「それにしても私、心配してたんだよ」
ハイネルの先にたって歩いていたリサが、体をひねって後ろをいく兄を見ながら口を開いた。
いきなり何について言われたのかが分からなかったハイネルが首をかしげると、少し子供っぽくも見えるその仕草に柔らかな笑みを誘われたリサは教師のように澄ました声で兄に言う。
「お兄ちゃん、グーデリアンさんと一緒に住んで大丈夫なのかなって。すぐにケンカしてグーデリアンさんを追い出すことにならなきゃいいけど、っていつも心配してたんだから。グーデリアンさんはともかく、お兄ちゃんって子供だから」
「リサ!一体何を言うんだ。私が子供だって!?子供なのはあいつの方じゃないか!いつもいつも私を怒らせるようなことばかりしおって!」
「ほらほら、そうやってすぐにムキになっちゃうとこが子供っぽいって言ってるの!」
くすくすと笑うリサを見ていると怒る気をそがれてしまう。くるくるとよく動く大きな瞳やいつでも楽しそうなその表情がハイネルにそう思わせるのかもしれなかった。
「お兄ちゃんは、グーデリアンさんといるのがいいのね、きっと」
腰をかがめ、冷たい湖水に手を浸したリサが顔をあげて言った。その言葉や表情がやけに大人びているような気がしてハイネルは一瞬口をつぐむ。
惜しみなく降り注ぐ陽光が、冷たく澄んだ湖面やリサの柔らかな髪を明るく包んでいる。胸の奥でリサが先ほど放った言葉を響かせたまま、一つ深い呼吸をしてからハイネルは口を開いた。
「・・・・リサ。私はお前に言わなくてはならないことがあるんだ」
「ん?なに?お兄ちゃん」
「私は、私はグーデリアンと・・・・」
「ん?」
リサが無邪気な好奇心を表情に浮かべて真っ直ぐに見つめ返してくる。無垢で迷いも惑いもないその真っ直ぐな視線にあてられて、ハイネルは続けるはずの言葉を失ってしまった。
兄の顔をのぞき込むようにしているリサは、とても楽しそうに言った。
「お兄ちゃん、グーデリアンさんと仲良くなってから少し変わったよね。私、昔からお兄ちゃんのこと大好きだったけど、今のお兄ちゃんも大好きよ!」
「リサ・・・・」
「あ!グーデリアンさんが来た!おーい、こっちこっち!」
くるりと身を翻した彼女は、あっという間にグーデリアンの方に駆けていってしまう。ハイネルはある種の感慨をもってその後姿を見つめていた。
ハイネルが作ったランチを堪能してから森を散策しているうちに、かわいらしい花の一群に気がついて歓声をあげたのはやはりリサが最初だった。
やはり少女らしく、兄であるハイネルやグーデリアンに花冠を作ってみせると宣言した彼女は、一人でその作業に没頭している。
出来上がるまでは一人にしておいて!の言葉通り、ハイネルとグーデリアンは二人で森の中を歩いていた。
森を渡る風は涼しく、心を優しくほぐしてくれる。天上から差し込む日の光が葉の合間から零れ落ち、歩みを進めるごとに光と影がめまぐるしく入れ替わって二人の体を染め上げた。
目に見えないほど細かな光の粒子は、音もなく空から降り注いで人の心さえも明るく照らし出す。
「グーデリアン。お前とのことを言ったら、リサは私を軽蔑するだろうか」
「そんなこと心配してんの?お前の妹だろ?」
グーデリアンの答えは簡潔だったが、ハイネルは笑みをもってそれに返した。木漏れ日のせいでハイネルの顔にも複雑な陰影が生まれている。
「ハイネル」
「何だ?」
その影を払うかのようにグーデリアンの手が彼の頬に伸ばされたかと思うと、あっという間に唇がふさがれていた。
抱き込まれた体は大きな木の幹に押し付けられ、すぐにシャツの一番上のボタンに手がかけられた。あまりにも性急かつあからさまなグーデリアンの動きに、慌ててハイネルが止めに入る。
