キング・オブ・ザ・ワールド



 突然ではあるが、そもそもジャッキー・グーデリアンは唐突な男である。


「オレってさ、すっごい幸運な男だなって思うんだよ」


 またか、とうんざりしている様子を隠しもせずにハイネルは整った眉を不機嫌に寄せた。彼が部屋にこもってパソコンとにらみ合っていると言うのにこの男はズカズカと許可も得ずに部屋に入り込み、あまつさえ後ろ向きにイスに腰掛けてデスクに上半身をもたれかけさせ、ハイネルを見上げている。
 いっそのこと無視してこのまま入力を続けていたいところだが、そうすれば余計にグーデリアンにジャマをされるのが分かっていたので、ハイネルはロコツにため息をついてキーボードから手を離した。


「・・・いきなり何を言い出すんだお前は」


 呆れたように言ってみせてもグーデリアンには少しも堪えた様子がない。自分の両腕の上に頭をちょこんとのせているのがやけに子供じみた仕草に見えて、ハイネルはますます呆れた。


「だってさ、オレってカッコいいだろ」

「は!?」

「ただでさえカッコいいのにさ、CFレーサーだぜCFレーサー!!ルックスはいいし金は持ってるしその上超一流のレーサー。ここまで条件が揃ってると、他の男どもに申し訳なくなってくるね」


 ・・・・何をこの男は言い出すのだろう。突拍子もないことをいきなり言い出すのはいつものことだが、それにしたって今回のは格別だ。
 ハイネルはメガネ越しに思いきりグーデリアンをにらみつけた。キレイに澄んでいる緑の瞳は、けれどもこんな時には氷のように冷たい光を浮かべて見る者を圧倒する。それでも、もちろんグーデリアンには効果など露ほどもないのだった。彼はハイネルの強い光を浮かべた緑の瞳の彩を心の底から気に入っているのでタチが悪い。

 にやり、としか表現しようのない人の悪い笑みを浮かべ、グーデリアンはぐいと顔を上げて至近距離からハイネルの整った顔を見上げた。斜め下にある青い瞳が思いもかけないほど硬質な輝きを浮かべていてハイネルはわずかに息を呑んでひるむ。
 そんな彼の様子に気付いているのかいないのか、グーデリアンはこう続けたのだった。


「悪いけどさ、人道的道徳的宗教的観点からの見解は別として、実際問題カンペキな平等を実現するなんてムリなんだよ。だってさ、そこらへんのブ男とオレじゃ、生まれた時のスタート地点からして違ってる。オレカッコいいから、それだけで人生得してきたなって本気で思うもんな」

「お前が人生を得してきたような気になってるのは、お前がバカでまともな判断力を有していないからだ」


 手厳しいね、とグーデリアンは笑い、それ以上会話を続ける気が失せたのか不意にハイネルに近づけていた顔を元に戻し、そのままの勢いでイスからも立ち上がった。
 そのままあっさりと部屋を出て行きそうな気配に、ハイネルは意表をつかれて呆然とグーデリアンを見つめていた。何が楽しいのか、グーデリアンは新しいイタズラを発見した子供のような笑顔を浮かべている。


「オレってホントに何でもかんでも自分の思い通りになる人生歩んできてすごいよなあ」

「・・・・・」

 
 もうマトモに相手をする気にさえなれずにパソコンに向かいかけたハイネルを、続くグーデリアンの言葉が止めた。


「・・・って、思ってたんだけどね、ほんの数年前まで。インディで最年少記録で優勝して、CFにステップアップしてきたあたりまではさ」

「グーデリアン?」


 ・・・・・ほんの、ほんの少しだけグーデリアンの青い瞳にさみしげな色がよぎったような気がした。ハイネルは自分の仕事のことさえ忘れ、その青い目に見入られた。何か口にしたかったが言葉にならない。


