このイラストは湯乃川さんご自身のサイトを飾っていたのでご存知の方も多いと思います。
 無理やり奪いとってしまって本当にすみません・・・遠慮という文字は私の辞書から消え去りました。45年くらい前に(笑)。

 湯乃川さんが描かれるイラストはどれも、『物語の中の1枚』といった感じで背景を感じさせてくれるのがとてもうれしいですよね。

 で、ほ、保健室です!しかもグーとハイネルは手をつないでいるのです。
 グーの不敵な感じの表情がすごくカッコいいですよね!それから、ちょっとスネているような、それでいて照れているようにも見えるハイネルの表情が初々しくてかわいいです。
 しかし、やはり一番気になるのはしっかりと握られた手・・・・。
 
 これから一体保健室で二人に何が起こるのでしょうか?うーんすごく気になります。
 湯乃川さん、いつもさまざまなカラーをもった素敵なイラストで楽しませて下さって本当にありがとうございます!

 そして。
 実は、新たな保健室をテーマにしたグーハーイラストをいただいてしまったのでした。
 同じ保健室なんですけど、こちらのグーは上の余裕があるように見える(そこが素敵!)グーとは対照的で、少年ぽいですよね。こういうグーもいいなぁ・・・。
 ハイネルの戸惑ったような表情も印象的です。彼はある意味すごく鈍いので、「少年」グーはひそかにやきもきさせられたりするのかもしれません。
 勝手にヘンテコ文を少しつけてしまってすみません!
 素敵絵のイメージを壊されるのがイヤな方は、申し訳ないのですが文はなかったことにしてすべてスルーしてください(笑)。


 その日、グーデリアンは珍しく女の子達の誘いにも乗らず、部活にも顔を出さずに帰路につこうとしていた。高校一年生の彼は、派手で目立つが持ち前の愛嬌と調子のよさのせいか教師たちの覚えも悪くはない。友人にも恵まれ、女生徒の人気はバツグン。
 そんな彼が一人で、しかもわざわざ普段あまり人が通らない校舎の裏手を通るのは珍しい。心なしかうつむき加減で歩いていた彼は、角を曲がり際よく見知った顔を見つけて小さく舌打ちした。そのままやりすごすべく、わざとあらぬ方を向いて足早に通り抜けようとする。だが、相手には見過ごしてくれる気がないようだ。

「グーデリアン」

「・・・・なんだよ、ハイネル。今日は何にもしてないぜ?風紀委員サマに目をつけられるようなことは、何も」

「『先輩』と呼べ、と言っているだろう。ここは日本で、この国の制度では私はお前の立派な先輩なんだからな」

「へえへえ、ホントに『センパイ』はご立派で。じゃ、オレ帰るとこだからコレで」

「待て」

「また文句?」

「いや、そうじゃない」

 ハイネルはそう言うと、突然白い手を伸ばしてグーデリアンの額を覆う金髪をはらった。不意のことにグーデリアンがとまどう。・・・いきなり他人に触られたせいではない。その相手がハイネルだったからだ。
 髪をはらい、そのまま手のひらが額にあてられた。想像していた通りひやりと静まった指先。
 その冷たさとは裏腹に、グーデリアンの胸がかすかな熱にうずきだす。

「やはり少し熱いな。いつも30メートル先にいても分かるほど騒がしいのに今日はやけに静かなので変だと思っていたんだ。体調が悪いんじゃないか?」
 
 額に触れていた手が滑るように動き、グーデリアンの頬を包むように触れる。熱い。

「・・・・あんたに触れられてるからだ」

「?何か言ったか?」

 それこそ熱に浮かされたような、低く掠れた声でつぶやかれたグーデリアンの言葉をハイネルは拾い損ねたようだ。メガネごしにも分かる明度の高い緑の瞳が、純粋な疑問の色を浮かべてまっすぐに見つめてくる。
 心身ともに弱っている今の状態でその瞳を至近距離から見つめていられる自信がなくて、グーデリアンはまたぎこちなく目をそらせた。

「・・・とにかく、文句があるなら明日にしてくれ。今日はもう帰・・・・。?な、何だよ!」

「いいから来い!」

「もう帰るっつってんだろ!?」

「お前は一人暮らしだと言っただろう。そのままでいたら悪化させるだけだ!昨日は雨だったな・・・大方外でサッカーでもしていたんだろう。いいから来い、保健室で少し眠るんだ」

