寝瑠府淫法帳


巻ノ一




著者.しあえが







 月が出ている。

 奇妙な紫色に彩られた頭蓋骨の笑みような月が。
 あり逢えないことだが、月の光が雨のように荒野に注いでいるようにも見えた。
 野分を思わせる暴風が吹き荒れ、凄まじい速度で雲が流れていく。見ようによっては月が駆けているようにも見えただろう。
 青風が吹き渡るススキまみれの荒野に殺気が満ちる。殺気の主は一人の男。一人の男が天を仰いで吠えていた。

「……生き残った。生き残ったぞ」

 全身血塗れでボロボロの忍者装束を纏っている。年のころは20半ばだろうか。眼ばかりが大きく見開かれ、爛々と光っている。
 逞しい体つきだが頬はこけて皺まみれ無精髭まみれで、今まで過酷な時を過ごし、碌な休息もできなかったことが伺える。

 強風で雲は千切れ無数の断片となって空を覆っているため、彼が睨み付ける月は見えたり、消えたりを繰り返している。だが、雲を見通すように瞬き一つすることはない。。風雨が降ったりやんだりを繰り返す荒野のただ中で、一人の男、いや獣が月に向かって慟哭する。

「畜生っ、畜生めが……! 天よ見ているか。俺は死ななんだぞ。
 出来損ないの、つまらん能力と言われたが、見やれ! 生き残ったのは俺じゃ! 女を操るつまらん忍法!? 違う、最強の忍法なんじゃ! 先祖代々、古より伝えられた秘中の秘! それなのによくも、よくも! いや、そこはまだ我慢できる。裏切りは忍びの宿命だからな。
 だが俺が何をしたというんじゃ? 追い回され、一族を滅ぼされるほどのことをしたというのか!?
 俺の力を教えるため、藩の重臣の家族と郎党を忍法で狂わせ、破滅に追いやっただけ! 藩の脳無し、見る目無しに、俺がその気になれば公議も!将軍も意のままにできると、教えてやっただけなのに!  それを寄ってたかって……!
 悪党は俺ではない、俺を認めんお前たちの方じゃッ! このシャレコウベの如き満月に誓う! 俺の力を見せつけてやる!俺は諦めんぞ! 碇!惣流!山岸!霧島! お前たちの一族を破滅させてやる! 何もかも、お前たちの自業自得じゃァァッ!!」

 血を吐くように叫びながら、両手を掲げた。
 いつの間にか、その背後に異様な風貌の偉丈夫が立っていたが、男は気づかず叫び続ける。

「復讐してやる!復讐してやる! 俺を認めん奴ら、みんなみんな復讐してやる! 男は苦しめてくる絞めて殺し、女はっ!」

 具体的な復讐相手がいるのだろうか。復讐を想像して堪えきれなくなった男がうすら笑いを浮かべる。

「女は……俺の奴隷にしてやる……! 俺の子を孕み、一族を再興するためになっ!」

 愉悦。愉悦。
 その時を夢想し、重症の痛みも忘れて楽しげに男は笑う。
 男の名は「竜骨(りゅうこつ)」
 寝瑠歩藩の元お抱え忍者だったもの。

「ひゃはぁ〜はっはっはっ! 絶対、絶対に……!?」

 その時、ようやく竜骨は背後に無言で立つ偉丈夫に気が付いた。慌てて距離を取ろうとするが、内臓に達するほどの腹の深手の痛みに咳き込み、その場に膝をついてしまう。ゴフ、コフと粘ついた音を立てて血の混じった咳をしながら、かろうじて、偉丈夫の顔を見上げた。あれほどの啖呵をぶち上げたが、内心ではそう長くない事を悟っている。あるいは、その前にこの偉丈夫が自分に止めを刺すのだろうか?

 だが、その偉丈夫は身動き一つせず、じっと竜骨をにらみつけている。 よく見てみれば異様などという言葉で済むほど生易しいものではなかった。身の丈8尺はありそうな巨体で、牙を生やした口は耳まで裂けている。青黒い肌は鋼鉄のような光沢をもち、何より異様なのは額から生えた二本の角。

「お……鬼。鬼が、なぜ……」

 俺を殺すのか?
 遂に限界が来た竜骨はその場に崩れ落ちた。血が止まらず、急速に体温が失われていく。泥の中に顔がうずまり、息ができなくなったがもう苦しいと感じることもなかった。ただ、ただただ、復讐ができないことが悔しかった。

「俺の最期をみとるのは、女ではなく……鬼、か。ああ、鬼でもよい」

 最後の力を振り絞り、竜骨は鬼の顔を正面から見据えた。

「……復讐。魂でも、なんでも、くれてやる」

 それだけ呟いたところで、意識が闇の底に沈んでいく。
 どこか遠く、地の底から響くような重々しい声が響いていた。

『聞き入れた。自業自得で滅ぶ、なにより業深きものよ。
 これより我は汝。汝は我だ。共に、憎き碇の人間に復讐しようぞ。新しき我らの名前は魂竜骨(まぶい りゅうこつ)』







 幕府の要衝である箱根。天下の険を守る譜代の大藩であり、戦国の息吹を強く残す寝瑠府藩だが、世は文禄・慶長を経て寛政の世になって久しい。
 変化の波を受け変わらざるを得ないのは寝瑠府も同様だった。

 由井正雪の反乱。
 そして、追い詰められた小雪が発動させた裏伴天連忍法により出現した巨大怪獣「使徒」と日本連合軍の戦いから既に100年以上が経過しようとしている。
 物語の舞台となるのは、使徒との戦いで滅びた小田原藩に代り渚家が統治する小田原……そして要衝「箱根」。
 使徒退治に大きな功績をあげたことで200石の旗本から10万石の譜代大名になりあがった渚家……通称「寝瑠府」藩でも、元号が改まったのを機に寝瑠府藩でも、遂に大掛かりな財務の見直しなど構造改革を迫られていた。

 そこで槍玉に挙がったのが、二つのお抱え忍者集団であった。

 使徒を倒すとき、大きな功績のあった二つの忍者集団であったが、二つも養う意味があるのか? 幕府ですら伊賀偏重で黄河をないがしろにしているのに……となったのだ。そこでどちらを残すかが検討され、代表忍者の得意とする技、忍法や太平の世でどう生きるかの考え方などを吟味した結果、伊賀忍者の系譜でもある正統派の相田忍者が選ばれた。
 ……だが、それを不服とし魂忍者の頭領である竜骨は、相田忍者の若き頭領と重臣の一人を忍法というより邪法で破滅に追いやると、『力を示したまで。どちらが当家の忍びに相応しいか明白でありましょう』と嘯いたのだ。

 太平になってから100年以上たっても時節も読めぬ竜の化石じみた所業に、藩の面々は恐れるよりも先に怒った。
 なにより竜骨は知らなかったことだが、藩主の渚カヲルと相田忍者の若き頭領は友人同士でも会ったのだ。
 命じられたのは、当然ながら怒り狂ったカヲルが命じたのは魂忍者の族滅だった。

 そしてその陣頭指揮に立ったのが、どちらの忍者を残すか、その選別に深く関わった藩重臣「碇家」である。
 異能の力を持つとはいえ多勢に無勢。魂の一族「是江霊」の面々は一人、また一人と倒され……。
 そして竜骨は荒野に追い詰められ、剣豪でもあった碇シンジの手により膾切りにされて、躯を荒野にさらした。はずだった……!

 だが真実、彼は生きていた。
 重傷を負いながらもそのて驚天動地の忍法を使い影武者を立て、死んだふりを装い……。

 そして、数年の時が流れた。


 碇家に仕える中臈である「アスカの方」こと「惣流アスカ」は、半年前から一人の部屋子を従えている。
 親友である「洞木ヒカリ」の、義理の妹になる「鈴原サクラ」である。

 彼女の兄でヒカリの夫の「鈴原トウジ」とも、まあ、友人? と言っていいくらいの関係ではある。幼い時は上級武士と下級武士という垣根もあまり気にせず、みんな一緒によく遊んだものだ。
 昔からの知り合いで色々懐かれていたこともあって、是非にと両家の人間からお願いされたのだ。ちょうど色々と諸事雑事をしてもらう人手が欲しかったので、渡りに船ではあった。ところで、部屋子というのは中臈の色々な仕事の手伝いをしたり、食事の支度したりなどが仕事ではあるが、他家に嫁入りに役立つよう、色々な行儀作法や芸を徹底的に仕込まれるのも、ある意味仕事の内だった。
 だから、というわけではないが……。 初めての部屋子……つまりは後輩みたいな存在に少し舞い上がったアスカは、この際だから徹底的に仕込んでやろう。そう思った。
 そうして決意した彼女の指導が、他の中臈仲間と比べて、いささか厳しいものとなったのは仕方がないことかもしれない。

「ほらそこ、また握りこぶしになってる! そうじゃないでしょ、ちゃんと見なさいよ!」

 一瞬で扇子を閉じ、ピシャリとサクラの手を打つと、これまた一瞬で扇子を開き完璧な所作で舞の一節を披露する。
 サクラは厳しい叱咤に涙目になりながらも、懸命に師匠の動きを目で追い、その動きを模倣しようとする。
 だが、色々と不慣れなところもあるし、細かい所作を再現するのがどうにも苦手なようだ。何より緊張しすぎ、怒られることを恐れるあまり動きを負うことにばかり意識が向いてしまうのは致命的だった。
 目ざとくアスカはサクラのおぼつかない動きを指摘し、前も同じことで注意したと苛立ちを隠そうともせずに声を荒げる。

「またぁ! 扇子の向きがおかしいでしょーが! 私じゃなく、芸を見ている殿さまに見せるようにするの! ほら、今後は端が頭に当たってる! 握り方もおかしい! 足も曲がりすぎ! 飛ぶんじゃない! 摺り足で歩くの! ちょっと、もうまた! あんた馬鹿ぁ!?」
「あ、その、すんませんでした!」
「こらっ! その上方言葉は使うな! 今は指導中よ! 甘えるのも大概にしなさいよね!」
「す、すんま……いえ、すみません!すみません!」

 先日、怒鳴り声を聞きつけた中臈仲間のマユミが「厳しすぎませんか?」と控えめに言ってきたこともあるくらい、その指導は熱を帯びていく。
 サクラも本当に才能がないわけではないのがまたややこしい。
 踊り、箏、生け花にお茶……。教えたことは泣きながら、謝りながらでも確実に上達していっている。
『これはね、愛の鞭なのよ。サクラには才能があるわ。踊り、生け花、お茶、礼儀作法……。私が教えられる限りのことを全部教えて、どこに出しても恥ずかしくな、立派な武家の女になってもらいたいのよ』

 「本当に?」と聞き直そうとするマユミをさらりとかわし、ともかくサクラは私の部屋子なんだから、ご意見無用!と胸を張る。

 そういわれたら、さすがにマユミも二の句が継げない。やや首を傾け「ほどほどにした方がいいですよ」と、アスカから見ても色っぽい所作で忠告だけして引き下がる。

(まぁ、ちょっと最近厳しすぎたかしらね。怒鳴ると動きが重くなって、かえって失敗が増えてるみたいだし。なんかねぇ、すっかり怯えられてる感じがするわ。シンジがバカ殿と一緒に参勤交代で江戸に行ってるせいかしら。なんかこう、イライラしてるのかな私)

 マユミの言葉に従うわけではないが、ちょっとは優しくしてやろうか。

 この通り、厳しく躾けながらもアスカはアスカでサクラのことを深く思っての行動ではあったのだが……。
 やはり些か厳しすぎたのだろう。「親の心子知らず」という言葉もあるとおり、サクラがアスカに対して鬱屈とした思いを貯めていくのは、無理なからぬことかもしれない。
 そう、もしアスカがもっと優しく接していたら、これから起こる恐ろしい出来事は、また形を変えた結末になったかもしれない……。







 主君の参勤交代に供をしてシンジが江戸に向かったのは三か月前。
 帰ってくるのは三か月後。
 一般的に、主君が参勤交代で屋敷を離れているときは、中臈ほか屋敷に勤める使用人たちは羽を伸ばす良い機会でもあった。もちろん、仕事はちゃんとあるのだが、殿様の目があるわけではないためいつものように身支度を徹底する必要はない。
 帯はゆるく結び、衣服もカッチリと小袖を着る必要もなく、浴衣や裏地のない単衣だけで過ごしている。
 一番手間のかかる髪も、日本髪にはせず軽く結ぶだけだったり、そもそも結ばず下げ髪にしたりと気楽なものだ。
 もっとも、先の使徒大戦で色々文化に変化も大きく、本来の歴史の世界と比べると、あまり髪型や衣服にガミガミ言われなくなっている世界なのだが。特に寝瑠府藩はその傾向が顕著だったりする。

 閑話休題

「あの、アスカの方様。ちょっとお話したいことが……。」

 時は暮六つから夜五つ(午後8時)になったばかりの頃、一日の仕事は勿論、食事も終わって色々とまったりとした時間。
 アスカの私室に尋ねてきたサクラが、もじもじとしながら美しい金髪を垂髪(すべらかし)に伸ばし、手慣れた仕種で梳っている女性……主人である『惣流アスカ』に話しかけている。少し遠慮しているような、あるいは怖がっているような、そんな小動物めいた様子が見て取れた。

(う〜〜ん。マユミの言うとおりだったかもしれないわね。この子、完全に私に苦手意識持っちゃったわ)

 今は勤務時間も終わってるし口五月蠅い奥老女のリツコもいない。『〜の方様』なんて畏まった言い方しなくてもいいのに。 そういうつもりは毛頭なかったのだが、もちろん後の祭りである。明日から優しくしても ――― アスカにそれができるとして ――― たぶん、ひどく警戒されるだけだろう。
 中臈(ちゅうろう)は、上級武士の家に仕える女官としてはほぼ最高位の階級にあるもので、場合によっては当主やその家族も意見に逆らえないこともある。奥老女はいるにはいるが、当主交代したばかりのため出しゃばりすぎることを警戒し、あまり現当主のシンジに意見を具申したりしない。
 事実上アスカが女官のトップになる。無論、シンジの正室であるレイの方が遥かに偉いのだが、体が弱く無理ができない彼女は城下町の別宅にいる。シンジが家を空けているときは、実家にも近い別宅に住むのが慣習になっているのだ。もっとも、いつまでもそれでは問題だ。
 どういうわけかやたらレイを敵視する奥老女のリツコと、中臈が先に子を産む可能性に危機感を持った綾波家の要請もあり、養生ができるように箱根屋敷に露天風呂の建築や他の準備が完了したら、正式にレイはこちらに移り住む予定ではある……。

 アスカは肩をすくめると、可能な限り怖がらせないように努めながらにっこりと微笑んだ。
 湯上りで上機嫌、ということもあって自然に笑顔になる。

「どうしたのサクラ?」

 アスカの機嫌が別に悪くないことを悟り、サクラはほっと一息つく。が、それでもこんなことを言っていいのだろうか、とそう躊躇しているような様子で言葉を続ける。

「その、納戸の大長持から妙な音がするんです」
「妙な音?」
「はい、そのネズミとかじゃないみたいで、なんともひょんげな音が」

 アスカは無言で眉をひそめ、大仰なまでに怯えた様子のサクラを一瞥する。紅毛人との混血である母と、やはり紅毛人の医者である父との間に生まれたアスカは、いわゆる金髪碧眼で、非常に整った容貌をしている。覚悟もなしに一瞥すると、言葉をなくすほどの美女である。
 先の使徒大戦で色々あり、解決に一部の外国人が大いに活躍したということもあり、キリスト教の布教は絶対に禁止ではあるが、日本国内で活動する制限が現実の歴史とはだいぶ緩和されている。割と自由に町中を散策し、町娘やおしのびで茶屋で遊ぶ武家の娘と、割りない関係になる外国人も結構多いのである。そして、日本人との間に子供が生まれることも……。アスカとアスカの母もそうして生まれた一人だ。


 切れ長の瞳や澄んだ湖のような青い瞳は日本人離れした顔つきということもあり近寄りがたい印象はあるが、それはとても美しいということでもある。

 だが、幼少時はこの容貌ゆえに酷くいじめられていた。唯一苛めなかったのは……。
 その時のことを思うと今も胸が熱くなる。ともあれ、彼女はいじめに負けず、折れず、幼馴染たちの助けを支えに、なにくそと頑張ってきた。そういった経験があるからだろうか、考え込むときのアスカの眼差しは少々剣呑な色を帯びる。

「そ、その、すんません! いえ、すみませんでした!つまらないことでお時間を取らせてしまって!」
「今は仕事中じゃないから上方言葉でも良いわよ。あーもう、ちょっと待ちなさい。怒ってるわけじゃないから」

 脱兎のごとくその場から離れようとするサクラの袖をつかみとどめると、アスカは小さく嘆息した。
 時に、こういう誤解を生むのが目下のアスカの悩みどころである。

「……わかった。ちょっと見てみるわ」
「はい、すみません」

 大長持というからには、布団を中心に置いている奥の納戸に据え付けてあるアレのことだろう。
 着物の裾が床をこすらないように、しゃなりしゃなりと廊下を進みながらアスカは考える。確かあれは碇家の人間……先代当主のゲンドウから、先祖伝来の色んなもので特に謂れのない物を中心に適当にぶち込んだもの、と身もふたもないことを説明された気がする。以前、大掃除で見た時は確かに、一見してよくわからないものが入った小箱などが入っていたが、実のところ、ほとんど何も入っていなかったはず。

(ネズミじゃないなら、イタチか狸でも入ったのかしら?)

