになるもの無いかな、って」

そっか、あれはそう言う事だったんだ。 ちょっと反省。


「サポーター?」
「あのね、ちょっと露骨な言い方をすると、アスカや綾波のスーツって二人が着る事「だけ」しか考えられてないから、その、男性が着る事なんて考えられて無くて。
 だから僕のアレを収めておくスペースが無かったんだ。

 それで……その気にならなくても、オシッコが溜まった時なんかに、『その気になってない』のに、唐突に大きくなることがあって。
 サポーターが無いと、ずっと締め付けられちゃうんだ、僕のぅ!?」

う、うそ?! あのコ、本当にアタシが知ってるヒカリなの?

「大きさは、ちゃんと全身で『覚えてる』から、想像できるわ。 そんなに『痛かった』の?」
「と、と、取り合えずおトイレには行ってたし……大きくならなかったので、大丈夫でした」

ポットからキュースにお湯を注いでいるシンジに合わせて、後ろからしなだれかかるようにヒカリが抱き付いてる。
えっと、ヒカリが撫でてる所にシンジの「アレ」がある訳だから……。


想像で出来た『棒』をそっと下腹部に当ててみる。


ちょっと、暴力的な大きさじゃない?
アレから察するに、彼女の親指よりだいぶ太いわよ、あれ。

 

◆ ◆ ◆

 

本当に、自然にじゃれ合っている二人を見た時、Hをした後のアタシとシンジがどう変わっていくかを、つまり……アタシは加持さんやシンジと寝た後の事をまったく考えていなかった事に気がついた。

あの二人は、Hをしたのに、それが無かったように自然に付き合ってる。

アタシなら間違いなく、『Hをした事実』だけで相手を縛ってしまう。
アタシだけを、アタシを全てにしてくれる人じゃなきゃいらないと思っていたから。

加持さんは最初から違う。
ミサトが相手というのは知らなかったけど、彼はアタシに壁は見せなかった代わりに一定のラインから踏み込ませないようにしていた。

シンジは微妙に違うけど逆。
誰よりも高い壁に包まれているとはいえ、それと判る大きなドアがあって。
あの日までずっと、たった一つの鍵はアタシに与えられていた。
アイツの好意を受け入れる、という鍵が。


その鍵を、アタシは使わなかった。


シンジがアタシの事をどう思っているのか、知っていたのに。 アタシだけの楽園を、アタシ自身が壊した。

『愚者の楽園』

そんな言葉が思い浮かんだ。

「まぁ、追求はそれ位にして、さっきの話の続き。 『女』に慣れて行くのが、怖いの?」


目の前の痴態はさらに進む。
物思いにふけっていたアタシを余所に、シンジはいつの間にか椅子に座らされ、ヒカリはウットリとした表情でアイツのペニスを舐めていた。

アタマの部分と棒が繋がったあたりの……トリケラトプスのようにめくれあがった所を執拗に舐めている。


「ん……! ……そうかもしれない……本当のことを言うと、よく判らない」

見開いていたシンジの瞳が一拍置いてすぅっ、と細くなる。
ん? ちょっと印象が変わったような。

「でも僕がヒカリちゃんに慣れようって思われるのは、嫌な気がする。
 だって、『飽きた』なんて誤解されかねないもの。 そんなの嫌だよ」
「ふぅん……ちょっと嬉しいな」

そこまで言ったヒカリが顔を右に……!!
ま、まさか!?

「ところでアスカ、何時まで葛城さんの部屋にいるの?」


ええ!?

「ふえぇ!?」


パン、という音が響くほど早くふすまを開ける。

「な、な、な、なん」
「だって、『アスカの靴』も一つ揃えたもの」

あう。 隠れた意味、無かったのね。

「アスカ……あ、あのさ」

シンジの表情には焦りが見える。 なんだ、シンジは気付いてなかったの。
アタシはそのまま威圧するようにシンジの前までどしどしと足跡を響かせながら進み、顔の前に自分の顔を突き付ける。

コイツのアレはヒカリの唾液にしっとり濡れつつギンギンにエレクトしてる。


「今すぐ一つだけ教えなさい、シンジ。 『利用』ってアタシをどうにかするつもり?」


◆ ◆ ◆

 