「グ・・・グーデリアン、よせ・・・っ!」
何と言ってもここは外で、さらに近くにはリサもいるのだ。普段から物堅いハイネルが笑って許してくれるシチュエーションであるわけがない。が、グーデリアンは一向に手を止める気がないようだった。
「なんでだよ。いいじゃねぇか。オレが何日ガマンしてると思ってんだよ。このオレが!」
「ヘンな自慢をするな、バカ!!」
文句を言いつつもハイネルは必死で周囲の気配を探っている。どうしても妹のことが気にかかるのだろう。
別の場所に意識をとられているだけハイネルの抵抗はおろそかになり、その間にもグーデリアンは消防士にスカウトしたくなるほどの手際のよさで彼の衣服を乱している。
上着はすっかりズボンから抜き去られ、グーデリアンの大きくて暖かい手が直になめらかな素肌を這いまわるようになると、ハイネルの背中がそれに反応して伸びやかにうねった。
「あ・・・・グー、デリアン・・・」
大木に押し付けられた状態のまま、ハイネルは自分の裸の胸をさまよっている男の頭を抱き込むようにして熱い息をもらしている。
切ない声で名前を呼ばれ、鎖骨のあたりを甘噛みしていたグーデリアンは一度そこから顔を離し、自分の名を呼んだハイネルの唇をふさいだ。
リサがいる間・・・つまりそれは彼女が来訪した初日をのぞく五日間ということになるのだが、その間ほとんど触れ合わずにいた体が熱を帯びるのは早い。
ただでさえグーデリアンのキスは巧みで、理性で抗おうとするハイネルの抵抗をすぐに絡めとってしまった。促されて唇をわずかに開けば、あっという間に熱い舌が進入を果たして口腔内を探り出す。
「ん・・・・っ、グーデリアン、ダメだ、リサ・・・リサが・・・」
「リサちゃんだったら、今ごろ自分の作業に夢中になってるよ。それに、こんな場所絶対目に入らないから気にするなって」
「だ、だが・・・」
「お前はオレのことだけ考えてればいいんだよ」
一段と低い声を耳に流し込まれ、相手を押し返すために置かれていたはずのハイネルの手が逆にすがりつくような動きに変わる。
甘くとろけていく意識とわずかに残った理性が葛藤しているうちに、ベルトのバックルにまでグーデリアンの手が伸びてきた。
もうその手を引き離すべきなのか引き寄せるべきなのかさえ分からなくなっているハイネルは、無意識のうちにグーデリアンを促すかのように名を何度も呼んでいた。彼はグーデリアンの少しだけパサついた柔らかな髪の感触が好きなようで、長い指をグーデリアンの髪に差し入れてかき乱している。
木の幹にそって背が落ちていき、とうとう柔らかな草に腰を下ろすことになったハイネルにのしかかるようにして、本格的にグーデリアンは彼の呼吸を奪っていった。
息継ぎの合間にあえぐように首を振り、ハイネルの唇からは甘い声がもれてくる。
「グーデリアン、グーデ・・・・」
「ねー、お兄ちゃん?どこ?」
「り、り、リ、リサ!?何だ、一体?どうかしたのか?」
びっくりしたハイネルは、慌てて鎖骨に唇を落としていたグーデリアンを自分から引き剥がそうとして彼の髪をすいていた指に力を込めた。いきなり思いきり髪を引っ張られたグーデリアンは顔をゆがめて痛みに耐えている。
リサは少し距離のある木々の合間からハイネルに話しかけているようで、角度的にも草木が邪魔をして地面に顔を押し付けられている恰好のグーデリアンは視界に入らないはずだ。
それでも、もちろんハイネルは息が止まるほどの緊張を覚えていた。シャツはグーデリアンにすっかり乱されているし、髪もセットが少し崩れてしまっている。なるべくリサに体の正面を見せないように苦心しながらもハイネルは必死でとりつくろった笑みを顔に浮かべていた。
