Gravity
20年近く生きてきて、これほど自分の心が自分の思い通りにいかなかったことなどない。
スター・スタンピードに所属しているジャッキー・グーデリアンは、もう何度目になるか分からない舌打ちを心の中で打った。それでも気分が収まらず、傍にあったタイヤを思いきり蹴りつける。
ボス、というどこか間の抜けた音がかえってきて、そんなことさえ彼のイライラを助長した。彼の近くにいたクルーがその様子を目に入れておもしろそうな視線と声を投げてくる。もちろん、彼はすでにグーデリアンの不機嫌の原因に心当たりがあるのである。
「なんだジャッキー。またあのお坊ちゃんとケンカしたのか」
「うるせぇなあ。ほっとけよ!なんだよなあいつ!接触したのはお互いさまなのに、ぜんっぶオレが悪いみたいな言い方しやがって」
「おお、こえこえ。ジャッキー坊ちゃんが怒ると怖くて手に負えねえや」
もちろん全く怯んだ様子もなく大げさに肩をすくめて言うクルーに、グーデリアンは苛烈な視線を送った。そんな様子さえクルーの好奇心を煽るだけだったようで、彼はおどけた仕草で目を丸くした後笑い出し、ますますグーデリアンに苦い顔をさせたのだった。
全くフランツ・ハイネルが絡むと何もかもうまくいかない。
グーデリアンは自分が恵まれた境遇にあることを十二分に理解していたし、誰とでもうまく付き合っていけると自負していた。
それがどうだ。フランツ・ハイネル相手ではうまく付き合っていけるどころか、顔を合わすたびに険悪な仲になっていっている。同じサーキットで走れば接触してリタイヤ。サーキット外で顔を合わせれば悪口の応酬。性格も容姿もドライビングスタイルも正反対で、自他共に認めるライバル、・・・・兼ケンカ相手。
だが、何よりもグーデリアンにとってハイネルという人間が腹立たしく思える原因は、それだけマイナス要因が揃っているというのに、どうしても自分が彼のことを嫌いになれないことだった。
悔しいながらもその走りは認めているし、・・・正直なところ、あのほっそりした体躯で厳しいレースを走りきり、時に自他ともに認める怖いもの知らずである自分をも凌駕するほどのアグレッシブさを見せるドライビングには背筋が震えるほどの衝撃を得ることさえあった。
グーデリアンにとってフランツ・ハイネルはそんな風に無視できず、嫌いにはなれない相手だというのに、どうやら相手は彼のことを嫌っているらしい。そのことがさらに彼の気に障ったのだろう。
「なあジャッキー」
「・・・・なんだよ。まだ何か用か?」
寄らば切らんと言わんばかりのグーデリアンの反応にクルーはまたもや笑いの発作を起こしかけたらしいが、寸でのところで思い留まったらしい。まだ笑みの名残を口元に漂わせたまま、彼は弟を見守る兄のような目をして言った。
「あのさ。・・・お前いっつもフランツ・ハイネルと衝突してるみたいだけど、キライなわけじゃないんだろ?お前が彼のことを心底嫌ってるわけじゃないのは見てれば分かるしな。余計なおせっかいかもしれないけど、いっそのこと一度とことん腹を割って話し合ってみたらどうだ?案外気が合うんじゃないかってオレなんかは思うんだけど」
「そんな機会があったらぜひお話させていただきたいね。あのツンツン頭のメガネお坊ちゃんと。さぞかし有意義な一時が過ごせるだろうさ!」
・・・・・・と、その時のグーデリアンはクルーに食ってかかったのだが、実は『そんな機会』はその会話がなされたすぐ後に訪れたのだった。
「・・・・・」
「・・・・・・・・・」
場所はサーキット近くの関係者用駐車場前である。
彼らは合同テストで顔を合わせていたのであるが(そしてお約束のように接触リタイヤしたのだが)、スタンピードとS.G.Mだけは予定よりも大分遅れて一日の行程を消化した。