 呆然としていたり、焦りを隠さなかったりするアスカを見ていると、ふいに可笑しくなって、こらえられなくなって。
クスクスと笑い出した。

「な、何が可笑しいのよ」
「だって、やっぱりアスカって純粋って言うか、単純よ」

まだ全然判っていないみたい。

「私、アスカが襖の向こうに居るなんて、知らなかったわよ?」
「……は?」
「だから、目の前の襖が少し開いてたから……シンジ君をからかうつもりで声を掛けたのよ。
 だって、アスカの靴が一つ散らかってたからって『アスカが家に居る』、って事にはならないじゃない。
 別の靴を履いて遊ぼうとか、もう一度シンジ君の元へ行こうとしていたか。 とにかく、もう外に出た後かもしれないのに」


二人の顎がかっくんと落ちる。

一瞬後、私のほうを見た二人の顔には意地悪を咎める表情が浮かんでいた。

「や、やだ!そんなに呆れないでよ! 私が一番の悪女みたいじゃない。
 さっきシンジ君とアスカの靴を片付けたから、そう言ったらシンジ君が驚く、と思って……。
 私だって、驚いてるのよ? 本当に出てくるんだもの」

さて、と前置きして。

「改めて聞くわ、私も。 どうなの?」

二人の視線を真っ直ぐに向けられたシンジ君はため息一つ。

「なんて言ったら判ってもらえるかな……。
 アスカもさっきの話を聞いていたのなら想像できると思うけど、僕はそんなにHの知識は持ってなかったんだ。
 自分で手に入れた知識は、数回付き合いでトウジと読んだ本、キスだって二人とシタ事だけ。
 一応、マナともあるけどアレは別れのキスで性愛のキスじゃないから……」

アスカは「やっぱりあったんじゃないの……」とジト目になる。

私?

……自分の唾液で濡れたシンジ君のを、アスカに教えるように、見せ付けるように、右手で握ってささやかな刺激を与え続ける。


「そ、それで……その、ヒカリちゃんと初体験したちょ、後、んっ?!
 頭の中に、イメージが浮かんで、それでっ、その通りにしたら、ヒカリちゃんが喜んでくれて、それが!?」

耐え切れなくなったのか、シンジ君は顔を近づけ私の手の動きに見とれていたアスカの顔を両手で掴むと

「んんんんっ、 い、いやっ……!!」

アスカにディープなキスを与えちゃう。

じたじたとキスを拒否して、彼の胸にポカポカと痛くない攻撃をしていた彼女は、すぐにそれをやめた。
胸の間で祈るように両手を合わせ、痛みに耐えるような表情で耐えてる。

それもすぐに。
お酒なんかとは比べ物にならないほどの陶酔に、よだれが制服のブラウスにしみになっても気にしなくなった。

シンジ君はアスカが堕ちて行く光景にゾクゾクとしているのか、ふるふると肩が震え始めて、ほぼ同時に私が握っているおちんちんが一回り、ぎゅっと太くなる。
熱さも更に上がって、その熱で封が溶けたように、また私のあそこから雫がたれていく。

本当に今の私は淫乱になったのかもしれない。
でも、それもいいかも。 彼の前だけでしか淫乱な私にならないんだから。

もっと熱くしたくて、その熱を精液と一緒に私の中に注いで欲しくて。

握力を一握り分(?)強くしながらしごく速さを早めて。
そして、渦巻き始めた嫉妬と悪戯心を半分づつ言葉にのせて、彼の耳元で囁く。


「やっぱりHだ。 私だけじゃなくて、アスカも欲しいんだ」
「……うん。 欲しい。 今度はアスカも、僕を欲しいと想ってるみたいだしね……」
「ひがうぅぅ。 そーらけど、ひがううぅ」

目で続きを求めた私達に、アスカはぺたんとお尻をつけて囁くように。

「だって、アタシだけのじゃないもん。 シンジ、ヒカリの事も好きだもん! そ、それにシンジには抱かれてもいいとお、思ってるけどヒカリは友、達で、恋の相手じゃないもん!
 ヒカリには、抱かれたくないよぉ! 見られたくも無いよぉ……」

私はちょっとカチン、と来た。
アスカ自身は二度も私と彼との事覗いてたくせに!

