SNOWDANCE
「じゃぁ、俺がお前の大事なシュティールのドライバーだったから、仕方なく付き合ってくれてたって事か?俺のメンタルバランスが整うのなら俺がどんなヤツと一緒に居ても…」
「うるさいっ、邪魔をするなっ!行きたければどこにでも勝手に行けば良い、誰とでも好きな事をすれば良いじゃないかっ!!」
これ以上用は無いとばかりに背を向けてデスクに着いたハイネルの緑柱石の瞳は既に流れる文字を追い始めていて、佇むグーデリアンの存在を完全に断絶してしまっていた。
時間に追われているハイネルには、俯き、そっか…邪魔してゴメンなと、溜め息と共に吐き出された言葉を聞き取る余裕など無かった。
忙しく動かした為に引きつったように筋が固まっている指を、もう片方の手で揉み解しながら時計を見上げれば予定締め切り時刻を遥かに下回ってデータ送信を終了出来た事を知る。
これで後はファクトリーに駐在するスタッフの作業を待つのみで、とりあえずその日の作業が完了した事になる。
同一体制で長時間作業をしていたせいで固まってしまった体中の筋肉を解すように伸びたりしながらハイネルは寝室へと階段を上った。
入浴を終えた後での作業だったので如何せん身体が冷えてはいたのだが、疲れきった躯は安らかな睡眠を欲していたし、何よりグーデリアンとキングサイズのベッドを分け合って同衾するようになってからというもの、以前は手放せなかった暖房器具類は不要となって久しい。それ程にグーデリアンは暖かいのだ。
それに、先ほどは急いでいたとは言え、酷い言葉をぶつけてしまったという自覚はある。面と向かっては生来の気性も相まって素直に謝る事はできなくても、ベッドの中で彼の暖かい腕の中でなら素直に謝れる。
そう思い、寝室の扉を開けたハイネルは愕然とする。
「グーデ……」
ベッドは無人だった。
それも、ベッドメイクに乱れは無く、全く使用していない事を知らしめ、何やかやと並べ立てるのを嫌うハイネルが唯一ベッドサイドに飾る事を許したパネルが無くなってしまっている。
もしかすると、同居すると決めた当初、グーデリアンの寝室と決められていた部屋で眠っているのでは?との希望的観測も、扉を開いて打ち崩された。
「あら、お兄様。いつにも増してお顔の色が優れませんわよ?」
顔を合わせるなりリサは驚いた様子で、だがどこか芝居掛かったような顔で言ってのける。それ程に酷いだろうか、と問えば差し出された鏡。
映るのは眼窩の落ち窪んだ土気色の顔。
覗く鏡に見なれた姿が横切る。
「っ、グーデリアン!!」
しかし、叫んだ声は彼の人には届かず、緩まない歩調でグーデリアンは遠ざかる。リサの存在を脳裏から欠落させきってしまったハイネルは、驚く妹を省みる事無くグーデリアンを追い走った。
人と人との壁を掻き分け、冷静沈着というイメージが定着しきっている彼の全力疾走に驚く面々に構う事無く駆け抜け、眼前に見えた角を曲がる。
「グー…」
そこには誰も無く、開き放たれた扉から覗く薄墨で描かれたかのような世界が目の前に広がり、真冬の冷たい風が舞い込んでは威圧するかのように肌を突き刺す。
そっと扉から伸びる外界への階段に足を掛けてその身を風に晒せば、吹き荒れ耳を劈く風の音が嘗ては自分の耳で直に感じていたエキゾーストを思い起こさせる。
今は遠く曖昧になってしまったクレイジー・ビート。
瞼を閉じれば今も蘇る灼熱のアスファルト。浮かび上がるジャーマンシルバーの車体と行き交うスタッフやドライバーが作り上げる喧騒、そして真夏の青空のような瞳。
「グーデリアン……」
「ミスターなら随分前に外出したわよ」
