ちびねる・ほわいとでー
さあ、もうすぐ熱い季節がやって来るというある日のこと。
はいねる君は少しばかり暖かい日差しの中SGMのおじさん達に勧められて、ふぁくとりーの横にある森で森林浴をしていました。
何故おじさん達が勧めたのかと言えば、ここのところ、テストに次ぐテストの最終段階に入っていたおかげで、はいねる君がかなり無理をしている事に気付いたからです。
はいねる君はマシンの気になる所が何箇所かあったのですが、SGMのおじさん達の好意を無下にする訳にも行かず、ちょっとだけ困った顔を浮かべながらふぁくとりーから出てみました。
充実した日々を送っていたはいねる君は、外がすっかり春らしくなっているのも知らなかったので、森に入るとすっかり夢中になってしまい、あっちトコトコこっちトコトコと歩いて見て周ります。
おじさん達には、一人であんまり遠くに行かないで下さいね!と念を押されていたのですが、そんな事も忘れて奥へ奥へと入っていきます。言われた時には殊勝に返事をしていたのですが、やっぱり男のコですので内心、はいねる君は面白くありませんでした。
『私は男なのだぞ。全く…箱入り娘ではあるまいし何を心配しているんだか』
すっかり自分がSGMの『箱入り息子』とは気付いていないはいねる君です。
おじさん達の心配も何のその。ずんずん、歩き進みます。ドイツは森が多く、はいねる君の好きな場所の一つでもあるのです。
だんだんと奥に入り込み、森の入口からは人が入りこんでいるのが判らないような所にまでやってきました。
ふと、違和感に気付きはいねる君は歩みを止めます。
何か、人に見られているような気がしたのですが周りには誰もいません。首を捻って立ち止まりましたが、自意識過剰すぎるのだと結論をつけてみながらも後ろを振り返ってみます。
前を確認してみても、誰一人おりません。
『やっぱり、気のせいか』
納得して歩き出そうとした瞬間、びっくりする事が起きました。
不意に横の木陰から、掻っ攫うようにして腰を抱いてきた人物が居たのです!
さあ、大変なことになりました。
はいねる君は何が起こったのか判らず、固まりかけていましたが、その不躾な人物が誰だか判明すると珍しく、声を荒げました。
「この、大たわけ者っ!」
勢いと弾みで、枯れ葉の上に寝転がってしまったはいねる君はクッションとなって、はいねる君を上にして尚、手を離さない人物に睨み付けます。
「きさま…なんで、ここに居るっ!」
声は一生懸命に怒っていますが、碧のお目目はビックリしたのでちょっぴり涙うるうる状態です。
精一杯、虚勢を張って睨みつけるはいねる君に驚かせてしまった人物は、素直に謝罪しました。
「ごめんな…ここに入るのをみかけたから、後つけて驚かせようと思ってさ……」
上に乗っかっているはいねる君の重さに幸せを感じつつ、その人物はにっこりと笑います。
らいおんのような金の鬣をおもわせる髪とお空の蒼の目を持つ、その人物はちっとも悪びれていません。
「ぐーでりあん…何しに来た」
キャンキャンと述べしたてまくるはいねる君は、離せとばかりに躍起になってぐーでりあんの手を引っ掻きます。
まるで子猫に引っ掻かれているみたいだ、などと感じているぐーでりあんでしたがはいねる君のご機嫌が斜めになるのは避けたくて、しぶしぶ囲いを外します。
途端、毛を逆立てて怒り心頭とばかりに素早く離れるはいねる君を苦笑して見ていました。
あまりに露骨な邪険さ加減に、
『本当にコイツだったのかなぁ…』
と此処へくる事となった原因を思い浮かべました。
それは約一月前のことです。
アメリカのすたんぴーとのえーすどらいばー、じゃっきー・ぐーでりあんの元へ1個の小包が届いたことが発端でした。
一月前と言えば、2月14日…。
ふぁんの女のコ達から、特にぷれぜんとの届く日でしかも、ぐーでりあんの大好きな甘いものがいっぱい贈られてくるのです。
その日もぐーでりあんはすたんぴーとのすたっふ達と届けられた贈り物をリヤカーでぐーでりあんの部屋に運びこんでいました。
一応、女のコにはマメな男・ぐーでりあんはすたっふ達に手伝って貰って、相手にお礼状を送る為のあて先チェックをしています。
毎年恒例とは言え、たくさんのぷれぜんとの山に披露困憊、さあ後ひとつ!とよろよろになって、最後の包みを手に取りました。
