終章




「そう、京志郎にいさまは亡くなったのね」
震える手を押さえ胸にくむ。
AOI国、城の一室。
女王である私の許可なしには、何人も入ることを許していない王座へ続く小さな隠し部屋。
窓際に座り、NAGUMOの国があった方を眺める。
逃げ帰ってきた召喚士たちと共に、AOI国に逃れてきたNAGUMOの国民たち。
にいさまは、初めから自分の国と死ぬ気だったのではないかと思える。
先代の王、父が何度もぼやいていた。
私が男に生まれ、NAGUMOに姫が産まれていたらと。
AOI優位であれば、縁談での和解も出来たのにと。
民を大切にし、国を何より愛するがゆえにAOIへの吸収を頑なに拒んできた若き王。
彼のことを父は認めていた。
国交正常化交渉で、前代の王が存命の内から何度も言葉を交わしていたNAGUMO最後の王。
本当に、これで良かったの・・・?
自分に問いかけても答えはない。
窓越しに、目の前に浮かんでいる『風』の加賀を見つめる。
外は雨が降っているのに、彼の周囲はその影響を受けていない。
目には見えない風が、加賀の周りを包んでいるのだろう。
自然界の力を、召喚士に従い操る召喚種族。
その中で、我々人間との召喚契約を必要としない『風』。
この『風』の加賀とAOI国とは、歴代に渡って付き合いがあるらしく王冠を継承した時に紹介された。
全てを信用するなとは言われていたが、加賀から得た情報と、そして周りの3大陸からの圧力に耐え切れずNAGUMOに不用意に足を進めてしまった。
もっと他に方法があったのではないか・・・
「姫さん、そんなに沈んでる場合じゃねぇぜ!」
いつの間に部屋に入ってきたのか、ポンッと肩を後ろから叩かれ顔を覗き込まれる。
「NAGUMOのやつらに、さっさと初めの挨拶しとかねぇと舐められちまうぜ?
大事な国民認定の式典だろ?」
何を考えているのか掴めない笑顔。
どうして今回こちらに情報を流したのかわからない、けれど。
「姫さんじゃないわ。
5年も前から、私はこの国の女王よ」
「そりゃまた、失礼しました」
にやっと笑って音もなく姿を消してしまう。
そうよ。
女王として下した決断を、今更迷うわけには行かない。
私には、AOI国第48代王位継承者としての勤めがある。
王冠を頭上に掲げたあの日から、私に迷いは許されないのだから。
「女王様、中庭にNAGUMOの民を集めました」
扉越しの報告。
「わかりました。
今から参ります」
私はゆっくりと扉に向かって歩き出した。



これで良かったのかよ、フィル?
AOIの城を離れ、水没した王国を見下ろす。
今も降り続けている雨は、湖となってNAGUMOを全て飲みこんじまった。
手にある黒色の宝珠。
自分の最期を見届けたら、それを頼む。
そう言って、あの日、地下牢で託された。
『水』の王族だけが持つことを許された宝珠。
『水』の友人の手に合ったときは、青白い光を放っていたのに・・・今は光を放たず鈍く光る。
十年以上も前に、『土』の城から忽然と姿を消してしまった『水』の末子。
危うくあちらの世界で戦争が始まりそうだったが・・・本人の不注意。
『水』の王族の末子を盾に、他の国に『水』の種族が召喚されることを許さない横暴な人間の要求。
こっちの世界では、オレたち『風』を除いた種族はその人間優位の関係でしか召喚種族は動けない。
特別な出を除いて。
『水』が動きを取れなくなり、あちらの世界の均衡が崩れ始めた頃。
兄のように慕ってくれていた彼を、あの牢で見つけた。
すぐに、帰してやれば良かった・・・オレには、しようと思えば出来たのに。
嫌だと首を振り続ける彼の気持ちが、自然に変わることを待ってしまった。
5大王が、禁忌の決断を下してもフィルの想いを尊重しようとしてしまった。
その結果が、コレだ。
宝玉を強く握り締める。
後悔ばかり、だな。
降り続いていた雨足が徐々に弱まっていく。
足元には、湖を跨ぐように空に虹が架かろうとしていた。
数ヶ月ぶりに晴れ渡る空。
オレは、虹の完成を待ってあっちの世界に飛んだ。



「いいのか、お前は戻らなくて?
お前はフィルを連れ帰るために、ここに来たんだろう?」
あの日から数ヶ月。
NAGUMO国の最期を報告し、対応に追われて城から出ることも出来なかった。
今日はやっと外出の時間が出来、NAGUMO国の跡に出来た湖まで足を伸ばしている。
「何で戻るんだよ」
私の前を歩きながら、いつもの調子で飄々と答えるグーデリアン。
「ハイネルちゃんには、オレが必要なんだろう?」
振り向きウィンク、1つ。
戦いの中で思わず口走ってしまった言葉を、暗に指され真っ赤になる。
従わせるのではなく、従ってもらうのではなく。
対等の立場で。
他の何にも変えられないただ1つの存在だと認め合いたい。
自分にグーデリアンが必要であるように、グーデリアンにとって自分が必要である存在でありたい。
そう、考えていた自分に気付かされた瞬間だった。
ただ扱う道具としてしか見ていなかった王と、唯一の存在として付き従うだけだった召喚獣。
もっと他の方法があったはずだ。
人と違う思考をもち、独自の善悪で行動する種族。
とてつもない力を操るのに、なぜか人に従う種族。
初めは、どう対応していいかさえわからなかったけれど・・・
「必要だ」
そっとその背に囁く。
あんな、終わり方はしたくない。
グーデリアンとは。




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*せっかくのシリーズものできっちりしたファンタジーの世界も構築されているので、余韻を残すべく感想等さしはさまないようにした方がいいかな、と思ったんですけど、せっかくテンポがいい次回予告も送って下さったので以下ご紹介させて下さい。

☆次回予告☆

ハイネルのもとに舞い込む1つの依頼。
それは、人間の世界と召喚種族の世界が交じり合う事件へと発展してしまう!?

次回「50:50〜土の内乱〜」

いろんな伏線が、解消される・・・かも、ね?