第二話
ジャッキー・グーデリアン。高校一年生。
長身、金髪。ブルーアイズ。これだけ揃えば女の子にモテて当然だが、彼にはさらに必殺のスマイルがあった。垂れた目尻にさらに愛嬌が加わり、この笑顔一つでたいていの女の子は彼になびく。しかもしかも、運動神経はバツグン。今のところバレー部、サッカー部、バスケ部に所属しているが、その能力をかわれてテニス部や野球部などの助っ人としても活躍しているらしい。
人生、これだけ恵まれていればさぞかし楽しかろうと思ってしまうようなアメリカンだった。
ところが、いつだって人生には落とし穴が待ちうけているものだ。お勉強がバツグンにできるわけではなくとも、その誰からも愛される性格や笑顔と、運動能力の高さで、順風満帆なはずの彼の恋のお相手(・・・)は、誰あろう、一つ上の学年にいるクールビューティー・フランツ・ハイネル16才だった。本来なら男相手に恋などしてしまったことに対して、嘆いたり悩んだりするべきなのだろうが、あいにくジャッキー・グーデリアンは超がつくほど懐の広い男なのだった。考えても仕方のないことは考えないのである。ある意味非常に男らしいと言えるだろう。
今は四限目、体育の時間。種目はサッカーである。紅白組にわかれて試合をしているが、外国人の多いこの学園の生徒たちの中でも、グーデリアンの長身とあせた独特の色合いの金髪は一際映えた。加えて、動きがほかの生徒たちとは比べ物にならないほど俊敏で、機能的だ。
「ジャッキー、パス!」
「O.K!」
味方がうまい具合に蹴ってきたスルーパスを、敵のマークを一瞬にしてすりぬけたグーデリアンが受けた。長身だが、それを感じさせないほど機敏な動きで敵の間をかいくぐっていく。生き生きとした表情を浮かべた顔は、男らしい野性味と、少年らしい屈託のなさが同居しており、見るもの(とくに女性)を惹きこまずにはいられない。
「おいっ、キーパー、ジャッキーが行くぞっ気をつけろよっ」
「わかってるよっ!」
一番の難敵、ジャッキー・グーデリアンにボールが渡ったと知って、俄然敵チームに緊張がはしる。すぐに何人もの生徒がグーデリアンをとめるべくそちらに向かったが、ボールと一体になってしまったかのようにグーデリアンの動きにはムダがなかった。おもしろいようにカンタンに相手プレイヤーの間を抜けていく。
敵チームのゴールキーパーが構えたときには、すでにグーデリアンはゴールエリアに切りこんでいた。
「くそっ!」
キーパーがグーデリアンにシュートさせまいと突っ込んでくる。
「お見通しなんだよ!」
ところが、グーデリアンは相手のそんな動きを見越していたようで、キーパーが自分めがけてつっこんでくると、ボールごとヒラリと空を飛んだ。低く倒れこむキーパーの体の上を飛び越え、もはや守る者のいなくなったゴールポストめがけて長い右足を蹴り上げる。
審判役を務める体育教師の吹くホイッスルが、音高く空をかけぬけていった。
「きゃーーーっ。見た?見た今のシュートっ!?グーデリアン先輩よっ。もー信じられないほどかっこいいわ!私とつきあってくれないかなぁ」
高等部と共有の広いグラウンドの片隅で、うっとりとした息をもらしたのは、中等部2年生の女の子である。彼女らは今ハードルをやっているのだが、自分の番以外の女子は、ほとんど高等部の体育風景に目を奪われているのだった。それも正確に言えば、一人の男子に、である。
本来なら教師がとがめるところだろうが、中等部の体育は女性が受け持っており、この女性からしてグーデリアンに見惚れているアリサマだった。処置なし。
「あーんもう、グーデリアン先輩って、カッコいいし、優しいし、明るいし。理想よねっ。ホントに彼氏になってくれないかな」
