夜が降り落ちる前に
『近いうちにごく親しい身内だけを集めてパーティーを開くから来てくれないか』
1ヶ月ほど前に、ハイネルはそんな案内をグーデリアンから受けた。
聞けば、グーデリアンの古い友人たちが数年ぶりに集まることになったのだという。もともと華やかな場は苦手な方だし、何よりもそんな大事な集まりに、グーデリアンとは同じレーサーというだけでとりたてて親しくもない自分がのこのこと顔を出してしまうのは悪いような気がして、そう言われた直後にハイネルはその申し出を断った。
すぐに断ったからと言って、ハイネルは別にグーデリアンのことを憎んでいたわけではない。嫌っていたわけでもない。
出会った当初は顔を合わせればケンカばかりという状態で、ハイネルにとってジャッキー・グーデリアンという人間はとにかく気に障る存在だった。やることなすことがカンにさわり、レース観も人生観も何もかもが違うような相手だったから、反発せずにいられなかったのだ。
だが、時間が流れていくにつれてハイネルにとってグーデリアンという人間の価値は変わっていった。
鏡に映しとったように正反対な姿、思考、行動。いつしかその違いがイヤなものではなくなっていた。それどころか、だからこそ一緒にいれば高め合い、刺激を与えあうことができるのではないかと思えるようにさえなっている。
そう。
ハイネルにとって、いつしかジャッキー・グーデリアンという男は特別な人間になっていた。
・・・得がたい友人、という意味でだったけれども。
・・・そう。
ハイネルにとっても、ジャッキー・グーデリアンという男は確かに特別な存在である。
でも、その意味合いは決して恋愛的な要素を含んだものではなかったはずだった。
・・・少なくとも、ハイネルはそう信じていた。
『ハイネルに、このパーティーに参加して欲しいんだ。そしてその時、オレにハイネルをエスコートさせてくれないか』
グーデリアンにそう言われた時のハイネルの驚きを言葉にするのは恐らく不可能だろう。
グーデリアンがそんなことを言い出したのも驚くべきことだったが、それよりさらにハイネルを驚かせたのは、その時のグーデリアンの真剣な表情だった。いつも底抜けに澄んでいてキレイな彼の青い瞳は、ひそかにハイネルが憧れているうちの一つだったけれど、あの時の彼の瞳は、今までみたどんな時よりも強く切実な光をたたえていた。
パーティーでのエスコート。普通そんなことをするのは相手が恋人の場合だけである。
それでも、まだこの時のハイネルは冷静だった。驚きはしたものの、すぐさま何かの事情があってグーデリアンがそんなことを言い出したのだろうと判断したのだ。だが、ハイネルが何か言いつくろう前に彼はこう続けた。
『このパーティーは、オレがガキの頃から知り合いの、本当に大切な友達同士が集まって開かれるんだ。で、参加者は必ず誰かをエスコートすることになってる。もちろん、恋人や結婚相手を。・・・オレはそれに、ハイネルをエスコートして出たいんだ』
そう言われてハイネルが平静を保てるわけがなかった。驚き、息を呑みこんで・・・そして、気がつけば勝手にのどから疑問の言葉が飛び出していた。言い訳めいた言葉が。
「なんでそんな大事な集まりに私なんかを・・・。今恋人はいないのか?たまたま今は恋人がいないから、代わりに私に声をかけたんだろう?それにしたって、外聞的に言っても女性を伴った方がいいんじゃないのだろうか・・・」
あくまでも話を穏便に済まそうとするハイネルを、グーデリアンは怒ったりはしなかった。なじりもしなかった。