「そう? だってアスカ、シンジ君と私の初体験も見てるじゃない」
「ええぇぇえ!?」

え? 何でシンジ君、驚くの?
何か変よね。 アスカの性格なら二人の事を知ってると言うと思ったのに。

「どうして驚くの。 聞いて知ってたんじゃないの?」
「そんな事言ったってアスカからは、『ヒカリからシンジに告白したって聞かされた』としかきいてないんだよぉ」

  アスカは私にさらに食ってかかる。

「大体、ヒカリは何でそんなに余裕なのよぉ!
 シンジに対する独占欲とかって、無いの、ひかりはぁ!?」

この一言には ぶちっと……きれた。

「ないわ。 少なくとも、アスカが言う意味での独占欲なんて無い。
 ……そう言うと思ってる? ねぇ」

「あ、あの?」

ずり下げた時にズボンとベルトを左手でしっかりと掴んでいた私はさらに一手間。
私が恋に気がついたあの時と似たり寄ったりの状態だけは避けたかった。
アスカを追いかける事が出来るように、パンツを引き上げている彼には悪いけど。
ズボンをしっかりと踏んで、逃げられないようにしてから私は深呼吸ひとつ。

そして。

「私が独占欲が無い!? 冗談じゃないわっ。 独占欲なんか幾らでもあるわよ!
 それでもアスカに一歩引いた立場を取ってるのはシンジ君にとって、アスカが大事だって言う所があるからっ!
 恋愛としてのシンジ君の気持ちはほぼ五分、って思いたいけど付け焼刃な私への思いと違って、ずっとアスカを想ってたシンジ君の気持ちを尊重したい、アスカの心の中のシンジ君への気持ちを無視したくない、そう思っているから。

 だからアスカにもチャンスをあげたいんじゃない!!
 それとも何? シンジ君に対して一方的に自分の気持ちを押し付ける気?!」

「あ、あの、ヒカリさん?」

「確かにあの時屋上で告白した時に、私は貴女に言ったわ。
 『シンジ君のアレは私にとって麻薬のような喜びだ』って。
 でも、シンジ君のが特別大きいとかそんなのが理由だと思ってるの? 快楽だけで離れられなくなってるって思ってるの?!
 好きな人に抱かれるのが嬉しい、それが『麻薬的なもの』って思っちゃいけないの!? ねぇ、答えてよっ!」

「……それは」

大声で喋りながら、何か悲しくなってきた。
自分が信じて来れたものが少し壊れた気がしたから。

「シンジ君。 抱かれた後に私がした『賭け』の事は聞いてる?」
「う、うん」

もう一度だけ、決めて欲しいから。

「私を恋の相手だけじゃなく。
 洞木ヒカリを人生のパートナーの『一人』として見てくれるのなら私をこの瞬間から呼び捨てで呼んで。
 嫌なら、沈黙でいいからヒカリちゃんって呼ばな「ヒカリ……って呼んでいいの?」……!!」


◆ ◆ ◆


本心だった。

別にアスカより彼女の事が大切になったとか、そんな意味じゃない。
好意の質が上がった、と言うべきなのかな。

『好き』から『大好き』へ。

愛を告げられる立場には無いと思ってる。

「でも、ヒカリが言うように……僕はアスカも必要と思っ……てる」

判ってた。 ずっと前から。
アスカにだって、ヒカリにだって独占欲がある。
それを僕は踏みにじろうとしてる。

僕の同じ欲望で。


「最低だね、僕って。 今の僕は、二人とも、欲しいんだもの」

本当の満足を与える事は絶対に出来ない相手に、尽くさせようとしているんだ。一方的な愛で。

「それに……僕は怖い」
「こわい? 何よ馬鹿シンジ、アタシが怖いの?」
「多分、違うわ……何が、怖いの?」

僕は説明した。
母さんが(多分Eva関係の)実験で死んで、それが周りから責められたこと。
父さんが先生の家の最寄り駅に僕を置いて行った事。
父親の呼び出し手段としてやった、自転車持ち出しの事。
家族だった筈の父さんが、いつの間にか……たまらなく怖くなった事。

「アスカには弱い、って言われると思うけど。 僕はもう何かを失いたくない。
 マユミちゃんには、「自分の仕事が危険な側面も含んでいるから」って思おうとしてる……そう言ったけど、今もそう思ってるけど。 やっぱり怖いよ……」

