※『昼寝をしているハイネルと、それを見守るグーデリアン』というテーマでヘンテコイラストを描いたら、それに合わせてとおこさんがステキな小説を書いてくださったので、小説だけ載せさせていただいています。 



昼下がりの秘め事

                                 
 どうしても気になる人がいる。

 どうしても心騒がす人がいる。

 空気のように軽やかな存在になって、その人の傍に居たいと思うのに。

 きっと、そうなれば存在の耐えられない軽さに、歯がゆさをおぼえるのだろう。

 おこらせたいわけじゃあ、ない。

 気になるから、気にして欲しい。

 いつの間にか、包み込める相手になりたいと願った。

 守ってやりたいのに、それを拒まれたらと不安が擡げる。


 ほんのすこしの勇気と、たった一言に。

 怯える自分が嫌で、心を隠していたのに。

 たあいもない仕種で、絡み取られていくなんて。

 誰も許さなくても、唯一人の人さえいてくれたら。

 夢の中でなら言えるのだろうか。

 夢に見てくれているのだろうか。

 いまは、ただ見守るだけ。

 いまは、ただ居るだけ。

 眼を覚まして欲しいという思いと、まだ目覚めて欲しくない思いが交差する。

 一体、どちらを望んでいるのだろう。

 《スキだよ。》

 聞こえていないから言える、言葉を呪文のようにこの人に呟こう。

 そっと、初恋のように緊張しながら。

 

 先ほどまでグーデリアンに対して激しく怒っていたハイネルは、シンとした居間のソファで目を瞑っていた。

 

【ピンポンパンポ〜ン。ご案内申し上げます。お好みによって、グーデリアン氏の秘め事とハイネル氏の秘め事が、ございます。グーデリアン氏をお好みの方は、このままお進みください。また、ハイネル氏を所望される御方は少々先の方に、お飛び下さい。ご案内終わります。】