彼はただ優しい、そしてどこかさびしそうにも見える笑みを口元に刷いてこう言ったのだった。
「ハイネル。このパーティーには、オレにとって本当に大切な友人たちばかりが集まるんだ。だからこそ、オレにとって本当に大切な人間をエスコートしたい。他の誰でもない、オレにとってたった一人の大切な人を。・・・ハイネルをエスコートしたいんだ」
あの時のグーデリアンの瞳。少しうつむき加減だったせいでよく見えた、意外に長いまつげ。柔らかそうな、独特の色合いをした褪せた金髪。笑顔を見せていると少年のようなのに、翳りを帯びると驚くほど大人びて見えるその表情。
グーデリアンはあの時、それまでにハイネルが知らなかった彼自身をさらしていた。静かな、けれども情熱的な思いを胸の内に秘めている、本当の恋を知った大人の男。
グーデリアンに言われた内容よりもむしろ、そんな彼の姿を目の当たりにしたことでハイネルはうろたえた。
今まで子供のように屈託のないやりとりを交わしてきた気安い友人が突然一足飛びに大人になってしまったようで、どんな態度をとっていいのか分からなかった。
それくらいその時のグーデリアンの姿は、ハイネルにとって意外なものだったのだ。
フランツ・ハイネルが知らなかったジャッキー・グーデリアンの姿。
よく見知っていたつもりでいたジャッキー・グーデリアンという男が、急に見知らぬ男に見えてくる。
ハイネルはただためらい、その二つとない深く美しい色をしたブルーの瞳を見つめていたのだった。
パーティーはニューヨークの片隅にある落ち着いた雰囲気のバーを借りきって開かれた。ざっと見ても2,30人はいるだろうか。
世界的に有名なジャッキー・グーデリアンとフランツ・ハイネルという人間がそろっているというのに、ぶしつけな視線も言葉も皆無だった。グーデリアンも言っていた通り、彼にとって本当に大切な友人たちばかりが集まっているのだということがその一点だけでもよくわかる。
気だるく甘いジャズが煙草の煙のように辺りをたゆたい、新たに浮かんでは消えていく。まだ夕刻前だと言うのに、不思議と落ち着いた居心地のいい空間ができあがっていた。
「どうしたの?お兄ちゃん」
そんな場に呼ばれていると言うのに、先ほどからずっと心あらずといった兄の姿を心配したのか、リサが不思議そうにハイネルの顔をのぞきこんで聞いた。
彼女は淡いピンクのドレスを身につけている。彼女の柔らかな雰囲気をうまくひきたたせる、かわいらしさと大人っぽさがうまい具合に調和したドレスだった。
ハイネルの方はごく普通の青みがかった黒いタキシードを身につけている。
だが、何となくグーデリアンの私生活の一端にレーサーとしてのフランツ・ハイネルとしての格好で踏み入るのは気がひけて、今日はメガネはしているものの、髪は自然に下ろされていた。そのせいでいつもよりもずっと彼は柔らかな印象を人に与えていた。
「いや・・・なんでもないんだ、リサ」
妹にそういいつつも、ハイネルの視線はグーデリアンを追い求めている。彼は相変わらず一人だった。
今日の彼は、会場に足を踏み入れた時からずっと一人だったのである。
グーデリアンの古い友人はもちろん男性だけではない。美しい何人もの女性が、自分のパートナーを放り出してまでグーデリアンの元に入れ代わり立ち代わり訪れた。
中にはかなり強引に彼の腕を取り、ダンスに引き込もうとしている女性も見受けられたが、グーデリアンは優しい笑みを見せながらも、その申し出のどれ一つとして応じなかった。
彼は、・・・穏やかに振るまいつつもずっと一人でいる彼は、あの静かな表情の下で一体何を思っているのだろうか?
