ブラザー・スイッチ2
7:00 監督室へ入室
7:10 メール・書類確認及び対応
7:35 ピットより本日の気温室温等報告・本日のスケジュール調整
7:45 スタッフリーダー会議(本日のスケジュール確認)
8:00 ピットにてスタッフ会議
8:10 遅刻してきたグーデリアンさんと喧嘩
8:25 会議再開
8:55 会議が喧嘩による時間ロスで大まかになったため再びグーデリアンさんと喧嘩
9:00 慌てて監督室に戻り本社とネット会議
9:55 会議終了後、指摘事項対策のためにデータ収集開始
10:15 グーデリアンさんがちょっかいをかけに監督室に乱入(そのままおやつタイムになってしまう)
10:30 雑誌取材 2誌
10:55 設計チームと会議
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本日のたった4時間の監督スケジュール。
忙しくなると、朝5時から夜中の2時までびっしり!
そんな時は、途中に仮眠を挟むように配慮はされているけど、予定していなかった会議なんかがスケジュールに加わるとその睡眠時間が真っ先に削られちゃうのよね〜
・・・体力の無い兄がいつ倒れるかしらと、一緒に仕事をするようになってからハラハラの連続!
グーデリアンさんの乱入と予定外のお仕事がなければ、びっしりのスケジュールを分刻みで完璧にこなし続けるんだもの。
オンオフスイッチがはっきりした兄らしいというかなんと言うか・・・
おかげで兄がどこで何をしているか把握しやすいし、私たちスタッフは助かってはいるのよね。
今も、兄にチェックしてもらう走行データを手に食堂に向かっているところ。
確か、14時から30分間。
他のスタッフとは2時間もずれてしまった昼食をとっているはず。
「お!リサちゃん〜!!
どっこ行っくの〜??」
廊下後方から、ドカドカ足音を立てて走って来たのは・・・
「グーデリアンさん!」
レーシングスーツに身を包み、手にはヘルメットの代わりにノートサイズの小さな紙袋。
「兄に書類を届けに行くんです。
グーデリアンさんこそ・・・」
手に持っていたバインダーを開けて、パラパラとグーデリアンさんのスケジュールを探す。
「えーっと・・・走行中になってますけど?」
上目遣いで見上げると、へラッと笑われてしまう。
「気が乗らないから、抜けてきたの!」
晴れ渡る空みたいな青い瞳は、悪気ゼロで私を映している。
グーデリアンさんのスケジュール管理をしているスタッフのケリーさん、探してるんだろうな〜
兄と正反対で、グーデリアンさんのスケジュールは在って無きが如し!!
分単位なんてとんでもない!
時間単位、前後60分の気持ちのゆとりは持っていないと胃に穴が開いちゃう!
チーム発足当初、それで兄はかなり胃薬と仲良くなっていたみたい。
分単位で完璧に自分がこなせちゃうから、全くこなす気の無いグーデリアンさんにイライラしすぎちゃうのよね。
今はそれをケリーさんが代行中。
どこにいるかなんて見当もつかないから、酷い時は半日のお仕事がグーデリアンさん探し。
どうしても見つからなくて一旦ピットに戻ったら、探していた本人がケロッと遅れたスケジュールを取り戻して走りこんでいたりすることもザラ。
グーデリアンさんは、その日の気分がデータに即反映。
気が乗らないときに無理やりスケジュールを押し付けても、結果は惨敗。
私もこの数ヶ月で身をもって知りました。
コンマの世界で勝敗が決まるのに、秒単位で変わってくるんだもの・・・急な兄の出張とかがタイムに響くのもワカッテマス。
だから、グーデリアンさんの気が乗ったときに、短時間でスケジュールをこなしてもらった方が良いデータが取れたりするのよね。
ケリーさんも、特に走行データに関しては探さずに待っていることもあるくらい。
基礎体力作りのプログラムに関しては、スタッフ全員に探索命令が出ちゃうけど。
ただ、それだと・・・ねぇ。
それを当たり前のように許してしまえば、レースの日に気分が万一乗らないことを言い訳に出来る状況を作ってしまうって兄はカンカン。
データ重視でレース展開を構築する兄にとっては、日ごろのデータが当てにならないグーデリアンさんは頭痛の種。
ひたすら走らせろ!!身体に覚えさせろ!!とスタッフには厳命している。
グーデリアンさんもプロ。
兄が心配するほどのことは、ないとは思うんだけどな〜
ただの走りに対する考え方の違いというか。
グーデリアンさんは、完走を重視しすぎて入賞できる可能性をつぶす位なら、0か100。
リタイヤになってもいいから、優勝の可能性にかける走りをしているのよね。
自分でも、
『ちんたら走って最後にチェッカーを受けるくらいなら、優勝目指して自分の力にかけたほうが良いに決まってる』
ってリタイヤ率の高さを指摘されて反論してたし。
ただ、即座に。
『それは優勝できるだけの力を持ったドライバーが言う台詞で、日々のランニングさえまともにこなさんバカが口に出来るものではない!!』
って一刀両断。
乱闘というか漫才の口火になってしまってたっけ。
黙って見上げていた私に、グーデリアンさんはばつが悪そうに髪を掻き毟り、
「あ!そうだ!!
