It's me, burn you forever
さっきまで何の変哲も無かった夏の夜が、
その横顔を見た途端、
特別なものに変わった。
庭先で、静かに小さく燃える炎に照らされて。
いつもは冷たく厳しい顔が、優しく柔らかく、
切なく見えた。
なぜか唐突に、
彼はこんな顔でひとりで泣くのだと思った。
涙を流さずに号泣しているのだとわかった。
なぜならば。
透明な涙が止まない雨のように、この身に降りそそいで。
朝まで覚めないはずの酔いも、
これから会いに行く美女の笑顔も、
きれいさっぱり洗い流してしまったのだ。
気がつくと。
「酔っ払いがいきなり何をするか!!」
背中からそっと回そうとした腕を取られて豪快に横っ面を張り飛ばされた。
思わず尻餅をついたポケットから転がり出た携帯電話が陽気に歌いだす。
拾い上げた携帯を自分に突きつけるその顔は、いつもと変わらない。
「どうした。出ないのか」
「あ?あア」
促されて見た携帯の画面には、約束の相手とは別の名前。
声を聞いて思い出す。3日前にパーティーで知り合った甘えん坊な彼女。
いつのまにか名前と電話番号を自らメモリーに入れていたらしい。
「やあハニー、どうしたの?・・・今から?今はちょっとシャワー浴びてるところだから・・・え?そのままでいい??ホテルの部屋の前まで来てるから?!あア、ゴメン俺今別の場所にいるンだ、ああ、あ!ああちょっと待ってハイぃ痛ってえ!」
「妙なところで私の名前を出すな!馬鹿者!!」
話している最中に小さな焚き火の傍へ戻ろうとしたハイネルを呼び止めようとして、ヒールキックを見舞われた。
名前が出るのを阻止したつもりだろうが、そんな大声を出せば相手にまる聞えなのに。
相変わらず、どこか抜けている。
呆れたのか用無しと判断されたか、ともかく相手からの電話は切れて。
ついでに電源もオフにする。
これでもう邪魔は入らない。
と、思ったのに。
けたたましいクラクションが鳴って。
「やっぱり迷子になっちゃってたのね、ジャッキー。迎えに来たわよ」
オープンカーに乗った約束の美女が笑顔で手を上げていて。
「お店が昔の場所から移ってたの。知らなかったでしょ?さあ、早く乗って」
「どうした、行かないのか」
彼女が本命なんだろ、と言いたげなハイネルの視線に首を振る。
そして、
さっきからなんだか痛いような苦しいような胸から胃のあたりを撫でながら、
「ごめん、バーバラ。今夜の俺は、君を楽しませてあげられそうにないんだ。悪いンだけど、また今度にしてもらえる?」
地面に座り込んだ姿勢のまま、上目遣いに頼んでみる。
「OK、ジャッキー。今夜は勘弁してあげる」
何をどう察してくれたかわからないものの、機嫌を損ねるでもなくウィンクして去って行く彼女に投げキッス。
道の向こうを通りかかっただけの女の子たちからも、歓声があがる。
「相変わらずだな」
「なに、女の子たちが騒ぐのは俺がレーサーで、ちょっとキケンな香りがするからさ。恋人にはしてくれても旦那にはなれない」
「なるほどな。結婚するには誠実な人を選ぶか」
珍しく素直に自分の言葉に耳を傾けるハイネルの、
隣に立つ。
小さくなっていく炎を大事そうに見つめる、
その横顔に誓う。
「俺は誠実な男にもなれるぜ」
「そんなこと、私に言ってどうする」
訝しそうに自分のほうを向く、
その澄んだ瞳に誓う。
「あんたに伝えたいんだ、ハイネル。俺は、誠実な男だって」
ハイネルが好きな日本では、
夏になると亡くなった人の魂が戻って来て、
家族と数日を過ごすんだって聞いたことがある。
魂を迎えるときと、
また送り出すときに小さな火を焚くことも思い出した。
ハイネルがひとりで迎えて、
ひとりで送る相手がどこの誰でも構わない。
「ミーが、ユーのハートに火をつけてみせるからね!」
「いったい何を言ってるンだ貴様!意味がわからんぞ!!とっとと帰れ酔っ払い!!!」
今はわからなくたって構わない。
そのうちデカイ花火のようなバーニンラブをその胸に打ち上げるから。

稲荷さんが掲示板に載せて下さったお話を、テキスト欄に移動させていただきました。
もともとこのお話は、私が掲示板で「横恋慕するグーが見たいみたい!」とわめいていたら稲荷さんが書いて下さったものなんですけど、「こんなセリフをグーが言ったらうっとり」と勝手に私が書き連ねたセリフの数々を見事にお話の中に散りばめて下さいました。
とても印象的な使われ方をしていてうれしかったです。
ハイネルのちょっと鈍いところもかわいくてらしいですし、グーの口説き文句(ハイネルは気づいてないでしょうけど。笑)が粋で本当に素敵です。
そして今回、稲荷さんがイラストもつけて下さいました!
大人な本編のグーハーとはまた違った、かわいらしいテイストのイラストもお楽しみ下さいませ。
ハイネルのちょっとすねたような感じと、グーのいなせな感じがやっぱりとても「らしい」のでした。
稲荷さん、私のワガママを素敵な作品という形に昇華してくださって本当にありがとうございました!