呟きに応えを受け、驚き振り返れば腕を引かれて目の前に広がっていた真冬の景色から引き剥がされ、重い扉が閉じられる。
「リサ…」
「リサ…じゃないわ!風邪ひくじゃない!体が弱ってるんだから気を付けなきゃダメでしょ?!」
「でも、さっきここを…」
言い募るハイネルにリサは同じ緑色の瞳に困惑の色を添え、長身の兄を見上げた。
「お兄様、本当にミスターは朝こちらに顔をお出しになった後、お出かけになったの。きっと見間違いですわ。お疲れなのね」
そう言ってリサはハイネルの手を引いて仮眠室へと向かった。
陽は落ち、すっかり夜の帳に包まれた街並みを色取り取りのイルミネーションが照らし出す。
道行く人々は皆幸せそうな笑みを浮かべている。
店先のショーウィンドーを覗き込む少女。
花束を選ぶ青年。
そんな、もうすぐ訪れるクリスマスに心躍らせている街並を、刺すように冷たい風に襟を立ててハイネルは歩いていた。
道行く人々が酷く幸せそうで、たった一人で歩いている自分は酷く惨めなような気持ちになってしまっていた。自然と俯きがちになってしまっていたハイネルの頭が何かにぶつかった。
謝ろうと顔を上げたハイネルの視界に飛び込んできたのは、よく見知った二人。
一人は燃え立つような赤毛を高く結い上げ、普段は洗顔だけで適当に髪を結っただけという出で立ちなのに、今は白いかんばせに映える深紅の唇で、それが隣の男がその耳に何かを囁く度に楽しそうに引かれる。
その隣の男はといえば、腕を取る女性の漆黒のドレスに併せたような宵闇色のスーツに身を包み、普段は収まりの悪い蜂蜜色の金髪を厭味でない程度に撫で付けている。
「ルイザ、グーデリアン……?!」
しかし、二人はハイネルの姿など見えないかのように囁きあい、微笑み交しあってハイネルの前を通り過ぎる。
風が動き、グーデリアンの肩口から彼愛用のものとは違うコロンが嗅ぐって来てハイネルの目の前に奈落が広がる。
確かに今まで数多の女性と付き合いがあって紙面を賑わせた稀代のドンファンで、甘ったるいコロンを身に纏った状態で二人の棲むフラットへと戻って来た事も多々あったが、今嗅いだコロン以上の衝撃は無かった。
それはAMARIGE〜愛される人〜と名付けられたコロンで、それを使用しているのはただ一人、今グーデリアンに幸せな笑顔を見せているルイザ、その人だった。
見つめ合い、微笑み合う二人の距離が次第に縮まり、天空の青はそっと瞼に隠されて、深紅に染められた唇へと己のそれを重ねんが為に顔が微かに傾けられる。
「―――――っ!!」
目の前に広がるのは無機質な天井と、消毒液臭く薄暗い室内の中で唯一光彩を受けている窓だった。
「ここは……」
一人言ちて、自分が医務室に運ばれた事を思い出す。
あの後、余りに酷すぎる顔色を心配したリサが医務室へと導こうとしたのを拒むつもりで彼女の腕を伸び上がって掴んだのだが、そんなやや早い動きにさえ耐えられない程にハイネルの精神は擦り切れていたようで、そのまま視界が真っ暗になってしまったのだ。
驚愕して泣き叫ぶリサに”大丈夫だ”と言った所までは辛うじて記憶があるのだが、その後は、ここが医務室だという事からして、運ばれて脈など簡単に検査した後、ただの過労ということで寝かされていたのだろう。
起き上がり、ベッドサイドのテーブルに畳んで置かれている眼鏡を取り上げる。そんなハイネルの新緑の瞳が眼鏡から窓越しに広がる景色へと移り、見開かれ、そっと足を下ろして窓辺へと歩み寄る。
「雪……か」
室内の照明が無い状態でも十分光彩を採れる程に明るい外界の夜景に見惚れたように、ハイネルはその白く長い指をもって窓の施錠を解き、欄干に積もった雪にそっと触れる。
触れれば途端に消えてしまう白い雪。
