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「外科医は心を持ってはいけない」

冷淡とさえ言える冷静さでハイネルは繰り返す。

その言葉は、感情のこもらない機械のように迷わず仕事を進めていく優秀な外科医という彼の姿から、

「外科医には心なんて不要だ」

と言ってるのも同然に聞こえ。

そんな彼には、
医者だからこそ大切な人を救える自分が手術をしたい気持ちなど理解してもらえないだろうと思った。

だから、

自宅に招かれて、

玄関を開けて「ただいま」と言ったハイネルの後ろをついて行きながら、

上品で綺麗で整理整頓された部屋はいかにもハイネルらしいなんて思いながら、
歩いていたから。

静かにハイネルがドアを開けた部屋で誰か寝ているのを見ても、

最初は気がつかなかった。

その人が機械に繋がれていることに。
ハイネルが、あまりにも普通にしていたから。


加湿器の柔らかな蒸気に、蘭の香りが溶けてゆく。

そういえば、これまで通って来た部屋には同じ蘭が飾られていた。
たぶん、これはその人が好きな花なのだろう。


「私が手術することに周りは皆反対した。しかし、愛するものを救えなくて、いったい誰を救うために自分は医者になったのかと私は手術を行い、…そして」

冷静さを失い、
手術は成功しなかった。

機械によって命は保たれてはいるものの、

「もう、意志を通じさせることはできない」


だけど。
そう言いながら、
ハイネルはふたりの日常を営み続けている。

大切に、
大切に守っている。


優秀な外科医の判断なら違う選択もあっただろうが、
彼はこの生活を選んだ。


「外科医は心を持ってはいけない」

あれはきっとハイネルが優しいからこそ、言っているのだろう。

愛するものを救えなかった苦しみと悲しみを味わっているから、
同じ痛みを背負う覚悟があるかと問われているのだろう。


「もし相手に何か特別な感情があるのなら、こういう現実があることを知っておいたほうがいいと思ってな」


確かに厳しい現実を思い知らされた。
でも俺の気持ちは変わらない。


「俺にお前の手術をさせてくれ」

俺が必ず助ける。
お前も、

お前の大切な人も。



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  このお話も「ハイネルには大切に想う誰かがいて、そんなハイネルを想っているグー」のパターンなのでシリーズ番外編としてご紹介させてください。かの有名なドラマ(例のごとく一度も見たことなくてスミマセン。笑)「Dr.コトー」からインスパイアされて書いて下さったとのことですので、ドラマを思い浮かべてくださった方もいらっしゃるかもしれません。
 稲荷さんにもお伝えしたんですけど、「レースを決めるのはマシンの性能」というようなことを言っているハイネルにはピッタリな配役ですよね!
 優しいからこそ冷たい氷の殻に閉じこもっているかのように見えるハイネルと、そんなハイネルの本質をきちんと分かってくれているグーの構図が素敵です。
 稲荷さん、いつもながら素敵なお話ありがとうございました!こういうお話はいくつ読んでもいいですよねー!(笑)


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