「みんなオレのことカッコいいって言ってくれるし、好きだって言ってくれる。どっかの誰かさん以外はね」

「・・・・」


 何が言いたいんだ、とこちらが問いかける前にグーデリアンが答えを返してきた。青い瞳がナゾを問いかける子供のようにいたずらっぽい光を放っている。


「つまりさ、・・・・恵まれすぎてるオレだけど、やっぱりオレにもカミサマってヤツがそれなりの試練を与えてくれてるんだなってことさ」

「それは、一体どういう・・・」


 けれど、ハイネルのつぶやきは、グーデリアンが彼にしては静かな仕草でドアを閉めた時の音にかき消されてしまった。





 
 








 
 ジャーマンシルバーのマシンが陽光をキラキラと弾いてサーキットを駆け抜けていく。
 チェッカーフラッグまで後4周。ジャッキー・グーデリアンの姿を見るためだけにわざわざヨーロッパまで押しかけてきた観衆たちが手にするスターズ・アンド・ストライプスが翻る。
 人々の熱狂とマシンの咆哮が渾然一体となり、サーキットは熱い大気のうねりにさらされていた。


 ジャッキー・グーデリアンの操るマシンの前を行くのは、周回遅れのマシンのみ。・・・・つまりトップを疾走しているのである。
 レースは最後まで何が起こるか分からないシビアな世界だ。コントロールラインを実際に通過するその瞬間まで気を抜くことは許されない。それでも、誰もがグーデリアンのマシンの速さに酔っていた。
 よく言われることだが、彼の走りには華がある。ムラがあるのも本当で、速い時には手がつけられない程速いが、一度細かなミスをすると信じられないような凡ミスを続けてやらかしたりもする。
 だが、それさえもジャッキー・グーデリアンというレーサーを魅力的に彩る要素の一つになり得てしまうのが、彼の不思議なところだった。


 個性が際立つCFレーサーたちの中でもひときわ明るく輝くアメリカの星。
悔しいが、マシンに乗ってサーキットを駆け抜けるジャッキー・グーデリアンは確かに魅力的だ。・・・正直に言って彼が自分のことを『カッコいい』と評しても仕方ないかとさえ思える。

 モニターを通してグーデリアンの走りを見つめるハイネルの瞳に、焦がれるような色が浮かんでいることに気がついている人間は一人もいないだろう。無機質な光を放つメガネに隠された緑の瞳が、真摯にただ一台のマシンだけを映していることに気付いている人間は誰もいない。その目はチーム監督としての立場を離れ、ただ純粋にジャッキー・グーデリアンというレーサーの走りに惹き込まれている人間の持つ目だった。

 走りに関して言えば、ハイネルは素直に自分がグーデリアンに、その走りに惹かれているのだと認めることができた。あくまで走りに限定した話ではあるが。

 それでも、あらゆる複雑な意味を含む立場上、ハイネルは自分のその思いを決してグーデリアン本人に知られるわけにはいかなかった。自分でさえも認めたくないと思っている思いを、一番知られたくない、一番弱みを見せたくない相手に悟られたくはなかった。



「グーデリアンさん、今日は絶好調ですね!まさにマシンと一体になっている感じです」


 スタッフの声も、高揚と興奮を隠しきれない。グーデリアンの走りには、胸を熱くする何かがある。
 
 テクニック。スピード。レース駆け引き。

 ジャッキー・グーデリアンというレーサーの走りには、そういった次元を超えた所で、もっと生々しい人間の本能の部分に訴えかけるような熱さがある。


「いける!いけますよ、ハイネルさん!!このレースはオレたちの勝ちだ!!」



 スタッフの叫びと共に銀の軌跡を描いてグーデリアンのマシンがコントロール・ラインに飛び込んでいった。
 グーデリアンの右腕が勝利を高らかに知らしめるために突き上がり、激しくチェッカー・フラッグが振られる。一段と観客たちの歓声が大きくなり、ホーンの高い音が空気を切り裂いた。
 熱い熱いうねりがとうとう渦となり、サーキットは興奮のるつぼと化している。


 グーデリアンは高々と右腕をつきあげたままウィニングランを走り終え、ピットにまで戻ってきた。チームスタッフたちが次々と彼にかけより、興奮のままに喜びの叫びを投げ付けている。
 グーデリアンも満面の笑顔でそんなスタッフたち一人一人に応えつつ、青い目をピット奥に立ってグーデリアンを見つめていたハイネルに走らせた。
 グーデリアンは誇らしげな、挑むような笑みを口元に刻み、こう宣言した。