「ダメダメ。グーデリアンさんには、もう好きな人がいるんだから」
うっとりとハートマークを飛ばしている少女たちの中で一人、冷静な観察眼を向けていたのはリサ・ハイネル。もちろん、我らがフランツ・ハイネルの最愛の妹君である。かわいらしい少女だが、どこから取り出したのか『お兄ちゃんにふさわしい相手かどうか判断するためのジャッキー・グーデリアン調査書』と表紙に書かれているメモ帳を手にしているのはどうにも解せない。
「好きな人?ほんとに?で、でも、グーデリアン先輩は女の子に優しいから、どんな女の子がつきあってほしいって言ってもOKしてくれるって聞いたわよ」
あまりにグーデリアンの魅力にまいってしまったのか、彼女は納得しかねている様子だ。だが、リサの反応はアッサリしたものだった。
「事情が変わったのよ」
「ホントに?」
「ホントよ。そうね、グーデリアンさんの気を変えたいんだったら、長身で、色が白くて、スレンダーで、グリーンアイズ、サラサラの茶髪(いつもツンツンにたててるけど)、顔サイコー、頭サイコー、家柄サイコーの相手に勝てる人を連れてくるのね!」
「な、なんかリサ、ずいぶん具体的なのね。それにそんな人を一人知ってるような気がするんだけど・・・」
「お兄ちゃんに勝てる人なんかいるわけないんだから!」
リサ・ハイネル中学2年生。あのシスコンの兄にしてこのブラコンの妹あり、であった。
さて、そんなこんなでランチの時間である。
「ハイネル!!昼飯いっしょに食おうぜ!」
昼食の時間になるとすぐにかっとんで行く先は当然ハイネルのクラスである。自分が生まれ育ったアメリカだったらハイネルと同学年のはずなのに、ここ日本のシステムではハイネルは一年先輩になってしまうのが少々恨めしい。だが、両親の仕事の都合でこの学園に来ることがなければハイネルと会うこともなかっただろうから、その辺は目をつぶるべきだろう。グーデリアンはいつでもポジティブ・シンキングである。ちなみに彼のクラスメイトの新条は、いつでもネガティブ・シンキングで有名だった。関係ないけど。
「またお前か!毎日毎日、昼くらい一人で食べればいいだろう!」
案の定、ハイネルはぷりぷり怒りながら現れた。けれど、グーデリアンはまったくこたえない。なぜなら、怒ったハイネルはキュートだからである。基本的にクールなハイネルは、ほかの人相手にはあまり怒ったりしない。そのハイネルが、自分の言葉にはすぐに反応して角をたてるのを見ていると、グーデリアンは優越感を感じずにはいられないのだった。
第一、怒ったりしているハイネルは、毎回しっかりグーデリアンの分までお弁当を作ってきてくれている。リサちゃんの分と、自分の分と、一番大きいグーデリアンの分。以前ハイネルのお父さんも「いいなぁ」とかなんとか言ってねだったらしいが、美しきお母さんの「私の料理に何か不満でも!?」の一言と、ハイネルの鋭い眼光に何も言えなくなったらしい。
とにかく、ハイネルはフランツ、ちがったフランスの三ツ星レストランで今すぐチーフになれるほどの料理の腕の持ち主なのであった。
今日は屋上をランチ・タイムの場所に決めたらしい。天気もいいし、いい風も吹いている。おまけに好きな相手とおいしいお弁当とくれば、誰しも上機嫌になるというものだろう。
当然、グーデリアンもそうだった。うれしそうにすごい勢いでごはんをかっこみ、ハイネルに注意される。注意しつつもグーデリアンの頬についた米ツブをとってあげたりする辺り、ハイネルも満更ではないらしい。影で自分のファンがそんな姿に涙してるとは露知らず、ハイネルは自分の食事もそこそこに、グーデリアンの世話に忙しいのだった。
「ふーーっ。ごちそうさま!今日もうまかった!」