 サクラはひょんげな音がするといった。長持の中で腹鼓を打つデフォルメされたタヌキを思い、小さくクスリとアスカは笑う。
 そうこうする内に、アスカとサクラは納戸にたどり着いていた。障子を開けると、8畳ほどの飾り気のない部屋がサクラの持った手燭の明りが薄く室内を照らしだされる。毎日1度は風を通すとは言え、どことなく黴臭さと埃臭さの残った室内にはこそりとも音がしない。

「何も聞こえないじゃない」

 わずかに違和感を覚えつつ、アスカは大長持ちの前まで進む。耳を押し当て、聞き耳を立てるが何も聞こえてはこない。

「いえ、確かに妙な音が」

 アスカの背後で、手燭の灯を部屋の行燈に移しながらサクラがそう強調する。予め油を用意していたらしい。微かに魚臭いから勿論魚油なのだろうが、使わない部屋に油を使うのはもったいない。と、所帯じみたことを一瞬考える。

「準備が良いわね」
「あー、えっと、その、はい。準備がええですやろ?」

 なんだろう? また違和感を感じる。
 明りの加減か、その顔は陰になってまるでのっぺらぼうのように表情が判らない。違和感がますます強くなってくる……。

「どんな音がしたってーのよ」

 優しくしなきゃ、怯えさせないようにしなきゃという心構えは一瞬で霧散した。
 だんだんイライラしてきて、口調が幼少時代を思わせる砕けた感じになってくる。それだけならまだ良いが、彼女をよく知っている者からしたら、少し警戒しないといけない緊張が言葉端に交じり始めていた。当然、サクラも良く知っているはずなのだが……。

「開けてみたら、わかるんやないですか」

 だが、サクラは無感情にそう答える。いつもの、アスカのよく知るサクラだったら、決して言わないような言葉だった。
 違和感がますます強くなるが、少し気圧されたのかアスカは言いかけた言葉を飲み込み、長持に手をかける。「手伝え」と言うことも忘れ、力を込めて一片を持ち上げ、指を挟まないように注意しながら、一旦ずらして隙間を作る。一呼吸置き、再度力を込めて蓋を持ち上げ、数十センチほどの隙間ができるようにずらしていく。
 冷たい何かの臭いが長持の隙間からあふれ出る。もろに顔に受け、アスカは顔をしかめて飛びのいた。

「うえ、何よこれ〜」

 何か嗅ぎ慣れない、じっとりと湿っていて、奇妙な臭いが混じっている。悪臭というわけではない、桃か梅が腐ったような、どこか甘ったるい匂いが鼻孔を刺激する。

「……どうぞ、覗いてみてください」






 手伝うそぶりを全く見せず、サクラは無表情のままアスカにそう促す。
 違和感、懸念、第六感が警告を発し、湯上りの肌に、じっとりと汗が流れるのをアスカは感じる。
 だが、サクラの言い方が妙に鼻につく。『中を見るのが怖いんでしょ?』と言いたげな、問い詰めるような、挑戦するような、馬鹿にするような気配があった。こうなると、俄然やる気が……負けん気という方が適切か……出てくるのがアスカだ。

「こ、怖くなんか、ないんだから」

 サクラというより、自分に言い聞かせるようにアスカはつぶやき、長持の隙間から中を覗き込む。

「何も見えない……。ちょっとサクラ、ちゃんと照らしなさいよ」

 なにか黒い蜘蛛の巣ようなもやもやしたものが見える。長持の縁に手をかけ、身を乗り出すようにして中を覗き込んだその時。
 突如、手燭の明りがひらめき、アスカは天地が逆転するのを感じた。

「……なっ!?」

 闇の中から延ばされた野太い腕がアスカの顔面を左右からつかみ、闇の中に引きずり込もうとする。
 それだけではない。
 アスカの両足首が何者かにつかまれると、逆立ちを補助するように一息持ち上げられたのだ。

「んっ! ああっ!」

 当然、為す術もなくアスカは闇の中に転がり落ちていった。直後、アスカの足を掴み持ち上げた何者かは長持のふたを閉めてしまう。
 ドタバタとくぐもった音とアスカの叫びが長持から響く。

「な、なによこれ!? ちょ、なに、いや、放せっ! 放しなさいよ!」

 ゴソ、ガタ、しゅる、しゅるる……。

 長持ちの壁や床を蹴りつける音に交じって、帯をほどく音がかすかに聞こえる。遅滞のないその音は、脱がし慣れていることを思わせた。







 突然、頭を鷲掴みにされ暗闇の中に引きずり込まれるという異常事態。反射的にアスカは全身を突っ張らせ、慮外な暴力に抗おうとする。両手を長持の縁に掛け、力を込めて懸命に抗う。首筋に緊張で欠陥が浮かび、食いしばった口元から、つ……っと涎がこぼれるが、はしたない等と気にする暇もありはしない。

「サクラ! 誰か、人を! 助けを呼んできて! 曲者よ!」

 自分のことよりまずは大切な預かり物であるさくらの安全が第一。咄嗟にアスカはそう判断した。
 逃げるように助けを呼ぶように、それだけ叫ぶのが精いっぱいだったが、成すべきことをやった安堵感が体を包む。この腕の持ち主が何者であろうと、サクラが助けを呼んでくれればなんとかなる。なんとなれば、アスカ自身、薙刀の使い手でかなり腕に自信があるし、今は留守にしているが碇家の当主……アスカの主人であるシンジは念流の達人である。藩主の覚えもめでたく、武勇伝の中には鬼を切ったなんて荒唐無稽な噂まである。当人は武人とは正反対のおっとりとした性格なのだが。
 ともあれ当然、家中の人間も腕に覚えのある者たちばかりだ。

(こいつが何者であれ、袋の……もとい、長持の中のネズミよ!)

 しかし、一体こいつは何者だろうか。泥棒? サクラの聞いた異音とはこいつが発てた音のなのだろうか?
 緊張のあまり、耳がキーンと音を立てるのを他人事みたいに感じとる。あと数分耐えればアスカの勝ち……そこまで考えたところで、はたとアスカは気づいた。
 サクラの気配がまだ室内にある。助けを呼ぶため外に飛び出し、大声で「曲者」と叫ぶでもなく、無言で、静かにアスカの背後に近寄って……。

「……うわっ! ちょ、サクラ!?」

 足首をつかまれ、逆立ちでもさせるように一息に持ち上げられと気が付いたのは数秒後のことだった。天地が逆転し、前のめりになっていたアスカは、そのまま長持の中に転がりこんでしまう。視点が闇に包まれる寸前、にっこりと焦点の合わない瞳で笑うサクラと目が合った。

(サクラ!?)

 予想していた衝撃はこなかった。壺やら書画、掛け軸を納めた箱がまとめて詰められていたはずだが、そういった固い物は一つもなく、代わりに曲者の手でアスカはふわりと優しく受け止められ、柔らかな布団の上に横たえられた。
 あまりにも想定外の事態に驚くアスカだが、それ以上に驚くことが頭上で起こった。

ズ…ズズズッ

 アスカでも動かすのに手こずった長持の蓋をサクラが動かしている。それも開けるのではなく、蓋を元通りに閉めようと……。

「ちょっと待って! サクラ、何考えてるの!? あんたまさか!」

 曲者とグルだったのか?
 そこまで自分は恨まれていたのか?
 そう思う間もなく、暗闇の中で何者かがアスカにのしかかってくる。
 獣のような臭いと、何日も風呂に入ったこともないような垢の混じった生臭い臭いが鼻孔を刺激する。

「やっ! ちょっと離れろ、離れなさいよ! 私は誰だと思ってるのよ!? 碇家の中臈『惣流アスカ』よ! あんたみたいなコソ泥は触ることはおろか、直接話かけることだって許されないんだからぁ!」






 自分自身の耳が痛くなるほどけたたましく叫びながら、懸命にアスカは暴れた。手足を振り回し、長持が壊れても構わないとばかりに全身全霊で蹴りつける。だが大身旗本である碇家が使う大長持は時に弓矢の防御にも使えるほど頑丈だ。如何にアスカの膂力が人並み以上だとしても、これを蹴り壊すなどできるはずもなかった。
 そして、暗闇の中で上も下もわからない状況で、のしかかってくる曲者 ――― 巨漢の男 ――― を跳ね除けることもできるはずもなかった。

「うああああぁぁ、き、気持ちわるいぃぃ! やだ、触るな、何考えてるのよっ! 馬鹿、馬鹿馬鹿ぁ!」

 それでなくとも湿っぽくて黴臭かった空気に、何とも言えない腐臭……傷口が化膿した時に出る膿の臭いが混じる。そして「はぁはぁ」と曲者が漏らす荒い息が重なる。アスカはただならぬ気配を察知し、ハッと息を飲んだ。依然、鼻先も見えないような暗闇の中だが、それでも抑え込もうとしてくる曲者が、相当な大男であり……そして全裸であることは把握できた。

「うそ、冗談、でしょ……。や、やだやだぁ! あっち行って、触らないでよぉ!」

 怪しげな大男が全裸で伸し掛かってくる。何を目的としているかは、考えるまでもなくわかることだ。
 アスカには男女の経験があるだけに、相手の考えていること、何を求めているかということは嫌でもわかった。
 10歳の時に中臈見習いとして碇家に入り、それから8年。
 去年、先代当主のゲンドウが隠居し、シンジが当主になったのを機に正式に中臈になった。そして、遂に結ばれた。その思い出が、汚される……!

「ヤダ、放して、嫌っ! 助けて、誰か、助けて! 誰かいないのっ!?」

 最悪の状況を想像し、より一層アスカは体をうねらせる。もう、何がどうあろうと構うものか、というやけくその心境で激しく手足を振り回す。暗闇とは言え、これだけ密着していれば2,3は良い当たりが男を襲う。たまらず男がのけぞり、圧迫感がなくなったことで反射的にアスカは息を吸い込む。

『ええい、三人の中臈で一番手に負えないじゃじゃ馬だと聞いていたが、これは話以上だ』
「誰が、じゃじゃ馬よ! 痛い目にあいたくなかったら、さっさとどきなさいよ! 曲者なんかに自由にできる私じゃないのよ!」
『ううむ、もう少し楽しみたかったがこれではな。まあ良い。時間をかけて躾けるのは、他の二人でしようかい』
「はぁ!? 他の二人? あんた何を言って……盗賊じゃないの?」

 その刹那、アスカは暗闇の中で男がにやりと笑ったのを、確かに感じ取っていた。
 ぞわり……と背筋を凍り付かせるような気配が漂い出る。
 長持の壁にある小さな隙間から、ごくごく弱い光が入り込んでいたのだが、漸く目が慣れてきたのかアスカの前にいる男の輪郭がくっきりとわかるようになった。

「……ひっ」

 大男だと思っていたが、予想よりさらに一回りは大きい。分厚い胸元と隆起した二の腕の筋肉から汗の臭いが漂う。不思議なことに、それは悪臭というよりも、最初に感じた桃や梅の花、熟した実を思わせる、微かにかぐわしい芳香だった。予想外のことにわずかにひるんだすきを突き、喉を潰すようにアスカの首に手をかけ、そのまま抑え込んでくる。

「う……う、ぐぅ」

 如何にアスカが強き心の持ち主といえど、所詮か弱い女に望外の威圧感に抵抗できるはずもなかった。小さな悲鳴を上げて硬直したアスカの上に、ゆっくりとのしかかるように男は覆いかぶさった。

「い、いや……いやぁ」

 目がさらに慣れてきて、男の姿がアスカの網膜に飛び込んでくる。
 最初は角が生えている人外……鬼かと思ったが、よくみれば赤い般若面をつけているのが判った。面よりも悍ましいのがその裸体だ。
 全身に剛毛が生え、奇妙に影がかかったように見える上半身は、一面に刺青が彫られていることが分かった。深い傷跡が残り、そこは今もジュクジュクと膿ただれている。
 そして、股座の間からは今まで彼女が見たこともないほどに大きな一物が、ぬらぬらと体液でぬめり輝きながらへそまで屹立しているのだった。

「ひっ!? ひぃぃぃ!?」
『くくくくっ。なんだ、魔羅を見るのは初めてか? いや、そんなわけはなかろう。この汗の匂い……おぬしはとっくの昔に生娘ではなくなっておろう』
「う、あ……よ、余計な、お世話よ。生娘だとか何とか、なに、何なのよあんたは」
『ふむ、となると……おお、そうか。ワシのは巨大だからな。碇の若当主は人並み以下のシメジ大というわけか』
「シメ……!? ば、馬鹿言ってんじゃないわよ。さすがに、シメジよりは大きいわよ」

 反射的に言い返したアスカに『ほぉ』と少し感心したように声を漏らす。気丈な女を屈服させるのは実に愉快なことだ。
 これはなかなか……楽しめそうだ。

「ひ、ひぃ……!?」

 暴れまわったことで太ももまでめくれ上がった着物の裾を、さらに男は割り開く。うっすらと汗が浮かぶ。長持の中はうだるような暑さだが恐怖と嫌悪で鳥肌だった太ももを、ゴツゴツした男の指が撫でまわしていく。

「はっ、あ……いや……さわら、ないで……よっ。私に、触っていいのは、シンジだけなんだからぁ」
『シンジだけなんだから、か。羨ましいことよな』
「……うううぅ」







「や、やだ、やっ! なに、いやぁ! やめて、やめてやめてぇ!」

 アスカの悲鳴を耳にしながら、満足げにアスカを長持に放り込んだ張本人……サクラはその場にうずくまった。全力疾走でもした直後のように息を荒げ、紅潮した顔は発情していることをうかがわせる。事実、サクラは発情していた。アスカの悲鳴が一層、彼女を高ぶらせている。

「……ふん、いい気味や」

 ガタガタと揺れている長持のすぐ傍にうずくまると、裾をめくり、手を差し入れて秘所をまさぐりながら、『あぁ……』とうっとりした声を漏らすのだった。
 ほどなく、くちゅ、くちゅと粘ついた水音が小さく響き始める。

「サクラ、ちょっとサクラ! どこ!? あんたは無事なの! ねぇ、誰か! あっ、いやぁぁ!」

 よりかかる長持の中からくぐもったアスカの声が聞こえ、ドンドンと板壁をたたく振動が痛くサクラの想像心を刺激する。いま、アスカはどんなことになっているのだろう……?

「滅茶苦茶にされれば……ああっ」

 上司であるアスカの助けが聞こえていないのか。そもそも聞く気もないのか。

「ああ……はよぉ、アスカ様を仕上げて、私のこと抱いてほしい」

 いまだ蕾の少女でありながら、女郎顔負けの淫蕩な表情は一層艶を深め、蠱惑に口元がゆがむ。ねばついた赤い舌がペロリと唇を嘗め回す。大量に汗が流れ落ち、そして奇妙なくらいにはっきりと桜色に全身が染まっていた。まだサクラは少女と言っていい年齢のはずだが、その朱が刺した頬は生育途上どころか女として完成していることを匂わせ、火が付いたように上気した肉体は快楽色に染まっていた。
 サクラの着物の裾が持ち上がり、差し入れられた手が蠢くのに合わせて、着物の盛り上がりもうねうねと蠢く。

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」

 サクラの息が荒くなっていく。昨年、碇家の奥向に部屋方としてきたばかりの少女とは思えぬ、欲情した雌の表情を浮かべている。頬は桜色に染まり、蠱惑的に開かれた唇からは熱い吐息が漏れる。潤んだ瞳は中空を見据え、もじもじと足をすり合わせるようにくねらせる。

「ああ、ああぁぁ、いやぁ、あっ、あああっ、ああぁ、きゃうっ! あ、あ、あ、あっ、あっあっあっ、ああぁっ!」

 アスカの叫び、いや今はもうただの喘ぎ声が激しさを増していく。
 それにつれて、サクラの表情も、色に狂えて……。
 アスカがこれからされるだろう凌辱を思い、ニンマリとサクラは口元を歪めて笑みを浮かべる。
 普段から言ってるように、強い精神力と覚悟でアスカは耐えられるだろうか? いや、耐えられるはずがない。竜骨の愛撫は性の暴力だ。きっと、今まで見たことがないような無様な醜態をさらして、よがり狂うだろう。

「いい加減に、手を、はな……せぇ! んんんっ……! ちょ、嫌ッ!」

 ドンッ! ドンドンッ!