ようやくの激務を終え、スタッフたちは全員モーターホームに向かったのだが、グーデリアンやハイネルといったレーサーはホテルに部屋が取ってあったのでそちらに向かうべく自分の車が泊めてある駐車場へとやって来た。・・・・だが、すでに駐車場は閉鎖されていたのである。
すぐにハイネルが携帯で駐車場の管理人へと連絡を取ったのだが、ここに到着するまでに最低でも一時間はかかってしまうとのことだった。
そんなわけで今グーデリアンとハイネルはこうして顔をつき合わせつつも無言で突っ立っているわけだ。
一時間も間が空いてしまうのなら一度モーターホームに身を寄せればいいのだが、妙な対抗心がこんな時でさえも働いてしまい、先にこの場を去った方が負けだ、というわけのわからない暗黙のルールが彼らの間には出来上がってしまっているらしい。
ここに突っ立っているのはいかにも非生産的でおまけに寒い。さりとてライバルに背を向けるわけにもいかず、彼らは延々とこの場に立ち尽くしている。居心地の悪い沈黙が夜の大気とともに彼らを包み込んでいるかのようだった。
サーキットで顔を合わせればすぐにケンカになってしまうのだが、一度マシンを降りてサーキットを出てしまえば彼らは言葉をかけあうことさえできなかった。あれほど口論を交わし、マシンを闘わせている相手だというのに、互いのことについて知らないことが多すぎるのだ。
この奇妙な沈黙が、そのまま彼らの距離を表わしていた。
・・・・相手の姿はいつでも視界に入っているのに、けれど相手の内部については何も知らない。そんな彼らの微妙であいまいな距離を。
「・・・・あのさ」
沈黙の気まずさに耐えきれずに先に口を開いたのは、やはりグーデリアンの方である。ハイネルが無言で緑の目を振り向けた。
辺りはすっかり闇に包まれ、彼らの近くにある光源は頼りない街灯だけだった。そんな薄ぼんやりとした明かりの下でもハイネルのグリーンアイズはやけにクッキリと鮮やかで、不思議にグーデリアンの胸に強い印象を刻みつけた。
その目に意識を奪われたことで、グーデリアンはそういえば相手の顔をじっくりと見つめたことさえなかったのだということに気づく。そして、顔をきちんと拝んだこともないよく知りもしない相手に対して、レース場にいる時はあれほどまでに意識し、執着してしまうのがいかにおかしなことなのかにも。
自分から口を開いておいて、けれどグーデリアンは後の言葉を続けることができなかった。
ハイネルはまだ無心に緑の目を向けてきている。メガネ越しなのに何故彼の瞳はこんなに鮮やかなのだろう。
なんだかその目をまともに見返すことができず、カシャン、と音をたててグーデリアンは駐車場のフェンスに背中を預け、夜空へと視線を逃した。
しんと静まりかえった夏の空。このサーキット上は高地に設定されているので空気が澄んでいるのだろう。頭上に広がっている星々がとてもキレイだ。
白々とした光を放つ星々が、音という音を吸いとってしまっているかのようだった。宇宙にたった一人取り残されてしまったかのような錯覚にとらわれる中、無言でいても互いの存在を痛いほどに感じている。言葉には出さなくてもそのことは強く伝わっていた。
グーデリアンはなおも青い目で名も知らぬ星々をとらえている。昼間の太陽と違って熱を感じさせない夜空の星は、なんだか不思議な力を持っているかのように感じられる。人が願いをかけるのはいつでも太陽ではなく星だ。遠い遠い場所から光を投げかけてくる星々には、人々に神秘的なものを感じさせる何かがあるのだろう。
「あ、今日は木星と金星がキレイだ」
突然静かで張りのある夜の大気をハイネルがわずかに震わせた。グーデリアンはすぐに彼の方を見たが、彼は頭上を見上げたままである。
「ハイネル、・・・星好きなのか?」
自分でも意識していないうちにグーデリアンの問いは勝手に口から飛び出しており、問われた彼は今グーデリアンの存在を思い出したかのようなゆっくりとした仕草でこちらを向いた。街灯が彼の顔を斜めに照らし出していて、白く端正な顔が浮き立って見える。
