〜 FEZ Erotic Lv.1 〜
「ようこそ、ネツァワル王国へ! ここは首都ベインワット。あなたの参加を歓迎します」
新たに兵士としての門出を迎える彼女に、ネツァワル兵の管理担当マネージャーである黒いお仕着せの青年が告げる。
スタートラインに立つ時が来たのだ。
わくわくと高鳴る鼓動。
木製の安物だけれど、おもちゃなんかじゃない本物の魔法の杖を携えて。シャツもスカートも質素な見かけはともかく、丈夫さなら充分。
旅立ちの支度を全て整えた新米ソーサラー少女の気分は、晴れがましく高揚していた。
「他に聞きたいことはありませんか?」
「はい! 大丈夫です」
くりくりとした瞳が大きく頷く。
丁寧な口調で確認を求めるマネージャーへの応えにも、その意気込みが見られる元気の良さ。
鳶色の、毛先が少し収まりの悪い髪を首筋でばっさりとショートカットに。そんな髪型の選択も、出立に当たって動きやすさをまず考えた現れのひとつだった。
「では頑張ってくださいね」
そう言って、マネージャーは優しく微笑んだ。
少女は、幼さの残る可愛らしい顔立ちを精一杯真剣に引き締めて、彼の言葉を一言も聞き漏らすまいとしている。
きっと良い兵士になるだろう。そして、伝説の勇者の血を引く誇り高きネツァワルの民に繁栄をもたらしてくれることだろう。
見守るまなざしを背に受けて、
「はい! ありがとうございます!」
お辞儀を一つ残し、小走り気味にその場を離れてゆく彼女は、もう振り返ろうとすることはなかった。
ベインワットは鉱山と一体になった穴蔵の都だ。殆どがかつて坑道だった地中に築かれているだけあって、どこもが薄暗い。
けれども、地上に出て街の境に位置する大橋まで駆けてしまえば、あまねくこのメルファリアの大地を照らす太陽が、眩しいほどの日差しをそそいでくれる。
旅立ちを祝福するかの、燦々とした陽の恵みをだ。
「よし! がんばるぞ〜」
彼女と同じ―― しかし装備からも歴戦のたたずまいが見て取れるベテラン兵たちでごった返す中をかき分け、すり抜けて。
少女の両の眼は、遠く景色を彩るセントエルデの山並よりも遙か彼方に、ひたすら希望に満ちた未来を見詰めていた。
私はマナ、 駆け出しのソーサラー。
ひよっこの中のひよっこでまだ何もできない。
でも私はいつかこのネツァワルに……。
ううん、このメルファリアに私の名前を轟かせてみせる!
(まぁ、とりあえずもうちょっとくらいは腕を上げないと使い物にならないんだよね……)
最低限、凍結呪文アイスジャベリンや、凍てつく衝撃波を展開するフリージングウェブ程度は使えるようになっておきたい。
(ふっふっふ……私はただのひよっこではないのよ!)
ちゃんと色々と調べてきているのだと、ご機嫌に独りごちて、
「というわけで、まずは蜘蛛狩りかな」
マナは初心者用の魔法の杖、ビギナーワンドに寄りかかりながら、兵士に相応しい技術を養うための手頃な獲物について思案した。
蜘蛛とはヴェノムスパイダーのことだ。首都近辺に棲息する蜘蛛型モンスターで、それほど強くないので容易に勝てる―― らしい。
考えをまとめると、マナは狩場を探すべく、大橋を渡って首都ベインワットを後にした。
ぶんぶんと杖を景気よく振り回しながらのその微笑ましい足取りを、ネツァワル兵士たちの出陣と帰還を常に暖かく受け止めてきた大橋の喧噪が、今日も静かに見守っていた。
◆ ◆ ◆ 「楽勝、楽勝」
マナは十数匹目の蜘蛛を難なく倒していた。
蜘蛛の動きは遅く、動きをよく見ていれば倒すのは容易だった。
「これなら別のモンスターもいけるかな。この周辺に他に何か居ないかな〜」
蜘蛛ばかりではさすがに飽きてきたなと、マナは辺りを探った。
「あっ、ゴブリン発見」
ほどなくして、森の中に数匹の小柄なシルエットがうろついているのと出くわす。
先端の細長いとんがり帽子を皆してかぶり、ぶかぶか気味のそれからはみ出すほどに伸びた耳と、やはり長く突き出た尖りっ鼻。不格好に背中を丸めた姿勢でたむろする―― ゴブリンたちだ。
マナは丁度良いとほくそえんだ。
「それじゃ、いっちょやってみますか」
マナは帽子を揺らすゴブリンたちの一体に狙いを付け、魔力の光弾を飛ばした。
「ギャッ!」
光弾は難なくターゲットに一撃を与え、緑色の醜い顔が歪むと同時に苦痛の唸りが上げられた。
即座にゴブリンは振り返ると、怒りも露わに逆襲を開始する。