とりあえず成長期のグーデリアンの食べっぷりは見事である。見ているとすがすがしい気分にさえなれそうな豪快な食べ方だ。ハイネルは彼の食事が終わったことで、ようやく自分も本格的な食事に入った。彼はつくづく世話焼き体質なのだ。
グーデリアンもハイネルが食事をしている様子をニコニコと見守っていたが、何かを思い出したのか、やがて口を開いた。
「そう言えばさ、今日はいいニュースがあったんだ!」
ハイネルはうながすように顔をあげてグーデリアンを見る。育ちのよい彼は、食事中にむやみにおしゃべりしたりしないのである。
グーデリアンは心底うれしそうに、白く整ったハイネルの顔をのぞきこんだ。
「あのさ!アメリカで同性婚が認められたんだぜ。よかったなハイネル。これでオレたちの将来も安泰だな!」
「ゴホッゴホッゴホッ」
とたんに、飲んだお茶が気管に入りこんだらしく、ハイネルが激しくむせた。
「だ、大丈夫か、ハイネルっ」
「ゴホっ・・・ばっバカか貴様っっ」
「バカとは何だよ、オレは平気だけど、ハイネルってそういうこと気にしそうだからって心配してやってたのに!」
「余計なお世話だ、グーデリアン!大体、アメリカで同性婚が許可されたのと、私たちの間に一体何の関係があるんだっ」
「なんだよハイネル、お前がオレ以外の誰と結婚するって言うんだ」
「それもそうだな。・・・じゃなくてだなっ。何納得してるんだ、私はバカか!」
「うーん、時々ハイネルってサクランするよな。大丈夫か?」
「お前のせいだーーーーっっ」
屋上にクールなはずのハイネルの絶叫が響き渡った。
と、いつの間にやら屋上のドアの所に、ド派手な頭をした小柄な少年がカメラを構えてたっていた。
「あいかわらずにぎやかで楽しそうだねぇ、グーデリアンさんよ」
「加賀かよ。お前、またオレたちの写真とってんのか?」
「まぁな。あんたらの写真はけっこうな値段でサバけるから助かるぜ」
加賀とグーデリアンはクラスは違うが同学年である。(毎度のことながら年齢考証という概念はこの話には存在しません)
加賀はサッパリした気性だが、どこか読みきれない不思議な雰囲気をもった男で、グーデリアンとは妙にウマがあった。また、何の目的からなのか、加賀は妙にガメついのでも有名である。
以前にも何度か加賀はグーデリアンとハイネルの写真を撮って(もちろん、フツーの写真です)かなりもうけているらしい。
グーデリアンは気にしていないようだが、ハイネルは気にするようだった。
「ちょっと待て、加賀。私たちの写真を撮って、あまつさえ売ってるというのか!?」
「そうそう。あんたらは二人とも人気者だからね。いい商売になるんだわ、コレが」
「ふざけるな!なんで私がグーデリアンなんかと一緒にいるところを写真に撮られて、あまつさえそれをほかの人間に売られたりしてなきゃならないんだ!」
「まぁまぁ、いいじゃんかハイネル。あ、そうだ。加賀、オレたちの結婚式のときにも写真係頼むな」
「いいぜ!料金二割増しだけどな」
「人の話を聞けーーーっ!!」
結局、今日もフランツ・ハイネルは激しい一日を送ることとなるのであった。ジャッキー・グーデリアンと新しいアメリカの法律の恩恵にあずかることになるかどうかは・・・今のところ、神のみぞ知る、である。
結婚式にはぜひ私も呼んでください!
・・・・・・・・・グーデリアンが、グーデリアンが・・・・・・・・。私は屈託がなくて少年ぽいグーが大好きなんですが、これではただのアホなのでは・・・。いやいや、アホなのは私の頭です。すみません・・・。だって、アメリカで同性婚が認められるようになったってニュースでやってたんですもの・・・。ただそれだけでこんなアホな話を書く私も私ですが。
でも正直言って、書いてる分にはやはり楽しかったです・・・!