 振り回された手足が壁を打つ衝撃が響く。それに混ざって衣擦れの音。布……おそらく袖が壁や布団に打ち付けられる音が混じる。音だけでも相当にアスカが暴れているのがわかった。そこは、さすがと言うべきか、素直にサクラは感心する。自分は訳が分からないまま、恐怖が先に出てほとんど抵抗らしい抵抗はできなかったのだ。抵抗しなければ、と思う前に青天の霹靂のごとく襲い掛かった快感で、自分の名前すらすぐに思い出せないほどの混乱に叩きこまれ……。

「あうぅぅ! だ、ダメ。指だけじゃ、我慢……できない。早く、早く早く」

 アスカが懸命に抵抗していることが、音だけでも推測できる。
 体力的には自分よりはるかにアスカはタフだろう。精神力も強い。以前、町中でスリを取り押さえたこともあると聞いている。サクラが犬としたらアスカは狼。
 だが、狼だって虎には勝てない。
 先日、風呂で背中を流すときにとっくりと眺めたアスカの裸体と、筋骨隆々とした赤銅色をした竜骨の裸体を思い浮かべる。

(どれだけ頑張れるかは、見てのお楽しみやな)

 もしかしたら、自分よりもアスカは耐えられないかもしれない。自分より無様な姿を晒すかもしれない。
 そうだったら良いな。いや、そうに違いない。そうであれ。

「あぐっ! 触るなぁ! 私を、いったい誰だと……!」

 サクラがもたれる壁の裏を叩かれたのか、衝撃が突き抜けてきて少し不快そうにサクラは顔をしかめる。
 だがすぐに、夏の陽気を忘れさせるような笑みをサクラは浮かべた。嵐のように大暴れしなければいけない状況にある、そう思えば怒りもすぐに忘れられるというものだ。

「あ、ぐぅっ! ぐ、あっ……はぁ! 首、を……うううぅ」

 快感ではない純粋な苦痛からの呻き。
 いつまでも抵抗を諦めないアスカに業を煮やして、実力行使に出たのだろうか?
 竜骨の巨大に押さえつけられ、苦痛で呻くアスカの姿が脳裏に浮かぶ。

(ホンマよぉ頑張るなぁ、アスカ様)

 意識したことはなかったが、自分はかなり過激な性格をしていたのかもしれない。アスカがむごい目に会っている、その様を想像するだけで、ますます全身が熱く潤い、桜色に染まるのがわかる。
 股間で蠢くサクラの指先の動きが一層激しくなる。自慰の勢いが熱を帯び、今や指先どころか第二関節、いや根元まで差し入れてかき回している。
 ずっぽりと指先をくわえ込み、うだる様な熱気を感じてじっとりと汗を流しながらも、サクラはその感覚に陶酔する。

「ひ、なによそれぇ! 嘘、こんな、ありえない! や、いやぁぁ!」

 ねちゃ……と粘ついた音と共に甲高いアスカの叫びが聞こえる。
 竜骨が舌を使い始めたのだろう。

「……あっ。う、ああぁ……うっ、ううぅ」

 ふと、サクラは長持から漏れ出る呻きが、苦しいというより、こみ上げるものを堪えようとするすすり泣きに代わっていることに気が付いた。

「あう、あっ、や、やだっ! あ、ああ、シンジ、しんじ、助けてっ! あ、ああ、あっ、あっ、ああっ! いやっ! それ嫌ぁ!」

 部屋の中はガタガタと長持が揺れる音、アスカのくぐもった喘ぎ、サクラの吐息といつしか聞こえるねばついた水音だけが支配する。
 そして、遂に……。






「ああうぅっ!」
「―――――――っ!!」

 哀切な悲鳴が板越しに響いたのを最後に、それまでガタガタと揺れていた長持がしんと静まり返った。
 痛いほどの静寂が室内を満たし、外で鳴いているはずの虫の声さえ静まり返っている。
 同時に激しく股間と乳房を弄んでいたサクラも達し、声にならない喜悦の呻きを上げる。ピンと背筋を反らせて官能の疼きにしばし浸りながら、長持がまるで中で狼藉を働いている男そのものであるかのように寄りかかり、しばし息を整える。
 数秒の緊張の後、突如脱力したサクラは「はぁ、はぁ」と荒い息を吐きながら気だるげな余韻に浸る。

「あかん。指なんかじゃ、全然ダメや」

 高ぶった体は一度自ら慰めた程度では到底収まりそうにない。だが、竜骨の言いつけは絶対だ。
 ちゃんとしなければ『もうしてやらん』という宣言を実行に移すだろう。現に今、サクラ以外におもちゃにできる相手を捕まえてしまったのだ。

「……それだけはホンマ勘弁してほしいわ。 はぁ、ちゃんと、準備、しないと」

 不承不承という体ではあったが、帯をほどき着物を脱ぎ捨てながら、サクラはそうつぶやいていた。







 歯を食いしばり、アスカは男の指先の感触を懸命に無視しようとする。暗闇の中だが、なぜか男には全て見えているような気がして、泣き顔を見られたくないアスカは反射的に顔をそむけた。男は少し身じろぎ、アスカの両足を押し開くように体を差し込んできた。

「あああ……やめて、もう、やめてぇ」

 ニヤニヤと男があざ笑っているのが判る。一方で、みじめさと屈辱でさめざめと涙を流しながらも、アスカの冷静な部分は男の様子を分析していた。『男が口を吸いに来たら、舌を噛み切ってやる。』それぐらいの腹積もりでいるアスカは、ほぼ望みはなくなったとはいえ、まだ完全に諦めたわけではなかった。だけど、そう都合よくいかないだろう事もアスカの冷静に部分は悟っていた。

(大きい……たぶん、6尺(180cm)以上ある。目方も20〜25貫(80〜90kg)くらいかしら。こんなのに伸し掛かられたら、私だってどうにも、できない。……ごめん、シンジ。私、汚されちゃうかも)

 避けえない最悪の未来が脳裏に浮かび、我知らず涙が目端に滲む。
 せめてできる事は、この最悪の罪人の被害者を自分だけにとどめ、絶対に獄門送りにしてやることくらい。その為には、見えるもの、聞こえるもの、感じるもの全てを記憶して……。

『さて、そろそろ』
「い……ひぃ!」






 男の呟きに、比喩でなくビクリと猫のように体を震わせる。さすがに虚を突かれたのか、男は一瞬だけ驚いたように息を潜め、それから『くっくっく』とさも楽しそうにくぐもった笑い声をあげた。

『今からそんなに怯えるとは。だが安心せい。ワシの忍法【ぬめり舌】の洗礼を受ければ、何者だろうと怯えも何もかも忘れ、ただ桃源郷を雲のように彷徨う夢見心地を味合わうことになるのだ』
「な、なに言ってるのよ!? ……ひっ!」

 その時には、きっとお前からワシの感謝することになるだろう。と男は嘯いた。
 やおら男はアスカの着物の衿繰りに手を差し入れ、強引に左右に割広げた。鎖骨と肩がまろび出て、さらしに包まれたうっすらと汗の浮かんだ双丘の谷間が男の眼前にあらわになる。

『紅毛人の血が入っているのだったか。濃い乳の匂いがするぞ』
「はぁ!? 馬鹿なことを、言わないでよっ!」
『さすがのワシも異人相手にするのは初めてよ。だが、異人だろうと化外の民だろうと、女ならすべて女陰がある。女陰があるということは、全てワシの思うがままということよ』

 うっとりとアスカから立ち上る恐怖の匂いを堪能しつつ、男は面をずらして口元をあらわにする。恐怖に震えるアスカが見上げる中、にぃ……と笑うように口元が吊り上がり、開いた口から異様なまでに青黒い舌が、それも常人の数倍の大きさがありそうな舌がヌルリとナメクジのように粘液を纏って溢れだした。

「な、な、なななっ!? 化け物……』

 アスカの全身の毛が逆立ち、見開かれた目の瞳孔がきゅっと縮まる。
 ボタボタと着物に滴る唾液……というより、白濁した粘液が胸元に落ちるがアスカは声も出ない。かろうじて「化け物」と呟くので精一杯。

「嫌、やめて、来ないで、ちかよら、ないで。何を、何をするつもりなのよ……?」

 ナメクジじみた、それも日本でも最大級の大きさのあるヤマナメクジのような舌が、震えるアスカの胸元に伸ばされる。見開かれたアスカに見せつけるように、触れる寸前、からかうようにひくひくと動いてポタポタと涎を滴らせる。瞬間、アスカは息をつめて体を突っ張らせた。唾液が触れたところが、異様に熱くうずき始めたのだ。

「あ……ああ……あ、ああぁ。なに、これぇ」
『忍法【ぬめり舌】』

 やおら男の舌がぬらりと動き、アスカの胸をさらし越しに嘗め回した。さらし越しの感触を楽しむように、たっぷりと涎をナメクジの這った跡のように擦り付けていく。恐怖と嫌悪で美貌がゆがみ、漏れ出る吐息がさらに熱を帯びる。

「う……あ、ああぁ。や、やだ、汚い……やめて、そんな、こと」

 暑さを忘れたように恐怖で小刻みに震えながら、アスカは蠢く舌から目を離せない。
 器用に蠢きながら、アスカのさらしの隙間に舌先を差し入れるように何度も絡みつき、徐々に広がる隙間をさらにこじ開けようとする。その都度、舌先が柔肌に触れたアスカの口から「ひっ」「ああっ」と身を切るような悲鳴が漏れる。
 それは嫌悪と恐怖だけから来る悲鳴ではなかった。

「あ、ああぁ……う、ううぅっ! う、うあああっ!」
(なによ……これ? 胸が、あ、熱い。胸っていうより、こいつに舐められたところが……熱い)

 柔肌を蹂躙していく舌の感触がもたらす、信じられないほどの快感が、アスカの魂を刺し貫く。男に舐められたところから全身を貫くように迸る快感が止まらない。普通なら、触れる指先が離れれば快感は消えるはずなのに、火傷の苦痛のようにその感覚が残り続けている。熾火のように燃え盛りながら、再度触れられると快感が重なり、より一層の悦楽にアスカは身体をくねらせ悶え踊る。

「う。んぁ! あ、い、ひいぃ! あぅっ! あああぁ……ああぁ……ん」

 いつしか溢れ出た花蜜が下帯を湿らせる。その感覚に一層アスカは狼狽する。

「ああ、はぁ! 嘘、嘘よ嘘ようそおぉ」

 アスカは唇を大きく開けて途切れ途切れの悲鳴を漏らし、肩で息をした。逃れなければと本能が警告するが、焦れば焦るほど被虐的な気持ちが鎌首をもたげ、蜜が更に分泌される。このまま、男の成すがままに身を任せたらどんなことになるだろう……?
 そう思った瞬間、ますます肌が熱くうずいた。気を抜けば、そのまま意識を持っていかれそうな快感が責め立てる。

「はぁ、はぁ、はっ、あっ、ああっ」

 もし、明りのある所で見れば、男の舌が這った跡にナメクジの這い跡のような銀色の薄膜ができていることが分かっただろう。だがそれも、すぐにアスカからにじみ出る汗で溶け、そのままアスカの肌に染み込んでいく。銀の被膜は消え、代わって桜色に上気した柔肌から、発情した女の匂いを立ち昇らせていた。

「うああ、あっ、あっ、ああああぁ〜〜〜〜〜っ!」

 舐められているだけなのに、舌が触れているところから性交と同じくらいの快感が感じられる。
 一度舌が触れた所から、熱が広がるように全身に快感がしみ渡っていき、我知らずアスカの腰が持ち上がり、男を跳ね除けようとしていたはずの手足から力が抜けていく。
 肌にぺたりと吸い付き、ぬらぬらと這い回る虫のような感触。名状し難い甘美な戦慄がそこにはあった。

「ま、また、熱いのが、ああんっ! んっ、んぐ、あぐぅぅ!」

 いつの間にか、あれだけきつく締められていたさらしが舌だけで解かれていた。ベチャリ、と音を立ててさらしが舌で絡めとられベショベショになったそれが布団のワキに投げ捨てられる。

「うう、ふー、ううぅぅっ! くっ、んくっ、あああぁぁっ!!」

 剥きだしにされた胸に、改めてナメクジじみた舌が襲い掛かる。悲鳴のようなうめき声をあげて体をくねらせると、胸の谷間を這いずる舌が、蛇かミミズが絡みつくように乳房全体を一回りして締め上げてくる。暗闇の中だが、むき出しにされた乳房を、桃色の乳首も全て男に見られているのを感じる。なぜか、産毛の一本一本や乳首の微妙な盛り上がりも、何もかもすべてが男の視線にさらされているのが判った。

「い、やぁ……。みないで、舐めないでよぉ」

 犯されたわけではないのに、嫌なはずなのに。男の愛撫というには乱暴な動きで体をまさぐられ、乳房を嘗め回されると、脈動する溶岩のようにこみ上げる快感が、下腹を……子宮を疼かせる。

「あ、あ、あ、あああぁ。嘘、なんで、何でよぉ!?」

 刹那、アスカはきつく目を閉じ、首筋を反らせると頭を床に叩きつけるように体をのけぞらせた。
 布越しでさえ声を抑えられなかった。それが直となったら……。

「アアアァァァっ!」

 長持の中に布団が敷かれてなければ、頭蓋が割れていたかもしれない強い勢い。だが苦痛を感じて悲鳴をあげる暇もなく、忽ち甘美な快感に喘ぎ声を漏らすことしかできない。

「くふぅ! ああっ! ダメ! ああああぁぁぁぁ〜〜〜〜〜っ!!」

 望まぬ快感に肉体は負け、絶頂の痺れに囚われながらアスカは絶叫する。
 男に抑えられたまま、汗まみれになって全身を激しく躍動させる。一度達したからと終るような生易しい会館ではなかった。絶頂の波がアスカの意識を持ち上げ、二の波、三の波が立て続けのアスカの意識を持ち上げていく。
 長持の中には一匹の淫鬼と一人の美女が醸し出す倒錯の熱気が満ちる。






「ああーっ! あ、あ、あああ〜〜〜〜〜っ!!」

 額に皺を寄せ、苦悶にも似た表情を浮かべたアスカが腰を浮かしたかと思うと、ガクンガクンと大きく全身をゆすらせた。汗の浮いた首筋をのけぞらせ、敏感になったアスカは何度も絶頂を追体験する。そのまま泥濘に沈むように意識を失いかけたアスカだったが、先ほどと同じかそれ以上の快感が続けざまに襲い掛かり、無理やり意識を覚醒させられる。

「あう、い、ひぃぃっ! ああ、やだ、嫌ぁ! 馬鹿ぁ! やめて! イってる、イってるから! だから、やめなさいよぉ」
(と、融ける……意識が、焼け付く)

 頭の隅の冷静な部分が逃れなくてはと考えるが、震える女体は喜悦に満ち、手足に全く力が入らなくなる。
 狂おしい絶頂のけいれんを繰り返すアスカを、男の舌が尚も責め立てる。胸の谷間を丹念に舐め終えた舌が、鎖骨、うなじと目標を生贄の全身に変えて、柔らかな肢体の上を這い回っていく。

「あッ、あッ……ああぅぅ! おかしく、なるぅ! こんなので、イクなんて、屈辱、嫌、なのにっ!」
『くっくっく……。これぞ忍法【ぬめり舌】!
 ワシの舌はそれ自体が女を泣かす淫具だが、更に加えて舐められ涎を刷り込まれたところは女陰と化す』
「な、何を言って……ああっ!」
『つまり、ワシの舌が触れられたところは、指でなぞるだけで、男と交わるのと同じくらいに感じるようになってしまうということよ』

 それも一度、二度と繰り返し舐めることで感度は際限なく高まっていくのだ。
 そう嘯きながら、男は証明するようにアスカの屹立した乳首をチロリと舌先で舐めた。

「ひっ、ひぃぃ―――――っ!」

 男の言葉を裏付けるように、そこまで強烈ではないはずの刺激に襲われ、再びアスカは絶頂したのだった。







 訳が分からなかった。

 蜂蜜色の髪を振り乱し快感に翻弄されることしかできない。
 収まることのない絶頂に繰り返し、繰り返し翻弄されて、このまま狂ってしまうのだろうか?
 それとも快感で息もできなくなって、死んでしまうかもしれない。
 本気でそう思った。






「あ、あっ、あ、あっあっ、あっ、ああっ!」

 息も絶え絶えに喘ぎ、ヒクヒクと全身を震わせる。もうなにがどうなってるのか、どれほど時間が経ったのか、そんなこともわからない。

「あ、あうぅ。もう、もう嫌ぁ。馬鹿に、馬鹿になっちゃう……なにも、考え、られ、ないっ!」

 アスカの全身を、無数の舌が嘗め回している。
 たっぷりと涎を擦り付けるように、乳首、乳房、耳、顔、腹、脇、果ては足の指先までも丹念にしゃぶるように舌が嘗め回しく。無数の舌の中に、ひときわ巨大な紫色の舌があり、それはアスカの全身に蛇のように絡みついて、泡のような涎の後を着けていく。『じゅるじゅる、じゅぶじゅぶ』と獣が蜜壺をすするような猥褻な音が長持の中に響く。

「くっ……んんっ! ああっ、だ、ダメぇ」

 ツンと屹立した可愛らしい乳首、張りのある乳房、怖気で震える脇にうっすらと白く濁っと唾液の跡が付けられる。

「あ……っ。だめ、感じ……ちゃ。でも、あああっ!」

 いつの間にか、狭い長持の中で一体どうやったのか、固く武家の女の体を締め付ける帯をほどかれ、着物も襦袢も裾除けもすべて剥ぎ取られアスカは全裸に剥かれていた。かろうじて、幼少のみぎり、当時はただの幼馴染だったシンジに無理を言って買わせた髪飾りと、足袋だけが身に着けている全てだった。髪飾り……思い人との拠り所がアスカの精神をかろうじて支えていた。

「わたし、うぅ……こんな、くぅぅ」

 生まれたままの姿にされたアスカの全身が汗で濡れ光る。
 狂おしく身を攀じながら男の舌攻めに翻弄され、反射的に腰が撥ねあがる。【ぬめり舌】で変えられた体は桜色に染まり、淫らな踊りを舞うように体をくねらせる。

「あ、あうぅ、うっ、くっ、くぅぅ……。いつまで、こんな……ああぁ。なんで、こんなに、気持ち、良いのよぉ!?」
(こいつ、私の体中を、犬みたいに、嘗め回して……)

 男の責めは執拗だった。顔ももちろん嘗め回されたのだが、およそ普通の性交なら触れることもないような場所も男は嘗め回していた。そしてその都度、アスカは繰り返し絶頂に達し、小刻みに体を震わせながら愛液を滴らせていく。

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」

 アスカの全身を味わっている。それこそ細胞のひとかけらも逃さず飲み込もうとしているような。それほどの狂気を感じる程に男の責めは執拗だった
 ありとあらゆる個所をナメクジじみた紫色の舌が嘗め回し、舌が舐め終わった後を、これまた舌かと錯覚するほど柔らかく、ねばついた男の指先が丁寧に耕すように愛撫していく。舌と指先の二重の刺激が終わることのない淫獄にアスカを捕らえ、狂わせ続ける。

「あ、ああぁ! はぁ、はぁ、はぁ、や、やめっ! そんなところ、まで……! んあああぁっ! ま、また、イっ……く!」

 嫌なのに、嫌なはずなのに。
 アスカは譫言のように、拒絶の呻きとも喘ぎともつかない言葉を口走り、何度も弓なりに反り返りながら、何度も気をやって意識を失い、新たな快感で覚醒を繰り返す。