当然、マナにとってこれは織り込み済みで、突進してこようとする出鼻をくじくべく、続けざまの光弾に杖を揮う。
しかし、息つく間もなく浴びせた光弾にボロボロに削られながら、そこからのゴブリンが見せたどう猛さは、蜘蛛とは明らかに異なっていた。
いくら打ちのめされようと、まるで構わずに突っ込んでくるのだ。
彼らの着込む鱗鎧の頑丈さも、蜘蛛の脆い体とはわけが違った。
加えてが、思ってもみなかったほど素早いゴブリンの動き。
「うわっ、うわっ」
焦りを誘われ、その長っ鼻に浮かんだ不潔なイボすら間近に見分けられるほど肉薄されて――
「い、いい加減に死になさいよぉ!」
しかし、ギリギリの距離でゴブリンはその場に倒れ伏した。
ただの光弾ではらちが開かぬと、咄嗟に唱えた今のマナのとっておき、アイスボルトの呪文が功を奏したのだった。
呪文の生んだ氷塊がつぶてとなった、重い一撃。これがとどめ。
しかしそれまでに、一体何発の光弾を撃ち込んだのやら。揮い続けた杖を握る手のひらに、汗と軽い痺れが張り付いていた。
「蜘蛛もより全然速い……でも、これならいける!」
そう思った時、突然マナの背中に刺すような痛みが走った。
「くっ……なにっ!?」
振り返るとそこには弓を構えたゴブリン達が。
そして、一斉にこちらへと矢を放ってくる。
(何時の間に背後に……油断した!)
頭を振って痛みを堪えると、マナは素早くからその場から移動し、ゴブリン達にお返しの光弾を数発叩き込んだ。
その隙に背中に刺さった矢を引き抜く。
幸いにして痛みほど傷は深くなさそうな感触である。
(所詮はザコモンスターのヘッポコ攻撃よ)
動きの邪魔になるほどでもないわねと、マナは歯を食いしばった。
「私はっ、最短ルートでネツァワルのモテモテ名軍師に成長して、大活躍! する予定、なんだからっ」
次々と放たれる矢に、一瞬も気を抜く暇はない。
しかしゴブリン達の矢は、警戒して小刻みのステップ回避を意識するマナを捉えられずにいる様子だ。
(なんとかいける……かな?)
やっきになって飛ばしてくる攻撃も、矢を放つ寸前には止まる動きを見ていれば―― 当たったり、しないわよ! と。
すかさず反撃のアイスボルトを放つ。
アイスジャベリンほどの威力はなくとも、この氷塊呪文をぶつけられて凍えたゴブリンの足は鈍り、マナの前でのろまな的っぷりを晒すのだ。
そこにまた、とどめのアイスボルト。
「ふふふん♪ 蝶のように舞って、蜂のように刺ぁ〜す。駆け出しだからって、ゴブリン風情が舐めないでよね」
回避に徹しながら辛抱強く隙を窺っての反撃を繰り返し、一体、また一体と倒したモンスターたちの断末魔は、傷の痛みも吹き飛ばしてくれた。
兵士を志してはじめてのピンチ。それでもマナは、劣勢を覆しだした勢いに任せて、気分の高揚さえ覚えていた。
「あはっ、ははっ、未来の名軍師サマに逆らった罰なんだからっ」
自分では強がりのつもりですらない、軽口である。
何を考えながら戦っていたのか、後から思い出せる明確なものはそこになく。無意識の内にあれこれと叫んでいた気がする。
口を突いて出ていたのはつまり、アドレナリン・ハイ、だったか。
―― しかし、弓にのみ気を取られていたのは失敗であったのだ。
常に集団。いざとなればまたそこから湧き増えるがごとく、倍に倍にさえと。足の速さを活かした仲間達が、付近からたちまち集まりくる。
手間取るだけ群れを大きくして襲いかかる、ゴブリンの習性。
その本当の怖さを、調べた知識でしか知らない新米のマナは、正しく理解してはいなかった。
「な、なに……この数……」
気が付けば、背後から岩陰から。更には倒れた仲間たちの骸も踏み越えて左右、その後方からもと、唸りをあげて押し寄せるゴブリンたちに、すっかり取り囲まれてしまっていたのである。
こうなるともう、回避する隙間もなかった。
そして、覚えたばかりの呪文を連発しすぎたがための集中力の途切れ。
マナが優位を取り戻しかけていたかの戦いのバランスは、一瞬にしてゴブリン達の側に傾いた。
(あ、やばい……)
少女が焦りを覚えたと同時、敏感に怯えの匂いを嗅ぎ取ったゴブリン達は、即座に―― 今や彼らの『獲物』でしかないマナとの距離を詰めていた。
口の端をつり上げ牙を剥き出しにした、性悪さの浮き彫りになった勝ち誇り。そのいやらしい表情が緑色の顔のどれもに浮かび上がっている。
―― どうした、もうおしまいか?
