悩める星の王子様
「なぁ、なぁ、ハイネル。
もしさ、1位でフラッグを受けたら・・・」
レース前の熱気と歓声にかき消されないように、顔を寄せて直接オレに指示をしてくれるハイネル。
指示が途切れたのを見計らい、思い切って話しかけた。
オレの、想いを託して。
なのに。
「そう焦ることは無い。
まずは、完走だ。
他のマシンとの比較をこのレースでは重要視したい。
お前はリタイア率が高すぎるからな。
実際の走行データが私には必要だ。
かといって、表彰台をみすみす逃してまで完走をしろということでは無いぞ」
レース前だというのに、揺らぎの無い冷静な瞳。
眼鏡越しに、オレの口を封じこめる。
レース直前。
オレの気持ちは逸りすぎて、しかも今回はハイネルのマシンに乗っているから全然冷静でなんかいられてないのに。
浮つきすぎだと、その瞳がオレに釘をさしてくる。
そう、だな。
まずは、結果を残さないと。
ハイネルの目には、レース中、オレはただのチームドライバーとしてしか映らない。
シュティールを走らせる部品のひとつとカウントされているだろう。
私の選んだドライバーだと、このチームの行く末を面白おかしく書きたてようとしている記者たちに胸を張って言ってもらえるくらいにはならないとな。
わかってると、ハイネルに向かってウィンクひとつ。
インカムでメカニックスタッフと計器メーターの確認に入る。
まずは、初戦。
このシュティールの勇姿を全世界に見せつけてやる!
第11回大会が近づくにつれ、監督室での雑務とメカニックチームとの細かな調整に追われるフランツ・ハイネルーシュトロゼック・プロジェクトの監督。
一方、筋力トレーニングやひたすらマシン走行を繰り返すメニューを押し付けられ、毎日ハイネルに届けていた夜食の配達まで止められたオレ、ジャッキー・グーデリアンーシュトロゼック・プロジェクトのエースドライバー。
以前は、ライバル。
ちょっと前は、チームメイト。
今は恋人・・・のはずなんだけど、自信は日々薄れて消えかけてる。
キスすらこの1ヶ月、数えきれるくらいしか交わしていない。
身体なんて・・・まるでハイネルに試されるように監督室でしたのが最後。
がっついて余裕の無いオレの汚名は返上されないままだ。
別チームに所属していた頃より、もっともっと接触できると思っていたのに・・・
ここ1ヶ月以上、同じチームに所属しているのにプライベートで甘い会話を交わした記憶が無い!
張り付くようにスタッフがお互いの周りを固めているせいもあるけど、ハイネルの疲労があまりにひどくて・・・目を離すとオーバーワーク。
無理やり病院に連れて行ったり、仕事を取り上げたり。
その結果、心配しているオレの気持ちも知らないで・・・邪魔をするなと喧嘩になることが多くて次第にキスさえ出来なくなっていた。
オレって報われない・・・
振り返った過去のオレの可愛そうさに心の中でため息。
それにしても、飲みすぎた〜
ガンガン鳴り響く頭痛。
レセプションパーティのあと、ハイネルを捕まえられないままカンポグランデの酒場で加賀やブーツホルツと泥酔。
っていうか、ヤケザケ。
翌日に残るような飲み方なんて、ここしばらくしてなかったのに。
オレ・・・なにやってんだろ。
レース前、1位を取れたらオフの時間をくれって言おうとしたのに結局ダメ。
1位を獲得してから、おねだりしてみるのもいいかなんて、考えて。
結果は、ランドル坊ちゃんに勝てずに第2位。
チームの皆は喜んでいたけど・・・あのハイネルが、2位になったオレのおねだり聞いてくれるとは思えないし。
レースのあった夜はひたすらバカ騒ぎをしていた以前のチームと違って、さすがハイネルのチーム。
当日中に撤収作業を終了して、すでに次のレースに備えて移動準備も万端。
スタッフによっては、すでにオフに入ってこのブラジルの地で息抜きをしている。
オフ中の各自のスケジュールは、チームリーダーは自分のチームスタッフしか把握して無いらしいし、全て把握しているのは監督であるハイネルだけだ。
そのハイネルが、パーティの後に捕まえられなかった、てことは。
オレがハイネルのスケジュールを知る術はないってことだ。
ハイネルには、オフ後しか会えないのか〜
シュティールデビュー戦のことで、絶対本社から呼び出されてるだろうし。
昨日のパーティでも、どっかのお偉方と談笑したり忙しそうだった。
記者も、新システムを聞き出そうと付きまとっていたし。
移動期間中も、ハイネルのオフは無さそうだな。
あー、テンションだだ下がり!!!