「あぐぅ! はっ、はうっ! くぅ……っん!」

 終わりのない無間地獄めいた責めが、朦朧としたアスカの意識を苛み、決して気絶を許さない。どれだけそうして責められていただろう。

 漸く男の責めが中断した。
 安堵することもできず、肩で息をしながらアスカは懸命に呼吸を整えようとすることしかできなかった。

「あうぅ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……はぁ」

 ブルッ……と大きく一度震えると、アスカはぐったりと脱力して布団の上に身を横たえる。

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ。だ……めぇ」

 普段の彼女からしたらあり得ないほど脱力したあられもない姿をさらしていた。
 だらしなく開いた股の間ではしとどに濡れた秘所が鈍く光る。呼吸のたびに愛液が溢れ、火でもつけられたように熱くなった体は小刻みに震え、喘ぎを繰り返している。汗がだらだらと流れ、長持の底に敷かれた布団にシミを作っていく。布団に触れている状態で息をするだけで、空気の流れが触れるだけで、ともすれば達してしまいそうな快感に襲われる。

「あっ、あっ、ああぁ……」
(本当に、私の体全部が、女陰になった、みたいに……)

 髪の生えているところ以外は、それこそ臍の中まですべて嘗め回された気がする。嘗め回されて弄ばれて、10回以上は達した気がする。気絶するほどの快感というものを、言葉やマユミから借りた艶本の中では知っていたが、まさか本当にそんなものがあるとは思っていなかった。アスカがそう思った時、唐突に男の体がアスカから離れるのが感じられた。

「お、終わ……ったの?」

 ようやくそれだけ呟くアスカの耳元に、半身を起こした男は絶望的な事実を告げる。

『そんなわけがなかろう。表の次は、裏を舐るのが世の通り』
「ひっ!? 嫌ぁぁぁ!」

 反射的に逃れようと身をよじるが、布団にこすれた二の腕や肩から伝わる快感に、アスカは息を飲んで身を竦ませる。出来たばかりの傷口を刃物でえぐられるような刺激が、爪先から脳天まで稲光のように閃光めいて突き抜ける。だが、それは苦痛ではない。苦痛の正反対に位置する感覚だ。男の言葉に嘘はなかった。全身を性感帯にされたアスカの体は、布団に触れただけで挿入された時と同じくらいに感じる体に作り替えられてしまっていたのだ。

「うあっ! あっ、あああぁぁっ!」 

 頬をさらにカアッと赤く紅潮させたアスカが艶めかしく体をくねらせる。汗と涙が雫となって飛び散り、肌を伝う雫の感触がさらにアスカを狂わせる。
 その反応を楽しんででもいるのか、異様に目を輝かせた男は嬲るように、試すようにアスカの全身に指を這わせた。

「はぅ、あっ、ああぁ! や、嫌ぁぁ!」

『覚悟は良いか。お前の裏も内も【ぬめり舌】の餌食となるが定めよ』
「や、やだぁぁぁっ!」

 ドロドロとした粘液じみた快感が、曖昧模糊とした感触となって全身を包み込む。悲鳴を上げつつも、セメントの海に沈みこんだように指先っ本動かせないアスカは、男の魔手から逃れられない。いや、例えそうでなかったとしても男の慣れた動きによって、容易く捕縛され、変質的な快楽の世界に落とし込まれる結果になっただろう。

「あう、ひゃぅぅ!」
『ふふふ、だいぶ仕上がってきてるな。良い手触り、肌触りよ。触ってるこっちの方が達しそうだ』

 面の下で笑いつつ、男は背後から抱きすくめた乳房を思うがままに両手で揉みしだく。表面を責める舐めとは違い、圧力を加えることで中を責める愛撫に、たちまちアスカは鼻にかかった甘い声を上げ、ぐったりと身を任せるように男に体を預けるのだった。堪らぬ弾力に押し負けないが、苦痛を感じさせないギリギリを見定めながら、確かめるように何度も揉みまくる。屹立した乳首を指の腹で捉え、嬲るように転がす。

「あああ、あっ、あっ、ひぁ! や、ダメぇ! ダメだってばぁ!」

 特に固くなってツンと立った乳首を押しつぶすように指先で揉み転がすと……。

「んん〜〜〜〜っ!! あぁ〜〜〜、あっ、ああぁぁ〜〜〜っ!」

 うだる様に熱く熱気の籠る長持の中で繰り広げられる淫合戦は佳境に差し掛かってきたようだ。尤も、アスカが一方的に攻められるだけのこれを合戦と呼べるのなら、だが。
 再度脱力したアスカが腹ばいにさせられ、その上から抑え込むように男が覆いかぶさる。逃れようとあがくアスカだが、押し付けられた胸が布団で擦れ、ゾクンと痺れるような快感が走ったことで身動きを止めてしまう。

「あっ……あっ、あ、ああぁ」

 小刻みに震えるばかりで身動き一つできない状態のアスカの背中に、男の舌が触れた。

「んんん〜〜〜〜っ! ひあああぁぁぁ! あ、あああ、ま、またっ!」

 枕に顔をうずめ、懸命に官能の疼きをこらえるアスカ。ほとんど無抵抗状態になったアスカの背中のくぼみに添うように蠢き、肩甲骨や背骨の盛り上がりも、全部丁寧に舐めしゃぶられる。背中のくぼみに溜まった唾液が掻き混ぜられてネチョネチョと音を立て、背中を一面淫靡な沼に変えていく。

「あっ、あっ、あ、あ、ああっ! も、もう、ダメぇ!」

 唾液だまりが熱を伴い、アスカの背中を焼きながら染み込んでいくのが判る。
 布団の端を噛みしめ、枕に顔をうずめて懸命に声を堪えようとする。

「う、う……ううっ! うううぅ〜〜〜〜っ!」

 背中から性交並みの快感が来るという、混沌の極みでアスカを目を白黒とさせる。項垂れ、豊かな金髪を揺り動かし、クネクネと尻を振って逃れようとするアスカの様は、性の魔界に引きずり込まれた天使を思わせた。

「はぁ、はぁ、はぁ、あっ、ああああっ!」

 だが、アスカにできる事は、男の言葉を嘘だと信じて、この恐ろしいほどの快感が過ぎ去るのを耐えて待つことしかない。
 耐えて、この地獄がいずれ終わりのを待つしか……。

「あ、ああ……。ん、ちゅ、ちゅぷ」

 嫌悪しながらも、口づけをされると反射的に受け入れてしまう。唇を合わせ、舌を絡め、唾液を混じらせ互いに嚥下して……。

「は、あむ、うう! れろ…。うん、ちゅっ。」

 正直なところ、アスカは口吸……口づけという行為が好きだ。これで相手がシンジだったら、どれだけ嬉しく感じることだろう。だが、相手はシンジではない。頭ではわかっているのに、唇が触れた瞬間、胸がキュンとして下腹が熱くなるのを感じる。ピチャピチャと唾液同士が絡み合う音を立てながら、アスカは男の唇を受け入れていく。

「ん……いやぁ……ん、ちゅ、んんん」

 口腔から喉の奥までタップリと蹂躙し、むせるほど大量の唾液を飲ませて満足したのか、男はゆっくりとアスカの唇を解放した。だらしなく開いた口から、ズルズルと音を立てて紫色の舌が引きずり出されていく。もしそれを見ているものがいたら、困惑せずにはいられなかっただろう。アスカの口から引き抜かれた舌の長さは、見えているところだけで一尺(30cm)近い長さがあるのだから。

「ぷはぁ、はっ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」

 アスカの顔の前で、蛇のように鎌首をもたげた舌が、頬をからかうように舐めて一筋の跡を残した。







 闇の中に怪しくアスカの裸体がぼんやりと光る。

 そうして、長い長い喉奥どころか食堂の入り口まで嬲られる口吸にすっかり茫然自失していたアスカだったが、フワリと髪の毛が背中にかかる感触で意識を覚醒させる。闇の中で眼前に広がる白い枕が網膜に飛び込んでくる。
 そこで、アスカは今自分がどういう格好をしているのかに気が付いた。
 はしたなくも尻を高く掲げ、大切な場所を男の眼前に突き出すような、およそ武家の女なら、いや武家でなくとも決してとることのない体勢になっていた。一瞬、全身をたゆとうように包む快感も忘れて、アスカは羞恥に顔を染める。

「な、なによ、これ!?」

 彼女が忘我状態の間に舐め終えたのだろう。背中も、背筋に沿って尻も一面熱く疼いている。そして、体の表面をすべて処理が終わったのなら、次は……。

(じょ、冗談じゃないわ。今でさえ、心臓止まるかってくらい感じてるのに、これ以上、なんて)

 快感だけではない恐怖で小刻みに体を震わせながら、アスカは止めてくれるよう哀願した。それは、普段の彼女を知るものからしたら、決して信じられないような命乞いの言葉だった。

「い、いや……。待って、やめて、そんなことされたら、し、死んじゃうわ」
『この程度に耐えられんなら死ぬがよかろう。まあ、たぶんだが、お前は大丈夫だ』
「待って、待ってよ。ねぇ、あ……あああっ!」

 拒絶もむなしく、ヌルリと舌が淫唇を押し割り、中に挿入された瞬間。
 突然、過去の記憶、思い出がアスカの脳内を駆け巡った。

 初めてシンジと会った幼少のころ、一緒に遊んだこと、色々あったが彼と添い遂げようと思った事、惣流家は上級武士だが、永代家老の碇家とは家格が違いすぎて正室にはなれないと知って荒れた日々。だが、運命の変遷で碇家の中臈見習いとして住み込みで働かないかと声がかけられた。正室ではないとどのつまりは妾で良ければ、という提案だった。最初はふざけるな、と拒絶を考えたが……二度とシンジに会えない、会話もできなくなるという事実に耐えられなかった。
 所詮、かなわぬ恋だったと全て諦め、彼を忘れることはアスカにはできなかった。
 結局、提案を受け入れて見習い中臈となったアスカは、隠居した先代の中臈で今は奥老女になったリツコに厳しくしつけられた。
 そしてシンジが当主になったのを機にアスカも中臈となり、遂に感極まって彼に思いを告げ、晴れて結ばれた。
 体が弱い正室のレイの代りに、性欲の強いシンジにたびたび求められ、このままだとレイより先に子供ができちゃう、と冗談めかしてシンジに言って『産んでくれないかな?』と恥ずかしそうに言われたあの日。






 走馬灯が過去から現在まで一巡した瞬間、アスカの意識が爆発した。

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あっ!!」

 秘所を押し割り、男の異形の舌が潜り込んできている。襞をかき分け、愛液をこそぎ取りながら奥へ奥へと侵入してくる。
 全身をわななかせ、獣のようなうめき声をあげるアスカ。汗がブワッと全身に滲み、見開かれた目から涙がぼろぼろと零れ落ちる。

「お、おっ、おあっ! あ、ああ! ああ―――っ」

 この獣のような唸り声を自分が漏らしているなど、アスカには信じられなかった。見開かれた目から涙がぼろぼろと零れ落ちて視界がかすむ。すっかりと闇の目が慣れた瞳には、長持の壁がずっと映っていたが、それも霞み、にじんで遠くでぼやけた幻のように見えなくなる。
 男の言う【ぬめり舌】が体の表面を、女陰と同じ性感帯に変える術なのだとしたら、女陰をねぶり舌で舐められたら……?

「あ、ああああっ! ぐっ、ああああっ! 壊れ、こわれるっ! 意識が、焼け、る……!」

 麻薬を使用しての性交はおよそ人外の快楽だというが、それをあっさりと超える快感という答えを身を持って知り、アスカの意識が焼け付いた。
 人外の快感にアスカは全身を戦慄かせ、枕に顔をうずめて嗚咽をあげる。

「ぐぅ、うぐぅ、ひぐぅぅ」

 自分が出していると信じられないような、地の底深くから響くような野太い呻き。呼吸が足りていないのか頭がクラクラして目が回る。稲妻のような光が、何度も脳内で瞬く。あまりの眩しさに目を閉じるが、その光りはアスカの脳内で発せられているのだ。

「あ……かはっ……うぅ……あぅぅ。うぅん……ま、また、いやっ、いやっ……」

 ぐるりと瞳が裏返り、意識の糸が切れたアスカはガクガクと全身を揺さぶりながら、官能の深みへと落ちていく……。






『秘所の次は、もちろん尻穴もだ』
「あぎぃぃぃ―――――っ!!」

 無慈悲な言葉と共に再び迸った強烈な快感で、豊かな金髪を乱しながらアスカは絶叫をあげた。今までただの排泄口でしかなかった個所を、無体にも刺激される屈辱。そしてそれ以上の初体験の感覚。だが今回ばかりは快感よりも屈辱と羞恥が勝った。およそ武家の人間として教育を受けてきた者にとって、この慮外の行為は天に弓引く行為、神君に対する反逆、武家社会の公然とした否定に匹敵する一大事だった。

「そんな、そんなところを……! いやああぁぁ、やめて、やめてぇ―――っ!!」

 桜色に染まった喉元が反り返り、落ちることを許されない生き地獄にアスカは絶望の叫びをあげる。絶頂の叫びに続いて、体の痙攣が続く。
『無駄な抵抗は止めろ。気持ち良くしてやろうというのだ。おとなしく受け入れた方が無駄に苦しまなくて済む分、お前のためよ』
「嫌だって言ってるのよ! 身体舐められただけで、こんな無茶苦茶なのに、体の中までなんて……!」

 知らず知らずのうちに足を突っ張らせ、腰を高く掲げて前のめり姿勢だったアスカは上体を起こし、1ミリでも距離を離そうとしているのか、前のめりに逃れようとする。長持の中に閉じ込められているのでなければ、一時は逃れられたかもしれない。だが、無情にも眼前の壁にに頬を押し当てるようにぶつかり、すすり泣きをあげることしかできなかった。

「あっ……ああぁ、嫌よ、もう嫌ぁ……。助けて、誰か……。シンジ、シンジぃ」

 それでも、背後から圧を掛けてくる男から逃れようと懸命に前へ、前へと進もうとする。

「はぁ、はぁ、ああ……私、もうヤダ」

 1ミリも逃れられなくなったアスカの尻を掴み、螺旋を穿つように固く緊張させてすぼまらせた舌先が、菊座を押し開け、こじ開け、潜り込んでくる。

「うあああ、あ、ああ……あん、あっ、ああ、あっ! ダメぇ! 本当に、ダメだってばぁ!」

 汚らしくて、嫌なはずなのに。シンジにだって許してない場所なのに。
 『初めて』を奪われる衝撃に、アスカはポロポロと涙をこぼして身をよじった。感じてはいけないと強く思えば思うほど、逆に強く舌の感触を感じてしまう。白目をむく寸前にまで目を裏返らせ、ガクガクブルブルと全身を震わせてアスカは足掻く。ただれた粘膜をこそぎ取るように舌先で舐られるのがわかる。

「お゛っ! おほぉぉ! あ、あああっ!」

 重力にひかれた乳房がタプタプと音を立てて揺れ、肌を伝う汗が銀の雫となって零れ落ちる。
 どうなってるのか想像もしたくないが、男の舌は強いすぼまりの圧力を押しのけ、じゅるじゅる……と物狂おしい音を立てながらアスカの菊座に出入りを繰り返している。太く、細く、蠢動を繰り返しながら……。

「あ゛、あ゛、あ゛あ゛あ゛ぁっ! やだ、もう、やだぁぁ。抜いて、ぬきなさいよぉ!」

 尻を伝い、唾液と腸液が混じったものが尻穴からこぼれだし、太ももを伝って滴り落ちていく。 涙をボロボロこぼし、甘美な官能のうねりの中で快楽の沼で岸に上がることも、沈むこともできずに藻掻き苦しむことしかできなかった。

「ああ、いや、やめてっ! お尻でなんて、嫌ぁ!馬鹿ぁ! いいい、イっちゃう! お尻で、お尻でイっちゃう―――――っ!」
『おうおう、イくがよい。これで、仕上げだ!』
「ひぃぃぃ―――――っ! イく、イく、イくぅぅ……っ!!」

 遂に紫色の舌が、すぼまったアスカの菊座の防御をこじ開け、根元まで差し入れられた。
 嫌悪で心が覚めていくのに、体はその異常事態を受け入れたかのように熱くなる。ビュクビュクと腰を震わせ、愛液が洪水のように溢れだした。

「い、イヤァァァ―――!! 私の体を、これ以上変えないでぇ!」

 体内の最奥まで唾液が注ぎ込まれ、舌先で腸壁の襞の一つ一つをこそぐように掻き分け、女陰と同じ性感帯に作り変えた時。

「ああ、あ、あ、あっ! あ〜〜〜〜〜〜ッ!!」

 アスカはこれまでで最大の灼熱の喜悦に全身を打ち震わせ、アクメ顔を晒して布団の上に崩れ伏していった。







 闇の中で正座して待ちながら、サクラはふと疑問に思った。

 どれくらい時間が経っただろう?

 四半刻もすればさすがにアスカを嬲ることに満足した男 ――― 竜骨は出てくるだろう。そう思っていたが、半刻しても出てくる様子はなく、今なおゴトゴトと長持ちは前後左右に揺れ、くぐもったアスカの喘ぎ声が聞こえてくる。
 
(まだ終わらんのかな? はよう、竜骨様に抱いてほしいのに、アスカ様もなんでこんな粘るんやろ?)