まるでそう少女を嘲っているかのギチギチと歯を軋らせ鳴らす音が、彼らの笑い声であり、合図だった。
いくつもの弓が、殆ど一つになった唸りを揃えて矢を降らせた。
「ひっ、わっ、わわっ」
ぶすぶすとマナの足下に矢が突き刺さっていく。
ゴブリン達の矢はもはやマナの体を貫こうとは狙っていなかった。その必要が無くなっていることを知っていたのだった。
雨のような矢が降り注ぐ。それはもう、辺り一面が矢襖だ。
しかし決してマナを傷つけない。
ただ怯えさせ、竦み上がらせ、圧倒的な戦力差を見せつけて、戦う意志を奪い取る。
そうして、逃げ場を失って立ちつくす少女の足を、飛び抜けて小柄のゴブリン数頭が素早くすり寄り、刈り取るようにして転倒させる。
彼らの手にしたナイフが、マナの血を見ることもなかった。
その代わりにひょろひょろとした腕が何本も伸びてマナの身体を引き倒し、地面に押し付けて、華奢な四肢を押さえ込んだ。
わらわらと群がられ、地べたから見上げる視界はあっという間にゴブリンの醜い顔に覆い尽くされる。
「やっ……いやぁっ、放してよっ!」
がむしゃらに振り回したビギナーワンドが『ボコッ』と鈍い音を立てて一匹のゴブリンを弾き飛ばしたが、間を置かずその後を別の一匹埋めた。
殴り飛ばされたゴブリンもすぐに立ち上がり、怒りを漲らせた唸りを上げると、お返しとばかりに身動きの付かないマナの頬へ拳をふるうのだった。
「あうっ。ッあ、アッ、い、痛いっ。やめて、やめてよぉ」
浮かんだ涙を、ゴブリンのような下等な種族相手にくやしいと隠す―― そんな気力が湧くどころではない。
「ごめん、ごめんなさいっ。もうしないからっ、あ、謝るからぁ」
マナは哀れっぽい悲鳴で許しを請うしかなかった。
一匹一匹はまだ少女のマナよりも更に貧弱で、すぐに折れてしまいそうな細い手足しかしていないのだけれども、ゴブリンという緑色をした小人達は、その非力を数で補う種族なのである。
中にはサイズを人間に負けないほど大型にした種類のゴブリンも存在するが、その大型種がここに居合わせていないからといっても、既にずっしりと全身を覆い尽くされ、押さえ付けられてしまったマナには、何の救いにもならない。
「ああっ、返して……!」
あっという間に頼みの杖が奪われた。
これ見よがしに目の前でへし折られる。
「あ、ああ……」
それでもう完全に、マナには抵抗する術が無くなってしまったのだった。
―― ギチギチ、ギチギチギチ……。
乱杭歯を軋り合わせて、ゴブリン達がいやらしい笑い声を上げた。
白い頬も殴られて痛々しく腫れ、転ばされた際の泥で汚されもしているマナの顔に、覗き込むようにして臭い息が『フーハ、フーハー……』と幾つも近付けられる。
「なによ、なによぅ」
顔面を近付け、いかにも嬉しそうに目を細めるゴブリン達は、マナという人間の少女の匂いをかいでいたのだった。
戦いの汗に混じって立ち上る、年頃のマナの甘ったるい体臭。それに長っ鼻をひくひくとさせて、仲間同士なにごとか満足そうに頷きあう。
しかし、そうする彼らにマナが強いられていたのは吐き気を催す悪臭の鼻息、口臭、体臭だった。
ううっ、と表情を歪めながらも、少女には青ざめた唇を震わせているしか出来ない。
鼻の穴を大きくし、ふいごの如く獣臭い息を荒げていく一方のゴブリン達。
なに興奮してんのよこいつら、ぶっちゃけ怖いのよぅ―― と、
(殺される……? み、見るからに血っ、ちち、血に飢えてるカンジだし……。ひょっとして私、食べられちゃう!?)