ハイネルの指先の熱を奪うように水へと姿を変え、一部分ぽっかりと穴が開いてしまった。そんな状態に見入ってしまっていたハイネルは、はたと我に返る。
冬場に降水量の多い国であるが故にタイヤなど積雪用のモノを積んではいるが、ハイネルの目算でも雪は1〜2メートルは積もっていそうだ。
溜め息を一つ吐き、徒歩にて帰る事を決めたハイネルは、医務室の責任者へ謝罪と感謝を記したメモを残し、そこを後にした。
当初は冷たい、と感じていた風が、次第に痛いと思えるようになり、遂には感覚を失ってしまった。
降雪は止んだものの、已然吹き荒れる風は身を切るような冷たさで、差してはいても吹き飛ばされそうだった傘は既に閉じられており、そんな凍てつく風からハイネルを守る物は何も無い。
ファクトリーから彼の住むフラットまでは車で十数分足らずという距離なのだが、既に柔らかく積もった雪の下では凍りついたアイスバーンが精製されており、思わぬところで足を取られたりして、中々先に進めない。
既に暗闇に侵食されつつある中、静寂に包まれた夜道は酷く寂し気で、重い足と相俟って気持ちを沈ませるに十分だった。
「結局、謝る機会は無かったな…」
我知らず呟き、ハイネルはハッとして眼前に迫ったアパルトマンを見上げた。
そして、青褪めた瞼は更に色を失い、その新緑の瞳を隠してしまった。
「グーデ…リアン・………」
ハイネルの瞳が見つめたものは、5階建てアパルトマンの4・5階を改築して作り上げた二人の部屋。
アイボリーの壁紙はグーデリアンの意見で。薄い若草色のカーテンはハイネルの趣味で。二人の様々な意見を持ち寄って作り上げられた部屋は、こんな時間だと言うのに灯り一つ点いていなかった。
ゆっくりと下ろされた顎が胸に付き、ゆっくりと膝が折られ、雪に腹這う。
何故、こんな事になってしまったのか。
あの日、確かに忙しかった。酷い言葉も吐いた。しかし、それは一つの事物に向かえば何も見えなくなってしまうハイネルには良くある事で、過去に何度と無く同じ事で話し合い、許しあってきた。
それなのに、何故今回は弁明の一つも聞かずに去っていったのか。
「グー…」
「…ハイネルっ?!」
寒さゆえの幻聴かと思った。
振り向けば寒冷地仕様のボア付きアーミージャケットを羽織り、いつものスニーカーをブーツに替えたグーデリアンの幻覚まで見える。
「ハイネル、大丈夫か?!今日ファクトリーで倒れたって聞いたけど、未だ具合が悪いの?!ハイネル?」
「…ぅ……いのか……」
「え?」
駆けつけ、肌を凍らす雪の絨毯の上から抱き起こした愛しい人は紫に変色した唇で何かを呟いた。しかし、聞き取れず問えば見上げてくる双眸から止め処なく零れ落ちる涙。緑柱石の瞳を溶かし込んだようにキラキラと街灯の僅かな光を受けて輝くそれに、グーデリアンの胸が締め付けられる。
「もぅ…私は要らない者なのか?」
「はぁっ?!」
思わず大きくなってしまった声に、ハイネルの痩身がビクリと目に見えて震えた。
驚かせるつもりは無かったのだが、余りの言葉に思わず声が大きくなってしまった事に打った舌打ちに、ハイネルの躯は更に縮こまる。
「だって…パネルが……それに荷物も………」
とうとうと流れ落ちる涙と、それに共感したかのように降り始めた霙交じりの雪にグーデリアンは天を仰ぎ、大きく息を吐いた。そして徐に背に回していた腕とは反対の掌をハイネルの膝裏に通し、驚くべき膂力で立ち上がった。
「グ…ッ?!」
「舌噛むから黙ってな」
言うなりグーデリアンはハイネルを横抱きにしたままアパルトマンの入口に向けて走り出した。
「いいか、鳩尾辺りまで浸かるんだ。それが一番温まる方法だから」