「アタシやヒカリに『要らない』、『さよなら』って言われるかもしれない事が?」

首を縦に振る。
気持ちを踏み躙る以上、いつか来るその瞬間は、覚悟しなければならないこと。

でも。 

「私は、そんな事言わないし、私の居場所は貴方の傍だけでいいよ?」

一人目の答えはあまりにも単純で。

「何で?!」
「総てじゃなくても。 ほんの少しでも。 「貴方」が手に入るのなら。
 私だけのじゃない。 でも、私を好き、と思ってくれている限り、その「気持ち」は私だけのもの。
 私が求めているのは、シンジ君。 だから、それでいいの。……アスカは?」

視線の先にいる二人目は。

「アタシはまだアンタの事が好きなのか、自信がもてない。
 でも、アンタを失うのは嫌。 それに、ヒカリと違ってシンジを独占したい気持ちは強いもの。 だから、アンタに頼るわ」

◆ ◆ ◆ 

 

呆然とするシンジの目の前で、ウエストのボタンを両方同時にはずす。
二つのベルトがアタシの肩を滑るように、なぞる様に。
そこまで行くと、スカートも支えが失って、音も無く落ちる。

現れたのは、クラスメイトになら見せた事のある、ブラウス姿のアタシ。

「アタシは素直になんかなれないし、そんなに都合良く変われって言ったって変われない。
 だったら方法は一つ。 シンジ、アンタが変えるの。 アタシを」

リボンも外し、ブラウスのボタンを下から一つずつ外していく。
勿論、二人とも真剣に……見てなかった。
シンジの奴、しっかりと目を瞑ってる。
これから毎日のように見るものなのに。
もう、バスタオルで隠したり、しないんだから。

「一寸シンジ。 覚悟決めようとしてるんだから、今のアタシもしっかり見なさい」

こくこくと頷くシンジ。 日本で始めて見た「首振り人形」みたい。
舌を出して『もっと食べたい』って表しているらしいお菓子屋の看板代わり。


一番上のボタンを外すと、さすがに羞恥心がもたげてきた。

それを必死に押さえ込んで、すとん、とブラウスも落とす。


二人前に現れたアタシが纏うのは、ジキタリスが一面に咲いた……薄い水色のスリー・イン・ワン。

薄い青にしたのはまだアタシ以上に想いを形に出来ないあの子の色だから。

「あ……!」

ふふ、シンジは気付いたみたいね。
確かにヒカリの言う通りだ。 気付いても口に出さないんだコイツ。

変わるのが、自分で予想できない何かになるのが怖いんだ。

体を包む下着の肩に手をかけて、一寸づつ、ヒカリより大きくしたいバストを覚えさせるように。
あの頃見たビデオの数々を思い出しながら、煽情的に下までゆっくりと落としていく。

多分、アタシは加持さんの、ミサト達の思う通り、シンジの事を好きになっているんだと思う。
でも、アタシが自分から動いたらシンジを独占しようとする。 それなら。

「アタシが好きで、アタシの事欲しいならアタシをシンジの色に染めなさい。
 シンジの事が欲しくて、シンジに愛される事が総てになるアタシにしなさい。
 今のヒカリのフェラに、アタシが喜んで加わるようにしてみせなさい……何日掛かっても良いから。
 贅沢な我侭かもしれないけど、アタシが譲れる最大のラインよ」

そういって、アタシはう、生まれたままの姿になったわ。


◆ ◆ ◆


  僕は自分がおかしいとは思ってる。この数日はそれが更に顕著になっているのも。

でも。 今はそれでもいいのかも知れない……かな。

「きゃふぅ!? いや、やだっ!こん、こんなのっ、ち、ひゃふぅ」
「どこがちがうの? 認めちゃいなよ、アスカ。 いまの貴女もアスカなのよ。
 白かった肌が赤みを帯びて、唇のしまりが無くなって涎がたれて。
 男嫌いだ、加持さんだけ、って言ってたのが嘘みたいに、嬉しそうよ?」

最初、僕が与える快感に彼女が何度か僕を殴りつけた。
力としては大したこと無いし、痛くも無かった。


僕自身はそれに大した意味を持たせてはいなかったけど、アスカから離れたところで見ようとしていたヒカリに『押さえてて』、とばんざいをする形にした両手を押さえて貰ったのを。
『まだ、アタシの中に『変わる事』を拒否している自分が居る』とアスカは取ったみたいで、混乱したまま、快楽を素通りさせてしまって、一気に呑まれた。

「らんれ、ぬの、まだいち枚、あるのに、こんら、あつひのぉ!?」


合わさっただけの二人の腰、入り込んだ僕のブリーフと、その布一枚挟んだ真下でしっとりと濡れたしずくが、光沢と熱をお互いに相手の性器に与え合っている。
それを見ているアスカの瞳には、さっきまでの高飛車な意志はまったく無い。