思わず漏らしてしまった慄きの声は、次にゴブリン達がとった行動でその意味合いを変えた。
「……ひっ!? ま、まさかっ」
鱗鎧の下でもぞもぞとしていたかと思えば、ゴブリン達は下半身に、その醜い器官を剥き出しにさせていたのだった。
「い、いやだっ。なに、なにしてんのよ……!?」
いくらマナが子供と同然の乙女の身でも、それは分かる。
間違いであって欲しいが……見紛えよう筈がない。
マナを押し倒したゴブリン達が取り出したのは、彼らの生殖器。ペニス、だったのである。
体格にお似合いのサイズではあるが、どす黒く染まっていびつに歪んだ節々をゴツゴツとさせて。まだまともに男を知らないマナには見るからに凶悪で、そしておぞましい。
毒キノコか何かだっていうの!? と、錯乱気味にマナが目を見開いた先っちょときたら、ブツブツとイボ状の突起にびっしり覆われた『傘』が、まるで揃えたように彼らのとんがり帽子と似た形。
そしてもう、たらたらと先走りが垂れるほど、発情しきっていきり立っている……!
(あ、ああ……アレで何を、なにを私にしようっていうのよぅ……)
乙女の危機感が、最大限に反応。必死になって手足を暴れさせてみたが、キシシと嘲笑うゴブリン達をとてもはね除ける事は出来なかった。
「う、ううっ」
―― 分かっている。どうせ無駄だ。
こんな状態でここまでしっかり捕らえられてしまって、助けてくれる人も滅多に通り掛からない森の中、自分一人で20匹近くいるゴブリンから逃げられようわけがないと、分かってはいた。
(でもっ、でもっ。こんなのは嫌ぁ〜)
マナも乙女だ。花も恥じらう年頃だ。メルファリア五大陸では珍しくないにせよ、女の身で兵士として成り上がろうというスパルタンな野望を抱いてはいるが、決して幸せな恋を夢見ないわけではない。
まして純潔を捧げると言えば、
(白馬のナイトを召喚する、英雄装備が似合う素敵なウォリアー様にって。はじめては首都の宿屋の<黄金のほったて小屋>で一番上等な部屋をとって、真っ白いシーツを掛けたふかふかベッドの上でって、決めてたのにぃ〜!)