ハイネルは結局、グーデリアンの申し出を断ったのだった。グーデリアンの大切な思い出を共有している人たちとの久しぶりの再会の場に、自分がのこのこと顔を出してしまうのは悪いからと、あくまでも波風が立たないような、しかし役には立たない口実をあげて。
それでもグーデリアンに押され、いつの間にかパーティーに参加することになっていた。自分の同伴者としてではなくででもいいから参加して欲しいと頼みこまれたのだ。いくら関係のない自分がそんな場に顔を出すわけにはいかないとハイネルが繰り返してもムダだった。
グーデリアンの意思は固く、ただでさえいつもとは違う様子の彼に押されているかっこうだったハイネルにそれ以上抗うすべはなかった。
ハイネルは彼の望み通りとりあえず参加だけはすることにしたのだが、グーデリアンの口ぶりではみんな同行者を連れてくるようだったので、とりあえずリサに声をかけてつきあってもらうことにしたのである。
自分から彼の申し出を断ったクセに、ハイネルは自分に声をかけ、そして断られたグーデリアンが一体誰を伴ってくるのだろうかとさまざまな想像をして胸をさざめかせていた。
けれど、彼は一人で現れた。
他の人間は必ず誰かパートナーを連れているというのに、彼だけは一人だった。
談笑していても、ワインを口にしていても、ジャズの旋律にのせて軽く歌を口の端にのせていても、どんな時も一人だった。
今日のグーデリアンは、ちょうどハイネルが身につけているような、シンプルな型のタキシードを軽く着崩して身にまとっていた。ハイネルのものよりは青みが濃いそのタキシードは、ムリなく鍛え上げられた彼の肉体をさらに輝かせている。
手ぐしで自然な風に整えられた金髪や、男らしい喉元のライン。ムダのない身のこなし。彼は同じ男性ならば憧れずにはいられない要素に満ちている。女性ならばなおさらだった。
気安い昔からの友人たちが相手だからだろう。リラックスしている様子のグーデリアンは、やはりどんな人間をも惹きつける大気を身にまとっていた。現に、ハイネルはずっと彼から目をそらせないでいる。まるで彼以外の存在をすべて忘れ去ってしまったかのように、グーデリアンに視線を奪われている。
「お兄ちゃん・・・何だか本当にヘンよ。どうしたの?」
リサの声さえも意識の表層をすべり落ちていってしまいそうで、慌ててハイネルは軽く頭を振って意識を戻した。
「な、なんでもないんだ。本当に。さきほど口にしたワインに少し酔っているのかもしれない・・・」
兄の様子に、リサはちょっと考えるような素振りを見せた。それからまた口を開く。
「お兄ちゃん、グーデリアンさんのことが気になるのね?確かに、せっかくグーデリアンさんが私たちをここに招待してくださったのに、肝心のグーデリアンさんがずっと一人でいるんですもの。気にならないわけがないでしょうけど・・・」
グーデリアンとハイネルとの間にあったやりとりを何も知らないリサが、ずっと一人でいるグーデリアンを気遣うような視線を投げている。
「グーデリアンさん、本当にどうしたのかしら。恋人を誘って振られたなんてこと、彼に限ってあるわけないわよね。急な用事で来られなくなったとか・・・」
当然、リサ以外の全ての人間も同じように考えているようだった。グーデリアンの元を訪れては似たようなことを口にする。
そのうちの一人が彼女と同じようなことを口にした後、さらにこう続けた。
『一人じゃ、せっかくの音楽に合わせてダンスも踊れないじゃないか』と。
恐らく彼は、そう言うことでグーデリアンをうながすつもりだったのだろう。この場にいる女性は明らかに皆グーデリアンを意識し、彼と踊りたがっていた。だが、グーデリアンは頑なに彼女たちの誘いにのろうとしなかったので、グーデリアンが彼女たちのパートナーに遠慮しているのだろうと考えたに違いない。
・・・すると、グーデリアンはにっこりと笑った。
『今日集まってるのはオレにとって本当に大切な友達ばかりだから、オレも本当に大切な人を連れてきて、一緒に踊りたかったんだ。でも、その人はそれはできないって言った。その人の代わりは誰にもできない。だからオレは、誰とも踊ることができないんだ』