転がっている小石を蹴飛ばして、関係者の一部しか残っていないサーキットを歩き続ける。
昨日とは全く違う閑散としたそこを歩きながら、他チームの居残りスタッフと挨拶をかわす。
シュトロゼックチームのエリアに到達したのは、他のチームのスタッフと話し込んだり、頭痛薬をわけてもらったりして昼過ぎになっていた。
掃除までし終えたピットには、簡易の机と椅子で寛いでいたのチームリーダー数名しかいなかった。
「おかえりなさい、グーデリアンさん」
そのうちのひとり、ケリー・カインズが笑顔でオレの元まで走ってくる。
「昨日のパーティーは楽しめました?
必要以上に食べ過ぎたり飲みすぎたり・・・してますね」
お酒の匂いが残っていたのか、ケリーは早速ため息。
チームドクターの指示を受け、チーム全体の調整にプラスオレの体調管理もしてるせいで気苦労は耐えない。
「だってさ〜、祝い酒だしぃ!」
「まぁ、そうですけど・・・このオフ中は、ちゃんと調整つけてくださいね」
「へーい」
「グーデリアンさんの準備が終わったら、移動します。
現地の集合する日付と時間。
絶対間違えないでくださいよ!」
気の無い返事に、ハイネルJrよろしく眉間に皺が寄り始める。
「OK、OK!」
これ以上気苦労を背負わさないためにも、ひらひらと手を振りながら他のチームリーダーともお疲れさーんと言葉を交わしてさっさとモーターホームに向かった。
案の定、チームリーダーのあの輪の中にハイネルはいなかったし、ドイツに向かってすでに空の上か?
目の前に広がる青空・・・欠航になる便はなさそうだ。
思わず舌打ち。
鍵を開けて、モーターホームの中に入る。
オフっていっても、以前みたいにハメをはずす気にもなれない。
ハイネルとさらに合えない期間と換算すれば、オフを喜べる要素はオレには全く無い。
必要なもんだけ鞄に詰めて、適当に現地に向かって走るか。
カーテンを開け、散らかしたままのモーターホームの片付けに気合を・・・いれようとして時が止まった。
床に転がっていた雑誌は、本棚にナンバー順に並べられていて。
飲み残していたジュースはすでに跡形もなくて。
脱ぎ散らかしていた服は、洗濯も終えて机の上に折りたたまれて置かれていた。
・・・スタッフは、プライベートエリアだから絶対入ってこない。
オレ以外に鍵を持っているのは、ケリーとハイネル監督。
オレの到着を待ちかねたケリーが、掃除を済ませたって考えることもでありえるけど。
もしかして。
もしかして。
・・・もしかして!
ベッドを覆っているカーテンをソーッと開ける。
期待を、込めて。
「・・・ハイ、ネル・・・」
淡いブルーのシャツと黒のスラックス。
私服姿のハイネルが、眼鏡も掛けずにオレのベッドで横になっていた。
しかも、いつもみたいにかっちりと髪のセットもされていない。
柔らかな薄茶色の髪の毛が、ハイネルの顔に影を作っていた。
無防備に眠り続けるハイネル。
うわぁ、やられた!
胸を打ち抜かれるような衝撃を受けて、自然に後ずさってしまった。
ハイネルから、こんな気持ちの良い不意打ちを食らったのは二度目だ。
ホテルで料理まで作って待っていてくれたあの夜から数えて。
やべ、嬉しすぎる。
きっと、今回のレースの反省会みたいなことをやらされるんだろうけど・・・にやけるのを止められない。
口元を右手のひらで覆って、隠してしまう。
だってさ、会えるなんて思ってなかったんだ!!