わずかに色付いて見える唇が開き、少しためらう素振りを見せた後、彼はひそやかにイエス、と答えた。
ハイネルが返事を返してくれたことで気が抜けたのか、グーデリアンはそこでようやく肩の力を抜いた。なんだかヘンに緊張していた自分をおかしいと思う。こんな風に二人きりで、しかも静かに対峙したことなどなかったのでなんだか落ちつかなかったのだろう。
「ハイネル、星に詳しいんだ。だったら時間つぶしに星の話でもしてよ」
「いきなりそんなことを言われても、どこから話していいのか分からない。お前がどれだけ予備知識を持っているのかにもよるし・・・」
ためらいがちではあるが、ハイネルは律儀な反応を返してくる。本当は当たり前のことなのだが、彼でも怒らずに話をすることができるのだと妙に新鮮な感慨を覚えつつグーデリアンはしばらく首をひねっていたのだが、やがて顔を輝かせてこう口にしたのだった。
「じゃあ、じゃあさ、オレ実はガキの頃からずーっと疑問に思ってたことがあるんだけど、教えてくれるか?」
「私で分かることならいいが、・・・・・・一体何だ?」
「あのさ、一時期火星に生命の痕跡が見つかっただのなんだのってめちゃくちゃ話題になっただろ?オレさ、ガキの頃SFとか大好きで、本気で火星に移住したかったんだよな。・・・・火星に移住ってできると思う?」
「・・・・お前らしい、実に下らない質問だ」
ハイネルはしなやかに眉を寄せて気難しい大学教授のような表情を作ったが、ふむ、と生真面目に考え込んだ後こう答えた。
「そうだな・・・火星より先にまず月に宇宙基地を建設した方がいいだろう。地球に近いし、宇宙に旅だっていくための布石だ」
「月?でもさ、月って何にも役にたつもんないんだろ?」
「何を言ってるんだ!月にはイルメナイトがあるじゃないか。イルメナイトからはかなり容易に酸素が取り出せるんだぞ。これを発掘し、酸素を生産するプラントをまず製造するんだ。それから、宇宙に向けて船を飛ばす。火星の表面は酸化鉄が豊富にあるから、そこから酸素を取り出すこともできるし・・・・」
グーデリアンにも前々から薄々分かってはいたことなのだが、ハイネルは普段はあまり口数が多くないくせに、自分の好きなことについて語り始めるととたんに少年のようになってしまうのだった。熱のこもった口調ですらすらと言葉が飛び出してくる。
そんなことがきっかけになって、ハイネルはさまざまな話をグーデリアンにしてくれた。正直言ってあまりにも難解でグーデリアンの理解の範囲を超えていることも多々あったのだが(いきなり『彗星の楕円軌道が』などと言い始められても大抵の人間は困るだろう)、それでもグーデリアンは彼をからかうこともなく耳を傾けていた。
普段ハイネルの怒鳴り声しか耳にしていないグーデリアンにとって、夜空の星のように涼やかで静かな彼の声は、ずっと聞いていたいと思うほどに心地のいいものだったのである。
「ハイネルは何でも知ってるんだな」
ようやく一連の長い説明が終わり、その知識の豊富さと情熱に心から感心したように言えば、ハイネルは慌てて首を左右に振った。その仕草がなんだか子供っぽくてくすぐったい。
きっと彼は、いつでも自信に満ち溢れていて、こんな賛辞など聞き飽きているだろうと思っていたのに。
「たまたま私はいろんなことに興味を持っているだけだ。自分が興味のないものに対しては子供ほどの知識もない。グーデリアン、お前だっていつも私をからかうじゃないか。『世間知らずのお坊ちゃん』と言って」
ハイネルはそう言って笑った。控えめではあったが、掛け値なしの笑顔だった。
グーデリアンが彼にこんな笑顔を見せてもらったことは今まで一度だってない。
銀色のメガネに遮られた緑の瞳は、いつもやたらと冷たく見える。威嚇するかのようにツンツンに立てられている変な髪型ともあいまって、彼はいつでも人を寄せつけないオーラを発しているかのようなのだ。間違っても親近感を覚えるタイプではない。