そういい、音楽に合わせ、身を寄せ合ってゆっくりと踊っている人たちの場に彼は身を滑り込ませた。
そのまま周りにいる人々と同じようにステップを踏み始める。
たった一人で、まるでその腕に誰かを抱いているかのような仕草で。
ハイネルも、リサも、そしてその場にいた全員がそんな彼の動きに目を奪われた。
グーデリアンの行動が滑稽だったからではない。あまりにもその動きが印象的で、目をひかれずにはいられなかったのである。
彼はステップを踏みつづけていた。たった一人で。
その場にいた全ての人間の視線を集めているというのに少しも気付いていないように。ただその場にはいない幻の相手を腕に抱いて踊り続ける。
「あの人は・・・、グーデリアンさんは・・・」
いつの間にか隣にたつ兄の姿さえ忘れたように、リサはグーデリアンに見入りながらポツリともらした。
「・・・・心から愛しいと思う、たった一人の相手を見つけたのね・・・」
その言葉はグーデリアンに向けられたものだったというのに、ハイネルの頬がカッと紅潮した。意識すまいと思えば思うほど、さらに熱が上がっていってしまうようだ。
ハイネルは何だかいたたまれなくなって身を翻し、リサには『ワインの酔いを醒ましてくるから』か何かの適当な理由を繕ってその場を離れた。
分厚いカーテンに遮られ、室内からは目にすることが叶わない広いテラスに出る。
テラスは既に夕闇に包まれていた。大きな夕日が地平線に近づきつつあるのが見てとれる。
まだ昼の名残の熱さを感じさせる濃いオレンジ色の夕日が、じわじわと西の空の一端を赤く染め上げて彩っていく。
室内からはジャズがかすかに漏れ聞こえてきており、まるでその光景を盛り立てようとしているかのようだった。
桟に手をかけ、ハイネルは大きく吐息を零した。赤い夕日に照らし出されているからというわけでもないのに、頬がまだ熱い。
リサの言葉が、そしてグーデリアンの姿が彼の意識を掻き乱してしまう。
もう帰ろうと決意して踵を返したハイネルは、そこにいた人物を目にして小さな声をあげた。
「・・・っ・・・グーデリアン」
「リサちゃんにも、そして他のみんなにも、テラスには来ないように言ってきた。ハイネルが具合悪そうだったから介抱してくるって」
「どうしてあんなことをしたんだ?」
気がつけば、ハイネルは単刀直入にそう切り出していた。グーデリアンはほんのわずか、一瞬だけ虚をつかれたような表情を見せたが、すぐに元の穏やかな表情に戻った。
今日のグーデリアンは、本当に優しい顔をしている。愛しくてたまらない恋人がすぐそばに寄り添っているかのような、そんな表情だった。
「一人でここに来て、一人で踊ったりしたこと?」
思った以上にあっさりとグーデリアンがそのことについて触れてきたので、かえってハイネルの方がうろたえた。グーデリアンにしてみれば触れられたくない話題だろうと思っていたのだ。
だが、グーデリアンは少しも頓着していないようだった。穏やかな青い目をハイネルに向け、彼はゆっくりと口を開いた。
「・・・ずっと前から考えてたんだ。ハイネルのことが好きだって気付いた頃から。いつか、・・・いつかオレの大切な仲間に、ハイネルを紹介できたらいいって。同じ夢を追っているレーサー仲間としてだけじゃない、大切な人間として」
「グーデリアン」
ハイネルは少し室内の様子を気にするようにそちらに視線を流した後、とがめる視線をグーデリアンに送った。
だが、彼は少しも気にした様子がない。
「でもグーデリアン、そんなことをしたら皆ビックリするだろう?お前の気持ちはうれしいが・・・その、私なんかのことを好きだと言ってくれたのはありがたいんだが、でもやはり、今日くらいは女性を伴った方が・・・」
「それでもやっぱりオレはハイネルがいいんだ」
「グーデリアン・・・」
「だって、オレをハッピーにできるのはハイネルだけなんだ。他の人間じゃダメなんだよ」
・・・ジャッキー・グーデリアンという男は、こんなに風に優しく、そして切ない笑い方をすることができる人間だっただろうか?