それがこの最悪な現実と来たら。
(初体験は暗くてジメジメした森の中で、汚い枯れ葉が積もった上でした。素敵な彼は尖った鼻がチャームポイントの、いつも猫背な小人さん達20人。くっさい息を吐きかけられてゲーゲー吐きそうになりながら、毒キノコちんちんでバージン奪ってもらいました―― って)
なんだそれは? なんなのよそれって!? 冗談でしょう!! と。
たとえ、ベインワットの鉱山街そこら中から黄金が湧き出して、街のみんなが一生を百編繰り返してもずっと毎日腹一杯食べられるだけのお金持ちになったりなんかしても。それでも、お婿さんにゴブリンを選ぶだなんてあり得ない。
「助けてっ! 誰か、誰でも良いからーっ! この際、いけすかないエルソード国の連中だって構わないからっ、誰か、誰か助けてよ……!!」
マナは本気で泣き出したくなっていた。
「キシシッ、キシシシシ、キシシシシシ」
翻ってゴブリン達はといえば、笑いが止まらない。
人間の清潔な街で暮らす少女の躯は、彼らの目には輝いているがばかりの魅力的な獲物だ。
何の病気も持っていないのだろう白い肌。しなやかな手足。肩が大胆にはだけた上着から容易に窺うことができる胸の膨らみの、なんとやわらかそうなことか。
たしかに、生意気に杖を構えて手を出してきた最初の内こそ、ゴブリン達にとって危険な敵だったかもしれない。
仲間が何匹か命を奪われてもいる。
だが、それを仇討ちしてやろうという殊勝な心がけを持つ者はいない。そんな種族ではない。
数に任せて優位を取ったとそのケモノ相応の知能でも理解できてからは、後はもう、良い匂いのする、むしゃぶりつきたくなる―― 『雌』でしかなかったのだ。
滾る牡獣の本能を、彼女の躯で満足させることしか、空っぽ同然の頭の中には存在していなかった。
抵抗する力を奪い、逃げようとする手足も地面に押さえ付けてしまえば、後は何をためらう必要があるのか。
ケモノ達の側には、爆発しそうにな獣欲を我慢しなければならない、マナの哀れな叫びに耳を貸さねばならない、いかなる理由も存在しなかった。
「ああっ、やだぁ……!」
一匹のゴブリンがマナの露出した首筋に齧り付き、レロレロと長い舌で舐めしゃぶりはじめた。
二匹目、三匹目、そして一斉に、数えるのも馬鹿らしいほどのゴブリン達が後に続く。
競って胸元から鼻先を突っ込むように乳房を狙い、あぶれた者も袖から裾からと少女の香りを求めて、素肌に舌を這わせていく。
スカートもたちまちまくり上げられた。
もがこうとする太腿が捉えられ、ヌメヌメとしたおぞましい感触の洗礼を受ける。
耳たぶをくわえ込み、ねちっこくしゃぶり回す者がいた。
押さえ付けた地面との隙間に顔をねじ込み、うなじへ執拗に舌を這わせる者がいた。
まるで、少女の全身が甘いキャンディーであるかのように。
マナは幼い頃、ペットに犬を飼っていた。だが、あれとこれは違う。
むずがゆい中に確かに存在する親愛の情に、くすぐったく笑い声を上げる気にはとてもならない。
「やぁっ、やめ―― ッ、やめぇふ、ッフぇ……ッ!? ンフぇぇえっ、いひぃぇふぇ、フンン〜!?」
悲鳴を叫ぶ唇も奪われてしまった。
ゴブリンの悪臭に満ちた舌を咥内に突き入れられて、ひぃっと見開かれた瞳が涙に歪んだ。
それがマナの、ファーストキスになるのか。
嫌だ、やめて、私の口の中をあんた達の汚いベロでなめ回したりしないで―― !
あらゆる泣き叫びが、舌の上に暴れ回る大型のナメクジを突っ込まれたような悪夢的なベーゼの感覚に、ぬるぬると息苦しく塗り潰された。
「おえっ、えっ、うぇぇぇ……」
ようやく解放されたと嗚咽混じりに喘いで、悪臭の混ざらない空気を求めていれば、別の一匹がまたその唇に吸い付く。
即座に鼻腔にまで充満する、腐敗物に似たゴブリンの臭い。
「いひゃあ、あっ、あぅふぁぁぁ……ぁ、いひぃゃあああ」
不浄に直接口を付けるなど及びも付かぬ唇を割って好き勝手に入り込んでは、熱烈に舌を絡め取り、吐き気のする唾液を強引に飲ませて、そして仲間達と次々に交代していく。
ぴちゃぴちゃと音を立てて飽きることなく唇を貪りあう―― 愛の交歓の図式が成立していた。
その実態が強引に侵す一方と、逃げようとする片方がただ蹂躙されているにすぎないにしても、スタイルだけは濃密に愛し合う恋人達そのものだ。
マナがいつか、うっとりと夢見たような。
嘔吐感と必死に戦いながら、深い縦皺を眉間に刻んで首を暴れさせてる。そんな哀れな乙女との口付けにおいて、まんまと恋人役になりおおせた者は、ベインワットの好青年たちの誰でも無かったのだ。
(うっ、ううっ……ゴブリン。不潔なゴブリンなんかが、わたしの、私の……!)