 数度の自慰を経て体はすっかり仕上がっている。だが、自分でするだけでは、指でいじるだけではとても満足できない。何度も犯され、絶頂の経験を経た今となってはなおさらだ。サクラは主が仕儀終えて姿を見せるのを、今か今かと待ち構えている。
 待ち焦がれてはいるが、サクラは退屈を全く感じなかった。
 長持から聞こえる音を聞くだけで、稲妻に打たれたような興奮に襲われるのだ。

(アスカ様が、竜骨様になぶられ、作り変えられてる姿を想像するだけで、わたし……)

 二週間前の満月の夜。
 夜中に厠に行ったとき、竜骨に暗がりに引きずり込まれたあげく、処女を奪われた。
 全身を【ぬめり舌】で作り変えられた彼女は、経験が全くない未通だったが故に逆に完全に性の虜になっていた。今の彼女はシンジに淡い思いを抱いていた夢見がちな乙女ではなく、竜骨の与える痛みよりも強烈な性交の快感を求める淫獣と化していた。

 そして、竜骨の与える快楽の虜となったサクラは、彼に言われるがままアスカを罠に掛けたのだった。

 竜骨にアスカを罠に掛けるよう言われた時、ほんの一瞬、躊躇したが『それならもう二度と抱いてやらん』と言われては、従うことしかできなかった。きつくアスカに当たられて、思うところがあったのも影響している。
 『お前の主……中臈のアスカがお前と同様、ワシの奴隷になる姿を見たくないか?』と言われ、実際にそれを想像してからは、むしろ竜骨よりも積極的にアスカを貶めることに夢中になって、その姿を想像して一人興奮し、いつやるのかと催促する始末だった。これには竜骨も『とんでもない女だなお主は』とあきれ顔で呟いたほどだ。

「あ……」

 物思いにふけっていたサクラだったが、カタ……と小さく音がしたのを聞きつけ、反射的に立ち上がりかけた。
 寸前、サクラの目の前で長持の蓋が内から、弾け飛ぶように押し上げられた。蓋が外れると同時に、長持の壁の片方が自動的に外れて倒れ、中の惨状があらわになる。竜骨の隠れ場所でもあった長持の中には布団が敷かれていたが、今のそれはくしゃくしゃになり元が何だったかわからない有様だ。
 アスカの着物と布団が歪に絡み合った中に座していた偉丈夫が、むっくりと立ち上がる。

「竜骨様……」

 嬉しそうにつぶやきいそいそと膝立ってにじり寄るサクラに鷹揚に頷くと、竜骨は納戸の中心に足を進めた。長持の中に比べれば新鮮な空気を胸いっぱいに吸い込み、鞴のようなため息を漏らす。
 それにしても……これが冒頭で月に向かって叫んでいたのと同じ男だろうか?
 二十代半ばに見えていたはずの男は四十絡みの年齢に見え、全身は膨れ上がるように逞しくなっている。髪は乱雑に剃り上げられ乞食坊主さながらの五分刈り頭となって、まるで別人に見える。特に変わっているのが、その被っている面だろう。チラリチラリと目とそこだけはまるで思春期の少年のように吹き出物だらけの頬が垣間見える。

 仁王立ちする竜骨の輪郭が、なんとも奇妙な具合に横に広がって見えた。だが、ずっと薄暗い物置にいたサクラの目には、その理由が一目で見て取れた。






「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ。ああぁ……」

 呻き、喘ぎながらも竜骨の上半身に、全裸に剥かれたアスカがしがみついていた。犬のように舌を出して肩で荒い息を吐き、全身は汗で濡れ光っている。異様なまでに赤く染まった肌は忍法の影響によるものか。

「ううぅ、あっ、はっ、あぁ」

 【ぬめり舌】は単に女体を作り変えるだけではなく、男が見たらたとえ人妻であったとしても、暴力や権力に任せてでも、己の物にせずにはいられないと思うほどの、強烈な色気を纏わせるのかもしれない。強烈な色気を身に着けたアスカの姿に、サクラも思わず息を飲む。
 虚ろな目をして両足を竜骨の腰に絡め、両手でしっかりと首をかき抱いている。アスカの体を支えながら、竜骨は眼前のアスカの乳房におもむろにしゃぶりつくと、びちゅびちゃと異様な音を立てながら乳首に舌を絡め、乳房全体を口内に含むようにして吸い付いた。

「あ、ああぁぁぁぁ〜〜〜〜っ」

 チュプチュプ、チュパッと大仰なまでに音を立てて、乳首を舐め、吸い付き、乳房を揉みしだく。
 それだけでビクビクっと体を震わせながら、絶頂を迎えたアスカが甲高い喘ぎ声を漏らした。

『愛い奴、愛い奴。こんなにも甘く弾力のある乳房は初めてよ』
「あああ……はうぅぅん……あっ、ああっ、あっ、そんなの、知らない。あ、ああ、馬鹿、馬鹿ぁ。あはぁぁぁ」

 竜骨はそう嘯きつつ、尚も乳房にしゃぶりつく。口をすぼめて乳首を口に含むと、跡が残るほど強く赤子のようにチュウチュウと吸いついた。たまらず、再度の絶頂にアスカが首をのけ反らせて悶え狂った。朱が射した首筋が引き攣るようにヒクヒクと痙攣し、力の抜けた上体が向こう倒しになりかける。

「ゆるさ、ない……から。絶対に、絶対に、あんた、殺して、殺してやる、から……」

 それは呆けながらも、背後のサクラの存在に気が付いたが故の強がりだったのかもしれない。快楽に蕩けながらの脅し文句に、竜骨はせせら笑う。
 あわてず騒がず、しっかりと支えてやりながら、竜骨はアスカの耳元に口を近づけ、サクラにも聞こえるようにゆっくり、はっきりと言葉を紡ぐ。

『この期に及んで尚もまだ強がりを言い募るとは』
「強、がり……なんかじゃ、ああ……ないっ! ん……ひぅっ!」

 アスカの言葉をフッと、鼻で笑うと竜骨は、舐めしゃぶるのではなく、乳首を甘噛みして喘がせる。
 しがみ付いていた足が万力のような強さで竜骨の腰を締め付け、肩を掴んでいた指先が爪を立てる。圧倒的な膂力でそれを跳ね返すと、肉食獣の食事のように乳首に噛みついたまま、乳房の形が変わるまで引っ張り上げる。

「んん――――ッ!!」

 全身突っ張らせて声にならない悲鳴を上げるアスカ。プシャっと音を立てて股間から白っぽく濁った小水が散らされる。

『その体たらくでよく言う。だが、まあ良い。この後にも同じことを言えたら、さすがに負けを認めよう。
 だがわかってないようだが……。外に出たのは、いい加減暑苦しかったからだけではないぞ』

 一言一言、言い含めるように、耳元に口を寄せて竜骨は言葉を続ける。

「どういう……こと?」

 呆けたアスカは言葉の意味することを理解するより先に、怪訝な表情を浮かべるだけだった。だが、サクラには彼が何を言わんとしているのかわかったのだろう。楽しそうに笑みを浮かべる。
 漸く、待ち望んでいた光景が見られそうだ。







 トロンと蕩けた眼差しのまま尋ねるアスカに含み笑いを返すと、竜骨はアスカの体を抱え直した。
 少し持ち上げ、屹立する一物の角度を調整すると、赤く充血して潤み切ったアスカの秘所に赤黒い亀頭を押し当てる。それが触れた瞬間の感触と熱にアスカは言葉をなくす。
 脳天に突き抜けるような快感に息を飲むアスカに、追い打ちをかけるように竜骨は続ける。

『陰陽の和合をなすぞ』
「いん、よう……?」
『お前の中にワシの珍棒を挿入するということだ!』
「え……それ、って。えっと」

 呆けた意識が竜骨の言葉の意味することを分析し、それと共にぼやけていたアスカの瞳に正気の光が戻る。
 今までされたことだって、到底受け入れがたい、許されざることではあった。だが、これからされようとしている事は比較にできない。

 今ならまだ間に合う。人として死ねる。犯されることだけは、決して受け入れられない。
 病弱なレイはシンジの子供を産めないかもしれない。いや、そうなる可能性が高い。
 となると、碇家の跡取りになる子供は、自分達3人の中臈のいずれかが生むことになる。誰かがシンジの子供を産む。それは決定事項だ。だが、その誰かが自分になるためには、万が一にも碇家中臈である自分の生む子供が、他の種の可能性はあってはならない。

 毛ほども!

 たとえ他の男に抱かれたのが10年前だとしても、難癖付けて純潔をやたら重んじるのが武家社会だ。
 何があっても、シンジ以外の男に抱かれるなどあってはならないことなのだ。

「い、嫌、嫌ぁ……」

 逃げないと、どうにかしないと。
 でないと私はシンジ以外の人に『犯される』

「やっ、待って! 待って、嫌、嫌々いやぁ! 誰か、助けて! シンジ、シンジ、シンジぃ!」
『フハハハハ、泣け!喚け! たっぷりと絶望しろ!』
「やだやだぁぁ! ダメ! そんなのダメなんだからぁ! 挿入れないで、犯さないでぇ!」

 必死に抗うアスカだったが、これまで受けた快感と絶頂で痺れた手足には力が入らず、重力にひかれるまま、竜骨が手を下ろすと体は沈み込む。押し広げられた足の間で、これまた限界まで押し広げられた秘所は、何かの生き物が食事を飲み込むように竜骨の一物を受け入れていく。

「嫌ぁ! 嫌、嫌、嫌ぁ! 入って、来る……! 助けて、誰か、助けてっ!」

『ほおれ、ほれほれ! ずぶずぶと飲み込まれていくぞ』
「う……んっ! ぐっ、くぅ……!」
『わかるか? 美味そうにお前の女陰がワシの魔羅を飲み込んでいくぞ。口では嫌と言いながら体は正直なようだぞ』

 必死になって首を振り、頭から倒れこむ事になってもいいからと必死に体を離そうとする。
 だが、竜骨の手はしっかりとアスカの腰だけを把握し、逃そうとしない。






「ああああああっ! やめてやめてやめてぇ!」

 嫌悪感と内臓がずれそうなほどの圧迫感も恐ろしいが、それ以上にゾクリと背筋を走る悪寒と快感の方が恐ろしい。
 それでも、懸命に全身を突っ張り、竜骨の抱擁から逃れようとするアスカ。しかし、それは勝ち目が毛ほども見えない負け戦だ。最初に抱え直されたことで、足を使ってしがみ付くこともできないし、腕の力だけでは体を支えることはできない。
 ゆっくりとその巨大な一物がアスカの体内に飲み込まれていくのを、サクラは瞬きもせず、息をするのも忘れて見つめていた。

『ほうれ、亀頭が……飲み込まれたぞ!』
「イヤぁっ!」

 腰に力を入れて圧力を増して締め出そうするも、粘液で薄く黄色に濡れ光る一物はヌルリと飲み込まれる。感触でそれを悟ったアスカは首をのけ反らせて悲鳴を上げる。後に続く竿の部分は、シンジのそれと比べると異様にゴツゴツして太さも形も歪だが、先端の肥大した亀頭に比べればずっと挿入しやすい。

『ほぉ……。先に舌で舐めた時にも思ったが、これは極上の持ち物、名器の持ち主よ』

 異人の女は大柄な分、色々と緩めと聞いていたが、これは嬉しい誤算だ。
 だが、敢えてすぐに挿入することはせず、竜骨はアスカの体内の感触を存分に時間をかけて楽しんだ。暖かく、熱い膣内の感触、甘いアスカの吐息、泣きじゃくりながらも喘ぎ身悶えるアスカの反応。
 いずれも至高というべきものだった。

「あっ、あっ、あっ、あっ、あっ、あああっ!」

 苦痛じみた快感を堪えようと、固く目を閉じアスカは懸命に腰に力を入れる。
 体勢的に肩を掴むことが難しいなら、せめてもの足掻きとばかりに竜骨の頭を両手でぎゅっと挟み込むように持つが、それで支えられる重さは精々、体重の三分の一程度だろう。つまり……。

「ひぎっ! い、ひぃぃ!」

 ほんのわずかにアスカが気を抜いた瞬間、更にアスカの体が沈み込み、グチュッ……と鈍い水音を立てて竿の三分の一ほどがアスカの胎内に埋没する。

「は、あっ! い……や、ぁぁ」

 肩で息をし、腰を小刻みに震わせながらアスカは熱い吐息を漏らす。

「ひぅ……。はぁ、ああぁぁ」

 血が滲むほど強く唇を噛みしめて意識を奮い立たせると、アスカはさらに股間に力を込めた。1分でも鼓動一つ分でもいい。少しでも時間を稼げば、その稼いだ時間の間に異変に気付いた誰かが助けに来てくれるかもしれない。

『まさに眼福ものの光景よな!』

 アスカの悲痛な覚悟をせせら笑うように、眼前で揺れるアスカの乳房を見つめながら竜骨は満足げに頷いた。

『痛いほどきつく締め付けて来よるな。それほどワシの一物が気に入ったか?』
「ち、違う、違う違う! そんなわけ、ないじゃない! 嫌で、嫌で嫌で! 一秒でも早く抜いて欲しいだけよぉ!」

 拒絶の叫びをあげて、もじもじと身を攀じるアスカだが竜骨が手を動かすとさらに体が沈み込み、更に竿部分がアスカの中に埋め込まれる。刺すような鋭い刺激にアスカは懸命に身をよじり、全身を震わせる。粘膜のむず痒い火照りが自分を犯す男への強烈な拒絶とないまぜになり、相乗効果を伴って熟れきったアスカの体はさらなる官能の疼きで煮えたぎっていく。

『こんなに露を漏らしていながら認めぬか。下の口と同じく、上の口もさっさと素直になった方が、お前の身のためだぞ?』
「そんな、わけっ! 嫌よ、嫌ぁぁ!」
『あれだけ声を上げ、自分からしがみ付いてきたのを忘れたか?』
「あ、あれは、あれは……ちがう」

 アスカは言い訳を思いつかないのか、最後の方は顔も目も背け、まともに睨み付けることもできずにしおらしい態度を見せる。

「違う。あれは……私じゃない。私の意思じゃない」

 瑞々しい肢体を密着させ、汗に濡れた肌を擦り付けながらという、説得力の欠片もない言葉だった。
 肉欲に溺れて、我を忘れてしがみ付く女も良いが……。気位故に簡単に堕ちない女を嬲るのも面白い。
 桜色に濡れ光る女体を抱きしめながら、竜骨は唇の端を舐めつつ、そう思った。

「う……あぁっ! く、ふ……んんッ!」

 食いしばった口元が緊張で震える。
 まだ完全に挿入されたわけではないのに、体内の一番深いところから快感が押し寄せてくる。本当に奥まで挿入されたら、どんなことになるのか想像するだに恐ろしい。

(むしろ、衝撃で死ねた方が、ずっと……楽、のはず)

 むしろ、死にたい。

 マユミも、マナも、最大のライバルであるレイも……。アスカを中臈に推したミサトもみんな悲しむだろう。
 シンジは悲しむだろうか。憐れまれるのは嫌だけど、でも、シンジに誤解され、嫌われながら死ぬのは嫌だった。
 でも、こうなったら、もう……。

 さすがに、もう犯されることから逃れられるとはアスカは思っていない。例え、今まさに助けが来たとしても、半ば以上まで男の一物を挿入されたアスカを見て、他の人間は何を思うだろう?
 つまり、もう何もかもが手遅れなのだ。つぅ……っと涙があふれ、頬を伝って地面に雫が零れ落ちる。胸の奥が震え、喘ぎとは別にしゃくりあげるように息が詰まる。

(シンジ……。ごめん、なさい。あんたの子供、産みたかった)

 哀切な呻き声を漏らすアスカを更に追い詰めるように、男はまた少し一物を挿入させる。グチュ……っと水音を響かせながら粘膜を擦り上げられる快感に、鼻にかかった声をあげながらアスカは首をのけ反らせて呻いた。

「はぁ、はぁ、はぁ、あっ……あぅぅ。こんな……の」

 何もかも諦めて、投げ出し、このまま快楽に逃げ込んだ方がずっと楽だってことはわかっている。すぐ横で何が楽しいのか目を輝かせて、身を乗り出すように自分を見ているサクラのように。

「いや…うっ……うぐぅっ! うっ、ううっ」

 だけど、そんなの私じゃない。
 今さらながらだが、先のやり取りのせいで声を漏らしたら負けを認めたような気持ちがしたアスカは、必死になって声を出すのを堪えようとした。
 口を食いしばると快感に耐える力が強くなり、それだけ長く正気を保っていられる。同時にそれは、気絶を許さずに限界を超えた快感に襲われるということでもあるが……。

「んっ、んくっ、んんん……んっ、んん〜っ……!」

 声を殺し、戦慄く体を懸命に抑え込もうとする。その間も、無意識のうちに男の体に太ももを密着させ、強く締め付けている。

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、は……っ」

 大きく口を開き、舌先を少し口の外に溢れさせる。武家の女ならはしたないと言われて、決してしない仕草をあえてアスカは行う。快感に囚われ、喘ぎ身悶えていると思わせるように、ごく、ごく自然に見えるように……。もっとも、ほとんど演技を心掛ける必要はなかった。快感に支配されたアスカの体は、かろうじて正気に従っているに過ぎなかった。

(私が何を考えてるか……気づいてない)

 熱い吐息を漏らし、艶めかしく濡れる舌先を更に伸ばす。犬が舌を出して喘ぐように半分以上を口の外に出し、「あぁ……」と小さく呻いた。

『だいぶ素直になってきたか?』

 竜骨が何か囁いてきたが、それを一切無視し、アスカの最後に残った理性は、全身全霊の力を振り絞って下顎に命令を出した。

 このまま、舌を噛み切れ ――― と。

 ズグン

 だが、顎が舌を噛み切る寸前、アスカはそんな音が聞こえたような気がした。
 茫然としている間に更に深く、およそ三分の二ほどの一物がアスカの胎内に埋め込まれる。

「あぐぅっ、うっ、うううぅぅ―――っ!?」

 舌を噛み切る正にその寸前、更に深く一物が挿入されたのだ。手を本当に一瞬離し、自由落下に任せて挿入するというかなり荒っぽい方法だったが、その衝撃にアスカは呼吸を忘れ、舌を噛み切ることを失念してしまう。
 股間から足の爪先までがこむら返りでも起こしたように痙攣し、食いしばった口元はゆるく開き、反射的に喘ぎ声と空気を求める荒い呼吸音が溢れ出る。体内の一物はビクビクと震え、アスカの柔肉がもたらす快感に反応して熱がこもる。溢れ出る粘液は床に滴り落ち淫音を立て、定期的に漏れる喘ぎが重なる。
 更に追い打ちをかけるように、竜骨は少しだけ引き抜いて腰をグラインドさせた。

 グチュ!