 何がきっかけだったのかさえ判らない、些細な事だったはずだ。

 グーデリアンは頃合をみて、部屋に戻ってきて見ればハイネルが一人ソファで眠っているのを見つけた。

 なんだか、小さな子供が淋しさの余り眠ってしまったようだと感じるのは気のせいか。

 いつもなら、とっとと自室に篭ってパソコン相手にデータと睨めっこしているはずなのに、思っても見なかったハイネルの寝姿を見てグーデリアンは嘆息した。

「こんなトコで寝入ったら、風邪ひくぞ。」

 起こさないように呟かれるグーデリアンの独り言。

 さっきまできつく煌いていた碧眼は閉じられて、柔和な寝顔が晒されている。

「どうして、こう無防備になれるんだよ。」

 そっと隣りに身を置けば、ハイネルが無意識に身体を傾いでくる。普段は鉄壁のバリケードを築いて近寄るだけで怒るのに、とグーデリアンはぼやいた。

「ずるいよなぁハイネルは…。」

 そう言いながらグーデリアンの視線は優しくハイネルに注がれている。

 いつだってそうなのだ。もう、やめたと決心をつけても、彼の人は意識しないでいて引き留めるのだから。何気ない仕種一つで、グーデリアンを繋ぎ止める。

 つれないフリして、無関心を装っているのにグーデリアンには判ってしまうのだ。

 この案外に不器用なハイネルが、グーデリアンの一挙手一投足に過剰なくらい反応している事に。

 二人の時くらい、心のよろいを外して甘えてほしいと願うのはダメなのだろうか。

 いやきっと、そんな事思ってもいないのだろう、とハイネルの性格を思い出す。

「潔いのはイイんだけど…なあ、ハイネル。」

 そっと肩に手を廻して、ハイネルの頭を引き寄せる。

 まだ整えられたままに立つハイネルの髪が、グーデリアンの顔を撫でる。

 しなやかな髪は、どうやって立ったままでいるのだろうかと疑問に思えるほど柔らかくグーデリアンの金髪と混じりあう。

「ハイネル…好きなんだぜ。だから、俺を好きになってくれ。」

 耳に吹き込むような、小さな独り言。

 ハイネルを見詰める眼差しは、すこし不安げでそれだけ思いつめて見える。

 何の音もしない部屋で、静かに二人して並び座るグーデリアンとハイネル。

 健やかな寝息を聞きながら、グーデリアンはハイネルの寝顔を飽きずに眺め続ける。

「なあ、好きでいてイイんだろ。」

 答えない彼の人に、問い掛けるグーデリアンの不安な胸のうち。

 じっくり焦らずにハイネルの歩調に合わせたレンアイは、グーデリアンにとって気になるもの。

 やっと振り向いてもらえたのだから、と強気になれないグーデリアンを誰が責めるのだろうか。

 百戦錬磨のツワモノも本命にだけは弱かった。

 だけど、それを知られてなるものかと虚勢を張って過ごすグーデリアン。

 いっその事、それを逆手に取ってハイネルに甘えまくるという手もあるのだが、いかんせん相手がハイネルならば甘えさせてくれそうにない。いや、反対にとっとと捨て去っていくのが目に浮かぶというもの。

 ハイネル本人がどう思っているのかなんて、グーデリアンには判らない。

 目を醒ませばまた、いつものような関係が続くのだ。

「ハイネルは、俺を好きになる。好きになる。好きになる。」

 眠っている間に洗脳してやろうかと、グーデリアンは思いついたまま口にのぼらせた。

 他の誰にも聞かせた事のない柔らかい、声で。そっと、ハイネルのこめかみにキスを一つつけてグーデリアンだけの秘め事が一つ、増えた。

 周りには誰も居ない、静かな部屋。

【お待たせ致しました。ハイネル氏ご所望の御方、こちらよりハイネル氏の秘め事となります。なお、たいした事ではございませんのでお読み終わりました際、モノをなげつけないようお願い申し上げます。ご了承頂けましたでしょうか?はい、では御入りくださいませ。】

 グーデリアンが足音も荒く部屋から出ていくと、ハイネルは深いため息を一つ吐いてソファの上に座り込んだ。まだ処理しなければならないデータは山積みしているというのに、やる気にならないのだ。

