So complicated.
フランツ・ハイネルの造りあげるマシンは常に革新的である。
CFの歴史を紐解いてみるといくつか興味深い事実が浮かび上がるが、その一つが彼がかつてドライバーとして参加していたS.G.Mの存在だ。
フランツ・ハイネルはそのドライビングスタイルからとかく基本に忠実で冒険を好まないレーサーだと思われがちだが、少なくともマシンデザインの観点から見るとそれは全くの間違いだと言えそうである。
後にロバート・マーシャルの悲劇的な事故をきっかけとして全面禁止されることになる牽引式ブーストだが、この機構を2008年に初めて取り入れたチームがS.G.M。この当時はフランツ・ハイネル自身はチーム方針には全くタッチしていなかったようだが、2015年、第10回CF大会より排気量規定の例外許可を得て太陽光触媒燃料電池マシン使用が可能となっている。この全く新しいスタイルのマシンを取り入れたチームは極めて少なく、トップチームではS.G.Mただ一つであった。S.G.Mは2015年以前より太陽電池マシン構想に着手していたらしく、FICCYに対する燃料規定等に関するレギュレーション改定の要求を以前より行っていることを付記しておく。
ともあれ、2015年、CF初の新機軸マシンを打ちたてたS.G.Mの当時のドライバーはフランツ・ハイネル。この時の彼は若干21才だったが、既にマシンデザインを手がけている。早熟の天才だったのだ。
それから彼は自チームを興してシュティールを生み出し、またシュピーゲルを生み出した。いずれも搭乗法などに他のマシンとは一線を画した特徴が見られるマシンである。
シュピーゲルを投入してからグランプリが始まるまでの短い期間を利用し、ハイネル監督率いるシュトルムツェンダーは連日厳しいマシンテストを繰り広げていた。
ドライバーは今期よりドライバーの座を退いたハイネルに代わり、女性であるマリー・アルベルト・ルイザが参加してチームに華やかさを与えている。
グーデリアンとしてももちろん彼女のような魅力的な女性が自チームに、しかもドライバーとして参加するのは喜ばしいことだったのだが、喜んでばかりもいられなかった。
同じチームで同じマシンを駆る以上、条件は同じ。誰よりも速く走りたいと願うのが逃れられないレーサーの性だ。当然、同じチームであってさえ、いや、条件が一緒であるからこそ、同じチームのレーサーには他の誰よりも負けたくないと思うのが自然だろう。
フランツ・ハイネルの愛機であるシュピーゲルHP022を駆ってのマシンテストは既に数回行われているが、いずれもマリー・アルベルト・ルイザがジャッキー・グーデリアンに勝るタイムを出して終わっている。
シュピーゲルとの相性を断じるのは早過ぎるが、少なくとも今の時点ではルイザの方がグーデリアンよりも革新的なこのマシンとのマッチングがうまくいっているようだった。
まだマシンは完成形ではない。これらのマシンテストによって得られるデータを元にさらに熟成させていくため、現在のタイムはそれほど問題視されてはいないのだが、だからと言ってタイムが出ないことを喜ぶレーサーはいない。
シュトルムツェンダーが所持しているドイツ郊外の私設サーキットで、今日もチームはマシンテストを重ねていた。ルイザはオフのため、今日マシンを走らせるのはジャッキー・グーデリアンだけである。
テストのため、今日グーデリアンが身につけているレーシングスーツはほとんど青一色のシンプルなデザインのものだった。正式なものと比べればずっと地味に見えるはずのそのスーツも、長身で華やかな雰囲気をまとうグーデリアンが身につけると目立つことこの上ない。
午前のテストと休憩を終えて午後のテスト再開となる所で、それまで本社との会議のせいでサーキットから抜けていたハイネルが戻ってきた。
会議中は一切の連絡を絶っていたためにグーデリアンのマシンテストの様子も全く耳にしていなかったのだが、それでもハイネルはサーキットでグーデリアンの後姿を見つけ、一目で午前の結果が芳しくなかったことを悟った。
大きなグーデリアンの背中が、少しだけ寂しそうに見えたのだ。
グーデリアンはレーシングスーツの上半身を腰に結びつけた恰好でマシンに腰かけていた。こちらに背を向けている形なのでハイネルにはまだ気がついていないようだ。少し上半身を屈めた恰好でスポーツドリンクを手にし、足元を見つめているグーデリアンの姿はらしくもなく憔悴しているように見えた。派手な色をしたとうもろこし頭を押さえつけている真っ赤なバンダナの色さえも何だか少し元気なさげに見えてくる。