甘い調べと共に、これまで知らなかったグーデリアンという男の存在がハイネルの中に染み渡っていく。
とまどうハイネルを前に、彼はさらに言葉を続けた。
「オレが今日幸せになれるかどうかは、ハイネルがオレを抱きしめてくれるかどうかだけで決まるんだ」
「・・・私は・・・」
ハイネルは言葉が詰まったように、緑の瞳を揺らした。そんな彼の表情を見つめていたグーデリアンが、少し困ったような笑みを浮かべて肩をすくめる。そんな仕草さえ見覚えがなくて、ハイネルは頭の芯から酔いそうな酩酊感を味わっていた。
こんなジャッキー・グーデリアンは知らない。
こんな、たった一人の人間を深く、静かに愛せるようなジャッキー・グーデリアンは知らない・・・。
「な、オレと踊ってくれる?一曲だけでいいから」
タキシードに包まれたグーデリアンの腕がハイネルに伸ばされ、ゆっくりと引き寄せていく。ハイネルに抗うすべはなかった。
すべるように曲が始まり、彼らも自然に動き出す。かすかな音しか聞こえてはこないが、静かなこの空間にはそれで十分だった。
ピタリと体を添わせて揺らしながら、彼らは音楽の波間を漂う。
ゆっくりと傾いていく日。その日が、彼らに斜めからオレンジ色の光を投げかけている。ステップを踏むたびにグーデリアンの灼けた顔にも、ハイネルの白い顔にも淡い陰影が浮かんだ。
木でできた床に長い影が二重に落ち、彼らの動きとともにゆらゆらと揺れる。
「オレはいつか、お前の恋人になれるかな」
気負いのない、ごく自然な口調でグーデリアンは言った。
ゆるやかなリズム。柔らかなステップ。静かな時間。・・・二人だけの、魔法の空間。
今この場でなら、今だけなら、どんな言葉も素直に口にできるような気がする。
「グーデリアン。・・・お前がそんな、お前みたいな人間が、私のような男に固執しなくたっていいじゃないか。・・・その、」
「なに?ハイネル」
少し口元に笑みを浮かべてうながせば、ハイネルは視線をそらしてしまった。頬が少しだけ赤く染まっている。
「・・・悔しいが、私の目から見てもお前は魅力的な男だ。女性だけじゃなくて、みんなに好かれているし、愛されてる。そんなお前みたいな誰からも求められている人間が、よりによって私みたいなカタブツを選ばなくても・・・」
照れ屋のあまり素直になれないハイネルだが、この時口にしたのは本音だった。それだけその言葉は強い思いとなって彼の胸の内に沈んでいたのである。
いつもいつも。
ジャッキー・グーデリアンは誰からも愛されている。こんな男は世界中に二人といないのではないかと思われるほど、まるで太陽のように皆を惹きつけ、みんなに暖かい笑顔を降り注いでいる。
そんな男だからこそ、彼を一人占めするのは不可能だと思っていた。
・・・不可能なんだと思い込むことで、知らない間に自分の気持ちをセーブしていた。
ジャッキー・グーデリアンを一人占めするのは不可能なのだから、そんなことを望まないように、と。
空に輝く太陽を自分だけのものにするのが不可能なように、ジャッキー・グーデリアンを自分だけのものにするのも不可能だ。
だから。・・・だから、・・・彼を独占したいと願うことは罪だ。
「オレを抱きしめてくれないか、ハイネル」
ハイネルが美しい緑の瞳をわずかにあげてグーデリアンの瞳を見つめる。グーデリアンの青い瞳は、静かで揺るぎない強さに満ちていた。
その瞳に、ハイネルは知ることになる。彼が求めているのはたった一人、自分自身だけなのだということを。
彼の心はもうずっと前から決まっていたのだ。ずっと、ずっと前から。
「・・・わかるよな?」
・・・彼が、ジャッキー・グーデリアンが求めているのが、フランツ・ハイネルという人間なのだということを。
グーデリアンは優しい笑みを浮かべ、優しい声でそう言った。静かなのに、圧倒的な説得力を持つ言葉だった。
ハイネルはためらいがちにほっそりとした腕をグーデリアンの背中に回した。そうすると自然に体と体が一層近づき合う。暖かさはもちろん、鼓動さえ分け合うことができるような距離だった。
「グーデリアン・・・お前は本当にわかっているのか?」
