Dating history

Original text:引き気味


『 07:彼女の、彼と綴った交際履歴』


 アスカたちの通う第壱中学は歴史の浅い第3新東京市にある、それも新設の中学校だ。わざわざ校史資料室を用意しておく程の積み重ねなど皆無に等しいのだし、過去になにかの大会で目覚ましい成果を上げた表彰だの、優勝旗だの、そういったものを保管しているわけでもない。
 それでも先のことを考えてなのか、通例としてなのか、空きの目立つ棚が並んだ部屋だけは存在している。
 めったに見向きのされない場所だ。
 特に慌ただしい朝、気忙しく入口の前をよぎって行く足音こそあれど、誰かが開けて入って来るというのまず想定しないで良い。
 だからの其処だ。
「はぁ――……ぁ、ぁ、ぁあっ」
 アスカは目を瞑って息を弾ませながらスカートの奥をまさぐられるのに任せていたし、
「い、イイわ……。んンン、そこぉ。もっと深くまで、入れても……」
「いきなりヌルヌルさせて飲み込んでくじゃないか、惣流のココ」
 この、ドスケベ。
 腰を支えて抱き寄せた美しい同級生を、そう明け透けな言葉でなじるケンスケは、自分がそうしているのと同じように相手の下半身に腕を伸ばした彼女が、下ろしたファスナーの隙間から潜り込ませた繊手でやわやわと股間を揉んでサービスしてくれているのに、満足げな笑顔でいる。
「聞こえるだろ? ニッチャニッチャ糸が引くような音させてさ」
「あん、おもちゃみたいに……ぁ、ぁあ……かき混ぜたり、しないでよ。女の子の、っッ、繊細な場所、なのよ……」
 頬を真っ赤にさせたアスカの言葉は辿々しい。三角の小さな布切れを張り付かせた、異性に対しては絶対にタブーである筈の場所を撫ぜ回されるに留まらず、更にその最後の覆いをすら越えて敏感な亀裂部分を刺激されているのだ。なにかと言うと『――アッ』と吐息を漏らして詰まり、揺らぎ揺らぎで、もどかしく舌をもつれさせる。
「欲しがりな、なら分かるけどさ」
 嫌味のようでありながらあやすような、いっそ優しげな声で言って。更にケンスケは、アスカのスカートの前部分を幌馬車のように持ち上げてしまっている手首を蠢かした。
「あっ、あ、あ、あ……。あ〜」
 日本人の女の子が背伸びをして染めたのとはまるで違う、豪奢な金髪。白く透き通った肌。それが淫らなピンク色に紅潮しているのが、浅葱色をしたジャンパースカート制服の肩に被さるぐらい大きめにデザインされた襟から中に覗き見れる、ほっそりとしたうなじに露わだった。
 体温の上がった発汗に伴い、アスカの全身から立ち上っている女の子らしい甘ったるい体臭。そこに、ケンスケという雄を求める淫靡な期待が募りつつあるのを感じ取るのも容易だろう。
 今のアスカはそういういやらしい表情になってしまっているのを取り繕おうとしていなかった。
「俺と普通にセックスするどころか、外人向けのデカチンバイブ突っ込まれてもひぃひぃ言って喜んでるぐらいなのに。マンコぱんぱんにさせて頬張ってさ、壊してェ〜っての、そういう時の惣流のキメ台詞だろ?」
 勝ち気な性格をことあるごとに披露する少女だ。惣流・アスカ・ラングレーという、観賞用でなら文句無しの美少女、取り扱いは要注意だと評されるこの同級生は。
 いっそ男嫌いなのかという程の普段の態度に、別種の気安さや親しみ、恋情のようなものを垣間見せるのは唯一の例外だったケンスケの友人に対しての時ぐらい。
 それ自体は、隠れてケンスケとセックスを繰り返すようになって数ヶ月が経った今も変わらない。
 ケンスケ相手だろうと平然と蔑みに尖りきった声を叩き付けるし、口汚い罵り言葉は容赦がない。むしろ人前での毛嫌いしてみせる振る舞いは酷くなった方だろう。
 醜聞でしかないこの関係の露見を用心しているということだから、意味合いこそはまるで変わってしまっているのだが。
 それが今、警戒すべき周囲の視線から隔離されたこの場では。のぼせた浅い息継ぎをひっきりなしにさせている口元に、あぁんと一際の声で喘ぎが混じる度、だらしなく涎すら垂れそうになる。
「そりゃそうだよな、惣流も外人なんだし、ゆくゆくはああいうデカチン男の相手ばっかして過ごすってつもりなわけ?」
「アンタこそ、パンツどころかズボンまで汚したイカ臭い格好で教室に戻りたいのかしら?」
 含み笑いの表情を浮かべてサファイアの目を開いたアスカは、興奮のあまりで潤んだ眼差しをうっとりとさせたまま、悪戯気に睨んでみせる。
 他のクラスメイトの居る前ではヲタクと罵って憚らない――事実その通りひどい変態的なポルノムービーのマニアでもあるニキビ顔の少年。その彼がこんもりとテントを作ってブリーフの前を膨らませているのに嫌悪感も見せずに、やわやわ手を動かして包んで、いっそうの愛撫を加えてくれさえするのだ。
 足元にまとわりつく人馴れした猫がそうするように、身を擦り寄せて。
 まだ表面上は辛うじて、この学校内だという場所相応に取り繕えている制服姿。そのスカートの裏側。じとりと汗ばんだ両脚の間で下腹部に張り付いているケンスケの掌の、そのいやらしい蠕動を、未成熟な性器に集めるようにしながら。
「はっ、あふっ。……ン、んんン」
 ぴったりとアスカのショーツにあてがわれたケンスケの掌は、やわらからな媚肉の全体にマッサージを加えつつ、濡れそぼった布切れをのけた横から中指を性器に挿入させて、くんっと掻いて、くいっぐいっと動かして、刺激してやっているのである。
「アッ。ぁ、アッ……っッ」
 薄く覗いた歯の間からちろりと動いた舌先が、その気付いた涎を唇の端から舐め取っていく。
 次、また次と、その内に引っ切り無しに。
 同級生の女の子の股間の内側の体温に包まれている指先で、そこが特に悦ぶのだと知っているポイントを強めに掻いてやるようにぬるりと膣襞をかき分けると、途端アスカは顎の先を跳ねさせる。
 ケンスケの指を飲んだスリットの入り口を締め付けて、逆にどっと愛液の量を増やす。
「火が点くの、早くなったよなぁ。床に垂れだしてんじゃん」
「アッ! ァ、ぁああ……! アンタが、本気出して――」
「そ、クリ責めもプラスさせて貰いました。こんなに固くさせてんじゃ、ほったらかしも可愛そうじゃん? ほら、俺の親指こんなにツンツン押し返そうとしてさぁ」
「ァァァアッ、はヒッ!? ッ、ッツ――ッッ!!」
「そうそう。あんまり大きな声はさすがにヤバいんで、出来ればセルフで口でも押さえて頑張ってよ」
 まさしく指先一つ、喘がせるのも声を詰まらせるのも思いのまま。
 可愛らしい悲鳴で喘ぐのは間近に聞いていていかにも楽しいし、その感じっぷりが自分の股間にあてがわれた掌からダイレクトに伝わってくるのも、刺激そのものの大きさ以上に心地良い。
 感じきってまた酔いしれるように目を瞑っている顔をぐらぐらと揺らし、白い喉首を晒して。波打つようにそこが喘ぐのが目と鼻の先に鑑賞できるわけだ。
「ま、どうせすぐ無理になるのが惣流だし」
 ハンカチを取り出して口の中に押し込んでやり、悲鳴を噛み殺させる準備を整えたその後で。ケンスケは棚に押し付けたアスカを背中から挿し貫いて犯し、彼女が盛大なオルガスムスを迎えるのに合わせて躊躇なく、その締め付けの強烈な膣内に向かって精を注ぎ込んだのだった。