だけど。
・・・・だけど、とグーデリアンは胸の中でその言葉をつけ足した。だけど、人を寄せつけないからこそ、一度その中に立ち入ってしまえばどんなに自分の心は満たされるだろうかと。
誰にでも向けられる笑顔よりも、たった一人にのみ向けられる笑顔の方がずっとずっと貴重でキレイに見えるに違いない。
そして、さきほど一瞬だけグーデリアンに向けられていたハイネルの控えめな笑顔は、彼のその思いを強く肯定してくれるものだった。なんだかその笑顔がもう一度見たくて、さらに言葉を重ねてみる。
「あのさ、・・・・オレ、この際だから言っちまうけど、正直言ってハイネルの走りが好きだよ。オレとは全然違うけどさ、だから余計に惹かれるのかもしれないな」
「・・・・ありがとう。私も、・・・・好き、と言ってしまうのは抵抗があるが、・・・でもお前の走りは嫌いじゃない」
そう言ってハイネルはまた少し笑った。緑の目が優しく和んでいる。
笑うとかわいいな、とグーデリアンはやけに素直にそんなことを思った。たった今、自分がいかに奇異なことを思ったのかに対する自覚は全くなかった。
ハイネルは笑うとかわいくて、自分はそんなことさえ知らなかった。・・・そして、もっともっと彼のことを知りたいという欲求が涌き出てくる。
なんだか楽しくうれしいような気持ちが心の底から湧きあがってきて、グーデリアンは弾む声を出していた。
「ハイネル、もっとオレに星のこと教えてくれよ。えーと・・・じゃあさ、これもずっと疑問に思ってたんだけど、太陽と地球の間とかって引力があるわけだろ。・・・・引っ張りあってて、くっついちゃったりしないわけ?」
あまりにもグーデリアンの質問が突拍子もなく感じられたのだろう。ハイネルは一瞬絶句してしまったようだった。
「・・・・。そんなことになったら大変だろう・・・・。本当に、私には思いもつかないことを考えつくんだな、お前は」
心底呆れた口調でハイネルが言えば、グーデリアンが子供じみた仕草で唇を尖らせる。その表情に苦笑を浮かべ、ハイネルは答えを提示してやることにしたのだった。気分は子供相談室担当の教師である。
「地球は太陽の周りを回ってるだろう?」
「うん」
「その際に遠心力が生ずる。太陽から離れようとする動きだ。それが引力とつりあってるのさ。離れようとする強さと引き合う強さが同じなんだ」
「それってオレとハイネルみたいだよな」
「は?」
グーデリアンが笑っている。あまりにも楽しそうな笑顔が眩しくて、ハイネルは少し目を細めた。
「オレとハイネルみたいだろ。離れよう離れようと思ってても、何か離れられないんだよな。そうか。オレとハイネルの間には引力があって、それで離れようにも離れられなかったのか。それは知らなかったぜ」
グーデリアンは感心しつつ一人でなっとくしている。ハイネルはますます呆気にとられ、本当に私には思いつかないことを考えつく男だ、としみじみとしたため息とともに吐き出した。
相変わらず肌寒い夜の大気が彼らを取り巻いていたのだが、もう寒さは感じなかった。無言でいた時のいたたまれないような居心地の悪さも、相手に対する妙なわだかまりさえ全て溶けて消えてしまったかのようだった。
自分たちの置かれている状況さえ忘れ、このまま駐車場の管理人など来なければいいとさえグーデリアンは思い始めている。
・・・そして、恐らく自覚はしていないだろうが、その気持ちはハイネルも同じはずだった。いつもは理知的な静かな光を湛えている緑の瞳が、今はレースをしている時のようにキラキラと輝いている。何か本当に好きなものと向き合っている時の目だった。
その緑の目に吸い込まれてしまいそうな思いを味わいながら、その目から視線をそらさずにグーデリアンは口を開いた。
「あのさハイネル」
「?なんだ?」
