Gargoyle 10
ハイネルは尻だけを高く掲げられ、獣のような体制で後ろから貫かれている。穿たれるたびに衝撃で眦から涙が零れ落ち、頬を伝ってシーツに吸われていった。
「あっ・・・・あっ、あ、・・・」
突き上げに合わせ、彼の唇からはかすれた声が上がっている。苦しげに寄せられた眉とあいまってその声は苦しげであったが、同時に甘えるような響きもあった。
深い場所まで突き入れられた男の雄が乱暴に引き抜かれるたび、内部の襞の一点が堅いものでこすられる。その瞬間すさまじい快感が背筋を走りぬけ、無意識のうちに次の刺激を待ち焦がれるようになる。
「んっ、・・・・・あ、あっ・・・や、っは、あ、」
上半身を預けたベッドが、彼らの動きに合わせてギシギシときしんだ。何の準備も施さず、無理に突き入れられたせいで痛みは激しかったが、その痛みさえ快感に変える術をすでに彼は知っている。
部屋に残っていた酒の残り香と二人の汗や体液が交じり合い、絡みあっていた。滞留する甘く濃密な大気はねっとりと体に絡みつき、男はそれを振りきるかのように腰を打ち込み、熱い楔で彼を穿つ。男もまた彼の白い体でこの上ない悦楽を得ていることは、猛って荒々しく彼の内部を蹂躙している欲望と、短く繰り返される呼気が物語っていた。
「くっ、ん、」
一際深い皺が刻まれ、甘い苦悶の表情を浮かべたハイネルが、縋るよすがを求めてシーツに手を伸ばした。白く長い指が官能的な綾をえがいてシーツを掻き乱す。同じベッドの端には未だ正体を失って眠りの縁を漂う男が横たわっている。そのためハイネルの指に乱されたシーツはわずかに引き寄せられただけで、吐き出せない彼の欲望のようにその指先でわだかまっていた。
「だめだ・・・・こんな、グー・・・・」
与えられる快感に狂おしいほどの熱をはらませながら、潤んだ瞳にはそれでも一筋の理性の光が宿っている。男の征服欲を煽る目だ。
欲情に呑まれながらも理性の縁にすがろうとしている緑の瞳。首を巡らせ、背後から自分を犯す相手を見上げてくるそのグリーンがどれほど淫猥に色めいているか、彼自身が知ることはないだろう。
「ハイネル・・・・」
グーデリアンの激しい突き上げが止んだ。だが、変わらず男の雄は彼の内部を貫き、圧倒的な熱と質量でその存在を主張している。無視しようにも出来るはずがない、彼の体の奥深くに入り込んだ熱く激しく、狂おしい感覚を生み出す楔。
それでも何とか意識を拾い集めようと彼が身動きをした瞬間、男が手を伸ばしてきた。
「あっ、ああっ!」
男の指がするりと彼の腹の下を辿り、彼が唯一まとっていたシャツをかきわけるようにして入り込むと、熱く育ちきって濡れそぼっている欲望をこすりあげた。途端に体がしなり、首を伸ばしてハイネルが甘い声をあげる。シャープなラインを描く顎の先から汗が滴り落ち、白い肌に一層映える赤い唇がわななきを繰り返した。
男はわざと濡れた音をたてながら指を滑らせる。その音が何であるかなど考えたくもなかった。
ぬるりとした感触。にじんだ液体を塗り込めるかのような動きで、グーデリアンは親指の腹で丹念にぬるつく先端に刺激を与え続けていたが、不意に軽く爪をたてた。
「っっ!!」
声にならない声をあげ、ハイネルの白い体がうねる。助けを求めるかのように伸ばされた左手の指先が横たわった男の足に触れた。途端、散り散りになっていた理性がわずかに働きを取り戻し、ハイネルに自分がどこにいて何をしているのかを思い起こさせた。
「グーデリアン、やめ・・・・彼が・・・・・ああっ!」
背後から彼を犯していた男が突然上半身を倒してきたため、内部に入りこんでいた男の楔の角度が変わり、彼の唇から高い声が上がった。その耳元に優しい毒を含んだ声が囁いてくる。
「そいつはいい夢を見てるんだろう?」
「あっ、・・・・・グーデリアン、やめ、・・・やめてくれ、彼が・・・・本当に・・・・!」
ぎし、と鈍い音がした。立ったまま白い体を後ろから犯していたグーデリアンが、左足の膝をベッドの上に乗せ上げたのだった。それだけの動作でも結合がより深まり、ハイネルが鋭く息を吸いこんだ。
ハイネルの雄芯に絡みつき、限界まで育てあげていた男の指が不意に離れていった。その支えが無くとも彼の欲望は堅くたち上がり、放出の時を待ちかねて震えている。
離れた指が尻にかけられた感触。つながっている部分を押し広げ、男をいっぱいに含まされている周囲を軽くなぞり、力が込められ、そして・・・・。
「くぅっ!!」
ずく、と体ごと押されるかのような勢いで男の分身をねじ込まれ、かろうじて彼の上半身を支えていた両手は完全に力を失った。
今や浅い眠りの海を漂っている男のすぐ脇で、彼の紅潮した頬は直接シーツに押し付けられ、グーデリアンが腰を打ちつける動きに合わせてやるせなく揺さぶられている。