それもまるで、気軽に回し飲みできる安酒同然の扱いで無造作に入れ替わり立ち替わり、貪り散らされてしまう。
少女が大切にしていたものがそうしてまず一つ、獣臭い恋人役達によって、永遠に失われた。
だが、無念さに頬を流れた雫さえしかし、更にマナの土と枯れ葉で出来た初夜の床を濡らす、はじまりの涙の一滴に過ぎなかった。
「ひっ!? ひぃぃ―― い、いやっ、それだけは嫌ぁぁぁ〜!!」
ぐったりとして、下着ごと引き千切られた胸元から乳房の膨らみまでゴブリン達のおもちゃにされていたマナが、その頃にはすっかり諦めていた悲鳴を思い出したように張り上げた。
這い回るゴブリン舌の感触は全身に存在したし、なにより怪物相手の気色悪いベーゼに意識の殆どが苦しめられていたのだ。気付けずにいても仕方がない。
或いはいっそ、何も分からないままでいた方が幸せだったろうか。
熱烈な接吻でこれでもかと送り込まれてくる汚汁唾液に、そうせねば窒息しかねないゆえ強いられた、
「んっ、んんっ……んくっ、んく……ぅ、ううっ、うぇぇっ」
と、喉を鳴らしながら嫌々の嚥下で、たっぷりゴブリンの唾の味を胃に流し込まされて泣いていたのだから。
(おえっ、うええっ、こんな気持ち悪いの―― っあ、ああ、気が狂っちゃうよぉ)
泣き言は殆ど、味覚を持って生まれたことを半ば呪うまでに嫌で嫌で堪らない、唇へのレイプに向けられていた。
暴かれた胸を、汚い革手袋の手にぐにぐにと揉み遊ばれていたり。ゴブリン達が大好物の甘い木の実と勘違いでもしているかの勢いで、彼女のピンク色をした可愛らしい乳首をしゃぶりだしたりしていても。
先走りの止まらないペニスを、我慢ならぬと押さえ込んだ手足に押しつけてヘコヘコと腰を揺すっていても。
まだしも触られるだけに留まっている内なら、触覚と味覚のダブルパンチで苛まれている唇の方が重大事。おぞましさに嘆く先にも、優先順位があった。
だけれども、そこは話が別だ。決して触られて良い場所では、まして暴かれて良い場所ではない。
「だっ、だめっ!」
スカートをまくりあげて、その下で押し合いへし合い。数匹が滅茶苦茶な場所取り競争に争いながら、太腿でも下着のドロワーズの上からでも、とにかく出鱈目にむしゃぶりつこうとしていた内から、遂に勝利者たる一匹が確実な位置に陣取ってしまったのだった。
マナからは見えない表情であったが、そのゴブリンはにんまりとほくそ笑むと、ひくひくと良く動く長っ鼻で胸いっぱいに少女の香りを楽しんだ。下穿き越しにも確かな、マナの『女』の匂いを楽しんだ。
「キシシシシッ」
彼らが先を争っていた先こそが、最もかぐわしく嗅ぎ取れる―― その部分だったのであるから、それこそ涎もだらだらと湧いてくる。
涎まみれにされるまでは清潔そのものだったドロワーズに手を掛ける。
いわばそれが、果実を堪能する前の皮むきだ。
二匹がかりで左右の太腿にしがみつき、ドロワーズから伸びた素足を熱心に舐め上げていたゴブリン達が、彼に協力した。
ヌルヌルに汚した生地を牙で引き千切り、生の太腿をもっと味わおうと動き出していたのだ。
昼間でも薄暗い森の中に、勢いよく布の引き裂かれる音がマナの悲鳴に混じって一際目立った。
「だめっ、だめっ、だめーっ」
たちどころに少女の下半身を守っていた白い下着はボロ切れと化し、そこらにばらまかれて、一面の枯れ葉の仲間入りを果たす。
必死に防ごうとしたマナの抵抗は、比喩でも何でもない本物の野獣達の前では、ただただ無意味。そのまま、マナが年頃を迎えてからはまだ誰にも見せたことのなかった乙女の部分が、股間をいきり立たせたケモノの目に晒されてしまったのだった。
「みっ、見ないで! 顔近付けるのもダメ。や、ややっ、ヤっ、匂いなんて嗅ぐの禁止……禁止、禁止ッッ!?
