肉体決済、挿話 / ドイツ系金髪勝ち気美少女、ハメ撮り

Original text:引き気味


「――ハメドリ?」
「そ、今日はハメ撮りで写しとこうかと思ってね」

 ハメドリとは何か。どうせ碌なものではないでしょうけどと、アスカは怪訝な顔でオウム返しに問うた。
 ケンスケとの取引きの結果として既に何回もの“写真モデル”をさせられている、その写真部部室で言われたことだ。
 それが何か良からぬ、そして淫猥な意味合いを帯びていることは想像に難くない。

「ハッ」
 ヘラッと、ケンスケはアスカがもう見慣れてしまったいやらしい笑いを浮かべて見せた。
「惣流がハメ撮りなんて口にしてるのを聞いたら、それだけでウチの男子連中がチンポコおっ勃てちまうよな」
 言ってやはりとアスカの顔を顰めさせつつ、傍らの棚に据え付けのモニタに一枚のスチルを呼び出す。
 校内の盗撮システムの制御室をも兼ね、そして大っぴらに出来ないような写真の撮影ブースにも使っている暗室の中は狭い。
 故意か意図せずか、そうせねば覗き込むことが出来ない位置のモニタを使ったケンスケに更に嫌な気分にさせられつつ、アスカは嫌々肩を寄せて、途端、
「……な、なぁぁ!?」
 まともに男と女の生々しい情交の風景を見てしまった、思春期の少女の裏返った悲鳴が響いた。

「いい加減こんなのなんかさんざん見せたってのに、初々しいねぇ」
「だっ、アンタ! いきなりこんな――見せられたら! あ、あたり前でしょ!」
 どうせその類だろうと身構えていても、アスカの目に飛び込んできたのはまさに交接の部分の大写し。
 海外アングラ由来と思しきブロンド美女が男の上で汗みずくに腰を振っているのを真下から捉え、そこから色々な汁液が飛び散っているのがあたかもこちらにも掛かって来そうな――そんな異様な迫力を備えた一枚だったのである。

「い、いやらしい! 信じらんないわ!」
 いきり立ち、『なにもこんな!』と、さも汚らわしそうに。
「こんな汚い場所なんか撮らなくったって、アンタ達が嬉しいのは女のハダカでしょ! 何よコレ、変な撮り方して、女の人は顔も写ってないじゃない」
「まあね。そりゃ普通にモデルさんを撮ろうって時のルールからしたらアングルもムチャクチャな写真だけどさ。これがハメ撮りってやつなんだよ。分かる?」
「……なんですって?」
「見ろよ」
 目にするだけで視神経から穢されてしまいそうだと思うアスカだが、
「説明してるんだからさ、理解してからじゃないとモデルなんて出来ないだろ」
 今の不本意な立場では、単純に否とは言えない。それを思い出させられる。
 それに、今日まで取引を楯にして下着姿からシンジにさえまともに見せた事の無い全裸まで、“相田ケンスケ専属モデル”として撮影されることに応じさせられてきた苦い経験が、相手が今度は何をさせようというつもりなのか、確認しておかねば危ういと警告を発していた。

「この写真、目線が男から見てのものだろ? ハメ撮りってのはさ、要するにモデルさんとヤりながら撮ることで迫力を出してんだよ。この際、多少のブレがあったり、ベストアングルちょっと外してたりしてても、ドエロい迫力さえあればオッケーなんだよな」
「アンタっ、ふざけんじゃないわよ!!」
「何がさ?」
「アタシがそんな写真撮らせるわけないでしょう!? 何がハメ……っッ、迫力よ。冗談じゃないわ!」
「はぁ? そりゃ困るよなぁ〜。惣流は俺の専属モデルなんだぜ? それも裏用の。ちゃんと取引の時に確かめただろ? ヌードも有りで、アソコも隠さないエロ写真中心。どんな注文にも無制限で応えてもらうよってさぁ」
「……ええ、言ったわよ。だから……だからアンタがどんな恥知らずなポーズをとれって言ったり、いやらしい格好をさせたりしても、約束通りモデルになってやったわよ!」
 機材の並べられた机に『ダン!』と強く手のひらを叩きつけて、怒鳴るようにアスカは言う。
 反対の手はブルブルと震えるほどに拳を固め、怒りで真っ赤になりつつ、『でも!』と。
「でも、ルールは決めてあった筈よ。アンタは私の体に指一本触れない。モデルは引き受けたから、だからカメラはいくら向けても良いけど、アンタが触るのはダメ。アタシの躯を好き勝手にさせてやるなんて言ったわけじゃないわ。そんなアンタのオモチャになった覚えは無いの!!」