「どうしたグーデリアン。午後のテストはすぐに始まるぞ。シャキっとせんか!」
「ハイネル?会議終わったのか」
いつもならば気配だけですぐにハイネルの存在を察するはずの男が、声をかけられるまで気がつかないなどありえないことである。だがハイネルはそのことについては気にした風もなく、グーデリアンの前に回った。
会議場から直接サーキットに赴いたハイネルはまだビジネススーツを身につけたままで、こうして毅然と立っているととてもモータースポーツに深く携わっている人間には見えなかった。一部の隙もなく身なりを整えた一端のビジネスマンのようだ。
グーデリアンはマシンに腰かけているので、ハイネルと目線を合わせるためには当然上を向くことになる。青い目は変わらずに深くキレイな色をたたえていたが、わずかに焦燥の影がよぎっているようだった。恐らく、ハイネル以外の人間だったら気づくことはできなかっただろうが。
緑の瞳を微かにすがめ、ハイネルは短く聞いた。
「悪いものでも食ったのか?」
「ひでえなハイネル。オレが元気ない時は食いすぎの腹イタか二日酔いかよ」
「違うか?違わないだろう?」
ホントにひでえよ、と唇をとがらせているグーデリアンの姿は子供のようだが、たくましい腕はしっかりとハイネルの体を自分の方に抱き寄せている。全く大人なのか子供なのか、判断に苦しむ行動をしてみせるのがグーデリアンという男である。
腰の辺りに抱きつかれたままの姿勢で、ハイネルはそっと手を下ろしてグーデリアンの褪せた金色をした髪を優しくすいた。二人きりの時だけに見せる、さりげないが優しい愛情に満ちた仕草だった。
グーデリアンは息を吸い込み、抱きしめた腕の力を強めてから瞳を閉じた。そうすることで慣れ親しんだハイネルの香りが鼻腔に流れ込み、暖かさが体に伝わり、より一層相手の存在を身近に感じる。
しばらくじっとハイネルを抱きしめて彼の存在を確かめていると、頭上から彼の声が降りかかってきた。
「考えてどうなる?」
「へ?」
「貴様、いつも私に向かってえらそうに『オレは天才だぜ天才。本能でドライブしてんの!セッティングだの戦略だの、細かいこといちいち気にしてられっかよ』・・・・と言っているではないか」
グーデリアンはハイネルを抱きしめる腕はそのままに、青い目を見開いて彼を見上げている。
ご丁寧にグーデリアンが普段使っているスラング混じりのアメリカンイングリッシュで言ってみせたハイネルは、いつもならばグーデリアンの方が浮かべていそうな表情をみせている。わざと目の前でいたずらをして見せて母親の反応をうかがっているかのような表情だ。
それから、ハイネルはシワになるのも構わずにスーツの膝を折ってアスファルトに膝をついてグーデリアンと視線の高さを揃えた。同じ高さで、真っ直ぐに青い目を見つめてハイネルは言った。
「貴様は考えるな、グーデリアン。貴様のような頭が悪い人間がいくら考えたって無駄なのだから。いいからとにかく走って来い!いいか、貴様は私とシュピーゲルのものだ。何も考えずに走って走って、私とシュピーゲルのために尽くせばいいのだ」
「お前、時々オレでもビックリするくらい過激なこと言うよな」
「誰かの」
『悪影響でな』、の部分はタイミングをはかってすかさず口をはさんできたグーデリアンの声と重なった。
思わず顔を見合わせ、その後耐え切れずに二人とも小さく吹き出す。すっかりいつもの明るさを取り戻したらしいグーデリアンは、グローブに包まれたままの大きな手でハイネルの頬をゆっくりとなでた。
眼鏡の奥の緑の瞳が無防備に、今はわずか上にあるグーデリアンの青い瞳を見つめている。気負ったところの少しもない、グーデリアンを信頼しきった目だった。
あらゆる意味でジャッキー・グーデリアンという男に全てを託した人間の見せる目だった。
「私がやる」
「?」
「頭を働かせて悩むことは私に任せろ。私がする。そんな煩わしいことは全て私が引き受ける。お前はただ走ればいい」
「ハイネル・・・」
今度はハイネルが目を閉じ、黙ってグーデリアンの広い背中に腕を回した。けして力は込められていなかったが、暖かで力強い、目に見えない力の奔流が自分のうちに流れ込んでくるかのような感覚をグーデリアンは味わっていた。