「?」
宛名は確かにぐーでりあん宛てのソレ。
でも送り主の記載が一切されていないのです。
上にして、下にして斜めにして、透かして見てもわかりません。
恐る恐るその包みを床に置くと、ぐーでりあん以下すたっふ共々ダッシュで四方の壁に張り付きました。
アメリカは『てろ』の多い国なのです。ちいさな『てろ』はどこそこで見うけます。
その中でも『小包爆弾』というものは、とってもぽぴゅらーなモノでした。
すたっふの一人が、ぐーでりあんに言います。
「おまえ…だから女ぐせの悪さを直せって…言っただろうがっ」
「一体何人と寝れば気が済むんだっ。とうとう逆上したヤツが出て来たじゃあないかっ」
もうすっかり、その小包は爆弾と判断されているようです。
「バーローっ。俺はオンナとは合意だぜ?…おめーらみたいに、不実じゃあねぇんだよっ」
低い次元での言い争いをギャ―ギャ―言いながら、続けます。
とりあえず、中身を確認しようと、赤外線スキャンという『対てろ』用の防犯装置にかけて見ましたが、何だか判りません。
無謀に開ければ、『BOOM!』といく可能性があるからです。
包みを軽くちょこっとだけ振ってみれば、カサカサと小さな音がします。
ぐーでりあんは臆病ではありませんが、用心という言葉を知っています。
ちぇっくにも引っかからない巧妙なものであれば、イタズラではすまない事も。
でも、宛名を見ればぷれぜんとのような気もするのです。何かが引っかかっているのに、もどかしく取り出せない感覚で、ぐーでりあんは髪を掻き毟りました。
だってとっても綺麗な文字なのです。
それも、どこかで見覚えのある字。
ふと、前にSGMのどらいばー・はいねる君のことが頭に浮かびあがりました。前にGPX開催の時あんけーとを答えようと書きこんでいたのを、自分がとりあげて勝手にサインしてやった事。
でっかく書いてやったら、綴りを間違ったことに激怒して二重線でかき消し、下に小さく丁寧に訂正を入れられてしまったのです。
その時の文字が、目の前の包みの文字とダブリました。
『なぁんだ…アイツの字じゃん』
それまでビクビクしていたのが嘘のように、ぐーでりあんは迷いもなく手にしました。すたんぴーとのすたっふが頭をしっかり抱えて、様子を見ています。
ぱか。
簡素な包み紙をばりばりとはがして、開けてみれば美味しそうなとりゅふが数個、入っていました。何のめっせーじも入っていない小包。
消印を確認してみれば、ドイツのシュトゥットガルド。
ここまで判ればどこの誰だか、ぐーでりあんにははっきりと判りました。
『はいねる、じゃん』
口笛を吹きたくなるほど、ご機嫌に笑います。
とうとう頭がおかしくなったかと、すたっふ達はソロソロとぐーでりあんの部屋から逃げ出します。でも、そんな事ちっとも気にしないぐーでりあん。
一つ手にして、口に放りこみます。
甘いちょこにナッツが入っているとりゅふは、とっても美味しいものでした。
満面の笑みでいそいそとくりゅふを口に運ぶぐーでりあんに、出ていきざまのすたっふが言います。
「おい、毒かもしれんぞ」
すたっふの言葉に、ぐーでりあんはニヤッと笑うだけ。
呆れ果てたすたっふは作業に戻ろうとぐーでりあんの部屋から退散しました。
「腹、こわすなよ……」
扉が閉まる間際にすたっふの忠告が届きました。
きっと一人で食べきるのが目に見えているからです。
ぐーでりあんは誰もいなくなると、くしゃくしゃにした包み紙を丁寧に伸ばしてパスケースの中に忍ばせました。
それから、いっぱいトレーニングをして、テストを重ねて、どうにかドライバーとしてのやるべき事を消化するとドイツに飛んできたのです。
さて、話はもどって…………。
「でもよ、一人でこんな処にきたら危ないぜ。全く」
なんだかSGMのおじさん達と同じ事を言われた気分に、はいねる君は口をへの字に曲げてしまいます。
『年下くせに、生意気な!』
表情がもろソウ言っているのが、ぐーでりあんに伝わります。
「じゃーまん美人は、気が強いけど押しに弱いからなぁ…」
ついつい揶揄ってしまう口調になったぐーでりあんに、はいねる君が電光石火の早業で殴りつけました。
ポカ。
「いてて…」
口では痛そうですが、立っている足元は少しも揺らぎません。