 元を言えば、たまたま同級生になったからといって軽々しく口を利くのは許さない、エリートたる自分に比べればアンタは取るに足らないような只のバカガキなんだから、立場を弁えなさいよと、さんざんに見下し、盗撮魔呼ばわりで馬鹿にしていた少年だった。
 そんな相手に今は力関係が歴然と逆転し、意趣返しのようにエリートの誇りをさんざん踏み躙られてきた屈辱。
 その傷だらけのプライドが決してこれ以上越えさせぬとの意地を漲らせる一線が、そこだった。

「分かってるって。そう興奮すんなよ。商売は信用第一だぜ? 俺だって当然、ルール違反はしないさ。契約は神聖にして絶対、侵すべからずってね」
 アスカの激高を浴びて尚、ケンスケはニヤニヤと余裕を崩さずにいる。
 この美しい少女に対し獲得した己が優位が、強まりさえすれ、最早失われることはないとの自信が態度から透けて見えていた。
 言下に強調しているのは、だからアスカは定められた範囲に於いては逆らえないのだということだろう。
「分かってんなら話は早いわ。アンタの今日のリクエストは却下よ!」
「いいや、今日はハメ撮り写真のモデルをやってもらうよ」
「アンタ、今自分で言ったことを――!」
「だから最後まで聞けってさ。誰も本当にエッチしながら撮るなんて言ってないだろ? それらしく見えれば良いのさ。偽だよ、ニセ。でも、写真を見る相手がそうだと思わなければハメ撮り写真だからな。そういう写真に仕上げるつもりで今日は撮らせてもらうんだよ。……分かった?」
「…………。最初からそう言いなさいよ」
「説明してやるってのに、聞きもしないでキレてたのは惣流だろ? それ、悪い癖だと思うぜ?」
「うるさいわね……」
 アスカは不貞腐れたように言ってそっぽを向く。
 じゃあ、さっさと準備を――と、誤魔化すようにして言う、無意識の内にかそのセリフを自然に口にしてしまう、そこが拭い難いアスカの隙、アスカの油断だった。
 或いは慣れか。気を許したわけでもない男子を前にパンツを下ろし、髪と同じ色の生え揃わぬ恥毛を眺められるような恥辱を繰り返し、その度ごとにより一層の衝撃で脳裏を羞恥揺さぶられる過激な注文を付けられてきた日々が、結果としてアスカの乙女としてのガードを低くさせていたのか。
(分かってるのかなぁ、惣流? アタシのハダカを撮る準備をしなさいよって、この俺にねぇ……)
 一応は着替えは見るなと暗幕の外に出されていても、そもそもが男が直ぐ傍にると承知していて服を脱いでしまえる、その時点で普通の女の子には一大決心を要することだろう。
 しかも、ストリップ写真を着衣から全裸まで連続で撮る時などは、レンズ越しにケンスケが見詰めている前でやってみせているのだ。
 確かに、いつも耳まで火照らせる恥じらいようを思えば、決してアスカが羞恥心に欠乏を来たしているということではあるまい。
 だが、最初の頃を思い出して比べれば、ほくそ笑むばかりなのは事実だった。

