Pray Day

 何度目の冬だろうか。
 今ではすっかり馴染みになって当たり前にある男の姿に、ハイネルはそっとため息をついた。
 外は雪。
 ここドイツのシュトュッツガルトはクリスマス市もすっかり終わり、静かな聖夜を迎えようとしている。
 郊外にあるシュトロブラムス社テストコースも例外ではなく、ハイネルもチームスタッフに休みを出すため、自宅で待機になっている。
 「…グーデリアン、今年もアメリカに帰らなくていいのか?」
 ソファに腰掛けてテレビを見ている後姿に声をかければ、「ん?」と不思議そうな顔をして男が――グーデリアンが振り返った。
 「別に?」
 「…私にも、お前の家族への対面というものがあるのだぞ」
 渋面で言ってもカラカラと笑いが帰ってくるだけ。
 「誰もそんなこと期待してやしないさ」
 そしてまた、下らないバラエティ番組に視線を戻した。

 こうして二人でクリスマスを過ごすようになったのは、一体いつからだったろう。
 つい最近のような気もするし、かなり昔のような気もする。
 ハイネルは以前よりも心持ち白味が強まったトウモロコシ色の金髪を見遣った。
 本当は…忘れるわけがない。
 ハイネルが初めてサイバーフォーミュラに参戦した年の冬、何故かドイツの、しかもハイネルの実家に押しかけて…文字通り、「押しかけて」来たのが最初だから、今年で延々と15回目になる。

 『ハイネル、誕生日なんだってな〜!俺が祝ってやるよ!』
 『はぁ?!何故キサマに祝ってもらわねばならんのだ!』
 『え〜?だって、ハイネルちゃんはどうぜオトモダチなんかいないでしょ〜?』
 『キサマに祝ってもらうくらいなら、犬と一緒に過ごす方がまだマシだっ!』
 『ん〜、もぉ!照れちゃって〜!遠慮するなって!』

 …思い出しても腹が立つ。
 だが、と思わずハイネルは口元に微苦笑を浮かべた。
 この男のおかげで、どれだけの自分が救われただろう。
 
 速く走れない自分への焦燥感からも、速く走らせてやれない彼への罪悪感からも。
 この静かな季節に、ひとりでいることから救い出してくれたのは、いつも彼で。

 「…誕生日など、もう祝ってもらう歳でもないのだがな」
 珍しく湧き上がった感傷を振り切るように叩いた憎まれ口に、冬の高い空の色をした瞳が穏やかに向けられた。
 「誕生日っていうのはな、ハイネル。そいつが生まれたことを神様に感謝する日のことなんだって、牧師さんが言ってたぜ」
 「お前が牧師の言葉を聞きに教会に行っていたとは…そちらのほうが驚きだな」
 「…オレだって、子供ん時は連れて行かれてたの」
 「いや、それよりもさらに、その言葉を覚えてたというほうが奇跡か。アメリカには女性の牧師もいるらしいしな」
 「どーゆー意味だよ」
 不貞腐れた顔でソファの背にあごを乗せるグーデリアンに、さぁなと答えてハイネルはコーヒーの入ったマグカップをふたつ手に取る。
 への字に曲がった口元に差し出されたそれに手を伸ばして、機嫌を直したらしいグーデリアンは、にっこりと笑った。
 「ま、とにかく、そういう日らしいから、オレにはハイネルの誕生日を祝う権利があるってこと」
 「?」
 ソファに座るため回り込んだハイネルの手をそっと引き寄せ、グーデリアンはやさしく囁く。
 「だって、ハイネルが生まれてこの世で一番感謝してるのは、絶対にオレだろうからな」
 
 ――I wish to express my gratitude for your having given birth.

 窓の外では雪が、そっと降り積もり続けていた。


END    そう、昨年はサイバー放送から15周年でした…



 すみません・・・(のっけから謝罪。笑)。暮川さんのサイトでキリ番を踏み、図々しくもキリリクをしたのは私です!(笑)
 読んでいただくとお分かりの通り、リクエストはハイネルのお誕生日、でした。

 グーがさりげなく(ここが重要)見せてくれる愛情がたまりません。暮川さんご本人にもお伝えしたんですけど、誕生日を祝ってもらう権利ではなくて、祝う権利があるってさらっと言えるのがグーがグーたる所以ですよね。カッコよすぎ!
 ハイネルが本気でうらやましいです(笑)。ふてくされた表情でちょっと少年ぽいところもありつつやっぱり大人の男なグー。カッコいい!(こればっかでホントすみません)

 そしてサイバー放送15周年だったんですね、昨年て。これだけ長く人々から愛されるグーハーは偉大です。偉大なので早くグーハー主役のOVAを作って下さい(笑)。

 話がそれましたが、ハイネルのお誕生日にふさわしい素敵な短編を下さり、暮川さん、本当にありがとうございました!


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