9月8日、その後
『シンデレラ、魔法が解ける時間だぜ?』
ノートパソコンのスピーカーから、何の前触れもなく突然流れ出る低く囁くようなグーデリアンの声。
数値とグラフしか並んでいなかった液晶画面に、別のウィンドウが強制的に広がる。
様々な大きさの赤や青の星が画面を埋め尽くし、渦を巻いてそのまま大きな星に融合した。
その星に描かれているのは、アメリカ合衆国の星条旗。
陽気な音楽と共にクルッと星が回転すると、その中央にタキシード姿のグーデリアンの全身が映し出される。
画像が顔へのアップに寄っていくと、グーデリアンは手に持った懐中時計をカメラに向けた。
その針は、0時15秒前を刻むところ。
『鐘の音が成り終わる前に、いい子だからベッドに入れよ』
グーデリアンが微笑むと、星がまた反転し星条旗の柄に切り替わる。
そして、午前0時ジャストにそのウィンドウは自然に終了し、元のデータ画面が私の目の前に広がった。
・・・肩の力が抜けていく。
午前0時1分前。
パソコンの電源がその時間帯にON状態のとき、自動で切り替わるように設定されているタイムアラームプログラム。
作動するのは分かっているのに、毎回仕事に没頭しているため音声が流れるまで気付かずドキッとさせられる。
シュトロゼック・プロジェクトのスタッフの一部とグーデリアンが、過労でたびたび倒れる私のために休憩時間に協力して作ったものらしい。
絶対消さないでくださいよ!とスタッフから念を押されて、目の前でちゃんとインストールしてください!と迫られたのは、シュティール疑惑が決着したすぐ後だった。
FICCYの再調査にむけての書類作成や、カナダGPにむけての調整・・・
FICCYから出場停止勧告を撤回する申し入れが出たときに、緊張が解けて過労で倒れてしまった直後だったから、無下に断ることも出来ずに今に至っている。
このふざけているのか、本当に私の身を案じているのか、疑りたくもなるプログラムを見てしまうと集中していた気持ちがふっと途切れる。
そのため、このタイムアラームの後はよほどのことが無い限り休むようになっていた。
今日もそのままパソコンの電源を落とし、眼鏡を外した。
視線を横に流せば、色とりどりのボディシャンプーのパッケージが置かれている。
・・・これと先ほどの雑誌を届けるためだけに、グーデリアンはここで待っていたのだろうか?
先ほどまでグーデリアンが座っていた椅子を振り返る。
ベストコンディションでレースに臨むため、分刻みでスタッフはトレーニングメニューを組み立てているこの時期に??
私のスケジュールも、同じように更に過密になってきていると分っているのに??
1つの疑問が頭に浮かぶと、次から次へとあふれ出してくる。
カッとなって追い出してしまったが・・・何か言いたそうだったような気もする。
悪いことをしたな・・・
すでに数時間が経過しているから、グーデリアンも自分のモーターホームに戻っているだろう。
もしかしたら起きているかもしれないが・・・明日もテスト走行が長時間あったはずだ。
きっと寝ていると思っているのに、自然と足は出入り口に向かっている。
いろいろな理由を否定しながらも、グーデリアンのモーターホームの電気を確認してみようという結論に達していた。
扉を開き、その方向を見る前に・・・
「おそーい、ハイネル〜」
階段に座っているグーデリアンと目が合った。
「まさか、ずっといたのか!?」
いくら夏場とはいえ、今回のサーキットは多少平地よりも高い場所にある。
夜間には急激に冷え込み、朝方には霧が一帯を覆い尽くす。
手を差し出すと、すっかり冷えた手のひらが重なった。
「だって・・・」
「言い訳はいい!
早く中に入れ!!」
いくら頑丈だけがとりえだといっても、この時期に風邪を引かれたらレースに大きな支障をもたらす。
室内の温度設定を高くし、私の服でグーデリアンが着れそうなサイズが無かったためベッドから布団を運んだ。
「大げさだって!」
椅子に座りながら、手を降って断ろうとするグーデリアンの頭に布団を落としてやる。
「体調管理をしっかりしろと、私にはあれほど迫るくせにつべこべ言うな!」
怒る私にグーデリアンはなぜか笑顔・・・
「なんだ?」
「出てくるだろうなぁって思ってたんだけど、実際様子見に来てくれると嬉しいもんだなと思ってさ」
優しい視線に戸惑いながらも、レーサーとしての自覚のなさにため息を落とす。
「自分の体力を過信しすぎるな。
この時間にコーヒーはまずいし・・・ココアくらいなら自販機にあったな」
財布を上着から取り出して買いに行こうとするが止められる。
「本当に大丈夫だって!