可愛い……僕だけの子猫。

押さえつけられている手首とまだ繋がってないお互いの性器。
その二つを軸にしながら必死に、そして激しく体を振って、まだアスカは否定しようとしていた。
蛹のようになった自分の中で、彼女自身が望んだように自分が作り変えられているから。

でも、その拒否が本心ではない事はすぐに判る。 ……今なら。

「もうやら、やめれぇ」
「そう?」

ふやけるまで舌を愛撫していた指を抜いて、体を離そうとしても、
拒否するはずのアスカはすぐに子猫ちゃんに戻って

「ひゃらっ」

両足がカニばさみの様にしなって僕を自分の元に引き寄せようとする。

僕はアスカの耳元で、注意しなけれな聞こえない程度に小さな声で聞く。
これはある意味、命令だから。

「本当はどっちなのアスカ。 僕が欲しいの? それとも快楽だけ?
 アスカは僕の色に染めて欲しい、って言ってたけど本当に僕でいいの? 答えないとやめちゃうよ?」

僕の声がまだ判るアスカは必死に首を振る。 止めて欲しくないのか、必死に。
でも、僕の名前はまだ言ってくれない。

言えないだけで僕のが欲しいって全身で言ってるのが判るのに。
僕の温もりを求めて啼いているアスカがいとおしくて。
本当の意味で染まって欲しくて。
僕が欲しい、って言って欲しくて。

右の乳首を舐め、左の乳首をキュッと親指ともう一本で締め付け、残りの指でそっと、でもしっかりと絞り込んでいく。
頭に浮かぶ知識に従って。 痛さが伴わない、細心の注意と繊細な技術を再現しながら。

腰をさらに押し付け、縫い目のラインに合わせて裂け目を、敏感な部分を擦りつけるように、
たっぷりと潤った体液をこすり取るように這わせていく。

「アスカ、綺麗……赤ちゃんみたい」

ヒカリの言うとおりだ。
扇状に広がるはずだった髪が汗まみれの首筋や肩の辺りにまとわり付く。
体の赤さはさらに強くなって、名前の通り『赤ちゃん』になったアスカ。

どんどん染み出たアスカのが、許容量を超えた僕の下着から漏れて、太股の間を流れていく。
その光景はまるで、僕が女の子になったように見え、たまらない倒錯感を僕に与える。


「アスカ、答えてよ。 どっちが欲しいの? ただの快感? それとも僕が与える快感?」

「いひゃぁ」

アスカの回答に、ぴたりと愛撫の手を休める。
それだけじゃなく、体全体をアスカから離した。

「え……?」

アスカは、突然止まった愛撫に薄目を開ける。
それを見届けてから、僕は目の前に手を差し伸べる。

「おいで、ヒカリ」

自分以外に向けられた要求に、アスカの顔が一気に不安に染まっていった。

僕の意図に気付いたのか、それとも唯僕のが欲しくなったのか。
ヒカリはアスカの上をつたって僕の元へ来た。

躊躇せずいそいそと。 総ての服を脱いでいく。

「ヒカリは、僕の色に染まってくれるの?」

自慢げに、うん! としっかり頷いてくれる。

「あ……今は、アタシの……」

アスカの陰液がしみ込んで重くなったブリーフを指さす。
僕の前で、ヒカリは唇でしっかりとゴムを挟み込んで、ゆっくりと下ろしていく。
半分ほどずり下がったところで、ゴムごと弾くように僕のおちんちんが出てきた。
アスカが小さく「ひっ」と叫び、それしか見えていないウットリとした表情で溜息をつく彼女。

「ん……ちゅ……はぁ、んふぅ……ひもち、いい?」

呆然としているアスカの目の前で、ぬめりながら張り付くアスカの液を舌だけで拭い取っていく。
膝立ちになった僕のからアスカの匂い、味、温もり総てを吸い取っていくみたいに。

そして、下ろした髪をアスカに向いた側だけかきあげて。
今度は『ヒカリ』のすべてをしみ込ませるように。
綺麗になった『僕』に滴り落ちる自分のよだれをまぶし、次いで胡坐をかかせた僕の上で腰をくねらせながら、ソフトクリームを作るように自分の陰液を塗って行く。

