5月1日

「うわ〜、また増えちゃってるよ〜」
チームに設けられたファンからの差し入れ専用BOX。
予選に向けて微調整が進む中、いつもなら会社を通してレース期間外、とくにこのサーキットで缶詰状態になっている時は実家に直行になってる差し入れ。(このサーキットに来るときは、レース以外のことに現を抜かすなという誰かさんの指示のせい)
この一週間は、オレの誕生日も近いからってことで特別扱い。
シュトルムツェンダーとシュトロゼックプロジェクト合同サーキットに、どんどん差し入れが運ばれてきている。
オレが雑誌のインタビューで、『この一週間しか、ユゥたちの愛を受け止められないんだ!おっかない監督様に阻まれちゃうから』なんて言ったせいだろうけど。
毎日毎日途切れることが無い。
オレの士気が上がるように、ワザワザ目の付くところに一旦置いて誕生日パーティ会場のホテルへ何便かに分けて輸送してくれてる心遣いも嬉しいもんだよな。
ただただ淡々と走るだけの、機械にでもやらせろ!と吼えたくなる練習走行も頑張れるってもんだぜ!
天高く積まれお菓子や花、心の篭ったバースディカードや手紙は心の栄養だ。
でもオレが、今、目を向けているのは・・・その横だったりする。
こっちも日に日に増えてやがるんだよな。
BOXの置かれた机の隙間に、そこから抜き取られた差し入れ。
パーティ会場へ輸送するまでに、宛先が違うものだけこの場に弾かれている。
この小山。
一つ一つ宛先なんて確認しなくても、分かってる。
チームの事務所宛に、オレの誕生日にあわせて送られてくるのは、このオレとハイネル宛のものくらいしかありえない。
去年、スタッフの家族からスタッフ宛に送られてきたものが、オレ宛の荷物と一緒くたになってしまって見つかるのに一ヶ月以上かかったんだ。
それを皆に知らせてあるから、よっぽどの急ぎでもない限り送られてこないし、事務所よりも寮の方に宛先が選ばれるようになっているはずなんだ。
しかも、ハイネル宛のそれらは、一目で年季が入ったファンの選んだものと分かるものばかりときてる。
普段ハイネルが使っているペンから始まり、有名ホテルの焼き菓子詰め合わせ、一本いくらするか分からない希少価値のワインから英語以外の文字で書かれたなんか貴重そうな古書まで。
何が入ってますよ!と、分かりやすく表記までしてきてるところが嫌味だ。
ハイネルがすぐにとびつきそうな古書なんかは、そっと下の方に隠してしまう。
ハイネル宛の差し入れが届くのは、別にめずらしいことじゃない。
ハイネルのドライバー復帰宣言で、ファンの数は増え続けている。
でもさ、なんでわざわざオレの誕生日に贈ってくる必要があるわけ?
「これまであるしぃ」
最近ハイネルが好んで使いはじめた、料理スパイスメーカーの箱を指でつつく。
先月一緒に買い物に行ったときに、このメーカーがどれだけ素晴らしいかを店頭で長々と熱弁されたから間違えるわけが無い。
早く帰りたくて、スパイス製品の前で考え込んでいたハイネルに、
『スパイスなんて、どれ使ってもたいして変わんないって!』
なんて言ってしまったことを、その日どれだけ後悔したことか!!
貴重なオフの数時間が、スパイス講座になってしまったのだ。
でも、こんな情報が一般のファンにまで流れるわけが無い。
ここのチームスタッフのハイネル病は、レースに合わせた新しい理論構築をスラスラやってのけるハイネルにますます蔓延。
もしかしたら、そいつらの中から抜け駆け組が出てきたのか??
誕生日パーティという名の企業向けお披露目会に、一緒に参加するハイネルを待つ間どうしても目に付いてしまう。
わざわざこのオレの誕生日に贈ってくるなんて・・・おかしいだろう!
そりゃ、このオレをうまく使いこなしている監督を労ってってのも一部混じってるのかもしれないけどさ!
イライラしながら、自然手が自分宛の差し入れに伸びてしまう。
走った後は、どうも小腹がすくんだよなぁ。
まだハイネル掛かりそうだし、待ってる間なんか食おうかな〜
ごそごそと自分宛のBOXから物色。
スナック菓子から手作り菓子まで多種にわたり揃ってるなぁ。
パーティも控えてるし、飴をセレクトしとくか。
適当にいくつかの包装を解いていくと、飴の入ったものに出くわした。
直径1cmくらいの丸い飴が缶の中にぎっしり詰まったキャンディ。
彩色が施されてるけど、何色がどんな味かまでの詳しい表記はなかった。
無難な赤にしとこうかなぁ。