「あぎぃぃぃ……っ!」

 焼けた鉄串を差し入れられたかと思うほどの灼熱の挿入感。口の端から泡を吹きながらアスカは、歯の表面が欠けて欠片がこぼれるほど、きつく、強く噛みしめる。
 自分の体は一体どうなってしまったのだろう。あまりに熱く鋭い衝撃が下腹を疼かせる。太ももから爪先までの感覚がほとんどなくなり、下半身がなくなったかのような錯覚に襲われる。
 本当に……溶けてなくなってしまったのかもしれない。

「いや、嫌ぁ……」

 恐ろしすぎる予想に、反射的にアスカは自分の内腿に目を落とし……そして、女陰を押し割り今まさに根元まで潜り込まんとする熱い塊の存在を目視した。反り返った屹立が、ジュプジュプと音を立てて恥液で湿った淫裂を掻き混ぜ、絶対的な快感を与えていることを嫌でもアスカに見せつけている。あまりの衝撃に、アスカは思わず息を飲む。

「ひぃぃぃっ! あ、ああああっ! ん、んんんんっ!?」

 一度強く意識すると、竜骨の竿部分にはざらざらとした感触をもたらすものが無数にあることに気が付いた。微妙なでっぱり、肉腫のようなものが無数に……。それがもたらす快感でアスカは背を何度も浮かし、そのたびに溢れる愛液がビシャビシャと音を立てて零れ落ちていく。体全体がふわふわとした感覚に包まれ、ツンと立った胸の先端が誘うように揺れる。熱い肉壷が収縮し、半ば以上挿入された一物を、吸い込むように締め付けた。

「私……変、に……変になっちゃう。おかしくなるぅ……」

 再び、舌を噛み切ろうとするだけの気概を集めるのは、アスカには不可能だった。
 際限のない苦痛めいた快感と圧迫感に、時折、熱い吐息が漏れる。

「くぅっ、んんっ! あっ、ひああっ!」

 無意識のうちに腰を左右にゆすり、膝の裏で男の肩を押すようにしてなんとか引き抜き、逃れようとするアスカだったが、そんな半端な動きでは、引き抜くどころかかえってグラインド運動を補助するような事にしかならない。脈打ったモノがアスカの中に、ゆっくりと出入りを繰り返すのを瞬きもせずにサクラが見つめる。
 アスカの呻きが、甘く、切なくなっていく。

「はぁあ……あぁ、あん……あっ」

 当初は小さく、無様な姿勢で犯されるアスカに対して蔑むようなことをつぶやいていたが、今は自分以外の人間がする性交に魂を奪われたように見入っている。

「ふっ……くぅっ、んっ…ぁうんっ」

 ぐったりと脱力したアスカの様子にニヤリと竜骨は笑う。彼女が何を考えていたかなど、お見通しなのだ。

「あ、ああ……。くぅぅぅぅ」
『つまらん事をたくらむな。極楽を見せてやろうというのに』

 楽しませてくれるという気持ちもあるが、未遂に終わったとはいえまだ自害する覚悟と気力が残っていたことに驚きを隠せない。さすがに全身に【ぬめり舌】を施した上で散々にイかし狂わせて焚火の前の蝋燭よりも蕩け切った状態にすれば大丈夫だろうが、まだ万が一ということもある。
 名残惜しいが……。アスカの反応の一つ一つが楽しく、また完全に侵される前の肉体からしか得られない快感に耽溺していたい気持ちもあるが……。

『そら、最後だ! ワシの魔羅を根元まで食らって極楽往生せい!』
「いやっ! イヤイヤ! 嫌ぁ―――っ!」






 どれだけ長く執拗な焦らしだったのだろう?
 徐々に一物を挿入されていくという究極の焦らしに、アスカはすっかりと蕩け切っていた。

「あぁぁぁぁぁ〜〜〜〜っ!!!」

 遂にアスカの大絶叫とともに、ヌルリと擬音が聞こえそうなほどの勢いで竜骨の一物が胎内に根元まで挿入された。
 内臓ごと吐きそうなほどの嫌悪と圧迫感に襲われ、アスカは絶叫をあげる。
 一方で吐き気を忘れるほどの衝撃で襲い来るのは、脳天を突き抜けていく凄まじい快感。全身の細胞が融けていくような稲光がアスカの魂を貫いた。
 充分に濡れた秘唇は大きく開き、極太の一物を受け止めていた。痛々しいほどに大きく押し広げられ、ゴリゴリと凹凸の目立つ竿に擦られながらも、貪欲な獣のように一物を飲み込んでいく。

「あぐっ、おっ……ぐっ、はぐ、はっ、はぁ、はぁ……。あふっ、う……ぐっ、んんぅ……くぅ」

 血走った目が飛び出しそうなほど大きく見開き、折れないのが不思議なくらい背筋を反らせてアスカは嗚咽をあげる。
 悔しくて仕方がなかった。
 死にたいくらい嫌なのに、それを忘れてしまいそうになるほどの快楽に翻弄され、自分が女であることを思い知らされる。

「あああっ、はうぅぅ、あっ……あああぁぁぁ〜〜〜っ!」

 ただの絶頂ではない。
 ほんのわずかに身じろぎ、震えただけで言いようのないほどの快感がアスカの体内を貫く。ある意味、散々に焦らして焦らして漸く撃ち込まれた一物がもたらす法悦は、結合するためだけに取らされた不自然な姿勢で犯されたことで、それだけに快感は一段と高まった。心臓の鼓動を一瞬止め、体の芯に残っていた滓のような何かを、濁流のように押し流していった。

「ああ、いや、もう、もう、やだ、やめてっ! あ、あああっ! シンジ、シンジ、シンジぃ!」

 今まで感じていた絶頂も確かに絶頂ではあったが、深奥を一物で犯されることでしか得られない快楽による絶頂は、灼熱の溶岩のようにアスカの全身を満たしていくのだった。

「あ、熱い!熱い! 腰が、焼けるっ!」
『天地に邪気あり。沛として命に待つ。わかるか?』
「はぅ、はぅ、あ、あ、あ、あ、あ、あっ、あぁ!」

 体をビクビクっと痙攣させ、体内にじわりじわりと広がる熱に全身をくねらせる。【ぬめり舌】で性感帯に変えられた全身と膣を押し広げて挿入された一物が反応し、そのうねりに反応し、また絶頂を迎えるという、最悪の無限ループにアスカは捕らわれたのだった。

「あ゛っ! あ゛っ! あ゛っ! ああ゛っ! いあぁっ!」

 首を左右に振りながら、望まぬ快楽に激しく腰をくねらせる。健康的に育った白桃のような乳房が揺れ、赤い先端が軌跡となって視界を走る。

『男と女、陰と陽。昼と夜が逆にならないように、どれだけ抗おうとこの理からは逃れられん』
「う、ふ、うふううぅぅ」
『返事もできんか』

 女はすべてワシの奴隷、食い物だ……。

 そう嘯くと竜骨はさらにアスカの体が自分と密着するように、きつく抱きしめた。
 快感で全身を震わせながら、無意識のうちにアスカは逞しい男の体にしがみつく。挿入された一物の感触と圧力、脈動はもちろん、密着した肌と肌の感触だけで、達しそうになる。それでも、落ちていきそうなこの状態では、例え相手が望まぬ相手だったとしても縋りつくことしかできなかった。







「お、鬼、悪魔……ああ、あんたなんか、あんたなんかぁ。死ね、死んじゃいなさいよ。
 ああ、犯すなんて、ああ……もう、シンジの子供が、産めなく、なっ……ちゃった」

 ポロポロと涙をこぼし、喘ぎ、しゃくりあげながら、それだけアスカは呻くようにつぶやいた。夢も希望も何もかもが失われた。将来、子供ができたとしても、それはシンジの子供じゃないかもしれない。もう、碇家の跡取りを産むことはできないのだ。生まれたとしても、口さがない奴は噂をするだろう。シンジの子種ではない、と。
 そして、そんな噂のある人物は永代家老のような栄誉ある碇家の嫡男として、認められることはない。

 無論、現実にはそんな訳はなく、現代医療の知識のある人間からすればアスカの考えは勘違い以外の何物でもないのだが、江戸時代の知識で、しかも純潔や貞淑を何より重んじる武家社会の一員として育ったアスカにとっては、それは紛うことなき現実、リアルなのだ。

『さて、奥まで入っていることがわかるか?』
「うあ、あああぁぁ。嫌ぁ……こんなのあり得ない。絶対あり得ないんだからぁ」

 アスカの鳴き声は唐突に中断した。

「……っ! うぅっ!」

 こういう武家の女は貞操観念が異様に強い。逆に言えば、挿入れてしまえばこっちのものだ。
 再び体勢を変えてアスカとより密着するようにその細腰を抱え直す。思った通り、当初は見られた抵抗が形ばかりでも見られない。むしろその時の動きで一物が胎内を暴れる感覚に反射的にアスカがしがみ付くと、竜骨は面の下で口元を吊り上げる。まさに思った通りのアスカの反応にすべて計画通りに進んでいることを実感する。きっと復讐は上手くいくだろう。

『…いや、そう思うのは早計だったな。まだ三分の一。それも途中だ』

 油断大敵。気を引き締めなくては。そう嘯くと竜骨はアスカに止めの一撃をくれてやるべく細腰を掴む両手に力を込める。

「……っ! うぅっ!」

 竜骨がアスカを抱えたまま、勢いよくアスカの体を上下させ始めた。完全に犯されてしまったという諦めで、抵抗することもできないまま弛緩した体は玩具のようにガクガクと、糸の切れた人形のように手足を震わせる。挿入されたままの一物がゴリゴリと膣の内壁をえぐり、愛液をこそぎだすようにかき回す。

「う、あっ! あああぁっ!」

 肌を密着させ、押し付けられた乳房が形を変えるほどきつく抱きしめる。
 アスカの膝はガクガクと震え、抱きかかえられているのでもなければ、そのまま倒れこんでしまっただろう。

「あっ、あっ、んくぅっ!、も、もうダメっ……はぁぅっ。あぁぁぁぁぁーっ!!」

 切なげな表情で身悶えるアスカ。快感が肉体と精神をむしばみ、中臈という高貴で立場ある女性を、一匹の雌へと貶めていく。勢いよく出し入れを繰り返すが、一切の遅滞もひっかりもなくそんなことができるのは、豊富に分泌される潤滑油めいた愛液のおかげだろう。
 深く、強く一物を打ち込むと、可憐な肉壺は強烈な快感に打ち震え、反作用のように一物を締め付ける。愛液の飛沫を飛び散らせながらの抽送に、アスカは甘く喘ぐとともに先の絶頂と共に引いた波が再び押し寄せて来るのを感じていた。全身の肌が泡立つような快感に包まれていくのを感じる。

「あんっ、あぁんっ!、嫌ぁ……いや、壊れちゃうっ!!」

 今やアスカは肉欲と言う名の麻薬に、その身も心も完全に侵されていた。
 どれだけ嫌がろうと、望まぬものだろうと、ひとたび注がれれば反応せずにはいられない、甘い疼き。くっと首を反らせて「あぁ」と呻くアスカの脳裏に白い光が瞬き、全身を包んで眩しく輝き始め、真っ白な光が満たしていく。

 だが、サクラがとっくに快楽に溺れ、堕ちきるのに十分な時間犯されたにも関わらず、アスカはまだ完全には堕ちていなかった。数え切れない程の絶頂で蕩け切った顔をしているが、嫌悪と、竜骨が自分を通してシンジに向けている憎悪に疑問を感じずにはいられない。
 消えることのない絶頂の余韻に包まれて喘ぎ、悶えながらもアスカは、確かめるように疑念を口にした。

「う、ううぅ。ひ、ひどい、ひどい……。どうして、こんな、ひどい、事が……ああ……できるの、よぉ」

 もとより、回答など期待していたわけではないが、意外なことに竜骨はアスカの問いに応えた。
 否、この問いについては、答えないわけにはいかなかったのだ。

『復讐だ』

 両腕、踏ん張った両足に力がこもり、盛り上がった筋肉が縄のようにうねる。
 面の下の濁った瞳が危険の輝きを帯び始めた。

「ふ、復讐……?」
『そうだ、最強の忍者を求めながらワシをないがしろにした! ダメならダメで無視すればいいものを、あろうことかワシの抹殺を図りおった。! それをしたのが藩の重臣にして、忍びの選定を行った碇家だ!
 少し力をひけらかして、何人か殺しただけでワシを狂人呼ばわりし、抹殺しようとした! 全て復讐のためよ!』
「そ、そんな、そんな……理由、で。そんなの、あんたの……逆恨み……じゃない」

 逆恨み。

 刹那、竜骨の目が見開かれ、アスカの細腰を掴む両手に力がこもる。

『そんな理由だと!? 逆恨みだと!?』
「いぎっ!?」
『有象無象の凡夫とワシを比べようてか!?』

 文字通りが逆鱗に触れたのか、面の下の顔を紅潮させ、竜骨は激しくアスカを突き上げた。
 男の乱暴とも言える突き上げに、自然とアスカの腰が浮き上がっていき、甘い嬌声が響き渡る。

「あぐぅぅ! いっ! あんっ! んっ、んんっ!! ああ、あああっ!」

 ガクガクと全身を震わせ、反射的に竜骨にアスカはしがみつく。あまりに強烈な快感に襲われて物理的にも、比喩的にも、何かに縋らずにはいられなかったのだ。例えそれが、憎い操の仇だったとしても……。
 しがみ付きながらアスカは髪を振り乱し、頭を振って甘い叫び声を上げる。アスカは短く、鋭い喘ぎを繰り返し漏らし、荒々しく蜜壺を蹂躙する一物の感触に耽溺し、喘ぎ声を一つ上げる間にも絶頂を繰り返している。

「ひんっ……!! あぐっ、ひぎっ! んぁぁぁっ!!」

 それは正に性の暴力だった。

「くっ……ああぁ! あっ、あっ、あ、あ、ああっ! 許し、て! 馬鹿にするとか、そういう、つもり、じゃ!」
『ならどういうつもりじゃ!』
「ああ! 待って、待って! あ、あひっ! ああああっ! や、嫌ぁ! 動かれる、度に、ああっ!
 も、もう、イきたく、ないぃ! 許して、許してぇ!」
『許さん、許さん許さんぞ!』

 鬼気迫るとはこのことだろう。
 傍で見ていたサクラが息を飲み、貶めたアスカの身を思わず案じるほどに強烈な攻めがアスカを襲った。



 ―――――半刻後。

「はっ、はっ、はぅ、は、ああ、あぅぅ」

 アスカは後ろ手に両手を掴まれて崩れ落ちそうな体を支えられながら、激しく後ろから突き入れられて無様に喘ぎ声を上げ続けている。乳房への愛撫も変わらず続けられ、汗の浮いた背中には先ほどから何度も舌を這わせられ、望まぬ快感に悲鳴を上げる。荒々しくも急所を的確にとらえた秘所への責めに、アスカの理性は弾け飛ぶ寸前だった。

「あっ、あっ、あっ、あっ、イクっ!、イっちゃうっ!!」

 アスカの理性を更に狂わせるのはアスカの眼前に据え付けられた化粧台だ。覆っていた布はめくり取られ、鏡に映った自分が犯される姿を嫌でも目にすることを強制される。

「ひ、ひどい……ああ、こんな、姿、みたく、ない」

 激しい注挿に腰を震わせ、ぐちゅぐちゅと音を立てて膣をえぐる肉槍。耐えられず、憐れみを乞うような熱く潤んだ上目使いで、鏡に映る竜骨に顔を向けるアスカだが……。その媚びるように視線を竜骨は完全無視し、一層激しく前後運動を繰り返し、桜色の花弁からは絶え間無く蜜が溢れだしていた。
 荒い呼吸に胸を上下させ、何度も何度もイかされる快感に屈辱でアスカは涙を流し続けた。

「あんんっ…んくぅっ…! んっ、んんっ……はぁっ……!」

 ガクガクと全身を震わせながら、アスカはうめき声を上げ続けている。突き上げられるたびに乳房が揺れ、極太の一物を締め付ける。ぼたぼたと溢れた愛液と汗が床にシミを作り、水溜りのように広がっていく。

「う、く、くふ、ふぅ。許し、て、許してぇ。も、もう、イくの、嫌ぁ」






 枯れた喉がひりつくように痛むが、竜骨が強烈な突き上げをやめることはなかった。弾むように乳房が揺れ、豊かな蜂蜜色の髪の毛が、わずかにピンク色がかった行燈の明りに照らされて揺れる。時折、折れそうなほどに首をねじって無理やり顔を向けさせると、強引に口づけしてむせるほどに唾液を飲ませてくるので、本当の意味で咽喉が枯れることはなかったが、それでも気絶することも許さず、絶頂し続けることを強制される生き地獄。

「あっ、ああっ! んっ、あっ、あくっ、ひんっ! ひあっっ……あぁぁっっ……!!」

 鏡に映るアスカの背後で、竜骨に命じられたサクラが布団を敷き直しているのが見える。
 生き地獄も終わる時は、まだ遠い。







「仕上がりました竜骨様」

 上方言葉特有のイントネーションでサクラが告げると……正確には告げられてからも尚一時の間責め立て、遂に絶叫と共にアスカが絶頂したところで、漸く竜骨は反応した。

『これでも割と野暮ではないと自負していてな。ちゃんと抱くなら、褥の上で、だ』
「あ……あぁ」

 脱力したアスカの体を人形のように抱えながら、ノシノシと無骨に……だが足音一つ立てずに、敷かれた布団の所にまで来ると、どっかりと重たげな腰を下ろして胡坐をかいた。ズシンと響くように座ると、挿入されたままだったアスカの体が跳ね上がり、同時に中を強く突き上げられる衝撃に、乳房を揺らしながら絶頂する。