じたばたと藻掻こうにも、太腿両方に重りがずしり、一匹分ずつしがみついている。
必死さに反して、もぞもぞと小さくしゃくらせたに過ぎないマナの細腰に覆い被さって、ゴブリンはニタと、口を大きく開けた。
彼の目の前にあるのは、日焼けとは完全に無縁の白い下半身。わけても少女には最も神聖で、そして恥ずかしい、剥き身の股間だった。
もはや布一枚、守るものはない。
ガサつく緑色の体皮を持つゴブリン達とは対極のすべすべとした下腹部が、太腿の付け根に至って微妙な曲面を成す丘陵に形作られている。
ひっそりとした恥丘には、申し訳程度の繊毛に囲まれて刻まれた一筋、マナの幼い陰唇が。
「―― ヒッ!?」
生暖かく『ぬるん』と、卒倒しそうな感触がその処女のクレヴァスを襲った。
「な、なな、舐めるのはもっと禁止! やだやだ、やめてよぉ―― っ!!」
無論、聞き入れるゴブリンではない。
この時ばかりは邪魔になる長っ鼻をグリグリと、ひしゃげるかマナのやわらかい下腹の方を突き破るかの勢いで突進させ、不細工面をそこへ。
がむしゃらに口を寄せてしまえば、後はかぶり付くだけだ。長い舌をぺろべろと伸ばして、無垢な粘膜が覗く亀裂を執拗に、粘着質に、なぞり倒した。
スリットの端に潜む小粒の陰核さえも容赦されなかった。
「あひっ、ひひゃっ、ふにっ!? やっ、いやぁぁ」
マナがは気持ち悪いと泣いて嫌がろうと、そこは未成熟であっても紛れもない雌の器官。牡を誘う淫靡な香りが、微かに感じられる。
舐めれば舐めるだけ香りは深くかぐわしく感じられて、ゴブリンの興奮はいきり増した。
げひげひと血走った目尻がやに下がる。逆にペニスは膨張の勢いで天を向く。
ゴブリンに交尾相手の気遣いは存在しない。愛撫という概念は無く、したい時にしたいように突き入れる、ただそれだけだ。
少女のフェロモンに興奮させられた欲情が、先に処女の蜜液への執着という形で現れていたのはまだ幸いだったろうか。少なくとも、潤滑だけは支度されていた。
「ひぃぃっ」
稚拙で独りよがりなだけのクンニに舌を遣っていたゴブリンが顔を放す。
こじ開けられた太腿の間にひやっと、熱気を払う森の空気が流れたかと思った次には、革手袋の手がマナの腰を掴まえていた。
中腰で股間を付きだしたゴブリンが腰を進め、インサートポジションを探す。
ぬとりと、穢らわしい粘液まみれになっていた処女の入り口に、やはり漏れ出した先走りでぬめる先端があてがわれた。
敏感に察知して、マナの心臓は止まりそうになる。
さあっと一気に血の気が引いた。
来た、来ちゃったよ……と。純潔を奪われる恐怖に、泣きわめいていた喉も干上がった。
(あ、ああ……お母さん……)
歯の根も合わず震えるマナの怯えは、逸るゴブリンが二度三度と挿入に失敗して、毒々しい見た目の亀頭を『ぬちゃり、ぬるっ、ぬるん』と未熟な縦溝にスリップさせている間、加速され―― 。益々その瞬間への、意識の集中を高めてしまった。
だからマナは、いつまでも忘れることが出来なかった。
「あぎっ!?」
ぬるぬるになったクレヴァスの底を漁って、ゴブリンペニスの尖った先が小さな膣口を見付けてしまった瞬間を。
ぴったり閉じた先のデリケートな粘膜をちくりと突端が小突き、そのまま一気に押し入ってきた刹那を。
「い、イヤァァァ―― ッ!!」
ごつごつとしたペニスが、バージンへ至る狭い道を力任せに突進。
あんたみたいな怪物に……! と、乙女の自衛本能が堅く閉ざす締め付けは、事前に塗りまぶされていた唾液がオイル代わりを果たした。
突進は止まらない。あえなく狭道は征服され、ちらりとも異性に許したことのなかった秘裂にみっちり、ゴブリンの肉槍が充填された。
『ひぃっ』とわなないたマナがあらん限りの力で背をのけぞらせ―― その反応こそが、奥底までの貫通の証。マナの純潔が一匹の魔物に破られてしまった、なによりの証明だった。
「……かはぁ、っあ、ぁ……」
すべらかな内腿にじわじわとクレヴァスから滲む、破瓜の血の微かな赤。
真っ暗になった翡翠色の瞳が瞬きを忘れている。大粒の涙が次から次にこぼれていた。
「はぃ……っる。はいっ……ちゃっ……よぅ」
小さく漏らす嗚咽の横では、ゴブリンの満足げな吠え声が上がる。
最低の感触、最悪の初体験だった。
「んふぇ……ぇ、うぇぇぇ……」
しゃくりあげる暇さえ与えられずに、息臭いゴブリン達とのキスが続くが、もうそれはどうでも良い。
入ってしまっている。お腹の下に、股の間に、私の中に、ゴブリンのおちんちんが……!