きっと、次にチームが合流するときまでは捕まらないなって。
諦めてがっくりきてた。
なのに、さ。
今目の前で本人が眠ってる!
気配を殺してもう一度近づこうとして。
「・・・帰ってきたのか?」
オレの視線に気付いたのか、グリーンアイズが開かれた。
「あ、うん。
今さっきだけど・・・ハイネルは?」
「私もだ」
ハイネルはゆっくりとベッドから身を起こし、服の皺を直し始めた。
掃除までしてくれてるから、『今さっき』なんて明らかにウソだとわかるけど、ハイネルにあわせてそうかと頷く。
「で?」
やっぱりお小言なんだろうな〜と見当をつけながら、ハイネルはベッドに座ってもらって自分は置いてあるパイプ椅子に座った。
「・・・いや、気になってな。
どうだったかと」
「シュティールなら問題ないって。
思ってた以上に他のマシンとも・・・」
「ハァー」
ハイネルは、思いっきりオレの前でため息をついた。
へ?
なんかまずいこと言ってる???
「そうじゃない。
それは、お前の意見をまとめたケリーから報告を受けている」
「じゃ、何?」
どうだったかなんて聞かれるようなこと、マシン以外でなんだろう?
体調管理だって、同じようにケリーから報告受けてるだろうし。
「あぁ〜、あれ?
新しいチームでどうだったかってこと?
オレは別に変わりなく自由に動かせてもらってるし。
記者のやつらも、楽しそうにいろいろ書いてくれたみたいだぜ?」
オレが話せば話すほど、ハイネルはため息をついてとうとう俯いてしまった。
チームでも記事のことでもなかったら・・・他に何があるんだ?
ハイネルのことだから、オレが考えている以上にいろんな面でオレの意見をチームに取り入れようとしてくれてるんだろうけど・・・
・・・わっかんねぇ。
「降参!
ほんとに、なに?
っていうか、本社に行かなくていいの?
呼び出しされて、ドイツに行ったと思っていたけど」
ハイネルは前髪をかき上げ、ベッドの隅に置いていた眼鏡をはめた。
「本社からの呼び出しは断った。
1回1回ドイツまで行って報告していたのでは、次のレースに支障を出しかねない。
直接でなくても、ネット越しにいくらでも報告できるからな」
「え、じゃ、オフってどれくらいあるの???」
自分の表情が一気に明るくなるのを止められない。
ハイネルも気付いたらしく、苦笑しながら応えてくれた。
「大きなトラブルもなかったからな。
今日から3日間はオフにしてある」
マジで!?
ハイネルの傍まで走りより、その両手を握りしめる。
「じゃ、さ。
あ、い、いちっ」
1日だけでも一緒にと言おうと思っていたのに、出だしから噛んでいるオレに舌打ち。
なんだってこう、ハイネルの前だと格好つかないんだろう。
「そ、それよりも、だ」
乱暴に手を払われびっくり。
「私の質問に答えてもらおう」
思いつめた眼差しに、ますますびっくり。
・・・えっと、オレ、本当に何かしたっけ???
「どうだったかって、意味がわかんないんだけど・・・?」
ハイネルの目が大きく見開かれる。
え、なに、なに!?
そんなにまずいこと、オレしてるの???
思いつく限り考えてみるけど・・・
正直、ハイネルにオフがあるとわかってかなりテンション上がって落ち着かない。
聞いたほうが早いよな〜
「なんのことか、教えてくれない・・・?」
「・・・のことだ」
聞き取れない小さな声。
「え???」
慌てて声を拾いにハイネルに近づく。
「よ、寄らんでいい!」
「だって、聞こえないし」
恥ずかしがってるわけでもなく、むしろいつもよりも白く見えるハイネルの顔・・・緊張してる?
もしかして、オレに??
なんで???
クエスチョンだらけだ。
「わ、私のことだ」
「ハイネルのこと?」
なんで今更・・・どうだったって、何を?