「ううん、大したことはないんだけど、花冠が一つできたから見せたげようかな、と思って。でもまだグーデリアンさんの分ができてないからいいや。お兄ちゃんがどの辺にいるのか確認しときたかっただけなの。グーデリアンさんはどこかな?」
「あ、あいつのことだ、どこか木の下で大の字になって昼寝でもしているのだろう」
「そっか。じゃ、一時間くらいは寝てるのかな。お兄ちゃんは?ヒマじゃない?」
「わ、私なら大丈夫だ。たまにはゆっくりと体を休めながら思索に耽るのもいいものだな!」
ハイネルの言葉を疑問にも思わなかったらしいリサは、それならいいんだけど、と華やかな笑みを見せてまたガサガサと木々の向こうに消えて行った。兄の不審な点に気づいた様子はない。
ほう、と安堵の息を吐いて肩の力を抜いたハイネルは、次の瞬間体を強張らせた。足元にムリヤリ沈めていたグーデリアンが一気に頭をあげ、半ば以上開かれていたシャツの下の素肌にキスを落としたからである。
「グーデリアン!」
「思索じゃなくてさ、もっと別のことに耽ろうぜ。二人でね」
「・・・イヤだと言っても聞く気はないんだろう?どうせ」
「まあね。ハイネルだってイヤじゃないだろうし」
もちろんそれに対して抗議をしたかったのだが、グーデリアンの巧みなキスでそれを封じられた・・・・と、自分の心に言い訳をし、ハイネルもやがて彼の背中に腕を回してつかの間の触れ合いに没頭していったのだった。
結局その日得られたものと言えばリサが作ってくれた二つの花冠と、妙な場所で妙な行為に耽っていたために残された背中の痛みだけだった。
ハイネルは妹に伝えたかったことを伝えることができず、今こうして彼女を見送っている。
「結局リサちゃんに言えなかったこと、気にすることないよ」
満開の笑顔でリサに手を振りつつ、グーデリアンは隣にいるハイネルだけに聞こえる声でそう言った。
リサを玄関で見送った後、ハイネルはそれではあきたらずに二階のベランダに出たのである。ここからなら彼女がかなり遠くに行くまで見渡せる。
兄たちが自分をそこから見送ってくれていることを知っているリサは、何度も何度も足を止めてはこちらを向き、大きく手を振り返してくれていた。
どこか思いつめているようにも見えるハイネルは、グーデリアンを一度見た後、思いきってベランダの手すりに取りついた。まだリサは数メートルしか離れていない。十二分に声が届く距離である。
「リサ!ちょっと待ってくれ!」
「ん?なに?お兄ちゃん。私、何か忘れ物でもした?」
「リサ、リサ・・・・私は、わ、私は・・・・」
そこで一度言葉を切り、ハイネルは息を吸い込んだ。新鮮な空気とともに、大切な言葉も体に取りこむ。あとはそれを吐き出すだけだ。
「私は・・・・!」
「?どうしたの?顔が赤いけど」
「リサ・・・。私は、グーデリアンが・・・・!」
ハイネルは必死な表情でリサに思いを伝えようとしている。柵を力いっぱい握りしめている指は色を無くし、緊張のあまり首筋も背も強張っていた。
それでも彼は言葉を紡ごうとしている。
「私は・・・!」
「もういいよ、ハイネル」
今まさに大事な言葉が唇から零れ落ちるという時に、そっと胸に手を置かれたハイネルは、そのまま空気だけを吐き出した。
緑の瞳が不思議そうにグーデリアンに向けられるが、彼はリサの方を向いたまま小声でハイネルに『リサちゃんがこっち見てるから笑って手を振って』と素早く言っただけだった。
慌ててリサの方を向き、笑顔で手を振る。
リサは一度だけかわいらしく小首をかしげたが、やがて自分も最後に一度手を振り返してこちらに背を向けた。その姿が段々小さくなっていくのを目にしながらハイネルが聞く。
「グーデリアン、なぜ・・・?」