用事が済んだら、部屋でちゃんと暖まって寝るから!
・・・それよりさ、その」
雑誌を両手に持って言いよどむ。
グーデリアンが私に伝えようとしていたことは、その雑誌のことだったのか・・・?
なかなか話を切り出さないグーデリアンを見ながら、どんな可能性があるか考えてみる。
記事の内容や写真は、チェックも済ませて問題は無いと聞いている。
雑誌の中身では無いなら・・・やはりあの女性記者のことか?
親しそうに取材中も話していたし、個人的に雑誌を送ってくるほど親交は続いているようだ。
嫌な胸騒ぎと吐き気。
いつかは来ると分かってはいたが。
・・・息が詰まる。
「あの、さ。
彼女が・・・」
続きを聞くのを全身が拒絶していた。
「もういいから話すな」
思ったよりも冷静な声が口から出てきて自分でホッとしてしまう。
倒れる前に、パソコンデスクの椅子に崩れるように腰を下ろした。
「え?
なんで???」
首をかしげるグーデリアン。
直視できずに、目を閉じる。
「・・・彼女とは、あのときから付き合い始めたのか?」
だとしたら、私は滑稽だな。
彼女が、グーデリアンに贈った着物を着せられたあの夜のことが思い出される。
私には、和柄の彫刻されたカフスボタンが用意されていたが・・・あの着物に描かれた鮮やかな華の柄は、女性にこそふさわしかった。
グーデリアンには、その着物の似合う女性こそふさわしいという意味だったのか。
そうとも知らず、私はあの着物の上で・・・
堪え切れずに、涙が頬を伝う。
こんな日は来ないと信じながらも、どこかで予想していたこの時間。
もっとすんなり、グーデリアンの手を離せると思っていたのに。
「えぇぇぇぇぇええええ!?!?!?!?
な、何言ってんのっていうか、何で泣いて・・・あぁ、もう!!」
拒む私を、グーデリアンは椅子から立ち上がり力尽くでその腕に抱き寄せる。
「・・・っとに、あり得ないの事態を真っ先に考えるなよ!」
本気で怒っていることのわかる、低く震えた声。
骨がきしむほどに強く抱きしめられる。
「信じるまで、何度も言うけど。
オレは、ハイネルのことしか見て無いんだぜ?
どうしたら信じてくれるんだ!!!」
・・・違うのか?
力は弱まったが、肩と腰にまわされたその腕の中からは逃れられない。
グーデリアンの表情を伺うと、苦しそうに眉間にシワを寄せて呻いている。
・・・本当に、違うのか?