「家に帰って薬飲んで寝るからいいよ!」

「私の手も振りほどけないほど弱ってるヤツをこのまま一人で帰らせるわけにはいかない」

 決然と口にしたハイネルは、その意思をそのまま伝えようとでもするかのようにグーデリアンの手を包んでいる自分の手のひらに力を込めた。
 確かに、・・・確かにグーデリアンはその手を振りほどけない。
 気取らせないようにしてきたせいでハイネル以外の誰も気付かなかったが、今朝からやけに体がだるく、午後からはほとんど立っているのもやっとの状態だった。だが、ハイネルは分かっているのだろうか?自分が手を振りほどけないでいるのは、力が入らないというだけの理由ではなく、自分の手を握っている相手がハイネルだからでもあるということを。

 高校二年生。グーデリアンより一学年上の先輩であるハイネルは品行方正な優等生、この学校始まって以来の秀才として誉も高い。そんな彼は風紀委員長もつとめており、何かと派手で目立つグーデリアンを彼の入学以来追いかけ続けている。
 明るいキャラクターとずばぬけた身体能力で瞬く間に有名人となったグーデリアンと、風紀委員である生真面目を絵に描いたようなハイネルの追いかけっこは、学内のみならず学外でも密かな、あるいは大っぴらな噂、及び見る者たちの楽しみとなっていた。

 グーデリアンは入学以来ハイネルのことを『あまりにも面白みのないヤなヤツ』といい続けてきたし、ハイネルはハイネルでグーデリアンのことを『我が校の規律を乱す問題児』と評してはばからない。そんなわけで、この二人は水と油、犬猿の仲と目されているのだが・・・。







「38度5分。・・・・全く、お前はほんの少し具合が悪いと騒ぎたてるが、本当に調子が悪い時には黙って耐えているタイプだな。タチが悪い」
 結局引っ張られるようにして、・・・事実引っ張られてきたわけだが・・・・連れて来られた保健室には既に保険医の姿はなかった。
 しかしハイネルは勝手しったるといった調子で手際よくグーデリアンの熱をはかり、風邪薬を飲ませ、ベッドスペースにグーデリアンの体を押し込んだ。


「ほら、少しでいいから眠るんだ。30分も眠れば薬が効いて多少楽になるはずだ。その後で送っていくから」

 ベッドの縁に腰を下ろしたままのグーデリアンを促すように、ハイネルが早口で言いながら小さな備え付け冷蔵庫を開けている。冷却シートを探しているのだ。

 のろのろとグーデリアンがシーツに体を滑り込ませ、ようやく下半身をベッドに横たわらせた時、目的のものを探りあてたハイネルが振り向いて手を伸ばしてきた。

「ああ、上着を着たままでは寝心地が悪いだろう。シワにもなるし、脱いだ方がいい」

 最初からボタンがはめられていない(そのせいで風紀委員のハイネルがいつも追い回すのだが)上着を脱がそうとハイネルの手が伸ばされ、グーデリアンが黙っていられたのはそこまでだった。
 ハイネルの手が上着にかかる前にその手を自分の手で拘束する。


「グーデリアン?」

「なぜオレに構うんだ?」

「どういう意味だ?」

「どうしていつもオレに構うんだ!オレが少し制服を着崩してたくらいであんたはいつもオレに向かってくるじゃないか。オレよりもっとひどいヤツらなんて幾らでもいるのに、あんたはオレを見つけるといつもオレに向かってくる。オレだけに。だからオレは・・・」

 熱い。

 体が熱っぽく、その熱で頭の隅がグラグラしている。
 いつもは抑えつけられている感情が、今にも制御を失おうとしている。

 ハイネルの前では、いつもわざと制服を大きく乱したり、挑発的な言葉を口にしたりしていた。
 そうすると冷静な彼がすぐに反応し、自分だけを見つめ、自分だけを追いかけてくるのが分かっていたから。
 