切なげに眉を寄せ、切なげにグーデリアンを見上げ、切なげな口調でハイネルは聞いた。
「本当に。・・・お前は、自分という人間のことをわかっているのか?自分がどんなにたくさんの人から愛され、求められているのか、自分で気付いているのか?お前はそれに気付いていないから、だから私なんかを・・・」
「太陽の光は地球にだけ降り注いでいればいいだろ、ハイネル」
唐突にそう言い、グーデリアンは鼻先をハイネルの柔らかな栗色の髪に埋めた。清潔な甘い香りが広がる。
ほっそりとしたハイネルの体に回した腕で、優しく彼を閉じ込める。
「オレも、ハイネルにとって意味ある存在になれればそれでいいんだ。例え地球上全部の人間に愛されても、オレは彼らを、彼女らを愛し返すことはできない。だってオレは、ハイネルだけが好きなんだ」
「グーデリアン・・・」
「髪下ろしてるとこ、初めて見たよ。すっごくかわいいよな」
ハイネルは怒ることも忘れ、目元に朱をはいてうつむいてしまった。
そんな彼の反応に喉元だけで笑い、彼は続ける。
「今すぐオレの恋人になってくれなんて言わない。今すぐじゃなくていいんだ。オレは焦ってないよ、ハイネル。この恋はずっと続くから」
それから、グーデリアンは一度だけハイネルの髪から顔を離した。彼の視線の先には、沈みゆく太陽がある。
ゆっくりと、けれど確実に夜が訪れようとしていた。
夜明けと日没は人をなぜか物悲しい、切ない気持ちにさせる。その気持ちそのままのように、グーデリアンはまぶしげに青い目を細め、切ない表情で去り行く日を見つめた。
「オレは待てるよ。ただハイネル、この太陽が沈みきって、オレたちの上に夜が降り落ちる前に、ほんの少しだけ・・・ほんの少しでいいから、オレたちの関係を変えたいんだ。・・・今すぐお前にオレのことを好きになって欲しいわけじゃない。ただ、・・・ただ、オレとお前の間に恋が生まれる可能性があるんだっていうことを、知ってもらいたいだけなんだ」
そのセリフが終わると同時に、グーデリアンの胸に軽い衝撃が走った。
グーデリアンは驚いて自分の胸に収まった相手を見下ろしている。ハイネルが彼に抱きつく形で、顔を胸に押し付けたからだった。
「・・・みっともなく赤くなっている、今の顔を見られたくないんだ」
本当に真っ赤になっているらしいハイネルに、グーデリアンはかすかな笑い声をたて、力を込めて彼を抱きしめ返した。
「大丈夫だよ、ハイネル。心配しなくても、夕日に染まっててわからないから」
「・・・でも」
「そんなに心配?オレしかいないんだから、オレにさえ見えなければいいんだろ?じゃ、オレに見えないようにしよう」
そう言うと、グーデリアンはハイネルの顔をあげさせ、唇を唇でふさいだ。
ハイネルの目がみるみるうちに見開かれる。だが、すぐにまたまぶたが落とされた。
甘い、甘い口付け。
二人のこれからを変えてしまうような口付け。
日が世界を染め上げ、やがて闇に包んであらゆるものを隠し去ってしまうように。
彼らのこれからもまた、あらゆる未知に包まれているのだった。
お疲れさまでした・・・というより、いきなりへんな話を書いてしまってすみません。いつもよりもさらにひどいニセモノグーが・・・(涙)。
突然!突然へんてこ話が書きたくなったのでした(砂大キライ期間のせいもありますけど・・・)。またサヴェージ・ガーデンの『Affirmation』の中の一曲を聞きながら書いています。もうこのアルバムお話を書くのに大活躍(笑)。えーと・・・今思いつくだけでもこれをいれると五本くらい書いてることに・・・。
さ・・・さらに・・・この話・・・・し・・・シンプソンズからきてるって言ったらやっぱりグーハー界追放でしょうか・・・(笑)。でも私、とりあえずグーハーの本を買うのと読むのさえ禁止されなければ追放されても全然平気です!(笑)読むのと買うのだけは許していただけるとありがたいのですが・・・。
万一このヘンテコ話を読んでくださった方がいらしたらお礼をいいたいです。ありがとうございました!すみません。なんか今回のグーハー、特にヘンな関係で・・・。しょせん元ネタ(?)シンプソンズですから!(笑)