そう言ってグーデリアンは一糸纏わぬハイネルの肩に適度な暖かさを持つタオルを掛け、腰から下をバスタブに張った湯に浸からせた。Please、とハイネルの凍え、冷たくなってしまった頬に唇を当てたグーデリアンはそっとバスルームの扉を閉じた。
残されたハイネルはジンジンと痺れる手足に辟易しながらも、言われた通りに湯船に浸かった。
氷がゆっくりと水へと姿を変えるように凍てついた躯と頭とが解されれば、余りに突飛な己の行動に赤面を感じ得なくなってしまったハイネルは、先程に比べて数段スムーズに動かせるようになった四肢の水気を拭い去り、用意されていたバスローブを身に纏った。
そっと猫が歩くように足音に細心の注意を払ってバスルームの扉を開けば、鼻腔を擽る甘い香りが漂って来た。
それはハイネルには馴染みの深い香りだった。つい仕事にのめり込み過ぎて寝食を忘れてしまいがちなハイネルの為に、夜中、グーデリアンがそっと運んできてくれるホットミルクの香りに他無い。
「何だって、こんな……」
呟けば再び胸を刺すような痛みが蘇り、涙腺が緩んで視界が歪む。
切り捨てるのなら、こんな情けは掛けないで欲しい…
堪えきれず落ちてしまった涙が、先程まで身を打っていた霙混じりの雪を思い起こさせ、泳がせた視線の先、ベランダへと続くガラス戸があるのに気付き、引き寄せられるようにハイネルの白い爪先は進む。
カラ…とほんの小さな音を立てて扉が開けば、吹き込んで来る雪。そして、そんな小さな音に弾かれたように飛び込んできた、今一番逢いたく無い男。
「ハイネルっ?!」
恐ろしいまでに強い力で引き戻され、割れるのではないかと危惧してしまう程乱暴にガラス戸は閉じられ、ハイネルの痩身は再びグーデリアンの両腕に抱え上げられ、バスルームへと戻されてしまった。が、
「グ、グーデリアンっ?!」
ジーンズに下着代わりのリブシャツ、その上にタンガリーシャツを羽織ったまま、グーデリアンはバスローブを纏ったハイネルを抱えたまま、先程のバスタブに身を沈めたのだ。
慌て藻掻くハイネルに有無を言わせぬ力を込め、グーデリアンは抱きしめた痩身の薄い肩口に頬を埋めた。
「ハイネル…何でだよぉ……そんなに俺と居たく無いの?」
小刻みに震える蜂蜜色の金髪が頬を掠め、肩口に冷たい雫が落ちるのを感じた。
「俺、ハイネルにちゃんと休んで欲しかっただけなんだ。リラックスして欲しかっただけなのに、邪魔をするなって…どこにでも勝手に行けって……」
痛い程に抱きしめていた腕の温もりが消える。
俯いたまま、濡れた髪から雫を落とすに任せたままで、グーデリアンは立ちあがり、カランを回して適温に設定された湯をバスタブへと落とす。
濡れて重い服を纏ったまま、重そうな足を引き上げてバスタブを出たグーデリアンは、ハイネルを一瞥する事も無くドアへと足を向ける。
湯の落ちる音。
ドアが開く音。
幾多もの音が存在するハズなのに、ハイネルの聴覚は麻痺したように何の音も感知せず、ただ、後手に扉を閉じたグーデリアンの言葉だけが痛い程に木霊していた。
「もう、邪魔しないから―――」
言葉が視聴覚野に浸透し、漸くその意味を理解したハイネルは重いバスローブを物ともせずバスルームを飛び出した。
スリッパも履いていないというのに、空調も効いていない廊下の冷たさなど感じる余裕も無く、ハイネルはグーデリアンの私室をノックも無しに開いた。
「グっ!!……」
そこには誰の姿も無かった。
そう、あの日、グーデリアンの姿を探して来た時と何ら変わらずガランとした殺風景な様子を呈しているだけだ。
と言う事は、グーデリアンは着替えも無く、濡れたままでこのフラットを飛び出したのか?!