『I’m the top of the world!!』










 久々の優勝ということで、表彰台もプレスコンファレンスもひどいこととなってしまった。グーデリアンはただでさえ絶大な人気を誇るレーサーな上に本人がお祭り好きときているのでどこまでも騒ぎが大きくなってしまうのである。
 グーデリアンのリップサービスは冴え渡り、さらにインタビュアーたちでさえも熱気にあてられたのか興奮しきっていたので、インタビューの時間は大幅にズレこんだ。
 レーシングチームにとって、本戦が終わってもしなければならないことは山ほどある。撤退の準備、スポンサーへの対応、レースで得たデータ転送などなど、時間はいくらたっても足りない程だ。
 ようやくグーデリアンがプレスコンファレンスを終えて廊下に一歩出た途端、すごい形相のハイネルに腕をつかまれて犯罪者よろしく護送されるハメとなってしまった。 
 


「まったく!お前が調子にのってあることないことべらべらべらべらしゃべるから、予定終了時間を遥かに過ぎてしまってるじゃないか!これからスポンサーのあいさつ周りだってあるんだぞ!」

「ごめんごめん。オレって人気者だからみんなが放してくれなくて!」

「バカか!お前が勝手に調子にのってただけだろう!」


 ハイネルは容赦なく切って捨てて足音も高く廊下を歩いていく。それに難なくついていきながら、グーデリアンがのんびりした声をかけた。


「今日オレ、優勝したんだぜ?今日くらいオレに甘くしてくれてもいいんじゃない?」

「・・・・・・」


 ハイネルは足を止め、グーデリアンを見上げた。聞き流されるとでも思っていたのか、グーデリアンが少し意外そうな表情を浮かべて自分も足を止め、ハイネルを見返している。人の少ない裏口から出るために大分奥の方までやってきていたため、辺りには誰もいない。つい先ほどまでのサーキットの喧騒がウソのようにしんと静まりかえっている。

 こんな静寂に包まれているとあれは幸福な夢だったのかと思えてくるが、グーデリアンはまだレーシングスーツをその身にまとっただけだった。彼が今日誰よりも速くコントロールラインを駆け抜け、チェッカーフラッグを受けたのは紛れもない事実なのである。


「・・・・確かに今日のお前はよくやった。優勝おめでとう」

「サンキュ。やっぱりハイネルに言ってもらうのが一番うれしいな」


 そういうグーデリアンの笑顔が本当にうれしそうだったので、ハイネルの冷たい面にも柔らかな笑みがさざなみのように広がった。もちろんハイネルとしても、グーデリアンが優勝してうれしい気持ちは同じなのだ。
 グーデリアンのレーサーとしての努力や速さに報いてやりたい気持ちになったのも自然な心の動きだった。


「せっかくだから、何か欲しいものはあるか?優勝祝いだ。こんなことはめったにないんだから心して感謝しろよ」


 少し尊大な口調になったのは恐らくハイネルなりの照れ隠しだろう。やはり子供のようにうれしい表情を見せているグーデリアンは、一秒たりとも考えないで間髪入れずに返事をした。


「欲しいもの?ハイネルからのキス!!」

「ばっ・・・・・バカ!!」


 静かな廊下にグーデリアンの朗らかな声が思った以上に反響し、ハイネルは心底焦った。視界に入る限り自分たちのほかには誰もいなかったが、同じ建物内にはまだ確実に何人もの記者やレース関係者たちが残っているのである。万が一聞かれでもしたら、とうろたえたハイネルは、必要以上にグーデリアンから逃れようと後ずさり、・・・・・・足をひねった。


「あっ!」

「ハイネル!」


 突然体のバランスを崩したハイネルを、とっさに駆け寄ったグーデリアンが支えた。彼の素晴らしい反射神経によるその反応がなかったら、恐らくハイネルはそのまま倒れて体のどこかを強打してしまっていただろう。