「ハイネルとこうなる前のオレは、確かに酷かったけどさ。
自分のペースでしか恋愛もしてなかったし、いろんな問題も起こしてた。
でも、今は、オレは・・・」
言葉が途切れ、その海のように青い瞳から一滴の涙が零れ落ちた。
息が、とまる。
グーデリアンの泣き顔を見るのは、初めて、だった。
それほど酷いことを言ってしまっているのだと、胸に迫る。
「・・・お前だけだって、どうしたら伝わるのか教えてよ」
また、一滴。
涙が頬を伝っていく。
抱きしめられるだけだった私の腕が、自然に伸びてグーデリアンの表情を隠す。
胸にその顔を抱き寄せながら、伝わったからと何度も何度も耳元で呟いた。
まさか、泣くなんて。
私の誤解は、グーデリアンにどれほどの痛みとなって伝わっているんだ。
グーデリアンがゆっくりと顔を起こすまで、時間的には本当に短い数分だったのかもしれない。
だが、私にとってはグーデリアンとの出会いから今までの間に、いつの間にかこびりついていたグーデリアンに対する思い込みを払拭させるには十分な時間だった。
「・・・ごめん」
私の方が謝るべきなのに。
グーデリアンは私が言うより先に、うつむいた姿勢のままで謝る。
「謝るのは、私の方だ。
どうしても、以前のお前のことを思い出してしまって、今のグーデリアンを信じてなかった。
ずっと、傍にいて欲しいと思っているのに、それはかなわないことだと・・・頭のどこかで否定し続けていたんだ」
うつむいた頬に残る涙の筋に、触れるだけのキスを贈る。
もう2度と、グーデリアンにこの涙を流させるようなことを自分がしないように。
戒めもこめて。
「・・・かっこ悪いとこ、見せちゃったし。
今日は、このまま帰るよ。
明日になったら、いつものオレに戻るから」
おやすみと、そのまま扉の外に消えていく。
いつもの覇気が全く感じれない背中。
・・・なんて、酷いことを言ってしまったんだろう。
後悔ばかりが押し寄せる。
結局、一睡も出来ずに夜が明けた。
翌日は、雨天。
どんな顔でグーデリアンに合えばいいのかと迷いながらモーターホームを出る。
今日は共有する時間があったはずだ。
傘を差しながら、ピットに入るとスタッフが輪を作り出入り口付近でもめていた。
「何かあったのか?」
「「ハイネル監督!」」
スタッフが一斉に振り向く。
「それが、ですね・・・」
説明するよりも早く、輪の中心にいた人物は最前列まで出てきた。
「よ!
プロフェッサー!!」
緑の髪にオレンジのメッシュ。
背中では、黒のおさげがまるで尻尾のように揺れている。
1度見たら忘れられない外見と、前回の大会で第七戦からの途中参戦の中、第七位の成績を残すほどのテクニックを持つブリード加賀だった。
「・・・一体何のようだ?」
レースが近づき、外部の人間に神経質になっているチームに入ってくるとは。
「近くを通ったから、挨拶に顔出したんだよ!
茶くらいおごれよな〜、監督!
儲かってんだろ?」
猫のように目を細めて笑っている。
ここで追い返しても、また来そうだな。
「スタッフは全員仕事にもどれ。
加賀の相手は私がする。
私のモーターホームでいいな」
有無を言わせずに歩き出す。
「へーい」
スタッフがざわめくのが背中越しでも分かったが、チームエリアの中に入れるよりはましだろう。
道の途中に設置された自動販売機で、好きなものを選ばせてモーターホームに入った。
「ひれぇな〜
しかも、1人で1室かよ〜」
「何処のチームもたいして変わらんだろう」
カーテンを開け、差し入れでファンからもらっていたお菓子を適当な皿に盛って机の上に置いた。
「お、わりぃね」
遠慮もなく、ジュースを飲みながらお菓子の山に手を伸ばす。
朝からこんな細身の身体の何処に入るんだ・・・
自分用に買ったブラックコーヒーを飲みながら、あっという間に空になった皿に感心する。
満腹だぜ!とお腹をさすりながら、加賀は私をジッと見つめ、
「なんか、目の下にクマが出来てるけど寝不足?」
自分の目の下を指差した。
「・・・わかるか?」
自分ではばれないだろうと思っていたのだが・・・加賀に見抜かれるということはスタッフにもすぐばれるな。
今日は休んでいてくださいと囲まれるだろうか・・・。
「ははぁーん!
さては、グーデリアンといちゃいちゃしてたんだろ?」
!?
思わず噴き出しそうになったコーヒーを慌てて飲み込む。
「・・・何を言ってるんだ?」
「えぇ!?
外れか〜?
昨日、やけに嬉しそうにグーデリアンが・・・あ!ほらその雑誌」
ノートパソコンの上にある、グーデリアンが置いていった雑誌を指差す加賀。
「あれを抱えて、9月8日は記念日だ〜って浮かれてたぜ?」
グーデリアン独特の発音まで真似してみせる。
「うまいこと考えたな〜って思ったけどさ。
他のチームじゃそんな語呂合わせ出来無いんじゃないか?」
「記念日とは何の話だ?」
もしかして、グーデリアンが言いたかったのはそのことか?
「・・・まだプロフェッサーは知らないんだ」
にやりと笑って、何処から取り出したのかそろばんをはじき出す。
「情報料!