そのまま、ヒカリは僕のを自分の中に受け入れようとした。

その時、

「いや……!」

絞り出すようなアスカの声。

「嫌!嫌!イヤァ!! どうして、どうしてヒカリはアタシに意地悪するの!?
 アタシだって! 二人だけでシンジと初体験したいのに! どうしてぇ。
 さっきだって、アタシは覗きたくてシンジとのHを覗きたかった訳じゃないのにぃ……ぐすっ。
 嫌だって言いたかったのに、シンジに口をキスで……塞がせちゃって、なし崩しに覗くなんてぇ……」

本当に泣き出したアスカを、ヒカリは僕ですら憧れる『慈母』の表情でなでてあやす。

「ほら、やっぱりアスカだってシンジの事好きなんじゃない。
 シンジに抱かれたいって言えるじゃない。 自分に正直になれるじゃない。

 悪戯が過ぎたわね。 覗いてたのにちょっとだけ、腹が立っていたから……本当に御免ね、アスカ」


涙を拭いながら、ヒカリは僕の真後ろにある掛け時計を眺め、軽く計算をしていく。
そして。

「さて、と……シンジ、アスカを抱き上げられる?」

何も言わず、僕はアスカをお姫様抱っこの形で抱き上げる。


少しだけさびしそうな顔をしながら、制服姿に戻ったヒカリは僕達に

「えっと、今が7時27分だから……
 確か、Hに痛みを感じなくなったのは二回目の終わり辺りからだから、一時間半位掛かったかな。
 私、家族にご飯を作って、今日明日と二日泊まるつもりで着替え持ってくるわ。
 それで、丁度その位かかるから。 でもシンジ! 私が戻ってきた時アスカがイッて無くても私を抱いてもらうからね!
 貴方はもうアスカだけの物じゃないんだから!!」

彼女の本心に気づいたアスカは顔をくしゃくしゃにする。

「有難う……」
「でもこれで、アスカに対して恋愛の先輩って意識は捨てるから。 貸し借りもなし。
 これからは、貴方と……。 シンジを愛していくんだから。 ね?」


そういって、ヒカリは一度家に帰っていった。
アスカが望む、二人きりの初体験をさせるために。

◆ ◆ ◆

アタシには、一つだけ少女趣味な野望があった。

だから、アタシはシンジに言い聞かせて、先に風呂場に叩き込んだ。

『最初の一回だけでいいから、ヒカリの匂いがしないアンタで抱いて。
 30分位かけてしっかり磨くのよ、アタシが欲しい最高の我侭なんだから』
『う、うん』

そしてもう一つ。
後顧の憂いは絶つ。

『はい、赤木研究室』
「リツコ? 単刀直入に言うわ。 二人分のピルを頂戴」
『……馬鹿にしてる?』
「プライバシー無い生活させているんだし、アタシとあの子を妊娠させるよりはマシでしょうが」
『なるほど。 気付いてたのね』
「シンジは全く気にしないみたいだし。 アタシは人生がほぼその状態だったから慣れね」
『ミサトの回答は?』
「『後悔しないと誓うなら好きにしなさい』……だって」
『「CE-01」は?』

CE(Child erases)-01とは、アタシがドイツ支部時代に……アタシという存在の重要性からか『誘拐されたりした時点で摂取しなさい』と義務付けられた、即効性避妊薬。
子宮に受精卵が半日の間着床できなくするという、不思議なタイプ。

効く仕組みは……知らない。

「一応二回分、こっちに来る前にドイツ支部長から支給されたのがそのまま」
『今日するなら、それを使いなさい。 後、明日来れるなら、あの子の分も用意してあげる』
「感謝」
『ただし、私からの忠告。 恋を全てにしない事』
「もう遅いわ。 もうアタシにとってシンジは『恋人』だもの。 まだとても淡い……けど」
『けど?』

直ぐに本部中の人にとって、最高の『迷惑』になるわ、きっと。
あの快感は本当に『魔薬』になりそうだもの。


◆ ◆ ◆

チン。

「ありがと」
「いいわよ。 少しは気休めレベルでも幸せになって欲しいし、子供が出来ても困るもの。
 それより、本当にいいの? これから先、あてられてるわよ?」
「いいのよ。 私だってアイツとの事自慢……って加持ぃ! 逃げたわねぇ!!」
「ふふっ。 自分でした事の責任は取るのよ、ミサト」




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