「ハイネル、ハイネル大丈夫か?・・・・歩けるか?」

「・・・・大丈夫だ」


 だが、ハイネルの秀麗な白い額には脂汗が浮いている。一歩を自分で踏み出そうとして、細い眉がしなやかに寄った。声さえ出さなかったものの相当痛むのだろう。
 それでも心配げに自分を見つめてくるグーデリアンの青い瞳を、ハイネルは強い視線で見返した。


「・・・・・スポンサーをただでさえ待たせている。私は後から行くからお前は先に一人で行け」

「ダメだ。オレが背負ってやるから一緒に行こう」

「そんなみっともないマネができるか!」


 鋭い声でハイネルが言ったが、グーデリアンも引かなかった。こんな時には真剣な色を浮かべる青い瞳でハイネルをまっすぐ射抜き、まるで子供に言い聞かせる大人のような口調で話し始めた。


「いいかハイネル。オレが今お前をここに残していったとして、お前はどうするんだ?たまたまプレスの連中が通りかかるのを待つか?それこそ痛くもない腹まで探られるのがオチだぜ。・・・分かるだろ?」

「・・・だが、お前はレースを終えたばかりで消耗しきっているじゃないか」

「ハイネル一人くらい平気さ!大丈夫。自分のチームのレーサーのタフさかげんを信じなさいって!」


 『反論は!?』と顔をのぞき込まれたハイネルは、憮然として視線をそらせた。だが、グーデリアンが背中を見せて促してもハイネルからの拒否はない。

 ういっしょ、と奇妙な掛け声とともにグーデリアンはハイネルを背負った。


「意外と重いな、ハイネル。やっぱ女の子みたいにはいかねーや」

 セリフの割りに背中にかかったハイネルの重みを全く気にかける様子も見せず、グーデリアンはすたすたと歩いている。とたん、ハイネルがムッとした気配が背中ごしにグーデリアンにまで届いてきた。

「悪かったな、重くて」

 思いっきりイヤミったらしく言ってやるつもりだったのに妙にスネたような響きがこもってしまい、言ったハイネル本人が慌ててしまったほどだった。何かフォローを、と考えているうちにグーデリアンがくすりと笑った気配があった。


「ハイネルは背が高いんだからとーぜんだろ。身長から言ったら軽すぎるくらいなんだから、もっとメシ食えよ。それにさ、いいよな、なんか。・・・ハイネルをおんぶしてるんだーって実感わくだろ」

「・・・・そういうバカなことを言うな」

「照れちゃって!」

「・・・・バカの相手なんてしてられるか」

「あんまりバカバカ言うなよな!バカって言う方がホントのバカなんだぜ!」



 そんな子供のような理屈を口にしているが、グーデリアンは結構楽しそうである。力強い足取りでぐいぐいと廊下を進んでいく彼は、確かにレースを終えたばかりだとは思えないほどのタフさ加減だった。


 グーデリアンに背負われながら、ハイネルは歩調に合わせて揺れるグーデリアンのくすんだ金髪や太い首筋、そしてわずかにのぞいている日にやけた頬、そんなものを見ていた。
 
 ・・・・背中からなら、あの青い目を気にせずにグーデリアンを見つめることができる。


 グーデリアンの髪はわずかに湿り、首筋にもぬぐったはずの汗がまたじわりとにじみ出てきていた。あれだけのレースを戦いきったのだ、疲れていないわけがない。
 それでもハイネルを背負いながら少しも足取りに乱れのないグーデリアンのことを思うと、ハイネルは同じ男として彼に対する憧憬や嫉妬を感じずにはいられなかった。

 自分を背負うたくましい腕がハンドルを操り、この汗を吸った金髪のかかる太い首が信じられないほどのGに耐え、過酷なレースを戦いきった。




 ・・・・・この男が、今日は世界で一番速かった。





 