「はぁっ! あっ、あっ、あっ、んぁぁっ!!」

 ブルブルと震えるように全身を痙攣させ、思わずアスカは赤銅色をした一面刺青を掘られた裸体にしがみついた。眼前で揺れる乳房をペロリと舐め、改めて味わうように乳首に吸い付く。

「あっ……くぅぅ、んん〜〜〜〜っ!!」
『くくく、この程度で達しておっては、先が思いやられるぞ』
「んふぅ…………んんっ……。も、もう、やめて……。乱暴、なのは……いや」
『乱暴でなければいいのか? それが望みなら、それくらいは聞いてやらんでもないぞ』

 力なく呻くアスカの背中を気味悪いぐらいに優しく撫でさすりながら、労わるように乳首、胸の谷間、首筋、顔、唇と口づけを繰り返す。凌辱者の分際で、恋人同士の睦み合いでするような優しい愛撫を始めた竜骨に、アスカは反射的にしがみ付きながら、ため息のような喘ぎ声を漏らした。どこか気怠い感覚が全身を支配し、男の指先に軽く撫でられると、震えるような快感がアスカの全身を駆け抜ける。

「……んっ…ふぅっ………」

 急な転調にアスカはすっかり調子を狂わされ、思わず甘い響きの吐息を漏らした。
 ゆっくりと髪を撫で、うなじから腰まで水滴の落ちる速度で指を這わせる。これまでの乱暴な愛撫と比べれば、子供のままごとの様なゆっくりとした、もどかしい動きに思わずアスカはうっとりとしたことを表す甘い吐息を漏らした。
 優しい愛撫はその後も続き、執拗に首筋や胸に口づけを繰り返した。優しく気持ちいいというよりくすぐったくなるような愛撫であったが、【ぬめり舌】で全身を女陰に変えられたアスカにとっては、それは強い酒で酩酊するような陶酔感をもたらす、言わばちょうどいい快感だった。

「あぁ……」

 困惑したアスカは、男の首に両手を廻し、潤んだ瞳を閉じて自分から唇を重ねる。

「……はぁ……んっ……ちゅっ……ちゅっ……んん……」

 唾液の糸が引くほど舌を絡め、流し込まれる男の唾液を嚥下していった。名残惜し気に顔を離したときになって、漸く相手がシンジではないことを思い出したのか、目を見開き、羞恥に一層顔を赤く染める。

「あ、わたし……ううぅ。違う、違うのに……どうして、こんな」

 逞しい男の一物に貫かれたままである事実は変わらない。いつの間にか、アスカは自ら腰を動かし始めていた。根元まで挿入された一物が、半分ほど竿が見える状態にまで引き抜き、ゆっくりと沈めていく。粘膜を擦り上げられる快感に、身を震わせ、そのまま禁断の上下運動をゆっくりとしたペースでアスカは繰り返した。

「あっ……んくぅっ……ふぁっ!」

 例えゆっくりでもアスカが自分から男を求め、腰を動かした。その事実に竜骨はほくそ笑む。まだ相当に強い精神で自我を保っているが、この分なら割とすぐ、今夜中にも堕とせるかもしれない。

「あん……あっ、ああっ……。わたし、わたし……ああんっ!」

 受け入れる準備が整い始めたと見た竜骨の愛撫は、次第に調子を早め、音を立てて吸い付き、荒々しく揉みしだくという、凌辱者らしい乱暴な愛撫に切り替わっていった。

「あ、あんっ……ああんっ!」

 その声には、当初の拒絶一辺倒の強い調子がなくなっていた。白い裸体に汗が滲み、したたり落ちる。高く上ずった声を漏らし首を切なげに振りながらも、押し寄せてくる強い感覚に必死に抗がっている。あと一歩だ。あと一歩でアスカの一番美しい姿を見ることができるのだ。人が理性を失い、一匹の獣に落ちていく瞬間を。

「あああぁぁぁ……はぁ……ん。」

 竜骨に抱えられたアスカの体が上下する。執拗な愛撫と巧みな腰遣いに、体中に稲妻が走る。
 と、見守るサクラが嬉しそうに手を合わせて目を見開く。

(来たわぁ。私にはわかる。竜骨様、アスカ様を……!)

 竜骨の動きに出た微妙な変化を見て取り、その時が近いことを悟ったのだ。
 うつろな目をして、無慈悲な蹂躙を受け入れるしかないアスカは、美しい唇から、絶望の吐息が漏らすばかりでそのことに気づかない。

『む……むぅぅ。小癪な、奴め』

 呻きつつ多少は動きを抑える竜骨だったが、不思議とその呟きに余裕が見られない。ギリギリと奥歯を噛みしめながら、口元をゆがめる。思った以上に早かった限界。

『大した奴よ』

 怒りはあったが、アスカに対する称賛を十二分に含んだ呟きだった。

(想像以上の、極上の女体よ!)

 これ以上、無駄口を開く余裕はなかった。口を開けば、その時点で達してしまう。
 忍者である彼は、その気になればいつでも射精をすることはできる。なんなら手を触れていなくとも、弛緩した状態からいきなり勃起させて、瞬きする間に射精することもできるのだ。だが、今回はその逆だ。限界に限界を重ねてアスカを堪能していたが、とうとう、彼の耐久力でもどうにもできなくなってしまったのだ。
 無意識ながら絶妙の強さで締め付け、【ぬめり舌】の影響があるとはいえ、大量に愛液を漏らして男を受け入れる適応力の高さ。
 高い教養を持つ才女でありながら……一晩で十人の客と床を共にしたという伝説的な花魁顔負けの淫蕩さを持っているのだ。

「あ、ああ、はぁ、はぁ、はぁ、ああぁぁ……」
『む、ぬぅ! むぅぅ!』

 淫蕩の素質は、アスカの真摯な思いとは裏腹に、まるで竜骨の凌辱を歓迎するように豊かな魅力をたたえ、そこに存在していた。
 喘ぎ声もこうなるとじっくり聞こうというもの。
 居丈高で相手が何もであろうと物おじしない強さを持つ一方、耳元に息を吹きかけるような、なんとも甘い声音をしている。これを相手に毎夜毎夜、いや中臈は三人いて全員に手を出しているという話だから、日替わりで楽しんでいたのだろう。なんという贅沢か!碇家の若造に対して腹立たしく思う反面、今はその掌中の珠を奪い取り、おのれのものにしてやったことで征服感、達成感が溢れ出てくる。

『碇家中臈【惣流アスカ】……今はもう、ワシのもの。ワシの女だ』
「い、嫌ぁ……。シンジ、シンジぃ」

 心地よい快感が背筋から裏筋を通るように竿全体を痺れさせ、破裂しそうなほどに亀頭が熱くなるのを感じる。
 ぐったりと脱力していたアスカが、体内の変化を感じ取り、ハッと表情を硬くする。

『くっ、くぅぅ! 一刻はもたせるつもりだったというのに! わずか半刻とは!』
「あ、あ……え? 嘘、ああぁ」

 切羽詰まったような竜骨の様子に、さすがに異変を感じたアスカが一瞬だけ正気付く。
 血走った目が爛々と光り、アスカの体内に激しく出し入れされる痛いほど固く、やけどしそうなほどに熱くなっている一物の感触……。遅まきながら、竜骨に何が起ころうとしているのか悟ったアスカは、反射的に逃れようと、せめて外に出させようと腰を抜こうとするが……。

 あと三突き。いや、さらにもう一突き。
 そしてそれが、正真正銘の限界だった。

『ワシの聖なる精液を飲めぃッ!!』
「あっ、あっ、あっ、あっ! い、ぎぃぃぃっ!!」

 ううっ、と小さく呻くと竜骨が腰を強く密着させてくる。
 瞬間、文字通りのアスカの胎内でそれは爆ぜた。






「ああっ! だめっ! ダメェェェッ! あっ!? イヤぁぁぁぁぁ―――っ!!!」

 熱く、ねばつく、そしておそらくは病的に黄ばんだ精液が迸る。膣壁を一面染め上げいく……。
 体内に迸りを感じた瞬間、今までの嗚咽や喘ぎとは異なる、断末魔めいた叫び声をアスカはあげた。見開かれた瞳の瞳孔は縮まり、ツンと立った乳首の先端まで快感に打ち震える。

「嘘、嫌、嫌ぁぁ……。中に、中に出してるぅ! そんな、シンジ以外の人の、子種が、私の、私の中に……」

 射精を受けて、より大きな絶頂を求めてアスカの細い身体は絶頂に震え、膣内が収縮して男の物へと刺激を送る。
 射精は一度では終わらなかった。硬度を無くすことなく、再び破裂寸前に亀頭が膨れ上がる感触にアスカは目をむいた。何かを言いかけるがそれより早く再び体内に迸る精液の脈動に、豊満な双乳を跳ね上がらせ、歓喜と拒絶が入り混じる歪んだ悲鳴を上げた。
 ちょっとやそっとの量ではない。血を絞っているのかと思うほどに。小便をしているのではないかと思うほどに。
 大量に、あまりにも大量の精液が、勢いよく精液が膣内にあふれかえる。一杯になった精液はそのまま子宮に流れ込み……。

「あっ、あ、あああぁぁ……。いや、嫌ぁぁ……」

 アスカの瞳孔が開き、男の裸体に爪を立ててしがみつく。
 そのまま、ブルブル、ガクガクと白い裸体が痙攣する。アスカの腰が震え、荒い吐息と小さな甘い溜息を織り交ぜながら、腰は淫らにくねって男の物を擦り上げる。絶頂を繰り返しながら常人の数倍という竜骨の精を受け止め、細い両肩を震わせながらアスカは達した。

「う、ぅ……」

 溢れだす精液が、布団に滴り落ちていく。

「しん……じ……」

 絶望で白目をむき、今度こそ意識を失って崩れ落ちるアスカの体を竜骨は抱きとめた。青い湖の様なアスカの目は開いているが、虚空を見つめるその瞳には何も映っておらず、顔を覗き込むサクラにも気づかない。

『本当に大した女だ』
「どういう、ことですか?」
『普通の女なら【ぬめり舌】で体を変えられた状態でワシに犯されれば、どれだけ貞淑だろうとも、未通女だったとしても、仮にワシが親兄弟の仇だったとしても。
 途中で快楽におぼれ、我を忘れて性に溺れるのが普通なのだ』

 だがアスカは、最後まで精神は落ちなかった。幾度も絶頂し、我を忘れそうになっても、最後まで忠義と呼ぶのも生易しい主君への想いを支えに耐えきった。まあ、それも……『結局、いずれは必ず堕ちるが必定だから、苦しみが長引くだけのことだが』と呟く。
 「ふーん」と小首をかしげて聞いていたサクラだったが、ふとアスカが気絶したなら今度は自分の番だと思い至った。早く早くとせっつく様に竜骨にしなだれかかってくるサクラだが、彼女を無視して竜骨は不敵に笑った。

『気を失えば終われると思うのは早計よ。むしろ、中臈であるお前にはこれから受ける責めこそが本番なのだ』






「あっ、あっ、あっ、あっ、あっ、あっ、あっ、あっ、あああっ!」

 仰向けになった男の上に跨り、惨めに、淫らに腰を振るのは碇家の中臈「惣流アスカ」である。京の公家と上級武士の血を引きつつ、紅毛人との間に生まれた彼女だが、相手の男は碇家当主の「碇シンジ」ではない。碇家に対する逆恨みの復讐に燃える、はぐれ忍者の「魂竜骨」である。
 今、彼は恐るべき忍法を用いて碇家を滅亡させるべく、奥向の女たちを凌辱しているのだ。

「も、もう、無理……。何回、何回すれば、気が済むのよぉ……」

 繰り返される凌辱に、全身を包む快感に打ち震えながらも息も絶え絶えにアスカが呻くが、もちろん、竜骨にとっては馬耳東風だ。せめて逃れようと身じろぎするも、しっかりと両手を握りしめられた上に、背後から先に篭絡されたサクラに抱きしめられ、胸を揉みしだかれている状態ではどうしようもなかった。

「ふあっ……あ、くぅ……っ。あ、あ、ああ……はっ、あんっ!」

 再び、強く突き上げられてアスカが絶望の喘ぎ声を漏らす。ビクビクン……と体が震え、結合部からヌルリと愛液が溢れる。忍法【ぬめり舌】で全身を性感帯に変えられ、絶頂に次ぐ絶頂を繰り返し繰り返し味あわされては、家内で一番勝ち気と評判の彼女でも抵抗できるはずもなかった。

「くっ、ひっ! いやぁっ、あっ! だめっ、も、もう……」

 白い喉を見せるように大きく背中を反らし、逃れようと浮き上がった腰を引き戻すように竜骨が腕を引く。抜けかけた一物が再び根元で挿入され、衝撃にアスカは絶頂した。愛液が飛び散り、弱弱しい行燈の光の中できらきらと輝く。

「……あ、ああっ! あああぁぁぁ〜〜〜〜っ!!」

 前のめりに崩れ落ちそうになったアスカを背後から支えながら、サクラが楽しそうに囁く。彼女の乳房へと両手を伸ばし、洗濯物でも洗うようにこね回しながら、主の耳元にそっと息を吹きかける。

「アスカ様って、ここが弱かったんやね。い〜つも偉そうなこと言うてるけど、こんなクソ雑魚マンコやなんて、私、知らんかったなぁ。ビビッて損したわ」
「あ、ああ、サクラ、お願いだから、やめ、なさい……。ああ、乳首、クリクリしないでぇ」
「嫌や、やめない♪」
「う、ううっ、あああぁぁぁ……! サクラ、もう馬鹿なことを言って、ないで……!」
「……偉そうにせんといでください。私の方が、竜骨様の女になったのは先なんやから。つまり、私の方が先輩なんですよ?」

 にっこりと顔では笑いながらも、目は全く笑っていない。そんな不敵な表情でサクラはきつく、つねるようにアスカの乳首をつまむ。

「んんんん〜〜〜〜〜〜っ!」

 普通なら激痛に身だえするところだが、それすらも快感に変換され、首を反らせて再度の絶頂に声にならない叫びをアスカは漏らした。抽送による快感と絡み合って、強烈な快感が全身を駆け抜けていく。ある意味予想通りだが、だが、期待したのとは違う反応にサクラは不満そうに鼻を鳴らす。

「竜骨様の【ぬめり舌】で痛みも快感になっとるんやね。ちょぉつまらんなぁ」
「はぁ、はぁ、はぁ、さ、サクラ……あんた、いい加減に」

 サクラをにらむアスカだが、『お〜こわっ』と茶化したサクラは暖簾に腕押しという様子でアスカの視線を受け流した。可愛がってた妹分が、完全に敵になってしまったことを悟り、悔しそうにアスカは唇をかみしめる。

「あぁ……はぁ、はぁ……。きゃぅっ!!」

 責任をもって預かったはずの娘が、こんな恐ろしい悪党の片棒を担ぐようになるなんて……。ヒカリになんと言って謝ればいいのだろう?

(全部、こいつの所為だ……。こいつが、サクラを……私を……!)

 個人的な恨みも込め、蕩けた眼差しながらもそれでも精一杯の敵意を込めた視線で、竜骨をにらみつける。

「ぜ、絶対に……許さ、ない……から」
『こうなってもまだ敵意も消えず、諦めもしないか。強い女よ』
「そ、そう……。だったら、さっさと、解放……うぅ……しなさいよ」

 肩をすくめると竜骨はサクラに視線を向ける。
 そろそろ子の刻も終わる頃だ。アスカに続いて、もう一人の中臈を落とすための仕込みをしなくてはならない。それが完了したら、更にもう一人の中臈を落とす。それで碇家の奥向に張られた決壊は完全に消滅する。そして、無防備になった正室であるレイを落とす。それから、堕とされた女たちを見せ付けながら、絶望の縁に叩き落したシンジの命を奪うのだ。それでこそ、我が復讐はなれり。
 とまれ、今はアスカに対する仕上げを完了しなくてはならないだろう。

『サクラ、お前はそろそろ明日に備えて部屋に戻れ。アスカは病で寝込んだことにしろ。他の中臈が見舞いに来ようとしても邪魔をして会わせるな』
「ええ!? 今夜は私としてくれないんですかぁ? 結局、竜骨様はアスカさんとしかしてないやないですか! ずるいですぅ!」
『下僕の分際でわがままを言うな。首尾よく事をなした後なら、たっぷりと可愛がってやる。だから、今は行けぃ』

 言いたい事は色々あるが、竜骨の命令は絶対だ。
 不承不承、という面持ちでサクラは立ち上がり、ある意味、主の寵愛を独り占めしているアスカの後頭部を忌々し気に睨みつける。そのまま数秒間きつい目をしたまま身動きをしなかったが、促すように竜骨が眉を顰めると、そこでようやく着物を纏うためその場を離れた。手早く着物を纏い、帯を締め「じゃあ、行きますんで」と呟いた。

「ああっ、あんっ、あ、ああっ! あんっ、あぁっ……!!」

 竜骨はサクラを一顧だにせず、アスカを下から突き上げるのに夢中なようだ。

(私が、先に女にしてもろうたのに!)