はいねる君はそんなぐーでりあんを見て、ますます面白くありません。眉間にしわを寄せて睨む眼差しのはいねる君を、ぐーでりあんが『ぐいっ』と掴まえました。
百戦錬磨のつわものは、『にこっ』と笑うとはいねる君の警戒心を解こうと画策します。
どうやらぐーでりあんは、はいねる君がぐーでりあんのお日さま笑顔に弱いことを見抜いているようです。
途端に、
ぱふん、とはいねる君のお顔が朱くなってしまいました。
「俺、チョコ貰えて嬉しかったんだ」
どの女のコに口説くよりも丁寧にそふとで、しかも甘く囁きながらはいねる君が逃げ出さないよう、抱きつきます。
はいねる君は馴れていないので、どうしていいのか判らないで固まっちゃいました。
どうもこういう事には『おくて』だとしっかり判断していたぐーでりあんは、いけいけごーごーとばかりの言葉巧みに、はいねる君がますます固まって動けなくなるよう語り続けます。
気になっていたコから貰ったチョコはとっても美味しくて。
とってもしゃいなコから届いたチョコは名前も書いてなくて。
ぐーでりあんはやせいの勘を頼りにして、はいねる君が『くれた!』と答えを出したのですが逢って見るまで、本当のところ不安でした。
いつも澄ましたお顔なのに、結構気が短くて。
話すのもとっても楽しくて。
ケンカも強い美人さんなはいねる君をどうやって射止めようかと、いっつもレース場で算段を立てるのですが結果はケンカばかり。
だからチャンスとばかりに、すっごく細い蜘蛛の糸よりも細いような繋がりを手繰ってみたのです。
ところが、はいねる君とくればツレナイ態度。
それはナイでしょ…とぐーでりあんは内心ガッカリしたのです。だけど、そんな事を表に見せるのはイヤで、ついついはいねる君をからかったのでした。
それもそのはずです。
はいねる君にしてみれば、一生懸命に作ったちょこを『送り届ける』という事が大仕事の一大事だったのですから。
その大任をやりとげて、すっかりすっきり自分の中で『片付いていた』はいねる君。
よもや、その時のお返しにぐーでりあんが来るとは思ってもいなくて、しかも自分が贈ったという事がばれたということも、頭になかったのです。
こうなったら、ぐーでりあんの腕の見せ所。
固まっているはいねる君に、散々女のコで練習した甘い囁きを披露します。
はいねる君は混乱してしまう頭を落ちつかせようと、咄嗟にひつじを数えはじめました。
『ひつじが一匹、ひつじが二匹、ひつじが…いや、違うっ』
そう、眠るワケではありません。ぷるぷると頭を振って、ぐーでりあんのお顔を見ないようにします。どうやらチョコを贈ったのがばれたらしいと、この時やっと理解しました。
胸がどきどき。お顔は熱い。
ぼーっとしてしまいそうな賢い頭を振りつづけます。
ぐーでりあんが絡むといつも『さーきっとの精密機械』と呼ばれている自分が消えちゃうのです。
SGMのおじさん達やぐーでりあんにも内緒にしていた、どきどきしちゃう想いを必至で隠そうとするのですが、とっても出来そうにありません。
真っ赤になって俯いちゃったはいねる君のお顔をぐーでりあんが、手を添えて目を合わそうとします。
「はいねる、お返しするから…こっち見てくれよ」
依怙地になって抵抗するはいねる君のお顔を上げさせると、どうしていいのか途方にくれている揺れる碧のお目目とぶつかりました。
『これで自覚なし、なんだから…』
陰でこそこそ、はいねる君に近付く悪いムシを追っ払っていたぐーでりあんは『どっきん!』と可愛いはいねる君にくらくらしちゃいます。
SGMのおじさん達に言わせれば、ぐーでりあんも充分に悪いムシなのですが…。
お返しと言われたはいねる君は、何だろう?『きょとん』としています。
その無防備さにぐーでりあんが『ニッ』と笑い顔を近づけます。
ちゅっ!
碧の綺麗なお目目を、いっぱい見開いてはいねる君は頭が真っ白になりました。
そして、すぐにお顔を真っ赤にしてまた、うつむきます。
そんなうぶな姿に『のっくあうと』されたぐーでりあんが、はいねる君のお顔を掬いあげて再び『ちゅ―っ♪』と口をくっつけてきました。
何が何だか判らなくなっていたはいねる君は、ぐーでりあんの顔を間近でみながら蒼のお目目が閉じられているのを、何も考えず見ていましたが息が出来なくなってきて暴れるように、ぽかぽかとぐーでりあんを叩いて離れました。
「何をするっ!」
ぼかっ!