「!」

 グーデリアンが息を呑む気配があり、背中のハイネルの体がぐらりと揺れた。すかさずハイネルの叱咤の声が飛ぶ。



「ちゃんと前を向いてろ、危ないから!」

「だってハイネル、お前今・・・!!」


『オレの頬にキスしただろ!?』というグーデリアンの言葉は声にならなかった。今度はこめかみの辺りにハイネルの唇が押しつけられるのを感じたからである。
 グーデリアンの反応は迅速にして顕著だった。日に焼けた肌がみるみるうちに赤く染まっていくのを、ハイネルはまるで珍しい生き物を見ているかのような目で見つめた。
 目線が合うことはなくても気配でわかるのだろう。ハイネルに見られていることを意識したグーデリアンがますます赤くなっていく。
 とっさに何と口にしていいのかわからなかったらしく、口をぱくぱくと開閉させたグーデリアンが、最初に何て言うだろうかと興味深くハイネルが横から彼の顔をのぞき込んでいると、突然体が浮いて軽い衝撃が足にかかった。


「いたっ!いきなり何をするんだ!!」


 グーデリアンが背負っていたはずのハイネルをいきなり下ろし、自分たちが正面から向かい合うようにしたのである。なるべく衝撃が少ないように気を使ったらしいが、予想していないタイミングだっただけにとっさに足をかばうこともできず、ハイネルは痛みを覚える足首を気にしながらも目の前にいるグーデリアンをにらみつける・・・・・はずだったのだが、不意にきつく抱きしめられて息さえもままならなくなってしまった。


「ぐぐぐ、グーデリアン!?」


「ひゃっほーーー!!!!」




 そのグーデリアンはと言えば、レースに優勝したうれしさのあまりとうとう脳にきたかとハイネルが心配になってしまったくらいの奇声をあげている。


「ちょちょちょ・・・・ちょっと、グーデリアン!いた・・・痛いから離せ!」

「ハイネルからキスしてくれたんだぜ!?ハイネルからキス!!信じられるかよ?」


 ・・・・信じるも何も、今この場にはグーデリアン以外にはハイネル本人しかいないというのにそんなことを言ってどうするつもりなのだろう。
 だが、圧倒されて声も出ないハイネルをよそに、グーデリアンは一人で喜びまくっている。大きな体躯で喜びをあらわにしているグーデリアンは、とても世界トップクラスのレーサーとは思えなかった。
 まるで好きな女のコにデートを承諾してもらえたティーンネイジャーのようだ。


「キスって、・・・・頬に少ししただけじゃないか・・・・し、親しみを込めて!」

「頬だろうが何だろうがキスはキスだろ!今オレは世界中で一番幸せな男なんだから、この幸せに浸らせといてくれよ!」

「・・・」


 天下のジャッキー・グーデリアンが、キスくらいで(しかも頬とこめかみ)この喜びよう。
 ハイネルが呆気にとられてしまったのもムリはなかっただろう。 


「オレ、今世界の王様になった気分だね。”今こそオレの思い通りにならないことは何もない!”って感じかな!」

「・・・お前が王様なら私はなんだ、お姫様か?」

 うんざりするような表情で吐き捨てたハイネルにグーデリアンは盛大なウインクを送る。白い鼻先にキスをして素早く離れ、いたずらっぽく肩をすくめてこう言った。


「何でも!オレは世界の王様だぜ。愛するハイネルには何でもお望みのものを与えてやるよ。オレのお姫様になりたいんだったら大歓迎だけど、オレの女神様でも、天使でも、なんでもOK。なんたってオレ王様だから」

「・・・・・ずいぶん気前のいい王様なんだな」

「ハイネルにだけはね」


 この浮かれ加減はどうだろう。マシンに乗っている時は、飢えて牙にかける獲物を待ちかねている獰猛な獣のような表情を浮かべていた男が、今は欲しかったクリスマスプレゼントを手に入れた子供のようにはしゃぎまくっている。

 初めはあまりのグーデリアンのはしゃぎぶりに呆れていたハイネルだが、そのうち何だか自分までおかしくなってきてしまった。

 大きな図体をして本当に子供のような男だ。とても今日世界にその速さを見せつけた男だとは思えない。



「勝利を」


 笑みの名残を漂わせた優しいままの表情でハイネルは言った。


「これからも、勝利を。私が与えて欲しいのはそれだけだ。私に満足できる勝利をもたらせることのできるドライバーはお前しかいないから」


「もちろんさ!これからだって、オレがレースで勝って、お前に最高の気分を味合わせてやるよ。お前にも世界の王様になった気分を分けてやる。ただし、もちろんそれなりの報酬はいただくぜ。勝利に見合うだけの報酬をね。お代は・・・・」