ハイネルのことだし、今までの女たちと同じように身体の相性を聞いてくるとは思えない。
ますますわからなくて戸惑う。
「ずっと有耶無耶にしていると落ち着かない。
ダメならダメで、このオフの期間にこの気持ちを整理してくる」
・・・はぁぁぁあああ????
「なに、言ってんの??
ダメって、ハイネルが?
整理する気持ちって一体なんだよ!」
ハイネルの言葉の意味が、全くわからない。
でも、反復するうちに嫌な気分になってきて、声も大きくなり感情的になっていった。
ハイネルの方も、オレが急に怒り出したことに驚き眉を顰めている。
お互いがお互いに言っていることがわかっていない状況、だな。
「私が、お前を好きだという気持ちだ。
これから監督とレーサーとして、チームに収まるためには不要のものだろう?」
「なんで?
オレたちは監督とレーサーの前に、恋人だろう!」
本当に、わっけわかんねぇ!
「私は・・・お前の恋人、なのか?」
わざとだったら最悪な返答。
だけど、当の本人は心底不思議そうにオレの目を覗き込んでくる。
「何言ってんだよ!
何度もキスして抱きしめ合って、好きだって何回も何回も言ってるだろ!」
今までのオレたちはなんだったって言うんだ!
語気もどんどん荒くなってくる。
ハイネルの方も、眉間にますますシワを寄せてオレを睨みつけてきた。
「オレのキスは挨拶代わりだと、貴様が言っていたんだぞ!」
キスは挨拶代わり・・・?
決まり文句みたいに言ってたような・・・。
「それに、抱きしめあうのはスキンシップの一部だと、言っていただろう。
忘れたとは言わせんぞ!!」
・・・言ってる、な。
女の子を口説き落とすのに、使いまくってた。
けど、このチームに来る前の話だぜ?
ここに来てからは、プライベートで口説くなんてことなかったし。
ハイネルと恋人になる前のことなんて、オレの中ではかなり遠い過去になってるのに・・・
ハイネルの中では、昨日のことのように考えられてるらしい。
ライバル同士、雑誌記者から情報を流されて紙面上で酷評しあった時期もあった。
たわいない会話の言葉でさえ、ハイネルの中では絶対的なものだと記録しているなら、当然表に出ている女性遍歴も、きっとこの頭の中に全て入ってるんだろう。
考えただけで頭が痛い。
昔のオレを引きずってきて土下座させたい・・・
「身体を繋げるのも、一度目は勢い」
ビシッとオレの前にハイネルの人差し指が押し付けられる。
「二度目は確認」
更にしかめっ面で指を増やされる。
「三度目からだと、貴様が言っていたんだぞ!」
うわ〜、言って無いとは言いきれない・・・な。
「人前でも気にせず、女性を口説き落としていた貴様の言葉を鵜呑みに出来るほど、私はバカにはなりきれん!!」
・・・何にも言い返せない。
今までの行いが行いだからな・・・
改めて、ハイネルに言われるとかなりの痛手。
ハイネルの中で、あの全く余裕の無いアレが『二度目の確認』になってるなら更に最悪・・・だ。
あんな乱暴な抱き方だったら、確かに『確認』だって思われても仕方ない。
全くハイネルのことを無視して突き進んでた。
オレの気持ちなんて、届いて無いに決まってる。
心の中でため息。
どうしたら、このハイネルにわかってもらえるんだろう。
ベッドに腰掛けていられず、オレの前で仁王立ち。
怒りのオーラが背後で音が聞こえそうなくらい立ち上ってる。
何を言っても、信じてもらえそうに無い。
今までのキスや抱きしめる行為と、ハイネルにしているのはまったく違うんだってこと。
今までみたいに恋人を見せびらかしたいなんて気持ちを通り越して、オレの腕の中に閉じ込めておきたい衝動といつも戦っているってこと。
ハイネル以外、これから先も後も全身全霊欲しくてやまない存在なんて無いと宣言できること。
昔のオレを知っているハイネルに、どう伝えたらいいんだ。
ハイネルに向かっていた怒りの矛先が、過去の自分に向かって突き進んでいく。
無言のオレをどう解釈したのか、ハイネルはため息をついてモーターホームの出入り口に向かって歩き出した。