「……それで、どう撮影するのよ?」
 説明されたハメ撮り写真とは、考えてみれば前提として行為の最中でなければならないのではないか。
 “それらしく見えるような”撮影とは……?
 あらかたの服を脱いでしまい、カメラの前に立つ段になって今更に思い至ったのか。
 素肌の上に制服のベストスカートだけを残し、心許ない胸の辺りを腕で隠すアスカが、部室の一角に張ったバック紙の前でセッテイングを進めるケンスケに聞く。
 モデルをさせられる時にはいつもそうあるようにと自分に言い聞かせているのか、教室で見せているのと同じ強気の態度を装って見せているが、声が微かに不安の色を帯びているのがケンスケの陰湿な性癖には心地良い。
「どう構図を工夫するのかしらないけど、アンタ、アタシから30cm以内に近付きでもしたら容赦しないからね?」
「はん? ハメ撮り撮るのに男が必要だってのは理解してくれたわけ? さっすが、飲み込み良いよな」
「良いから、どうやってそれらしく撮るつもりなのか教えなさいよ」
「心配すんなってさ」
 ニヤリと、俯き加減の眼鏡にライトの光を反射させたような不吉な横貌を、アスカは見た。
「口の堅いやつを呼んでやるよ」
「――は?」
「惣流はさ、そいつにさっきの写真みたいに跨ってくれれば良いから」
「ちょ……、ま、待ちな――待ちなさいよ!」
「勿論、本気で突っ込んでもらう必要はないぜ。俺がやるわけじゃないし、ギリギリルール以内って気もするけど、そこまでして貰っちゃうのもちょっと悪いからな。惣流のピンク色のマ×コはその履いたままのスカートで隠しとけばさ、全部脱いじゃうより受けも良いんだよ」
 第一中の制服だって分かる材料があった方が良いのだと、それこそ看過出来ないことを次々とケンスケは口にするが、アスカはただ、他の誰かをというその言葉に意識を凍り付かされて、真っ青になっていた。

「だから待ちなさいって……、待ってよ!」
「……うん? 何だよ、惣流。さっさと済ませちまおうぜ。惣流にとっちゃ嫌な時間なんだろうし、その方が良いだろう?」
「アンタ……今、何を呼ぶって……。この事は誰にも知られないようにって!」
「ああ。だって仕方ないじゃん。契約上、俺じゃ相方を務めさせてもらうわけにもいかないんだからさ。秘密については安心していいぜ。当然、撮るのが惣流だなんて教えてないし、撮影中も相手が分からないように目隠しをしてもらうよ」
 後は名前を呼ばないようにして、声を出しさえしなければ良いと。

「それでルールはばっちりクリアだよな?」
「な……イヤっ! イヤ、イヤ、イヤよっ!! 何でアタシが……直接触らせるのはルール違反だって言ったでしょう!」
「そいつはさ、俺は、って話だったろ? 俺以外の男についてはダメなんて書いてなかったし、秘密がバレないようにやるなら全然オッケーってことでしょ?」
「そんなことアタシは認めてない! 認めないわ!!」
「じゃあ、契約のどこにダメって書いてあるのか教えてよ。契約守れって、たしかそう言ったばっかりだよなぁ?」
「そ、それは……」
「どうする、惣流?」
「あ、あ……、だって……。目隠ししても……バレないって、気付かれないって保証は無いじゃない……」

 アスカは追い詰められていた。
 何とか抗おうと探す言葉も震えて力無く、たった一枚をまとうだけで肩を剥き出しに、大きく開いたベストスカートでは真正面以外に乳房を隠す役さえ果たせずにいる、そんな頼り無い姿に相応しい、弱々しい有様で。

「こっちは気付かれたりしないように万全を尽くすって言ってるじゃん。後は惣流の問題だろ? 惣流には、契約がある以上はモデルをやらないって選択肢は無いぜ」
「そんな……いやよ……」
 出会った時からそう背も伸びていない気がするケンスケの、そのアスカと比べてさえも貧弱な矮躯を前に、敵を多くしがちな気位の高さを担保してきただけの格闘訓練を受けてすらいる彼女が、飲まれてしまっていた。
 なまじ頭の回転が良いばかりに、ケンスケの持ち出した理屈を否定するべき自分が、その妥当性を認めてしまっていたのだ。

 ああ、確かに。確かにその通りだ。
 惣流・アスカ・ラングレーは、契約という鎖でぎりぎりと縛り上げられた哀れなアタシは、これでは言うとおりにするしかない。
 だって、だって……。相田ケンスケに直接何かされることばかりを警戒して、他の誰かを連れて来ることを、それをお互い以外の誰にも秘密を明かさぬようにするという条件だけで封じたものと安心していた自分が迂闊だったのだから!