その言葉にまず返ってきたのは、ハイネルの腰を抱く力強い腕の存在だった。ベランダに遮られ、彼らの体制はリサからは分からないだろう。にっこりとリサに笑顔を送ったままグーデリアンは言った。
「お前さ、自分のためって言うより、オレのためにリサちゃんに言わなきゃ!って思ったんだろ?オレならいいよ。オレはお前がオレのこと好きでいてくれればそれでいいし、お前がオレのこと好きで好きでたまらないのはよーく知ってるしね。お前がオレのために、そこまで悩む必要はないんだ」
ウインク混じりのセリフは茶化したような響きがあったが、それが自分の心の負担を軽くするためなのだということをハイネルはよく理解していた。相手の心のうちを読むことができるのは、何もグーデリアンだけではないのである。
恐らく、あまりにも緊張している様子のハイネルを見かねて助け舟を出してくれたのだろう。
「グーデリアン・・・」
「なに?」
「私は、・・・言葉で切り出そうとしたから出来なかったんだ。最初からこうしてれば良かったのに。リサ!!」
「え?なに?呼んだ?お兄ちゃん」
「ハイネル?・・・!」
ハイネルがグーデリアンの顎を取り、唇をふさいでいる。
見開かれた瞳は四つ。もちろんグーデリアンとリサだ。
すぐにその唇は離れたが、ハイネルはグーデリアンの青い瞳を見つめた後、再び唇を寄せた。
柔らかで暖かく、愛情にあふれたキスだった。
「リサ!」
「お、お兄ちゃん!?」
突然視界で繰り広げられた光景に、リサは大きな瞳を零れんばかりに見開いている。
ハイネルはベランダの縁にしがみつき、身を乗り出さんばかりにして声をあげた。必死で周りをかえりみず、そしてそれだけに真摯な思いの込められた声だった。
「リサ、私はこの男が大好きなんだ!好きで好きでたまらないんだ!!リサ、いつだって私は、お前が誇りに思えるような兄になりたかった。そうありたかった。だが、・・・私はグーデリアンが好きなんだ。例えお前に軽蔑されても、私は、・・・・私はこの男が好きなんだ」
「お兄ちゃん・・・」
足を止め、リサは呆然とした表情を浮かべたまま自分の兄と、そしてその傍らに立つ男を見上げていた。
幼い頃から自慢に思ってきた聡明で美しい兄。年が離れているせいもあって、子どもの頃にはまさに兄は完璧な存在に思えた。
長じてからはそんな兄の、人間らしい面をたくさん知ることになったが、かえって兄を身近に感じられてうれしく思ったものだ。
冷たく理性的だととられがちな彼の内面は熱く、ただ一人の人間に対しては常に本当の自分をさらけ出していた。
いつだって、たった一人の人に対しては。
「リサ、・・・私はいつだってお前が誇っていられるような兄でいたかった。いつまでも『リサ・ハイネルの兄』でいたかった。私はお前が一番大切だったし、一番愛してる。・・・愛してた。リサ、今の私は、・・・フランツ・ハイネルは『ジャッキー・グーデリアンの恋人』なんだ。・・・彼が好きだ」
「お兄ちゃん・・・」
リサだけではなく、隣にいたグーデリアンでさえも驚きでとっさには何も言葉が出てこないでいる。ただハイネルを見つめているだけのグーデリアンの頬に両手を伸ばし、彼はキッパリとした声で言った。
「ジャッキー・グーデリアン」
「イエス?」
「・・・私は、お前が大好きなんだ。リサに黙っていられなかったくらいに」
そう言うなりハイネルはグーデリアンの首元に抱きついた。こうすれば互いに顔を見られずに済む。速い心音や熱くなった体にグーデリアンは気がついているだろうが、少なくとも赤くなった頬だけは見られないでいられる。
「好きだから、言わずにいられなかったんだ」
グーデリアンは何も言わず、ただ力強い腕で抱きしめてくれた。ハイネルはこうされている時、他の何をしているよりも心が休まる。