白い頬に唇を落とすと、グーデリアンはハイネルの眼鏡を取り去った。閉じられていた緑の瞳がグーデリアンを見つめ、心得たように再び閉じられたのと同じタイミングで唇が重ねられる。
マシンに腰かけているグーデリアンの膝に更に乗り上げるような形でハイネルが腰を下ろし、二人はしばし無言で唇を合わせていた。相手の存在を確かめるかのようにグーデリアンの手のひらがハイネルの首筋から背中、そして腰のあたりを何度も何度もなで過ぎていく。
あまり深くなってしまってはお互い後戻りがきかなくなってしまうので、焦れったいほど軽いキスを何度も繰り返した。それでも足りないと言わんばかりにグーデリアンの唇はハイネルの顔のあらゆる部位に落とされていく。髪の生え際や耳元、目尻、眉間、口の端・・・。
その間ハイネルは長いまつげを半ば伏せ、祈るようにグーデリアンの名を小さく呟いていた。
「グーデリアン、お前がやらねばならないことは極めてシンプルだ。分かってるな?」
「ああ。何も難しいことじゃない。マシンを走らせること。・・・・・それも飛びっきり速くな!」
不遜な笑顔と共に放たれた不遜なセリフに、ハイネルの瞳が柔らかく和み、それからすぐにレースの時に常に見せている凛とした光を浮かべた。
「では行って来い!もう何も考えるな。ただスロットルを踏み込むんだ。それもできるだけ深く!」
「ラジャー、監督!なあ、オレが最速ラップタイムを出したら前頼んでたアレやってくれる?・・・って、あたっ!」
「貴様、無駄グチ叩いてるヒマがあったらさっさとコースに出んか!」
「ちぇっ。この借りは今日家に帰ってからたっぷりしてやるから楽しみにしてろよ、ハイネル!」
それにも反論しようと口を開きかけたハイネルだが、既にグーデリアンがメットを身につけてレーサーとしての顔に戻っていたためにあえて口を閉ざした。何か言葉にする代わりにマシンに乗り込もうとしている彼のヘルメットに包まれた頬の辺りにこぶしを押し当ててやる。
代わりにハイネルにもたらされたのはいかにもこのヤンキーアメリカンらしい、ぐっと親指をつき立てた拳だった。
ちなみに、その頃かろうじて彼ら二人の姿が判別できる距離にあるピット奥では(マシンはピットレーン端に止めてあったのである)。
「おいおい、またあの二人時と場合を考えずに勝手にラブラブモード突入かよ。毎回毎回よく飽きねえよなぁ」
「ほっとけほっとけ。あの二人はああやって気合入れてんだから」
「あの二人はあれでいいかもしれないですけど、こっちはたまんないですよね。忙しくて彼女作るヒマもないって言うのにこうも毎日あてつけられたんじゃ」
「うう・・・ハイネル監督がなんでジャッキーなんかと!」
・・・などという会話が天気の話題と共に飛び交っているのだが、このチームではもはや日常化していて珍しくもない光景である。
たまにはハイネルの方が楽観的なのもいいかなーと思ってみました。ただそれだけです(笑)。
あー・・・全く分かりやすくて恥ずかしいのですが今回のお話のタイトルはアブリルから。私はたいていのことはめちゃくちゃ大雑把で気にしないのですが、気にするところは神経症じゃないかと思うくらいに気にするタイプなので、ホントにアブリルみたいな子に言ってもらいたいです。グーでもいい・・・いやむしろグーに言ってもらいたいです。『そんなに複雑に考えたって仕方ないじゃん!』みたいなコト。そしたら肩の力抜けそうですよね。
まあ私の場合、たいていのことには肩の力を抜きすぎてるからバランス取れていいのかもしれませんが(笑)。
えーとちなみにどういうことが気になるかって言うと、鉛筆の先はきっちきちに尖ってないと気が狂いそうになります。もっと他のことに神経使えよ!(笑)
ところで全然関係ないのですが、実は私、『スタッフに自分たちの関係をバレないよう気を遣うグーハー』って好きなんです。ちょっとスリリング(?)な感じがするからなんでしょうか。グーは気にしないんでしょうけど、ハイネルが気にするからつきあって気にしてあげてるみたいなのがすごく好きなのですが。ですが・・・。
そのわりに自分がチーム絡みのものを書くと『みんなにバレてるけどハイネルだけはバレてないと思ってる』的な雰囲気になっちゃうのはなぜなのでしょうか?ナゾだ。
それにしても私は昔っから知らないことをいかにも知ってるかのように書くオンナです(笑)。すみません、設定集を超テキトーに拾い読みして書いたので間違いだらけだと思うのですが見なかったフリしてやって下さい・・・。