リサちゃん、手ぇ出してくれる?」
「手、ですか???」
言われるままに右手を出すと、ハイ!!と紙袋から何かを取り出して置いてくれた。
「ドーナッツ??」
有名洋菓子チェーン店のロゴが入った透明の袋には、チョコレートたっぷりドーナッツとナッツクッキーが数枚。
「ケータリングで来て貰ったんだ。
他にも、マフィンにクッキーに色々あるよ。
レースも近いし、皆ハイネル病にかかってるからさ。
ちょっと息抜きに美味しいもんでもって!」
紙袋の中を覗き込む私にウィンク。
「私も、ハイネルなんですけど??」
眉間にシワを寄せて考え込むことを、グーデリアンさんは『ハイネル病』と名づけている。
「ごめん、ごめん!
リサちゃんみたいに、可愛くキュートになる病気があるならオレが感染源になって世界中に振りまいちゃうんだけど。
ここに蔓延しているのは、こわーい監督様に近づく病気だからさ〜」
困っちゃうよな〜と笑うグーデリアンさん。
でも、さっきから目は兄のいる食堂の扉をチラチラ。
もう〜!!
走行もせずに、最近疲れ気味の兄に差し入れなんて!!
スタッフとして、ちょっと意地悪したい気持ちもあるけど。
グーデリアンさんのちょっかいが、兄にとっては息抜きになっていることはスタッフの間では黙認されている事実。
私とグーデリアンさんが、二人きりになることはなかなかないし。
本当なら、ビシッと兄との関係を問い詰めたいんだけどな。
これもスケジュール通りにしか動けない、自分のオフスイッチには手が届かない兄のため!
「これ、兄に渡してくれます?」
バインダーから、兄とグーデリアンさんの走行データ資料を取り出した。
「え?」
驚きつつ・・・嬉しそうに口元が笑ってますよ〜
その手のおやつセットだけ届けに行って怒られちゃうより、兄にうまい言い訳が出来るもんね。
「私、まとめなきゃいけないデータがあるんです。
よろしくお願いしますね!」
「OK、OK!!
任せといて〜」
紙袋片手に、ばっさばっさと資料を振り回すグーデリアンさん。
クリップ、外れないかしら。
後で、なんでグーデリアンさんに持たせたんだと『ハイネル監督』に怒られるのは覚悟の上。
私が届けに行くより、『兄』のためにはなるんだから仕方ないじゃない。
私は今日もいいことしたな〜と情報室に向かって歩き出す。
後ろで兄の怒鳴り声が聞こえてきたけど・・・ま、それはすぐにおさまっちゃうでしょ。
一人だとご飯もおやつも全然食べないけど、グーデリアンさんがおやつを持ってその場に行ったら・・・
『グーデリアン!!
貴様、体重をこれ以上増やす気かッ!』
『折角持ってきたのに、捨てるって言うのかよ〜
小麦を作っている農家の皆様に申し訳ないって気持ちは無いの!?
ひっでぇやつだな!
捨てるくらいなら、オレが食うんだから返せよ!!』
『えぇい、離さんか、馬鹿者!!
私が食べてやる!!』
な〜んてね。
AYAKAさんが、またリサちゃんがメインのお話を書いて下さいました!AYAKAさんの書かれるリサちゃんが、とってもキュートで好きなんです。アクティブでキュートでちょっと小悪魔っぽいところが魅力的。リサちゃんてもともとそういうキャラなんだろうなとは思うんですけど、グーハーの方が書かれるリサちゃんてワガママ具合が絶妙ですよね!(ある意味グーもそういう得なキャラクターの持ち主ですよね。不遜なことを言ったりとか、ワガママ言ったりしても憎めなくて、むしろそれが魅力にさえなってるという・・・ハイネルはそういうキャラクターの持ち主に好かれてふりまわされるタイプなんだろうなあ・・・笑)。
AYAKAさんのリサちゃんもそんなリサちゃんとしての魅力がしっかりあって、1の方ではお兄ちゃん子なところも出ていて微笑ましかったです。お兄ちゃん子なリサちゃんはやっぱりかわいい!
2では、そんなリサちゃんの目を通してハイネルのいかにも有能な監督らしい日常と、こちらもいかにもらしいグーのドライバーとしての日常、そして二人のやりとりも見ることが出来てうれしかったです。
大好きなお兄ちゃんが以前とは変わりつつあるのをさびしく思いつつも、グーにバインダーを渡して二人が話せるきっかけを(お兄ちゃんであるハイネルが少しでもオフの時間をとれるように、という思いでもあるわけですが)作ってあげるところも彼女らしい優しさが出ていて素敵だなぁ、と思うのでありました。
AYAKAさん、いつもほのぼのするようなかわいらしいお話をありがとうございます!