 けれど、ハイネルが自分の言うことに反応し、自分を追いかけてくるのは、彼が風紀委員としての義務感にかられているせいだと思っていた。それはそれで構わなかった。
 例え「規律を乱す、ただの後輩」と思われていたとしてもそれでよかった。ただ時折、その目を、その思いを自分だけに向けてくれているのなら。その間だけでも彼の視線と意識を独占できるのなら。
 「ただの後輩」でよかった。他には何も望まない・・・望んでも得られるはずなどないと分かっていたから。 


 なのに。


「ハイネル、・・・・いや、先輩、あんたはホントに立派だよ。いつも自分にたてついてばかりいる可愛げのない後輩に対してだって、ちょっと体調を崩してれば分け隔てなくちゃんと面倒を見てやる。優しいよな。でも分かってるか?」

「グーデリアン」

「そういう優しさ、残酷だぜ」


 ハイネルの緑の瞳が驚きに見開かれるのを目にし、グーデリアンはすぐに我にかえった。

 滅多にないことだが自分は今体調を崩し、ハイネルが優しい。・・・これもありえないことだ。

 その思いもかけない優しさにありえない可能性を探ろうとしている自分に嫌悪を覚え、グーデリアンはハイネルの手を捕らえていた自分の手を離し、そのままベッドの上に横になってシーツをかぶった。
 このまま眠ってしまおうと思う。そうすれば、目が覚めればいつもの自分が戻ってくるはずだった。
 そうしたらまた二人も元の姿に戻る。
 追い、追われ、にぎやかで楽しく、けれどほんの少しだけもどかしく切ない、そんな関係に。


「グーデリアン、私は」

「・・・・もう寝てる」

「独り言だ。・・・私は、優しいからここにお前を連れてきたわけじゃないぞ」

 意外な言葉に、シーツに埋もれたままのグーデリアンの頭がハイネルの方を向こうとしたが、ハイネルが手を伸ばしてそれを押しとどめた。少し怒ったような、ことさらぶっきらぼうな声で彼は続ける。


「私は単に、お前のやることなすことが気になって、自分自身で相手をしなければ気が済まないから、だから・・・・・」

「ハイネル」

「寝てると言っただろう!」

 結局シーツから頭を出したグーデリアンが見上げた先で、ハイネルの白い頬が少し赤く染まっていた。ざわり、と胸が騒ぎ出す。


「ハイネル、・・・・少し顔が赤いぜ?」

「『先輩』、だ!少し熱っぽいだけだ。もし風邪になったらお前のせいだからな!」

「そしたら今度はオレが保健室に連れてきて看病してやるよ」

「誰にでも優しいのはお前の方じゃないか!」

 思わず叫んでしまってから、ハイネルはハッとしたように口をつぐんだ。それから言い訳をするかのように口の中でもごもごと『いつも複数の女生徒とつきあってると聞いた』などとつぶやいている。いつも歯切れのいい彼には珍しいことだった。


「ハイネルにだけだよ」

「グー・・・・」

「・・・あんただけだ」

 
 起き上がり、目の高さを合わせて言い募ろうと肩を浮かせかけたグーデリアンは、だがその途端目眩を感じて眉間にシワを寄せた。眉間のシワはハイネルの専売特許なのにな、などと彼がバカなことを思っていると、またあの優しい、少し冷たいハイネルの指が伸ばされ、柔らかく額に触れた。


「ほら、本当に少し寝た方がいい。・・・・私もここにいるから」

「ホントに?」

「ああ。言っただろう?お前のことだけは自分で見張ってないと気が気じゃない」

「じゃあ、手つないでて」

「何を・・・・!」

「頼むよ、先輩」

「こんな時ばかり・・・・!」

「こんなことを頼むのは、ハイネルにだけだから」


 ハイネルは怒ったような顔をしてみせたが、白い頬はやっぱり赤く染まり、そしてシーツの中をたどってきた手がいささか乱暴な手つきでグーデリアンの手を握りしめてきた。
 少しひやりとした、けれど優しい感触。彼に握られているだけで、体中に巣食った嫌な熱もひいていきそうな気がする。

 グーデリアンは口元に小さく笑みを浮かべ、やがてそっと目を閉じた。
 





*いつものことですがホント荒れたぶっつけ本番な文ですみません〜ものすごい中途ハンパですし。せっかくの素敵イラストが!



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