肉がぶつかり合う生々しい音と、半ばシーツに吸い込まれて言葉にならない掠れた喘ぎ声。悲鳴のような音をたててきしむベッド。
腰をひこうとしても容赦のない力で引き戻され、角度を変えて突き上げられる。熱く堅く濡れたもので弱い場所を狙ったように執拗にこすられ、大粒の涙が次々と頬を伝っていった。
ぎしぎしとベッドは悲鳴をあげ続ける。
「はっ、あっ、ああっ、や、やめ・・・・グー・・・・っ!」
「ハイネル・・・・」
名を呼ばれ、熱く湿った息が背中にかかる。ただそれだけで背中が震え、くわえこんだ男を締め上げた。
とろりとした液が先端からにじみ、終わりの時がそう遠くはないことを告げている。
荒い呼吸が自分のものなのか背後にいる男のものなのか、もうそれさえも分からない。
助けを求めるかのようにシーツを握り締める白い指が、シーツの代わりに何度か横たわっている男の足を掻いた。男は眠っているはずだったが、偶然ハイネルの指が足の中央に触れると、既に緩やかにたち上がって雄の機能を見せ始めていた。
噛み切られた肩口から、微かに甘い血の匂い。
フランツ・ハイネルの欲望を引き出す背徳の匂い。
男が覚醒の気配を見せている。快楽に飛びかけていたハイネルの理性が戻り、意識がわずかに冷まされていく。だが、昇りつめて放出の時を待つだけとなった肉体は、彼の意志を簡単に裏切って浅ましい情欲をむさぼっている。
微かに、だが彼には明確に知覚出来る血の香りがさらに彼の官能を高めていた。
「あっ!・・・・っっ!!」
何度かの激しい注挿の後、体の奥で熱い精が放たれたのが分かった。その衝撃で自らも放ちながら、声にならない声をあげてびくびくと白い体を震わせた。
男が最後の一滴までを注ぎ込むかのようにゆっくりと欲を押し込んでくる刺激さえ残らず拾い集めて快楽に変えていく。
「あ、・・・・・・・は、・・・・・・・・・・・あぁ・・・・」
一度目の欲望を吐き出し終え、シーツに押し付けていた額を上げると、潤んだ緑の瞳が視界に捕らえたのは眠っていたはずの男の顔だった。
男はいつの間にか目を開け、首だけを横向けてハイネルを見ていた。唇がわずかに開かれてわなないたが音にはならない。男の欲望は今やはっきりと天を仰ぎスラックスを押し上げている。
「あ・・・・・・・」
精を放ったことで熱が冷め、常の判断力を取り戻しつつあるハイネルの内部から自身を引き抜きながら、グーデリアンは優しく腕を伸ばし、ほとんどベッドに乗り上げる形になっていた彼の体を引き上げた。激しい情交に力が入らなくなっている体に背後から腕を回し、その体を支える。
ベッドに横たわり、顔だけをこちらに向けている男からは、ハイネルの後ろにいるグーデリアンの姿はほとんど目に入らないだろう。もとより、まだ完全に覚醒していない男の視線は、ベッドに唯一残されたままのハイネルの左足のその奥、シャツの裾に隠されてはっきりとは見えない雄の部分に注がれている。
それからその目はゆっくりと上がっていき、視姦するかのようなねっとりとした視線を薄いシャツに覆われた彼の体や首筋、涙の残る頬や噛み締められて赤く染まった唇、鮮烈な緑の瞳にあてられていった。
肩の痛みと快楽の残り火、酒の酔いで道徳や理性といった殻を取り払われた男は、ただ肉の本能に従っているだけだった。
「大丈夫だよ、ハイネル」
恐怖にも似た動揺に動きを奪われていた彼の耳元に、グーデリアンが優しく囁いた。
「そいつはいい夢を見ているんだろう?・・・・・これも夢の続きだ。見せてやればいい」
「・・・・・っ」
背後から回された手が、シャツの下からハイネルの欲望を握り込んだ。ぴくりと背中を揺らして反応した彼に構わず、グーデリアンは続ける。
「見せてやれよ」
夢の中でさえ・・・・・・、
体の内部に指を突き入れられ、敏感に背中を震わせた彼の意識の表層を言葉が滑り落ちていく。
お前を抱けない、甘くて残酷な夢を。
「くっ、・・・・」
首筋をねっとりと舐めあげられ、苦しげな声が洩れた。そらされた喉のラインさえ清冽な艶を放ち、ベッドに釘づけになっている男の天を衝いた欲が更に堅くなった。
肩の痛みか、あまりに気を放ったせいか、あるいは部屋に篭る瘴気のような熱気にあてられたのかもしれない。ベッドに横たわる男はせいぜい首と両手が自由になるのみで、体を動かすことは叶わぬようだ。
灰色がかった瞳は過ぎた酒精に濁っていたが、目の前で白い肢体を快楽にしならせる青年を見る目には滴るような欲情が滾っている。 男の目には、青年の背後から彼を翻弄する別の男の姿は映っていなかった。
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