旅立ちの春
町を白い世界に閉ざしていた雪が溶けて川に流れこみ、乾いた、けれど暖かい風が吹きこむようになると、このベルトラの町も春を迎える。
グーデリアンは一人、眼下に町を見下ろすことのできる丘に向かっていた。
教会のわきを通りぬけ、裏手にある庭を横切り、横目に森を目にしつつ歩けば丘はすぐそこだ。
若々しく力強い足取りで教会のわきを横切ろうとしたとき、彼の胸元に何かが飛び込んできた。
「おっと!!」
驚いて下を見れば、まだ10かそこらの少年である。どうやら母親に伴われて教会にやってきたようだった。
あわてて母親が駆けより、グーデリアンに謝罪した。グーデリアンも気持ちのよい笑顔を彼女に返し、少年の頭をクシャクシャとなでまわしながら大丈夫かあ?などと聞いてみせる。
少年はうん!と元気よく返事して破顔してみせた。
「すみません、新しい司祭様がいらっしゃると言うからご挨拶にうかがったというのに、この子ったら『教会なんかに行くのはイヤだ!』なんてダダこねはじめちゃって」
自分にも覚えのあることを口にされ、グーデリアンは苦笑した。それから膝を折り、少年と視線を合わせる。
まだ何も知らない無知な、だがそれゆえに無垢な瞳がじっとグーデリアンを見返していた。
「オレもさ、昔教会とか司祭とかいうのがダイッキライだったんだ。ムシズがはしるくらいさ」
思いもかけぬ力強い味方の出現に、少年は瞳を輝かせてブンブンと頭を大きく上下に振った。
真っ青な瞳のこのおにーさんのおかげで、いかにもつまらなさそうな教会とおさらばできるかもしれない、と期待しているのがその瞳の輝きからありありと見てとれる。
だが、笑顔も魅力的なこのおにーさんは、にっこり笑って言った。
「でも、もしかしたら、司祭様がすっげーキレイな人でさ、一目でまいっちゃうかもしれないぜ?運命の出会いってヤツ」
オレもそうだったし、と一人でウンウンうなづいているおにーさんに何か不穏なものを感じながらも、少年は一応納得したようだった。おとなしく母親について、いっしょに教会への角を曲がっていく。
グーデリアンはディーヴァ教の信者獲得のためにいいことをした、などと一人満足感にひたっていたが、そのわずか三分後には少年の淡い期待が打ち砕かれることを、もちろん知らないでいたのだった。
「グーデリアンさん!」
教会の庭を抜けようとすると、今度は柔らかな女の子の声に呼びとめられた。
約一名の司祭と女性の声にはだれよりも早く反応する彼である。すかさず声のした方を向くと、肩ほどまであった柔らかなブルネットを、短く切り整えた少女がいた。
「・・・行くの?」
少女は一言、そう聞いた。小首をかたむけたせいで前髪がふわりと舞い、その幼い仕草にグーデリアンは微笑を誘われる。
彼女は成人しているはずなのに、ほんとうに『少女』という表現がふさわしかった。
「うん。行くよ」
「そう」
彼女はしばらくほほえんでグーデリアンを見ていたが、やがて彼の大きな手を自分の小さな手で包みこむようにした。暖かさが彼の中にしみわたってくる。
「・・・元気で。私のことは心配しないでって伝えて」
「うん。リサちゃんも!」
手が離れ、わずかなぬくもりも逃げていく。
けれどそれを寂しいとは思わなかった。
一生懸命手をふってくるリサに手をふりかえし、グーデリアンは向かう。彼のことを待っている、ただ一人のもとへと。
丘から吹き上げる強い風に、その人の細い髪も、足元に絡みつく長い裾もなびいていた。
こんな光景を何度目にしただろう、とグーデリアンは思う。
こうして自分が丘についた時、いつも最初に目に入るのは、あの人の司祭服に包まれた、ピンと伸びた背中だった。
そうして。
「ハイネル!」
その人は振りかえる。いつでも。自分の声に反応して。
風に、ふわりと裾がひるがえった。その姿はいつも目にしていたものとほとんど同じだが、一箇所だけ以前とはちがう場所がある。
・・・ディーヴァの司祭であることを示す紋章。それだけが彼の司祭服から姿を消していた。
「遅かったな、グーデリアン」
「そう言うなよ。オレなんて、今日というこの日まで、10年以上待たされたんだぜ」
ほんとうに。初めてあったあの日から、今日まで。
目の前で微笑む司祭は変わらないというのに、時だけは過ぎていった。あるときは優しく、あるときは残酷に。
「これから、10年どころか20年も30年も一緒にいられるじゃないか」
風の中でハイネルは言い、司祭服からのぞいた白い手がグーデリアンにさしのべられた。
「・・・うん」
その手に自分の手を重ね、グーデリアンは逆に力をこめて自分の方に彼を引き寄せる。バランスを崩して倒れこんできた体を、自分の腕の中にしっかりと閉じ込めた。
教会から離れ、けれど信仰を捨てなかった彼は、いまグーデリアンに抱きしめられて静かに息をひそめている。
そうして、もらさずグーデリアンの鼓動を拾い集めるかのように、彼の胸に手をあててそっと瞳を閉じた。
グーデリアンは言葉をかける。心から、祈りにも似た真摯な気持ちで。
「・・・一生そばにいるよ・・・」
心に染みわたる言葉に、司祭は顔をあげた。
出会ったときには肩よりも下にあった頭が、今はわずかに高い位置にある。
青い瞳がとじられ、優しく口づけられるのを、彼も瞳を閉じて待った。
司祭の長い裾が風に舞い、白い花弁が散っている。
春のにおいが辺りに充満していた。すべての再生の季節だった。
すべてのものに、春は等しく訪れていた。
このお話を作ったのはいつだったかのう・・・かれこれ2年はたつじゃろのう。
・・・って、私はこんなにバカ長い話を作り倒してどーするつもりだったのでしょーか!?本にするわけでもなし!!バカじゃないだろーか、2年前の私!(今でもバカですが)
関係ないですが、実は「Priest 司祭」という話はちゃんとあります。映画にもなったそうですが、小説しか読んだことありません。これ、なんと主人公は若くて茶髪で美形の司祭で、しかもホモなんです。マジで!さらにお相手は金髪なんです!(でもグーハーとは『役割』が逆っぽかった・・・ハッキリ書いてなかったけど)ちなみに、ちゃんと『リサ』という子も重要な役で出てくるんです!でも、小説の中のリサちゃんは実の父親に性交渉を強要されている子だったので、かわいそうすぎて小説通りの設定にはできませんでした。もともと、ぜんぜん小説とスジ違いますけど。
とりあえず、『司祭が若くて美形、しかもホモ』『相手は金髪』『リサという女の子が出てくる』『”赦し”がテーマの一つになっている』というとこだけパクりました!
しかし、ハイネルの司祭っていいですよね。禁欲的なとこが色っぽくて!自分で書いててもつまらないですけど。
もし読んでくださった方がいらしたらありがとうを言いたいと思います。おつかれさまでした!