 油断した。取り返しの付かないミスを犯してしまった。
 あの取り引き以来、何度目かになる暗澹たる思いに囚われ、アスカは震えていた。

「……どうする?」
 自分の肩を抱いて震えるアスカにケンスケが迫る。
「どうしても嫌だって言うならさ、俺も血も涙も無いってわけじゃないし、ちょっとは譲歩しても良いぜ?」
 口元を吊り上げるように緩めて、それは親切さを装っているつもりなのだろうか。
 アスカには、悪魔がまた自分を罠に掛けようとしているのだとしか見えない。
 見えないながらも、分かっていながらも、そこにおずおずと手を伸ばしてみるしか残ってはいなかったのだが。

「これはもうお互い譲歩してさ、歩み寄れる妥協点を見付けるしかないかなって思うんだよ」
 いやらしい口調で持ち掛けてくる距離は目と鼻の先で、ケンスケはわざとらしく両手を後ろ手に組んでいるが、それはアスカがあれだけ頑なに拒否していた間合いだ。
 嫌な臭いの息が吹き掛かってきそうな、ついと手を伸ばして引っ張ってしまえばアスカはそれだけで一糸纏わぬ姿にされてしまう危うい近さ。
 まだ誰にも、ただの一人にも許したことの無い胸の美麗な発育を、ケンスケの気まぐれ次第では簡単に鷲掴みにされてしまいそうな、そこまでににじり寄られ、気付かず後退りして。
「惣流はどっちが大事なわけ? 俺に触られることの方が嫌だって言うのか。俺たち以外のやつを連れてこられて、もしかするとこんなことをしてるってバレてしまうかもしれない。そっちの方を優先するのか」
 綺麗な顔にニキビ面を突き付けた馴れ馴れしさで、『さ、選んでくれよ』と。

「あ、アタシは……」
 いつの間にか口の中がカラカラに乾いていた。
 選ぶしかないのだと、アスカは必死になって答えを探す。
 どちらがまだしもベターであるのか。それだけに苦しく眉根を捩じらせてしまっているアスカは、異常な状況で、乙女であればこその恐怖を逆手に取られてしまっていたが為に、ケンスケが仕掛けた、本来の能力を思えば容易く突破出来た筈の陥穽にまんまと捕えられてしまっている。

「呼んできて相手をして貰う方を選ぶ?」

 ――そうなれば、最悪アスカは相田ケンスケに続く二人目の恐怖を生活の中に抱え込むことになる。

「それとも、俺と撮ろうか? 契約から一行削ってさ」

 ――その時、アスカはこの卑怯な少年に、格好だけとはいえ抱かれて見せねばならない。

「シンジ以外にって思ってんだろ? それは分かるけどさ、今日のモデルはどっちにせよ男と絡んでもらうぜ」
「そんな……。あ、アタシに……アイツ以外の男が……」
「格好だけだって。深く考えるなよ」

 ああ……、とアスカは喘いだ。
 既にもう、真っ暗な絶望の内に包まれていた。
 許されているのは、そう思い込んでいるのは、いずれの選択がより苦痛を少なく済ませられるかだけ。

「脅かすわけじゃないけど。まぁ、撮影の趣旨とか契約とか、惣流の気持ちとか。そこら辺がちゃんと分かってるやつの方が安全だと思うぜ。……分かるだろう?」
 連れてこられる誰かには、決して自分と裸で手足を絡めてポーズを取っているのが“あの”惣流アスカだとは分からないように視覚を塞ぎはする。
 だが、一番異性への興味を強くする年代の少年が、アスカのような極上のボディを持つ少女と裸で密着して、衝動に駆られずに済むだろうか。
 最悪に至る暴走は防ぐと請合われはしても、ポーズ次第では撮影にかこつけた悪戯を仕掛けられない保証は無い。
 寧ろ、そうせずにはいられないのが普通だろうなと、ケンスケは脅すのだ。

 胸を揉まれる? 
 ――アイツにだって触らせたことは無いのに。
 見せられた写真のような構図で撮られるなら、もしかすると、見も知らない男のアレが……スカートで隠した下で自分のそこにくっ付きそうになるのを我慢せねばならないのだろうか?

「言っとくけど、俺は撮影の邪魔にならなければ却って写真にリアリティーが出るのは歓迎するよ? 守る義務があるのは約束した範囲のことだけだからね」
「そんなのって……」
「どっちに決めるにしても急いでくれると嬉しいな。俺も脱がなきゃならないんなら、早めに準備させて欲しいからさ」
 わざとらしくスボンのベルトに手を掛けて見せるケンスケ。
 その突き出すように誇示する股間のこんもりとした膨らみに、貧血のような眩暈さえ覚えつつ、アスカはどうにか答えを選ぼうとしていた。
 いつの間にか舌は強張り、ぎこちなくしか動いてくれなくなっていた。



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