 いつものように、キッカケは些細な事だった。

 相変わらずのグーデリアンにハイネルがキレただけなのだが、今回ばかりはハイネルにとって深く気になってしまう。

「どうしていつも、こうなのだろう。」

 自分の性格に嫌気がさす。

 グーデリアンが自分のことを心配して、机から引き剥がそうとしてくれるのは有り難かったが、集中するハイネルにとっては迷惑なのだ。

 いや、集中している時にはグーデリアンの事も頭にないから、迷惑と感じるのだなと自分を分析して見る。

 後になってから、グーデリアンの優しさを気付くのはいつもの事。

 人と交わるのを好まないハイネルは、没頭すれば他人の存在を簡単に消去してしまえる。

「悪いのは、私だよな。これは…。」

 グーデリアンの蒼眼が、きつくハイネルを見据えて言葉も発さずに出ていったのは思ったよりもハイネルには、こたえた。

「あれは、怒っているな…いつもはあそこまで、ならないものな。」

 ハイネルの好きな蒼い瞳は、いつも笑っているのに完全に今日は怒っていたと判る。

 反省はするが、いざグーデリアンを目の前にしたら絶対謝らないだろう自分に、再び嘆息した。

 暖かいはずの部屋が、一人になっただけで寒寒しく感じる。

 肩を落として、眼を瞑ったハイネルは幼く見えるが本人は気付いてもいない。

 好きなマシンの設計も頭に入っていない。

 ただ気になるのは、謝りたくても謝れない相手。

「こんな私のどこがいいのだろうか…。」

 いつも相対する人間に気疲れさしてしまうのを知っている。

 気心が通じた人間ならばハイネルの良さとして受け入れてくれるが、あの人に囲まれるのが当たり前なグーデリアンがどうして自分に拘るのかが、判らない。

 いつになく、落ちこんでしまうのは何故だろう。

 とっとと、他の人間と同じように切り捨てれば済む事なのに。

「ああ、拘っているのは私の方か。」

 どこかで冷静な自分がいるのを、ハイネルは笑ってしまう。自分でも自分を持余す時があるのによくもまあ、あのグーデリアンは相手をしてくれるものだ、と苦笑した。

 グーデリアンの事が気にならないことは、ない。

 自然と眼が彼を追ってしまうのだから。

 眼鏡一つを盾にして、ハイネルは何気ないフリでいた。

「私のことを…好きだと言ったくせに。」

 小さく呟かれる、八つ当たり。

 こんな感情いらなかったのに、責任をとれと言いたくなる。

 どうして放っておいてくれなかったのだろう。

 一人で居るのがこんなに淋しく感じるなんて、なんて理不尽だ。

 だんだんと瞼が重くなって、考えることも八つ当たる事も放棄してハイネルはいつしか眠ってしまった。

 暫くすると、誰かが部屋に入って来たような気がしてハイネルの意識が浮上する。

 まだ眼を開けるまではいかないが、微睡むような心地よさに誘われてハイネルはそのままそっと眼を閉じていた。

 隣りに人が座ったのを感じながら、ぼんやりとグーデリアンが帰ってきたのだな、と思う。

 温かい存在に、擦り寄りたくなって僅かに隣りへ身をまかせた。

 寝ぼけているのだ、と自分で感じる。

 人肌が恋しくなるほどの、年頃はとうに過ぎたのだから。

 隣りに座った人物が、ハイネルが寝やすいように頭を凭れさせてくれた。

 それが嬉しくて、ハイネルの寝顔に笑みが浮かぶ。

『………スキナンダゼ。』

 耳に心地よい声が、子守唄のように聴こえてくる。

 そっとハイネルの心のよろいを溶かすように、沁み渡る。

《ワタシモ、スキダ。》

 完全に醒めていないハイネルは、素直に同意する。

 その後に続くグーデリアンの弱音も、ハイネルを包み込んでいく。

 あのグーデリアンが不安がっている?本当に?

 普通ならば、相手が不安がれば足元が心もとなく感じるだろうにハイネルには、心地よいだけであった。自信なんてナクテイイ。

 ただ、その想いがあるのなら…本当なのならば。

《なんだ、一緒ではないか。》

 グーデリアンの独り言にハイネルは、情緒不安定だった事も忘れる。

『好きになる・好きになる・好きになる…』

 グーデリアンの声を聞きながら、ハイネルはそれを子守唄に安心して再び眠りに陥った。

《私は人が居ると眠れないって、言ったよな。グーデリアン…。》

 そっと心の中で呟くそれは、ハイネルにとって告白と同じ位のものだった。

 だけど、何故だかくやしいから何時か口にする日まで、教えてやらない。

 昼下がりのハイネルの秘め事。

 

 目が覚めれば、いつもの日常が始まる。

                                        おわじ。




 とおこさん・・・あんなへぼイラストで、こんなステキなお話を・・・!なんか申し訳なさすぎてどうしようっていう所ですが、ここは素直に喜ばせていただきます!本当にありがとうございました。
 御本人は『私にラブラブなグーハーはムリ』とおっしゃってましたけど、このグーハー、すごいラブラブじゃないですか!いいですよね、こういう、さりげない愛情に満ちた二人って。
 どこかまだ完全に相手に自分をあけ渡すことができないでいる二人って、とてもステキです。微妙な頃ですよね・・・うっとりしてしまいます。
 とおこさん、本当にありがとうございました!そして、お話はいつもとてもクールでカッコいいのに、メールなどの文面を拝見すると、とてもファンキーなとおこさんの奥深さに、私はいつも(その魅力にあてられて)クラクラしてしまいます!(笑)
 えー、最後に、このステキなお話をお読みになった皆様へ。・・・途中で入るお茶目なアナウンスは、とおこさん御本人がお入れになったのです!犯人は私じゃありません!(笑)



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