育ちがいいせいか根が素直なハイネルは、グーデリアンに手招きされるままに近寄ってきた。
グーデリアンは人差し指を『No.1』の形に立てると、ハイネルの目の前にかざした。いぶかしく思いつつもハイネルがわずかに緑の目を丸くしてその指に見入る。
「?・・・この指がどうかしたのか?」
・・・と、ハイネルの意識が指に移った時を見はからってグーデリアンは彼の唇を素早く奪っていた。
目を閉じずにグーデリアンはキスをしたので、驚きのあまり目を見開いたハイネルと視線が絡んだ。
深くはないけれど、それでもお互いの唇の存在を意識せずにはいられない程度の強さはある口づけ。ハイネルの頭の後ろに手をやってもう一度強く唇を押しつけた後、グーデリアンはキスした時と同じように勢いよく顔を離した。
まだハイネルは目を丸くしたままでいる。
「なっ・・・!な、な、何をするんだ!」
「ごめん。引力よ引力。オレとハイネルの間に引力が作用しちゃって、その強さに逆らえなかったんだ」
「そんなわけあるか!」
ようやく我にかえったらしいハイネルは赤くなってゴシゴシと唇をこすっている。けれど、彼が赤くなっているのが照れからなのか怒りからなのか、その表情からは読み取りがたかった。恐らく両方なのだろう。・・・・少なくとも、彼はグーデリアンとキスしてしまったことに嫌悪しているわけではない。
もちろん、例えハイネル自身がそのことに気づいていなくてもグーデリアンは気づいている。ある意味でグーデリアンはハイネル以上に彼のことを知っていた。
「なんかさ、わけは全然わからないんだけど、ハイネル見てたらキスしてみたくなったんだ。ホントにオレとハイネルの唇の間で引力が働いたんじゃない?」
「バカなことを言うなと言っているだろう!」
「まあね。唇の間で引力が働いたっていうのはウソだけど。オレとお前の間の引力はこことここじゃなくて」
そう言って、グーデリアンは自分の唇に指で触れた後、ハイネルの唇に触れた。
ハイネルが目を見開いてグーデリアンを見つめている。見開かれた瞳の緑がとても澄んでいてキレイだった。
そのハイネルににっこりと笑いかけ、グーデリアンはトン、と拳でハイネルの胸のあたり・・・・心臓があるあたりを叩いた。
それから自分の心臓を。
「・・・・・こことここに働いてる」
「心臓にか?」
「心にだよ!」
子供のように憤って言い返してくるグーデリアンの様子がおかしくて、ハイネルは思わず吹き出してしまった。それから小さく冗談だ、とつけ加える。
グーデリアンはほんの少しすねたような表情を見せたが、すぐに気を取りなおしたように笑って重ねた。
「オレとお前の間には不思議な引力が作用してる。オレの心とお前の心に。オレはどんなにお前のこと『すんごいスカしたヤなヤツ』って思ってても無視できないし・・・・なんかさっきなんてお前見てて『かわいいなぁ』なんて思っちゃうし、お前はお前でどんなにオレのこと『騒々しいヤンキー』とか思ってても無視できなくて、あまつさえ『カッコいい』なんて思っちゃうんだ」
「・・・・私はお前のことカッコいいなんて一度も思ったことないぞ!」
「そりゃまだ自覚してないだけだって。お前絶対オレのこと男らしくてカッコいいって思ってるんだから早く気づけよな!」
・・・・・グーデリアンのこの自信は一体どこからくるのだろう。だが、何を言っても憎めないのが彼の魅力であり、否定する気力さえ奪ってしまうだけの強い力が彼にはあった。
どんなに彼の強引さや奔放さに腹をたてても心の底から彼を嫌うことはできないし、自分が彼のことを意識せずにはいられないでいることもハイネルは(非常に不本意ながら)自覚している。
「確かに、ほんっとうに、心の底から、死んでも認めたくはないところだが!」
「なんだよ。そこまで言うことないだろ?」