以前、健康食品系の飴を舐めてからキスしたら、思いっきりひっぱ叩かれたことがあるからだ。
オレには全くわからなかったけど、ピーマンの味がしただの、嫌味かだのとその日一日ずっと怒りっぱなし。
未だにピーマンが嫌いだけど、オレの栄養管理のために料理には使うようになった。
見るもの嫌だという頃に比べたら、抵抗がなくなったのかと思ってたんだけど味は未だにダメらしい。
赤いのを口に一粒入れるとストロベリーだった。
これなら大丈夫だな。
周りを見渡すけど、未だにハイネルは引継ぎ作業に大忙し。
スタッフ数名に囲まれて何か話し込んでいる。
オレは再び、BOXに向かってしかめっ面することになった。
ドライバーはチームの花形だし、特にこんな日は多くて当たり前なんだけどさ。
レースでもない日に、しかもオレの誕生日に、ハイネルへの差し入れって・・・無くても良い位じゃないのか?
だいたい、この一週間だけはオレの目にも留まるってコトを知ったやつの仕業としか思えないんだよな、内容からして。
うわ〜、今回のにも手紙が何通かついてやがる。
復帰を祝ってくれるファンに感動したハイネルから、オフの時間を利用して返事を出してみようか考えているんだなんて言われ、どれだけ説得したことか!
返事が来ることが分かったら、ますます数が増えて収拾がつかなくなるとか。
雑誌の取材で応えてやれば良いとか。
そんな時間があったら、一緒にいたいとか。
駄々っ子丸出しで止めに入ってしまった。
オフの日までのカウントダウンに苦しんでるのに、これ以上オレの大切な時間を奪われてたまるかってんだ!
イライラと一緒に、ガジガジ口にしたキャンディーを奥歯で噛み砕いてしまう。
「・・・グーデリアンさん、どうかした?」
いつの間に横に来ていたのか、すっかりチームスタッフの一員となったハイネルの愛妹リサちゃんに肩を叩かれる。
叩かれるまで気付けなかった、オレとしたことが!
「いや、どうもしないよ」
振り返ってにっこりと応えたのに。
「今日の主役なのに、そんな顔してたら変に思われますよ?
でも・・・こんな日まで届いてるなんてすごいわね〜」
リサちゃんの瞳は、すぐにハイネル宛の小高い山へと移る。
「量より質って感じね。
どれも兄の趣味を知り尽くしてるわ。
しかも、こんな日に贈ってくるなんて、ちょっとした宣戦布告かも」
クスッと可愛く笑われても、オレは引きつるしかない。
・・・やっぱり、そういうことだよな〜
「この人たち、みーんなお兄ちゃんの熱狂信者なんでしょうね〜」
にっこりと笑顔。
その瞳からは真意が測れなくて、オレもとりあえず笑顔で返す。
どこまでばれてるのか確認したわけじゃないけど、ハイネルとオレの関係は完全ニバレテル!気がしてしまう。
チームにリサちゃんが入ってきてからしばらくは、何度かオレから聞き出そうとする雰囲気を感じてはいた。
でも、いつしかそんな雰囲気が無くなって有耶無耶になっている状態だ。
ハイネルからリサちゃんに、なんて有り得ないし・・・どこかで何かを見られたのかも。
もともと勘は良い子だし、普段の会話なんかで気付かれてる確率も高い。
「そういえば、今度のオフも兄は実家に帰らないから私にいろいろ持たせてくれるらしいの。
父への報告書とか、母へのみやげ物とか」
ニコニコと口元は笑っているのに・・・メガコワイデス。
「え・・・と・・・・」
「リサ、お兄様と一日くらい一緒に過ごしたいわ〜」
あー、うー、あー
「しかも今週に入ってから、明日の午前中だけでもオフにしたいって急に申請してスタッフを困らせたのよ!
そりゃ、誕生日休暇っていうことで、前々から無理やり申請出して受理させてたグーデリアンさんは良いでしょうけど。
兄はチーム監督でもあり、ドライバーでもあるんですからね!
走行時間は断然グーデリアンさんの方が長いし、少しでも兄の走行データを重ねておきたいし微調整だって全然足りてない時期なのに。
一体グーデリアンさんは、兄に何をお願いしたのかしら?
絶対、兄の休暇に絡んでるでしょ!?
引継ぎだって大変そう〜」
オレ達の後方で、未だに引継ぎ作業から開放されていないハイネルを思いやるリサちゃん。
「私からのグーデリアンさんのプレゼントは、実家へのお使いってことでいいかしら?」
「十分です!!」
思わず声が上ずってしまったオレに苦笑。
そのリサちゃんの瞳が、一瞬キラリと光った・・・気がした。
「ついでに、ちょっと嫌がらせもしちゃおうかな?」
え・・・?
驚くオレに、リサちゃんの顔が近づいて・・・