 並べ立てるほどの経緯でもない。
 朝、登校してきた教室で単に目が合った。それで、それだけで、お互いが欲情した。
 だからそれぞれそれとなく抜け出して、朝一番のこの時間なら生徒達からも教師からも死角になる場所を選んでしけこんだ。
 それだけのことだった。
 アスカがケンスケと体の関係を結んで数ヶ月。ウェットな感情を抜きにして、発散したい物の処理にお互いをお互いが都合よく利用し合うという割り切ったスタイルの――建前でもって、このそれぞれ友人とボーイフレンドに対する裏切りでしかない行為は続いていた。
 これはあくまで自慰の延長線の、ちょっと上等なやり方。敢えてそう認識するようにして自分に言い聞かせ続けていれば、やがてアスカにとっては相田ケンスケという顔かたちをした存在それそのものが、イコールで“そういう行為”を指し示す記号じみてきていたのだ。
 もはやこのクラスメイトを目にした時、そこにアスカは幾度となくこのニキビ顔の少年と繰り返した淫行の影を見てしまう。
 相田ケンスケの声とはつまり、クラスメイトやボーイフレンドである碇シンジに隠れて十四歳の肉体を抱かれている時、耳元にいやらしい言葉を囁きかけてくる声であり。
 相田ケンスケと視線が合うということはすなわち、この少年の胸の下で絶頂に追い上げられている時ずっと注がれている眼差しを思い出すということ。
 相田ケンスケの体臭を、体温を、教室に並べられた机と机の間の狭い通路に行き交う中に感じ取ってしまえばもう、それは貪欲にアスカの肉体を貪ってきて、変態的なプレイでの快楽を覚え込ませてきた浮気相手のその責めを、体で思い出すということであった。