「・・・・・お前と私の間に、何らかの引力が働いてるのは間違いないらしい。なんていうか・・・『もう二度とお前になんか近寄るもんか!』といつも思うのに、・・・・無視できないんだ」
そのセリフを耳にすると、グーデリアンの顔に会心の笑みが広がった。深淵の闇をも照らし出す明るい恒星のような笑顔だった。
よっぽどうれしかったのだろう。グーデリアンはガバリとハイネルに背後から抱きついた。突然自分よりも体格のいい人間に抱きつかれ、ハイネルの足元がよろめく。暗い中でのことだったので余計に足元がおぼつかず、彼は悲鳴のような声をあげていた。
「ちょっ、・・・・グーデリアン、離せ、重い!」
「だめだめ。オレとハイネルの間には引力が発生しちゃってるから離れられないんだよ。な!」
「何がな!だ。重いって言ってるだろうが!」
「じゃ、ハイネルがオレに後ろから抱きついてくれる?」
「そんなこと死んでもするもんか」
「んじゃーこのまんまな。だって、オレたちの間には引力があるから離れちゃいけないんだし。んー、ハイネルってすげえいい匂いするよな。首すじにキスしてもいい?」
「うわっ、バカ!許可する前に実行するな!くすぐったいじゃないか!」
いつ管理人がやってくるかも分からないというのに、彼らは人目に触れたら問題が起きそうな派手なスキンシップをかわしあっている。
それでもグーデリアンはハイネルに対して初めて親近感を得ることができたのがうれしくてそうしているだけだと自分自身信じて疑っていなかったし、ハイネルはハイネルでいつものグーデリアンの悪ふざけの延長だとしか受けとっていなかった。
大体、潔癖症の彼が同性にキスまでされて、悪ふざけの一言で済ませてしまえるのが異常だということに気づいていない辺りが異常である。
彼らは気づいていなかった。
かの有名なケプラーの法則。太陽の引力は太陽に近づくほど大きくなり、その値は距離の二乗に反比例する。つまり、・・・・つまり、離れれば離れるほど引力の影響を受けずに済むということである。逆に言えば、近づけば近づくほどその値は加速度的に大きくなる。いつか強くなりすぎた引力はブレーキの役目を果たす遠心力など振りきり、暴走を始めてしまうことだろう。遠心力から解き放たれれば、そこに待っているのはひたすら純粋な引力だ。
太陽と地球のように、あるいは地球と太陽のように永遠に引き合い、けれど近づくことのない関係だったら良かったのだ。常に一定距離を保っていれば安全だったのに、すっかり軌道が狂ってしまった。
・・・・あとは引力に引かれるまま近づきあうしかない。
けれど、この時の二人がそのことに気づくのには、もう少しの時間を必要とするのだった。
まず最初に、今回のタイトルは誰か忘れてしまったんですけど、ばりばりのボーイズグループの歌のタイトルからパクりました。早速パクりに戻っている私(笑)。でも、お話を書いている間聞いていたのはSNOWの「The Plumb Song」でした。そんなことどうでもいいですね(笑)。
さらにどうでもいいことではありますが、私の書くグーってまさにキス泥棒ですみません。犯罪者ですみません。ありとあらゆる話の中で不意をついてハイネルにキスしてるのでした。
犯罪者といえば、毎回まいかい毎回まいかい懲りずにワンパターンなお話を書いている私ももはや犯罪者の域では・・・。
さらに犯罪といえば、今回もいつもと同じように長い上にセリフばっかりですみません・・・さぞかし読みにくいだろうと思います。それから、本当は太陽と地球の間にはもちろんもうちょっと複雑な要素が絡んでくるのですが、そこはそれ・・・すみません、私頭悪いのでカンベンしてやってください!(笑)
たちばなさん、いつもステキなお題を下さってありがとうございます。そして、毎回クラッシュしていて本当にすみません!(涙)
全然進歩してないのが悲しいんですけど、ぜひまたリクエストしてやっていただけるとうれしいです。本当にありがとうございました!