例え妹であるリサに受け入れてもらえなくても、自分のこの男に対する思いを変えることはできないのだということがハイネルにはよく分かっていた。世の中の律も則もすべて飛び越え、それでも彼はグーデリアンを好きにならずにはいられなかったのである。
どんな表情をしているのかが見たくてグーデリアンが一度体を離そうとすると、その意図を察したらしいハイネルは抱きつく腕に更に力を込めた。
「見るなよ!グーデリアン。今お前が手を離したらお前にもリサにも今の私の顔を見られてしまう。・・・見るなよ」
「見たら?」
「お、お前なんかとは縁を切ってやる!」
「またまた〜。オレのことが大好きなんだろ?離れられないんだろ?安心していいぜ、オレも一緒だからさ!」
「うるさい!!」
首に回していた手でグーデリアンの襟元の髪を引っ張ると、相手は大げさにイタタタタ、と大きな声をあげて痛がってみせた。あまりにも芝居がかったその様子がおかしくてハイネルは声を出して笑ってしまう。
瞳を閉じると、抱きしめられている腕の強さやぬくもりが更にリアルに伝わってきて胸が温かくなってくる。
二人からは自分の表情が見えないようにグーデリアンの肩元に首を押し付けたまま、ハイネルは言った。誇らしげな自信に満ち溢れた、とても彼らしい凛と響く声だった。
「リサ。・・・私はこの男が好きだ。お前に呆れられても、誰に笑われても離れられない」
「お兄ちゃん・・・」
リサは戸惑っているような怒っているような悲しんでいるような、そんな複雑な感情が入り混じった表現しがたい表情を浮かべていた。
ハイネルはゆっくりとグーデリアンから体を離し、リサに向き直った。ずっと胸につかえていたことを告白できたせいか、その表情は晴れ晴れとしていて美しい。迷いを吹っ切り、自分の信じる道を真っ直ぐに歩きはじめた者だけがもつ顔だった。
リサは思わずベランダの下まで駆けよって兄を見上げる。
兄とは違った色合いの、だが同じように強い意志の存在をうかがわせる輝きを持つ瞳が涙に潤んでいた。
「お兄ちゃん、・・・お兄ちゃん、バカよ!どうしてもっと早くに言ってくれなかったの!?今までそんなことで苦しんでたの?お兄ちゃん・・・お兄ちゃんは、本当にバカだわ!」
「リサ、・・・すまない。私は、私はお前に嫌われてしまうのが怖くて」
「もっと早くに言ってくれればよかったのに。そしたら、そしたら私・・・」
「すまなかった、リサ」
大きな瞳に涙をいっぱいに浮かべている妹に申し訳ない思いで兄であるハイネルは唇を噛んだ。だが、例え大切な妹が願ったとしても、グーデリアンだけは失うわけにはいかないのだ。
「もっと早く言ってくれれば良かったのに。そしたら私、『そんなのとっくに知ってたわよ』って軽く言ってあげられたのに」
「・・・え?」
「お兄ちゃん、私にグーデリアンさんとのことバレてないとでも思ってたの?あんだけ堂々といちゃついてて?スタッフの人たちは半信半疑の人が半分っていう感じだけど、私はお兄ちゃんの妹よ?お兄ちゃんに恋人が、しかもあんなにアツアツの恋人ができて気がつかないわけないじゃない」
(ハイネルにとっては)予想外の展開である。彼はとっさに自分の隣に立っている男を見上げていた。
急に自分に振られたグーデリアンは肩をすくめてみせたが、その後口を開いてあっさりとこう言った。
「だから最初に言ったろ?リサちゃんには今更言う必要ないんじゃないかって」
「き、貴様・・・・貴様、最初からリサが私たちのことを知ってると気がついていたのか?」
「え?だって、ハイネルも知ってたんじゃないの?オレ、てっきりハイネルは、単にオレたちのことを改めて報告するだけのつもりなんじゃないかなって思っててさ。まさかお前、リサちゃんがオレたちのこと何にも知らないって思ってたわけ?今まで?そんなわけないだろ!モーターホームでキスしてたとこだって見られてんのに!」