脳裏を圧倒的な嫌悪感で埋め尽くしているのは、今や処女喪失の痛みすら問題にならないほどおぞましい、ゴブリン種族のペニスを受け容れている事実だった。
「キシッ、シシッ、キシシシ……!」
「あぐっ、うっ、ううっ。うっ」
快楽を求めるゴブリンは、お構いなしに腰を使いだす。
それを羨ましがる仲間達も、マナの手のひらや肩、足、太腿、胸を使って自分の屹立を慰めるべく、腰を振り始めた。
にちゅ、にちゅっ。ぬちっ、ぬちっ……ぬちっ。にっちゃ、にっちゃ、と。いくつもの下品な音をたててゴブリン達がマナの躰を使う。
セックスどころか獣同士の交尾にも劣る、一方的な肉欲の追求に過ぎない。
交わされるべき感情も、相互に受け渡される悦びも無く。勿論、芽生える命もありはしない。
しかし、一しきりのピストン運動の果てにはやはり牡の生殖器は精をしぶかせるし、結果としてマナの穢れ知らずだった膣には、ゴブリンの白濁がたっぷりと注がれた。
「あっ、ああっ……っぁ、あ……」
(汚されちゃったよぅ……)と、最初の膣内射精を浴びせられて、マナはまた泣いた。
泣いて、泣いて、じきに嗚咽も擦れて、か細く息を漏らすだけになった。
一匹のゴブリンが機嫌良く吠えて萎えたペニスを抜くと、新しい一匹が場所を変わる。自分の持ち物をがに股で押さえ付けられている少女に挿入する。
何度も白濁した液の吐瀉を受けて汚れを増す内、次第にそのスリットからはぴっちり閉じた幼女も同然の眺めは失われた。
絶望しきっているのだから、押さえ付けている必要だって無くなっている。たとえ、少女の四肢を拘束する役目をどのゴブリンも放り投げてしまったとしても、彼女は暗い目をして、屈辱的な開脚ホーズで寝転がり続けていただろう。
それと同じ。
純潔を失い、無惨に開封されてしまったマナの女性器は、続けられているレイプの合間合間、短く獣の牡槍から解放されていても、もうその唇に似た入り口を閉じる気力さえ無くしている様子なのだった。
薄桃色の媚肉粘膜をぽっかりと。開いたっきりの膣口から、注がれた大量のゴブリンザーメンをとぷとぷ漏らすままになっているのだった。
「……っぁ、かはっ、ぁ、ぁ……」
マナがはじめに頑張って戦っていただけ増えた群れが、入れ替わり立ち替わり、彼女の華奢な裸身に跨っていく。
好きなだけ、人間のメスの中で、膣内射精を繰り返していく―― 。
◆ ◆ ◆ 「……ぁ、あふぇ?」
気が付くと、マナはズタズタにされたボロを僅かに身に残しただけの姿で、一人森に放置されていた。
ぼんやりとした頭にまともな意識が戻ってくると、辺りは茜色に染まり、夕闇の気配を漂わせている。
「……いへなひ、よふ……よるになったら、ぞんび出てきちゃうから……」
のろのろと体を起こし、立ち上がる。
街に帰る前に川かどこかで体を洗う時間はあるだろうか。途中どこかの、出来るだけ弱い蜘蛛の溜まり場で、服が入った宝箱は見付けられないだろうか。
よろと踏み出すと、草の間にみしりと、うち捨てられていたビギナーワンドが乾いた音を立てた。
半ばから見事にへし折られたその杖を拾い上げる気にもなれず、マナは森を後にした。
Remarks:お調子者なヒロインだから名前はマナ。それ以外に理由はありません。