「グーデリアンっ!!」 ハイネルは踵を返し、濡れたローブの紐を解きながら叫んだ声が静かな室内に木霊し、着替える為に自室のドアノブに掌を掛けたハイネルの視界を見慣れた金髪が過ぎる。
「…呼んだ?」
振り返れば訝しげなグーデリアンの表情。そしてその天空の青を思わせる瞳に映る、驚愕に満ちた己の顔。
先程と似通った色のジーンズに黒いリブシャツを着ただけで急いで駆けつけた態のグーデリアンに、更に深まる疑問。
「どこで着替えたんだ?」
問えば傾げる首。
「俺の部屋」
「だってお前の部屋は…」
流されたハイネルの視線に、訝しげに見つめていた青い瞳が突如見開かれ、そしてハイネルの大好きな悪戯っ子めいた笑みが浮かんだ。
「ハイネル、着替えないと風邪引いちゃうよ。ステイツのマムがハイネルの分のタンガリーも送ってくれてるから、それ着なよ」
そう言って冷たい廊下に立つハイネルを再び抱き上げ、隠し扉を開いて、現れた階段を下がった。
そしてキッチンの在った場所に新しく作られた部屋の扉を器用に肩で開ければ、簡易ベッドと文机、そして、寝室から消えてしまったパネルが目に入った。
グーデリアンはハイネルをそんなベッドに下ろし、作り付けのクローゼットから白い袋を取り出し、ハイネルへと差し出した。
しかし、ハイネルはグーデリアンの顔から視線を離さない。
グーデリアンもハイネルの隣へ腰を下ろし、溜め息を飲み込んでハイネルの深緑の瞳を覗き込んだ。
「もしかしてハイネル、忘れてる?」
忘れてる?と尋ねられた瞬間に思い出した。
二人の住んでいるアパルトマンには様々な人が出入りし、無論、来客も多い。
以前SUGOの風見が加賀と共にやって来た時の事。
ハイネルの執務室は4階にあり、居間や寝室は5階に配置されている。その為、親しい友人などは5階に招きいれられるのだが、彼の好奇心旺盛な少年は事もあろうか各人の私室だけでなく、二人の寝室までも見て周ったのだ。
実はハイネル以上にプライバシーと言うものに煩いアメリカン人は、寝室を4階に移す事を提案し、それを実行に移したのだ。
と言うのも、4階から5階への階段は露見ているのだが、5階から4階への階段は扉で隠されており、如何に彼の少年でも容易く見つけることは出来ないだろう、と考えられたからである。
ただ、この所忙しく働いていたハイネルには部屋を移動させるだけの余力が無かったのだ。無論、親しき中にも礼儀がある事を理解しているグーデリアンはハイネルの私物を動かしたりする訳は無いので、彼の部屋だけが未だ5階に在るのである。
「そうか…だから―――」
呆然として呟くハイネルの濡れたバスローブを何時の間にか奪い去ってしまっているグーデリアンは白い袋の中から深い翠とオレンジを基調としたタンガリーと取り出し、彼の肩に掛けた。
「でもね、流石に俺も今回は自信が無くなっちゃったよ…俺、ハイネルの傍に居ても良い?」
見上げてくるのが冷たい蒼では無く、情け無さそうな青い瞳だったから、ハイネルは素直にその広く厚い胸にコトリと頭を預け、瞳を閉じる事が出来た。
それがグーデリアン流の、意地っ張りなハイネルへの譲歩だと知っているから。
「寒い…」
「え?!冷えちゃったかな…風邪引いてなきゃ良いん…」
「寒いから、もう動けない」
そう言って漸く青い瞳と対峙した深緑の瞳は、言葉と違って赤く熱を帯びた目元と相俟ってグーデリアンを苦笑させる。
「そうだね、じゃ、俺のベッドに入ってなよ。ミルクを温めなおして持って来るから、待っててね」
言葉を待たずにハイネルは逃げるようにベッドシーツを捲って潜り込む。途端に鼻腔を擽るホワイトムスク―グーデリアンの香り。
バタンと音がしてグーデリアンが出て行ったのを感じてチョコンと顔を覗かせば、窓から見える雪景色。
先程までの冷たく凍てついた情景が嘘のように、優しく心和ませるように見える。
「気持一つで、私も何とゲンキンな……」
降りしきる雪は止む気配を見せず、段々と効き始めた空調の暖気や、大好きなグーデリアンの香りに包まれて、ハイネルはこの所疎遠だった心地良い睡魔に、抗う事無く身を委ねた。
皇飛楓さんのHPにてキリ番を踏み、書いていただいたリクエスト小説です!お題は『雪が出てくるお話』でした。とってもステキなお話ですので、皆さんにも読んでいただけてよかったです。私一人で楽しませていただくの、もったいなさすぎですよね・・・。
グーデリアンを失ったと思い込んで心を痛めているハイネルの姿がとても切なかったんですけど、最後にはグーデリアンの暖かい愛情に包まれている姿を見ることができて、とても幸せな気持ちにさせていただきました。雪って、冷たいんだけれども、どこかホッとするような優しい気持ちにさせるような所もあるように感じられるので、このお話全体の雰囲気にとてもあっていてステキだったと思います。
飛楓さん、ムリを言いましたのに、とても読み応えのあるお話を下さってありがとうございました!このステキなお話を皆さんと分かち合うことができて、私もうれしいです。たまにはいいコトするな、私も!(笑)