こんなもんで負けとくぜ?」
「金をとる気か!?」
「えぇ〜?
だって知りたいんだろ?
どうやら、グーデリアンには聞けない雰囲気だしさ」
・・・妙に勘が鋭いな。
「金は天下の周りものってね!
しこたまためてんだろ?
これくらい安いもんだって!
あ、そうそう。
ついでに色紙にサインを10枚くらいくれる?
それから・・・」
要求がドンドン膨れそうな気配。
「それで、手を打つ!」
私は慌ててその声を遮った。
あぁ〜!!!!!!!かっこ悪すぎ〜〜〜〜〜!!!!!!!!!!
ぐしゃぐしゃと髪をかき回しながら、チームエリアに入る。
確か今日はミーティングから。
会議室にもう来てんだろうな〜
ハイネルにどんな顔で合えばいいんだ。
いつものオレに戻るなんていってみたけど・・・いつものオレってどんなんだよ!!!
「あ〜、もうっ!!!」
思わず声を上げて、この消化しきれないもやもやを吐き出していたら。
「グ、グーデリアンさん?」
会議室の扉の前で、遠巻きにスタッフのケリーから呼び止められた。
「あ、グットモーニン!ケリー!!」
笑顔で挨拶。
よし!これこそ、いつものオレだ!!
「・・・大丈夫ですか?」
「大丈夫、大丈夫!
今日もお小言が降って来ないように頑張るって!
で、ハイネルは?」
ミーティングのある日は、来るのが遅いと扉の前に仁王立ちで待ち構えてるのに・・・昨日のこと気にしてんのかな・・・?
「ハイネル監督は、ブリード加賀さんと自分のモーターホームに行かれました。
その分ミーティングが他の時間と変更になると思いますので、今日は先に・・・ど、何処に行くつもりですか!?」
背中から追いかけてく悲鳴に近い声に、ひらひらと手を振りながら廊下を走る。
「ハイネル迎えにちょっとそこまで〜」
加賀とハイネルってあんまり無い組み合わせ。
しかも、加賀は今期の監督服を着たハイネルを初めてサーキットで見たとき、
『あっれ〜?
あれ、ハイネルだよな?
なんか、雰囲気変わって無いか?
車降りたせいか、かなり丸く感じるぜ?
しかも、あんなに長ったらしくって、寸分の隙間も無い服着てるのに、逆に色っぽささえ感じるよな・・・
スゴウんとこのアスカちゃんよか色気でてるじゃん!』
なんて血圧が一気に上がりそうなことを、さらりとオレの前で言ってくれたんだ!
そのとき頼まれて書いてたサイン色紙を折り曲げそうだった!!
ハイネルのモーターホームが見えだして・・・その出入り口から加賀が出て行くのも見えた。
お下げを揺らしながら、去っていく後姿。
のんきに見送っていたハイネルの傍まで走ると、慌ててたずねる。
「な、なんかされなかった?」
顔をあわせたらどうしようなんて不安に思っていた気持ちは、頭の中から消し飛んでいた。
「まずは、挨拶だろう」
眉間にシワを寄せてるいつもどおりのハイネル。
「・・・おはよう、ハイネル」
「おはよう、グーデリアン」
中に入れと勧められるままに、モーターホームの中に足を踏み入れる。
・・・昨日の失態がまざまざと蘇るな。
「加賀から聞いたぞ」
立ち尽くしたままのオレに、あの雑誌を差し出すハイネル。
「9月8日のことを知らせたかったんだろう?」
それだけじゃなかったけど・・・一応頷いて雑誌を受け取った。
「私にとっては、お前と初めて出会った日や同じサーキットを駆け抜けた日々。
キスを奪われた日、告白された日、身体をつなげた日」
まっすぐオレを見ていた目が少し伏目がちになる。
「・・・それに、お前を深く傷つけた日」
ゆっくりと息を吐きながら、ハイネルは再び視線を上げて続けた。
「お前と過ごせる日常が、私にとっては全て大切な日だ。
一日限定の記念日よりも、な」
ハイネルが、オレと一緒の想いを抱いてくれてたことが嬉しく胸に熱いものがこみ上げてくる。
「けれど、9月8日というのも悪くは無い」
ふわりとこぼれるハイネルの笑顔。
あまりにその笑顔が可愛くて、キスをしたくなるけど・・・先に、昨日言えなかったことを!