「ングッ、ンッ、ン゛ン゛ン゛ッ!」
「イッちまいそうになってるってわけだよな。マンコん中ビクビク波打ってきてんの、こっちも堪んねぇぜ」
 背中に覆い被さった相田ケンスケが選択を突き付けてくる。
 危険日でこそないが、避妊具を使わないまま膣内射精を許すか。外で吐き出させる勿体ない真似を選ぶか。
 剛直と化した肉杭に深々と挿し貫かれて遮二無二で突きまくられ、瞼の裏にスパークが飛ぶ程その膣肉を抉られる恍惚を味わっていたアスカだ。慣れた判断を、その時も躊躇わずに繰り返した。
「ン゛ン゛ッ、ン゛ン゛ッ」
 口を塞がれてはいたが、首を何度も縦に振ってみせれば気付かないケンスケではない。きっとそれで分かって、今日も盛大に気持ち良く、熱いくらいのを注ぎ込んでくれる――。
 そのことを、アスカは疑わなかった。
「そらぁ。イケよ、イッちまえよ、シンジに見せられないような貌も、何にも我慢しないで派手にさぁ!!」
(あ゛っ、あ゛っ、あ゛っ、イク――。アタシ、悦いの、イイのよっ! 堪んなく、コレが、これが気持ち良くって……。だから仕方が無いじゃない……!! アッ、ァ、あっ……ッ。ぁぁア――!!)
 なにもかもを解き放った開放感に酔い痴れて、天に跳ぶかというくらいのオーガズムで細胞が沸き立つような喜びに打ち震えて。最後の深さまでペニスの切っ先を押し込んできたケンスケが、ヒップにのしかかってドクドクと精液を注ぎ込んでくる脈動を、蕩けるように心地よくアスカもシンクロして堪能して。
 そしてこの朝のセックスも、思い煩うすべてのことがどうでも良くなる位、事実気持ち良かったのである。
 そこにもう、悔いは存在していない。