 グーデリアンのセリフは、ハイネルの唇の向こうに消えた。
 ただ合わせるだけのキスを施してきたハイネルのしなやかな体をきつく抱きしめ、グーデリアンは深いキスに切り替えていく。甘い吐息がハイネルの唇からもれる頃には、二人ともこのキスに夢中になっていた。
 レースの時とはまた違う熱さや充実感に包まれる、この不思議な時間に。



「ハイネルを好きになった時に、オレはすごい皮肉な気分を味わったんだ」



 キスを一度止めて唇を離すと、グーデリアンはわずかに乱れたハイネルの前髪を指で優しくすきながら口にした。


「・・・・よりどりみどりのはずのオレが、なんでよりによって一番厄介な相手に惚れちまったのかってさ。ルックスも金もレーサーとしての才能も、オレが『欲しい』って意識する前にオレの手の中にあった。それなのに、最後の最後でこんなオチはないだろうって」


 言葉の割りに、グーデリアンの表情も手つきもとても優しく、ハイネルに対する暖かな思いやりが余さず表れていた。愛おしげに頬を大きな手でなでられ、ハイネルは視線を青い目からわずかにそらしてためらう仕草をした後、ゆっくりと再び視線をあげた。


「・・・それは、私も同じだ。やっぱり運命とやらは、誰にでも平等に試練を与えるらしいな」
 

 こんな試練だったら大歓迎だけどね、とグーデリアンは笑い、またハイネルの唇をふさいだ。ハイネルは長いまつげを伏せて受け入れる。


 どんなに苦しい思いをしても、どんなに思い悩んでも手放すことのできない恋だった。例え他に万の選択肢があっても、自分たちは今唇を交わし合っているたった一人の相手を選ぶだろう。
 そんな運命の皮肉と幸運を感じながら、二人はスポンサーのことさえも忘れてただ甘い口付けに酔っていた。




「・・・オレ、自分はなんてラッキーな男なんだろうって思うんだ」



 キスの合間にハイネルの唇へとグーデリアンは言葉を流し込んでくる。



「・・・・・・ハイネルと出会えたからね」



 グーデリアンのレーシングスーツをつかむハイネルの手に力が込められた。甘くて傲慢な声がハイネルにささやきかける。
 理性をさらい、相手のことしか考えられなくする悪魔の誘いだった。



「なあ、キスしてくれよ、ハイネル。お前はオレをキス一つでこの世の王様に押し上げることができる、世界でたった一人の人間なんだぜ」



 ジャッキー・グーデリアンをマシン無くして世界の王に押し上げてしまうヒミツのファクター。



 ・・・・・それはもちろん、ハイネルからのキス。









 ・・・・うちのキリ番、すでに機能しなくなって久しいのですっっごく緊張してしまいました(笑)。でもやっぱり、お題をいただくのもそれに合わせてお話を書かせていただくのも大好きです。いつもステキなお題に見合わないヘンテコ作品ばかりになってしまうのが悲しいんですけど・・・。いつもいつもワンパターンの頭悪そうなお話ですみません。
 今またちょっとお話書き辛い時期ですので、文章もどうにもフラフラしてしまっていてホントにもう・・・(涙)。

 珍しく今回のお話のタイトルは歌からパクってません(笑)。ちゃんと自分で考えました!
 ・・・話は変わるんですけど、最近『シンプソンズ』の後にコメディーマンガがやっていることが多くて、たまーに見ることがあるんですよね。ええ、『King Of The Hill』っていうタイトルのマンガなんですけどね・・・・って、またパクリか!(笑)


 ユキコさん、リクエストしてくださいまして本当にありがとうございました。ステキなリクエストをしていただいたのに出来あがったのがこのお話でもう申し訳の言葉もないくらいなんですけど、私の感謝の気持ちだけ受けとっていただけるとうれしいです。
 もし呆れていませんでしたら、またキリ番踏んでリクエストしてやって下さいませ。お待ちしております!


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