 名残惜し気に何度も振り返りながら、のろのろとサクラは納戸の襖を開け、唐紙を下ろして出ていった。

「あ、ああ……サクラ」

 憎むべき敵の一人になってはいるが、竜骨と二人だけになってしまった事実に、アスカは背筋が凍り付きそうな恐怖に苛まされる。

「わ、私も……」
『うん?』
「開放、してよ。もう、良いでしょ……。誰にも、誰にも言わないわよ、ううん、いえる訳、ない……」

 フン、とアスカの言葉を鼻で笑うと竜骨は面の下でとびっきり邪悪な笑顔を浮かべた。

『中臈が他の男と密通したなど、確かに知られたら大ごとだ。誰にも話さない、というのは信じるに値する』
「で、でしょ。だ、だから……」
『だが、素直にそんなことを信じるほどワシの見た地獄は温くない』
「う、ううぅ……」

 一時動きを抑えていた竜骨が、再び腰を突き上げ始め、堪らずアスカはうめき声をあげる。

「うっ、うっ、ううぅ! あ、ああぁぁ! ま、また、ああ、嫌ぁぁ!」
『お前にはワシのもう一つの術、鬼より授けられ忍法【以心如意】をかける』
「うあ、あっ、あっ、ああっ! そんな、訳の分からないこと……いい加減に、許してよ!」

 この期に及んで命令口調を隠さないアスカの強い精神を称賛しつつ、これだけ強い精神の持ち主を支配することで誰だけのことをなしえるか、それを思うと竜骨の心もまた弾む。

『忍法【以心如意】がどういうものか教えてやろう。これからお前を11回絶頂させる。先ほどからお前が繰り返している軽い絶頂ではない。意識が飛ぶほどの絶頂だ。そうしてお前が11回目の絶頂を迎えると同時にワシはお前の体内深くに、念を込めた精を1度放つ。それを9回繰り返す』
「は、はぁ……? そ、そんな何十回も絶頂とか、無理、無理だから」
『すでに今の時点で数十回は絶頂してると思うが?
 ともあれ、99回の絶頂と9回の射精で放たれた精で女陰を満たすことで、ワシの分身ともいうべきものがお前の中に混じりこむのだ。分身を通して、お前の見たもの、聞いたものはすべてワシに筒抜けになる。それだけでなく、その気になればお前の意識も何もかもがワシの思うがままになるのだ』

 それがどういうことかわかるか?

 問いながら邪悪な笑みを浮かべる竜骨に、心底から恐怖した表情をアスカは浮かべる。

「まさか、サクラも……!」
『あれは単に色ボケさせて落としただけよ。忍法【以心如意】で支配できる人数は4人だけだからな』

 4人の女を支配すると、言外に告げる竜骨にアスカは改めて背筋にうすら冷たいものが走るのを感じた。竜骨が支配しようとしているのは4人の女性。それは恐らく、中臈である自分、マユミ、マナの三人。そしてシンジの正室であるレイ。

「だ、ダメ、ダメだから、私はともかく、他の子たちをこんな目に合わせるとか、絶対……ダメ」
『良いも悪いもワシが決める。貴様の指図など受けはせん。ともあれ、99回の絶頂と9回の射精は9時間以内に終わらせないといかんのだ。夜は長いと言っても、たぶん寅の刻が終わるまでかかるだろうよ』

 覚悟しろよ。話は終わったとばかりにそれだけ言うと、戸惑い焦るアスカをよそに、竜骨はアスカの乳房を鷲掴みにして勢いよく腰を突き上げた。

「あ、あああっ! あああぁぁ〜〜〜〜っ!!」

 ジュポ、ジュポと大仰なまでに淫靡な音と共に、蜜壺が掻き混ぜられる音が響く。
 アスカは目を見開き、こみ上げる快感に一瞬抗おうとする。99回の絶頂と9回の射精などという竜骨の衝撃的な言葉に、抵抗しても無駄なのではないかという気持ちが、僅かに首をもたげる。そんな無茶、出来るはずがないという気持ちもあったが、あるいはこの妖しの忍者なら……という畏れも確かにあった。






「きゃぁぁっっ!! いく、イくっ、いくぅぅぅっ!!」

 覚悟していてもなお、叫ばずにはいられない絶対のアスカが官能の叫びをあげる。全身をくねらせ、髪を振り乱して珠の雫となった汗をまき散らす。黴臭かったはずの物置に、なまめかしい発情した女体の匂いが充満する。その甘い快感の波に飲み込まれ、首筋を反らせ官能の叫びをあげながら、アスカは絶望の淵に沈むのだった。

『なるほど、ここが一番感じるのだな?』
「あっ、あっ、あっ、はぁんっ!!」

 嫌悪を抱かないといけないはずなのに、徐々に、徐々に状況に順応していった身体と心が、受け入れようとしてしまう。

「ひんっ……! あぁっ! 駄目っ……欲し、欲しがっちゃ……もうダメぇっ!」

 アスカはかろうじて拒絶の言葉を発したが、言葉とは裏腹に一層密着するように腰を擦り付け、より強く揉みしだいてもらうために体を傾ける。

(99回もイかされる……。あの凄い射精を、9回もされる……。これから、朝まで、ずっと……)

 それは絶望のはずなのに、その圧倒的な回数と快感を思うと言葉が詰まる。逃げなきゃいけないのに、拒絶しないといけないのに。
 じわりと……アスカの深奥から滲み出てくるものがあった。

「あっ、あっ、あっ、あぁんっ! あっ、やっ……んくぅっ!」

 そしてその声にはシンジに抱かれていた時にしか出すはずのない、心から湧き上がる喜びの響きが混じり始めていた。







 収納されたものを日焼けから守るために、納戸の遮光性能は現代人が思った以上にしっかりしている。
 襖を閉められ、唐紙まで下ろされた納戸にはほとんど外の明りが入ってこないし、ほとんど音が外に漏れない。外界から隔絶された空間で、妖しの儀式は続いている。

「ひんっ! んっ、んくぅっ! あっ、あああんっ!!」

 行燈の明りもすでに消え、薄暗い室内では今もなお、竜骨とアスカの性交が続けられている。

「あぁっ…! 竜骨様っ! ……んぁぁぁっ!!」

 どれだけの時間が経っているのだろう?
 ほとんど明りが入ってこないとはいえ、僅かばかりの光は入ってくる。光が入ってくる、ということは少なくとも日が昇り、一帯を照らすだけの時間、つまりは朝になっているはずだ。よく耳を澄ませば、離れた場所で働いているらしい人の作業をしているらしき音、会話が聞こえてくる。

『そんな大声を出していいのか? 庭の外れにあるとはいえ、あまり大声を出すと庭仕事や露天風呂を作ってる職人に聞かれてしまうぞ?』
「あああっ! そんな、ことを言われてもっ! こんな、凄いっ……凄いのぉっ! あっ、あぁんっ! 声、我慢なんて、出来ないっ!」

 サクラが不承不承ながら納戸を出ていった時刻は子の刻が終わる寸前、つまりは午前2時の直前という時間だった。
 飯炊きなど雑事の支度をするものは、明け方……つまりは午前6時くらいから活動を始めるが、武士など文書仕事をするような人間は、もっとも階級の高い者が仕事を始める時間を基準として、大体午前10時くらいから始めるのが一般的である。庭仕事など割と大きな音を立てる仕事は、周囲に迷惑にならないよう、武家の仕事時間に合わせて行われる。つまり、アスカはあれから8時間近く犯されていることになる。

「あ、ああっ! 竜骨様、わたし、もう……! イクっ…イクから! 今度で、88回目の絶頂だから、出して! 一番奥に出してぇ!」

 薄暗い室内で、犬のように四つん這いにされて後ろから犯されるアスカの声は、すっかりと蕩けきり、「こいつ」とか「曲者」ではなく『竜骨様』とはっきり名指しで呼ぶようになっていた。あれからどのような経緯があって、そこまで受け入れてしまったのかは、想像することしかできない。

『おおっ、受け止めろ! むぅぅ……!』
「来てっ! 膣内に、膣内にいっぱい頂戴っ! ああぁぁぁっ!!」

 念を込められた竜骨の精液が体内に満たされる感覚に、アスカは声を震わせて絶叫をあげた。
 流れ込む、暖かいというより熱い精液を子宮の奥で感じながら、アスカは前よりも大きな絶頂の波に飲み込まれていった。そのまま意識を失いそうになるが、ぐっと奥歯を噛みしめて、かろうじて意識が暗転するのだけは堪える。慣れていなかったとはいえ、1〜30回目の絶頂の間の事はほとんど覚えていない。

「奥! 奥が、いっぱいになって……! あああっ、あんっ。す、凄い、のぉ」

 気が付けば気絶から回復した所で、耳元で33回目の射精だと言われ、直後、魂が焼け付くような快感と共に精液を受け止めたのが、もっとも古い記憶だった。

(こんな気持ちいいこと、半分近く覚えていないなんて、そんなの、勿体なさすぎっ!)

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……。あ、つぅ……い」

 おなかの中に文字通り『溜まっていく』感触に、うっとりとした表情をアスカは浮かべる。シンジの事を愛おしく思う気持ちは依然あり、竜骨を主君の敵であり、自分を貶めた犯罪者・敵という認識はあるものの、道理も何もかもを吹き飛ばす快感で満たしてくれる、慮外の存在として認識する気持ちがどうにも強くなっていくのを感じる。

(なんで、だろ。ちゃんと考えれば、竜骨……様付けなんてする謂れもない、ただの敵のはずなのに)

 ちゃんと意識はそう認識しているのに、犯され、快楽に浸されるのを言いようのない喜びと感じている。それが、胎内に満ちていく竜骨の放った精による影響だとは、さすがにアスカにはわかるはずもなかった。

「つ、続き……を。竜骨様、89回目の、絶頂を……」

 荒い息を吐き、首を反らして背後の竜骨に媚びるような目を向けるアスカに、試すような視線を竜骨は向ける。
 ほぼ上手くいっているように見える。サクラのように、いやそれ以上に従順になっていくのが判る。だが、実のところ鬼から与えられた【以心如意】の術を、ちゃんと使うのはこれが初めてなのだ。
 ちゃんと操れるのだろうか? 土壇場で裏切られないだろうか? かつてを思い出して不安がよぎる。

 媚びるように挿入されたままの一物に対し、自ら腰をくねらせて奉仕を続けるアスカ。官能の炎で灰になる事を厭わないような赤裸々さがそこにはあった。内から湧き上がる欲望をはしたないと認識し、竜骨を敵と認識しつつも、求めずにはいられない精神状態になっているのは明白だ。【以心如意】はちゃんと効果が出ている。そうは思いつつも、だが、念には念を入れて、と竜骨はどう試すべきかと思案し……とびっきりの名案を思いつき、笑みを浮かべた。

『アスカ……突然だが、ワシは反省した』
「?」

 あまりに唐突な竜骨の言葉に戸惑うアスカだが、次の竜骨の言葉に目を見開き、息を飲む。

『ワシは反省した。犯されて泣きわめくお前らを見て、今さらながら善性に目覚めた。やってしまったことは仕方がないが、償いをするつもりだ』
「な、何を……言ってるのよ?」

 思わず素に戻って問い直すアスカに、竜骨は言葉を続ける。

『ワシは自首する。処刑は免れまいが、少なくともお前達を苦しめることは、もうないだろう。【ぬめり舌】で変えられた体はどうにもならんが、あれだけ泣いて嫌がったようなことは、もう決してお前にされることはない。未来永劫……な』

 ドクンとアスカに抱きつく竜骨にもわかるほど、大きな鼓動が伝わってきた。快感とは違う、焦燥からくる冷汗がジワリとアスカの全身に滲み出る。見開いた眼は不安に震え、蒼白になった顔には明白な恐怖が浮かんでいた。

「……やだ」

 ハァハァと荒い息を繰り返し、答えを探し求めるように目が中空を彷徨う。ぎこちない動きで首を巡らせ、背後の竜骨とどうにか視線を合わせると、ゆっくりとアスカは唇を開いた。

「ダメッ!」
『うん?』
「ダメだから! 自首とか、処刑とか、そんなのダメなんだからぁ!」
『幼子のようなことを! わしはお前の敵なんだぞ?』
「そうだけど! 八つ裂きにされて死んでほしいって、本気で思ってるけど! でもダメなのぉ! いや、イヤイヤ、嫌ぁ! もう犯してくれないなんて、そんなの絶対に嫌ぁ!」

 ブルブルと全身を震わせながら、怒ったように叫ぶアスカに竜骨は術が完璧にかかっていることに確信を持った。言語を絶する人外の快楽に満たされた今のアスカは、もはや湧き上がる欲望に逆らえるはずもなく、期待と喜びに満ちた瞳で、媚びるように竜骨に流し目を向けている。直前まで絶頂の寸前にまで昇りつめかけていたアスカは、焦らすような竜骨の言葉に耐えられずに哀願する。

「してっ! 馬鹿なこと言わないで、して! 気持ち良くして欲しいのっ!」
『ワシはお前の操の仇ぞ?』
「そうだけど! やったことは許せないけど! でも、でもでもぉ……。もう、もう、無理……。こんな気持ちいいこと知っちゃったら、貴方なしじゃいられない。もう、戻れないのよぉ」

 そのまま泣きじゃくり、嗚咽をあげるアスカを竜骨はじっと吟味するように観察を続けた。
 心に葛藤を抱えつつも、躰は快楽に支配され、今や肉欲が精神の支配を凌駕している。
 アスカは変わらず、竜骨を敵と認識しその支配から逃れたいと本気で思いつつも、与えられる肉欲からは離れられないでいる。シンジを裏切ることになる罪悪感を快感で上書きする。アスカは悲しげに呻いた。

「はあっ、はあっ……は、あ……っ。ねぇ、お願いだから! 自首するなんて言わないでぇ!」
『あいわかった』

 内心ではほくそ笑むのを止められないが、芝居がかった調子で竜骨は言葉を続けた。

『ならば共に堕ちてくれるかアスカ殿?』
「うん、堕ちる、堕ちるから! だから、おねがい、早く、動いて! 気持ち良くしてぇ!」
『主君を……シンジを裏切ることになるが、かまわんか?』
「……シン、ジ。う、ううぅ。シンジ、シンジ、シンジぃ……」

 さすがにこの言葉には抵抗があるのか、死人のように顔を青くしたアスカは、ブルブルと震え、すぐに頷き返すことができなかった。答えを出すことができないまま懊悩を続け、このままだと自害を選びかねない。そう判断した竜骨は小さく嘆息する。【以心如意】は完全ではない。限界が把握できたのは大きな収穫だった。仮に完全にシンジを自らの意思で裏切らせることができるとしたら、それは術の最終段階に入ってからになるだろう。
 まあいいわい、と竜骨は内心で思う。
 いずれにしても一両日中に復讐が完遂するとは思っていない。他の中臈たちも残っているし、第一、シンジは参勤交代で江戸にいるため、本格的な復讐を行うのは彼が帰ってくる三か月後になるのだ。

『よしよし、泣くな。お前がシンジを害することはない。裏切るわけではない。勿論、親友だという中臈仲間たちもだ。それならばどうだ?』
「……! そ、それなら」

 ぱぁ……と明るい表情を取り戻したアスカに、竜骨は噛んで含めるように言葉を続けた。

『ワシがお前に頼みたいのは、ほんの少し、たわいないことじゃ』
「な、なに?」
『明日以降、邸内で作業する職人の中に、ワシを紛れ込ませるよう書類を書き換える事だけじゃ』

 怪訝な顔をするアスカに、さもありなんと竜骨は頷く。既にこうして忍び込んでいるのに、なぜ敢えてわざわざ表から忍び込もうとするのか? 説明が長くなるし、忍者ではないアスカに理解できるとは思えないが、色々と事情があるのだと竜骨は囁く。竜骨の忍法は実のところ妖術に近いもので、結界が張られている碇家では不用意に活動することができないのだ。結界の頂点は中臈たちの住まいがある三つの離れと、先代当主「ゲンドウ」の隠宅にあり、それぞれを結ぶ歪な四角形が碇家の奥御殿と庭の大半を包んでいる。
 このため、今も結界の外に位置するこの納戸とその周辺でしか、竜骨はまともに活動できないのだ。それとても夜の間だけだ。
 だが書類に記載し、堂々と表から入りこむ事さえできれば、日中には忍法を使うことはできないという制限はあるが、今とは比べ物にならないほど自由に行動することができるようになる。そう、建築中の露天風呂や、より便利な隠れ家として使える蔵の中にも入り込めるようになるのだ。

 更にアスカを堕落させてしまえば、結界の一部が壊れ、忍法を使える場所も広がるだろう。
 三人とも堕としてしまえば、結界の中心であるシンジたち夫婦の閨に侵入し、正室のレイを思うがままに嬲ることだって、いずれできるようになるはずだ。

『できるか?』
「そ、それくらい、なら……。私は表使いの渉外担当を主な仕事にしてるから、書類を書き直すことは簡単にできるわ」
『ならばよし。もはや憂いはない』

 やおら竜骨はアスカの体を抱きしめ直した。
 よくわからないが、問題が解決したらしいことを察知し、耳の先まで朱に染めたアスカが期待を込めて竜骨の顔を見つめた。

「ああ、早く早くぅ……! 犯して……。荒々しく、乱暴に……私を。私を……孕むまで犯して!」

 サクラに嬲られている時から、すでに兆候はあったが被虐の性癖が目覚めつつあることをアスカは感じ取っていた。そして、そんなアスカの変化を把握した竜骨もそれに答えた。

『おおっ! 望みどおりにしてやろう!』
「あ、あああっ! 中で、中で大きいのが、暴れて……っ! あ、は、は、あぅんんっ!!」

 竜骨の動きに合わせて自ら腰をくねらせるアスカ。その乱れる様を楽しみながら、竜骨は抽挿を続けた。汗が飛び散り、髪を振り乱して獣のようにアスカは喘ぐ。

「あんっ! あん、あん、あぁん! 気持ちいい! シンジのじゃないチ〇ポ、気持ちいい! シンジじゃない人に犯されて、私、すごく喜んでるっ!!」

 他の中臈たちが耳にしたら卒倒するようなふしだらな言葉を口にしながら、アスカは堕ちていくことを受け入れたのだった。

「ああああっ!! イく! イくイくイくイくっ! イ゛ク゛うぅぅぅ〜〜〜〜っ!!」







巻ノ二 へ続く








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