「オ、オレもそう思ってて、その日に出来たら・・・」
最後まで言い終わらないうちに、ハイネルの声が重なる。
「どこで過ごすかは任せる。
お互いオフになるよう調整はつけておこう。
それと・・・これは提案なのだが」
前置きをしてハイネルは続ける。
「レース期間は、私はレース以外のことに頭が回らなくなる。
オフの期間も、開発に追われて今以上になくなってくるだろう。
だから・・・出来ればレース終了後に一緒に住まないか?」
・・・え?
これは、現実・・・?
息を潜めてハイネルの言葉を待つ。
「私は、今のグーデリアンのことをもっと知っておきたい。
一緒に住めば、全てが分かり合えるとは考えていないが・・・離れていると、また疑心暗鬼に取り付かれそうだ。
こんなにも、私のことを想ってくれているグーデリアンを・・・もう疑りたくない、傷つけたくないんだ」
抱き寄せられて、促されるままその胸に顔を埋める。
冷静な話し方・・・でも、ハイネルの心臓はオレ以上に早く強く高鳴っているのが聞こえてくる。
どれくらい、悩んで、考えて、たどり着いた結論なんだろう。
・・・傷ついてるのは、ハイネルのはずなのに。
オレの過去が、ハイネルをどれくらい傷つけているか・・・昨日のハイネルの涙が教えてくれた。
どれだけ信じてといっても、信じきれないようなことを今までしてきたのはオレなんだ。
それなのに。
思わずハイネルの両足を抱きかかえ、そのまま一回転。
「グーデリアン???」
驚くハイネルを見上げる。
「・・・嬉しすぎて、死んじゃうかも」
「縁起でも無いことを言うな!」
軽く頭を殴られても笑ってしまう。
「答えは急がん。
まだ、レースも中盤だ」
「そんなの考えるまでも無いって!
どこに住むか、レースの合間にいろんな国を見て周ろう!!」
ハイネルを床に下ろし、その頬に、額に、瞼に。
次々とキスを贈る。
目の下のクマは、ずっとオレとのことを考えてくれたせいだよな・・・
オレが背負わせているハイネルの気苦労。
ごめんなと心の中で謝る。
本当に、ごめんな。
傷つけて、誤解させて、泣かせて・・・でも、信じてくれてありがとう。
ハイネルはオレの承諾に良かったと胸をなでおろしたあと、何気なく見てしまった壁の時計が指す時刻に固まる。
「・・・なんだ、この時間は!」
余韻に浸ろうとしているオレの腕を乱暴に掴んで、出入り口まで走らせる。
「急いで戻るぞ!
時間が無いというのに!!!」
すっかり監督モード。
ちぇっと舌打ちするオレを、ハイネルは眉間にシワを寄せて睨んでくる。
「レースまで後わずかしか無いんだぞ?
分かっているのか!?」
・・・分かってるけどさ〜
睨まれても、やる気なんて出ないし。
鍵を掛けて、走り出すハイネル。
そんなに急がなくても・・・歩いたって数分しか変わらないのに。
手首を掴まれていた手のひらに、自分の手のひらを重ねて仕方なく走ることにする。
さっきまで、あんなに甘い時間を過ごしていたのに。
ハイネルの切り替えスイッチってどこにあるんだろう?
オレはため息をつきながら、ハイネルと一緒にスタッフの元に戻った。
手のひらを重ねたままで。
こんな素敵な後日談を読ませていただけて嬉しいです!
この二人がこれから一緒に暮らしていくなんて、それもハイネルから切り出してくれるなんて、すごく幸せな展開ですよね。
きっとこれからもまだまだすれ違ったりうまくいかなかったり、もどかしく思うようなことが起きるのだろうと思うんですけど、そうしながらもこの二人なら少しずつ互いの心をたぐり寄せ、引き寄せあっていくんだろうな、と思います。
それにしてもAYAKAさんの書かれる二人のやりとりはかわいい・・・初々しいです。
加賀の言葉にあせっちゃうグーもかわいかったです!というか加賀クン、全面的にアナタの意見を支持します、ワタクシ(笑)。
AYAKAさん、本当にありがとうございました!