チュッ

頬っぺたに可愛いキスの贈り物。
へ?
呆気にとられるオレ。
「何でコレが嫌がらせ・・・」
最後まで言い終わらないうちに、パコーンッと後頭部に軽い衝撃。
「痛って〜!!
誰だよ、こんなの投げたの!!」
足元に落ちた企業秘密たっぷりの入ったファイルを拾い上げ、文句の1つも言ってやろうと牙を剥いたけど。
「ハ、ハイネルさん・・・?」
怒りのオーラで顔を真っ赤にしたハイネルに、牙どころか言葉さえ奪われる。
「どういうことだ、グーデリアン!!」
詰め寄られ、条件反射で椅子から慌てて立ち上がり逃げようとしたけど。
「待たんか!」
壁に追い詰められオレの手からファイルを奪い取ると、ビシッと角を喉に突きたてる仕草。
え、え、えぇ!?
なんでオレが怒られてんの!?
しかも、かなり本気モードなんですけど〜
リサちゃんに救いの手を求めようとしたのに。
「お兄様、そんなに怒らないで!
今日は、特別な誕生日なんだもの〜」
なんて、オレが迫ったのか、リサちゃんが自発的にしたのか、全く解らないような弁解!
「いいや、リサ。
お前には手を出さんだろうと油断していた兄が悪かったのだ!
こいつが、誰にでも手を出す色情魔だということは世界共通の見解だというのに!!」
「ちょ、ちょっと待ってくれよ、ハイネルゥ。
最近大人しくしてるだろ〜」
必死で目で訴えてんのに、シスコンハイネルちゃんの目は受信拒否。
「リサにまで迫るとは!!」
ハ、ハイネルさん・・・額と首筋に血管が浮きすぎです!
両手を挙げて降参ポーズをしているのに、ファイルは一向にオレの喉元から退かない。
「ちょっと、リサちゃん!
勘弁してくれよ〜」
「リサちゃんなどと、慣れ慣れしい!!」
「前からちゃん付けだったろう!?」
なんでこの人、こんなに怒ってんだよ〜
怒りからか疲れからか。
充血しているグリーンアイズを覗き込んで、ぎょっとなる。
もしかして、傷ついてる?
瞳の奥に見え隠れするハイネルの感情を拾い上げてしまい更に降参。
一体なんだってんだよ〜
今日はオレの誕生日だっていうのに!!
パーティ後の約束も、この状況だと反故されそう・・・
「えぇい、時間がないというのに!」
ハイネルは、自分の腕時計で現時刻を確認。
「貴様だけ先に行っていろ!
これ以上、妹に手出しはさせんぞ!!」
ファイルで頭を殴られて、部屋から叩き出されてしまう。
『ゴメンネ』
扉が閉まる直前。
ハイネルの後ろからリサちゃんの口パクジェスチャーは受け取ったけど・・・どうなっちゃうの、オレの誕生日〜!!



98お題J「ファンからの差し入れ」より



 AYAKAさんに、グーのお誕生日にあわせてお話をいただきました!アップが遅くなってしまってすみませんでした。
 相変わらずAYAKAさんの書かれるグーは、ハイネルのこと大好きなのがいいですね!自分のお誕生日に、自分の恋人宛にあてつけみたいにプレゼントがガンガン届くのを見る
 そして、リサちゃんが小悪魔っぽくてかわいかったです。ハイネルにあらぬ誤解をされてしまったグーには災難だったでしょうけど、いかにもリサちゃんらしい、魅力的な『妹全開』な姿が見られてうれしかったです。こんな妹がいたらハイネルじゃなくても妹がかわいくていろいろと世話をやきたくなっちゃいますよね。リサちゃんの方も『お兄ちゃん大好き』なのがほほえましかったです。
 ・・・って、グーのお誕生日のお話なのにリサちゃんのことばかりですみません(笑)。

 でも、グーのことなので、きっとこの後ハイネルとスイートな誕生日を過ごしたことだろうと思います。グーですもん!
 AYAKAさん、かわいらしいお話をありがとうございました! 


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