「ちょ、待てよ!!」
慌ててハイネルの右手首を掴む。
「一体なんだ?」
眼鏡越しにきつく睨まれて、言葉に詰まる。
どうしたって、昔のオレをこの頭の中から追い出すことなんて出来ないんだ。
言い訳するなんてことも、出来ない。
過去に付き合っていた女性とは、遊びも本気も混ざってるけど・・・事実だし。
言葉に出来そうなのは、今の気持ち、だけ。
「好き、だ」
喉がからからになる。
きっと、オレの言葉は軽く受け止められてしまうのを分かっているから。
今までのオレと比べられたら、仕方ないことだけど、悔しい。
オレのこの気持ちが、ハイネルに通じないことが。
「・・・」
案の定ハイネルは、オレを探るように観察している。
本気なのか、言葉だけなのか。
マシンのデータを分析するみたいに、オレのちょっとした変化も見逃さないよう眼を凝らして。
「ハイネルだけだ」
言葉巧みに相手を捕らえてきた今までと違って、それが仇になって通じないなんて。
命だって、気持ちだって、オレの全部がこの手の中にあるっていうのに。
ハイネルの白くて細い指先にキスをささげる。
万感の想いを込めて。
「愛してるのは、ハイネル、だけだ」
ビクッとその指が震えた。
顔を上げると、困惑した表情のハイネルと目が合う。
「・・・ハイネル?」
オレの手の中から、ハイネルの右手が引っ込められる。
「本気、でか?」
掠れたハイネルの声。
ハイネルが、遊びなんかでオレとキスしたり、まして抱かれたりなんてありえない。
だからこそ、オレにはハイネルの気持ちが痛いくらいに伝わってきているのに・・・オレの気持ちはハイネルに届いても無い。
言葉でなんかきっと伝わらない。
無言で頷き、逃げようとするハイネルを抱きしめる。
「・・・酒臭い」
現実を淡々と告げてくるハイネル。
「お前としばらく合えないって思って、ヤケザケしてたんだもん」
あまりに冷静なハイネルに拗ねてしまう。
「パーティでは、じじぃが周りにいて捕まんないし」
「お前だって、各国の美女に囲まれて鼻の下を伸ばしていたじゃないか」
ハイネルの右手が、オレの鼻に伸びてきてそのまま摘まれる。
「いてっ!
あ、あれは、記者に写真を撮るからって言われて・・・ファンだって囲まれてさ。
いつものオレを演じなきゃ、勘ぐられても困るし」
腕を解いてハイネルの右手を鼻から外そうとして・・・失敗。
オレの前にいたのは、さっきまでのハイネルじゃなかった。
目じりをほんのりピンク色に染めて、苦笑しているハイネルがそこにはいた。
「分かってる、頭では、な」
うわぁ〜、可愛いすぎっ!!
拗ねたような・・・でも、確かに照れてる今まで見せてくれたことの無い表情。
「お前の・・・ことを本当に信じるぞ?」
心の奥底まで探るようにまっすぐなグリーンアイズがオレを映し、その腕がオレの鼻から首へと移動していく。
「信じて、ハイネル」
優しく抱きしめあい耳元で真摯に囁いた。
本当に、ハイネルに分かって貰えたなんて思っていない。
どう考えても、昔のオレの行いは悪すぎる。
けど。
言葉だけだとしても、信じてくれると言ってくれたことが嬉しい。
薄い唇を舌でなぞり、開いたそこにゆっくりと舌を沈み込ませる。
「・・・ん、ふっ」
甘い喘ぎ声。
キスが挨拶代わりなんていっていたオレに聞かせてやりたい。
ハイネルとキスを重ねるたびに、驚くくらい跳ね上がる自分の鼓動を。
見せてやりたい。
腰に回した腕で抱きしめすぎないように、どれくらい自分の感情を押し殺すのに必死になっているかを。
そのままゆっくりとベッドに横たえて、邪魔な眼鏡を取り上げて。
何度も何度も角度を変えて唇を合わせ、舌を絡ませあう。
気持ちを込めて、何度も、何度も・・・
「んん、・・・めろっ!」
ドンッと突き放されるまで。
「えぇ!?」
オレが途中まで外したシャツを胸元で手繰り寄せ、オレの下で真っ赤になってるハイネル。
「ここで、一体、何をするつもりだ!」
ボタンを全て元通りに嵌めなおし、顔を赤らめたままオレの腕の中からすり抜けていく。
「だって・・・」
「だって、じゃ、ない!!