「な、な、何!?貴様、あれほど『大丈夫だから』などと言っておいて、キスシーンを見られていただと?しかもリサに!?ふざけるな貴様!二度とあんな場所でキスなどさせん!」
「またまた!お前だってオレにキスされてうっとりしてただろ!?大体さ、リサちゃんは鈍いお前なんかよりよっぽど鋭いんだよ。気づかないわけないだろ?気づいてないって思ってられるハイネルが信じらんないね、オレは!」
あっという間に自分の存在を忘れてケンカを始めてしまった兄とその恋人に、リサは苦笑を浮かべずにはいられなかった。
ジャッキー・グーデリアンという男は、大切な兄を変えてしまったと彼女は思う。彼はあそこまで感情をたやすく波立たせ、表情を変えるような人間ではなかった。
生真面目で不器用でまっすぐなところは変わっていないけれど、表情が豊かになり、怒りっぽくなり、理屈っぽいのがますますひどくなり、実は照れ屋なところもよく見られるようになった。
そして、兄にも伝えた通り、リサはそんな彼のことが大好きなのである。もちろん、そんな風に兄のことを変えてしまった彼の恋人のことも。
「お兄ちゃん!私、もう行くから。元気でね!」
「リサ!お前も元気で。困ったことがあったらすぐに連絡をいれなさい」
「リサちゃん!兄貴のことはオレに任せてくれればいいからね。リサちゃんも元気で!」
「グーデリアン、リサは私に話しかけたんだ。なぜ貴様が返事をする!」
「だって、オレがお前と結婚したら、オレだってリサちゃんの『お兄ちゃん』だろ?」
「き、き、貴様・・・・・!!」
早速二人はこの調子である。
笑いながら身を翻した瞬間、グーデリアンがいたずらっぽいウインクを飛ばしてきた。それにウインクで返し、リサは軽やかな足取りで今度こそ歩き始めた。
以前は生真面目なあまりに根を詰めすぎてしまう兄のことを心配せずにはいられなかった彼女だが、もうその必要はない。その役割を負っている人物は他にいるのである。
それはもちろん、
・・・・この世でたった一人の、大切な大切な兄の恋人。
タイトルはジョニー・デップがいい味を出している『妹の恋人』をパロったものです。とりあえずタイトルだけ。
実は以前にもキリリクで『グーのことをすごく好きなハイネル』的なリクをいただいたことがありまして(そのリクは美葉さんにいただきました。今回リクを下さったオスカーさんとの共通点は、お二方ともグーファンだということ・・・笑)、その時もリサちゃんがちょこっと絡んでる感じなんですよね・・・。特に意識したわけではないのですが、まあこれも一つのパターンとして受けとっていただければ幸いです。よくあるネタですし・・・すみません。
ところで、私はキリリクを書く時、最初から完全に筋が決まっている時以外は、2パターンほど話を書き進めていくことがよくあります。途中で書きやすそうな方にしぼるんですけど、そうするともう片方の話はいわゆる『ボツ』になるわけです。
この話はそのボツがすごい長くて、半分近くお話出来上がってるんじゃないかというところまでいってしまいました。も、もったいない・・・と嘆くほどいい内容じゃないからいいんですけど!(笑)
ちなみに、そちらがボツった理由は『このままだとまた連載になる!』からでした(笑)。でもそっちもリサちゃんが出張ってるのは同じ・・・。
オスカーさん、キリ番ゲット及びリクエスト、本当にありがとうございました!どうもグーファンの方にリクをいただくと、そんなにグーがカッコよくない話ばかり(いつも私のグーはそんなにカッコよくないですが)になってしまうような気がして申し訳ないです。