我に返ったはいねる君は碧のお目目で、ぐーでりあんをきつく睨みつけて素晴らしいダッシュ力でふぁくとりーに帰っていきます。
後に残るは、にやけるぐーでりあん一人。
『へへへ…脈あり、と見たね』
懲りない男、ただでは起きない男・ぐーでりあんは幸せを感じているようです。
ふぁくとに一目散で逃げかえっていったはいねる君を追うのも出来ましたが、あんまり急に距離を縮めてもいい結果は出ないと思い、鼻歌を歌いながら意気揚揚とアメリカに帰っていきました。
それにSGMのおじさん達に何やかやと文句を言われるのもイヤだからです。
はいねる君は、凄い早さで自室に駆け込みました。SGMのおじさん達が何事か?と様子を見に扉をノックしますが、はいねる君のお返事はありません。
おじさん達は気が気でありませんでしたが、作業も残っているのですごすごと戻っていきます。
はいねる君はベッドの上に座りこむと、気が抜けたのかボーっとしてしまい何時の間にか晩御飯の時間になっていました。
SGMのおじさん達が色々と話しかけてきても、少しばかり頬を上気させているはいねる君は上の空です。
心配するおじさん達からどうにか逃げだし、はいねる君はベッドに潜り込みました。
今日ばかりは大好きな『しゅてぃーる』の設計にも手がつけられません。
『ぐーでりあんの睫は、けっこう長かった…しかもちゃんと、金色だったし』
頭に浮かんでくるのは、ちまたで言う『きす』をしている時のぐーでりあんの顔。
それを思い出すと、はいねる君のお顔も朱くなります。
ぷるぷるぷる。ほぅ。
べっどの中で、頭を振りながらはいねる君は溜息をつきます。
『ぐーでりあんのくちって、弾力があった…』
はいねる君は無意識に自分の口唇をなぞって、感触を思い出します。
ボッ!
真っ赤になると、はいねる君は慌てて目を瞑りますが眠れそうもありません。
どうやらぐーでりあんの『お返し』はしっかり受けとって貰えたようです。
でも、しゃいなはいねる君は、まだまだ。
『どうしよう…これでは、開幕戦のときに顔を合わせられないではないかっ』
なんて、一人困ってしまっています。
ゆっくりと育ててきた『どきどきする想い』がちょっぴり成長したみたいです。お熱が出た時の様にお顔を真っ赤にしながら、はいねる君は眠りにつこうとします。
『ぐーでりあんが一人、ぐーでりあんが二人、ぐーでりあんが三人…ちっちがう…』
羊を数えるはずが、今度はぐーでりあん。
ゆっくり、どきどき。びっくり、どきどき。
しっかりどきどきを育てていこうね、ぐーでりあん。
これは、はいねる君の秘密の独り言。
『今日だけはいいよね、しゅてぃーる……』
うつらうつらとし始めたはいねる君は、しゅてぃーるに呼びかけます。今日はびっくりする事があったのだと。
『しゅてぃーる』に報告して、やっと、はいねる君は眠りにつけそうです。
了
とおこさんが、とっても大変な時期なのにもかかわらずステキなお話をくださいました!(忙しい方から原稿むしり取りまくりの私に、そのうちきっと天罰がくだるに違いない・・・)
今回のお話を読むと、キュートなキュートなはいねるくんのぐーでりあんに対するほのかな想いが、決して一方通行じゃないんだってわかってホッとしますよね!
これからはぐーでりあんくんが押せ押せでがんばってくれることでしょう!何といってもじゃーまん美人は気が強いけど押しに弱いですから!(笑)
とおこさんは時事ネタ苦手だっておっしゃってますけど、こんなにかわいいホワイトデーのお話をお書きになっていて何を言うのでしょうか!こんなに一途でかわいいはいねるくんに想われているぐーでりあんがホントにうらやましくなってしまいます。これからはいねるくんとぐーでりあんは、いっしょにどきどきする気持ちを大切に育てていくんですね!
とおこさん、相変わらずとってもかわいいお話をありがとうございました!カッコいいお話も手がけられるのに、こんなにかわいいお話も書けるなんてスゴイです・・・。