外には、スタッフもいるんだぞ!!!」
オレの手から眼鏡を奪って付け直し、髪の乱れを整え始めた
さっきまで、うっとりと身を任せていたのに。
「こんな状態で、お預けなんて酷すぎる・・・」
ズボンも脱ぎかけていたのに・・・
「うるさいっ!
さっさと出るぞ!!」
指の先まで、ハイネルを求める熱に震えそうなこの状態で!?
「お前が来るのが遅すぎて、すでに私のオフは半日以上無駄になってしまった」
出入り口まで、振り向きもせずに怒りながら歩いていくハイネル。
振り向いてくれたのは、扉の前まで到達したときだった。
「聞いているのか、グーデリアン!
立ち上がって、そこの服を鞄に詰め込め。
別荘には、食料も何も用意していないんだ。
買い物を済ませてから行ったら日が暮れてしまう」
「別荘・・・?」
ベッドから動けないオレにハイネルは言葉を続ける。
「私がこのオフに1人で過ごそうと考えていた別荘だ。
・・・予定があるなら無理には勧めん」
ハイネルはクルッと背中を向けて、今度こそ振り返りもせずそのまま外に出て行ってしまった。
えーっと・・・夢じゃないよな、この展開???
頬っぺたを抓ってその痛みを実感に変え、慌ててハイネルを追いかけようとズボンを直してベッドから立ち上がる。
ハイネルの用意してくれていた服を鞄に詰め込み、出入り口から転げ落ちるように後を追った。
「待ってよ〜、ハイネル!!」
「煩い!」
周りの目を気にして睨みつけ、そのまま早足でピットから走り去って行くハイネル。
「ゆっくりしてきてくださいね〜!」
「グーデリアン選手の体調管理よろしくお願いします〜」
のんきなスタッフの声には、多少愛想代わりに手も振っていたけれど。
その行為が、オフは二人で過ごしますって認めてることに、気付いてはいないんだろうな〜
「グーデリアンさん、ハイネル監督が仕事しないようにちゃん見張っててくださいね」
「了解!」
オレもウィンクで応えてから、ハイネルに向かって走り出す。
こんなにハイネルにしかむいていないオレの想いを、過去のオレが邪魔してハイネルに届かせない。
自業自得とは言え、悔しいけど。
信じてもらえるまで、伝わるまで、繰り返し伝えていくしかない。
ハイネルの記憶を消すことなんて出来ないけど、塗り替えることは出来るはず。
「さっさと乗せてもらおうか」
オレの愛車の前で、当たり前のように待っているハイネル。
助手席のドアを開けてやりながら、これからの自分の言動には注意していこうとオレは心に固く誓った。
とても個人的な意見なので的外れだったら申し訳ないんですけど、AYAKAさんの書かれるグーもハイネルも「等身大」だなぁと思うのでした。レーサーであり監督であるときにはプロフェッショナルとして有能極まりないのに、本気で恋した相手に対しては「本当に自分のことを好きでいてくれているのか」とか、「どうやったら本気でいることを伝えられるのか」といったすごく自然で誰もが抱くような感情をそれぞれが抱いているのがよく伝わってきて、そこが微笑ましいですよね!
今回のお話はグー視点でつづられているので、プレイボーイでならしてきた彼が、本気なだけにハイネルに対しては自分の気持ちをもてあましたり、逆にハイネルの言動一つですごく嬉しい気持ちを味わったりといった様子が感じ取れるのがうれしかったです。
こんなに一途にハイネルのことを想ってるグーの気持ちが伝わらないはずないですよね!これからの二人っきりのオフ、あまーい時間を過ごせるよう、グーとハイネル、あーんどもちろん私自身(の欲望)のために祈っています!(笑)
AYAKAさん、いつも素敵なお話をありがとうございます!