◆ ◆ ◆


 だからアスカはその日、墓参りに行くのだというシンジが居ない教室でも比較的上機嫌なまま過ごすことが出来ていたのだった。
 休憩時間にふと耳にした声に顔を向けて、そこであの、不本意な付き合いがどれだけ続いてもいけ好かないままの綾波レイが、どんな子だったか良く覚えてもいないクラスの女子にしつこく頼まれ事をされて困ったようにしていたのに、柄でもない介入をしてしまったのは。だから多分、引け目のようなものがあったからなのだ。
(アタシばっかり……良い目を見させてもらってたわけだし、ね?)
 誰に尋ねられたわけでもないが、そう言い訳のように胸の中で独りごちて。
 兄弟だか部活の先輩だか、そんなただクラスメイトだと言うだけの他人の更にその関係者だという、自分たちにとって全くの単なる赤の他人の、その癖呆れるくらい図々しいデートの申込み。
 なんでそんなものに応じてやらなければならない義理があるのか。ただクラスメイトだからというだけで、さもその資格があるかのように頼み込んでくるしつこさときたら。 聞いているだけでも苛々してくる。
(何かあったって、責任も取らないくせに……!)
 それはアスカの眉間を険しくさせるのに十分なことだった。
 アスカにとって不快な記憶を刺激する光景でしかなかった。
 シンジは居ない。居ればすぐに助けに入っただろうし、そもそも綾波レイが誰に執心なのかはクラス中の女子なら暗黙の了解のようなものだ。居ればあの女子も話を持ちかけようとはしなかっただろう。つまり、不在の隙を狙ったのだ。
 それは悪意の存在を意味しているのと同じではないか。
 病院の妹を見舞っていたという3馬鹿トリオのもう一人は午後になって登校してきていたが、シンジの不在は一日中の筈だった。
 だからこそアスカは、朝ケンスケと顔を合わせた途端の衝動に二の足を踏んだりする必要は無かったし、その後で後ろ暗さや心苦しさ、後悔を抱えること無く過ごせていた。
 気持ちの良い午後だったのだ。
 なんなら、またケンスケを誘って裏山にでもエスケープしようか等と考えていたぐらいに、どこかウキウキとさえして。
(台無しだわ)
 こういう時、こういう事があれば決して見過ごしているわけにはいかない立場であるあの洞木ヒカリも、クラス委員長の少女も、タイミングが悪いのかどこかに行ってしまって姿が見えない。
(違うわね。居ないからなんでしょうね。ヒカリは……反省してた筈だし、もう無責任なことはしないしさせないって、ちゃんとしてたもの)
 自分が動くしか無かった。
 だからという、その程度の話だ。
「ちょっと、優等生? あんた何そんな話にわざわざ耳を貸してやってたりするのよ――」

 そんなことがあった。そんな日もあった。それだけの話だろう。
 綾波レイも自分が助けられたことが分からないほど血の巡りの悪い少女ではないのだから、ちゃんとアスカに礼を言ったし、アスカもそれを無下にしてあしらう程、了見の狭い女の子というわけでもなかった。
 勿論、恩を売ってやった、恩を着せられた、そんな捻くれた解釈、捉え方をする少女達でもない。
 ただそれでも、そんなことがあったとしても、二人はお互いが面白くない相手であることに変わりは無い。
 これを機会に関係改善を図ろうだの、少しは仲良くしてみようかなんてことを考える程、殊勝な娘たちでもなかったというだけのことで。

「お前らって、ほんとに」
 どうにもならないなぁ……と相田ケンスケが苦笑いをしてみせる程の不仲は、健在のままなのだった。
「…………」
 ケンスケのベッドでむっつりと押し黙ったままレイが腰を引き、ベルト状の固定具で下半身に装着していた双頭ディルドを、ローションのヌメりを滴らせながら引き抜いても、
「はぁっ、はぁっ、はぁっ……」
 そこまで三十分近くも掛けて下腹部をこすり合わせ、レズセックスの形を成立させてみせていたアスカの方も、膣腔に張り型を抜き差しされて摩擦されていたという以上の、感情の昂ぶりのようなものは全く浮かんでいない顰めっ面をしていたままだったし。
 それどころかケンスケが事前準備としてたっぷり愛撫して、口で吸って刺激し、硬くさせてやっていたはずの乳首もクリトリスも、むしろ平素の状態に戻ってしまっていたような有様。
 かと言って、それではとビデオ撮影を諦めた少年が犯してやれば途端に股をしとどに濡らし、あられもない反応を示し始めるこの飛び切りの美少女達は、ケンスケが随分と執着しているらしい三人してで理性を蒸発させて“愛し合っている”ように撮る私製ポルノ動画を完成させる程には、頭のネジを弾け飛ばしてしまえないままで。
 一方ではケンスケとの肉欲に溺れつつ、一方でシンジの煮え切らない二股交際を決着させようとするでもなく。
 表と裏での三角関係をどちらもずるずると引きずりながら、その年の12月という、アスカにとっての誕生日がある月、少年とガールフレンドの少女たちに取ってであればクリスマス・イブという重要なイベントがある、その月を迎えたのだった。





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